(※ここではギーちゃんの一人称で物語が進行します。)
あれから間もなく、リュウちゃんは真っ暗闇の中を自分の家に向かって駆け出していった。
その後、オイラが母ちゃんと一緒に夕飯を食べていると、父ちゃんがキュロとシームの取り調べを終えて、家に戻ってきた。
3人で食事をしながら、父ちゃんは今回の件について話してくれた。
彼ら2人は今回の件に加えて、ダンクさんによって今までの悪事が明らかになったことで、とうとう逮捕されたそうだ。
一方、キロちゃんに関しては、まだ逮捕できる年齢に達していないことに加え、親に強要されてやっていたということが考慮されて、無罪になった。
これによって彼女は今後親に会わなくてもよくなり、これ以上悪事に加担してしまう心配はなくなった。
ただ、いくら無罪になったとしても、ノルカちゃんの骨折が治るわけではないし、これまでにやってきたことは決して取り消すことはできない。
彼女が背負ってきた傷はあまりにも大きい。だから、時間は相当かかるかもしれないけれど、少しずつでも癒していかなければいけない。
食事を終えたオイラは、キロちゃんの寝顔を見ながら、何かいいアイデアが出てこないか考えた。
しかし、結局何もアイデアは浮かんでこなかった。
そうしているうちに、今度はノルカちゃんの方が気になってきた。
(ノルカちゃん、どうしているかな。リュウちゃんがついているとはいえ、オイラにも何かできることがあればなあ…。)
そう考えているうちに、段々いてもたってもいられなくなってきて、オイラは父ちゃんと母ちゃんにリュウちゃんの家に行ってくることを伝えた。
最初はもう真っ暗だからやめておきなさいと言われたが、ノルカちゃんもケガをして深く傷ついているから、放っておけないと言って説得した。
そして、キロちゃんに向かって「行ってきます。」と言うと、オイラは家を飛び出していった。
それから間もなく、辺りには地震が起きた。
別にこの程度の地震なら珍しくもないので、特に驚くことではなかった。
ただ、ノルカちゃんと両親がこの世界に来てから、体に感じる地震はすでに何回も起きている。
(※作中では地震の記述はこれまでありませんでしたが。)
幸いその程度であれば、次元のヒズミが埋まるようなことはないだろう。
でも、もし向こうの世界で大きな地震が起きていたら、埋まってしまうこともありうるかもしれない。
もしそうなったら、ノルカちゃんと両親は一体どうなってしまうんだろう。
たとえここで地震が起こらなくても、ある日突然彼女達が消えてしまうと言ったことが起きるかもしれない。
そんなことは想像したくない。想像することすらできない。
自分でさえも考えただけで怖くなるのに、リュウちゃんだったら一体どうなってしまうんだろう…。
オイラはそんな漠然とした不安を抱えながら、夜道を歩いていった。
しばらく歩いていると、リュウちゃんの家が見えてきた。
ノルカちゃん、まだ落ち込んでいるのかな?それとも、もう寝ちゃったのかな?
リュウちゃんだけではだめでも、オイラと一緒なら少しは元気になってくれるかな?
そう思いながら、玄関の手前までやってくると、突然「お母さんのバカアアァァッ!!」という大声がこだました。
(リュウちゃんの声だ。何だろう。)
そう思いながらドアノブに手を伸ばそうとすると、突然扉が勢いよく開き、リュウちゃんが飛び出してきた。
「お母さんなんか嫌いだああぁぁっ!!」
そう叫ぶリュウちゃんは泣いていた。一体何があったんだろう。
「おい!待ちなさい!」
「お母さんの話を聞いて!私はあなたのことを愛しているからこそ、こう言ったのよ!」
おじさんとおばさんはそう言いながら、後を追いかけるようにやってきた。
しかし、リュウちゃんが暗闇の中に姿を消してしまったため、あきらめて立ち止まってしまった。
オイラは状況が理解できないまま、ただきょとんとしていた。
「おおっ!ギー君、ちょうどいいところに来てくれた。においをたどって、リュウちゃんのところまで行ってくれないか?」
「いいですけれど、おじさん。一体何があったんですか?」
「ちょっとニーナとの間でケンカになってしまってな。」
「ケンカ?」
「理由は後で話す。とにかくリュウちゃんのところに行ってくれ。」
「分かりました。」
オイラは未だに状況が分からないまま、彼のにおいをたどっていくことにした。
リュウちゃんは近くを流れる川の近くで、うずくまっていた。
オイラは彼のそばに腰を下ろすと、何があったのか聞いてみることにした。
リュウちゃんは最初こそ黙っていたが、やがて少しは気持ちが落ち着いたのだろう。骨折したノルカちゃんを連れて家に入っていた後のことを話してくれた。
(※ここからはリュウちゃんの一人称で物語が進行します。)
ボクはあの後、少し遅い夕飯を食べた後、部屋でノルカちゃんに寄り添っていた。
骨折していたっていい。落ち込んでいたっていい。泣いていたっていい。ボクはただ、ノルカちゃんと一緒にいたい。
もしも願いがかなうなら、ギーちゃんも加えてずっと3人で過ごしたい。
そう思っていると、部屋にカーノさんとルシアさんが神妙な表情で入ってきた。
何だろうと思っていると、カーノさんの口からはボクが恐れていた言葉が飛び出した。
「ノルカ。お父さんとお母さんは、明日の朝早く、お前をつれて元の世界に帰ることにしたよ。」
それを聞いて、ボクだけでなく、ノルカちゃんもショックを受けた。
「おじさん、どうして?」
「リュウ君。君なら分かるだろう。もし、大きな地震が起きて、自分の世界に帰れなくなってしまったら、どうなってしまうのかを。」
「う、うん…。」
「正直、僕もこのことに関しては不安だった。この世界にやってきて、君にそのことを教えてもらってから、僕は連日どうか埋まらないでくれと願っていた。でも、ルシアとノルカにはそんな不安を与えたくなかった。だから黙っていたんだが、地震が来る度にどうしても気になって、この際正直に言うことにしたんだ。」
「カーノ。もし帰れなくなってしまったらどうなってしまうのですか?」
ルシアさんは不安げに質問をした。一方、ノルカちゃんは何も言わないものの、すごく不安な表情をしていた。
カーノさんは、あの日、ボクたちがデセオ山でのディースさんと同じようなことを話した。
「それは本当ですか?」
「パパ、ホント?」
その内容に、ルシアさんとノルカちゃんはそれっきり言葉を失う程のショックを受けてしまった。
「言いたくはないが、本当のことだ。それに、もう家をかなり空けている。向こうに戻れば仕事もかなりたまっているし、このままでは薬を必要としている人にお渡しすることができない。もし薬がもらえなかったがために、その人が命を失うようなことがあったらと考えれば、これ以上ここにい続けるわけにはいかない。」
それを聞いて、ボクはカーノさんの薬で命を助けられたことがあるおじさんのことを思い出した。
もし、そのおじさんが薬を必要としていた時に家を空けていたら…。
カーノさんはさらに、自分達の世界の方が進んだ医療を受けられること、向こうの世界に行けばいい薬があること、ノルカちゃんに早く医師の診察を受けさせたいことを挙げ、少しでも早く帰りたいことを打ち明けた。
このことはルシアさんも(次元のヒズミを除いて)自覚していただけに、納得することができた。
しかし、お互い離れ離れになってしまうという現実は、ボクとノルカちゃんの心に突き刺さった。
しかもノルカちゃんは骨折のためにただでさえ傷ついているのに、さらに追い打ちをかけるようなことを言われ、さらに深いショックを受けた。
「ノルカちゃん、大丈夫?」
「……。」
「どうしたの?」
「……!」
「まさか?ねえ、何か言ってよ。ノルカちゃん!」
「………!」
「ノルカちゃん!しゃべってよ!またしゃべれなくなってしまうなんて、そんなの嫌だよ!
「………!!」
彼女は右手を口に当てたまま、(声が出ない…!!)と言っているような表情をしていた。
すでにこの時点でボクは十分過ぎる程のショックを受けていた。しかし、カーノさんの衝撃発言はまだ終わらなかった。
「リュウ君。今まで本当にありがとう。たとえ君達が500年後の世界に来たのが偶然だったとしても、僕とルシアは、君達があの危機を救うために遠い昔の世界から駆けつけてくれたと考えています。この恩は一生忘れません。たとえ2度と会えないとしても、君達のことは1日として忘れません。君とギー君のことは偉大な勇者として永久に語り継いでいきます。本当にありがとう。」
そう力を込めて話す彼は今にも泣きそうな表情だった。それを見たルシアさんも同様だった。
(このままでは、ノルカちゃんと永遠に離れることになってしまう。彼女との最後の別れになってしまう。そんなの嫌だ!もうノルカちゃんのいない日々なんて考えられない。耐えられない。ノルカちゃんを失うなんて、耐えられない!)
そう思ったボクは、お父さんとお母さんのところに行き、何とかノルカちゃんと一緒に居続けることができないか相談を持ちかけた。
すでにカーノさんは全てを話していたのだろう。お父さんとお母さんは状況を把握していた。
しかし、だからこそ、お母さんは見たこともないようなきつい表情で反対をしてきた。
「私は絶対に許しません!もし戻ってこられなくなってしまったら、どうするの!?」
「だって、1年前のあの時だって、ボク、帰って来られたから。」
「あれはディースの助けがあったから、運良く帰ってこられただけです!そんな幸運は何度も続きません!」
「でも、ボクはノルカちゃんと一緒にいたんだ。離れたくなんかないよ!」
「お母さんだって、あなたと離れたくはありません!私はあなたを愛しています!大好きです!だからこそ、こうやって厳しく言っているんです!」
「ボクだって、お母さんは大好きだった。でも、今日からは違う。大嫌いだ!お母さんなんて、大っ嫌いだ!」
「リュウ!ニーナに向かって、何てことを!」
「お母さんのバカアアァァッ!!」
ボクはムキになってそう言うと、泣き叫びながら外へと飛び出していった。
(※ここから再びギーちゃんの一人称で物語が進行します。)
「そうか。そのタイミングだったんだね。オイラがリュウちゃんの家に来たのは。」
「うん。ちょうどあの時、自暴自棄になっていたけれどね。でも今なら、お母さんに謝りたい。謝りたいけれど…。」
「謝りたいけれど?」
「ノルカちゃんと一緒にいたい。離れたくない。これだけはお母さんに分かってほしい。ギーちゃん、ボク、今胸が張り裂けそうなほど悲しいんだ。」
「そりゃ、オイラだって、2度と会えなくなるような別れの宣告をされたら、そうなりそうだけれど…、リュウちゃんはオイラよりもっと辛いだろうね。」
「うん…。正直、今なら分かる。」
「何が?」
「ノルカちゃんがボクたちと別れてから、なぜ泣いてばかりの日々を過ごしていたのか。今ならはっきり分かる。別れって、こんなに辛いものだったんだ。こんなに悲しいものだったんだ。こんなに耐えがたいものだったんだ…。」
リュウちゃんは顔をうずめて、泣いていた。
「……。」
オイラは右手をリュウちゃんの背中に乗せ、無言で慰めていた。
こんなことをしたって、彼の心を癒やせるわけじゃない。でも、今オイラにできることはこれしかない。
せめて、地震が起きないようにできれば…。時間を止めることができれば…。次元のヒズミが埋まらないようにできれば…。オイラたちの願いをかなえてくれる人がいれば…。
でも、そんなことは不可能だ。結局何もできないまま時間は過ぎていき、別れの時は刻一刻と近づいていった。
そうしていると、オイラは、ふと誰かのにおいを感じた。
「リュウちゃん、誰か来る。」
「誰って?もしかして、お父さん?お母さん?」
「違う。でも女性のにおいだ。このにおい、覚えがある。少なくとも敵ではない。」
「女性って言うと、ルシアさん?」
「違う。ディースさんだ!」
オイラはそう言うと、スクッと立ち上がった。
「ディースさん…、だよね?」
「ほう。あんたの鼻は凄いね、ギーちゃん。これだけ離れていてもかぎ分けてしまうとはねえ…。」
その声は…。間違いない。オイラはそう確信した。
すると、暗闇から1人の女性が姿を現した。確かにディースさんだ。
「ディースさん。どうしてここに来たの?」
「何となくね。たまにはこちらの世界にも来てみたくなったからね。」
悲しい気持ちの真っただ中にいるオイラたちとは対照的に、彼女はのん気な雰囲気さえ漂わせていた。
「ところで君達。あたしは『ノルカちゃんと仲良く過ごしているかい?』と言おうとしていたのに、何だい?その表情は。凄く沈んでいるじゃないか。まさかフラれたわけじゃないよね?」
「そんなんじゃないよ!」
リュウちゃんはムキになって反論をした。
「おっと、怖い表情だね。でも、大体察しはつくよ。彼女と離れなければならなくなったんだろ?」
「うん…。しかもケガをして、言葉も話せなくなって…。しかもノルカちゃんのお父さんに『この恩は一生忘れません。』なんて言われて…。ディースさん、ボク、ノルカちゃんに会わない方が良かったのかな?」
リュウちゃんは思いもよらないことを言い出してきた。
「どうしてだい?」
「だって、もし会わなければ、こんなに悲しい気持ちになんかならなくて済んだのに…。」
「本当に会わない方が良かったと思っているのかい?」
「うん…。少なくとも、今は…。」
「じゃあ、もしノルカちゃんが君達に会いに来なかったら、どうなっていたか、分かるかい?」
「えっ?」
ディースさんからの意外な質問に、リュウちゃんはそう言ったまま、言葉に詰まってしまった。
「実はね、あたしは彼女がどうなっていたのかを知っているんだよ。」
ディースさんは、そう言うと、カーノさんとルシアさんが自分のところに来て、ノルカちゃんをオイラたちに会わせたいとお願いしてきた時のことを話してくれた。
あの時、カーノさんも言っていた通り、彼女はひたすら断り続けていた。
しかし、彼女自身はデセオ山の時、時間がなかったとはいえ、オイラとリュウちゃんをノルカちゃんから引き離してしまったことを申し訳なく思っていた。
そんな自責の念もあり、あきらめない両親の姿を見て、ついに折れ、埋まってしまった次元のヒズミをこじ開け、そこに自ら飛び込んでいった。
しかし、最初に行った場所はあろうことか、それからさらに先の未来だった。
彼女はそこで見た光景を水晶玉に映し出してくれた。
そこでは、カーノさんとルシアさんが大勢の人達の前に立っていた。
「皆さん。本日は私と妻の間に生まれた娘、ノルカのためにわざわざ集まっていただき、誠にありがとうございます。私達は4ヵ月前、パレポリの一味に捕らえられ、洗脳されてしまいました。その時、ノルカは500年前の世界からやってきたリュウ君とギー君という2人の少年に出会い、私達を助けるためにデセオ山まで来てくれました。」
「私とカーノは洗脳されていたとはいえ、娘にひどいことをしてしまいました。でも、娘は私達を許してくれました。そして、感動の再会を果たしたその姿を見届けながら、リュウ君とギー君はまた次の世界を旅するために、私達の世界を後にしていきました。」
「その後、娘は彼らに会いたいと毎日言い続けていました。その気持ちは、この4ヶ月間。彼女の人生最後の日まで変わることはありませんでした。私達としては、その願いをかなえてあげることができず、悔しい思いでいっぱいです。」
「ですが、この最後のお別れが済めば、娘は天国へと旅立っていきます。間もなく彼女は500年の時を超えて、彼らと再会することができます。皆さん、娘が3人でいつまでも仲良く過ごすことができるように、冥福を祈りましょう…。」
カーノさんとルシアさんは、ノルカちゃんの入ったひつぎを前に、泣きながら交互にスピーチをした。
そして、集まってくれたみんなで花を入れていき、顔以外の部分が埋め尽くされていくのを見届けた。
大勢の人達が泣き崩れる中で、もう目を開けることのないノルカちゃんは、カーノさんから「ノルカ。お父さん達は、お前と一緒にいられて幸せだったよ。」という言葉を、ルシアさんから「生まれてきてくれて、ありがとう。そして、さよなら…。」という言葉をかけられた。
それから間もなく、フタをかぶせられ、彼女は…。
「つまりね、君達に会いに来たノルカちゃんは、亡くなる1ヵ月前の状態だったんだよ。」
ディースさんからあまりにも悲しい話を知らされたオイラたちは、ショックのあまりに涙があふれ出した。
「泣いているのかい?そうだろうねえ。あたしだってこの光景を見た時には、もらい泣きしたよ。そして、彼女が手遅れになってしまう前に、何としても君達に会わせようと、必死になって次元のヒズミを調整しては、そこに飛び込んでいったよ。」
彼女の話では、次に行ったのは今から420年後。つまり80年さかのぼることができた。
次に行ったのは360年後、その後は280年後、230年後…という感じだった。だけどこれでは何の意味もない。
こうしている間にも時間は過ぎていき、手遅れになってしまう時は刻一刻と迫っていた。早くしなければ…。そういう状況の中、ディースさんは思い切ってヒズミをさらに大きくこじ開け、祈るような気持ちで飛び込んでいった。
すると、彼女の目に飛び込んできたのは、剣術と弓矢の大会に出場するために、会場に向かうオイラたちの姿だった。
つまり、ノルカちゃんたちと再会した、あの日のオイラたちだった。
その時、リュウちゃんの手にはノルカちゃんの髪飾りがあるのを見て、彼女に出会った後のオイラたちだと確信し、その場で声をかけようとしたそうだ。
しかしみんなで出かける姿を見て、邪魔をしてはいけないと思ったそうで、何も言わず、すぐに戻っていったそうだ。
ということは、普段のオイラだったら、においで誰かいると気付いていただろう。
でも、あの時は大会に向けて気合を入れている最中だったため、気が付かなかったようだ。
何はともあれ、少し成長したオイラたちに会えると分かったディースさんはすぐに戻っていき、カーノさんとルシアさんに報告をした。
彼らはできれば3ヵ月後のオイラたちに会いたいと主張したが、そんなに細かく微調整はできないこと、これ以上ヒズミに手を加えれば、オイラたちが生まれる前、もしくはノルカちゃんに出会う前の時系列になってしまうため、これで我慢してほしいと説得された。
そしてそれを聞いてとうとう納得し、その日のうちに荷物をまとめて、家の玄関に「都合により、しばらく留守にします。」という貼り紙を残して、オイラたちの世界に来たということだった。
「ディースさん。ボクたちのためにそこまでしてくれて、本当にありがとう。」
いつの間にか泣きやんでいたリュウちゃんは、深々とお辞儀をしながらお礼を言った。
「礼はいいよ。とにかく、彼女は君達のおかげで一命を取りとめたんだ。つまり、君達はもうすでに彼女を、いや、彼女の両親をも救っているんだよ。」
ディースさんがこう言ってくれたおかげで、オイラたちはノルカちゃんに会わなければ良かったという気持ちを払拭することができた。
でも、今オイラたちが突き付けられている現実は、ノルカちゃんとの永遠の別れだ。
いくら彼女が救われたとしても、また泣いてばかりの日々になってしまったら、また衰弱していき、あの涙のお別れシーンが今度こそ現実になってしまうかもしれない。
オイラたちだって、深く落ち込んだままの日々になってしまうに違いない。
特にリュウちゃんがこれからどうなってしまうかなんて、オイラにも想像できない。
現に彼はすがるような口調で「ディースさん。ボク、ノルカちゃんと離れたくないよ。」と言っているのだから。
「そんなに彼女と一緒にいたいのかい?」
「うん。もしも願いがかなうなら、3人一緒に手をつないで、ノルカちゃんと過ごしたい。言葉なんかはなくてもいい。勇者じゃなくても構わない。ボクは彼女と過ごしたい。」
「オイラも3人で一緒に過ごしたい。だって、デセオ山で別れる時に、そう約束したから。」
リュウちゃんとオイラはすがるようにお願いをした。
「できることなら、ずっと一緒に過ごしたいかい?」
「うん。」
「うん。」
「分かった。じゃあ、あたしがその願いをかなえてあげるよ。」
「えっ?」
「えっ?」
ディースさんから思いもよらない言葉を聞き、オイラとリュウちゃんは驚きを隠せなかった。
「おや、聞こえなかったようだね。あたしが願いをかなえてあげるって言ったんだよ。」
「本当?ねえ、本当に?」
「そんなことできるの?」
リュウちゃんとオイラはまだディースさんの言ったことが信じられずにいた。
「本当だよ。あたしはこれから次元のヒズミを見守る、時の番人として生きることにするよ。そして、あたしの魔法で、これからどんな大きな地震が来ようと、決して埋まらないようにしてあげるよ。だから、今からはもう別れを心配しなくていいよ。」
ディースさんの言葉は思いもよらないものだっただけに、オイラたちは最初、なかなか信じることができずにいた。
でも、彼女のやさしい表情を見ているうちに、少しずつ実感がわいてきた。
「ねえ、間違いじゃないよね?オイラたち、本当にノルカちゃんと一緒に過ごせるんだよね?」
「本当だよ。だから3人でいつまでも幸せに過ごすんだよ。」
「リュウちゃん!願いがかなったよ!本当にこれからも一緒にいられるよ!」
一足先に喜びを実感したオイラは、笑顔でそう言った。
「ディースさん…。」
オイラとは対照的に、リュウちゃんはまた泣きそうな表情をしていた。
でもそれは悲しいからじゃない。嬉しいからだ。
そして次の瞬間、リュウちゃんは「ありがとう…。ありがとう…!!」と言いながら、ディースさんの胸元に向かって飛び込んでいった。
「こらこら!抱きつくんじゃないよ。」
「だって…、だって…、ボク…。」
リュウちゃんは気持ちを抑えきれないのか、ディースさんを抱きしめながら泣いていた。
(よほど嬉しかったんだね。良かったね、リュウちゃん。)
オイラはもらい泣きしそうになりながら喜んでいた。
やがてリュウちゃんは気持ちも落ち着いたのだろう。ディースさんから離れると、何度もお礼を言い続けた。
「さあ、君達はこれで一件落着したけれど、家にはまだ深い悲しみに沈む人がいるよ。早くその人のところへ行って、安心させてあげなさい。あたしはこれからヒズミのところに行って、早速魔法をかけに行くから。」
「はい、分かりました!」
「早速今から行きます!」
リュウちゃんとオイラは笑顔でそう答えた。
「じゃあ、ボクがノルカちゃんにこのことを伝えるから、ギーちゃんはノルカちゃんの両親に伝えてよ。」
「分かった。ついでにおじさんとおばさんにも伝えておくから、リュウちゃんはおばさんと仲直りしてくれよ。」
「うん。ちゃんと謝っておく。」
オイラたちはそう会話を交わすと、一目散に家に向かって駆け出していった。
その後、オイラが家にたどり着いた時、おじさんの姿がありませんでした。
最初はあれ?と思いましたが、実は、ディースさんとこんなやりとりがあったそうです。
「ディース、ありがとう。おかげで息子とギー君に笑顔が戻ったよ。」
「どういたしましてだよ。あの時、あたしが何気なく水晶玉でヒズミの部分の監視をしていたら、誰かが来たから不審者かと思ったけれど、まさかリュウが単身で500年後の世界にやってくるとはねえ。本当にビックリしたよ。」
「驚かせてすまない。だが、あの時はもう自分達でなす術がなかったから、こうするしかなかったんだ。とにかく、力になってくれて本当にありがとう。感謝するよ。」
「今回はね。だが、過去と未来を行き来するのは危険を伴う行為だ。これで未来を狂わせてしまうこともあるからね。本来なら聞き入れるわけにはいかないんだよ。とはいえ、そんなことを言っていたら、あの子達の未来は間違いなく不幸なものになっていたからね。だから、今回は特例だよ。今後はいかなる理由があろうと聞き入れるつもりはないからね。」
「分かった。」
「それからね、あたしに未来のことは決して聞くんじゃないよ。その答一つであんたの未来を狂わせることもある。さらにあんたほど影響力のある人ならば、歴史さえも狂わせてしまう恐れがあるからね。」
「確かにそうだな。子供達も含めて、決してそのようなことはしないように気を付ける。そして、この次元のヒズミは決して部外者には使わせないようにする。約束だ。」
「分かった。約束だよ。」
ディースさんはそう言い残すと瞬間移動でヒズミの部分まで行き、魔法をかけてくれたそうです。
本当にありがとう。この恩は一生忘れません。