その忌むべき名を呼べ 作:シスコン深王
狂血の契り
噛み散らし
大放電
信号機トリオは許さない
少女が八斎會に所属してそれなりの月日が経った。既に治崎の部下2人と八斎衆には少女の個性によって新たな個性を与えられていた。だが、それ以外の組員にはその事は一切知らされていない。治崎は自分のお抱えの部下以外には少女の力を使うつもりはなかった。そして治崎は少女の個性を使わせた後も自分の駒として使うため、雇うことを継続していた。
「USJ……なんですか? それは」
白亜の少女は自分の雇い主に問いかける。
「雄英高校の授業の一環で使う施設の名前だ。そこにヴィラン連合とかいうふざけた連中が襲撃するらしい」
「へえ、ということは私はその連中を始末すれば良いのですね?」
「いや違う。襲撃する連中はほとんどがチンピラだ。だがそんな連中に雄英の施設に侵入する力はない。恐らくそいつらをまとめる奴が全て仕込んでるのだろう。多分だが、チンピラどもは捨て駒だな」
「じゃあ、その黒幕を始末、もしくは捕まえてくればいいんですの?」
「そういう訳でもない、恐らくだがこの黒幕どもは表に出れないヴィラン共の星として暗躍しようとしている可能性がある。もしかしたら俺達の役に立つ時が来るかもしれない。だが、当然邪魔になる可能性もある。お前は戦力ではあるが交渉に向いてないのは知っている。それに場所がヒーロー達の施設だ。お前以外は目を付けられているから近寄れない。だから、お前に任せる任務は一つだ。黒幕達の実力を見極めてこい」
それを聞いて少女は困ったような顔を浮かべる。
「その襲撃って、生徒の授業の時に行われるのですよね。という事はヴィラン連合もヒーローの卵達も相手取れって事ですわよね、相手、多すぎませんか?」
「お前なら問題ないだろう?」
「因みに、殺しは?」
「チンピラ共はいくら殺してもいい。だが、黒幕共はダメだ。黒幕の駒一人くらいはいいが、それ以上はこれから取引するかもしれない時に支障をきたすかもしれん。生徒達も殺していいと言いたい所だが、なるべく殺すな」
「その理由は?」
「生徒共を殺すとヴィラン連合へのヘイトが高まる」
「別に良いのでは?」
「向こうが殺す分は勝手だ、だがこちらの意図せぬ殺しは相手に都合が悪いかもしれん。だからなるべく殺すな」
「先生であるプロヒーローは?」
「そいつらに関しては殺しても構わん。プロヒーローを減らすのはこちらにメリットが大きいからな。だが優先事項ではないから固執するなよ。目的を第一に優先しろ。生徒殺しはなるべく控えろ、分かったか」
「はあ……」
少女は少し困り顔であった。大人数を相手取るのはいい、だが、殺してはいけない存在がいるのが厄介であった。少女の力は大人数相手に手加減するに向いていない。
「応援とかはいませんの?」
「俺の組織の連中は顔が割れているから無理だ。お前以外に使えそうな知り合いはいない。そういうことだ」
「はあ……」
2回目の曖昧な相槌を打つ。どうしたものかと悩んでいると少女の片目が痙攣し始めた。治崎も慣れたのかその様子を面白そうに見ていた。
「そ、それなら……ぼ、僕とグートルーネの力の結晶の『クーカリナイ』を……つ、連れていこうよ……役に立つよ……」
おどおどとした挙動不審そうな声が響き渡る。少女は意外そうな顔をしながらその声に返事を返す。
「あらあなたが出てくるなんて珍しいわね、
「ぼ、僕だって役に立つ事証明しなきゃ……な、なんか陰口言われそうで……い、嫌だったんだ。ぼ、僕ここにきてから……あ、あんまり活躍できてないから……そ、それに……」
少女の片目が治崎を見つめる。その目は怯えていた。
「ぼ、僕の個性は役に立つんだぞって……そ、そこのお兄さんにも……お、教えたいから……エ、エリちゃんの事以外でも……や、役に立つって……」
治崎はこの人格の個性を知っている。正直戦闘向きではないが他に類を見ないとても希少な個性である。エリの機嫌を得るためにインポスターの個性を使ったのも記憶に新しい。
「この子もこう言ってるし、あの子達も連れてっていいかしら?」
少女が治崎に確認を取る。治崎も特に表情を変えずに答える。
「別に構わない。でも大丈夫か? 俺もあの連中の力を見たことあるが、正直、過剰戦力としか思えないんだが」
「大丈夫ですよ、あの子達は手加減が上手ですから」
そう言って少女は微笑む。それと同時に片目が震える。
「キ、キキキ……僕の出番だ……やった、やった……」
「でも私も戦うからあなたは基本お留守番よ?」
「……そうだよねぇ……」
最後の声は寂しく響いた。
▼▼▼▼▼
相澤消太は追い込まれていた。ヴィラン連合なる存在が現れ、生徒達が一人のヴィランの手によって散り散りにされ、そして目の前の脳味噌剥き出しの怪人が自分に襲い掛かってきていた。
こちらは自分一人、それに対して相手はリーダー格の顔に人の手をつけた少年、脳無と呼ばれた怪人、そして取り巻きであるチンピラが数人であった。脳無と呼ばれていた怪人以外は手を出してきていないが、その怪人に相澤消太、イレイザーヘッドは追い詰められていた。イレイザーヘッドの個性は『抹消』である。相手の個性を一時的に消すことが出来るのだが、目の前の脳無には効果がほぼ無い。圧倒的身体能力の差で追い詰められていた。それでも決して諦めずに目の前のヴィランを打ち倒そうと己の全力を尽くす。
そんな戦闘中、その場にピシリと何かが砕けるような音が響く。顔に手をつけた少年は訝しげに周りを見渡すが、特に何も異常は見当たらない。だが、ピシリピシリと音はどんどん大きくなっていく。
「あら、楽しそうな事をやっているのね。私も混ぜてはくれないかしら」
頭上から少女の声が聞こえてきた。少年は咄嗟に空を見上げる。そこには、何もない空間にガラスを割ったかのような亀裂が入っていた。相澤もその異常に気付き、脳無とも謎の亀裂とも距離を置く。脳無も少年の指示により亀裂に注意が向いた。
「何者だ……」
少年が問いかける。
「私? 私はグートルーネ。貴方達全員の邪魔をしに来たの」
その瞬間、バリンと亀裂が砕け散り、白亜の少女が現れ、相澤とヴィラン達の間に降り立った。それを気に食わなさそうに少年が睨みつける。
「ハッ、ヒーローごっこか? ご苦労なこった」
「ヒーローごっこ? そんな殊勝なものじゃないわ。あなた達も、そこでへばってるヒーローの先生も、私の攻撃対象よ」
つまらなさそうにそれを聞いていた少年は脳無に命令を下す。その間に少女の片目がグルグルと異常な動きをしているのに気が付けなかった。
「おい! あの女をやれ!」
その命令に対して脳無は動かない。少年はイライラしながらもう一度言う。
「聞こえてないのか! あの女を殺せって言ってるんだ!」
それでも動きは無かった。少年は頭に血が昇り、脳無の方へ振り向く。そして脳無がなぜ動かなかったのか理解した。
見えない箱に閉じ込められているかのように脳無の身体は圧迫されていた。必死に抵抗しているようだが、全くと言っていいほど効果はなく、身体が悲鳴をあげている。
それを尻目に少女が少年、死柄木弔に無警戒で近づいてくる。舐められている、死柄木はそう思った。
「あの子ってキミにとっての大事な駒?」
「舐めた口きいてんじゃねえよ……早く脳無を解放しろ、殺すぞ?」
そう言って少女に手を伸ばす。死柄木の個性は『崩壊』、五指で触れたあらゆるものを崩壊させる個性である。当然、自分の個性に絶対の自信がある。自分に不用心に近づいてきた愚か者に報いを与えてやる。その一心で少女の顔を掴もうとした──
「チッ! お前の個性は一体何なんだ?」
死柄木の手は見えない壁に阻まれ、少女の顔へ届く事はなかった。
「テメェ……汚ねぇ手で俺の顔を触ろうとしてんじゃねぇよ、殺されてぇのか?」
少女は死柄木が自身の顔を触れようとした事に怒りを露わにし語気を強める。死柄木も負けじと少女を憎悪の籠もった目で睨みつけた。
「ムカつく目で睨みつけやがって、あーイラつく。よし、決めた。お前の大事に持ってきたあのオモチャは殺す」
「殺すだって? あの脳無はオールマイトと戦えるよう強化されてるんだ。お前ごときが殺せるものか」
少女はそんな自信満々の死柄木を見て馬鹿にするようにニヤリと笑う。そして片手を死柄木に見えるように突きつけ、何かを握り潰すかのように手を握った。その瞬間、ぐしゃりと肉と骨がぐちゃぐちゃに潰れる音がした。
死柄木が咄嗟に横を向くと、そこには大きなサイコロの様に圧縮され、潰れた肉片と化した脳無の変わり果てた姿があった。脳無に与えられた個性、ショック吸収も超再生も全く役に立つ事なく、物言わぬ肉片へと変貌していた。少女が手を開くと、肉片が地面へと落下し、床を血で染め上げる。
「俺があんなオモチャ一匹、殺せないとでも思ったか? テメェも死にたくなかったらそこで大人しくしとけ、ボケ」
「ごめんなさいね、ノーワンは気が荒くて乱暴者なの。許してあげてね」
死柄木は少女の変貌の仕方に驚いた。いきなり落ち着き、人が変わったかの様な口調になったのだ。先程までは怒りで口調が変わったものと思っていたがどうやら違う様である。
そして少女は赤い両目は相澤の方へ向く。その片方の目は依然として忙しなく動き回っていた。
「こっちは片付いたし、次は貴方の番ね」
「先公は容赦なく殺していいんだったよな、グートルーネ。そういった縛りのないのが一番だな」
「殺すのは構わないけど、あの顔に手をつけた子をうっかり逃がさない様にね。あの子、隙を見れば絶対こっちを攻撃してくるわ」
「あいよ、分かってるって」
少女が相澤の方へとゆっくりと歩いてくる。相澤はその様子を油断することなく個性を使いながら見つめていた。個性を使っている、にも関わらず相手の個性を消せている感覚がしない。個性が何か遮蔽物で遮られている様な感覚であった。
「お前の個性、一体なんなんだ?」
相澤は返って来るはずのない問いかけをする。しかし、少女は機嫌が良いのか楽しそうに喋りかけてきた。
「さあて、なんでしょうね? 見事に当てられたら命は助けてあげても良いですよ」
「グートルーネ、あいつ、相手を見ることで発動する個性の持ち主みてえだ。俺だから防げるがパニッシャーとかだったらもろに食らってたな」
どうやら自分の個性は相手の個性によって防がれているらしい。厄介な相手だと思いながら、その場から全速力で離脱する。殺気を感じたからである。
「おっ、あいつ、俺の攻撃を躱しやがった。見えてねえはずなのにやるなぁ」
相澤は全速力で駆け抜けながら相手を視線から外すのをやめなかった。あいも変わらず、個性は防がれているが何となく全貌が分かってきた。少女の周りを見えない遮蔽物が囲っているようである。恐らく、空間に作用するタイプの個性であろう。
そんな中、少女の片目が忙しなく動き回っていたのがピタリと止まる。そして、先程までとは違う動きで片目が再び動き出した。
「フ、フフフ……クーカリナイがやっと交戦を始めた。ぼ、僕の力が……ひ、久々に役に立つんだ……」
「……おい、インポスター。グートルーネ引っ込めてなんでお前が出てきた? グートルーネは俺たちのまとめ役だ。お前も知ってるだろ、
「ご、ごめんよう、ノーワン……嬉しくなってつい出てきちゃったんだ……ゆ、許してよう……」
気になる会話の内容である。最初は役作りかと思っていたが、どうやらあの少女には複数の人格があるらしい。そしてその人格達のまとめ役がグートルーネという、最初に名乗っていた名前のようだ。それより嫌な予感がする。新しく出てきたインポスターによると何かが交戦を始めたらしい、そして生徒達は散り散りになっている。自分が予想している事が現実になっている可能性は信じたくないが高そうだ。
「お前らの言っているクーカリナイとやらは今どこに居る?」
相澤のその問いに2つの異なる意思の籠もった視線が此方へ向く。一つは挑発する様なもの。もう一つはビクビクと怯えた様なもの。それらの視線の主が交互に答えた。
「さあな、第一そんな事心配するより自分の心配した方が良いんじゃねえのか?」
「ぼ、僕のクーカリナイは……つ、強いんだぞ……お、お前みたいなやつの生徒に負けないんだからな……」
それを聞いてため息を吐く、そして少女を挑発するように笑みを浮かべる。
「何がおかしい?」
「なに、お前たちを倒して助けにいけば良いだけの話だからな」
「出来ると思うのか、脆弱なヒーロー様がよぉ……」
そして再び戦いの火蓋が切られた。
▼▼▼▼▼
出久は峰田と蛙吹と一緒に水難エリアに飛ばされ、ヴィラン連合に襲われていた。水中から襲ってくるヴィランを掻い潜り、船に陣取ってどう対処するか相談していると、突然相手の動きが慌ただしくなる。船に向かって必死の形相で向かって来ていた。相手が痺れを切らして攻めてきたかと思ったが、何者かから安全な船の上へ逃げようとしているようである。その証拠に水面に先程まで無かった腕や脚の一部が無惨に漂っていた。
「た、助けてくれッ! 水中はヤバいんだ!」
こちらへ逃げて来る男の一人がそう叫ぶ。その形相は死に物狂いであった。出久は救助するべく手を伸ばしながら問いかける。
「一体何があったんですか!」
「魚だ! でけえ魚が急に現れて、俺たちを襲って……」
男が出久の手を掴むと同時に男の横に巨大な影が現れ、男を飲み込む。そして影が水中へ消えると、出久が掴んでいる肘から先以外、跡形もなく消え去っていた。
「蛙吹さん! 峰田くん! 新しい
出久は顔を青ざめさせながらそう叫ぶ。目の前で人が死んだのだ、ヒーローの卵とはいえ動揺するのは仕方のない事であった。
「緑谷くん、峰田くん、こっちは一人救助したわ!」
「オイラの方も一人助けたぞ!」
出久は急いで二人の元へと駆けつける。そこには事情を聞く二人のクラスメイトとガタガタと震える二人のヴィランの姿があった。
「一体何があったの! 答えて!」
「いきなり巨大な魚が現れたんだ! それで次々と仲間が食われてった……なんなんだよ、アレは……」
「魚ぁ? オイラ、サメとかの相手は嫌だぞ……」
「いや、あれサメというよりも……」
男の声が止まり、三人の後ろを指差す。その顔は恐怖に染まっていた。恐る恐る後ろを振り向くと。そこには──
「オメーらが学生か? オデ、アタマいいから見分けつくんだ! 褒めると良いのだ」
船体をすり抜けて巨大な身体を露わにした、ツギハギのナマズがいた。
同時刻、あらかたヴィラン連合のチンピラどもを制圧した爆豪と切島の耳に銃声が響く。二人は残った一人のチンピラに対して身構えるが、最後の一人であるチンピラの様子がおかしい。頭どんどんと風船の様に膨らんでいき、限界がきたのかそのまま破裂した。頭を失った死体は血を撒き散らしながら倒れ込む。そして更に銃声が響く。
「やべーぞ爆豪、新しい敵だ!」
「んなこたぁ分かってんだよ! 探し出せ!」
爆豪が倒したヴィラン達の頭が次々と爆ぜていく。そして、その場で生きているのは爆豪と切島だけとなった。
「ガキンチョ共のお守りをしろっつー話だったが、見るからに不良じゃねえか。貧乏くじ引かされたか?」
声の主の方へと二人は視線を向ける。そこにいたのは小さな赤いウサギのぬいぐるみであった。
同時刻、轟は自分に襲い掛かって来たヴィランを全員、氷漬けにし、一息ついていた。するとあたりが薄暗くなる。慌てて上を見上げるとそこにいたのは、30m程の巨大なビニール風船で出来た恐竜のオモチャがぷかぷかと浮いていた。
「フ〜、やっとここまで大きくなれた〜。さ〜て〜生徒のみんなは〜どこかな〜」
そのまままるで気がついていないのか、凍りついた人間を氷ごと踏み砕いて着地する。その様子は正に怪獣であった。
英雄高校の生徒と
次回、赤いウサギ戦