今日は走る描写ありません。
次回には隼人くんにちょっと走ってもらう予定なので、少々お待ち下さい。
さて、それではAct.6お楽しみください。
赤城レッドサンズの高橋啓介VS無名の秋名のハチロクのバトルから一夜明け。
GSゼネラル
「いやー、昨日の拓海ホント凄かったっすよねー」
「ああ、朝から同じ事聞かれたよ。『あのハチロク、何者だ?』ってさ」
「高橋啓介を破った秋名の2人の新星、“秋名のハヤブサ”と“秋名のハチロク”ってな! 凄い勢いで噂が広がっているよ」
「俺なんか、あのハチロクとインプはスピードスターズの秘密兵器って調子に乗って言いふらしちまったよ」
「それで、隼人はスピードスターズに入ってくれるのか?」
「ええ、別に構いませんよ」
コミュニティは大事だし、先輩達に教える事で見つかる事もあるだろうからね。
「やったな。コレで拓海も入ってくれたら百人力なんだけどな」
「それなら、俺に任せて下さい! 何せ、俺と拓海はマブダチですからね。上手く言うこと聞かせてやりますよ!」
「本当だろうな、イツキ?」
「もちろんですよ。アイツの弱みだっていくつか握ってますしね。その代わり、俺もスピードスターズに入れて下さいよ?」
「ああ、もちろんだ。ところでお前、車どうするんだ?」
「よくぞ聞いてくれました! 親父に保証人になってもらって、ローンでハチロク買いますよ! 拓海がパンダトレノなら、俺は赤か黒のレビンを探して、いつの日か秋名最速のハチロクコンビって言われるようになってやります!」
「俺のインプの
そんな風に、拓海不在中に話は進んでいった。
深夜
秋名山
静かな山の中に、13Bロータリーエンジンの音が響き渡る。
それと共に、秋名の峠道を駆けているのは1台の白いFC3S型のRX-7だ。
もちろん、乗っているのは赤城レッドサンズのリーダー、高橋涼介だ。
そんな中、FCのバックミラーに車のヘッドライトが映し出された。
(ストレートの速い車が追ってくる。少し待ってみようか)
涼介はアクセルを緩めて後ろの車が近づいてくるのを待つ。
そして、暗闇で分からなかった、車の姿が映し出される。
(R32のスカイラインGT-Rか。どれほどのものか、試させてもらうぜ!)
涼介はアクセルを開けて、速度を上げる。
当然、後ろのGT-Rもその後を追う。
コーナーへと差し掛かり、涼介は最小限のブレーキングで一気にコーナーをクリアしていく。
そしてGT-Rも完璧についていく。
(ほう……中々まともだぜ。ちゃんとついてくるじゃないか)
そして、2台ともランデブー状態で秋名山を上って行った。
秋名山頂上
涼介は道路脇に車を止めて、そのまま降りた。
その横に涼介の後ろを追っていたGT-Rが停められて、ドライバーが降りてきた。
「俺は高橋涼介、赤城レッドサンズのメンバーだ。そっちは?」
涼介の質問に答える。
「俺の名前は中里毅。妙義ナイトキッズってチームにいる」
「ナイトキッズの中里? 名前くらいは聞いた事あるよ。それで、妙義の走り屋が、どうしてこの秋名に?」
「赤城の走り屋であるアンタが言えた事じゃないだろう。お互い、目的は同じなんじゃねえのか? 俺もアンタも、あのハチロクを狙ってここに来ている訳だ」
「ふうん。380馬力にチューニングしたGT-R使いが、秋名のハチロクに噛みつこうってか。コレほど噛み合わない取り合わせは珍しい」
「どうして俺の車のエンジンパワーを?」
「少し観察すれば分かるさ。やる前から結果は分かりきっている。上りなら圧倒的なパワーを持つGT-Rの楽勝だが、下りではどうあがいてもあのハチロクには勝てやしない」
「なんだと⁉︎」
「気を悪くしないでくれ。俺は、思った通りの事を言ったまで」
「ふざけんなよ。そこまで言われちゃ、意地でも引き下がれねえな。あのハチロクに勝って、今言ったことを取り消させてやる! 秋名のハチロクを破るのはこの俺とR32 スカイラインGT-Rだ!」
そう言い残して、中里は去って行った。
翌日
学校が終わり、今日もバイトである。
もちろん拓海やイツキも一緒である。
バックヤードで着替えてる中、イツキが拓海に話しかける。
「ところでよ、拓海。お前、5年前からハチロクで豆腐の配達やってたってホントか?」
「まあな」
「水臭えじゃんか。そんなの俺に黙ってるなんてさ」
「いやいや、そういうのはそうそう話せるもんじゃあないだろ」
「隼人の言う通りだよ。こういうのは話したら流石に色々とまずいって」
「まあ、確かにそうだよな。5年前といや、俺達まだ中一だもんな」
その後も話は池谷先輩達も混ざって続いた。
「隼人と同様、俺らよりずっと運転歴長いもんな。中坊の頃から、雨の日も雪の日も毎日。しかも、走るのは秋名の峠道。あれだけのコーナー、怖くはなかったか?」
「最初の内は怖かったですけど、半年くらいで怖さは無くなりましたよ。スピードを出していくと、自然とタイヤが滑るんで、思い通りにタイヤを滑らしたり止めたり出来るようになるまでもう半年くらいでしたね」
「つまり、たった1年で秋名の下りをマスターしたのか」
凄えな、ちょっとヤバいくらいだわ。
「毎日やってると、滑らす事の緊張感なんてすぐ麻痺しますよ。仕方ないから、どれだけガードレールに近づけられるか試したり……」
「オイ、ちょっと待て。今、エグい内容の発言出なかったか? ガードレールに近づくて……!」
「そんな危ない事やるか普通!」
俺と同様、イツキも突っ込んだ。
「別に危ないなんて思った事ないんだけどな。調子が良ければ、1センチくらいまで車を寄せられるぜ」
マジかよ……!
「それ、数センチ単位でラインを変えられるって事でしょ? プロでも簡単には出来やしねえって」
正直俺も出来ないと思う。
「そうなのか? でもまあ、そういうふうにして楽しみを見つけないと、仕事の手伝いなんてつまんなくてしょうがないんですよ。だから俺、運転上手くなりたいなんて今まで1度も考えたことないんですよ。ただ、早く帰りたくて豆腐の載っていない下りは思いっきりすっ飛ばすんだ」
「拓海、豆腐が載ってない上りはどう走るんだ? 飛ばしすぎると、豆腐が傷むだろう?」
ふと疑問に思った事を店長が代弁した。
「上りは飛ばせないですよ。ただ、親父が紙コップに水を入れて、カンホルダー置いておくんです。それをこぼさなければ、豆腐は崩れないって。コレが凄く難しくて、最初の内はノロノロ走ってもバシャバシャ溢れるし」
「そりゃそうだわな」
「ハンドル、アクセル、ブレーキ、ギア、どれか少しでも荒いとすぐ車がガクガク揺れて水が溢れるんです。親父は、紙コップの中で水を回せってよく言ってましたね」
「どういう意味だ?」
「表面張力で膨らんだ水面が、コップの縁ギリギリのところをカーブ抜ける度に半周するんですよ。そうやって、縁ギリギリで水を回しながら上っていくんです。コレができるまでには3年かかりましたね。そこからコップの水を溢さないようドリフトできるまではさらに2年かかりました」
「「「何ぃ! コップの水を溢さないドリフトだと⁉︎」」」
先輩と店長と俺の言葉が同期する。
マジかよ、いくらなんでもヤバすぎるわ!
だが、イツキはコレを信じられない様子だ。
「拓海お前、嘘つくんじゃねえ!」
そう言って拓海に掴みかかる。
「う、嘘なんかついてねえって」
「お前さ、いくら高橋啓介に勝ったからといって調子づくにも限度があるだろ」
全然聞いてない。
しかし、コップの水を溢さないドリフト……。
確かに理論的には可能だろうけど、技術的な問題で不可能に等しいはずだ。
よくもまあやるよ。
最早ニュータイプの次元に入り込んでる。
今度俺も試してみるか。
しかし、コイツの超人的なテクニックは、毎日秋名の下りを攻めまくったからだと思っていたけど、上りの方が重要だった訳だ。
車をコントロールする上で最も重要な荷重移動のコントロール。
それを極限まで鍛え上げなければ、コップの水を溢さずに走れない。
拓海の親父さん、コレほどの人物だったとは……!
赤城山付近のとあるレストラン
そこでは、レッドサンズのメンバーが話し合っていた。
「ナイトキッズの中里? 聞いた事あるぞ。S13に乗っている頃から速いので有名だった奴さ。今はGT-Rに乗り換えたそうだがな。妙義じゃ敵なしらしいぜ」
涼介の質問に史浩が答える。
「GT-R乗ってる奴の腕なんて信用できねえな。車が速いだけだ」
「ははは、始まったな、啓介のGT-R嫌い。話は戻すけど、ナイトキッズに先を越されるのはマズイと思うけどな。俺達が勝てなかったハチロクにナイトキッズが勝とうもんなら、レッドサンズはナイトキッズよりレベルが低いって話になりかねんぞ」
「心配いらねえと思うぜ、史浩。あのハチロクに勝てる奴がナイトキッズにいる訳ねえや。手に負えるとすれば、アニキか“ハヤブサ”くらいのもんだ。それぐらい、あのハチロクは桁違いに速くて上手い」
「俺には分からないな。何故今の新しいハイパワーな車が、ハチロクなんかに勝てなかったのか」
「時にはパワーが出すぎていてもダメという事だ。ターボパワーっていうのは、直線では協力な味方だが、コーナーでは車の挙動を乱す諸刃の剣なのさ。その点NAのハチロクなら、一度姿勢を決めたらガンガンアクセルを踏んでいける。ストレートの短いテクニカルコースでは、非力でも思い切って踏んでいける車の方が速い事もあるという事さ」
「確かに、秋名の下りだと350馬力を全開に出来る時間なんてトータルしてもほんの僅かだったよ。一瞬ドカンと開けたらすぐ次のブレーキング。パーシャルも長くてイラついた」
「その辺は、後輪だけでパワーを路面に伝えるFRの宿命だろうな」
「ちょっと待て! それじゃあ4WDのGT-Rならどうなる⁉︎ 踏んでも安定してトラクションのかかるアテーサE-TSなら、ターボパワーをいくらでも使えるんじゃないのか?」
「それはどうかな」
涼介は意味深な顔をして、そこからの説明を行った。
翌日
GSゼネラル
「はあ、今日も暑いな」
イツキが帽子を団扇代わりに扇ぎながらボヤく。
今日も日差しが強い。
そんな中、今日も今日とてバイトである。
「本当だよな。池谷先輩と拓海は、エアコンの効いたトラックで配達。羨ましい限りだよ」
そんな中、1台の黒い車が入ってきた。
「うお! R32 スカイラインGT-Rだ!」
「かっちょええ! R32は渋いよなあ」
「「いらっしゃいませ!」」
イツキと一緒にGT-Rに駆け寄ると、ドライバーが出てきた。
「よお。俺は妙義ナイトキッズの中里毅って言うんだけど、ここのスタンドに来れば秋名スピードスターズのメンバーに連絡がつくって地元の奴に教えてもらって来たんだ」
「………」
「教えてくれないか? あの有名なハチロクに会うには、いつ秋名に来ればいいんだ?」
イツキに向かって聞いている。
そのイツキはキョトンとした顔でボーッとしている。
「あのさ、お前ってスピードスターズのメンバーじゃないのか? もしかしてスタンド間違えたかな?」
ダメだこりゃ。
イツキのヤツ、暑さにやられたか?
「あ、あの、一応俺スピードスターズのメンバーですけど……」
イツキが珍しくボケているから、代わりに俺が答えた。
「おお、良かった。間違いじゃなかったか」
「ええ。それでその質問なんですけど、もしかしてバトルの申し込みですか?」
「ああ、察しが良くて助かる。それで、会える日分かるか?」
「毎日朝の4時頃とかなら確実に会えますよ。アイツ、家の仕事の手伝いで秋名湖畔のホテルに豆腐の配達をしているんで。ただ、そんな時間来れる訳ないですよね。でも、それ以外の時間は分かりません。一応、伝言しておきましょうか?」
「それじゃあ頼む。『次の金曜の夜10時、秋名山頂上で待つ。下りの1本勝負だ』って伝えておいてくれ」
「分かりました。ただ、アイツ来れるか分かりませんよ?」
「構わないさ。来れないって分かったら、この電話番号に連絡してくれ。俺の携帯だ」
そのままメモを残して、GT-Rは去って行った。
「やれやれ、FDの次はR32かよ」