ついにMFゴースト放送開始しましたね!
僕の地元(愛知)じゃ昨日が地上波での放送でしたので、今日投稿することにしました。
次回で86の走行シーンや、神15の本格的な登場が見られそうですね。
さて、今回の公道のハヤブサでもハチロクのバトルです!
埼玉県
西武秩父駅
赤城で隼人と零がバトルを繰り広げていた頃、拓海のハチロクは高速を降りて渉と合流していた。
「悪いが、2人はここで待っててくれ」
渉は、和美とイツキを車から下ろすとそう言った。
「なんで、夜の駅なんかで?」
「ここなら、朝になれば電車やバスが走り始める。もし俺達の車が戻ってこれないような事態になっても、最低限の移動手段が確保出来るからな」
「まさか兄貴、正丸峠に行くつもり? あそこはやめた方がいいよ、どこか違う場所に !」
「黙ってろ和美、お前は口を挟むな!」
和美が呆然する中、渉は拓海に説明を始める。
「先に断っておくが、今から行く峠は狭い上に嫌になる程トリッキーだ。1本目は俺が先行で引っ張る。初めて走るには、万が一のことがあるといけないからな。その後、ポジションを入れ替えて先行が千切るか後追いが抜くか決着が着くまでやる、時間無制限のデスマッチだ。テクニックが互角なら、他の要素が勝敗を分けるだろう」
その言葉に、拓海は無言で頷いた。
「じゃあ行こうか。目的地に着いたらハザードを点滅させる、それが全開走行の合図だ」
2人はそれぞれのハチロクに乗り込むと、正丸峠に向けて走り出した。
2台のハチロクが駅を出たのを見届けると、イツキは和美に聞いてきた。
「ねえ、正丸峠ってどんなところなの?」
「うんと古い旧道だよ。そんなに長くないけど、どっちから攻めても最初は上りで途中から下りになるの」
「上りが半分入ってるのか」
「それだけじゃないよ。狭い上に見通しが悪いから、昔は事故か多かったらしいの。ガードレールは錆びてボロボロになってるし、舗装は波打っててスリップするし……。兄貴はそこで2回も事故しててゲンが悪いの、あんなに走りにくい峠はないって言っていたのに……」
それから少し経ち、2台のハチロクは正丸峠に到着した。
丁字路を曲がり、先行のレビンがハザードを点滅させる。
(ハザード……、ここからか!)
(行くぜ、1本目から大事な車を潰すなよ!)
渉はアクセルを踏み込み、一気に加速していく。
(上りか……)
拓海もアクセルを踏み込んでいく。
それに合わせて、タコメーターの表示する回転数も上がっていく。
その瞬間、ハチロクは今まででは考えられない加速を見せる。
(これは……!)
拓海のトレノはターボエンジンを載せた渉のレビンに負けずに、グイグイと坂を上っていく。
(やっぱりな、俺の思った通りだろ? 良いエンジンだぜ、上りでも俺のハチロクターボについて来られるんだからな。さあ、こっちも遠慮なく行かせてもらうぜ!)
2台は、狭いワインディングロードをものすごい勢いで駆けていく。
正丸峠にはターボの過給音と甲高い高回転エンジン音、そして2台のハチロクのスキール音が兒玉する。
(俺がハチロクに拘るのは、古い車というハンデを逆手に取って相手を追い詰めるのが快感だからさ。だが、今回ばかりはその手は通用しない。同じハチロク同士、絶対負けられない。今まで会ったどんな相手よりも、強い
後ろにいる拓海の凄みを感じつつも、渉は負けじと走り込む。
そしてその頃、頂上付近の茶屋の前にはバトルのギャラリーをしに来た高橋兄弟と賢太がいた。
「良かったんですか啓介さん、こんなところで?」
「こう狭くちゃ、他にギャラリー出来る場所なんて無いからな」
そんな中、前半の上り区間を終えて下りに突入する2台のハチロクが現れ、物凄いスピードで3人の目の前を抜けていく。
「啓介さん、藤原のトレノも秋山のレビンもフロントマスクとテールランプが違うくらいで、ほとんど同じ車ですよね。なんであんなに走りが違うんですかね?」
「それはつまり……こういうことを説明するのは、アニキの方が良い。俺は頭で分かっていても、言葉にして説明するのは苦手だからな」
そして、涼介が説明を引き継いだ。
「賢太の言う通り、トレノとレビンは兄弟車だ。だがあの2台はチューニングアプローチの違いで、全く性格の異なる車に生まれ変わっている。藤原のトレノはタービン等の過給機を使わずにパワーを上げる、いわゆるメカチューンを施している。アクセルを踏む動きにダイレクトにエンジンの回転がついてくる、
「なるほど。それで涼介さん、レビンのケツのふらつく走りは?」
「ターボラグの大きいドッカンターボは、一度ブースト圧が落ち込んでから立ち上がるまでがかったるい。そのため、アイツはコーナーの出口でマシンが振られてもアクセルを戻さず、カウンターステアだけで抑え込んでいるんだ。おそらく、クセのあるレビンを乗りこなすために自己流で身につけたテクニックだろう」
「ということだ賢太、峠の走りは奥が深いのさ」
自分で説明してした訳でもない啓介が偉そうに言った。
3人がそんなやり取りをしている間にも、2台は狭いワインディングロードを右へ左へと抜けていく。
見通しのきかない狭い道を攻め込んでいく。
そして長めのストレートを抜けた先の左コーナーに差し掛かろうとした瞬間、土砂崩れによって狭まった道が現れた。
拓海は一瞬対応が遅れ、僅かに土砂に乗り上げアウト側に吹っ飛ばされる。
「何なんだ、コレ!」
拓海は体勢を乱しつつも、すぐさまリカバリーしてコーナーを立ち上がる。
慣れないコース戸惑いながらも、拓海はコースになんとか対応していく。
そしてその頃、ゴール地点には池谷と健二が来ていた。
「ここで合ってるんだよな、健二?」
「ああ、そのはずだぜ」
しばらくすると、コースの先のガードレールがライトで照らされた。
そして現れるのは2台のハチロク、渉のレビンに拓海のハチロクだ。
ゴールに到着すると、2台はサイドターンを決めて前後が入れ替わる。
今度は拓海が先行となり、来た道を戻る形で2本目が始まった。
「ドッカンターボ……アクセル全開だとまるでメチャクチャだな。僅かな路面のギャップで明後日の方向を向きやがる」
「けど、ツボにハマった時は恐ろしく速い。まるでセオリーを無視していながらな……」
「拓海にとっては初めてのタイプだな……」
拓海の勝利を願いながら、2人は2台を見送った。
そしてバトルをしている当事者達は、荒れた路面に見通しの効かない狭い道を駆け上っていく。
(さあ、第2ラウンドだ。後ろからじっくり見させてもらうぜ、群馬エリアトップクラス言われる実力を……!)
バトルに高揚している渉に対して、拓海の方は苦しんでいた。
(走りにくい、何なんだここは!)
走り慣れていないトリッキーなコースに、リズムの乱される渉の変則的なドライビング。そして何より、生まれ変わったハチロクを完全に自分のものに出来ない焦り。
それらが、拓海に厳しいバトルを強いていた。
(路面の状態が悪すぎて、車が暴れる。それに、路肩から50センチくらいは全く使えない。うっかりタイヤを乗せようものなら、一気にふっ飛ぶだろうな……。この道路は、見た目以上に狭い道幅しか使えない!)
それでも何とか、トリッキーなコースに食らいついていく。
そしてその過程で、拓海は少しずつ気づいていく。
(何だこの感じ、気のせいか……?)
疑問に思いながらコースを攻めていく。
そして涼介達のいる茶屋前を過ぎた頃、その疑問は確信に変わる。
(やっぱり気のせいなんかじゃ無い、凄え乗りやすい。昨日まであんなに手こずっていたのが嘘みたいだ! コントロール出来る、自分の走りが出来る、コレなら行ける‼︎)
拓海は新しくなったハチロクを自分のものにし始めた。
それと同時に、正丸峠のコースに順応していく。
(2本目は高みの見物を決め込むつもりだったが、とんでもねえ奴だ。このトリッキーで走りにくいコースに、驚くべき早さで順応していく! 初めてここを走る奴のスピードじゃない! シビれまくるぜ、世の中には凄え奴がいる‼︎)
コースと車に順応した拓海は、ペースを上げていく。
それを見た渉は驚くと同時に、感心していた。
(峠で速い奴が1番カッコいいんだ。お前、イケてるぜ!)
そしてその勢いのまま、ゴール地点に辿り着く。
そして、3本目が始まる。
1本目と同じく、渉が先行だ。
(2本目の後半あたりから、俺は完全に全開モードだったぜ。この3本目でちぎってやる、相手にとって不足はない! 魂が震える最高の競走相手だ‼︎)
いきなり、全開スピードで突っ込んでいく渉。
当然、拓海もそれに食いついていく。
(何だよコレ、さっきの走りとはまるで違う。メチャクチャ速い、余裕なんて全く無い!)
渉が3本目でペースを上げたのは理由があった。
(1本目は手を抜いた訳じゃない。道路の状況の分からない最初の1本は、100%では行かないが荒れたコースでのセオリーだからな。だから、この3本目からは全開で行くぜ!)
渉はそう意気込んで攻め込んで行く。
(ここまで来たら負けたくない、何が何でも食いついていく!)
一方の拓海もペースを上げた渉に張り付いていく。
(
闘争心を燃やして、正丸峠を攻め込んで行く。
しかしその瞬間、僅かにリアがアウトに流れる。
「しまった!」
ハチロクはオーバーステアでリアが流れ、それに引っ張られて外に流れていく。
拓海は咄嗟の反応でリカバリーする。
(危機一髪……。ちょっとでも気を抜いたらマジでヤバい、負けるだけじゃ済まないからな……!)
改めて気を引き締める。
それと同時にふと疑問が生まれた。
(それにしても、さっきからなんかラインがブレる。俺、疲れてきてるのか?)
そんな考えが浮かぶ拓海。
だが、ある程度疲労が溜まっているにしても集中力はまだ残っている。
その割には車がふらつく。
特に、リアが安定していない感触があった。
(リアが若干流されやすくなってる感じが……。まさかタイヤなのか、こんな時に⁉︎)
コーナーを抜けて立ち上がり、その疑念は確信に変わる。
(やっぱり後ろの踏ん張りが甘い。間違いなくリアタイヤのグリップが落ちてきてる! マズイことになった、タイヤだけはどうにもならない。ここまで必死に頑張ってきたのに……)
疲労に加えてリアタイヤの消耗。
拓海のハチロクはジワリジワリと離されていく と思いきや、ほとんど差は生まれていなかった。
(おかしい、俺はかなりペースが落ち込んでいるはずなのに、前の車が離れていかない……)
タイヤの消耗に気付くと同時に、そんな疑問が生まれてきた。
しかし、その疑問の理由にすぐに気付いた。
渉のレビンが先程よりも暴れている。
(そうか、相手も同じなんだ。向こうの車も、タイヤがズルっているんだ!)
事実、渉もリアタイヤの食いつきが甘くなっていた。
(パワーを上げれば、その負担はダイレクトにタイヤに来る。互いにパワーアップした車が、これだけのハイペースでここまで来たんだ。同じようなタイミングでタイヤが似たようなタイミングでタイヤがイカれたって不思議じゃない)
渉も、拓海のハチロクのタイヤが限界を迎えていることに勘付いていた。
そして3本目が終わり、4本目に突入する。
「とんでもねえ消耗戦になっちまったな……」
「拓海、無事に戻ってきてくれよ……」
池谷と健二は、4本目に入る2台を固唾を飲んで見守るしかなかった。
一方で、2台はタイヤを摩耗していながらもその走りにキレが失われることはなかった。
(上手いもんだぜ。後ろから見るとよく分かる、条件が悪くなる程アイツの走りは逆に冴えていくような気がする。だが向こうと生身の人間、ここは我慢比べだ!)
疲労に加え、タイヤの消耗でペースはもう上げられない。
しかしそれでも、2人のバトルはむしろより白熱したものになっていく。
拓海は走れば走るほど、コースと車に適応して走りの精度が上がっていく。
それに渉は気合いと意地で食らいついていく。
そしてそのまま4本目を走り抜き、5本目へと入っていく。
(タイヤのグリップ力が落ちて滑りやすくなった事が、返って限界領域でのハチロクの走りを分かりやすくしている。違和感は無い、自分の思い通りの走りが出来てる。乗れてきたぜ、コレが俺の新しいハチロクだ!)
拓海は新たなハチロクを完全に自分のモノにした。
相手のリアに張り付き、渉にプレッシャーを与えていく。
(基本的にはアクセルで振れる、その点は前のと変わらない。けど、前のと違うところは思い切り振らせてみたらハッキリ分かる。分かったぜ親父、新しくなったハチロクの走らせ方!)
消耗しているにも関わらず、拓海の走りはドンドン冴え渡っていく。
先行している渉にも、それはひしひしと伝わっていた。
疲労で思考も鈍っているが、渉はそれを気力を振り絞って抑えていた。
しかしそれも、限界を迎え始めていた。
(えーっと今何本目だったかな? 流石に、頭の中が白っぽくなってきた……。かなり疲れてきてるが、それはヤツも同じはず。それに、この展開になると前を走るよりも後ろから追いかけている方が精神的にキツいし、ちょっとくらいスピードに差ができてもこのコースの狭さなら追い抜きはあり得ない。負ける時は千切られて負ける、先行している時の負けはない。次のコーナーは土砂崩れのあるポイント、どんなに頑張っても横から入り込む隙間は無い、コレで凌げたぜ。お前がキレてミスするまでいくらでも持ち堪えてみせるぜ!)
僅かに集中力が落ちる。
ほんの僅かな油断だった。
しかしそれはあまりに致命的だった。
コーナーに入った瞬間、拓海のトレノがノーズを差し込んで来たのだ。
「何っ!」
その瞬間、渉は気付いた。
コーナー先の土砂が先程よりも削られて、ギリギリ2台並べるスペースが空いていたのだ。
間髪入れず、拓海はその隙をついてくる。
「バ……バカやってんじゃねえ、ここで追い抜きとかそういうのはナシなんだよ‼︎」
しかし、無情にも拓海のトレノがジワジワと前に出てくる。
そしてコーナーを抜けた時、前にいたのは拓海のトレノだった。
(なんてヤツだ……。あの僅かな隙間に正確に突っ込んで来れるテク、コイツは桁違いの大物だぜ……!)
こうして、ハチロク対決は拓海に軍配が上がった。
西武秩父駅
イツキと和美の元に、バトルを終えた2台が戻ってきた。
「待たせたな。どうにか無事に戻って来れたが、さすがにバテたぜ……」
「兄貴……」
「乗れ、和美。帰るぞ」
和美はレビンの助手席側へとまわる。
「……さよなら、イツキ君」
それに対して、イツキは何も言えなかった。
そしてそのまま、和美が去っていくのを見届けるしかなかった。
(さよならって言えなかった、本当のさよならになるのが怖かったから……)
イツキは項垂れて拓海のトレノに乗り込み、拓海に聞いた。
「なあ拓海。どうだったんだ、バトル?」
「うん、勝つことには勝ったよ」
「そっか、すげえな……」
普段のイツキであれば、ここではしゃぐところだろう。
だが、今はその影も見せずに落ち込んでいる様子だった。
「その様子だとお前……」
「うん、俺の方はダメだったよ……。お前が気遣って2人になれるようにしてくれたのに、結局思ってることの1つも言うことが出来なかった……」
周囲の人間は薄々勘付いていたが、イツキは密かに和美に対して恋心を抱いていた。
拓海は、イツキを和美に会わせるために連れてきていたのだ。
しかし、結果はダメだったようだ。
拓海は何も言わずに、ただ聞いているだけだ。
「昨日からずっと和美ちゃんのことばっか考えてた。俺、和美ちゃんのこと好きになって初めて分かったんだ。人を好きになるって、こんなにも辛いことなんだって……」
拓海は何も言わなかった、言えなかった。
イツキを慰める言葉が何一つ思い浮かばなかった。
「誰かを好きになるって、やっぱり真剣なんだよな。だから、どうにもならない時は胸が張り裂けそうになる。笑っちまいそうになるかもしれないけどさ……」
「いや、笑ったりなんかしないよ」
「分かってくれるのか?」
イツキの言葉に、拓海は頷いた。
「そっか……。ありがとな、拓海」
どこかもの寂しいエキゾーストを奏でて、ハチロクは渋川への帰路についた。
拓海は自宅に到着すると、父親の文太がタバコを蒸かしながら出てきた。
「遅かったな。配達まであと1時間ちょっとだぞ」
「分かってる。それまで爆睡するから、時間になったら起こしてくれ」
「良いだろう」
拓海は自分な部屋に行こうとするが、ふと思いたった。
「……あんなに良い車とは思ってなかったよ。なあ親父、暇な時とかでいいから今度足回りとかエンジンのこととか教えてくれよ」
「どういう風の吹き回しだ?」
「今日のバトルで分かったんだよ。自分に足りないモノが、ポッカリ欠けていたモノがさ」
感想及びお気に入り登録お願いします!