ボクとギーちゃんとお父さんの前に姿を現したディースさんは、500年後の世界からやって来たと言っていた。
それが本当なら、ボクとギーちゃんが帰ってきた後も、双方の世界はつながっていたってこと?
ボクがそう思っていると、ディースさんは早速ここに来るまでの経緯を話し始めました。
「あたしは確かに、500年後の未来からやってきたよ。でも、2人が帰っていった後、滝の上の部分は落ちてしまい、次元のヒズミは埋まってしまったよ。」
「えっ?本当に埋まっちゃったの?」
「ああそうだよ、リュウちゃん。君には申し訳ない言い方かもしれないが、あたしはそれを見て、間に合ってよかったとほっとしていたよ。そして、その時は次元のヒズミが開くことは2度とないと思っていたよ。」
「それなら、どうしてオイラたちの世界にやってきたの?」
「あんた達にどうしても会いたい。会ってお礼を言いたいという人達がいたんだよ。その依頼を受けた時、最初はダメだって断っていたんだけれど、何度もあたしのもとを訪れては『お願いします!』『お願いします!』って言うんだよ。そして、とうとう根負けし、彼らのためにトンネルをこじ開けてここにやってきたんだ。」
「その彼らって?」
ボクはもしかしたらという期待を抱きながら聞いてみた。
「言わなくても察しはつくだろうね。そう、あの人達だよ。では、その人達を呼んでくるよ。ちょっと待ってて。」
ディースさんはそう言うと振り返り、茂みの向こう側に姿を消した。
しばらくすると、茂みから大人の男の人と女の人が姿を現した。
男の人は黒い髪をしていてひげのない、何かの先生のような人だった。
一方、女の人は後ろで髪を縛っており、着ている服の柄に見覚えがあった。
「あの、あなたたちはもしやデセオ山で出会った…。」
「そうだ。ノルカちゃんのお父さんとお母さんだ!」
その2人の顔と女の人の服装からして、ボクとギーちゃんは確信し、そう質問をしてみた。
「はい、そうです。僕の名前はカーノ。そしてこちらは妻のルシア。君達と一緒に旅をしたノルカの両親です。」
「あなた達がリュウ君とギー君ですね。あの時は私達を、そして娘のノルカを助けてくれて、ありがとう。」
カーノさんとルシアさんはそう言うと、ボクたちに向かって深々とお辞儀をした。
「いえ、あの…。ボクたちはただ、向こうの世界でノルカちゃんと出会い、彼女が泣きじゃくるのを見て、何とかして力になりたいと思ったんです。」
「そうそう。そして、どんな強敵だろうと絶対に倒して、ノルカちゃんと両親、そしてパレポリにさらわれた人たちを助けようと思って…。」
ボクとギーちゃんはカーノさんとルシアさんがすごく感謝をしてくれたことに恐縮し、あたふたしながら言葉を返した。
「でも2人とも。君達の行ったことは、彼らにとってはとても意味のあることだったんだよ。もっと胸を張って、堂々としなさい。」
「えっ?あっ、はい。」
お父さんに言われて、ボクは恐縮するばかりだった気持ちを切り替え、胸を張ることにした。
それはもちろんギーちゃんも同じだった。
「カーノさん、ルシアさん。あなた達がここに来たということは、娘さんも一緒ですか?」
お父さんは、ボクが気になっていたことを代弁するように質問をしてくれた。
「えっと、それはですね。」
「少しお待ちください。」
2人は戸惑うようにそう言うと、振り返ってまた茂みの方に歩き始めた。
(あれ?ノルカちゃん、一緒じゃないのかな?)
ボクはディースさんを必死に口説いてこの世界に来たにも関わらず、2人があまり嬉しそうではないことに、戸惑いを隠せなかった。
彼らは茂みのところまで行くと、何か合図をするような仕草をした。
するとそこに待機していたディースさんが姿を現した。
よく見ると、彼女は両手に何かを抱えている。
(何だろう?)
ボクが疑問に思っていると、ふとギーちゃんが
「ディースさん、その人ってもしや?」
と言いだした。
その人はルシアさんと同じ色の髪をしており、同じ色、同じ柄の服を着ている女の子の姿をしていた。
「リュウちゃん、ギーちゃん。この娘を覚えているかい?まあ、忘れるわけはないだろうけれどね。」
ディースさんはそう言うと、ボクたちにその子の顔をはっきりと見せてくれた。
間違いない。髪は縛っていないけれど、その髪の色、そして着ているその服。確かにあの女の子だった。
「ノルカちゃん!」
「ノルカちゃん!」
ボクとギーちゃんは同時に叫ぶと、ディースさんに抱えられた彼女に向かっていった。
彼女に会えた!ボクたちは飛び上がって喜びたい気持ちになった。
しかしよく見ると、彼女はぐったりと目を閉じており、気を失っているようだった。
さらによく見ると、少しやせたのか、何だかやつれたような顔をしていた。
「ノルカちゃん!どうしたの?」
「まさか、そんなことはないよね!?」
ボクとギーちゃんは、彼女が死んじゃったのではという思いが頭をよぎった。
「大丈夫。彼女は生きているよ。でも、ちょっと衰弱してしまってねえ。せっかくの感動の再会なのに、こんな状況になってしまってすまないねえ。」
ディースさんは申し訳なさそうな表情でそう言った。
「いいよ、そんなの。ノルカちゃんが生きていてくれて、再会できたんだから、オイラは嬉しいよ!」
ギーちゃんが喜ぶ一方で、ボクは彼女がこんな姿になってしまったことに驚きを隠せずにいた。
「とにかく、500年の時を超えて、わざわざここまで来てくださってありがとうございます。積もる話もあるでしょうけれど、まずは僕の家に行きましょう。そこでゆっくりと気持ちを落ち着けてください。」
「リュウ、ありがとう。ではあたしも世話になるよ。」
お父さんの提案をディースさんは快く承諾してくれた。
ボクの家にたどり着くと、ボクはお父さんと協力して、空いている部屋(そこはギーちゃんがお泊まりで来た時に使う部屋)にベッドを用意した。
そして、ノルカちゃんはそのベッドの上に寝かされた。
相変わらずぐったりと目を閉じていて、一見するとまさかと思ってしまいそうだった。でも確かに呼吸をしているので、生きていることは確認できた。
でも、どうしてこんな姿になってしまったんだろう?
そう思っていると、持っていた荷物(その中にはノルカちゃんのリュックも含まれていた)を部屋の片隅に置いたカーノさんとルシアさんがそこに至るまでの経緯を話してくれた。
ボクたちが元の世界に帰っていった後、ディースさんは水晶玉を持って再びデセオ山にやってきた。
そして、ノルカちゃんと両親に、ボクたちの姿を見せてくれた。
親に叱られるボクたちを見て、ノルカちゃんは『良かった。無事に帰ることができて。』と言ってくれた。
最初は嬉しそうな表情を見せていた彼女だったが、次第に『良かった…。』と言いながら、その表情は曇っていった。
そしてその目からは段々涙があふれていくなかで、次元のヒズミが完全に埋まってしまったらしく、ボクたちの映像が消えてしまった。
もう2度と会えない…。
その現実を悟った彼女はとうとうこらえきれなくなったのか、水晶玉を抱えながら泣き崩れてしまった。
カーノさん、ルシアさん、ディースさんをはじめ、その場に居合わせた人達は、何とかして彼女を元気付けようとしたが、それでも泣きやまなかった。
そして、彼女はとうとう泣いたまま両親と一緒にディースさんに連れられて自宅に戻っていった。
その後、ノルカちゃんは1日としてボクたちを忘れた日はなかったそうだ。
最初はそれを聞いて嬉しくなったけれど、実際はその度に泣き出してしまい、両親を心配させていた。
そして、そんな日々が続くうちに、彼女はどんどん元気がなくなっていった。
やがて食事ものどを通らなくなり、立って歩くこともできなくなり、目に見えて衰弱していった。
カーノさんとルシアさんは自分達の作った薬を駆使して何とかしようとしたが、さすがにそれには限界があった。
このままでは娘が死んでしまう。そう思った彼らはすがる思いでディースさんのもとを訪れ、娘を助けられるのはあの2人しかいない。どうか500年前の世界に行かせてほしいと頼み込んだ。
その頼みはすでに述べた通り、最初は断られていたが、それでもあきらめずに食い下がってくる姿を見て、とうとう根負けし、ここにやってきたということだった。
なお、ボクたちはあれから1年2ヵ月が経過しているのに対し、ノルカちゃんやカーノさん、ルシアさん、そしてディースさんはあれから3ヵ月後だった。
「すまないねえ。年がほぼ1歳ずれることになってしまって。できることなら3ヵ月後の君達に会わせたかったけれど、これが限界だったよ。」
ディースさんの表情はどこかさえなかった。
「ボクたちは大丈夫です。気にしないでください。」
「わざわざオイラたちに会いに来てくれてありがとう。」
ボクとギーちゃんは嬉しそうな表情でお礼を言った。
「こちらこそありがとう。では、あたしはこの家を後にするから、後はノルカちゃんの看病でもしていてくれ。彼女が目を覚ましたら、仲良くするんだよ。」
「はいっ!」
「はいっ!」
ボクとギーちゃんは元気よく答えた。
ディースさんが出ていった後、カーノさんは夜の時間にノルカちゃんの面倒をみるため、別室で寝ることにした。
一方、今から夜9時頃までの時間を担当することになったルシアさんは、ノルカちゃんのリュックから何か袋と管のようなものを取り出した。
「ねえルシアさん、その袋の中に入っているものは何ですか?」
それまで見たことのないものを見たボクは、不思議そうな表情で問いかけた。
「これは点滴というものよ。」
「てんてき?」
そんな言葉は今まで聞いたことがなかっただけに、ボクはますます不思議そうな表情を浮かべた。
「今のノルカにとっては、これが食事よ。彼女は食べ物ものどを通らない状態になってしまったから、これで栄養を与えていたの。」
「ふうん。でもどうやって栄養を与えるの?」
今度はギーちゃんが質問をした。
「こうやって使うのよ。」
ルシアさんはそう言うと、折りたたまれていた長い管をほどいてまっすぐにした。
管の先にはプラスチックのケースのようなものが付いていて、内部には何か銀色の細い物体があった。
これは注射の針というものだそうだ。
さらにルシアさんは、管のもう一つの端をさっきの袋につなぎ、袋を高い所につるした。
正直、この光景は今まで見たことがないだけに、ボクにはルシアさんがこれから何をするのか不思議でたまらなかった。
彼女はノルカちゃんの左手首の袖をまくると、布切れと何かが入った瓶を取り出した。
そして布に液体を含ませると左手首に塗りつけた。(←つまり消毒です。ボクは知らないけれど。)
「さあ、ノルカ。食事の時間よ。少しチクッとするけれど我慢してね。」
ルシアさんは眠っているノルカちゃんに向かってそう言うと、袋のコックを開いて少しずつ液体を管の中に通していった。
そして管の中が液体で満たされたことを確認すると、針を左手首に差し込んだ。
ボクは注射の光景を生まれて初めて見るだけに、思わず「うわっ!痛そう!」と言いながらそっぽを向いてしまった。
その気持ちはギーちゃんも同じで、顔をしかめながら首を後ろにひねっていた。
しばらくして再びノルカちゃんの方を振り返ると、ルシアさんは管の中の液体が少しずつ流れていることを確認し、まるで「これでいいわ。」と言っているように、ほっとした表情をしていた。
その後、ルシアさんはあれから何があったのかについて色々と話してくれた。
デセオ山で操られていた時に、娘にひどいことをしてしまったことがトラウマとなり、その後も何度も思い出しては罪の意識にさいなまれたこと。
ノルカちゃんが毎日のように泣き出してしまい、大変な状況に陥った中でも、野草から薬を作って人々の役に立つことに精を出してきたことを打ち明けてくれた。
それに続いて、今度はボクたちがこの1年2ヵ月の間に起きた出来事を話した。
でも、1日としてボクたちのことを忘れなかったノルカちゃんに対し、ボクたちは彼女のことを忘れていたことがあっただけに、何だか恥ずかしくなった。
だけど、その事実を笑顔で受け止めてくれたルシアさんを見て、何だか救われた気がしていた。
続いて、ボクはお父さんとよく釣りをして、魚をうまく捕まえられるようになったことを話し、ギーちゃんはおじさんと狩りに出かけては獣や鳥を仕留められるようになったことを話した。
そして、最後に今日、ボクが剣の大会に出場して準優勝となり、ギーちゃんは弓矢の大会で優勝したことを話した。
考えてみたら、ルシアさんはボクたちと会話するのは今日が初めてだ。
でも、いつの間にかすっかり打ち解けてしまい、まるでずっと前から知り合いだったような感覚さえ感じていた。
そのことを打ち明けると、ルシアさんは驚きもせずに、にっこりとほほ笑み、そして喜んでくれた。
「ありがとう、リュウ君。そう言ってくれてうれしいわ。でもね、私は以前からあなた達とすぐに仲良くなれると確信していましたよ。」
「本当に?だって、ほとんど初対面なのに?」
「オイラたちと会話したこともなかったのに?」
意外なことを言われ、ボクとギーちゃんは驚きを隠せなかった。
「だってあなた達、ノルカと仲良くしていたでしょ?」
「うん。」(←2人同時に言っています。)
「ノルカは典型的なお母さん似だから、それなら私も仲良くなれると思っていたの。だから、こうやって楽しく会話できてうれしいわ。」
ルシアさんは満面の笑みを浮かべてそう言ってくれた。その表情は、まるでノルカちゃんがそっくりそのまま大人になったようだった。
ただ、ボクとギーちゃんが、なぜノルカちゃんが今まで言葉を話せなかったのかについて聞いた時には、それまでの笑顔が一瞬にして曇り、「それは、その…。」と言ったまま黙り込んでしまった。
もしかしたら、そのことで今まで何度も辛い思いをしてきたのだろう。
現に、ギーちゃんはノルカちゃんに初めて会った時、「ちょっとへんな娘(こ)だな。」と言っていたし、それをルシアさんが直接聞いてしまったら、どんな表情をしたのだろう。
さすがにその時は2人で反省し、「ごめんなさい。」と謝った。
「いいのよ。これは誰でも1度は疑問に思うことだから。私も、娘をこんな体にさせてしまったことで、カーノの前で泣きながら自分を責めたりもしたわ。でも、ノルカがこんなに明るく育ってくれて、本当に救われましたよ。それに、あなた達が娘と優しく接してくれたことは本当にうれしかったですよ。」
ルシアさんは辛さをこらえるような表情でそう言うと、精一杯の笑顔を浮かべてくれた。
その顔を見て、ボクたちはすごく救われた気がしていた。
その後、点滴が終わった頃になると、辺りは段々暗くなり始めた。もう夕方だ。
するとその時、玄関の方で「おーい、ギー。いるんだろ?においで分かるぞ。」という声がした。ギリアムおじさんだ。
その声を聞いて、ギーちゃんは「はあい。」と言いながら玄関に向かっていった。
「父ちゃん。」
「おお、ギー。いたか。もうすぐ夕飯の時間だ。帰るぞ。」
「あっ、それなんだけれど…。」
「誰か来ているのか?」
「えっ?あ、あの…。実は、そう…なんだけれど…。」
「ほう、そうか。ということは、お前が言っていた未来の世界の女の子が来ているのか?」
「ええっ?父ちゃん、よく分かるね!」
「まあ、野草で作った洗髪料のような香りがしたからな。それもお前が持っていたあの髪飾りと同じだ。だからオレにはお見通しだ。まあそれはとにかく、夕飯だ。帰るぞ。」
「でも、オイラ…。」
「どうした?ノルカちゃんという女の子のそばにいたいのか?」
「…うん…。」
「それなら食事を済ませてまた来ればいいじゃないか。お腹すいているだろ?」
「えっ?えっと…。」
ギーちゃんが答えあぐねていると、急に「グウウッ…。」というお腹の音が聞こえた。
「図星だな、ギー。とにかく、1時間もすればまた会える。だから、リュウちゃんたちにひとこと言ってこい。」
「はあい。」
ギーちゃんは少し落ち込んだような口調でそう言うと、ボクのいる部屋に入ってきた。
「リュウちゃん、あのね。」
「大丈夫。会話は聞いていたよ。1時間後にまた来てね。」
「分かった。食べ終えたらすぐに戻ってくる。」
ギーちゃんはそう言うと、今度は足早に玄関に向かっていった。
そして玄関から外に出ると、「じゃあオイラ、急いで家に行くから。」と言うなり、全速力で自分の家にかけ出していった。
「…ったく、家族よりもその女の子の方が大事なのか。あいつは…。」
ギリアムさんは頭をかきながら捨てゼリフのようにそう言うと、ギーちゃんを追いかけるようにかけ出していった。
(※どうやらおじさんは、ノルカちゃんが起きていると勘違いしているようでした。)
ギーちゃんはそれから50分後に駆け足で戻ってきた。
彼の息はすでにゼイゼイ上がっていた。恐らくここまで全力疾走をしてきたのだろう。
「リュウちゃん、ノルカちゃんは?」
「まだ眠っているよ。でもちゃんと呼吸はしているし、いつ目を覚ましてもおかしくないんだけれどね。」
「そうか。じゃあ、目を覚ました瞬間にオイラも立ち会えそうだね。」
「うん。ボクもその時をじっと待っているんだ。」
ボクはそう言うと、それまでずっとつないでいたノルカちゃんの右手から、自分の右手を離した。
「ギーちゃんも手をつないでみる?」
「オイラが?でも、確かにオイラもノルカちゃんのこと心配だから、ちょっとだけつないでみる。」
ギーちゃんはそう言うと、右手を差し出して、ノルカちゃんの右手をそっと握った。
さっきまで正座していたボクは近くの椅子に座り、じっとその時を待ち続けることにした。
それから時間は過ぎていき、辺りが真っ暗になってからかなり時間が経過した。
今、この部屋にいるのはボクとギーちゃん、お父さん。そしてノルカちゃんだ。
お母さんはすでに寝る準備に入っており、ルシアさんは目を覚ましたカーノさんにこれまでの経緯を説明し、引き継ぎを行うために別室に行っていた。
いつもならボクとギーちゃんはすでに寝る時間だ。当然ボクたちは眠気に襲われていた。
「お父さん。ノルカちゃんは本当に目を覚ましてくれるのかなあ…。」
「オイラもそう思う。もしかしたら眠ったままなのかなって。」
「そればかりは誰にも分からんな。でも今できることは待つしかない。たとえ深夜になろうと、夜明けになろうとな。」
「お父さん、そんなあ…。」
「そんなのしんどいよ…。」
「それが看護っていうものだからな。確かにしんどいけれど、それを仕事にしている人もいる。恐らくこの子の両親もそんな日々を過ごしたことがあるんだろう。」
「本当にそうなのかな?」(ギーちゃん)
「お医者さんでもないのに。」(ボク)
「本人達は確かに野草の研究家であって、医者ではないが、周りの人達からすればお医者さんに近い存在だろうな。現に彼らの薬で命を救われたという人もいるくらいだしな。」
お父さんはノルカちゃんの両親がどれだけ凄い人なのかを見抜いているようだった。
そうしていると、引き継ぎの話を済ませたカーノさんが部屋に入ってきた。
「今から夜勤ご苦労様です。」
「リュウさん、どういたしまして。人の命を預かる仕事もしている身ですから、これくらいは当たり前のことです。」
「そうですか。でも無理だけはしないでください。それではもう夜も遅くなってきましたから、僕はこれで寝ることにします。」
「おやすみなさいい。」
お父さんはカーノさんとの会話を済ませると、寝室に向かっていった。
「ところで、君達はまだ寝ないのかい?顔が完全に眠たそうだぞ。」
「確かにオイラたち、眠いです。でも頑張って起き続けます。」
「ボクたち、絶対にノルカちゃんが目を覚ます時を見たいから。」
ボクたちは睡魔と闘いながらそう言い放った。
「じゃあ、少しでも長く起きていられるように、僕が娘に話していたことを伝えてもいいかな?」
「うん、いいですよ。」
「どんな話ですか?」
ボクとギーちゃんが問いかけると、カーノさんはある日、ノルカちゃんが「どうして2人は急にわたしのもとを去って行ってしまったの?」と言われた時のことを話してくれた。
彼が言うには、ボクたちは時を旅する人だそうだ。
そして500年後の世界で大変なことが起きていることを察知して、遠い昔から時空を超えてやってきてくれたこと。
ノルカちゃんと協力してカーノさんたちを助けた後、すぐに旅立っていかないと離れにくくなってしまうこと。
もしその世界に居続けたら、次の世界で困っている人達を助けられなくなってしまうこと。
だからあの時「急でごめん。サヨナラだ。」と言って、去っていったということを伝えてくれた。
「君達は、また次の世界に行って、困っている人達を助けるつもりでいるかい?」
カーノさんは興味津津に聞いてきた。
「それは違います。オイラたちは時の旅人なんかじゃありません。」
「ボクたちが500年後の世界に行ったのは、全くの偶然なんです。」
「えっ?そうなのかい?」
「はい。」
「はい。」
カーノさんがノルカちゃんに言い聞かせていたことは、実際とはまるで違っていた。
そのため、ボクたちは誤解を解くために、なぜあの時急にサヨナラをしなければならなかったのかを正直に話した。
「そんな理由があったのかね…?」
カーノさんは思いもよらないことを聞かされてしまい、動揺したような口調で問いかけてきた。
「はい、実はそういう理由だったんです。」(ボク)
「じゃあ、もし大きな地震が来て、トンネルがふさがってしまうようなことがあったら、今度は僕達が…?」
「…そうなってしまうかもしれません。」(ギーちゃん)
「それなら、僕達はここにいる間、そうならないことを祈りながら過ごすしかないのか…。」
カーノさんは思いもよらない事実を知らされてしまい、動揺を隠せなかった。
「…でも君達、このことは妻と娘には黙っていてくれないか?」
「はい、分かりました。」(ギーちゃん)
「内緒にしておきます。」(ボク)
ボクたち3人は動揺しながらも、何とか気持ちを落ち着かせて、ノルカちゃんの目覚めを待ち続けた。
…ノルカちゃん、ボクもう待ちきれないよ。早く目を覚ましてよ。
君の髪飾りを早く返してあげたいし、積もる話もいっぱいある。
何より、ボクは早く再会の喜びを分かち合いたいんだ。
だからお願い。早く目を覚ましてよ…。