三大始祖に転生したのでトレーナーになって推しをハスハスする 作:九龍城砦
ここ最近のトゥインクルシリーズは何かおかしい。
そんな雰囲気を、とあるウマ娘は感じ取っていた。
日々のルーチンワークである炊事・洗濯・子育て、その他諸々を終わらせて、一息ついてテレビをつける。
つけたチャンネルはちょうど、トゥインクルシリーズのレースを実況している番組だった。
『一着はアグネスデジタル! アグネスデジタル! 強い、強い走りだ! まさに圧巻! 芝とダートを合わせて、これでG1タイトル7連勝! 短距離から長距離までを総ナメです! このウマ娘に敵う猛者は、果たして存在するのでしょうか!?』
つけたばかりのテレビからは、そんな実況と多くの歓声が聞こえている。
最近よく見るな、なんて思いながら。そのウマ娘は今しがた一着になった、アグネスデジタルというウマ娘のアップされた映像を見つめていた。
「────ん?」
その映像の端に、ちょっと信じられないものを見つけた。
明るい茶髪に、白い三日月のようなメッシュが入ったその風貌。
昔、同じレースで死ぬほどまみえた、その姿。
「…………まさか」
目を凝らして、テレビの画面を注視する。
見間違いじゃない。間違いない。
「マジモンの変態だ……!」
あまりの光景に、つい声が震えた。
もう二度と目にする事は無いだろうと思っていたその変態が、サイリウムを持ちながらアグネスデジタルのイラストがプリントされたうちわを持っている。
ライブでもないのにそんなことしてるおかげで、周囲からはけっこう浮いていたのだが、そんな事はそのウマ娘には関係無いのだろう。
そう、お馴染みバイアリータークである。
「あいつ、マジかっ、バカバカバカ!!」
弾かれるようにテレビから離れると、そのウマ娘はテーブルの上にあったスマートフォンを手に取った。
電話を掛ける先など、もちろん決まっている。
中央トレセン学園のとある人物に直接繋がる番号を打ち込み、コール。待つこと数秒。
『はい、駿川たづなですが〜』
昔とちっとも変わらない、柔らかい声色が電話口から聞こえてきた。
「も、もしもし、荒木……いえ、
『まぁ! お久しぶりですね〜!』
「あ、うん……敬語やめない、たづな? なんか体がムズムズするんだけど」
『あらあら、私は昔からこの話し方でしたよ?』
「アッ、ハイ」
これ以上踏み込むのはよそう、とゴドルフィンアラビアンは早速本題へと舵を切る。
今しがたテレビに映っていた、バイアリータークについての話である。
「つかぬことを聞くんだけど……そっちにバイアリーターク、行ってない?」
『はい。バイアリータークさんは皆神透子トレーナーとして、トレセン学園で活躍していらっしゃいますよ』
「やっぱりかあのヤロウ!」
ゴドルフィンアラビアンは、スマホを床に叩きつけたくなる衝動を必死で抑えた。
あの変態ロクなことしかしねぇな、と内心でブチ切れながら、ゴドルフィンアラビアンは表面上は平静を装う。
「フーッ……悪い。で、あの変態が担当してるウマ娘は?」
『アグネスデジタルさんです』
「デスヨネー!」
ゴドルフィンアラビアンは駿川たづなの返答に、思いっきり頭を抱えた。
隣の部屋で寝ている娘が起き出さないだろうかと心配になるレベルの狼狽えぶりである。
「あの変態め……ちょっと、近々そっちに行ってもいいか? 色々と用事もあるし、いい機会だからな」
『はい! 日程が決まり次第ご連絡くださいね、お待ちしておりますので〜!』
ピッ、とゴドルフィンアラビアンは通話を終了する。
大きくため息をついて、スマホをテーブルに置く。
「荷造り……するかぁ」
歴史に名を残すサラブレッドの一人・ゴドルフィンアラビアン。
旅行用のキャリーバッグにせっせと荷物を詰めるその背中は、なんとも哀愁に満ち溢れていたのだった。
⭐⭐⭐
バイアリータークはサラブレッドである。
この世でサラブレッドと呼ばれているウマ娘は、歴史上で3人しか存在していない。
ご存知マジモンの変態・バイアリーターク。
ウマ娘の始祖・ダーレーアラビアン。
そして、粗暴だが実は優しい常識人・ゴドルフィンアラビアンの3人である。
「さぁ、今日も元気にー!」
「ウマ娘ちゃん達のカップリングを楽しみましょう!」
そのうちの一人であるバイアリータークは、担当ウマ娘であるアグネスデジタルと共に一眼レフカメラを構えて準備万端の様子である。
標的になったウマ娘には、もはや同情することしかできないが。
「今日はどこに行きましょうか! 前回はウララさんとライスさんの尊みギャラクシースペシャルが見れたので、今回はデジタルさんにお任せしますね!」
「はひっ!? せ、責任重大ですねぇ! これは私のとっておきのカップリングを見せるしかないのでは!?」
この二人、無敵であった。
前日にハルウララとライスシャワーの激烈尊みパワーを喰らったのに、もう次の獲物に狙いを定めている。
きっと今回も鼻血噴いてぶっ倒れるのだろう。どのウマ娘の元に行こうと、その事実だけは変わりようが無かった。
「で、では、エアシャカールさんとファインモーションさんの所に行きましょう! この時間なら食堂にいるはずです!」
「ふむふむ、怖そうに見えるけど実際は常識人なエアシャカールさんと、おっとりポワポワで見た目通り天然なファインモーションさん……むっはー! これはいいカップリングが見れそうですねぇ!」
「ですよねですよねぇ! さぁ、早速行きましょー!」
こうして二人の変態は行軍を開始する。
カメラを構えながら意気揚々とベストポジションに移動するその姿は、まさしく狩人が獲物を狩りに行く時の動きそのものだった。
「さて、ターゲットのお二人は……あっ」
「居た、居ましたよぉー!」
トレセン学園の食堂にて、テーブルを囲む影が二つ。スルスルと上品に塩ラーメンを啜るファインモーション。そして、そのファインモーションをチラチラと心配して見つめながら醤油ラーメンを啜るエアシャカールである。
二人とも、ベストポジションを確保した変態二人には気づいていない。そこらへんの隠密活動については、完璧すぎるくらい手慣れている変態二人なのだった。
「うん、やっぱりラーメンって美味しいわね、シャカール!」
「そうか? 栄養バランスもバラバラだし、素早く食うのにも適してねぇし、割とめンどくさい食いモンだと思うけどな」
「もーっ! シャカールってばどうしてそういうこと言うの!? ラーメン美味しいじゃない!」
「イテッ、イテテッ……オイコラ叩くなファイン。飯食えねぇだろうが」
ペチペチ、とエアシャカールの肩を叩くファインモーション。
頬を膨らませてプンプンと怒りながら叩いており、その攻撃に対してエアシャカールは、しょうがねぇなこいつ、みたいな表情を返している。
「見ましたか、デジタルさん」
「はい、見ました師匠」
パシャパシャパシャ、と望遠機能付きの一眼レフカメラでその一連の光景を撮影した二人は、顔を見合わせて頷き合う。
そしてグッとサムズアップをして、お互いの感情を共有した。
「ったく……ほらよ、こっちの分けてやるから機嫌直せ」
「えっ、本当!? わーい、シャカール大好きー!」
「うっせぇ、黙って食え」
エアシャカールは自分の丼に入っていた煮卵を半分にすると、それをレンゲに乗せてファインモーションへと差し出した。俗に言う、あーんというやつだった。
ファインモーションはそんな差し出された煮卵を、パクリと一口で口に入れる。熱かったのか、はふはふと口の中で煮卵を冷ます姿はこれまた微笑ましい。
「……見ましたか、デジタルさん」
「……はい、見ました師匠」
ボタボタと大量の鼻血を噴き出しながら、二人は頷きあった。
パシャパシャ、パシャパシャ。カメラのシャッターを切る音が止まらない。
二人の変態は先程よりも力強くサムズアップをすると、再びお互いの尊みパワーを共有した。
「はふはふ──美味し〜い! どうしてラーメンってトッピングですらこんなに美味しいのかしら!」
「知らねぇよ……いいから黙って食え、気が散る」
「うーん、でも不思議ね」
「あ? 何がだよ」
コテン、と首を傾げるファインモーション。そんな彼女に向けて、エアシャカールは訝しげな視線を向けた。
「いつも食べてるラーメンより、今食べてるラーメンの方が美味しい気がするの。なんでかなぁ?」
「────ケッ、知るか」
ファインモーションの発言に、一瞬だけキョトンとなるエアシャカール。
しかしすぐさま顔をそらして、いつも通りの悪態をついた。
「…………一緒に食べてるからだろ」
「え? なにか言ったかしら、シャカール?」
「なんでもねェ」
「ふーん? 変なシャカール」
その会話を最後に、二人は食事に集中し始める。そろそろお昼休みも終わりだし、当然の行動だろう。
「────────」
「────────」
そして、一連のやり取りを余すところなく見ていた変態二人は無事死亡していた。
燃え尽きたように真っ白で、どこまでも満足そうな笑顔を浮かべている。
これが尊死というものなのだろう。
(デジタルさん、見ましたか?)
(はい、見ました師匠)
こいつら、遂に霊体になって会話し始めたよ。
(一見ぶっきらぼうに見えても、どこまでもファインモーションちゃんを気遣うエアシャカールちゃん!)
(そして、ファインモーションさんのドストレートな好意を受けて満更でもなさそうなエアシャカールさん!)
戻れ戻れ、早く体に戻れ。
(更にはカップルの最上級行為である『あーん』まで! これはもう、二人は相思相愛であると認定してしまって良いのでは!?)
(おまけにファインモーションさんの無自覚大好き宣言に気づいていながら、あえて追求しないで胸の内に留めておくエアシャカールさんの乙女力!)
だから戻れって言ってんだろうが。
((ああぁぁぁ〜〜〜尊い──しゅきぃ))
そうして、二人の変態はそのまま天へと昇っていった。
この後、隠れながらに死んでいるのを無事発見された二人は、ヒシアマゾンによって保健室へと連れ込まれて事なきを得るのだった。
⭐⭐⭐
「理事長、よろしかったのでしょうか?」
「何がだ、たづな?」
トレセン学園の理事長室。
窓の外はとっぷりと陽が落ちてしまっているが、中にいる二人はまだまだ仕事をこなしている最中だ。
中央トレセン学園の理事長とその秘書ともなれば、捌くべき仕事は沢山ある。別にいつでも破天荒な事をしているわけではないのだ。
「バイアリー……皆神トレーナーの事です」
「理解。たづなは心配性であるなぁ」
ハッハッハ、とトレセン学園の理事長である秋川やよいは快活に笑う。
そんな理事長の態度を受けて、駿川たづなは少しだけ眉を下げた。
「皆神トレーナーは、今もまだバイアリータークとして走れるだけの素質と実力を持っています。だというのに、こうしてトレーナーとして雇ってしまって……本当に良かったのでしょうか?」
「早計ッ! それこそ余計な心配だぞ、たづな!」
ビシッ、と理事長は駿川たづなへ向かって扇子を突きつける。
その真剣な瞳を真正面から見てしまった駿川たづなは、少しだけ背筋を伸ばした。
「いいか、たづな。走ることだけがウマ娘の幸福ではない。幸福とは与えられるものではなく、自らで考え、理解し、その上で掴み取るものなのだ」
「理事長……」
「その点で言えば、バイアリータークは今とても幸福だと言えるだろう。昔のあの人は、どこか余裕が無かったからな」
秋川やよいは、バイアリータークと昔から面識がある訳ではない。そもそも、バイアリータークが現役で走っていた頃、秋川やよいはまだ産まれてすらいないのだ。
「それが今はどうだ」
昔の映像で見ただけだが、映像の中のバイアリータークはとても険しい顔をしている時が多かった。
レースをしているのだから当たり前だろうと思われるが、秋川やよいの目は誤魔化せない。
その表情がレースの緊張から来るものではなく、もっと根本的な所から来るものであると、秋川やよいは見抜いていたのだ。
素晴らしい慧眼である。
「あの人は素晴らしい担当ウマ娘と巡り会い、そして日々を謳歌している。故に、我々が口を挟む必要は何も無いのだ」
「…………」
理事長の言い分に、駿川たづなはぐうの音も出さずに押し黙るしかなかった。
これ以上ない正論だと、理解できてしまったから。
「まぁ、それはそれとして」
遠い目をしながら、秋川やよいは窓の外の景色を眺めた。
「困惑ッ! バイアリータークが、憧れのあの人が、あのような変態であったとは!!」
「理事長……」
ほろり、と駿川たづなは涙を流した。
これから先、学園の風紀と理事長の胃は、果たして無事でいられるのだろうか。
変態達の行進は、まだまだ留まる所を知らない。
続くかも?