Together   作:地球の星

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ステージ6:運命のいたずら

 キュロという男性とシームという女性との戦闘は厳しいものだった。

 まずボクたちは子供。相手は大人だ。しかも2人ともかなり体が大きく、特にキュロは見るだけで威圧感を感じる程の凄い体格をしていた。

 彼は肉弾戦であっても相当な強敵になるのは間違いない。それに加えて強力な弓でボクたちに攻撃を仕掛けてくる。

 もし、まともに矢を受けてしまったら、命の保証はない。

 一方のシームは何かを塗りつけた矢を扱っている。

 もしそれが毒だったら、これも命の保証はない。

 とにかくはっきり言えることは、隙を見せればたちまちやられてしまうということだった。

 だからボクたちは常にこの2人に気をつけなければならなかった。

 さらに厄介なのは、もし相手を傷つけてしまうようなことがあれば、ボクたちは加害者になってしまう。

 正直、下手に武器を使うことはできない。しかもボクのかたわらにはノルカちゃんがいる。

 こんな状況で、ボクたちはこの場を切り抜けなければならない。

 とにかく、相当やりにくい戦いだった。

 そんな中、ギーちゃんはうまく動き回り、隙を狙って何とか相手の持っている武器を弾き飛ばそうとしていた。

(ギーちゃん、頼む。ボクはノルカちゃんを守らなければならないから、この場をあまり動けない。何とかしてくれ。)

 ボクは放たれる矢を必死になってはじきながら心の中で声をかけた。

 一方のギーちゃんはシームが矢を放った時、ほぼ同時に彼も矢を放った。

 すると2つの矢はお互い正面から命中して方向を変えて飛び、地上に落下した。

(ギーちゃん凄い。こんな練習一度もしたことないはずなのに。)

 ボクは自分でも信じられないような光景を目の当たりにし、驚きを隠せなかった。

 しかし次の瞬間、今度はキュロが矢を右手に持ち、槍のように構えながらギーちゃんめがけて襲いかかってきた。

 接近戦なので、これでは弓で戦えない。

 ギーちゃんもそれが分かっているのだろう。今度は蹴りを中心に応戦をしてきた。

 すると、シームはまたギーちゃんめがけて矢を構えた。

(いけない!ギーちゃんがやられてしまう!)

 ボクははっとしてそう思うと、とっさにノルカちゃんから離れ、シームの方に向かっていった。

「うおおおッ!」

 ボクは持っていた剣を振り上げ、今矢を放とうとしている彼女の手元で思いっきり振りおろした。

「ガチーーーン!!」

 クロスボウは大きな音を立てて彼女の手元から離れ、その場にドサッと落ちた。

(しめた!)

 そう思ったボクは素早く、それを拾い上げ、力一杯投げ捨てた。

「くっ…。」

 武器を失ったシームは、顔をしかめながらそう言うと、その場に立ちつくしてしまった。

 ボクはその隙を逃さず、今度は彼女が持っている矢をつかみ取ると、やはり力一杯投げ捨てた。

(よし!これでこの人に関してはカタが付いた。後はギーちゃんが男の人を何とかしてくれれば。)

 ボクは少しほっとして、彼の方を見た。

 すると、その前を狼の姿をした女の子が駆け足でやってくるのが見えた。

(えっ?彼らの子供?一体どこに隠れていたんだ?)

 ボクが一瞬そう思うと、彼女はノルカちゃんに走りながら近づいてきた。そして素早く左手を伸ばし、背負っているリュックに手をかけて、奪おうとした。

「きゃっ!」

 ノルカちゃんは引っ張られた勢いで、その場に倒れこんでしまったが、それでも力いっぱい抵抗をし、結果的にリュックの引っ張り合いになった。

(助けなきゃ!)

 ボクはとっさにそう思うと、ノルカちゃんに加勢しようとした。

 しかし次の瞬間、ボクは背後から思いっきり蹴りを入れられ、地面に叩きつけられた。

「痛ああっ!」

 受け身を取れなかったこともあるけれど、この攻撃は結構痛かった。もしかしたら、靴に何か細工をしているのだろうか。

とにかく、痛みの中でボクは顔をしかめたままのた打ち回り、立ち上がれずにいた。

 シームはこんなボクの姿を見て、まるで隙ありと言わんばかりに、蹴りを繰り出してくるようになった。

 しかもよく見るとその靴の先端には何かが貼りつけてある。恐らく鉄のような金属だろう。

 こんな攻撃をまともに受けたら、それは痛いわけだ。

(これ以上攻撃を受けてたまるか!)

 そう思ったボクはまだ痛みと闘いながらも、必死に受け身をして攻撃を防いだ。

 しかし全部を防ぐことはできず、ついにお腹に蹴りを入れられてしまった。

「ぐあっ!」

 背中だけでなく、今度はお腹にも痛みが走った。だが、それと同時に、ボクはその蹴ってきた足を両手で受け止めた。

「離せ!」

「離すものか!」

 シームは必死に足を振り、ボクの手を離そうとした。彼女は女性だけれど、狼ということもあるのだろうか、かなりの力の持ち主だ。

(とにかく、この靴を脱がしてしまえば…。)

 ボクはそう思うと、その靴に手をかけ、何とか引きはがした。

 これで相手の攻撃力を下げることはできた。とはいえ、まだ片足だけだ。できることならもう一方の足の靴も脱がしたい。

シームもそれを分かっているのか、今度はそちらの足で蹴りを入れようとしてきた。

 どうやらそちらの足は利き足ではないようで、さっきよりは対処をしやすくなった。

 ボクはそのチャンスを逃さず、蹴りを受け止めると、素早く靴を脱がして放り投げた。

 これで勝負あった。ボクは一瞬そう思った。

だが、シームはまだあきらめていないのか、今度はポケットに手を入れ、何かを取り出した。

 小瓶だ。それもラベルにはドクロマークが描かれている。

(毒?もしかして、矢に塗りつけていたのはこれだったのか?)

 ボクがそう思っていると、彼女はふたの部分を持ち、開封しようとする動作を始めた。

 いけない!こんなものを使ってきたら…!

 身の危険を感じたボクは力いっぱいシームに足払いをくらわせた。

「きゃあっ!」

 彼女はその場に背中からドサッと倒れこんだ。

 今度こそ降参するだろう。ボクはそう期待をした。

 しかし彼女は仰向けに倒れながらも、小瓶をボクめがけて投げつけようとしてきた。

 こんな至近距離でそんなことをされたら、とてもよけられない!

(やられる!)

 そう思った時、近くで「そこまでだ!」という声がした。

 その声は聞き覚えがある。そう、お父さんだ。

 お父さんは早速ボクのところに来てくれて、さや越しに剣を振り、シームの持っている小瓶を弾き飛ばした。

 彼女はなおも抵抗を続けようとしたが、お父さんの怖い表情を見て委縮してしまったのか、途端に戦意を喪失してしまった。

(お父さん、凄い!これだけで相手を降参させてしまうなんて。)

 ボクはまだ背中とお腹の痛みと闘い続ける中で、改めてお父さんの凄さを感じていた。

 

 一方、お父さんとほぼ同時に姿を現したギリアムおじさんは、素早くキュロの腕を掴み、ひねり技をかけた。

「痛ててててっ!!」「ぐああああっ!」

 力任せに技をかけられたキュロは、叫び声をあげるばかりで攻撃をするどころではなくなった。

「ギー達に危害を加えるんじゃない!これは傷害罪だ!」

 おじさんはお父さんと同じ、いやそれをも上回る程のものすごい形相をしながら声をかけた。

 さすがの筋肉質な体形のキュロであっても、おじさんのかける技の痛みに耐えかねたのだろう。とうとう口から泡をふき出してきた。

 それを見たおじさんが腕を離すと、その場に倒れこんでしまった。

 これでキュロとシームの盗賊夫婦を懲らしめることができた。しかし、女の子とノルカちゃんはどうなったのだろう?

 それが気になったボクは、リヤカーの近くにいる2人に注目した。

 すると、ノルカちゃんは痛そうな表情で左手を抑えながらその場にうずくまっており、女の子は顔を押さえて仰向けになっていた。

 2人とも様子がおかしい!

 そう思ったボクは、痛みをこらえながら、ノルカちゃんのところに歩み寄っていった。

「ノルカちゃん、どうしたの?」

「痛いよお…。」

 ノルカちゃんはボクの問いかけに対し、そう言っただけで、ただ痛がるばかりだった。

 一方の女の子もリュックに手を伸ばそうともせずに、顔を抑えたままのた打ち回るばかりで、起き上がれない状態だった。

 それによく見ると、指の隙間からは血があふれている。鼻血を出しているようだ。

「キロ!何をしているの!」

 シームは少し離れたところに立ったまま、キロという名の女の子に声をかけてきた。

「鼻をぶつけた。痛いよお…。ママ…。」

「痛がるんじゃないの!キュロにそう言われたでしょ!」

「だって…。また鼻血が…。」

「顔に出すんじゃないの!忘れたの!?」

 またってことは、どうやらキロちゃんは以前にも鼻血を出すケガしていたことになる。

 それはおじさんも気が付いたようで、シームに向かって「またって、どういう意味ですか?」と問いかけてきた。

「どうだっていいでしょ!こちらのことに干渉しないでください!」

「いいえ。これは虐待の可能性があります。しかもこの子はよく見ると腕にも傷があります。日頃からお子さんに何をしていたんですか?」

「単なるしつけです!」

「しつけにしては度を越しています。警察の人に調査を依頼するので、ついてきてくれますか?」

「警察って!」

「あなた達自身の窃盗に加えて、うちの息子達への暴行罪、この子への虐待、強要の罪が疑われます。ついてきて下さい。」

 ギリアムおじさんはそう言って、再び怖い表情を見せた。

 それを見て、シームもこれ以上は何も言えなくなってしまった。

 

 一方、お父さんはノルカちゃんの左手を心配そうに見ていた。

「お父さん、ノルカちゃん、大丈夫?」

「大変なことになったようだな。」

「大変って、どんな?」

「骨折しているようだ。」

「えっ…。」

 思いもよらないことを言われてしまい、ボクは思わず茫然としてしまった。

「お父さん、嘘だよね?」

「嘘だといいが…。」

「おじさん、そんな…。」

 かたわらに来ていたギーちゃんも、そう言ったきり茫然としてしまった。

「とにかく応急処置はしなければ。リュウ。その上着を貸してくれないか?」

「この赤色の上着?」

「そうだ。三角巾に使いたい。頼む。」

「分かりました。」

「それからギー君。」

「はい、おじさん。」

「首に巻いているスカーフを渡してくれ。包帯に使う。」

「分かった。」

「あと、2人にお願いだが、何かまっすぐな棒を持ってきてくれ。添え木に使いたい。」

「分かりました。」

「おじさん、了解。」

 ボクたちは、それぞれ上着とスカーフを手渡した後、そう言って棒を探しに行った。

 

 棒探しをしている最中に、ギーちゃんはノルカちゃんとキロちゃんがなぜあのようなことになったのかを話してくれた。

 あの時、2人でリュックの引っ張り合いをしている時、キロちゃんは体勢を崩し、倒れこんでしまった。

 その際、ノルカちゃんの体に覆いかぶさる形になり、結果的にノルカちゃんの左手がキロちゃんの体の下敷きになってしまった。

 恐らくその衝撃で骨折をしてしまったのだろうということだった。

 一方、キロちゃんは倒れこんだ時に顔を地面にぶつけたそうだ。

 しかしその痛がりかたが半端ではなかったため、恐らく以前から鼻をケガしていたのだろうということだった。

 あの時、自分のことで精いっぱいだったボクとは対照的に、ギーちゃんはそんな一部始終を見ていたことに、感心せずにはいられなかった。

(彼が言うには、キュロは攻撃力こそ超ド級けれど、素早さが低いため、ヒョイヒョイ攻撃をかわしていたそうです。)

 とはいえ、ギーちゃんもノルカちゃんに加勢できなかったことを悔やんでいた。

 

 ボクとギーちゃんはとりあえず添え木に使えそうな50cm程度の棒を手に入れて戻ってくると、さっそくお父さんにそれを手渡した。

「ありがとう。お父さんとギリアムは、それぞれノルカちゃんとキロちゃんの応急処置をする。それを終えたら、キロちゃんの両親を連れて町に行く。だから、リュウはノルカちゃんと一緒に家に戻ってくれ。」

「はい。って、お父さん。キロちゃんの処置もするの?」

「ああ。こういう状況では、加害者も被害者も関係ない。2人とも助ける。それに、このキロちゃんという子は悪い子ではない。ギリアムもそう言っていた。ギー君も分かるだろう?」

「くんくん。…確かに彼女からは悪いにおいしない。」

「恐らく両親に逆らえず、仕方なく盗みに加担させられていたんだ。キロちゃんは確かにノルカちゃんにとっては加害者だが、自身も被害者なんだ。だから、ギー君。彼女の面倒を見てやってくれ。」

「分かりました。」

 ボクとギーちゃんがお父さんと話していた時、かたわらでは、おじさんが自身のスカーフを使って、キロちゃんの止血作業をしていた。

 おじさんが「ふう…。どうにか止まったようだ。」と言った時、黄色かったスカーフはかなり赤く染まっていた。

その後、お父さんとおじさんは、2人の応急処置を済ませると、おじさんと一緒にシームを、そして目を覚ましたキュロを連れて、町へ向かっていった。

 

(※ここからはギーちゃんの一人称で物語が進行します。)

 

 父ちゃんたちの姿が見えなくなると、オイラとリュウちゃんはノルカちゃんをリヤカーの荷台に乗せた。

「じゃあ、リュウちゃん。ノルカちゃんを頼む。」

「分かった。気をつけてね。」

「うん…。」

 オイラたちは落ち込んだ口調でそう声を掛け合った。

 そしてリュウちゃんはリヤカーの取っ手を持つと、

「じゃあノルカちゃん。家に行くよ。しっかりつかまっていてね。」

 と声をかけた。

「うん…。」

 ノルカちゃんは痛みや突然ケガをしたショックを必死でこらえながら返事をした。

 そしてオイラは辺りが薄暗くなっていく中で、少しずつ遠ざかる2人の背中を見つめていた。

 

 キロちゃんと2人になった後、オイラはあの嫌な雰囲気から解放されたおかげで、ほっとしていた。

 しかしキロちゃんは相変わらずビクビクと震えていた。

「どうしたの?あっ、そうだ。まだ名前言っていなかったね。オイラはギーちゃん。本名はギリアム・ジュニア。父ちゃんからはギーって呼ばれているんだ。そして、オイラと一緒にいた男の子はリュウちゃん。女の子はノルカちゃんっていうんだ。君は確かキロちゃんだったよね?」

「うん、キロ…。」

「ねえ、キロちゃん。どうしてそんなに震えているの?せっかく親から離れることができたのに。」

「今度会ったら…、パパとママに…殺される…。」

「えっ?何で?」

「…いつも、逃げたら殺すって…。」

「大丈夫だよ。そんなの口だけだよ。」

「でも…、パパとママ…、においでどこまでも追って来る…。あたし…逃げられない…。」

「においって、君も狼だから、においくらい分かるでしょ?」

「あたし…、分からないの…。」

「えっ?」

「においが分からないの…。」

「そんな…。」

 キロちゃんから思いもよらないことを聞かされて、オイラは思わず言葉に詰まってしまった。

 話によると、彼女は以前、本当に家から逃げ出そうとしたことがあったそうだ。

 しかし父親に見つかってしまい、連れ戻されてしまった。

 そしてその際、怒りで我を忘れた彼から顔を殴られ、鼻血が止まらなくなる程のケガをしたそうだ。

 その後、血は何とか止まったものの、それ以来においを感じることができなくなってしまったということだった。

「ちょっと!それじゃ、おおごとじゃないか!お医者さんに診てもらわないと!」

「ダメなの。」

「何で?」

「このことはパパとママにひた隠しにされているの。他の人に知られたら面倒なことになるって…。だからあたし、たとえ骨折したとしても、お医者さんのところに行けないの…。」

「そんな…。」

「あのね、ギー…君って、呼んでもいい?」

「うん、いいけれど、何?」

「お願い。あたしのことはもう構わないで。これ以上かかわると、ギー君を巻き込んで、不幸にしてしまう…。」

「大丈夫だよ。オイラは父ちゃんに鍛えられてきたから、そこら辺の大人より強いんだ。それにさっき、君のお父さんと戦っても、やられなかっただろ?」

「う、うん…。」

「だから、オイラのことは心配しなくていいよ。だからさ、キロちゃん。」

「何?」

「できることなら、君が今まで経験したことを話してくれないか?」

「でも…。」

「大丈夫だよ。オイラ、君の力になりたいんだ。」

「……。」

 キロちゃんはどうすればいいのか分からないのだろう。黙り込んでしまった。

「君は、今までずっと1人ぼっちだったんだろうけれど、今日からはオイラがいる。君はもう1人じゃないよ。困った時は力を貸すよ。だからさ。」

「でも…。」

「遠慮はいらないよ。」

「……。」

 彼女の心の傷は相当深いのだろう。なかなか協力してくれそうになかった。

 オイラもどうしていいのか分からず、辺りには何とも言えない沈黙が漂った。

 でも、もう辺りは暗くなってきている。ここにいては何かに襲われるかもしれない。

 結局オイラは迷いを抱えながらも、自分の家にキロちゃんを連れていくことにした。 

 

オイラがキロちゃんと一緒に歩いていると、ふと、彼女が何か考え事をしていることが気になった。

「キロちゃん、どうしたの?」

「ちょっと…。ギー君のお父さんのことを思い出して…。」

「父ちゃんのこと?」

「そう。とても優しい狼なのね。スカーフをあんなにしてまで、あたしのために止血をしてくれたから。」

「そうかな?時として厳しいことも言うし、去年のある日(オイラが500年後の世界から帰ってきた時)には、大目玉をくらったけれどね。」

「そう…。でも、それを笑って言えるのがうらやましい…。あたしも、ギー君のような家庭に生まれたかった。もしそうなら、あたし、パパの命令でやりたくもない悪事に身を染めなくて済んだはずだし、ギー君のように友達に囲まれて、幸せに過ごしていたはず。だから…。」

「だから?」

「あたし、親を選べないのが悔しい…。もしギー君のような家に生まれたていたら、あたし、ノルカさんの荷物を奪おうとしたことも、彼女にケガをさせたことも、絶対にやっていなかったはずなのに…。」

 震えるような声でそう言うキロちゃんは、今にも泣き出しそうな表情をしていた。

 確かに、子供は親を選べない。

 オイラだって、もし彼女のような家に生まれていたら、どうなっていたんだろう。

 もしかしたら、キロちゃんのような人生になっていたのかもしれない。

 しかも彼女は「もう構わないで。」と言っていた。きっと今まで自分の苦しみを誰にも話せず、1人で背負いこんできたのだろう。

 でも、オイラにはその苦しみを話してくれた。

 ということは、今の彼女にとって頼りにできるのはオイラだけなのかもしれない。

 そう考えると、オイラの心には何とかしてあげなきゃという気持ちがわいてきた。

「じゃあ、今日からはオイラたちの家族になろう。」

 その発言にドキッとしたのだろうか。彼女は「えっ?」と言いながら、顔を赤らめたような表情でこっちを見た。

 実は、オイラ自身もドキドキしていた。

 何だろう、この気持ちは。

 リュウちゃんと一緒にいる時とは明らかに違う。

 ノルカちゃんと手をつないだ時にも感じたことがない。

 こんな気持ちって、もしかして…。

 そうだ。リュウちゃんも、あの時、こんな気持ちだったのかな…。

 ノルカちゃんの両親を助けるために、頑張っていたリュウちゃん。

 あの時、よく彼女と手をつないでいて、彼女のために頑張っていた。

 ノルカちゃんがさらわれた時には、オイラ以上に悔しがっていた。

 オイラたちが元の世界に帰れなくなってしまうかもしれない状況の中で、それでも彼女のために頑張る気持ちを変えなかった。

 あの時のリュウちゃん、凄くかっこよかった。

 凄く輝いて見えた。

 オイラもいつか、そんな日が来たらいいなと思っていた。

 もしかして、その時が今なのかな?

 オイラは今の自分とあの時のリュウちゃんをしきりに比べていた。

 そしてオイラは、リュウちゃんを真似しながら自分の手を差し出し、手をつなぐことを提案した。

 少し時間はかかったけれど、結果的にオイラとキロちゃんは手をつなぎながら家に向かっていた。

 

 家では母ちゃんが帰りを心配して待ってくれていた。

 母ちゃんは突然の訪問者に驚いていたが、においで悪い子ではないということを理解し、さらにオイラがこれまでの事情を話すと、納得して家に入れてくれた。

 家に入った途端、キロちゃんは緊張の糸が切れたのか、すぐに眠そうな表情になっていった。

 そして、母ちゃんが急いで用意してくれた寝袋に入ると、食事もとらないまま、眠りに落ちて行ってしまった。

(よほど辛い日々を過ごしていたんだろうな。かわいそうに。でも、何とかしてこの子の心を開いていかなきゃな…。)

 オイラはそう思いながら、ぐったりと横になっているキロちゃんの顔を見つめていた。

 

(※ここからはリュウちゃんの一人称で物語が進行します。)

 

 ボクがノルカちゃんを乗せたリヤカーを重い足取りで引いていると、やっと自分の家が見えてきた。

 玄関の扉の前では、お母さんがボクたちの帰りを待ってくれていた。

「2人とも遅かったじゃない。どうしていたのよ。」

 お母さんはこちらに駆け寄ってくるなり、少し怒ったような口調で言ってきた。

「ごめんなさい。」

「まったく、服を汚しちゃって!…って、あなた、上着はどうしたのよ。」

「ノルカちゃんの左手をつり上げるために使っています。」

「つり上げるって、えっ?ノルカちゃんどうしたのよ!これじゃ骨折しているみたいじゃない!」

「そうみたい…。お父さんがそう言ってた。」

「あらまあ!どうしてこんなことに!」

「…ごめんなさい…。ボクが彼女を守ってあげられなかったせいで…。」

 ボクが申し訳なさそうに言うと、お母さんの大きな声が聞こえたのだろうか、玄関の向こうからドタバタと足音がし、ルシアさんが姿を現した。

「ノルカ!」

「ママ…、うっ、ううっ…、うええーーん!!」

 ノルカちゃんはルシアさんが自分の近くまで来るのを見ると、とうとう気持ちをこらえ切れずに泣き出してしまった。

「ママーっ!痛いよおっ!」

「大丈夫よ。お母さんがついているからね。」

「ママーーーっ!」

 ルシアさんは泣きじゃくるノルカちゃんを優しく包み込んでいた。

 そしてノルカちゃんをリヤカーから降ろすと、子守唄のような歌を歌いながら一緒に家の中に入っていった。

 続いてボクとお母さんも家の中に入り、玄関の扉をそっと閉めた。

 その後、ボクはお母さんと一緒に自分の部屋に入ると、重い口調で盗賊の狼であるキュロとシームの2人に襲われたこと。

 2人と戦っている間にノルカちゃんがキロちゃんという女の子に荷物を盗まれそうになり、引っ張り合いになった末に、ケガをしてしまったことを話した。

「ボク、ノルカちゃんを守ってあげられなかった…。ケガをさせてしまった…。本当に悔しい…。」

「リュウちゃん。そんなに自分を責めなくてもいいわ。」

「でも…。」

 ボクは耐えきれない程の自責の念に襲われ、それ以上何も言えなくなってしまった。

 しばらくすると、カーノさんが「リュウ君。」と言いながら部屋に入ってきた。

「はい。何ですか?」

「これ、君の上着と、ギー君のスカーフだ。ありがとう。」

 カーノさんはそう言って、それらをボクに手渡してくれた。

「どういたしまして。あの、ノルカちゃんは?」

「僕とルシアで彼女の左手をしっかりと固定し、包帯と三角巾でつったところだ。」

「そうですか。ボクもノルカちゃんに会いに行ってもいいですか?」

「今はそっとしておいてくれないか?彼女は突然こんなケガをし、相当落ち込んでいる。心のケアなら僕とルシアに任せてくれ。それより、君はギー君のところに行って、そのスカーフを返してきてくれないか?」

「あっ、はい。そうですね。では、行ってきます。」

 ボクはそう言うと、スクッと立ち上がった。

「リュウちゃん、外はもう暗いわよ。気をつけてね。」

「はい、お母さん。気を付けます。」

 ボクはそう言うと、自分の剣を身に付け、全速力でギーちゃんの家に向かっていった。

 

「はい、ギーちゃん、これ。」

「ありがとう。」

 ギーちゃんはスカーフを受け取ると、早速首に巻いた。

 そしてボクたちはノルカちゃんとキロちゃんの状況について話し合った。

「キロちゃん、そんな壮絶な日々を過ごしていたんだね。」

「うん。親に逆らえなかっただけで、決して悪い子じゃないんだ。ノルカちゃんには申し訳ないけれど、せめて彼女を恨まないでほしいんだ。」

「分かった。でも…。」

「でも、何?リュウちゃん。」

「こんな運命のいたずらってあるんだね。ボクたちがお互い面倒を見ている女の子が、よりによって今回の件の被害者と加害者だなんて…。」

「うん。ノルカちゃんとキロちゃんは、どうやったら分かりあえるんだろうね…。」

 




没ったんだってば

「誰か来る。」
「誰かって、パパとママ?」
「かもしれない。ここにいては危険だ。キロちゃん、一緒に逃げよう。」
「…ダメ。足が震えて、あたし…、立てない…。お願い。ギー君1人で…。」
「そんなことできるもんか!さあ、行こう!」

「ギー君、こんなの(※お姫様だっこ)恥ずかしいよおっ。」
「いいから。このまま一緒に町へ行くよ!そして助けを求めに行こう!」

 話が長くなりすぎたため、没ったんだってば。
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