最高に熱いトレーナーを考えていたらこうなりました。
ウマ娘、競馬にわかですがタイシンは大好きです。
おてやわらかにお願いします。
プロローグ
ジュースを飲みながらトレセン学園のグラウンドを通りかかった夕暮れ時。
ガコン。
ゲートが開き、一斉に芝を駆けだす。
「はあああああっ!」
「てやああああっ!」
すさまじい気迫。
少女たちが意地のこもった叫び声を上げながら走る。その中で、
「うおおおおおおっ!!!」
野太い声が轟いた。
「は?」
目を疑った。
男が走ってる。
だが、彼が追い付けたのは最初コンマ二秒。その後はどんどん突き放され
「ぶへぇっ⁉」
頭から芝に突っ込んだ。
その姿を見て無性にイラついてスチール缶を握りつぶす。
アタシたちが真剣に練習してる場所で遊びで走んな。
違う。そんなきれいごとじゃなくて、もっと別のことでイラついてる。
坂を下って、彼の元まで歩く。
「ばかじゃないの?」
大の字で寝転がるツンツン頭の男に言い放った。
彼は不意打ちだったと言わんばかりに目を開く。
「バカって、何が?」
ぜえぜえ、息を切らしながら言う。
「なんでレースなんてしたの?」
『あんな小さい体で勝てるわけない』『無謀だ』『あきらめた方があなたの為だわ』
大嫌いな奴らの言葉がよぎって、苛立つ。
「無謀でしょ? ヒトがウマ娘に勝てるわけない」
悪いけど、ストレス発散させてもらう。
アンタはどう思うんだよ。
真剣に走って、全く敵わなかったのに、こんなこと言われてうざいだろ。
怒ってみろよ。
悪態をついたら彼は————腹を抱えて大笑いした。
「あっはっは、ヒトはウマ娘にかなわない。そうだ、そうだな」
「何がおかしいの?」
「いいや、おかしいのは俺だなって」
彼はゆっくりと起き上がる。
こいつ、身長高い……。
「かなわないことに挑戦すんのってバカげてるよな」
頷く。
彼は夕日を見て語り始める。その姿はどこか哀愁を漂わせた。
「でもさ……馬鹿げてることって本気でやると楽しいぜ?」
こっちを見降ろして子供みたいに笑った。
「相手を見返すために走ってんの? ほんとは俺はすごいんだって、わからせたいんでしょ?」
自分の理由をぶつけた。
曇った顔の私を見てきょとんとしたあと、大きく胸を張って彼は答える。
「いいや。自己満! 走りたいから走ってる。カッコいいだろ? かっこいいことを貫く。そういう自己満さ」
「やっぱりバカだね」
鼻で笑ってしまったが、バカにはできないかな。
変だけど、こいつは面白いな。
こいつは強いんだ。他人なんて関係ない。全力で、走りたいんだ。
負けた気がしたけど、私は、バカにしてきた奴ら全員、度肝を抜かせてやりたい。もっと走らないと……。
心に刻んで彼から目を離す。
「それじゃ、アタシ帰るよ」
背を向けると男はでかい声で言う。
「今度走ってくれよおおおおおお!」
振り向くと、夕日の中ブンブン手を振ってるバカがいた。
なんだかなぁ……。
ちょっとだけアタシもバカになってみるかな。
「さあね!」
顔は見ずに半分赤い星空に言い放った。
【 1話 】
「やっぱり、グラウンドは騒がしいか……」
トレーナーたちが見守る中、ウマ娘たちがウォーミングアップをしている。
担当ウマ娘は二か月前に卒業した。
次の担当を見つけたいところ。
芝生の坂に座ってレースを観戦することにした。
ガコン。
レースが始まった。
「あいつ……」
昨日絡んできたウマ娘だ。
小柄な体系だが気迫は十分。
スタート直後、前方集団に混ざろうと、位置取り争いに出る。が、体格差で押しのけられる。
何度も小さな体をぶつけて、あがく。
しかし、皆もそれを許さない。
まけるもんかと、前へ、前へ。
場所を守り抜くと踏ん張る。
そんなの関係ない。そこは私の場所だと、そこを求めて。小さな少女は何度もぶつかった。
スタミナをじりじりと削られる。
『第四コーナーを曲がる! 仕掛けるのは——ナリタタイシン!』
「だぁあああああ!!」
ラストスパート。
全力の最終疾走に移る。
「無茶な走り……。痛々しいわ……」
「小さな体ではやはり……」
ベテラントレーナーたちの同情が風に乗って耳に入る。
地獄耳ってのは時に不要だ。
奴らの言葉は同情じゃない。宣告だ。無謀な挑戦はやめろと、言っていることはわかっている。
走る彼女に、それが聞こえているかわわからない。視線でわかるのかもしれない。
でも、そんな言葉は裏切って……奴の目は死んでたまるか、ってぎらついていた……!
「根性、あんじゃねぇか……!」
俺の目はヤツの走りにくぎ付けになっていた。
「くっ……」
彼女が苦い顔を見せた次の瞬間、加速は止み、風が過ぎ去るごとく他の子に一瞬で抜かされた。
結果、彼女は十着。
一瞬のきらめきを魅せたが、選抜レースに敗退した。
「はぁあぁ……」
震えたため息が出る。ていうか、全身震えちまってる。
消化不良だ。もっとやれるって闘志の消えない顔見てたら、どんどん惹かれちまった。
立ち上がって伸びをする。
「さてと、俺の目標も決まったな」
がやがやとレース場へ駆け寄るトレーナーたち。
デビューできる機会だ。もちろんウマ娘たちはそこで彼らを待っている。
だた一人を除いて。
あいつは腕で汗をぬぐって、すたすたとレース場を後にした。
「お?」
見覚えのある女性トレーナーがあいつを追いかけて会場を後にした。
「ちっくしょー。分かっちまったか~~! あいつの魅力」
ライバル出現だ。
俺も急ごう。
◆
校舎の前で話すナリタタイシンと女性トレーナー。
「出遅れちまったな」
木陰で耳をひそめる。
「あなた、このままレースの世界に居続けるのは、やめた方が良いわ」
淡々と告げた。
「「……は?」」
意表を突かれたように驚いたあと、眉を寄せる。
木陰で俺まで声に出してしまった。
「あなたのためを思っているの! これ以上続けたら取り返しのつかないことになるわ!」
その訴えはのど元にナイフを突きつけるような残酷な宣告だった。
「うるさい……!」
奥歯をかみしめて、怒りと焦燥感から感情が爆発する。
「アタシは絶対に勝つんだ! この脚で、アンタら全員見返してやる!」
吐き捨てて、走り去っていった。
その後ろは子どもが抱えるには大きすぎる運命がのしかかっているように見えた。
ため息をついて、トレーナーの元へ行き、肩を叩く。
「お前は間違ってるぜ」
彼女は奥歯をぎり、と噛み、敵をかのように俺を睨んだ。
「何を言ってるの! 小柄な彼女がレースに出てみなさい! 押しのけられ転倒したらあの子の全てが一瞬で失われるのよ!」
後悔を孕んだ悲鳴のような叫び。
重みが違った。
きっと彼女は一度そういう経験をしているんだろう。
だからこそ、俺みたいなバカが言ってやらないとな。
「あいつの全部は走りだ。それを無理やり奪っちまうのは酷だぜ?」
「だから危険だと!」
「俺が全部責任取ってやっから見てろよ」
頭が沸騰してるやつには否定せず、冷静に語る。
そうすれば、相手も落ち着いて話し合いが成立する。
「……そこまでする理由はなに?」
落ち着いた彼女が発したのはとてつもなく簡単な問いだった。
「あいつ、最強のウマ娘になれますから」
自信を確信に変えて言い放った。
多分、今の俺は笑ってる。
「か゛ん゛と゛う゛し゛た゛ああああああ!!!」
「———————!?」
林の奥からバカでかい声がした!
「ウイニングチケット!」
「あぁコイツが……」
噂に聞いていた期待のウマ娘。
両手で涙をぬぐっている素直すぎる姿に気が揺るんじまう。
「ドレーナーざん! かんどうじだよおおお! 行こう! タイシンとこへ!」
ガシッと腕を無理やり引っ張られる。
力つよっ!?
「私は反対ですから。理事長へ意見をしに行ってきます」
連れていかれる俺に彼女はそう言い残して学園内に消えていった。
「まじか………」
面倒ごとのオンパレードだ。
学食へ
「タイシイイイイイイイン!」
教室へ
「タイシイイイイイイイン!」
屋上へ
「タイシイイイイイイイン!」
チケットはおかしいなあと首を傾げた。
「な、ぁ、チケット……。うでが、もげる……」
「あ、ごめんなさい! ごめんなさい!」
解放されてペコペコ平謝りされた。
「ここってタイシンがよく来る場所なのか?」
無人の屋上を見渡して尋ねた。
「うん。暇つぶしとか言ってここでゲームしてるよ!」
「そっか」
もう日が暮れるな。
夕闇にのって肌寒い風が乗ってくる。
鉄柵に身を預けて学園を見回すと……。
消灯したグラウンドで小さな点が動いていた。
「チケット、あれって、あいつじゃねぇか?」
「あ、ほんとだ! また自分を追い込んで……」
元気すぎたチケットの顔がほんの少し暗くなっていたのが気になるが、それどころじゃない。
「行くぞ! 暗闇の中で走るなんて自殺行為だ!」
「あ、待ってよ!」
階段を駆け下りて一気にグラウンドまで走る。
「タイシイイイイイン!」
「——!」
大声で呼びかけると彼女はこちらに気が付いた。
坂を駆け下り彼女のもとまで行った。
「もう暗い。トレーニングはやめておけ」
肩に手を置くと、不機嫌そうな顔になり。
「うっさい!」
手をはじき落された。
「アンタも連中と同じ。練習したって無駄だって言いたいんだろ! 絶対裏切ってやるから! どっか行ってよ!」
身が亡んじまうくらいの、泣きそうな悲しい叫び声。
そんな姿見せられて、ほっとける分けねぇんだ……!
「タイシン!」
後ろから破裂するような声が響いた。
「チケット……?」
「トレーナーさんはそんなことを言うつもり全然ないんだよ!」
「え?」
「だって、言ってたよ! タイシンは最強のウマ娘になるって確信してるって! 俺が全部責任取るって! そんな人に怒鳴っちゃだめだよ‼」
タイシンは驚いて目を見開くが、こっちとしては厳しい。まじで。
「おい、チケットオ!」
後ろ向いて坂の上のバカを指さす。
「はい⁉」
「決め台詞全部奪いやがったなあああああ!」
「え、あ、ああああ⁉ ごめんなさあああああい!」
頭抱えて土下座した。そんな俺たちの後ろで
「はぁ、ぷっ、ははは」
涼しくも明るい笑いが起こった。
「何してんのアンタら」
「……漫才?」
首をかしげるチケット。
「ちゃうわ! スカウトだスカウト!」
タイシンの方へ向き直ってまっすぐ彼女を見つめる。
「タイシン。俺の担当になってくれないか?」
疑るように見上げて首を描いた。
「本気で言ってる?」
「もちろん。お前、俺と最強にならねぇか?」
「うそでしょ? 散々だめって言われたのにおかしい。今更、意味わかんない」
自分を鼻で笑った。その姿はどうしようもなく痛々しい。
自虐的な姿は、こいつには似合わないんだ。
さっきみたいに笑ってるのが、俺の見たい姿だ。
「俺は人としてはできてねぇかもしれんが、トレーナーとしては一流だからわかんだよ。お前は強い」
「どこが! 今日だって十着じゃん! 笑わせないでよ!」
「だからだよ。お前の武器が分かっちまったし、磨きたくてしかたねぇんだよ! お前の末脚を」
「末、脚……?」
意表を突かれて固まる。
「そうだ。お前は武器をこれっぽちも理解してない。周りのやつだってそうだ。そんな状態で地方で一着とったりしてたんだろ? バケモンだよお前は」
「それで……?」
「お前は今の 百 億 倍 強くなれる!」
本心全部言い放った。
疑いのまなざしは消え、彼女は小さく笑ってくれた。
「タイシン。俺の相棒になってくれ」
ゆっくりとれを差し伸べた。
タイシンの出かけた手にためらいが宿る。
怖いんだ。
見ず知らずのやつを信じろってのはそうできることじゃない。
だから俺が言うんだ。
「信じろ。タイシン」
手を絶対にひっこめない。
握ってくれるまで差し出し続ける。
そんな姿に呆れたのか、肩の力を抜いて、そっと微笑んで
「分かった。あんたにならついてってあげる」
彼女は俺の手を握ってくれた。
「その暑苦しいのは勘弁してほしいけど」
「そいつは無理かもなぁ」
なんかうれしくて笑っちまうと、タイシンは視線をそらしてほんの少し笑ってくた。
そんな姿を見る第三者は、吠えていた。
「がんどうじだああああーーーー!」
「うっさい!」
こいつら、いいライバルになれるかもな……。
こうして俺とナリタタイシンとの三年が始まった。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
次回のアップロード日は未定ってことだったんですが、降ってきたんですぐ書けると思います。
好評なら続き書きます。
感想いただければモチベになります。
時間があれば、よろしくお願いします。