三大始祖に転生したのでトレーナーになって推しをハスハスする 作:九龍城砦
多くのウマ娘が言った。
もしお嫁さんにするなら、ニシノフラワーがいいな、と。
「そんな発言の真実を探るべく、ボクたちウマ娘探検隊はトレセン学園の奥地へと向かった──という訳なんですよ!」
「いや、何がというわけなのか全く理解できないんだけど」
鼻息荒く、ゴドルフィンアラビアンに詰め寄るバイアリーターク。
「では、それについては私が説明いたしましょう! ニシノフラワーさんはその優しくて真面目な性格と守ってあげたくなるような儚げな雰囲気の相乗効果によって幾多のウマ娘のハートをキャッチしてきました! かく言う私も、ニシノフラワーさんの癒し力には毎日お世話になっていると言いますか!」
「うん、分かった。分かったから落ち着こうな」
続けてアグネスデジタルもゴドルフィンアラビアンに詰め寄る。
さっき出会ったばかりだというのに、もうこの三人は旧知の仲みたいな雰囲気を醸し出していた。
初対面のウマ娘にアグネスデジタルがここまで気を許すなど、初めての事だ。ゴドルフィンアラビアンが纏う、母のような雰囲気がそうさせるのだろうか。
日も暮れ始めた夕焼けが照らす公園の中で、三人はワイワイと談義を弾ませていた。いや、正しくは二人が一方的に喋りまくっているだけだったが。
「デジタルさんはどのカップリングが一番尊みを感じますか!? ボクはやっぱり、セイウンスカイちゃんとのカップリングですかね!」
そう言って、バイアリータークは脳内のウマ娘データベースに回線をつなぐ。
⭐⭐⭐
そこでは、広大な草原でお昼寝するセイウンスカイの姿が映し出されていた。
『すぅ、すぅ』
『あ、居ました。スカイさーん、そろそろ帰りますよー』
そんなセイウンスカイに優しげな声をかけるのは、聖母ニシノフラワーである。
その声にセイウンスカイの耳はピクリと反応したが、起き上がらずにそのまま寝息を立てている。
『んー……むにゃむにゃ』
『スカイさーん、スカイさーん……もう。これ以上遅れるとお夕飯が遅くなっちゃいますよー』
セイウンスカイの近くまで寄り、耳元に顔を近づけるニシノフラワー。
『ぐーぐー……えいっ』
『きゃっ!?』
そんなニシノフラワーの隙を突いて体を抱き寄せ、自分と同じ場所に引き倒すセイウンスカイ。
ぽふっ、と柔らかい芝生が、二人の体を優しく抱きとめてくれた。
『んー、フラワーは暖かいなぁー』
『も、もうっ! 最初から起きてたんですね、スカイさん!』
『えへへ、ごめんごめん。フラワーがあんまりにも可愛かったからさー』
『スカイさんっ!』
にへら、と笑ってセイウンスカイはニシノフラワーを抱きしめる。
徐々に夕焼けに染まりはじめる草原。少しだけ肌寒い風が吹いてきたが、抱きしめあっている二人には全く関係のないことだ。
『もうちょっと……もうちょっとだけ、こうしてて良いかな……フラワー』
『あ……はい。スカイさんが満足するまで、私はずっとここに居ますよ』
二人の体温がお互いを温め、溶かしていく。溶けたのは理性か、不安か、それとも悪い夢か。
セイウンスカイは抱きしめていたニシノフラワーを解放すると、何でもない風を装って立ち上がった。
『ん、ありがとフラワー』
『もう良いんですか?』
『うん、満足したよ』
ニコッと笑って、セイウンスカイは右手を差し出す。そんな右手を、ニシノフラワーは遠慮がちながらもしっかりと掴んで立ち上がった。
『帰ろっか』
『はい、帰りましょう』
立ち上がる時に握っていた手は、ずっと繋いだまま。
夕日に照らされ、二人は共に幸せそうな表情をして帰路に着くのだった。
⭐⭐⭐
「────ぐふぉぅっ!」
「しっ、師匠ーーーっ!?」
「何やってんだお前……」
あまりの尊みパワーによって、いきなり吐血したバイアリーターク。
それを見てアグネスデジタルは狼狽え、ゴドルフィンアラビアンは呆れた顔を向ける。
「危なかった……あのまま家に帰ってお夕飯を食べる所まで見ていたら、ボクは確実に死んでいた……!!」
「いや、お前には何が見えてんの?」
現役時代からこの変態の本性を知っていて、ある程度は耐性ができていたと思っていたが、それでもゴドルフィンアラビアンは2歩ぐらい後ずさった。
「次は私の番ですね! 私はやっぱり同じスプリンター同士ということで、サクラバクシンオーさんとのカップリングを推します!」
師匠に倣い、アグネスデジタルも脳内のウマ娘データベースに回線を繋ぐ。
⭐⭐⭐
そこでは、今日も元気にバクシンするクラス委員長が映し出されていた。
『バクシンバクシーン! 今日も今日とて絶好調ですね、私!』
『あああぁぁ……バクシンオーさん、ルーは最後に入れるんです……』
トレセン学園の家庭科室にて、とあるクラスが調理実習を行っていた。
どうやらカレーを作っているようだが、進捗は芳しくないらしい。
『まずはお野菜を入れて煮込んでから、最後の仕上げにルーを入れるんですよ。そうしないと、お野菜が硬いままになっちゃいますからね』
『ムムッ、そうでしたか! ですがご安心を! 超強火でゴーッと火を通せば、野菜もすぐに柔らかくなりますとも!』
『あわわ……バクシンオーさん、それだと焦げちゃいますぅ……!』
ルーが入ったカレーを強火で煮込めば、間違いなく焦げる。
ニシノフラワーは忠告したのだが、サクラバクシンオーは構わずコンロのツマミを思いっきりひねる。
結果として。
『ちょわっ!? なんだか焦げ臭いですよ!?』
『ば、バクシンオーさん、早く火を止めてくださいぃ……!』
カレーは無事に焦げた。
ニシノフラワーは泣きそうな顔になっている。
『くっ、家庭科実習……なんと強大な敵でしょうか! しかし負けませんよ! 委員長たるこの私にかかれば、すぐに打ち倒してみせますとも!』
『ま、前向きで偉いですね、バクシンオーさん……』
『えっへん!』
こんな状況でも希望を失わないニシノフラワーの方が偉いと思うのだが、肝心のサクラバクシンオーは気づいていないようだ。
先程の失敗を挽回するために、サクラバクシンオーは調理台に置いておいた予備の野菜に手をかける。
『失敗したならやり直せば良いだけの事! さぁ、もう一度バクシンです!』
『ば、バクシンオーさん、その……一緒にやりませんか?』
『ちょわっ、一緒にですか?』
まな板に向かって戦闘態勢を取るサクラバクシンオーの後ろに回って、ニシノフラワーはその体をギュッと抱きしめる。
いや、正確に言えば抱きしめる事よりサクラバクシンオーの手を後ろから握るのが目的であったようだ。
『こ、こうして、私がリードしますので!』
『ちょわっ!?』
ニシノフラワーにリードされ、トントンと一定のリズムで野菜を刻むサクラバクシンオー。
その光景はまさしく、仲睦まじい親子が初めての料理に挑戦するような光景であった。
まぁ、体格差は残念ながら真逆であるのだが。
『(……な、なんだか急に心臓がドキドキしてきました。これは一体……?)』
『そうです! 上手ですね、バクシンオーさん!』
その感情は、サクラバクシンオーにはまだ早すぎるものなのだろう。
自分の手に重ねられるニシノフラワーの小さな手が、サクラバクシンオーの鼓動を順調に加速させていた。
『ふ、フラワーさん……』
『なんですか? バクシンオーさん?』
チラリと流し目で、後ろに抱きついたニシノフラワーを見やる。
その視線に気づいてコテンと首を傾げるニシノフラワーの姿を見て、言いしれぬ気恥ずかしさを覚えたサクラバクシンオーは、無意識に目を逸らした。
『な、何でもありませんとも! さぁ、バクシンバクシーン!!』
『はい! 頑張りましょうね、バクシンオーさん!』
今はこれでいい。今はまだ、その淡い気持ちに気が付かないままで。
気づかなくても、こうしてあなたに触れているだけで幸福なのだと──そう思えるから。
⭐⭐⭐
「────スゥッ」
「あぁっ! あまりの尊みパワーに負けて、デジタルさんの呼吸と脈が途切れました!」
「何やってんの?」
マジで何やってんだろうね。
「くっ、このままではデジタルさんの命が危ない……ですが大丈夫! こういう時の為に、デジタルさんを起こすのに丁度いいアイテムを持ってきていますから!」
「ほう?」
「じゃーん! ウマ娘ちゃんブロマイドー!(全50種)」
バイアリータークが懐から取り出したのは、綺麗に包装されたブロマイドだった。
中身は見えないように、絶妙な角度で隠されている。
「さぁデジタルさん! 新鮮なウマ娘ちゃんブロマイドですよ!」
「……くんくん」
「ヨシッ! 反応を示してくれました!」
「なぜ匂いを嗅ぐ」
バイアリータークはガッツポーズをした。
ちなみに、このブロマイドはバイアリータークのお手製品である。無駄に包装のセンスが良いのが、またアレだが。
「これは──ミホノブルボンさんのブロマイドですね!」
「正解です!」
「えぇ……?」
何故、匂いを嗅いだだけでブロマイドに写っているのが誰なのか分かったのだろうか。
言いしれぬ恐怖を感じて、ゴドルフィンアラビアンは3歩ぐらい後ずさった。
「正解したデジタルさんにはこのブロマイドを差し上げましょう! 次回もお楽しみに!」
「うひょぉぉぉ!? 良いんですか!? ミホノブルボンさんと言えば、ロボットのような正確無比な走りが特徴的なウマ娘ちゃん! その正確さはストップウォッチ要らずともっぱらの噂です! し、しかも、これはっ!! むひょぉぉぉ! ライスシャワーさんと喋っている時のかすかに表情が緩んでいる激レアな場面のブロマイドじゃないですかー! ホントに貰っていいのですかー!? ありがたやー、ありがたやー!」
飛び起きてブロマイドを手にするとアグネスデジタルは音楽室においてあるメトロノームのように大きく体を前後に揺らし始めた。
いや、その勢いたるや、メトロノームよりもシシオドシと表現した方がしっくり来るだろうか。
どちらにしても、ヤバい動きをしている事に変わりなかった。
ゴドルフィンアラビアンはまた3歩後ずさった。
「ふっふっふ……今のように、このブロマイドを使えば一瞬でデジタルさんを蘇生させられるのです!」
「あ、うん……色々ヤバいね、あんたら……」
そんな事、今更言うまでもないだろう。
「さぁ、デジタルさん! あの夕陽に向かって走りますよ! 全ては推しウマ娘ちゃんを全力で推すために!」
「ハイッ、師匠!!」
「なんでさ!?」
理由なんて無い。強いて言うなら、ウマ娘が好きすぎるからだろう。
今日も変態二人は絶好調の有頂天であった。
「もー……誰かツッコミ代わってー……」
無理です。
⭐⭐⭐
桐生院葵はトレーナーである。
つい先日、ハッピーミークという担当ウマ娘とパートナー契約を結び、無事にメイクデビューを終えた新人トレーナーである。
「…………」
そんな桐生院葵は、今しがた見ている映像に開いた口が塞がらなかった。
「……なんて、走り」
映像の中で走る、一人のウマ娘。
明るい茶髪に、三日月のように見える白いメッシュが入った前髪。
見る人が見れば、トレセン学園所属の生徒・トウカイテイオーとよく似ているウマ娘だと思うだろう。
しかして、その走りは全くの別物だった。
圧倒的。
そんな言葉がここまでしっくりくる走りは、そうそうお目にかかれないだろう。
先行で走れば、その圧倒的な速さで集団すべてを掛からせ。
差しで走れば、仕掛けるタイミングはコンマ一秒のズレもなく完璧に。
逃げで走れば、全てのウマ娘を置き去りにする程の破滅的逃げを見せ。
追込みで走れば、後ろから迫る強烈な圧迫感に窒息してしまいそうになる。
「凄い」
素直な感想が、するりと桐生院葵の口から漏れた。
全距離を様々な作戦で走れるウマ娘。
その完成形が、今ここに映っていた。
「トレーナー」
「ひゃいっ!? あ……ミ、ミーク、来ていたんですね」
電気を消したトレーナー室の入り口に、一人のウマ娘が立っていた。
白い髪に大人しそうな表情。桐生院葵のパートナーウマ娘である、ハッピーミークだ。
「……目、悪くしますよ」
「あ、ごめんなさい。つい夢中になってしまって」
パチン、とトレーナー室の電気を点ける。
バツが悪そうに、桐生院葵は頬をかいた。
「それ……」
「あ、コレですか? 秋川理事長に無理を言って貸してもらったんです。皆神トレ……コホン、バイアリータークさんの現役時代の映像らしいんですが、これは凄まじいですね」
テレビの中の映像では、バイアリータークが圧倒的な差し脚を見せつけ、見事一着に輝いた瞬間が映し出されていた。
その場面を見て、ハッピーミークはピクリと耳を動かした。何かを感じ取ったらしい。
「バイアリータークさん……」
「知っているんですか、ミーク?」
「うん……有名な人だから」
色んな意味で、とは付け加えなかった。
ハッピーミークはトレーナー思いの優しいウマ娘なのである。
「こんなに凄い走りを見せたウマ娘なのに、今ではトレーナーとして後進育成まで行っている……本当、凄すぎて頭が上がりません」
「トレーナー……」
真っ直ぐな瞳で、桐生院葵は画面の中のバイアリータークを見据える。
その表情は真剣そのもので、触れれば火傷してしまいそうな熱さを内に秘めているのが分かる。
『始めまして、桐生院さん。ボクは皆神透子と言います。分からないことや困った事があれば、遠慮なくボクに相談してくださいね』
そう言ってニコリと微笑んだバイアリータークの表情を、桐生院葵は今でも鮮明に覚えている。
これがサラブレッドの存在感なのかと、戦慄すらしかけた程だ。
グッ、と握った手に力を込める。
負けたくない、負けるものか。
自分が担当する
桐生院葵はテレビを消すと、勢いよくハッピーミークの方へと振り向いた。
「ミーク、私達も負けていられませんよ! まずは芝とダート、両方のG1で優勝しましょうね!」
「おー」
気合十分、やる気十分。
新しくトゥインクルシリーズを歩み始めた二人の新人は、憧れの背中(変態)を追い求めて邁進するのだった。
ゴドルフィンアラビアン。
スピード・SSスタミナ・Sパワー・S根性・S 賢さ・SS
ぼくのかんがえたさいきょうのうまむすめパートツーである。強い。
そしてフラウンスはいずれ癌にも効くようになる。