とりあえず2週間ほど空くことになりましたが、多分次もこのくらい空きます。
バトルが終わり、2台が頂上に戻ってきた。
須藤は、エボⅣから清次が降りてくるなり強烈なビンタをかました。
その衝撃的な光景に、周囲は唖然とする。
「京一、すまねえ……」
「俺が何に対して怒っているのか分かるのか、清次。何故ハチロクに負けたのか、その理由を説明出来るのか?」
「……分からねえ。いくら攻め込んでも振り切れないんだ。ストレートの遅いハチロクが、何で食いついてくるのか、どんなテクニックなのか俺にはさっぱり分からなかった」
「当然だ、バックミラーを覗くだけで何が分かる。後ろについて走れば、もっと多くの事が、色んな事が分かるんだ。だから『シミュレーション3』で行けと言ったのさ。俺の指示通りバトルしていれば、こんな無様に負ける事はなかったんだ。いろは坂の猿じゃねえんだから、少しは頭使えよ!」
「悪かったよ……」
「これでエンペラーの群馬エリア全勝は無くなった。だが、いくら悔やんだところでこの1敗が無くなる事はない。気を取り直して、次の赤城に行く」
「レッドサンズか?」
「俺の本来の目的は高橋涼介だ。だから、赤城で涼介に勝てば俺の気は済む。俺が負けなければ良いのさ」
京一はそう言ったが周りのメンバーは大騒ぎだった。
「けど京一さん、“秋名のハチロク”は?」
「俺達のメンツに賭けても、負けっぱなしで放っとく訳にはいかないでしょう!」
「黙ってろ、そんな事は嫌ってほど分かってる! ハチロクの事は任せておけ」
(1番頭に来てるのは、この俺なんだからな……!)
翌日
学校の屋上
今日もいつもの3人で集まっていた。
「いやー、昨日のはホントにスッキリしたな! 今までで、あんなにスカッとした事はないよ。俺さ、あのエボⅣのチョンマゲに『ハチロクなんてアウト・オブ・眼中』ってメチャクチャに言われた事忘れてないよ。心の底からザマァ見ろって言ってやりたいね!」
いつもの調子でそう言うイツキ。
「俺も気持ち良かったな。あんなクソッタレのランエボ野郎なんぞに拓海には負けてほしくなかったし。まあ、負けないとは思っていたけどさ」
正直、リーダーのアイツが出てたら流石にヤバかっただろうけど。
「お前も気持ち良かったよな、拓海?」
イツキがそう聞くと、意外な答えが返ってきた。
「気持ちよくなんかねえよ。ここ最近漠然と思ってたんだけどさ、昨日のバトルでハッキリ分かった。俺、秋名でバトルしたくないわ。だから、もう秋名じゃバトルしねえ」
「?」
「おいおい何言ってんだよ拓海。秋名の何が悪いだよ?」
イツキが聞くと、割と真面目な答えが返ってきた。
「だって走り慣れてるからさ、どうやれば速く走れるのかとか勝負どころとか、初めから分かってるからやりたくないんだよ」
「溝にタイヤ引っ掛かる技を使うタイミングも分かってるからか?」
「まあな。昨日のバトルだって勝ったとは思ってないよ。気分的には、俺の負けさ」
「それでも勝ちには変わりないじゃねえか」
「そうかもしれないけど、俺としては嫌なんだよ。お前らに宣言してもしょうがないだろうけど、もう秋名でバトルはしない。負けても良いから、別のところでやるよ」
「……そっか」
「ところで隼人、溝にタイヤ引っ掛ける技って? そんな事して速く走れるのか?」
「ああ、コーナーのイン側にある側溝にタイヤ引っ掛けて、レールの要領で曲がって行くんだよ。普通にコーナリングするよりメチャクチャ速く曲がれるぜ。ただ、絶対真似すんなよ。あんなの相当のテクニシャンじゃなきゃ無理だからさ」
「は、はあ……」
数日後
GSゼネラル
今日も今日とてバイトである。
「おーい、ビッグニュースだぜ! 今度の土曜日に、赤城でエンペラーとレッドサンズがやり合うんだってさ!」
そう言ってイツキがやってきた。
そういえば、須藤が次は赤城とかって言ってたな。
「へえ、そりゃ気になるな」
「そうだろ、こりゃ見逃す手はねえよな! 拓海もそう思うだろ⁉︎」
「………」
イツキが聞くが、拓海はボーッとして反応してこない。
頷きもしないし、どうしたんだろ?
そんな事考えてたら池谷先輩が話しかけてきた。
「なあイツキ、拓海がボーッとしてる時って何か考え事してるんじゃないのか?」
「まあそういう時もありますけど、本当に何も考えないでボーッとしてる事の方が遥かに多いですよ」
「今日のはどっちのボーッ何だ?」
「さあ、どっちなんでしょうね?」
「でも普段とはなんか違う気がするんだよな」
「そうだよな、隼人。なんか今日は変な感じがするよな」
そう、今日はなんか変なのだ。
どこかそっけないっていうか、乗り気じゃないというか。
そんな事を考えていると、よく目立つバカでかいリアウイングの黒い車が入ってきた。
「あの黒いエボⅢ、まさか……!」
そして、ドライバーが降りてきた。
頭にタオルを巻いていて、もう見覚えしかない。
「げぇ、やっぱり!」
「エンペラーのリーダーの須藤だ。どうしてここに?」
そんな会話をイツキとしてると、真っ直ぐに拓海のとこまで来る。
「よお、こないだぶりだな」
「何か用ですか?」
「お前、赤城に来ないか? 赤城に来て、俺とバトルしろ」
「ち、挑戦状だ!」
イツキはそう言うが、なんかちょっと違う感じがするな。
「違う。と言っても、そこのお前らには分からんだろうな」
そして再び拓海に向き直る。
「俺が湖のそばで言ったことを覚えているだろう。良い腕をしているが、この時代にハチロクに乗っていても先は無いと話したはずだ。その言葉の真意を教えてやる。俺とバトルすれば、今まで見えてこなかった事が見えてくるはずだ。今日でも明日でも良いから、気が向いたら赤城に来い。レッドサンズとやる前に、お前と前哨戦をやってやる。呆気なく終わるだろうが、その短い競り合いの中で何かを見つけてみろ。俺が言いたいのはそれだけだ」
須藤はそう言い残し、去って行った。
やっぱりなんか、挑戦状って感じじゃねえな。
確かにリベンジマッチもあるだろうけど、それとは別で何か思惑がある気がするな。
「何だアイツ、メチャクチャ言いやがって! 赤城に行く事なんかねえぜ、拓海」
「分かってますよ、池谷先輩。ただ、俺はもう秋名でバトルはしないって決めたんで。レッドサンズとエンペラーの交流戦で盛り上がってる時じゃなかったら行くかもしれませんけど」
「おいおい……」
「逃げたと思われるのは癪ですけど、やめときます」
拓海はそう言って、仕事に戻った。
しばらくして、帰る時間になった。
家に帰って夕食を食べた後、俺はそのまま赤城山に直行した。
何でって、決まっている。エンペラーの偵察だ。
特にあの須藤の実力がどれほどのものなのか、秋名でバトルする前に見ておきたいのだ。
麓の駐車場に車を停めて、しばらく上の方に歩いて行くと高橋兄弟がいた。
「どうも」
「どうしてお前がここにいるんだ?」
「そりゃもちろん見物ですよ。あのエボⅢのドライバー、須藤ってヤツが言ってたんですけど、また秋名に来るつもりみたいなんですよね。今度は俺とバトルするために」
高橋涼介が聞いてきたのでそう返した。
「チェッ、トリは俺達じゃねえのかよ……」
そう愚痴る高橋啓介。
そりゃランエボ乗りとしてはインプは最後に取っておきたいんですよと内心で返しておいた。
そんな中、エンペラーのランエボが目の前のコーナーを抜けて行く。
「へえ、他のヤツらもそれなりに速いですね」
「ケッ、あんなモンはただ車が速いだけだ。テクニックは大した事ない」
ボロクソに言う高橋啓介。
そこまで言うか?
まあ確かにランエボは汚いくらいに速いですけど、それでも扱うにはそれなりにテクニックが必要でしょうに。
そう考えていると、下からエンジン音が聞こえてきた。
ランエボの4G63とは違うな。というか、聞き覚えがあるぞ。
まさかとは思うが……。
そして、1台の車が前を過ぎて行った。
白黒のパンダトレノ、拓海のハチロクだった。
「“秋名のハチロク”!」
「何で拓海がここに!」
「アニキ、今の見たか⁉︎」
「ああ。多分、京一が何か画策しているんだろう」
「今日、スタンドにアイツが来て拓海に赤城に来いって言ったんですよ。行かないって言ってたのに何で?」
「やらせて良いのかよ、アニキ? いくらなんでも、今度ばかりは無茶にもほどがあるぜ!」
俺も高橋啓介と同意見だ。
今回ばかりは勝ち目がない。
この前は相手がバカだった上に、走り慣れた秋名だったから勝てたのだ。
だが、高橋涼介は止める気は無いらしい。
「ここ、ストリートだ。誰が誰と走ろうと、俺達がとやかく言う筋合いはない」
そう言った。
唖然として見送ってしまったが、こんな事してる場合ではない。
責めて、理由を聞かないと納得出来ない。
すぐに車に戻って、頂上へと向かう。
なんだか嫌な予感がする。
そう考えつつ峠を登っていき、頂上にたどり着く。
「おい拓海、何考えてんだよ! 赤城には来ないんじゃなかったのか⁉︎」
「悪い隼人、気が変わったんだ」
「気が変わったって、どうして?」
「悪いんだけどさ、止めないでくれるか?」
そう言う拓海は、いつもとは雰囲気が違った。
まるで別人になったような、そんな感じだった。
その様子の拓海を見て、俺はもう止める事が出来なくなっていた。
「よく来たな、歓迎するぜ。 約束通り俺が相手だ。始めよう、スタートはこの前と同様ハンディキャップ方式、そっちが先行しろ」
そして、スタート地点に車が並べらる。
「言っておくが、俺はこれがバトルだとは思っちゃいない。楽しく走るための車と速く走るための車の違いを教える
やっぱり嫌な胸騒ぎがする。
もう止める事は出来ないが、せめて後ろから追いかけて何かあってもすぐに対処出来るようにしよう。
2台が走り始めると同時に、俺もケツから2台を追いかける事にした。
ハチロクとエボⅢのバトルが始まった。
先行はハチロク、その後ろをエボⅢが追いかける。
少し離れて、後ろを隼人のインプレッサが追いかけて行く
スタートのストレートを抜けて、最初のコーナーを抜けて行く。
(見てろよ涼介、四駆が二駆に負ける事はあり得ない。このバトルは、お前に投げつける俺からの挑戦状でもあるんだ!)
次の、そしてさらに次のコーナーを抜けて、やかましいアフターファイアを吐きながら立ち上がって行く。
(凄えな、拓海のヤツ。赤城は初めてだってのに、いきなりここまで攻め込めるなんて……!)
隼人だけでなく、周囲のギャラリーもその様子に驚いてた。
「凄いぜ、あのハチロク。伸びた茂みに埋まっているガードレールギリギリを通しやがった!」
「地元のヤツでも、あそこまでは攻め込めねえぞ!」
(それにしても、エボⅢのアフターファイアが死ぬほど喧しい。間違いなく、WRCのラリーカーに採用されているあのシステム、ミスファイアリングシステムだ! それに、ドライバーも上手い。特に、低速コーナーの処理が凄まじい。コイツは、恐ろしく手強い‼︎)
隼人の予想通りであった。
喧しい音を響かせて、コーナーを立ち上がって行くエボⅢ。
(四駆が曲がらないと言われていたのは、もう昔の話だ。俺のエボⅢは、曲がる‼︎)
ハチロクの超高速四輪ドリフトに、エボⅢもキッチリついて行く。
その様子に、拓海もヤバい状況なのを感じ取っていた。
(追い詰められてる。ハンターに狙われた獲物みたいな気分だ……!)
そう考えつつも、拓海は自分のドライビングをしていく。
無論、エボⅢもそれについていく。
「さすがに速え!」
「あの“秋名のハチロク”がコーナーで詰められる」
その光景に、ギャラリーからも驚きの声が上がる。
その頃、啓介は涼介に須藤の事を聞いていた。
「アニキは須藤の走りを知ってるんだろ。どんなタイプなんだ?」
「京一は、ミスをしないドライビングだ。基本に忠実で、派手なアクションを嫌う。バトルでは、ネチっこく相手の弱点を突いてくる。エゲツないくらい、合理的なヤツだ」
「自分からは崩れない、前の清次とかいうヤツとは正反対だな」
「合理性こそが、京一の美学だからな。4WDの車以外に関心を示さないのもそのためだ。テクニックが互角なら、確実に有利なセッティングの車で勝負してくる。あそこまでエゲツないのは嫌いだ。何がなんでも負けたくはない」
そんな中でもバトルは続いていた。
(煩いな、さっきからパンパンと。煩くってしょうがねえ!)
後ろから煽られる上に、ミスファイアリングシステムのアフターファイアの音にイラつきを覚える拓海。
その頃、須藤は拓海のテクニックに感嘆していた。
(凄まじいテクニックに恐るべき適応力だ。ハチロクのドライバーは、このコースをほとんど知らずに走っているのにこれだけのペースを作っている。信じられないほどの峠のセンスだ。だが、遊びは終わりだ。そろそろ仕留めさせてもらう)
そして、峠の勾配が緩くなってくる。
(ここからは、勾配が緩い中速セクション。マズいな、傾斜が無い上にスピードが乗るから、よりエボⅢが有利だ……)
さらに焦りが募る隼人。
それでも懸命に踏み込んでいく拓海。
ガードレールギリギリまで寄せて、そこから一気に立ち上がっていく。
しかし、すでに須藤は抜く準備を整えていた。
(次のS字辺りで行くか。俺の『カウンターアタック』からは逃げられないぜ)
そして、須藤の狙っていたコーナーに入る。
最初の右コーナーで、エボⅢは大外から被せていく。
(まさか、拓海を相手にコーナー勝負かよ!)
そしてコーナーを抜けて立ち上がる。
(そうか、次はインとアウトが逆転する。これが狙いか‼︎)
そのままイン側についたエボⅢは、直後の左コーナーでハチロクを抜き去り、アフターファイアを吐きながら立ち上がっていった。
(なんて理性的で合理的なんだ……! 勾配のキツい低速セクションではやり過ごし、スピードが乗って勾配も緩くなる中速セクションで抜きにかかるなんて。完全に、ハチロクが失速するエリアを待っていたんだ。ここから先、拓海が抜けるポイントは無い……‼︎)
しかし、拓海はまだ諦めてなかった。
(離れない、一定の間隔でついてきている。驚いたな、抜かれてからさらにペースを上げてきている)
(まだだ、まだ負けてねえ……!)
さらにコーナリングスピードを上げて、エボⅢに食いついていく。
(なるほど、ヤツはコースを知らないから先行の時は限界まで攻めこめていなかった。だが後ろにつけば、俺のツッコミを参考にしてコースの先を読める。大したモンだぜ、あんな非力なポンコツで。俺のエボⅢとハチロクの立ち上がり加速の差を考えれば、アイツは俺より速いスピードで曲がっている。信じられないほどの神業だが、この中速セクションを抜ければスピードの乗る高速セクション。そこまで抜かさなければ俺の勝ちだ)
拓海は諦めずに攻め込んで、じわじわとエボⅢとの差を埋めていた。
(速い……! めいいっぱい差を詰めたつもりでも、ほんの少しの全開区間で苦もなく取り返されちまう。これが、パワーの差か!)
しかし、中速セクションも終わりを告げる。
(よくぞここまでついてきた。褒めやるぜ、まるで曲芸だ。次のコーナーを立ち上がってエンジン全開。ここからは全開トライだ‼︎)
そして、本気のツッコミに入るエボⅢ。
それを、拓海も感じ取る。
(走りが変わった……!)
直後、立ち上がりで一気に離されていく。
(速い、離される!)
拓海も底までアクセルを踏み込むが、それでも差は全く埋まらない。
(ダメか、ダメなのか……?)
その様子を見ていた隼人は、さらに嫌な予感を感じ取る。
(なんだ、この感じ? 分かんないけど、絶対ヤバい事が起こる。拓海が負ける事じゃなくて、もっと別の何かが……‼︎)
グイグイとエボⅢとハチロクの差が開く。
そして
グシャッ‼︎
鈍い音が響き渡り、ハチロクのボンネットから白い煙が吹き上がる。
ハチロクはスピンしていって道端の砂地のところで停止した。