その相手は爪熊にとって唯の餌のはずだった。
己の住みかとしているオルクス大迷宮。それも爪熊のいる深さまで、人間がたどり着くことは無かったからだ。
ウサギに嬲られていたそれは、取るに足らない弱者だったはずだ。
現に、容易く左腕をもぎ取りそれを腹に収めたばかりだ。
その体すべてを食らえばさらに腹は膨れるだろう。そう思って獲物を食らおうとした。
「食らったな……僕の腕を……」
獲物が何か言っているようだが、気にすることではなかった。
「取り込んだな……僕の血肉を……!!」
もうじき己の糧となるだけの存在なのだから。
「返してもらうよ……君の力と共に」
そのはずなのに……爪熊は己の全てをその存在、南雲ハジメに奪われていた。
自身が培ってきた全てを、たった今食らったハジメの血肉と共に奪われた。
爪熊は何も理解できぬままハジメの糧となっていった。
「召喚されたときにクラスメイト達に分け与えた力」
一度失った左腕を取り戻しながらハジメはつぶやく。
「未だ発展途上のその力、今返してもらうには惜しい」
特にこれから更に増していくだろう天之川光輝の力は、まだ奪うには早い。
「だからこそ、この魔物が溢れる大迷宮は僕にとって都合がよかった」
だからこそ、態々大人しくこの場所まで落とされたのだ。
「いずれはエヒトの力も手に入れるつもりだけど、それには僕の力はまだ弱い」
故にまずはこのオルクス大迷宮に存在する魔物たち。
「手始めに、この大迷宮は僕の糧になってもらうよ」
神界にて、エヒトは南雲ハジメと対峙していた。
召喚されたとき、最も脆弱な存在であったはずの存在。
それが今や己を超える力を持っていた。
エヒトが使う概念魔法はハジメには無力だった。
「これが、僕の本当の力だ」
単なる未来予知と判断していたその力。己の概念魔法の前では無力だと思いあがっていた。
だが違った、ハジメの能力はそんな領域のものではなかった。
「
神を自称するエヒトですら、その力の前では無力だった。
あらゆる未来において、エヒトはハジメに抗う事は不可能となった。
新たな魔法を作り上げても、何一つ通じることは無かった。
トータスを捨て別の世界へ逃げようとしても、それが叶う事はなかった。
エヒトに残された未来は一つだけだった。
事の始まり、遊戯感覚で地球の人間を召喚したことを後悔しながら、エヒトはそのすべてをハジメに取り込まれて消滅した。