頭文字D 〜公道のハヤブサ〜   作:Many56

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どうも、Many56です。
11月16日現在、私は豊田市に来ております。
それは何故か?
なんと今日から19日までの4日間、FIA WRC世界ラリー選手権の最終戦である、フォーラムエイト・ラリージャパンが開催されるからです‼︎
去年は行けなかったので、今最高にハイになっております。
ドライバーをはじめ参戦チームの皆さん、最高のパフォーマンスを期待してます!
さて、本日のラリージャパン開催にあやかって、本作でもちょっぴりWRCに絡んだエピソードとなっております。
今回登場する本作初の外車は、グループA時代のWRCで大活躍したあの車です!


Act.36 新たな仲間はグラベルの王者

 

 

 

拓海と渉のハチロク対決が始まろうとしていた頃、秋名山の麓には今からまさに峠に入ろうとしている車があった。

白のハッチバック車でヘッドライトは丸目4灯、そして何より特徴的なのは、右側のシートにハンドルがついていることだ。

 

「いよいよ今日から走り屋デビューだ」

 

そして意気揚々と秋名の峠道を登って行った。

 

 

 

●●●

 

 

 

翌日

GSゼネラル

 

零とのバトルから一夜明け、バイトのため今日はスタンドに来た。

さて、拓海と渉さんのバトルはどういう結果になったのかな?

そんなこと考えていると、池谷先輩と健二先輩が話しかけてきた。

 

「来たか、隼人」

 

「早速だけど、俺たちに言うことあるよな?」

 

この様子だと、どうやら昨日のバトルことは知ってるみたいだな。

もう群馬中に広まっていてもおかしく無さそうだ。

 

「昨日の()()のことですか?」

 

「ああ、それだよ。お前、赤城にバトルしに行ったんだろ?」

 

俺が池谷先輩の言葉に頷くと2人はため息をついた。

 

「何で教えてくれなかったんだよ」

 

「言ってくれたら俺たち応援しに行ったぞ!」

 

「いやぁ、拓海のハチロク対決の方が重要だと思いましたし。それに、先輩達を昔の因縁にあまり絡ませたくなかったので」

 

「昔の因縁?」

 

「“赤城の零戦”、アレはカート時代の俺のライバルだった奴なんですよ。健二先輩が教えてくれた時はまだ確信には至ってなかったんで、ああいう感じに答えましたけど」

 

それを聞いて先輩達は少し呆れた感じになったが、納得はしてくれた。

そうして2人と話していると、拓海とイツキが来た。

 

「そういえば、拓海の方はどうだったんです?」

 

「ああ、拓海の方も勝ったぜ」

 

「とんでもない消耗戦になったんだけど、よくあのバトルを制したよ」

 

そんなふうに話していると、拓海達が着替えて出てきた。

拓海はいつも通りとして、イツキはどうしたんだ?

何だか、元気がまるで無い様だけど。

 

「なあ拓海、イツキのやつなんか変だぞ。何かあったのか?」

 

池谷先輩が拓海に聞いた。

 

「……どうせその内分かる事なんで言いますけど、実は昨日   

 

そして、拓海は事の顛末を話してくれた。

どうも和美ちゃんが埼玉に帰る事になったらしいのだが、その際イツキは何も伝えることが出来なかったらしい。

 

「そうか、そんな事が……」

 

「意外と上手くいきそうな雰囲気あったのに」

 

「ロンリードライバーに逆戻りって訳か」

 

正直、こういう失敗は予想してなかった。

イツキは大抵調子こいて失敗するタイプだ。

まさか、こういう失恋をするとはな……。

そんな事を考えていると、スタンドに1人の女の子が現れた。

 

「イツキ君」

 

イツキは呼ばれた方を向くと、目を丸くした。

 

「え……か、和美ちゃん! どうしたの、埼玉に帰ったんじゃ……?」

 

「あの時は急だったでしょ。こっちに残してた荷物取りに来たの」

 

「そ、そうなんだ」

 

「でも残してたのは荷物だけじゃない。バタバタしてイツキ君にちゃんとしたサヨナラ言えなかったし……」

 

「……和美ちゃん、今から時間無い? 1時間くらいでいいからさ!」

 

「私は平気だけど?」

 

そして数分後、イツキはハチゴーに和美ちゃんを乗せてスタンドを出て行った。

 

「一身上の都合により早退させてくれだと」

 

店長がそう言った。

 

「やれやれ、またですか」

 

俺達の思った事を池谷先輩が代弁してくれた。

 

「まあ、アイツにとってはどんな事より大切な事なんだろうな」

 

そうやって話していると1台の白い車が入ってきた。

 

「ああ、お客さんだ。拓海、隼人、仕事に戻るぞ」

 

池谷先輩の言葉に急かされて、お客さんの下に駆け寄る。

小型のハッチバック車で丸目4灯が特徴的だな……って、え?

車種に気付いた瞬間、俺は凍りついた。

ウソだろ、こんな車滅多にお目にかかれねえぞ!

 

「いらっしゃいませ!」

 

「ハイオク満タンで」

 

「承知しました」

 

一方で、2人はすぐに給油作業を始める。

どうもこの車のヤバさに気付いているのは俺だけらしい。

それに、車種ほどでは無いがドライバーも結構若いことに驚いた。

俺や拓海とタメくらい、というかどこかで見たことあるな。

確か同じ学校の……。

 

「何ぼさっとしてるんだ、隼人。お前も手伝え」

 

「ああ、はい!」

 

一旦思考をやめて、俺は窓拭きの作業を始めた。

そしてひと通り作業を終えて、お客さんを見送る。

 

「……左ハンドルだったな」

 

「珍しいですね、外車ですかね?」

 

やっぱり2人は知らないみたいだな。

 

「アレは、ランチアのデルタHFインテグラーレですね」

 

「知ってるのか、隼人?」

 

聞いてきた池谷先輩に、俺は頷いた。

 

「池谷先輩は、グループBって知ってますよね?」

 

「ああ、昔のWRCで使われてたレギュレーションで、マシンスペックに対して安全性が足りてなかったから事故が多発して廃止になったヤツだろ」

 

「ええ。そのグループBに変わって、グループAという市販車に近いスペックの車両で競技が行われることになった訳ですが、12ヶ月間に5000台以上生産しなきゃいけないっていう厳しい規定があったんです。でも、これにいち早く対応したのがランチアなんですよ。2.0Lのターボ+4WDがWRCで勝つには必須の装備となっていましたが、コレって普通に考えたらそれなりに値段の張る車になるんですよ。けど、ランチアはグループAに合うだけの生産を行って2.0Lターボ+4WDのデルタのホモロゲーションを取得して6年連続でマニュファクチャラーズ・タイトルを獲得したんですよ。特に不整地での圧倒的な速さを見せつけて、ついたあだ名が“不整地(グラベル)の王者”。まさしく、ラリー界の名車中の名車ですね」

 

「そうか、そんな車だったんだな。結構どこにでもありそうな見た目なのに」

 

俺の話を聞いて、拓海が驚いた様子だった。

 

「でも俺、最近のWRC追ってるけどランチアなんて聞いたこと無いぞ?」

 

池谷先輩が疑問を口にした。

 

「トヨタのセリカGT-FOURに7連覇を止められて、オマケにあんな車が登場しちゃいましたからね」

 

そう言って、俺は自分の車の方を向いた。

そう、インプレッサである。

元々が1.5LクラスのCセグメントセダンにも関わらず、2.0Lターボエンジンぶち込んだ上にボディ剛性バキバキに強化して完全武装しているのだ。

しかもセダンは全モデル4WDっていうね……!

あのデルタでさえ、基本モデルはFFである。

 

「確かに、インプレッサは間違いなく世界最強のラリーカーだもんな。対抗し得るとすれば、ランエボくらいだもんな」

 

「隼人のインプレッサもエンペラーのランエボも、どっちもメチャクチャ速かったからな。バトルしたからよく分かるよ」

 

池谷先輩と拓海がそう言った。

 

その後しばらくしてからバイトを終えると、俺はすぐ秋名に向かった。

まだ、昨日のバトルのザワザワとした感覚が身体に残っている。

少し走らないと、コレは落ち着きそうにない。

そしてしばらく峠を下ると、前を走る車が現れた。

どうやら、昼間に見た白いデルタのようだ。

その車でこの時間帯に峠に来ているということは、そういうつもりなんだよな?

後ろから煽ってやると相手もその気になったらしく、シフトダウンしてアクセルを踏み込み加速していく。

当然、俺もアクセルを踏んでついていく。

スケートリンク前ストレート直前にある、2連続ヘアピンに入る。

目の前のデルタはフルブレーキングして、勢いをほとんど殺さず右のヘアピンを抜けていく。

そしてそのまま立ち上がり、直後の左のヘアピンも綺麗にクリアしていく。

中々やるね、腕は悪くないようだ。

だが、良いという訳でもない。

基本的な部分は押さえているが、凄みが無いんだ。

拓海や高橋涼介、そして零のような凄みが。

まあ、アイツらと比べるのは流石に可哀想か。

スケートリンク前のストレートを抜けていくが、現在俺はアクセル半開だ。

まあ当然だろう。デルタの最大出力は210馬力だし、足回りは弄ってあるみたいだがエンジン回りはほぼ据え置きと言った感じみたいだ。

マシンスペックも腕も大体分かった。悪くはないが、せいぜいレッドサンズの一軍に勝てるかどうかといったところだろう。

俺は、ここで一気に目の前のデルタを抜いていく。

そのまま秋名最長のストレートを抜けて、コーナーの連続するエリアに入る。

上手く切り返してコーナーを抜けていく。

しかし、後ろから丁寧に追いかけてくる。

意外としっかりついてくるな。俺の走りのラインをキッチリなぞってくる。

だが、向こうはそれなりに苦しそうな感じがする。

こっちは流してるペースなんだけどな。

左の高速コーナーを抜けると、すぐに右のヘアピンが現れる。

ギアを2速に叩き込んで、立ち上がりはちょっと本気でいく。

4駆とターボパワーを活かして一気に立ち上がる。

そしてしばらくは長めの全開区間、90馬力分の差を使って一気に突き放していく。

これで勝負ありだな。

全然本気ではなかったが、昨日のバトルのクールダウンにはもってこいだったな。

そのまま下り切って、俺は麓にある駐車場に入った。

走ったおかげで、だいぶざわついた感覚は収まってきた。

しかし、まさかあのデルタにお目にかかれるとはな。

トヨタのセリカが止めるまで、WRCで無双状態だった車だ。

俺は運が良い、まさかあんな名車とバトルまで出来るとはな。

そんな事を考えていると、先程のデルタが駐車場に入ってきてドライバーが出てきた。

しかし、どこかで見た事あるんだよな。

そう思いつつ、俺はドライバーに話しかけた。

 

「さっきはどうも」

 

「ああ、こちらこそ。アッサリ抜かれたからな、さすがは“秋名のハヤブサ”、中島隼人だな」

 

どうやら俺のことを知っているらしい。

異名の方は群馬の走り屋の中では知らないヤツはいないレベルにまで広まっているが、まさか本名まで知ってるなんてな。

 

「ずっと学校で話しかけようとは思ってたんだけど、中々出来なくてもどかしかったんだよな。今こうやって話せている事にちょっと感動してる……」

 

ああ、やっぱり学校で見たことあるなとは思ったんだ。

 

「あはは、でも同じクラスになったことは無かったよな。えっと、名前なんだっけ?」

 

「水沢 光門(みつかど)だよ。まあ話したのは初めてだし、同じクラスにもなった事無いから知らないのも無理ないか」

 

「ハハハ……。ところでさ、その車どうやって手に入れたんだ? ランチアのデルタなんて、そうそうお目にかかれる車じゃないぜ?」

 

「ああ、親の知り合いが輸入車販売業者でさ、外車の伝手はあったんだよ。この前ようやく買えたんだよ!」

 

なるほど、そうだったのか。

まあそれでも、そう簡単に手に届く車じゃないと思うけどな……。

そんな話をしていると、2台の車が入ってきた。

池谷先輩のS13と健二先輩の180である。

こっちに気付くと、池谷先輩が話しかけてきた。

 

「よう、隼人も来てたのか。それと……」

 

「どうも、水沢光門です。隼人とは同じ高校ですね」

 

「なんだ隼人、知り合いだったのか?」

 

「いや、知り合いってほどじゃないですね。同じクラスになったことなくて、今日話すのが初めてですし。スタンドで見た時に見覚えあるなとは思ってましたけど」

 

「ああ、そういう感じか」

 

「それにしても、初めて見る車だな。なんて車なんだ?」

 

健二先輩が聞いてきた。

 

「よくぞ聞いてくれました、こいつはランチアのデルタHFインテグラーレ エボルツィオーネです!」

 

光門は、興奮した様子で解説を始めた。

 

「ランチアのWRC参戦車両のホモロゲーションモデルで、1987年以降採用されたグループA規定において前人未到の6連覇を果たした最強のラリーカーなんです! 搭載されてる831E5.000型2.0L直4ターボエンジンは210馬力を発揮し、それを前後に44:56の割合で駆動配分して4輪のグリップ力全てを使ってパワーを路面に余すことなく伝達して絶大な加速力を持ち、タイヤのインチアップやトレッド拡大化も行って旋回性能も底上げされています。イタルデザインによるスタイリングも素晴らしく機能性と走行性能とデザイン全てを兼ね備えています!」

 

息継ぎをまるで感じさせず、凄まじい早口で解説していく。

しかもまだ解説は止まらない……。

このままだと、ストラトスやラリー037、デルタS4の解説まで始まりそうだ。(←お前もよく知ってんな!)

 

「うん、取り敢えず好きなのは分かったからその辺にしようか」

 

俺はそう言って強引に話を止めた。

先輩2人はポカンとしているし、これ以上はね。

 

「ここからが良いところなのに……」

 

そう文句を垂れ流す光門。

お前どんだけオタクなんだよ……。

そうして軽い雑談を交わした後は、一緒につるんで走る事になった。

一度頂上の料金所跡まで行き、そこから折り返して下る。

1番前はデルタで、その後ろが俺のインプ。それに池谷先輩のS13に健二先輩の180が続く感じだ。

しかし全然本気ではなく、流しているペースであるにも関わらずそれなりに速い。

まあ、少し前の世代とはいえWRCを席巻していた車だ。このくらいは余裕だろう。

後ろから追いかけてくる2台は若干遅れてる。

2人とも最近は結構上手くなってきてるし、つい最近親父がECUと足回りに手を加えたんだ。

パワーは多分デルタ以上は出てるし、旋回性能も良好なんだがな。

目の前のデルタが、乗っている光門がそれだけ速いということだ。

それにしても、やっぱり上手いよな。

というか、さっき追いかけていたより上手くなってる?

実際、さっきはちょっとチグハグした感じがあったけど、今は結構スムーズだ。

俺の走りを見て、秋名の走り方を覚えたのかな?

そんなことを考えながら、秋名を下り切った。

再び麓の駐車場に入ると、池谷先輩と健二先輩は目を丸くして車から出てきた。

 

「いや、光門って凄い速いな!」

 

「後半なんて、俺達結構本気で走ってたぞ?」

 

確かに、池谷先輩達にはちょっと苦しいペースだったよな。

なんとかついていけるって感じがした。

 

「これでも7〜8割くらいなんですけどね。それに、さっきは隼人にアッサリちぎられましたし……。まあ、後ろから見れたおかげで結構走り方覚えることが出来ましたけど」

 

やはり俺の走りを目で見て覚えたんだ。

まあ、性能も腕もコースに対する練度も差がありすぎて、中間付近のヘアピンまでしかついて来れてなかったけど。

 

「アハハ、隼人と比べちゃあな。何せ、隼人は群馬トップクラスの走り屋なんたから」

 

「コイツに敵うヤツなんて、秋名じゃ拓海くらいなもんだ」

 

「そうですね。少なくとも、拓海以外じゃ秋名で負けたりなんかしないですよ。ところで光門、お前ってかなり走り慣れてるよな。基本的なテクニックは結構ちゃんと押さえているし、カートとか何か経験があるのか?」

 

さっきから、この点が気になっていたのだ。

デルタはつい最近買ったと聞いたし、それ以前に何かやっていなければここまで上手い理由の説明がつかない。

 

「ああ、実は親父が昔レーサーやってたんだ。そこそこの成績だったから、そんなに有名じゃないけどね。まあそういう訳で、親に誘われて俺も昔からサーキット走ったりとかジムカーナやったりしてたんだよ」

 

なるほど、通りで基本的なテクニックが備わっていた訳か。

とんでもない技術やセンスを持っていたりはしないけど、基本を押さえてマージンをしっかり取り丁寧に走っている。

走りに安定感があるんだよな。

 

「なるほどね……。あのさ、良かったらスピードスターズに入らないか?」

 

正直、俺が教えられる範囲にも限度がある。

テクは目で見て覚えてきた人間だから、言語化出来ず感覚でやってきたところも結構あるのだ。

だが、コイツは論理的な部分を学びながら走りを覚えていったタイプな気がする。

教官は、こういう走りをする人間が1番合ってる気がするのだ。

 

「池谷先輩も健二先輩も良いですよね?」

 

「俺達としては問題ないさ、むしろ大歓迎だよ。それで、光門はどうなんだ?」

 

「……良いのか?」

 

「もちろんさ」

 

「それじゃあ、お言葉に甘えて」

 

そんなこんなで、新たに水沢光門が仲間になった。

 

 

 




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