三大始祖に転生したのでトレーナーになって推しをハスハスする 作:九龍城砦
「ぴすぴーす! 全国1億8000万のゴルシちゃんファンのみんな、待たせたな! そう、今回の主役は──このアタシだぜ!」
トレセン学園の屋上。その上空にある何もない虚空に向かって、銀色の髪をしたウマ娘はビシッと決めポーズを取った。
そう、我らがゴルシちゃんである。
そのバッチリキマったポージングは、ともすれば優雅な白鳥を思わせるようで。
でもやっぱり、どこかヘンテコ感が拭えなくて。
いやもう、何と表現していいか分からない奇妙すぎるポージングだった。ヨガかな?
「……どこに向かって話してますの、あなた?」
そんなゴールドシップにツッコミを入れるのは、メジロ家のご令嬢、メジロマックイーンである。今日もサラリと風になびく薄紫のロングヘアーが美しい。
「そりゃーもちろん、アタシの配信を待ってる視聴者にだよ。こう見えて人気VTuberだからな、アタシ」
「そうだったんですの?」
メジロマックイーンは感心とも困惑ともつかない、微妙な声で返答した。
このお嬢様、そもそもVTuberが何かすら分かっていない疑惑がある。
「そうなんだよ! チャンネル登録者数78万人の人気VTuberなんだよなー、アタシってば! カーッ、人気者は辛いねぇー!」
「ななっ!? え、それは……本当ですの? 気が触れたあなたの妄想などではなく?」
「もちもち。真実だってばよ!」
メジロマックイーン、こう見えて意外と辛口であった。
しかし、そんな口撃にもゴールドシップは怯まない。というか、気にしてすらいない。
「と言うわけで、今日はVTuber企画! スイカの種をどこまで飛ばせるか競争をやっていきたいと思いまーす!」
「えっ、ちょっ……どこから取り出しましたの、そのスイカ!?」
いつの間にかゴールドシップの手には、大きな大きな小玉スイカが握られていた。
「ちょっとそこに生えてたやつをかっぱらってきた!」
てへぺろ。ゴールドシップがウィンクする。
「ここ屋上なのですが!?」
ピシャーン。メジロマックイーンが戦慄する。
周囲を見渡しても、屋上菜園などは見当たらない。至って普通の、いつも見るトレセン学園の屋上である。
マジでどっから持ってきたのだろうか。
「細かいことは気にすんなよ、マックイーン! それよりホラ、サッサと切ってくれよ!」
「わたくしが切りますの!?」
「あったりまえだろー? 他に誰がいんだよ」
何当然のこと聞いてんだ、みたいな表情で、ゴールドシップはメジロマックイーンにスイカを手渡した。
「えっ、えええぇぇぇ……?」
唐突すぎる無茶振りに、流石のメジロマックイーンも困惑を隠せていない。
そもそも、切るにしても包丁も何も無いのだから、切りようがないだろう。
「ったく、しょうがねーなーマックイーンは」
ヤレヤレと首を振りながら、ゴールドシップはスイカを地面に寝かせ、表面に人差し指を当てた。
瞬間、ゴールドシップの表情が真剣に引き締まる。
「えい、えい、むん⭐」
ピシリ、とスイカの表面に亀裂が走り、綺麗に8等分されたのだった。
「よっしゃー! 今回は割と綺麗に割れたなー! 早く食おうぜ、マックイーン!」
「???」
微笑みを浮かべ、何が起きたのか全く理解できない様子のメジロマックイーン。
大丈夫、たぶん全員わかってない。作者もわかってない。
「うめー! やっぱり年末にはスイカだよなぁー!」
そう、実を言うと今は年末の暮。もうそろそろ有馬記念が始まろうという時期だ。
メジロマックイーンはまずどこからスイカを持ってきたかではなく、どうやってこの時期にスイカを調達してきたのかを疑問に思うべきだったと思うのだが。
「んぉ? なーに遠慮してんだよマックイーン。アタシとお前の仲だろ? ひと思いにイっちまえよ」
「昨日会ったばかりの筈ですが……?」
疑問は更に深まる。
なんだってこう、異様に距離が近いのかとメジロマックイーンは不思議に思う。
「おいおい、忘れたとは言わせねぇぞ? あの無人島で過ごした7日間を……」
「無人島……?」
「あんときゃマジでヤバかったからな。マックイーンが大量のサメを一撃で蹴り飛ばしてくれなかったら、今頃アタシらは骨になってたぜ」
「サメ……?」
「だが、お陰でこうして明太子が手に入った! 今日はたらこスパゲッティで祝杯だぜ!」
「明太子……?」
存在しない記憶が、どんどんメジロマックイーンの脳内に流れ込んでくる。
無人島に漂流したゴールドシップ。そして、同じように漂流してきたメジロマックイーン。
二人は島を囲むほど大量のサメを退け、伝説のお宝が眠る海底神殿へと赴き、無事にその神殿に祀られていた明太子をその手に掴んだのだ。
なお、存在しない記憶を流し込まれたメジロマックイーンの脳細胞はちょっとオーバーヒートしかかっている。
「次はどこに冒険に行こっかなー。アタシの故郷のゴルゴル星にでも来るか? マックイーンなら永住パスポート取れると思うぜ?」
「…………ハッ!? お、お断りしますわ! 何を言っているのかサッパリ分かりませんけれど、わたくしはどこにも行きません!」
正気を取り戻したメジロマックイーン。しかし、それも一時の幻。どうせすぐに元通りだ。
「えー、いいじゃねーかよー。ゴルゴル星、良いところだぜ? なにしろマグロが釣れるからな……超巨大な。アレには流石のアタシもビビったぜ」
「それはアピールポイントですの……?」
「クジラの背中でのんびり釣りしてるとよ……元気なサメがガジガジ齧ってくるんだ……アタシの頭をよ」
「どんな所なんですの!?」
ゴルゴル星、それは誰も到達したことの無い未開の星。
一面海とも、一面砂漠とも言われている。人間では決してたどり着けない理想郷。
ウマ娘でも、ごく僅かの限られた者しか足を踏み入れる事を許されていない正真正銘のエデン。
ゴールドシップは、そんな故郷の事を懐かしげな目で語り始めた。
ちなみに、ラップ越しに空を眺めるとゴルゴル星が見えるようになるらしい。
「ヘヘっ、懐かしいぜ……よくこうして釣り糸を垂らしてたもんだ」
「どこから取り出しましたの、その釣り竿……?」
いつの間にか屋上の縁に腰掛け、唐突に釣りを始めるゴールドシップ。
眼下にはトレセン学園の中庭が広がっている。当然、魚など釣れるはずもない。
餌はみんな大好き特選にんじんである。
「飽きた」
「ちょっと!?」
ポイッ、と手に持っていた釣り竿をマックイーンに渡し、どこかから取り出したルービックキューブを弄り始めるゴールドシップ。
唐突すぎるその行動に、メジロマックイーンは釣り竿を握りしめてポカンとするしかなかった。
「あー、480×480のルービックキューブ欲しいなー」
「どうすればいいんですの、これ……」
どうしようもないとおもうな。
「まったく……破天荒にも程が──きゃっ!?」
と、その瞬間、メジロマックイーンの持っていた釣り竿がグンッと勢いよくしなる。
何かが掛かったのだ。
「な、なんですの!? 急に引っ張られ……おもっ、くっそ重いですわ!?」
「おっ! でかしたぜマックイーン! そいつぁきっと、この海域のヌシに違いねぇ!」
「だから! ここは! 屋上! なのですが!?」
海ですらないのにヌシが掛かるとは、これいかに。
「よし、二人で力を合わせて釣り上げるぞ! アタシがツーって言ったら、マックイーンはカーって言うんだ!」
「はい!?」
「オラいくぞ! ツー!」
「か、カー?」
「よし! これでアタシらは親友だな!」
「どういう事ですの!?」
メジロマックイーン、トレセン学園の屋上で釣りをしている最中、ゴールドシップと親友になる。
よし、明日の見出しはこれで決まりですな。
「親友と一緒なら、魚ごときに負ける気がしねぇぜ! いくぞ必殺! 『マジダチ友情トレーニング!』」
地面を踏みしめ、勢いよくしなる竿を引き上げるゴールドシップ。
うねりを上げ、軋む釣り竿。
それらを圧倒するように、ゴールドシップはその両手を遥かな上空へと振り上げた!
「オリンピック一本背負いぃぃぃっ!」
「それを言うなら一本釣りでは!?」
バシャーン、と聞こえるはずの無い波音が、メジロマックイーンの鼓膜を打つ。
果たして、ヒットした獲物の正体とは。
「はむはむ……あら? ここはどこでしょう〜?」
「──────」
釣り糸の先端には、空中で正座をしながら餌である特選にんじんを頬張るウマ娘が掛かっていた。
艷やかな鹿毛の長い髪に、穏やかそうな目鼻立ち。どこにでもいるような、なんて印象を受ける地味目のウマ娘だった。
しかし、その姿を見たメジロマックイーンは絶句していた。目を見開いて、穴が空くほどにそのウマ娘を見つめている。
「オイオイオイオイ見ろよマックイーン! マグロじゃなくてウマ娘が掛かったぜ!」
「え、な、何故……? 何故あの人がこんな所に……? あり得ませんわ……!?」
はしゃぐゴールドシップと、自分の目を疑うメジロマックイーン。
対象的な両者の様子を見ても、鹿毛のウマ娘はのんびりと特選にんじんを齧ることをやめなかった。
取り敢えず、釣り竿を移動させて鹿毛のウマ娘を屋上に降ろす。このまま宙ぶらりんだと色々と危ない。身体的な意味でも、服装的な意味でも。
「はむはむ……ごちそうさまでした〜」
ぺちん、と両手を合わせて、鹿毛のウマ娘はペコリと頭を下げた。
その身に纏う雰囲気はまさしく、天然と呼ぶに相応しいユルさだろう。
「それで〜、ここはどこなのでしょう〜?」
「え……えぇっと……!」
キョロキョロと周囲を見回す鹿毛のウマ娘。
トレセン学園の屋上です、と伝えることは簡単だ。問題は、その伝える段階に行くまでにメジロマックイーンの心臓が保つかと言ったところ。
目の前の生きる伝説を視界に収めた瞬間から、メジロマックイーンの心臓はバクバクと早鐘を打っている。
気を抜けば心臓が口から飛び出してしまいそうな気さえする。
それ程までに、メジロマックイーンは緊張していた。
「ここはゴルシちゃんのスーパー家庭菜園研究所だぜ! 元気なにんじんを作って、スーパーキャロットにするのが最終目標な!」
「まぁ〜、それは素敵な目標ですね〜」
「おめーも一緒ににんじん育てようぜ! 世界一のにんじん農家に、アタシはなる!」
「いいですね〜、凄く楽しそうです〜」
そんなメジロマックイーンの気持ちも露知らず、我らがゴルシちゃんはいきなり特大の虚言をブチ込んだ。
生きる伝説に対して、なんて不躾な態度。本来ならば、こうして喋っている事すらも恐れ多いというのに。
「あ・な・た・は!!!」
「うぉっ、何だこいつガチギレじゃん、こわぁ……」
「こわ〜、ですね〜」
「怒るとお肌に良くないぜ? なー?」
「ね〜」
「ああ、もうっ、もうっ……!」
ゴールドシップと一緒に、仲睦まじく頷きあう鹿毛のウマ娘。そんな二人の姿を見て、メジロマックイーンはもはや泣きそうな顔になっていた。
ゴールドシップのフレンドリーさが羨ましいやら、妬ましいやら、その他色々と湧き出す感情のせいで、情緒がぐちゃぐちゃになっているメジロマックイーンなのだった。
「……落ち着きなさい、落ち着くのですメジロマックイーン。まずは精神統一をして、事態の収束につとめ──」
「はむはむ……美味しいですね〜」
「へへっ、いい笑顔じゃねぇか……も一つ食うか? カブトムシ」
「いただきます〜」
ブチッ。
メジロマックイーンの中の何かが切れた。
「ゴールドシップさん?」
「あん? どうしたマック──ヒェッ」
笑顔だった。
それはもう、女神さえも見惚れるぐらいの極上の笑顔を、メジロマックイーンは浮かべていた。
しかしその表情に反比例して、体からはドス黒いオーラが立ち昇っている。ヒュンケルも真っ青の暗黒オーラだ。
「正座」
冷徹に、冷血に、無慈悲に。メジロマックイーンは絶対の命令を下す。
「ちょっ、ちょっと待てよマック──」
「せ・い・ざ」
「ハイ」
有無を言わさぬ、とはこの事か。
メジロマックイーンの圧力に屈したゴールドシップは、その場で正座を敢行する。
逆らったら死ぬ。本能がそう告げていた。
「貴方は知らないのでしょうけれど、この御方はサラブレッドと呼ばれる伝説のウマ娘なんです。そんな御方に気軽に話しかけたり、あまつさえカブトムシを食べさせるなど、言語道断ですわ!」
というか、なんでこの子はカブトムシを食べたのだろうか。
「サラブレッドって確か……あー、確かあの三大始祖とかいうやつか……マジで?」
「マジらしいです〜」
ふわり、と鹿毛のウマ娘は微笑んだ。
純真無垢、という言葉を体現したかのような、そんな微笑みだった。
「申し遅れました〜。わたくし、サラブレッドの一人で〜」
ゆったりと、穏やかな風のように彼女は言葉を紡ぐ。
「URAの名誉理事長をしている、ダーレーアラビアンと申します〜」
その緩さには似合わないような、壮絶な肩書とその名前を。
「以後、どうぞお見知りおきを〜」
目の前の二人に向けて、ふんわりと言い放った。
ダーレーアラビアン。
芝適性・Sダート適性・F
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逃げ適性・S 先行適性・G 差し適性・G 追込み適性・G
固有スキル・ラピッド・オブ・ダーレー
最終コーナーに入る瞬間に先頭を維持していると、速度が爆発的に上がる。
ゴルシちゃん書くの、思ったより数十倍くらい楽しすぎてヤバい。クセになりそう。