リクエスト募集開始して翌日、もうリクエストが来ていた。
どれどれ、内容は……
“ランボルギーニV12ビジョン グランツーリスモ”って何?
少女検索中
なるほど、シングルシーターでゲーム用のコンセプトカー……うん、ちょっと無理臭くね? 現実で売る場合、どう考えてもサーキット専用になるだろ。
最高出力は1万馬力……1万馬力⁉︎ おいおい正気か? そんなのジェットエンジン積んだような出力じゃねえか、いくらなんでもそんなの実在する訳……
少女検索中
ドラッグレース用でニトロ燃料のエンジン積んだ車に1万馬力のあったわ……
でもニトロメタンが燃料でブレーキにパラシュート使わないと止まらない……
まさかこれを峠のバトルに出して欲しいのか……⁉︎
いくらなんでも冗談だよね?
とまあ、こんな事がありました。
ちなみに、調べたところ実際のV12ビジョングランツーリスモは819馬力だそうです。
そりゃそうだよね。
あまりにぶっ飛んでいたため、現実味のない車は一切登場させない事を追記しておきました。
「 という訳で、ナイトキッズの中里って人から挑戦状が来たんだよ」
拓海と池谷先輩が戻ってきたところでその事を伝えた。
「ナイトキッズ! マジかよ、今度は妙義最速と呼ばれる走り屋が挑戦しに来るとはな……!」
「最近、秋名に現れているGT-R使いだな。この前大外からあっさり抜かれたよ。それにしても、またとんでもない相手じゃないか」
池谷先輩と健二先輩が言う。
そりゃまあ、健二先輩の実力じゃあ1コーナーで抜かれるわな。
「それで拓海、受けるのか?」
「ちょっと、考えさせてくれ……」
「おい拓海、そりゃねえだろう? 走り屋ってのは、車で挑戦されたら受けて立たなきゃいけないんだからさ!」
イツキがそう言うも、反応は芳しくない。
「でも俺、自分の車持ってないし、あのハチロクは親父のだし……」
ダメだこりゃ。
最悪断るぞ、コレ。
あの人になんて言おう?
夜
秋名山
今、俺は秋名山に来ている。
トランクには、2リットルの水の入ったデカいペットボトルを積んでおり、カンホルダーには紙コップが挿してある。
早速コップに水を7割くらい入れた。
「さてと、それじゃあ行くか!」
拓海がやっているトレーニングを俺もやるのだ。
コレでシビアな荷重移動のテクニックを身につけてやるぜ!
そしてそのまま意気揚々と秋名を下っていく。
はずだったのだが、ヤバい予想以上にキツい!
5割6割くらいのペースにも関わらず、ちょっと気を抜いたらすぐ溢れそうだ。
まさかここまでシビアだったとは。
さて、山を下り終えたところでの紙コップの残量は6割強ほどになっていた。
少し溢してしまったのだ。
……メッッッチャ悔しい!
よし、もう1ラウンドだ!
そして10回くらい往復して、コツが分かってきたところだった。
紙コップに気を配りつつ秋名を下っていると、後ろから1台追ってくる。
そして、真後ろについて煽ってきた。
今日来たR32ではないか。
さてと、道を譲るかバトルに乗るか……。
乗りますか。
最近いい感じの相手が少ないし、この状態でどのくらいやれるのか気になるし。
という事でアクセル全開。
次のコーナーに入り、超速で曲がっていく。
後ろのR32も、もちろんついてくる。
これぐらいのペースでもついてこれないヤツはいるが、まあ相手が相手だし余裕しゃくしゃくだわな。
車からもそんな雰囲気出てる。
次のコーナー、さっきより若干侵入スピードを上げる。
よしよし、水は溢れてないぞ。
後ろからR32が迫ってきているぞ。
めっちゃキツい!
けど、ここでへばってたまるかってんだ!
次のコーナーも、水が溢れないよう気を使いつつ、限界スピードで抜けていく。
これもう半分奇跡だよ。
俺ってすごい。
でもやっぱりケツにR32が食いついている。
アイツなら多分この状態でも振り切りそう……。
ダメだ後ろ向きになるな。
一つ一つの動作を丁寧に行えば大丈夫!
とまあそんな感じに下って行った。
麓の駐車場
「まさか、“秋名のハヤブサ”がお前だったとはな」
「ええ」
「だがどうなってんだ? ところどころで四苦八苦してるっていう雰囲気が背中から出てたぜ?」
「そりゃあ紙コップの水溢さないよう神経尖らせながら走ってましたからね。結局溢しちゃいましだけど……」
「そんな事してたのかよ……!」
「そっちはハチロク倒すための走り込みですか?」
「まあ、そんなところだ。そういや、伝言は伝えておいてくれたか?」
「バッチリ伝えておきました。まだ返答は来てませんけど」
「そうか、ならいい」
「いずれまたバトルしましょう。今度はお互い本気で」
俺はそう言い残してその場を去った。
深夜4時前
藤原とうふ店
拓海はいつも通り、秋名湖へのとうふの配達の準備をしていた。
ハチロクのエンジンをかけ、4A-Gエンジンのエキゾーストを響かせる。
それと同時に、父親である文太が紙コップを渡しに来た。
「溢すんじゃねえぞ」
「分かってるよ」
そのままサイドブレーキを解除して出発しようとした時、ふと頭にある事が思い浮かんだ。
「……なあ、親父。GT-Rってすごいのか?」
「そりゃまあ、凄いだろ」
「親父なら勝てるか? 下りでGT-Rに」
「勝つね。GT-Rだろうが、ポルシェだろうが目じゃねえよ」
「ふーん……」
「GT-Rとやるのか?」
「いや、ちょっと聞いてみただけだから」
「そうか……」
「んじゃ、行ってくる」
拓海はそう言って、ハチロクを発進させた。
静かになった店先で、文太は1人呟いた。
「次の相手はGT-Rか。ちょっくら、ハチロクのセッティングをイジるかな」
一方で、拓海は以前戦った相手、高橋啓介との会話を思い出しながら、秋名を上っていた。
『今回のバトル、俺の負けだ。次に俺がお前に勝つまで、絶対他のヤツに負けるんじゃねえぞ』
『そんな事命令される筋合いはないし、そもそも俺は走り屋なんかじゃない……』
『イヤミで言ってんのか? あれだけのテクニックを身につけるのに、死ぬほど走り込みをしたはずだ。よほど車が好きでなきゃ出来ねえぜ』
『好きで走ってる訳じゃない。家の手伝いで仕方なく走っているだけだ。ただ早く帰りたくて思い切りすっ飛ばしてるだけで、だから俺は、一度も運転が上手くなりたいなんて思った事ない!」
『ふざけんな! 分かってないのはお前の方だ。その家の手伝いとやらを途中で辞めるって手段もあったはずだ。だが、お前はそうしなかった。だから、お前は車の運転が好きに決まってんだよ‼︎』
『‼︎』
『これを機会に自覚しておけ。車を走らせるのが好きなら、それだけでも十分走り屋だ。走り屋なら、自分が身につけたテクニックにプライドを持て‼︎』
ここ最近、その会話の内容がよくチラついていたのだ。
(俺が車の運転が好き? でも、それだけで勝負を受けるのは……)
そんな事を考えながら、拓海はハチロクを走らせていった。
木曜日
GSゼネラル
翌日にはナイトキッズとなバトルが控えている。
だが、拓海は未だに答えてくれない。
遅くとも、今日中に連絡しないとキレられるだろう。
ダメ元であの作戦やるか。
「なあ拓海、明日のバトルどうするんだ?」
「まだちょっと考えてる」
ですよね〜。
正直何がなんでもやる気にさせたいから、ちょっとこうしてやる。
「やっぱりそうだよな。GT-Rってメチャクチャ速いからな。いくら拓海でも、ハチロクじゃあ相手が悪すぎるか。アテーサET-Sっていう4WDとFRの良いとこ取りをするシステムを搭載していて、スタビリティが高いから、峠の下りでも速い。極め付けに、心臓部であるRB26っていうツインターボエンジンは、キチガイ性能を誇る。レースだと500〜600馬力くらい軽く出せるように設計されているから、少しいじるだけでドカンとパワーが出る。車の性能がもう少し近ければ、お前の驚異的なドラテクで埋められるだろうけど、ハチロクじゃあ月とスッポン並みに性能が違う。相手が素人だったならともかく、中里はかなり腕利きのドライバー。いくらお前でもな」
「何だよそれ。まるで俺が負けるみたいな言い草だな……」
お、食いついてきたぞ。
「いやいや、負けるとは言ってないさ。でもなあ、ハチロクとGT-Rじゃなあ……」
少し煽るような言い方をしてやった。
煽ってんだけどね。
「むしろ気になってきたよ。そんなに凄い凄いって言われると、逆にどのくらい凄いのか、自分の目で見たくなった。俺、GT-Rなんて怖くねえよ」
「それじゃあ今度のバトル、受けるって事か?」
「ああ、そうするよ」
「バトルは明日の10時からだ。忘れんなよ?」
「分かってるよ」
そして、拓海は仕事に戻って行った。
……。
………。
「っしゃー‼︎」
おっといかんいかん、思わず声が漏れてしまった。
しかし、こうもあっさり引っかかってくれるとは。
予想以上である。
いやあ、面白くなってきた!
明日が楽しみだ。
翌日
バイトが終わり、拓海は自宅へと帰宅していた。
「ったく。隼人のやつ、あんな言い方しやがって。そこまで言われちゃ、下がる訳にはいかない。GT-Rだろうがなんだろうが勝ってやる」
そう意気込んで家の前まで来ると、衝撃の張り紙が家の前にあった。
「はあ? 何が臨時休業だよ、聞いてねえぞ。貧乏なんだから真面目に働けよな。まあいいや、車は……って車は?」
家の駐車場に目をやると、そこにはいつもそこに停まっているハチロクトレノが今日に限ってなかった。
「嘘だろ……。車なくっちゃ話になんねえよ……」
同時刻
秋名山
秋名には今日も多くのギャラリーが集まっていた。
「いよいよだな。“秋名のハチロク”対ナイトキッズの中里」
「それにしても、きな臭いよな。レッドサンズの高橋啓介が勝てなかったハチロクに、ナイトキッズの中里が挑む。表向きはスピードスターズ対ナイトキッズだけど、実際はレッドサンズとナイトキッズっていう群馬エリア二大勢力のプライドのぶつかり合いでもあるんだ!」
「どっちが勝っても、あの高橋涼介が黙ってる訳ないしな」
「今年の秋名は、トコトン熱いぜ!」
その頃、頂上には先にスピードスターズのメンバーが集結していた。
「上がってくる時に見たけど、凄いギャラリーだったな。下手したら、前回よりも多いんじゃないか?」
「おい、隼人。どうするんだよこれ。拓海、あんまり乗り気じゃなかっただろ? これはさすがにヤバすぎるぞ」
「大丈夫ですよ。昨日、『どうせやっても負けるからそりゃやりたくないか』的な事を言って少し煽ってやったんですよ。そしたら思いの外引っかかってくれたのでね。それに、万が一来なかったとしても、俺が走れば問題無いでしょう」
「それならいいんだけどな……」
そんな会話をしていると、下から何台もの車が上がってきた。
そして、先頭の1台は見覚えのあるGT-Rだった。
「とうとう来たか、妙義ナイトキッズ!」
そして、それに続いてロータリーサウンドを響かせた車が2台上がってくる。
「高橋兄弟も来たか……」
「これ、拓海が来なかったらマジでヤバいぞ……!」
同時刻
藤原とうふ店
拓海は自室のベッドの上に座って考えていた。
(何だろう、この感じ……。死ぬほどイライラする。秋名に行きたくてたまらない。走る事が好きかどうか自分でもよく分かんねえ。けど、5年間走り続けて培ったテクニックには、プライドがあるんだ。そのテクニックがどこまで通用するか試してみたい。俺が今出来る全てをぶつけて、GT-Rに挑戦したい……。こんな気分は初めてだ。走りたい気持ちがどんどん強くなってくる……)
既に午後9時40分で、スタートまで残り20分となっていた。
そう考えていると、外からエンジン音を聞こえてくる。
いつも聞き慣れた、ハチロクの4A-Gエンジンサウンドだった。
すぐ様家を飛び出す。
家の前には既にハチロクがあった。
「おう、どうした? 血相変えて」
「親父、今すぐ車借りたいんだけどいいか?」
「ああ、構わねえぞ」
拓海は、文太が降りたハチロクに乗り込んだ。
「それじゃあ、行ってくんぜ親父!」
そして、秋名山を目指して走り始めた。
「……目つき、違ってたな。どうなってんだ?」
おかしいぞ?
何でアイツが来ない。
あれだけやる気になっていたのにすっぽかすあなんてありえない。
いや、待てよ?
まさかとは思うが
「もしかして、車借りられなかったとか……?」
健二先輩が俺の思っていた事を代弁した。
だとしたらちょっとヤバい。
折角アイツの走りを楽しめると思ったのに、これじゃあ……。
そう考えていると、1台下から上がってきた。
白黒のパンダカラーであり、ドアには藤原とうふ店の文字が書かれている。
拓海のハチロクだった。
「悪い、遅くなった」
「やれやれ。来ないんじゃないかと心配になったぜ」
「そんな訳ないだろ? 走り屋は車で挑戦されたら、受けて立たなきゃいけないってイツキが言ってたしな」
「拓海ぃ……!」
イツキ、どうしてそこまで感激するんだ?
まあいいや。
「それじゃあ早速始めるとしよう。拓海、スタートラインに車並べろ」
そして、GT-Rとハチロクがスタートラインに並べられる。
「俺は、ナイトキッズの中里毅だ。そっちは?」
「藤原拓海です」
「覚えとくぞ、その名前」
そしてスタートする。
勝負は前回と同じく、5連続ヘアピンで決まった。
フロントタイヤのグリップを消耗し、アンダーステアが抑え込めなくなったR32がスピンを起こし、そのまま停止。それを横目にハチロクがイン側から溝落としで通過したのだ。
こうして、“秋名のハチロク”は2連勝を収めたのだった。
次回、とうとうあのカメより遅い車が登場します。