Together   作:地球の星

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ステージ2:時は流れて

 あれから1年2ヵ月の歳月が流れました。

 ボクはあの時よりも身長が伸び、服のサイズも少し大きなものを着るようになりました。

 でも、来ている服の色や柄は相変わらずそのままです。

 それはギーちゃんも同じで、来ている服は袖なしの上着と長ズボンで、首には黄色のスカーフを巻いています。

 今日、ボクは自分の剣の腕前を試す意味も兼ねて、子供達が参加する剣術の大会に参加しています。

 別の世界では、ちょうど剣道に該当すると思います。

 ただし、面、胴、小手をつけるわけではなく、頭にヘルメットをかぶるだけという、質素な防具です。

 そして手には竹刀を持ち、剣道の面のような感じで、相手のヘルメットに当てれば1ポイント取ることができます。

 勝負は3回で、先に2ポイントを取った方が勝ちです。

 参加者はボクを含めて8人で、トーナメント方式で勝ち上がっていきます。

 この中で、ボクは最年少。しかも初めての参加です。

 背は1年前よりも伸びたとはいえ、全体の中では低い方で、周りの人達からは上から目線で見られているような感じでした。

(見ていろよ。絶対に勝ってやる。)

 試合が始まる前、ボクはそう思いながらメラメラと気持ちを奮い立たせていました。

 なお、観客席にはお父さんがいて、最前列にいました。

(お母さんは用事のため、今日もお留守番です(苦笑)。)

 隣にはかつてお父さんと冒険をしたビルダーさんが座っており、久しぶりの再会を喜んでいるのか、結構楽しそうにお父さんと会話をしていました。

 ビルダーさんは体が大きいため、座席を2つ使って座っており、かなり目立つ存在でした。

 

(ここまではリュウちゃんのモノローグ形式のため、語尾がですます調でした。)

 

 1回戦(つまり、いきなり準々決勝)の相手は去年から参加している、ボクよりも1歳年上の男の人で、名前はディッパー。背はボクよりも10cmほど高かった。

 ディッパーさんは(この子は今回の参加者の中で最年少だからな。勝って当然。)とでも思っているのだろう。不敵な笑みを浮かべていた。

(お父さん、お母さん、ギーちゃん、ギリアムおじさん。ボク、絶対勝つからね。)

 ボクはそう思いながら、心の準備をした。

「それでは両者、始め!」

 審判の人が声をかけると、ディッパーさんは「えーーい!」と言いながら一目散に向かって来て、早速頭めがけて竹刀を振りかざしてきた。

(遅い。ギーちゃんの矢の方がずっと速い。)

 ボクは素早く攻撃をかわすと、素早く相手の頭に一撃を叩き込んだ。

「リュウに1ポイント!」

 審判の人はそう言いながら右手を高々と上げた。

 まずは1対0でボクのリード。次でもう1ポイントを取ればボクの勝利だ。

 

 2本目。ディッパーさんは、今度はじっくりと様子をうかがう作戦に打って出たのか、すぐにこちらに向かってくるような感じではなかった。

(それならこっちから行ってやる。)

 ボクはそう思うと、素早く相手の懐に向かっていき、間髪入れずに一撃を叩き込んだ。

「リュウに1ポイント!この勝負そこまで!2対0でリュウの勝ち!」

 審判の人は大きな声でボクの勝利を宣言した。

「ありがとうございました!」

「ありがとうございました!」

 ボクたちは向かい合って深々とお辞儀をした。こうしてボクは1回戦を難なく突破した。

 一方のディッパーさんは何もできずに負けてしまったことをすごく悔しがっていた。

 

 2回戦(準決勝)。今度の相手はボクより2歳年上の女の人だった。

名前はセレニカ。彼女は参加者の中で唯一の女性で、さらには唯一の左利きの人だった。

(女の子だからって、手加減は無用よ!さあ、かかってらっしゃい!)

 彼女はボクに負けないくらい、闘志をメラメラと燃やしていた。

「それでは両者、始め!」

 審判の人の声で試合が始まると、ボクは彼女のところに素早く向かっていき、攻撃をしようとした。

 すると、セレニカさんはそれを素早く受け止め、すぐにボクから見て時計回りに移動をした。

(えっ?そっち?)

 意表を突かれたボクは、体を右にひねり、竹刀を振り上げた。

 しかしセレニカさんはそれよりも一瞬早く攻撃態勢に入っており、左手一本で攻撃を繰り出してきた。

「バシーン!」

 会場には大きな音がこだました。

「セレニカに1ポイント!」

 これで0対1となり、相手にリードを許してしまった。あともう1ポイント取られたらボクの負けだ。

 最初の位置に戻り、2回目の勝負が始まるまでの間、ボクはさっきの勝負について振り返っていた。

(ボクは右利き。両手で竹刀を持った状態で自分の右側にいる相手を攻撃するには、体を右にひねらなければならないから、一瞬攻撃が遅れてしまう。逆に左利きのセレニカさんはそのまま攻撃ができる分、有利な状況になってしまう。今度はこっちに有利な状況を作り出さなくては。)

 2本目が始まるまでの間、ボクは頭の中で色々作戦を考えていた。

 

「それでは両者、始め!」

 勝負が始まると、ボクは様子を探るように相手に近づいていき、フェイントを交えながら攻撃の機会を探った。

(これまで左利きの人との対戦が少ないだけに、厄介だな。今度やられたら終わりだし、何とか隙を見つけなければ。)

 そう考えていると、ボクと同じく様子を伺っていたセレニカさんは隙ありと言わんばかりに向かってきた。

(うわっ!)

 ボクはヘルメットすれすれのところで攻撃を受け止めることができ、素早く相手の竹刀を払いのけた。

(危なかった。あと少しで負けていた。それにしてもこの人強いな。でも相手がボクの左側にいれば、右利きのボクの方が有利になるはず。早速やってみよう。)

 後ずさりしながらボクはそう思い、すぐにそれを実行してみた。

 すると、セレニカさんは何と右手一本で攻撃を仕掛けてきた。

(ちょ、ちょっと待ってよ!)

 また意表を突かれたボクは、何とかすれすれのところで攻撃を受け止め、また後ずさりをしてしまった。

(彼女は右手も器用なのか?だとしたら、もう利き手がどうこうなんて言っていられない。一体どうすれば…。)

 ボクはすっかり心理的に動揺していた。

何とか打開策を見つけなければいけない。でも今は試合中。そんなことを考えていては隙ありとばかりにやられてしまう。

 頭の中の作戦がまとまらない状況のボクは、その後も防戦一方となっていた。

 その間もセレニカさんは容赦なく向かってきた。

 攻撃は大抵左利きを活かしたものだったが、両手でも、右手一本でも襲いかかってくる。これではもうどこから攻撃が来てもおかしくない。

ボクは一向に攻撃ができないまま、防戦一方の状態が続いた。

周りの人から見れば、いつボクがやられてもおかしくない。むしろセレニカさんを応援している人からすれば、いつ決めてくれるのかと言わんばかりの状態だった。

 しかし、そんな状態がしばらく続いていると、彼女の攻撃スピードが少し落ちてきたような気がした。

 どうやら疲れてきたのだろうか。それとも、チャンスを作っても作ってもあと一押しができないことへの焦りが見えてきたのか。

(よし、これならきっと隙はできる。そこを狙おう。)

 ボクは必死に攻撃を防ぎつつ、いつでもこちらから攻撃できるように心の準備をした。

 すると次の瞬間、セレニカさんはバテてきたのか、「はあっ。」と一呼吸ついた。

(今だっ!)

 ボクはそう思うと、とっさに攻撃に転じた。

 すると相手もほぼ同時に攻撃に打って出てきた。

「バシーン!」

「バシーン!」

 お互いの竹刀がヘルメットに当たる音がほぼ同時に響き渡った。

 こうなった場合は、早く当てた方に1ポイントが入ることになる。

 肉眼ではほとんど同時に見えたが、それでも審判の人は確信を持って「リュウに1ポイント!」と言ってきた。

 それを見たセレニカさんは異議ありと言わんばかりに左手を上げ、副審の2人に判定を求めた。

 この場合、もしこの副審の2人が共にセレニカさんを支持すれば、彼女に1ポイントが入り、0対2でボクの負けが決まってしまう。

 しかし、幸いにも副審の1人は僕を支持し、もう1人は同時という判定を出したため、無事にボクに1ポイントが入った。

 これで1対1となった。次で決着がつく。

(どうやらセレニカさんは疲れてきているようだ。それに相手は押しに押して決められなかったのに対し、ボクはワンチャンスをものにした。今なら流れは来ている。この隙に決めてしまえばいけそうだ。)

 ボクは頭の中で次なる作戦を考えていた。

 

 3本目。ボクとセレニカさんは勝負が始まると同時に、お互い攻撃態勢に入った。

 試合はノーガードの打ち合いが数秒間続いたが、彼女の動きはさっきよりもわずかに遅く感じられた。

(チャンスだ!ここで決めてやる!)

 ボクは素早く右手一本で竹刀を振りおろした。

「バシーン!」

「バシーン!」(←一瞬遅れています)

 ボクの攻撃は相手よりもわずかに早くヘルメットをとらえた。

「リュウに1ポイント!この勝負そこまで!2対1でリュウの勝ち!」

 審判の人は大きな声でボクの勝利を宣言した。

「ありがとうございました!」

「ありがとうございました!」

 ボクたちは向かい合って深々とお辞儀をした。すると、セレニカさんは懸命に笑顔を作りながらこっちに歩み寄ってきて、利き手である左手を差し出してきた。

 それを見て、ボクは一瞬右手を差し出そうとしたが、すぐに左手に差し替えて、彼女と握手をした。

 その感触は、まるでノルカちゃんの手とそっくりだった。

(もしかして、成長したノルカちゃん…、なわけないよね。)

 ボクが心の中でそう思っていると、セレニカさんは少し気持ちが吹っ切れたのか、手を離した後、優しい声で

「悔しいけれど負けたわ。君って強いのね。」

 と言ってきた。

「いえ、そんなことないです。ボク、内容では完全に負けていました。」

「そんなことない。耐えて耐えて最後は体力勝負に持ち込むなんて、さすがよ。私ももっと体力つけなければいけないわね。」

「ボクももっと強くなります。またよろしくお願いします。」

「こちらこそ。次は負けないわよ。でも君の次の相手は、私を2年連続2対0で倒した人よ。頑張ってね。」

「はい。」

 セレニカさんは会話を締めくくると、やはり悔しかったのか、うつむいてしまい、左手を力一杯握りしめながら会場を後にしていった。

 

 セレニカさんとの勝負は準決勝の2戦目という位置づけだったため、決勝戦までの時間は10分しかなかった。

 まださっきまでの激闘の疲れが残っているボクにとっては多少不利になるかもしれないけれど、それを言い訳にするわけにはいかなかった。

 試合に向けて気持ちを落ち着かせていると、ふと会場に

「リュウちゃん頑張れ!オイラは弓矢の大会に参加して、優勝してきたぞおっ!」

 という声が響き渡った。ギーちゃんの声だ。

 ボクが彼のいる方を向くと、ギーちゃんはメダルを誇らしげに見せながら、ギリアムおじさんと一緒に観客席にやってきて、満面の笑みを浮かべていた。

(そっか。ギーちゃん優勝したんだ。それなら、ボクも続くぞ!)

 ボクはギーちゃんに向かってニコッとほほ笑むと、次の瞬間から闘志を燃やし、試合に備えた。

 

 決勝戦の相手の名前はビルト。8人の中では最年長の人で、年齢制限の上限ギリギリでの参加だったため、次回からは一つ上のカテゴリーに進むことが確定していた。

 彼はビルダーさんの息子というだけあって、背の高さは子供とは思えない程高く、体つきはギーちゃんよりもずっとムキムキで、見るだけで怖気づいてしまいそうな感じだった。

 しかもこれまで参加した試合で、全て2対0の成績で勝ち進んで優勝しており、完全に無敵の状態だった。

 その実績を聞くと思わず後ずさりしたくなってしまうが、それでは戦う前に勝負がついてしまう。

 何とかして打開策を考えてこの人に勝ち、ギーちゃんに続いてボクも優勝を手にしたいと意気込んだ。

 一方のビルトさんはなぜか落ち着かないような感じだった。

 もしかしたら、完全優勝へのプレッシャーを感じているのか、それともボクが勇者リュウの息子ということに戸惑いを感じているのだろうか。

 現に、観客席にいるビルダーさんも同じような感じだった。

 それに加えて、お互いの息子が最初で最後の直接対決をするという光景を見ることになり、お父さんとビルダーさんはさっきまで楽しく会話をしていたのが嘘のように黙り込んでいた。

 

「それでは両者、始め!」

 決勝戦が始まると、僕は小細工なしにビルトさんの懐に向かっていき、一撃を繰り出そうとした。

 しかし相手はそれを読んでいたのか、あっさりと攻撃をはじき返し、素早く反撃をしてきた。

(危ないっ!)

 ボクは危ういところで攻撃をかわし、後ずさりして間合いを取った。

 だが、ビルトさんはすぐに間合いを詰めてきて、次なる攻撃を繰り出してきた。

(まずい。このままではまた防戦一方になってしまう。さっきの疲れもあるし、持久戦になっては不利だ。早く攻撃の機会を見つけなければ。)

 ボクはセレニカさんの時のように、相手の攻撃を防ぎながら、反撃の機会を伺った。

 しかしその攻撃は、彼女とは打って変わってズシンと重みのあるものだった。

 確かにスピードだけならセレニカさんの方が上だ。でもビルトさんの攻撃は受け止めるだけでもあっという間に体力を削られてしまう。

 おそらく彼女もこの人と直接対決をした時、このようなやり方でやられてしまったのだろう。

 現に、さっきは相手の猛攻に耐え続けることができたボクでも、今度はそうはいかず、防御が一瞬遅れてしまった。

(いけない!)

そう思った瞬間、ボクの頭には思いっきり相手の一撃が入ってしまった。

「いったあああっ!」

 彼は相当な怪力の持ち主なのだろう。ヘルメット越しでも結構痛かった。

「ビルトに1ポイント!」

 審判がそう宣言する中でも、ボクは痛みでその場にしばらくうずくまったままだった。

 すると、ふと「君、大丈夫?」という声がした。

(誰だろう?審判の人かな?)

 そう思ってボクが顔を上げると、声の主は何とビルトさんだった。

「ごめんね。ちょっと力が入り過ぎちゃった。大丈夫?試合続行できる?」

 彼は見た目に反して優しい心の持ち主のようだ(現にビルダーさんも同じだけれど)。どうやら彼はボクのお父さんのように、気合が入ると別人のようになるのだろう。

「大丈夫です。」

 ボクは頭を押さえたまま、そう答えた。

「審判。リュウちゃんが回復するまで時間を与えてください。」

 ビルトさんは優しい口調でそう言った。

「分かりました。しばらく試合を中断します。」

 審判は彼の要求を認めてくれた。そのおかげでボクは試合続行できるようになるまで待ってもらえることになった。

 その間、ビルトさんは心配そうな表情でボクを見守っていてくれた。

 どうやら彼は相手の不利に付け込むのではなく、正々堂々と勝負をしたいのだろう。

 そんな人柄を周りの人も認めてくれたのだろう。会場ではビルトさんを称える声がこだまし、拍手がこだました。

 拍手をしてくれた人の中には、お父さんやビルダーさん、ギリアムおじさん、そしてギーちゃんもいた。

「リュウちゃーーん、頑張れーー!ビルダーさんの息子であっても負けるんじゃないぞ!」

 ギーちゃんは大声でボクに声援を送ってくれた。

 

 試合が中断して5分後、立ち上がって問題なく行動できるようになったボクは、竹刀の素振りをして、大丈夫であることをアピールした。

 それを見た審判も問題ないと判断して、2回目の試合開始を宣言した。

 幸い、間が空いたおかげで少しは疲れも取れたため、今度は防御が一瞬遅れるということはなかった。

 結果、双方ともに一進一退の激しい打ち合いになり、お客さんにとっては見ごたえのある展開になった。

「リュウちゃん頑張れ!絶対勝ってくれ!」

「ビルト!完全優勝を達成してくれ!」

 会場ではギーちゃんやビルダーさんをはじめ、大勢の人たちがボクたちに声援を送っていた。

 そんな中でもボクたちは激しい打ち合いを繰り広げていた。

 しかし、ビルトさんの一撃はやはりズシンとくる。そのため、体力がどんどん削られてしまう状態だった。

(このままではやられる。ボクは2ポイント取らなければいけないわけだから、ここは捨て身で決めないと!かくなる上は、セレニカさん!技を借りますっ!)

 ボクはそう思うと、セレニカさんとの勝負の1本目で彼女がやったことを応用して、素早く時計回りに動き、左手一本で攻撃を仕掛けた。

 一方、ビルトさんは体を右にひねらなければならなかったため、一瞬攻撃が遅くなった。

(よし、これで決まった!)

 ボクの思惑通り、左手に握られた竹刀は、見事相手のヘルメットにヒットした。

「リュウに1ポイント!」

 審判がそう宣言すると、辺りには大きな歓声と拍手がこだました。

「リュウちゃんいいぞ!やったやった!」

 ギーちゃんはまるでボクが勝ったかのように大喜びをしていた。

「完全優勝を阻止されたか…。まあ、相手がリュウさんの息子では仕方ない。」

 ビルダーさんは顔をしかめながら、そうつぶやいた。

 一方のお父さんは拍手こそしたものの、「まだ1ポイントを取っただけだ。」と言わんばかりに、ポーカーフェイスを続けていた。

 

 これで1対1。

 ボクはセレニカさんとの試合でこの状況を経験しているが、ビルトさんにとっては初めての経験だ。

 しかも会場ではボクを応援する声が大きくこだましており、ビルトさんは彼の父親以外はみんな敵といったような、ほぼ完全アウェーの状態だった。

(付け込むなら今だ。ここしかチャンスはない。一気に勝負をつけてやる。)

 ボクは周りの声援を力に変えようとした。

 しかし、こんなすごい声援を受けるのは初めてだけに、何だかプレッシャーにも感じられた。

 でも声援がプレッシャーになってはいけない。何とか力に変えなければ。

 そう思っているうちに3回目の試合開始となった。

 ビルトさんは完全優勝を阻止されたショックや、完全アウェーの雰囲気にのまれているのか、何か焦りのようなものを感じた。

 一方のボクは失うものなんかないとばかりに猛攻を仕掛けた。

 しかし彼は準決勝のボクのように、攻撃をどうにか受け止め続けていた。

(あと一息!あと少しで勝てる!ここで決めてやる!)

 そう思って、攻撃を決めようとした瞬間、ふとボクは頭がクラっとしたような気がした。

(あれっ?どうしたのかな?)

 そう思った瞬間、ボクの頭には大きな衝撃が走った。

 何だろう。痛いけれど、それよりも、何だか急激に意識が薄れていくような…。

 次の瞬間、ボクは倒れこんでしまったのか、体のあちこちに衝撃が走った。

 その後のことは、正直覚えていない…。ただ急に目の前が真っ暗になって…。

 

 気が付いた時、ボクはベッドの上に横たわっていた。

 ここはどこだろう…。

 意識がもうろうとする中でそう思っていると、ふと

「ビルダーさん、リュウちゃんが目を覚ましたよ!」

 という声がした。ギーちゃんの声だ。

 ボクは段々意識がはっきりしてきて、周りがはっきりと見えるようになってきた。

 すると、お父さん、おじさん、そしてビルダーさんがボクのところにやってきた。

「リュウ君、気がついてくれて良かった。この度は息子のせいでこんなことになってしまって申し訳ない。」

 ビルダーさんは他の誰よりも心配そうな表情で謝ってきた。

 彼の話によると、ボクはビルトさんの攻撃が決まると同時に倒れこんでしまい、意識を失ったそうだ。

 審判が「この勝負、2対1でビルトの勝利!優勝者はビルトに決定!」という中で、ビルトさんは礼もすることなく、ただボクの体をゆすり、「大丈夫か?頼むから目を覚ましてくれ!」と、言いながら必死になって叫んでいた。

 場内が騒然とした雰囲気になる中、お父さんは「君、下手に動かしてはだめだ!まずは気道確保をしなさい!」と、冷静に対処を促した。

 そして医務室にいた人が会場にやってくると、ボクは担架に乗せられて会場を後にしていった。

 ビルトさんは彼に付き添わせてほしいとお願いしたが、関係者の意向もあって表彰式に出なければならず、医務室に付き添いでやって来たのはお父さん、ギーちゃん、おじさん、そしてビルダーさんだった。

 ビルダーさんは本来なら表彰式で息子の姿を見届ける予定だったが、そんな心境ではなかったため、それを断ってボクの看病に来てくれた。

 正直、見た目に反して他人想いであることはお父さんから聞いていたけれど、本当にそういう優しさを見せてくれたことは、ボクにとって嬉しかった。

 すっかり意識を取り戻したボクは、大丈夫であることをアピールするために起き上がろうとした。

しかし、お医者さんからまだ動いてはだめと言われたため、横になり続けたまま、ギーちゃんやビルダーさんと会話をした。

 そうしていると、廊下でドタバタと足音が響いた。

次の瞬間、扉が勢いよく開き、表彰式を終えたビルトさんが医務室に入ってきた。

「リュウちゃん、こんなことになってしまって!本当にごめん!」

 彼は相当心配だったのだろう。優勝した喜びなんかはどこにもなかった。

「ボクは大丈夫。こちらこそ、ごめんね。せっかくの優勝なのに、こんな気持ちにさせてしまって。」

「優勝よりも君の方が大事だよ。本当にごめん!」

 ビルトさんは表彰式の間、早く終わってほしい。早く彼のもとに行かせてくれとずっと思い続けていたことを打ち明けてくれた。

「本当にごめん…。」

「ボクは大丈夫。もう気にしないで。」

 謝罪を繰り返すビルトさんに対し、ボクは笑顔でそう言って右手を差し出した。

 すると彼も右手をのばし、ボクの手をしっかりと握ってくれた。

 こうしてボクたちは遺恨を残すこともなく、笑顔で過ごすことができた。

 

その後、お医者さんから脳しんとうの心配がないことを伝えられたボクは、無事に会場を後にし、帰路につくことを許可されました。

 ビルダーさんとビルトさんと別れる時、ボクは彼らとまた握手をし、笑顔で言葉を交わしました。

 その姿は周りの人にも目撃されており、彼らは「良かったね。」「仲良くしろよ。」という感じで、温かい言葉をかけてくれました。

 こうして会場を後にしたボクとお父さん、そしてギーちゃんは、歩いて家に向かって歩いていました。

(ギリアムおじさんは途中から別行動をとったため、ここにはいません。)

 ギーちゃんは自分が優勝できたことがとても誇らしいようで、しきりにメダルを見つめていました。

 途中、3人でキャンプをしたことのある森を通りかかりました。

 そこは1年2ヵ月前にボクとギーちゃんが滝つぼに落ちたのをきっかけに、500年後の世界に行ったことがあるだけに、思い出深い場所でした。

 その滝を遠目から見かけた時、もしかしたらまたあの世界に行けるかもしれないという淡い期待がわいてきました。

 すると…。

 

「ねえリュウちゃん。もう一度あそこに飛び込んでみる?」

「こらこら、ギー君。そんなことをしてまた溺れたらどうするんだ?」

 お父さんは別世界に行くことよりも、そっちの方を心配しているようだった。

「あの時はおじさんの剣が重すぎただけだい!もう溺れるもんか!」

 ギーちゃんは興奮した口調でそう言い放った。

「でも、飛び込んだらノルカちゃんというかわいい女の子に再び会えるかもしれないぞ。どうだ?」

「おじさん、そんなこと言われても無理だよ。ディースさんが言うには、双方の世界がくっついちゃったのは、本当に偶然だったんだから。」

「それに、ボクたちがここに帰ってきた後、きっとヒズミは完全にふさがってしまったから、もう2度とあの世界には行けないと思うけれど…。」

 さっきは淡い期待を抱いたボクではあったけれど、やはりすぐにその気持ちははかなく消えてしまった。

 するとどこからか、何かガサガサという音がした。

「ん?誰かいるのか?」

 お父さんはその気配を察知すると、とっさに身構えた。

(今日、お父さんは剣を持ってきていないため、素手です。)

 それに続いて、ボクは大会で使用した竹刀を持ち、ギーちゃんは大会で使用した殺傷能力のない弓矢を持って身構えた。

(あわわわ。怪物でなければいいけれど。)

 ボクがそう思っていると、茂みから見覚えのある女性が姿を現した。

「おお、ディースじゃないか。」

 お父さんはそう言うと、身構えていた手を下におろした。

「ああ、ディースだよ。リュウ、久しぶりだね。」

「お前、老けたな。一体何千年後の世界からやってきたんだ?」

「失礼だね!たったの500年だよ!!」

「そうか。どうりで老けているわけだ。」

「あんたねえ!変なこと言うんじゃないよ…って、いけない。うっかり500年と言ってしまったね。」

 お父さんがイジったことで、ディースさんは口を滑らせてしまった。

「じゃあ、ディースさんは500年後の世界から?」

 ボクはもしやと思って、彼女に聞いてみた。

 ということは、実はこの世界と500年後の世界はつながっていたってこと?

 




没った

 ボクの思惑通り、左手に握られた竹刀は、見事相手のヘルメットにヒットした。
 しかし、同時にビルトさんの竹刀もヒットした。

「審判団で協議をした結果、両者同時と見なします。よって、両者に1ポイント!この勝負、2対1でビルトの勝利!優勝者はビルトに決定!」

「完全優勝を阻止されたか…。まあ、相手がリュウさんの息子では仕方ない。」
 ビルダーさんは顔をしかめながらも、優勝したことを喜んでいた。


 最初は同時の場合は両者に1ポイントという設定にしており、2本目で決着が付く形にしていました。
 でも、後で読み返したところ、何だか手抜きしているような気がしたので、3本目を書くことになり、このシーンは没った。
(ちなみにこの時点では、リュウちゃんが気を失う展開は考えていませんでした。)
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