Together   作:地球の星

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ステージ4:時空を越えて

(※このステージ4では、冒頭からしばらくの間、主語が三人称形式になります。)

 

 リュウちゃんとギーちゃんは眠い目をこすりながら、ベッドに横たわるノルカちゃんが目を覚ますのを、今か今かと待ち続けた。

 最初は徹夜をしてでも待つつもりだったが、とうとう睡魔に耐えられなくなったのか、いつの間にかぐっすりと寝込んでしまっていた。

(やれやれ。やっぱり子供だな。でもこんな夜遅くまで起きてくれるだけでも大したもんだ。2人とも、本当に娘に会いたがっていたんだな。)

 カーノはそう思いながら2人に布をかけ、自身はろうそくの火で部屋を照らしながら娘の寝顔をじっと見つめていた。

 

 それから30分後。彼はかすかな女の子のうめき声を聞いたような気がした。

 もしやと思った彼は、ろうそくをノルカの顔に近づけた。

 彼女の目は少しではあったが、確かに開いていた。

「ノルカ。気が付いたかい?」

 カーノはささやくような声で問いかけてみた。

「……。…パ…パ…?」

 彼の耳にはかすかではあったが、女の子の声が返ってきた。

「おおっ!気が付いたんだね。」

 そう言った途端、カーノの表情はどんどん明るくなっていった。

(良かった。気が付いた。この時をどれ程待っていたことか。)

 彼は長いこと付きまとわれていた不安からついに解放され、ほっと息をついた。

「…パ…パ…。 …リュウ…は…? …ギー…は…?」

 ノルカは弱々しい、かすかな声で父親に問いかけた。

 これまでだったら彼女は2度と会えない悲しみから泣き出してしまい、その度に両親はどうしてあげようもない無力さに打ちひしがれるところだったが、今回は彼の表情は明るかった。

「ノルカ。彼らに会いたいかい?」

「…うん…。」

「じゃあ、今から驚くようなものを見せてあげるからね。」

「…えっ…?」

 ノルカは信じられない気持ちになりながら返事をした。

 無理もないだろう。これまで両親からは常識で考えてもう会えないような言われ方をしており、それが突然違う言い方になったのだから。

「実は、お父さん達はね、今500年前の世界に来ているんだよ。あのデセオ山で会ったディースさんという女性に連れられてね。そしてお父さん達はリュウ君とギー君に一足先に再会して、彼らに助けてくれたお礼を言ったんだよ。もちろん2人はお前に会いたいとずっと思っていてくれたよ。そして、お前が目を覚ますのを、この部屋でじっと待ち続けていてくれたんだ。」

「…ほん…とう…に…?」

「本当だよ。今2人は眠っているけれど、起こしてもいいかい?」

「…いい…の…?」

「うん。彼らは1秒でも早く会いたがっていたからね。じゃあ、今から起こすよ。」

 カーノはそう言うと、後ろを向いて、熟睡(爆睡?)している2人の体をゆすった。

 

(※ここらは主語が一人称になります。)

 

「ふわああ…。ボク…、いつの間にか…寝てたの…?」

 何度も声をかけられ、体を激しくゆすられたボクは、大きなあくびをしながらつぶやいた。

「ふわああ…。オイラ…、どうしたんだろ?記憶が…?」

 隣では、ギーちゃんもボクとほぼ同時に大きなあくびをしながらつぶやいた。

「2人とも。寝ぼけてないでちゃんと目を覚ましなさい。」

 かたわらでは男の人がそう忠告する声が聞こえた。

 それでもボクはまだしっかりと目が覚めておらず、また大きなあくびをしながら

「ふわああ…。おじさん…、あれからノルカちゃん、どうなったの?」

 と問いかけた。

「さっき目を覚ましたよ。だから君達を起こしたんだ。」

「えっ?ノルカちゃん、本当に目を覚ましたの?」

 ギーちゃんはさっきまで寝ぼけていたのが嘘のように、元気な口調で問いかけた。

「本当だよ。さあ、彼女と再会する時が来たよ。しっかりとその姿を目に焼き付けるんだよ。」

「はい。分かりました。」

 ボクがそう答えた時には、ボク自身もすっかり眠気が覚めていた。

「ノルカ。リュウ君とギー君だよ。」

 カーノさんは後ろを向きながらそう言うと、その場から移動して、ベッドがよく見えるようにしてくれた。

 そこにいる人は確かに目を覚ました状態のノルカちゃんだ。

「ノルカちゃん!」

「ノルカちゃん!」

 ボクとギーちゃんは同時にそう言うと、彼女のすぐそばにまで近寄った。

「…リュウ…。…ギー…。」

 ボクたちの耳には、かすかに女の子の声が聞こえた。

 その声は弱々しいけれど、確かに聞き覚えがある。そう、デセオ山で別れ際に聞いた、あの声だ。

「そうだよ!リュウだよ!」

「うん、ギーちゃんだよ!」

 ボクたちは同時に、叫ぶような声でそう言った。

(ただ、同時だったため、ノルカちゃんには何と聞こえたのか分からないけれど。)

 それを聞いたノルカちゃんは、ゆっくりとほほ笑んでくれた。

「あっ、笑った。良かった。笑ってくれて。思えば、娘の笑顔を見るのは久しぶりだ。」

 カーノさんは、ボクたちの背後から嬉しそうな口調でそう言った。

 こんなに嬉しそうな言い方をするということは、ノルカちゃんが最後に笑ったのは、一体いつだったのだろう。

 もしかしたら、ボクたちが500年前の世界に帰ってしまった、あの日以来なのだろうか?

 そう思ったボクは、カーノさんに聞いてみたくなった。でも、すぐにそれはやめることにした。

 もしそうだったとしたら、せっかくのいい雰囲気を壊してしまいそうな気がしたからだ。

 とにかく、今はノルカちゃんが目の前にいる。

 だからボクは、500年の時を越えて再会できた喜びに浸ることにした。

 すると、目の前でノルカちゃんが「リュウ…、ギー…。」と声をかけてきた。

「何だい?ノルカちゃん。」

 ギーちゃんは、興味津津に質問をした。

「会い…た…かった…。」

 相変わらず弱々しい声ではあったが、さっきより口調ははっきりとしていて、言葉と言葉の間の時間も短くなった。

「うん。オイラも会いたかったよ。ノルカちゃんのこと、忘れた日はないよ。ずっと会いたかったよ!」

 ギーちゃんは思わず大声でそう言った。

(ちょっとギーちゃん、それは嘘でしょ。本当は結構忘れていた日があったくせに。まあ、ボクも忘れていた日がそれなりにあったから、人のこと言えないけれどね。)

 ボクはちょっと渋い顔をしながら、ポケットの中に手を入れた。

「ホン…ト?」

「本当だよ!もちろんリュウちゃんもだよ!ね?リュウちゃん。って、何をしているの?」

「ん?ああ、ノルカちゃんに渡したい物があって。」

「渡したい物?ああ、あれか。」

「そう。あれだよ。」

 ボクはそう言うと、ポケットからある物を取り出し、ノルカちゃんに見せた。

「ノルカちゃん。ほら、これ。」

「それ…、わたしの…。」

「そう。あの時、ノルカちゃんがボクたちにくれた髪飾りだよ!会えたら絶対に返してあげようって決めていたんだ。」

 ボクはそう言うと、その髪飾りを彼女の右手の上に乗せた。

「あり…がと…。」

 ノルカちゃんはそう言うと、ゆっくりと指を動かし、包み込むようにそれを持ってくれた。

 そしてボクたちの方を見ながら、ニッコリとほほ笑んでくれた。

 ボクたちもそれを見て、お返しのようにニッコリとほほ笑んだ。

(※それから約15秒後、お母さんがここにやってきて、「あんたたち、夜遅いんだからもうちょっと静かにしてくれない?」と言われてしまいました(汗)。)

 

 なお、後で知ったことですが、その時、お母さんのかたわらにはルシアさんがいました。

 そしてボクたちには聞こえない程度の小声でしたが、

「ノルカ、良かったね。2人に会うことができて。これまで色々な苦労があったけれど、あきらめずにディースさんにお願いし続けた甲斐があったわ。そしてリュウ君とギー君、娘に会ってくれて、そして彼女を笑顔にしてくれてありがとう。」

 と、微笑みながらささやいたそうです。

 ルシアさん、ボクたちが騒いだせいで起こしてしまってごめんなさい。

 でも、ボクたちににっこりとほほ笑んでくれたことには救われましたし、「ありがとう」と言ってくれたことは本当にうれしかったです。

 

 その後、ボクとギーちゃんは何も言わずにノルカの顔をじっと見つめていた。

 すると彼女はいつの間にか目を閉じてしまい、再び眠りについていた。

「ノルカちゃん、寝ちゃったね。」

 ギーちゃんはもっと色々話をしたかったのだろう。ちょっと残念そうな顔をしていた。

 それはボクも同じだ。正直、話したいことなら山ほどある。

 でも、それがノルカちゃんの負担になってはいけない。何より、彼女に会うという目的は果たすことができた。

 多分、彼女もボクたちに会いたいという願いを叶えることができたから、安心したのだろう。

 その証拠に、彼女はとても幸せそうな顔をしながら眠っていた。

 それなら、こっちも寝ることにしよう。

 ボクはそう思うと、カーノさんにそのことを伝えた。

 そしてボクとギーちゃんは再び横になり、また眠りに落ちていった。

 

 朝。ボクたちが目を覚ますと、ノルカちゃんは眠っていた。

 恐らく朝食の代わりなのだろう。彼女は再び点滴を打っていた。

 かたわらにはカーノさんの残したメモが置いてあった。

 その中には、ノルカちゃんが夜中に目を覚まし、ボクたちに再会できたことや、点滴を開始した時間、そしてそれが済んだら、水やスープでいいから何か与えてほしいという内容が書かれていた。

 ボクとギーちゃんがそれを読んでいると、ドアをコンコンと叩く音がし、

「リュウちゃん、入ってもいい?」

 という声がした。お母さんの声だ。

「はい。いいですよ。」

 ボクがそう答えると、ドアが開き、お母さんが入ってきた。

「リュウちゃん、ごはんよ。ノルカちゃんの面倒は私とルシアさんで見るから、あなたは朝食を食べなさい。」

「はあい。」

 ボクは一瞬、ここで食べてもいい?と聞くつもりだったが、それはやめて、ちゃんと台所で食べることにした。

「リュウちゃん、オイラは一旦家に戻るよ。」

 ギーちゃんはそう言うと、スクッと立ち上がった。

「うん。じゃあ、また後でね。」

ボクがそう言うと、「おうっ。」と言い、家に向かって一目散にかけ出していった。

 

 5分後。ボクが食事を取っていると、お母さんは台所にやってきて、何かを探し始めた。

 恐らくあのメモを読んで、何かノルカちゃんに食事を取らせてあげることにしたのだろう。

「ええっと…、水じゃあ物足りないし…。あっ、オレンジをしぼって持っていったら喜ぶかしらね。」

 お母さんはそう言うと、近くのザルに入っているオレンジに手を伸ばした。

 しかし慌てているせいか、手に取ったものは…。

「お母さん。それ、オレンジじゃなくて、レモンだよ。」

「えっ?…。あっ、本当ね。ありがとう、リュウちゃん。」

 お母さんは相変わらず(?)オッチョコチョイぶりをしっかりと発揮していた。

 その後、お母さんはオレンジを2個しぼると、そのしぼり汁を容器に入れ、スプーンを持って台所を後にしていった。

(そうか。ノルカちゃん、目を覚ましたんだ。良かった。できることならボクもノルカちゃんにごはん食べさせてあげたいな。でもそれならお母さんやルシアさんの方が慣れていると思うし、おまかせした方がいいのかな?)

 ボクはパンをほおばりながらそのように考えていた。

 朝食を食べ終わったボクは、お皿を洗うと、すぐにノルカちゃんのいる部屋に入っていった。

 そこでは、お母さんがスプーンでオレンジのしぼり汁をすくっては、ノルカちゃんに一口ずつ飲ませている姿があった。

 その手つきは結構手慣れたものだった。多分、ボクが幼かった時も、このようにして食べ物を与えてくれていたんだろう。

 ノルカちゃんは飲み込むのに苦労しているのか、時々せき込むような仕草をすることがあった。

(相当体が弱っていたんだな。そんな状態になる程ボクたちのことを思ってくれていたなんて。)

 ボクがそう思っていると、彼女もボクに気付いたのだろう。オレンジジュースを飲みこむと、小さな声だけれどボクに向かって

「リュウ…。おは…よ…。」

 と言ってくれた。

「おはよう、ノルカちゃん。」

「ゆう…べ…、…んね…。お…って…し…ま…って…。」

 言葉に詰まったり、噛んだりしていたが、どうやら「夕べはごめんね。起こしてしまって。」と言いたかったようだ。

「大丈夫。ノルカちゃんに会えただけで、ボクはうれしいよ。早く元気になってね。そしてギーちゃんと3人で一緒に遊ぼうね。」

「うん…。」

 ノルカちゃんは首をかすかに下に動かしながらうなずいてくれた。

「さあ、リュウちゃん。これから私とルシアさんの2人でノルカちゃんの体を動かす訓練をするから、ちょっと外に行ってもらってもいい?」

「ええっ?ボクも何か協力したいのに。」

「確かにその気持ちは分かるけれど、お願い。それに体もきれいに拭きたいし。」

「ちょっとニーナさん!男の子の前で『体を拭く』なんて言っちゃダメ!」

「あっ…、ごめんなさい。うっかり口を滑らせてしまって。」

 ルシアさんに突っ込まれる姿を見て、ボクはつくづくお母さんのオッチョコチョイぶりを感じずにはいられなかった。

「はあい。分かりました。じゃあ、ボクはギーちゃんと出かけることにします。」

 ボクは少しがっかりしながら自分の部屋に行った。

 そして、自分の剣を振りながら、準決勝や決勝でのシーンを頭の中で再現しながらイメージトレーニングをしていた。

その最中、ボクは誰かが急ぎ足でドタバタと家に入ってくる音を聞いた。

そして次の瞬間、扉をバタンと開けて「ノルカちゃん、起きた?」という、ギーちゃんの声を聞いた。

すると「キャーーッ!ちょっと待って!!」「ギー君、今は入ってこないで!!」という、お母さんとルシアさんの悲鳴のような声と、「ワーーッ!!ごめんなさいいっっ!!」というギーちゃんの大声を聞くことになってしまった。

(あちゃー、やっちゃったね…。)

 ボクは思わず苦笑いを浮かべるしかなかった(汗)。

(※ギーちゃんは扉を閉めた後、ようやく「入っちゃダメ!」という貼り紙に気が付きました。)

 

 その後、ボクたち2人は家から少し離れたところにやってきて、それぞれ剣と弓の稽古を始めた。

 ボクは頭の中で大会の状況を再現しながら、自分の剣で何度も何度も素振りを繰り返した。

(あの準決勝。勝つには勝ったけれど、あんな内容では喜べない。それに相手に申し訳ない。できることなら試合後に謝りに行きたいくらいだった。)

 あれ以来、あの試合のことは頭から離れなかった。

 もちろん相手の人もあの悔しさは決して忘れないだろう。

 もし今度直接対決をする機会があったら、死に物狂いで向かってくるに違いない。

 その相手に勝つためには、自分自身が相手以上に腕を上げるしかない。

 ボクはあの試合のシーンを頭の中で何度も再現しながら、素振りを繰り返した。

 

 一方、木にくくりつけた的を目がけて弓を射ているギーちゃんは、どうも命中率が悪いようで、的の中心になかなか当たらなかった。

 時には的そのものを外してしまうことさえあった。もしこれが大会だったら、絶対に敗退してしまうだろう。

 不思議に思ったボクは、ギーちゃんが時々顔を赤らめてしまい、練習に集中できていない様子であることに気付いた。

「ギーちゃんどうしたの?まさかあれを思い出しているの?」

「思い出しちゃうんだよおおっ(汗)。」

「まあ、思いもよらないことだったからね。」

「うん。だって普通思わないでしょ。扉を開けたらいきなり女の子の

(注:この後の会話にはきわどい内容が含まれるため、カットさせていただきます。)

 

 30分後。ボクたちが練習を続けているとお父さんがやってきた。

「2人とも。ここにいたのか。」

「あっ、お父さんどうしたの?」

「ニーナからの伝言で、もうノルカちゃんに会ってもいいということだそうだ。」

「分かりました。じゃあ、もう少し練習をして、切りがついたら家に戻ります。」

「もう少しやるのか。それならお前が納得するまでお父さんが相手をしてやろうか?」

「えっ?いいの?」

「ああ。どうやらあの準決勝を再現しているような動きをしていたからな。どうしてもあの娘に堂々と勝ちたいと思っているだろ?」

「うん。あの気持ちを振り払うにはそれしかないと思っているから。」

「じゃあ、僕が仮想の相手になってやろう。ヘルメットを渡してくれるか?」

「えっ?いいけれど、これどうするの?」

「お父さんがこれを手に持って、あの娘の動きを再現する。リュウはヘルメットに竹刀で攻撃を決めてくれればいい。」

「あっ、なるほど。分かりました。」

 ボクはそう言うと、剣を竹刀に持ち替え、さらにヘルメットを拾って差し出した。

 お父さんはそれを受け取ると、彼女の身長くらいの高さで静止させた。

「それじゃ、始めるぞ。」

「はいっ!」

 ボクは一気に距離を詰めると、ヘルメットめがけて竹刀を振りおろした。

 しかし、目つきの変わったお父さんは素早く動いて攻撃をかわした。

 次の瞬間、ボクは次の攻撃を繰り出し、続けざまに攻撃を繰り返した。

 だけどお父さんはボクの動きが読めるのか、素早くかわし続けた。

(お父さんは本気を出していない。完全に彼女のレベルに合わせている。しかもお父さんは攻撃をしてこない。だけど、彼女は次の大会では絶対に今以上に腕を上げてくる。ここで決められなければ絶対に勝てない。)

 そう考えるボクの心の中では、次第に焦りがつのってきた。

 するとそれまでかわすばかりだったお父さんが持っていたヘルメットで突如攻撃をしてきた。

「ボコッ!」

 攻撃ばかりで防御を全然考えていなかったボクは完全に不意をつかれてしまい、あっさりと頭に攻撃を受けてしまった。

「まずは1ポイントだ。どうだ?もう1回勝負するか?」

「うん。やります!」

「じゃあ、今度は最初から攻撃をするぞ。大丈夫か?」

「えっ?」

 ボクの脳裏には嫌な予感がよぎった。

 最初から攻撃して来ようものなら、一瞬で勝負がついてしまうかもしれない。

 でもそんな気持ちでは勝負する前からすでに負けが決まってしまうようなものだ。

「やります!」

 ボクは素早く気持ちを切り替え、2回戦を行うことを受け入れた。

 …しかし、嫌な予感はしっかりと的中し、勝負は一瞬でついてしまった。

「…負けちゃった…。」

「ちょっとやりすぎたかな?」

「そんなことない。もし今試合をしたら多分こうなると思う。」

「そうか。それならお前自身が強くなるしかないな。」

「うん。絶対に強くなる。」

「じゃあ、もうそろそろ家に帰るとしようか。ギーちゃんはすでに片付けをしているしな。」

「はあい。」

 ボクは悔しい気持ちを抱えながらも、その気持ちをそっと心の中にしまいこみ、お父さんとギーちゃんと一緒に家に戻っていった。

 

 家に入ると、ボクとギーちゃんは真っ先にノルカちゃんのいる部屋に入っていった。

 彼女はすでにあの髪飾りで髪を縛っている状態だった。

 そして今朝より元気になっていて、ある程度自分で手足を動かすことができるようになっていた。

 どうやらお母さんとルシアさんは体を拭いた後、本当に体を動かす訓練をしていたということなのだろう。

 まだ起き上がることはできないけれど、表情も明るくなり、少しずつ元気になっていることはすぐに分かった。

「ノルカちゃん、ただいま。」

「リュウ、おかっ…えり。」(←噛んだ。)

 彼女の口調は今朝よりもはっきりしていて、弱々しかった声も少し元気になっていた。

「ところで、ギーちゃん。」(←ここではちゃん付け)

「何?ノルカちゃん。」

「見た?」

 それを聞いた後、ギーちゃんは一瞬間を開けてその言葉の意味を理解し、途端に「ワーーーッ!」と言いながら顔を真っ赤にしてプルプル横に振り、右手で「無い無い」のジェスチャーをした。

 それを見てノルカちゃんはにっこりと笑ってくれた。どうやらちょっとイジりたかったのだろう。

 ボクは苦笑しながらも、彼女が笑ってくれたことが嬉しかった。

(ノルカちゃん。早く元気になってね。そして、3人で一緒に出かけようね。この世界を案内してあげるから。)

 ボクはそう思いながら、去年(ノルカちゃんにとっては3ヵ月前)みんなで旅をした時のことを思い出していた。

 




没ったんですよ

(「あんたたち、夜遅いんだからもうちょっと静かにしてくれない?」の後のシーン)
「あっ、お母さん!あのね、ノルカちゃんが目を覚ましたんだよ!」
「そうそう!オイラたち、今、その喜びを分かち合っているんだ!」
「お母さんもノルカちゃんに会う?」
「…あのね。そのせいで私は起きてしまったのよ…。再会できたのはいいけれど、この後は静かにして。お願いだから、ふわあああっ…。」
「…はあい。分かりました…。」

 せっかくの再会の雰囲気がぶち壊しだったため、没ったんですよ。
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