三大始祖に転生したのでトレーナーになって推しをハスハスする 作:九龍城砦
バイアリーターク、というウマ娘が居た。
トゥインクルシリーズ・ドリームシリーズを含む、日本競バ界の礎を築いたウマ娘。
またの名を、世界に名だたる強豪たちを相手に戦い抜いた、偉大なる競バ界の始祖ともよべるウマ娘。
サラブレッド。
人々は偉大なるバイアリータークの事を、敬意を込めてそう呼んだ。
そして、とっくの昔に引退して歴史上の人物となったバイアリータークは。
「ついに……ついにやって来ましたよ、トレセン学園ッ!!!」
歓喜の表情を浮かべながら、大声を出して子供のようにはしゃいでいた。
明るい茶髪に、三日月のように見える白いメッシュが入った前髪。そして、歴史上の人物とは思えない程に若々しいその顔と身体。見た目は完全に20代後半にしか見えないだろう──それ程までに、彼女はエネルギーに満ち溢れる肉体をしていた。
そんな不審者が、桜舞い散る春のトレセン学園の正門前に堂々と立っている。
はっきり言って事案だった。
「苦節十余年! やっと、やっとウマ娘がトレーナーになってもいい法律が出来ました! 長かった、長かったよぉぉぉ!!」
喜んでいたかと思えば、今度は滝のような涙を流す不審者。忙しいウマ娘である。
「ぐしぐし……よぉーっし! 待ってなさい、ボクのウマ娘ちゃんたちーーーっ!!!」
別にお前のものではない、とツッコむ者はこの場には居なかった。
ウマ娘特有の身体能力で、地面を飛ぶように走り抜けるバイアリーターク。引退した現在でも、その伝説になった走りは健在のようだ。
「まずは担当ウマ娘ちゃんを探さなきゃですね! 誰が良いかなぁ、誰が良いかなぁ!?」
文字通り風のような速さで、バイアリータークはトレセン学園の内部を見て回っていく。
校舎内、プール、教室、グラウンド、トレーニングルーム、その他諸々。
「ややっ、プールで泳いでるのはテイエムオペラオーちゃん!? ドヤ顔しながらビート板使ってるのかわいいなぁ──ハッ、グラウンドで走ってるのはライスシャワーちゃん!! 健気でちっちゃくてかわいい漆黒のステイヤー! これは是非とも写真に納めなくては──ムォッ、教室でいがみ合ってるのはダイワスカーレットちゃんとウオッカちゃん! たはー、あの絡みが生で見れるとかここはマジ天国ですか──くぉっ、トレーニングルームで筋トレしてるのはメジロライアンちゃん! くぅ~っ今日も上腕二頭筋がキレてますねぇ!」
圧倒的なスピードを出して走り回っていながら、その動きには一切ムダが無く洗練されていた。
まるで、走ることは呼吸することと同義だと言いたげな、そんな完成された走りだった。
「コラーッ! 廊下を走ってはいけません、見知らぬウマ娘さん!」
そして、そんなバイアリータークに注意をするウマ娘が一人。
瞳に力強い桜を宿した、声の大きなウマ娘だった。
「うひゃーっ!? サクラバクシンオーちゃんじゃないですかーっ!?」
「おや、学級委員長であるこの私をご存知で──ちょわっ!?」
「いやー、いいトモですなぁ! 太く、しなやかで、それでいて強靭なザ・スプリンター向けのトモ! あぁ〜惚れちゃいそぉ〜……!」
初対面のウマ娘の太ももを、恍惚の表情で撫でさする変態がここに居た。
っていうか、バイアリータークだった。
「な、なななな、いきなり何をするんですか!」
「おっと失礼。ボクは今年からトレセン学園専属トレーナーとしてやって来た
「あ、ハイ……これはどうもご丁寧に……?」
懐から取り出した名刺を差し出され、サクラバクシンオーはポカンとした様子でそれを受け取った。
呆然としてしまったのは、名刺を受け渡すその動きがあまりにも堂に入っていたからだ。
「では、ボクはこれで! 待っててくださいねぇー、まだ見ぬウマ娘ちゃんたちー!!!」
ポカンとするサクラバクシンオーに背を向け、バイアリータークこと皆神透子はその場を颯爽と去る。
後に残されたのは、何が起きたのか全く理解できていなさそうなサクラバクシンオーだけであった。
⭐⭐⭐
バイアリータークは転生者である。
そして、重度のウマ娘オタクである。
それはもう、自身が過去にとったレースの賞金を、ほぼすべてURAに寄付してしまうぐらいには。
更には、各地で開催するウィニングライブには必ず足を運んでいるくらいには。
そのくらいには、ウマ娘への愛が深い。
何故ここまで拗らせてしまったのか。その理由は、バイアリータークが転生した時期に関係している。
当たり前だが、バイアリータークが現役で走っていた頃には、現代で活躍していた有名な名バたちはまだ産まれてすらいない。
故に、バイアリータークはアニメで見たスペシャルウィークやトウカイテイオー、メジロマックイーンといった名バたちと共に走ることが出来なかったのである。
もちろん、バイアリータークが現役の時代にも素晴らしいウマ娘は沢山いた。
しかし、生前に死ぬほど推していたウマ娘たちが居ないという事実は、それ以上にバイアリータークの心を打ち砕いたのだ。
具体的に言うと、泣いた。
涙が枯れるくらい泣いた。そりゃもう他人が見ればドン引くくらいに泣いた。
そうして、ひとしきり泣いたバイアリータークは決意した──将来はトレーナーになって、最前線でウマ娘ちゃん達を推そう、と。
こうして意味不明な思考に陥ったバイアリータークは、トレーナーの資格を取ろうと決意する。
その時から、バイアリータークはウマ娘に関するあらゆる情報を学ぶようになった。
そして、学べば学ぶほど愛は深くなっていき、遂には併走しながらウマ娘のデータを取り出す始末。
付いたあだ名が『マジモンの変態』である。
ちなみに、このあだ名は当時一緒に走っていたウマ娘しか知らないので、世間一般のバイアリータークのイメージはサラブレッドのままである。
しかもたちが悪いことに、バイアリータークの知識はそこらのトレーナーを軽く上回るまでになっていた。言い方はアレだが、マジで変態である。
その気になれば、バイアリータークはトレーナー無しでも走る事ができる。そして、バイアリータークはそれを実行した。
史上初、単騎でトゥインクルシリーズに挑んだウマ娘の誕生である。
これには運営側も頭を抱えた。
なんだあの変態は。
誰かがそう呟いた。
文武両道、どころの話ではない。鋭い洞察力に、優れた健脚。おまけに決して折れない精神性。
そんな有り余る武器を携えて、バイアリータークはトゥインクルシリーズを制覇した。
出るレース出るレース、すべてが3着以内という凄まじい戦績。輝かしい足跡。誰にも止められない変態。
しかしそんな栄光を得ても、バイアリータークの心は満たされなかった。
「推しに会いたいよぉぉぉぉぉっ!!!!!」
バイアリータークは定期的にそう吠えていた。
海が見える丘まで走っていって、腹の底からそう叫んでいた。
もうダメだ、あの変態。
誰かがそう言った。
⭐⭐⭐
そんな経緯があって、バイアリータークは推しを見つけては写真を激写したり、遠くから眺めて尊死する限界オタクになってしまったのだった。
どこぞの
ちなみに、バイアリータークもいろんなバ場を走れる。更にはいろんな距離もいろんな作戦で走れる。割とチートである、このサラブレッド。
「はぁ、はぁ! 赴任して初日なのに、もう心臓が限界なんですけど! 死にそうなんですけど! っていうか推しウマ娘に囲まれたまま死にたい! 我が生涯に一片の悔い無し! ヒャッホー!!」
噴水前のベンチで、興奮しながら奇声を上げるバイアリーターク。
そんな光景を見て、周囲のウマ娘達は何か恐ろしいものでも見たように後ずさりをする。
「あー良いなぁ良いなぁ、みんな伸びしろ満点すぎる! 全員育てたいなぁ、でも全員は無理だしなぁ! これが贅沢な悩みってやつですかねー!」
どうやらこの変態、自分の推しを担当にできると本気で疑っていないらしい。
もう既に取り返しがつかないくらい第一印象はヤベー奴で固定されているのだが、こっからどう巻き返すつもりなのだろうか。
「ん……」
と、そんな時。
ピタリとはしゃぐのを止めて、バイアリータークは視線だけを噴水横の茂みに向ける。
「ははーん」
キラリと光る双眼鏡が、茂みの隙間からチラッと見えていた。
アレは知っている。
双眼鏡、それは推しに迷惑をかけずに遠くから観察するための必須アイテムだ。故にもちろん、バイアリータークも常備している。折りたたみ式なのに録画機能が付いた、無駄に高性能なやつを。
「同志、発見!」
フッ、とバイアリータークはその場から消えた。
いや、正確に言えば双眼鏡で覗いている
「ひょわっ!? えっ!? 消えた!? どこ行ったの!?」
「みーつーけーたー」
「ひぃっ!?」
後ろからガシッと肩を掴まれるアグネスデジタル。完璧に隠れていた筈なのに、何故バレたのか。
「あっ、ああああのっ、ごめんなさい! 貴重すぎるご尊顔を無断で拝見してしまって! やっぱり許可とか取るべきでしたよね!」
アグネスデジタルは必死で謝罪する。伝説のサラブレッドの一人、バイアリーターク。その存在は正しく歴史上の偉人そのもの。
そんな存在の姿を生で見てしまったことに、アグネスデジタルは色々と限界寸前だった。
ちなみに、バイアリータークは写真撮影いつでもオッケーなファンサービス旺盛なウマ娘である。
推しに撮られると、たぶん興奮しすぎて気絶するが。
ツーショットなんてした日には、急患で運ばれて保健室のお世話になることだろう。
「君、アグネスデジタルちゃんですよね!? ボクの担当ウマ娘になりませんか!?」
「ハイそうです! だから逮捕とかしないでくだ──へっ?」
フリーズ。
あまりにも予想外過ぎる言葉に、アグネスデジタルは自分の耳を疑った。
「芝もダートも変幻自在のマジカルスター! 後は短距離、マイル、中距離、長距離と何処でも走れるようになれば、全員分のウマ娘ちゃんの横顔を見られるはずです! それで是非、走ってみた感想を! リアルタイムで! 余すところなくボクにお伝え下さい! それにしてもイイカラダしてますねぇぐへへ!」
「え、え、え」
あまりの迫力に、アグネスデジタルが押されている。いや、推されている。
こんなことは初めてで、未体験の事件だった。
推すことはあっても、推されることはない。そう思っていたのだ。
アグネスデジタルというウマ娘は、その言動や行動に反して──準じて──自己肯定感がけっこう低い。
だから初めての経験に、余計フリーズした。
「あっ、自己紹介がまだでしたね。ボクはバイアリータークと言います。長いのでタークさんでも、トレーナーでも、好きな様に呼んでください」
「ひゃ、ひゃい……?」
この変態、既にトレーナー気取りである。
「さて、自己紹介も済んだことですし! 早速パートナー契約を結びに行きましょう! 大丈夫です、ボクがデジタルさんを鮮烈に、華麗にデビューさせてあげますからね!」
「パッ、パートナーですと!?」
ガシッとアグネスデジタルの腕を掴んで、ズルズルと引きずっていくバイアリーターク。
それはさながら、陸にあげられたマグロのよう。いや、まな板の上の鯉だろうか。
どちらにしろ、アグネスデジタルに拒否権は無かった。
そして、拒否するつもりも毛頭なかった──いや、サラブレッドの隣に立つとか尊すぎて死んじゃうからと言って、一回拒否の意は示したが。
何はともあれ、二人の変態は生涯最高のパートナーとなり、トゥインクルシリーズに挑んでいく事になる。
「さぁ、今日も推し達の走りを感じてきなさい!」
「ハイッ、師匠!」
そうしてアグネスデジタルはターフを、ダートを、短距離を、マイルを、中距離を、長距離を、逃げで、先行で、差しで、追込みで、縦横無尽に駆け抜けていく。
それはまさしく、完成された変態の所業。
「ヒューッ! 今日も最高に輝いてますよデジタルさーんっ!」
全ては、推し達の──アグネスデジタルも含む──あらゆる顔と姿を脳内メモリーに焼き付けるため。
こうして二人の変態は、今日も元気にトィンクルシリーズを荒らしまくるのだった。
バイアリーターク
芝適性・A ダート適性・A
短距離適性・A マイル適性・A 中距離適性・A 長距離適性・A
逃げ適性・A 先行適性・A 差し適性・A 追込み適性・A
固有スキル・推しの間には挟まらない、それがオタクの基本形!
ウマ娘が二人以上並んでいる場合、その前に移動した際にスピードがかなり上がる。
続かない。