清水幸利はその光景を目のあたりにして、唯々震えているしかできなかった。
彼は数万にも及ぶ魔物の大軍をけし掛ける事でウルの町を愛子達ごと滅ぼそうとして、その存在と敵に回してしまった。
「万象一切灰燼と為せ『流刃若火』」
たった一人立ちはだかった男が口にしたその言葉。その瞬間先頭にいた群れが爆炎と共に灰と化した。
気が付けば辺り一面に炎が燃え盛り、男が刀を振るう度に炎が炸裂し魔物の群れが消えていく。
己が丸一日かけて洗脳した黒竜のブレスでさえも、男が操る炎には遠く及ばない。
溜めも予備動作も無いそれは、己が知る魔法では比較にならない威力を誇っていた。
爆炎が舞い魔物が消えていく度に、己の死が近づいていく。
圧倒的な力の前に、魔物に命令する余裕さえない。あれに自分の存在が気づかれれば、今自分がいる場所が焼かれるのではないか。そう思ってしまったがために、清水は息を潜める事しか出来なかった。
そうしている間に数万の魔物は例外なく滅ぼされた。魔物の気配も周りの炎も消え去り、気が付けばその男は自身の前に立ちはだかっていた。
自身を見下ろす男の目は、あれだけの炎と相反するような、恐ろしく凍えたものであった。
焼き尽くした命に灰程の価値も見出していないその目。清水にとっては爆炎よりも、その目を見せる南雲ハジメの方が恐ろしかった。
「この戦い、これで終わりにしよう」
神界で南雲ハジメと相対するエヒトはこれ以上ないほど後悔していた。
目の前の男をこの神界にたどり着かせてしまったことを。
周りへの被害を一切考慮せず戦えるこの世界を作ってしまったことを。
「卍解 残火の太刀」
今まで振るわれる事のなかった黒く焼け焦げた刀の、その最大の理由である敵味方問わず焼き尽くしてしまう、ハジメにとっての最大の弱点を自ら消してしまったことを。
「残火の太刀 東 旭日刃 炎をすべて切っ先に集中させた技だ」
エヒトが放つ魔法は、それに斬られれば例外なく焼失した。
「残火の太刀 西 残日獄衣 今の僕は太陽を身にまとっているに等しい」
1500万℃の熱は存在するだけでエヒトの体を焼いていった。
「残火の太刀 南 火火十万億死大葬陣 亡者の灰よしばし戦の愉悦をくれてやる」
ハジメが今まで屠ってきた存在が、エヒトに纏わりつきその自由を奪っていく。
そしてその技が放たれる。エヒトに一切の抵抗を許さずその命を奪う最後の一撃が。
「残火の太刀 北 天地灰尽」
その一撃によって、トータスにて神とまで崇められたエヒトの存在は消滅していた。