その忌むべき名を呼べ   作:シスコン深王

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第五話 ヴォーパルバニー

 爆豪と切島、二人の前に現れたのは一匹のウサギのぬいぐるみであった。洒落たテンガロンハットを被り、リボルバーのホルスターを腰に下げ、両手に鈍く光るリボルバーを2丁持っている。ウサギは二人の近くまで歩いて来ると、クルクルとリボルバーを回転させて決め顔でホルスターへとしまう。

 

「コイツらを殺ったのはテメェか……」

「やべぇよ爆豪、この人形、人を()()()()()()殺しやがったぞ。絶対相手にしちゃいけない奴だ……」

 

 二人の言葉にくつくつと笑いながらビッと腕を天に突き上げ、人差し指を立てながら高らかに宣言する。

 

「そうさ! このチンピラ共を始末したのはこのオレっち、世界一の人気者! アメリカのアニメのヒーロー! スーパーレジェンド、チップ様だ!

 ヒーローの卵のガキンチョ共、サインが欲しかったら言いな、特別にプレゼントしてやるぜ……」

 

 そういえばと切島はチップと名乗ったウサギをまじまじと見る。小さい時、レンタルショップで借りたアメリカ発のアニメの主人公のキャラがこんな感じだった気がする。確か劇中でもこんな風に異様にテンションが高かった覚えもある。

 

「爆豪、俺あのウサギ見たことあるぞ。昔のアメリカンアニメの登場キャラだ」

「けっ、しょうもねぇ事覚えてんな、クソ髪。所詮誰かが個性で操ってるクソ人形だ。さっさとぶっ壊して本体を探すぞ」

 

 その二人の言葉に反応してチップと名乗るウサギのぬいぐるみは喋りかけてくる。

 

「そこの赤髪のガキンチョはオレっちのこと知っててくれてたのか! やっぱ持つべきもんはファンだな! それに比べて金髪のガキンチョは……オレっちみたいな漢が個性なんかで操られてるわきゃねーだろ?」

「はっ、クソ人形が一人でに動く訳ねーだろ? 生きてるわけでもあるまいし」

「あん? オレっちが誰かの傀儡だと思ってんのか? そりゃ心外だぜ! オレっちはちゃんと()()()()()()()、こんななりでも一つの生命体なんだぜ!」

 

 その言葉に爆豪は眉を顰める。物が命を持ってるなんて聞いたこともない。どうせはったりだろうと決めてかかる。そして、生意気な口ばかり叩くウサギの人形に飛びかかった。

 爆豪が片手に己の個性の力を込めて、小さなウサギの人形を吹き飛ばそうとした瞬間、目の前にウサギの脚があった。

 

「ガキンチョ共を殺すのはダメらしいからな、オレっちは個性を使うのは控えとくぜ。オレっちが優しいウサギで良かったな、ガキンチョ」

 

 顔面を結構な力で蹴り飛ばされて、爆豪は鼻血を散らしながら切島の足元へと転がる。さっきの発言で分かったが明らかに手加減されている。それが更に爆豪の怒りを誘った。

 

「クソウサギが! 舐めてんじゃねえぞ! ぶっ殺すぞ!」

「おいおいおい、いきなり飛びかかって来たのはそっちだろ? そりゃねえぜ、こちとら戦う気すらなかったんだ。お前らさえ暴れなけりゃオレっちはなんもしないんだ、OK?」

 

 爆豪は今度は全力の爆発の威力を前方へ放ち、ウサギを粉々にしてやろうとした。だが、ウサギは見抜いていたのか、一瞬で爆豪の懐に潜り込み、回し蹴りを鳩尾に叩き込む。その威力は並の人間の力を超えており、爆豪の動きをしばらく止めるには充分な威力であった。

 胃液を撒き散らしながら地面を転がる爆豪をウサギはやれやれとバカにしたように首を振る。

 

「お前は学習してないのか? まあいい、えっと何の話をしてたんだったか……そうそう! オレっちが生きているって話だったな。オレっちはこの世界でも数少ない選ばれし存在、生きた人形なんだぜ!」

 

 切島は地面に倒れ伏す爆豪を心配して駆け寄り、爆豪をこんな目に合わせたウサギを睨みつける。

 

「なんで人形が生きているんだ? どういった原理なんだよ!」

「うーむ、まあいいかな? アイツの個性くらいなら教えても構わんだろ」

 

 独り言を呟いたウサギは少年二人に笑みを浮かべながら語り出す。

 

「オレっちも他の奴らも、最初は物言わぬただの玩具だった。それを変えたのがオレっち達の持ち主よ。アイツの個性は『贋命』、偽りの命を与える個性だ」

 

 それを聞いた切島は驚く。命を与えるなど神の御技の様な個性ではないか。そんな個性を持つ存在など過去も現在も聞いたことがない。

 

「アイツの個性は命を持たない物体であればどんなものでも命を吹き込むことが出来る。ただ、その物体が生き物に近い形をしてなければ知性も持ちにくくなるから使い勝手は微妙だがな。そしてここからが肝だ。アイツのお気に入りであれば命以外のものも付与される。なんだと思う?」

 

 それを聞いて切島が首を傾げる。物に命を与えるだけでもとんでもない個性であるのに、それ以上何かがあるのかと考えたくもないことである。

 

「それはだな、"個性"だ。オレっちの個性は『風船化』、おまえはアニメを観たことあるんだったな。アニメでも観たことあるだろ? 弾を撃ち込んだ相手を風船の様に膨らませて、戦闘不能にさせるのがアニメでの個性だ。だが現実で再現された個性はそんな生温いもんじゃねぇ。風船ってパンパンに膨らみすぎると破裂するだろ? 膨張しすぎるとな、弾けちまうんだよ。弾けりゃそこの部分は飛び散っちまうどれだけ硬かろうが関係ねぇ。どんだけ丈夫だろうと簡単に破壊出来んのがオレっちの個性だ。

 おまえ、耐久型の個性だろ? オレっちと相性最悪だから喧嘩売らねぇのが身のためだぜ」

 

 そう言うと頭の失ったチンピラの死体を椅子にして、寛ぎ始める。切島は冷や汗をかきっぱなしであった。

 

(なんだよ、あのウサギ。さっきまで戦ってた奴らとはレベルが違いすぎる。はっきり言って俺と爆豪の二人でも荷が重すぎる。幸いにしてこっちが手を出さなきゃあっちも何もしてこねぇみたいだ。応援が来るまで大人しくしといた方が良さそうだ)

 

 切島はそう判断し、大人しくしとこうと思っていたところ、爆豪が苦しそうにしながらも立ち上がり、自分を蹴飛ばしたウサギを睨みつける。

 

「俺はヒーローになる男だ…テメェみたいなクソウサギに降参したりはしねぇ……」

「ほう……まだボコボコにされたりねぇみたいだな……うし、それならちょっとばかし遊んでやるよ」

 

 そう言ってホルスターから2丁のリボルバーを抜き、くるくると回転させ始める。

 火花を散らし始めた二人を見て、切島は慌てて爆豪を止めにかかる。

 

「ま、待て待て爆豪! あいつの強さは尋常じゃないって! おまえも身を持って味わっただろ!? 応援を待ったほうがいいって!」

 

 その言葉を聞いて、爆豪が冷めた視線を送る。

 

「そんな選択をする奴がヒーローになれるとでも思ってんのか? ヴィランは倒す、それが格上でもあろうとだ。クソ髪、怖ぇんなら引っ込んでろ、邪魔だ」

 

 そう言い残すと爆豪はウサギへと飛び掛かっていく。ウサギは不敵な笑みを浮かべながら迎え撃つ。

 切島はその様子を見ながら考える。正直、人を簡単に殺すことの出来るあのチップと名乗るウサギと戦うと考えるだけでも足がすくむ。だが、このままビクビクと怯えていてヒーローになれるのか。そして、爆豪の目を見て決断した。

 

 

 

 

 

「くたばりやがれっ!」

 

 爆豪が爆発の力を振るいながらウサギを後方へと追いやる。ウサギは余裕そうな笑みを浮かべながら、爆豪の攻撃を躱しながら2丁のリボルバーを発砲する──爆豪の身体の周りへ。

 

「どこに撃ってやがる!」

「ちゃんと狙い通り撃ったんだぜ。ほら、ちゃんと躱せよ」

 

 その瞬間、爆豪の近くの地面と壁が急速に膨らみ始め、そして弾けた。破片が散弾の様に四方八方から爆豪に襲いかかる。コンクリートの破片である。そんな物がこんな速度でぶつかればただで済むはずがない。爆豪は避けることは不可能と判断し、咄嗟に頭などの急所を防ぐ。だが、衝撃は感じなかった。目を開けるとそこには爆豪を包み込む様にして守っている切島の姿があった。

 

「ったく、無茶しやがるな。俺が守ってやってなかったら、ボコボコにされてたぞ」

「テメェの助けなんかいらねぇ……と言いたいところだが、正直そんな事も言ってられねぇみてぇだ。手ェ貸したんだから最後まで付き合えよ、クソ髪!」

「やるからには勝つぞ、爆豪」

 

 そんな二人を見ながらもウサギは余裕綽々の表情でリボルバーを回転させていた。

 

「さっきまでビビってたのに参戦してくるとはなぁ……ま、いいぜ。二人纏めてかかって来いよ。格の違いを思い知らせてやろう」

 

 そう言うとリボルバーを乱射し始めた。地面や壁や天井が破裂しようと膨らみ始める。そして次々と炸裂し始める。だが、先程とは違い、至近距離での破裂ではないので破片の散弾は驚異ではなかった。では何が狙いなのか。

 

「爆豪! コンクリートの破片が飛び交ってるから気をつけろ! いざとなったら俺が防ぐ!」

「ッ! 違う、ヤツの狙いは別だ!」

 

 爆豪はウサギの狙いに気付いたのか、いち早く破片で囲まれた空間から脱出しようとした。だがもう遅い。

 

「オレっちはよ……個性だけではなくて、射撃の腕前もピカイチなんだぜ。それを身をもって味わいな」

 

 銃声が鳴り響く。計5発、あらぬ方向へと発射される。それが破片で跳ね返り、時には切島の硬い皮膚で跳ね、軌道を目まぐるしく変えながら標的へと迫った。そして寸分の狂いなく目標へと吸い込まれる──爆豪の身体へと。

 爆豪の膝、肘の関節にそれぞれ4発、そして後頭部に1発命中していた。爆豪はあまりの痛みにもんどりを打つ。ウサギはその様子を満足そうに見つめながら、銃口から上がる硝煙を息を吹きかけて消す。

 

「ゴム弾で良かったな、ガキンチョ。これが本物の弾丸だったら御陀仏だったぜ。さあて、次はおまえの番だ。おまえは皮膚が硬えみたいだし、遠慮なく実弾を使わせてもらうぞ」

 

 そう言って目にも止まらぬ早さでリロードをする。あれだけ意気込んでいたのに既に一人やられている。切島は焦っていた。あのウサギは直接個性を使ってくるつもりはないようだが、使われたら自分の個性『硬化』の防御はないに等しい。さあどうしたものかと本気で悩んでいると爆豪の視線が突き刺さる。あれは、まだ諦めていない目だ。それを見て切島は覚悟を決めた。

 

「掛かってきやがれクソウサギ! 爆豪の仇は俺がとってやる!」

「おうおう、熱いねぇ。それじゃ、お前には特別にゼロ距離で弾丸をプレゼントしてやる」

 

 そう言葉を残すと一瞬にしてウサギは距離を詰めてきた。はっきり言って身体増強型の個性と遜色ないくらいの素早さである。そして銃口を切島の額に突き立てると同時に引き金を引く。轟音が鳴り響くと同時に切島の頭が後ろへ仰反る。

 

(痛ぇ! なんつー火力だよ!?)

 

 硬化した筈の皮膚に弾丸がめり込んでいる。普通の銃であれば弾き返す事が出来ると言えば威力の程は伝わるだろう。

 

「硬ぇなぁ……まあ1発ぶち込めたんだ、死にたくなかったらそこを必死に守るんだな」

 

 再び銃声が鳴り響く。今度は離れたところからである。それと同時に切島の身体に再び衝撃が走る──最初に銃弾が撃ち込まれた額へと。

 切島は顔を青ざめさせながら、銃弾の当たった額を触る。額からは血が垂れて来ており、先程めり込んでいた銃弾が少し頭の中へと突き進んでいた。寸分違わず額にめり込んだ所に弾を撃ち込まれたのだ、このまま狙われれば弾は脳みそへと到達する。必死の思いで額の傷を手で覆う。それを嘲笑うかの様に次々へと銃声が鳴る。一発は腕に当たり、腕をかちあげて額の手を退かし、もう一発ももう片方の腕を同様に動かし三発目が額に的確に撃ち込まれ、どんどん体内へと侵入して来る。

 

「大丈夫だ、殺しゃしねえよ。ただ、後遺症引き起こしても責任は取れねぇがな」

 

 正直これ以上時間を稼ぐのは無理だと判断した切島は声を上げた。

 

「爆豪スマン! これ以上時間を稼ぐのは無理だ」

「こんだけありゃ充分だ。よくやったじゃねえか、クソ髪」

 

 回復した爆豪がウサギへと再度飛び掛かる。ウサギもそれを予期していたのか慌てる事なく迎え撃つ。

 

「まーだ動けんのか、意外とタフだなガキンチョ。だが、馬鹿正直に突っ込んで来たのが愚策だったな」

「言ってろ、これはテメェをブッ飛ばす為の下準備だ」

 

ウサギの蹴りが飛んでくる直前に爆豪は目を瞑る。己の攻撃にやられない様に。

 

 

閃光弾(スタングレネード)

 

 

 目を焼かんとする眩い光と鼓膜を破かんとする凄まじい轟音が爆豪を中心に発せられる。爆豪を蹴飛ばそうとしていたウサギにはモロにその威力が叩き込まれた。

 目を焼かれ、耳も碌に音を拾えなくなったウサギは己の直感で爆豪から距離を取る。視覚も聴覚も今失っているウサギに追撃を加えようとした爆豪は舌打ちする。

 

「危ねえ危ねえ、そんな隠し球があるとはな。油断してたぜ」

 

 同じ手は二度と通じない。それが分かっているから、未だに視覚と聴覚が回復していない今しかあのウサギを倒せないと爆豪は追撃の準備をする。自分のとっておきの必殺技だ、これを避けられたら勝ち目はなくなる。そう覚悟して、ウサギへと接近していく。

 

榴弾砲(ハウザー)……」

「けっ、馬鹿正直に食らってやるものか。避けたら……ッ!?」

 

 爆豪に気を取られすぎていてウサギは気が付かなかった。もう一人の存在に。視覚も聴覚も回復しきっていない今、切島の存在など頭の外から抜け落ちていたのだった。身体を片手で掴まれて身動きが封じられる。

 

「おいお前! オレっちを掴んだままだと巻き込まれるぞ! それでもいいのか!?」

「ケッ、お前を倒せるんなら本望さ。それに俺の個性を忘れたのか? それに爆豪の一撃くらいなら一発は耐えてやるよ」

 

 爆豪の両手がウサギの目前に迫る。そして──

 

着弾(インパクト)!!」

 

 爆豪の渾身の一撃がウサギと切島を爆風で包み込んだ。

 

 

 

▼▼▼▼▼

 

 

 

 爆豪は己の一撃を放った所を見やる。渾身の一撃だ、手答えもあった、だが不安がよぎる。爆煙が晴れていく。そこには気を失っている切島と、千切れた片腕を抱えているウサギの姿があった。

 正直、これ以上の戦闘は爆豪にとっても限界である。そんな爆豪に視線を向けたウサギは疲れた様に呟く。

 

「まさかこのオレっちがヒーローの卵に舐めプとはいえ、ここまで追い詰められるとはな……正直完敗だ。あーあ、片腕吹っ飛ばされるとはなぁ、裁縫で繋いでもらわなきゃだなぁ」

 

 そう言って何か合図を送ると空間に亀裂が走る。その亀裂をウサギが通ろうとするのを爆豪が言葉で咎めた。

 

「待てよ! 逃げるつもりか!」

「逃げる? 勘違いしてもらっちゃ困るな、見逃してやってるんだよ。本当ならこの腕の報いでお前ら2人、速攻でぶっ殺してもいいんだが、生憎殺しは許されておらんのよ。それにお前ら2人の頑張りに免じて私刑も自重したんだ。

 お前がどうしてもと言うんなら戦ってやってもいいぞ。その場合、命令を無視してオレっちはお前を殺すがな」

 

 今まで感じた事のない濃密な殺気が爆豪を襲う。殺気が放たれている間、爆豪は口を開く事は出来なかった。

 それを見て満足そうに頷きながらウサギは亀裂の中に消えていく。

 

「まあ、次会えたら全力で相手してやんよ。楽しみに待ってな」

 

 ウサギは完全に姿を消した。

 

「クソッ……」

 

 ヴィランを撃退した。勝負には勝ったはずなのに、爆豪は敗北感を感じていた。




次回、青いナマズ戦
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