「はっ、はっ……」
山道を走る。
トレーナーが作ってくれた皐月賞用の2000mのコース。
アタシはそこを何週間も走り続けた。
理由は単純だ。まだ、倒せていない……。
残り800m。
肩が風を切る。身体を傾けコーナーを踏ん張り、駆け抜ける。
そして、『勝てない相手』が現れるのはゴールが見えたタイミング。
「……来る!」
瞬きをする。一瞬の暗闇から光を取り戻したとき、幻影がアタシの前を走り出す。
「行くよタイシン。ラストスパート。勝負だ!!」
「私を忘れてもらっては困る。二人とも倒してやるから覚悟しろ!」
黒い影。しかし、それは確実に知っている二人。
「ダービー取るんだ! こんな所で負けないよ!」
「ふん、勝利の方程式への礎となってもらおう!」
思いがぶつかり合い、世界が彼女らの色に塗り替えられる。林道のコースは一瞬で芝で満たされる。
ドクン。心臓が跳ねた。この胸の鼓動が毎回アタシを襲う。
「……はあっ」
鉛の様な空気を肺に落とし込み、動悸を押し殺して前を睨む。
「上等……」
二人のウマ娘の背中が加速する。
どんどん前へ、離される。
「負けない……!!」
アタシも思いっきり踏み込んで後を追う。
「はあああああっ!!」
叫んでゴールの木の下を目指す。一直線。前との差は6馬身。いつも通りだ。
「くっ!」
顔が歪む。前のアイツらの顔が見えない。どんな顔をして走っているんだ。
「違う」
今はそんなこと考えるな!
幻が相手だろうが、絶対に勝ってやる!
奥歯を噛んで最後の追い込みに入る。体制を低くする。重心が体の上に持ち上がる。足は自動的に前へ前へと押し出される。そこに自身の踏み込みを上乗せする。
この加速が、アタシの全力!!
「はああああああああっ!!!」
駆ける。
駆ける。
差を詰める。
ゴールまで、あと100、50、10……!
じりじりとにじり寄る。足が悲鳴を上げても進み続ける。そうして、ようやくたどり着く。二人に肩を並べ、顔が見える寸前。勝てるかもしれない、思った一瞬に。
「………っ」
幻影が消えた。
それは決着の合図。ふたりが消えるとき、それはゴール地点に足を踏み入れたとき。そして、決まってアタシが三番目のときだ。
結局、また負けた。
「くっそ!」
山の奥で、悔しさの叫びが木霊した。
アタシは幻を見るようになった。一度見たら最後。勝つまで消えてくれない呪いみたいなものだ。完全に頭逝ってる。
トレーナーの言った通りになった。ただ走っているだけなのにライバルが現れる。本物と同じ実力を兼ね備えている幻だ。勝つのは一筋縄じゃいかない。
何度も挑戦し続けた。けど、一向に幻は消えない。
そうこうしているうちに時は流れる。一か月、二か月と修行と勝負を繰り返し、一瞬で過ぎ去った。
◇
「うあああああああっ!! 勝てない!!」
もうすぐ春を迎える森の中、少女の絶叫が山中に響き渡った。
コテージの中で新聞を開きつつ、皐月賞へ向けてライバルのデータを取っていると、バタン。あわただしい音を立てて扉が開いた。
「よ、調子はどうだ?」
紙面から顔を上げ、汗だくの少女を一瞥。
「無理!!」
返答はこれ以上ないほどに潔かった。
「全く幻に勝てる気がしない。教えて! あいつらに勝つ方法!!」
そうとう切羽詰まっているのか、ぐいぐいと顔を近づけてくる。
やる気か、危機感か。どっちかと言えば後者だろうな。皐月賞まで一週間切っている。しかし、自分の納得いく仕上がりに到達していないのだろう。
この三か月、対幻戦についてはタイシンに放任した。武器は渡した。それをどう使うかはタイシン次第ってやつだ。
だが……一向に幻に勝てないそうだ。躓くところは師弟同じとは……。
やり方聞いてきたときの威勢のよさが消えるほど、この修行は底の無い沼の様なものだった。
タイシンのプライドはデカい。すぐには人を頼らない。やることやって、それでも息詰まったら、誰かを頼る。一年でよくわかった。そして、それが今らしい。
助言をすることに決めた。
「勝つ方法は分からねぇが、突破口なら教えてやれるぜ」
新聞をぐしゃりと綴じてケツポケットに入れつつ立ち上がる。
「今から2000、走れるか?」
挑発的に笑って、胸元くらいにあるタイシンの頭を意地悪に睨んでみた。
「上等!」
売り言葉に買い言葉。すぐさま笑いをはねのけて、自身に満ちた顔で目をぎらつかせた。
瞳は、まだ折れちゃいないと訴えている。楽しみだ……!
◆
「トレーナー」
コースへの移動中。タイシンは首を傾けて、俺を仰ぎ見る。
「なんだ?」
訊き返すと、言いづらそうに、妙に恥ずかしそうに言葉を紡いだ。
「これからやるのって……必殺技、だよね?」
「…………どうした急に」
バトル漫画の読みすぎなんじゃねぇか?
俺は顔を固まらせながら訊き返すと、タイシンの顔はみるみるうちに赤く染まっていく。後悔、というか羞恥みたいな気持ちがにじみ出ている。顔をのぞき込んで気づいた。ほんの少し涙まで浮かべて……。
「うっさいばか!!」
素早いパンチが顔面に突き刺さった。
「ぶわっちゅ」
情けない声を上げて、パンチを喰らった瞬間星が見えた。そんでもって、四か月前の記憶も掘り起こされた。
『修行だああああ!! 新必殺技ゲットすんぞ!』
こんなメッセージを送った気がする。
「あー、言ったわ」
赤くなった鼻をさすりつつ答えると、体に電流が奔る感覚。さえた頭が一つの答えにたどり着く。
「ゲットしようぜ、必殺技!」
気づいた時にはガッツポーズ。俺、そんなおもろいこと言ってたんだな。
行き詰まりの併走、それを壊すのは簡単じゃない。なら、わっかりやすいくらい強い必殺技作るのも手だ!!
「……、ゲットって。いい案でもあるわけ? さっきまで忘れてたくせに」
ノリだけで恥ずかしいこと書くなバカ。と口をとがらせそっぽを向かれる。
「悪かったって」
それを希望にしてんなら悪いことをした。責任はきっちりとろうと、思考を巡らせる。と、目的地にたどり着いた。
「必殺技はこれが終わった後に生み出そうぜ」
「……うん」
スタートラインに立った瞬間、俺たちの風が変わった。
まずは目の前の目標を叩き潰す。やる気十分。お遊びはなしだと、タイシンは真剣な瞳でコースの向こうを見据えた。
「タイシン、これ付けてみろ」
俺はイヤホンを差し出した。もちろんウマ娘用。走っても取れない特注品だ。
「わかった」
迷わずに受け取り、指示を仰ぐ。
「今からタイムを測る。タイシンはいつも通り全力で走ればそれでいい」
「これは?」
耳を指差す。
「走れば分かる。コイツがあれば足りないもんが見えてくると思うぜ」
有無を言わずに頷いて、スタートラインに足を付ける。
「準備は……できてんな」
「うん!」
やる気満々。不安など感じさせないくらい力強い返事に安心して、
「よーい」
俺は叫んだ。
「どん!!」
◇
振り下げられた腕と同時に大きく地面を蹴った。
いつも通り、スタイルは追い込み。脚を十分溜め、解放する戦法。
春の風を全身で浴びながら、突き進む。
裸の地面も春の訪れによって緑に変わりつつある。
本物のレースに近い環境。
「芝とスタンドに客が居ないけど」
吐き捨てて、第三コーナーを回る。
今はたった一人で走っている。幻は見えない。
もう少し。第四コーナーに差し掛かる寸前で、アイツらが現れる。
ごくりと生唾を飲み込み、臨戦態勢へ気持ちを整える。
最後のコーナー。足を踏み入れた瞬間。
『第四コーナーに差し掛かる!』
「……え?」
嫌な声が聞こえた。
アタシの心に罅を入れる声……。
世界が変わった。文字通りにだ。
アタシの目に映るのは、忘れもしない大阪レース場。ポープフルステークス。デビューしてから初めて負けた勝負。
この後に起こる展開が胸の中で不安を駆り立てる。心臓を握られてるみたいだ。冷たい汗が頬を伝う。
『最後の直線!』
実況者の声が轟いて、今自分がすべきことを思い出し、歯を食いしばる。
「はあっ!!」
不安を押し殺して駆ける。ゴールはまだ見えない。焦りが心の底にある。「でも」と我慢して、作戦である追い込みに全てを掛けるため、タイミングを待つ。全てが開けるその時を。
「ここだ!!」
突破口が見えた。力を全て解放し、前に居る11人めがけて突っ込んだ。
『ここで上がってきたぞ、ナリタタイシン!』
ぶつかることなく、針に糸を通したみたいに群れの中から飛びぬけた。
「「「おおおおお!!!」」」
歓声がアタシを包む。一度目は心が高ぶった瞬間だった。でも、今は違う。全てが再現されるなら、きっと……。
アタシの脚は加速する。ゴールめがけて、逃げるように、加速する。
『すごい、すごい加速だ!』
『先頭はナリタタイシン! 残り200! これは圧勝か!?』
違う。圧勝なんかしない。
「くっ……」
心が折れそうになる。そんなとき、追い打ちをかけるように、容赦なく影が後ろから風を連れてきた。
『あ、上がってきた。上がってきた! ウイニングチケットが上がってきた!』
「くっ……」
やっぱりか。
『はやい、はやいぞウイニングチケット!』
歓声が巻き上がる。
そして、彼女がアタシの隣に並んだ。
「勝つのは、私たちだよ!」
趣味の悪い再上映。一言一句違えることなく、彼女はアタシを置き去りにした。
「………っ」
ムカついた。
今のアタシはアンタに気付かされてる。
トレーナーと一緒に強くなる。
その単純な一言。この4か月で胸を張れるくらいアイツと一緒に頑張った。それが否定されて良いわけない。
歯を食いしばる。言葉を発する余裕なんてない。ただ、目の前の過去を睨んで、地面が壊れるくらい強く踏み込んだ。
『ラスト50! チケット……タイシン! 上がってきた! 伸びる! 進む! まだ終わっていない!』
終わってない。
変える。よぎる絶望になんとか耐える。
チケットの背中はどんどん遠くなる。
『ゴールはすぐそこ、まだ3馬身差がある。タイシン来るか!』
繰り返してたまるか。アタシは強くなった。だから……、今度こそ。
「来るに決まってんでしょ!!」
駆けた。
もう周りは見えない。ただ速く。ただ走った。
・・・
パンッ——。
突然鳴った乾いた音で意識を引き戻された。
「え……?」
トレーナーが持っていたピストルの音。
アタシはどうやら2000mを走り終えていたらしい。そう知ったとき、一気に疲れが押し寄せて、その場で腰を下ろした。
「どうだった?」
ニマニマと腕を組んでトレーナーが近づいてくる。
でも、そいつの声はいつもより小さい……。
「ああ、そういうこと」
自分の耳についているそれを取り外して、トレーナーを睨んでこう言うことにした。
「趣味悪すぎ」
外したイヤホンからはホープフルステークスの実況が小さく零れていた。
◇
熱風を運んでゴールを決めたタイシン。
そのタイムは驚くべきものだった。練習の成果はきっちりと出ている。しかし、彼女の表情は浮かないよう。
タイムを見てニヤついた顔を戻して、座り込むタイシンに声をかける。
「負けたんだな」
「うん……」
こくりと頷いて、反省点を続ける。
「実力がついているのは分かる。でも、アイツに勝てるビジョンが浮かばない」
そりゃ、自分の中で最強というイメージを持った相手に、空想の中で勝つことは難しい。
「それで? 何か足りないものは分かったか?」
ぎこちなく「はっきりとはしないけど」と前に置いて俺を見上げた。
「必殺技ってのがやっぱりほしいのかも……。絶対誰も寄せ付けないくらい強いやつ」
連敗を重ねりゃそういう絶対的な安定材料が欲しくなる。その気持ちはよくわかる。
「例えば?」
試しに訊いてみる。本人の意見を伸ばすのもトレーナーの役目だ。
タイシンは数秒黙りこくった後、晩飯を決めるテンションでこう言った。
「作戦を変えてみるとか?」
「————」
絶句した。マジすまん。ここまでブレるようになっちまったとは……。
自分の強みすら分からなくなる特訓をさせて悪いという気持ちと、よくわからん怒りが湧いてきて——。
「アホかあああああ!!」
クソでかい声で叫んでいた。
「テメェの武器は圧倒的に強い末脚だろうが!!」
幻が二つしかないからバ郡って存在を忘れちまってる。仮に作戦を変えるとしても絶対に今じゃねぇ!!
「で、でも!」
口を尖らせてた反抗を遮って大声。
「ぅうるせぇ! 何も言えないくらいべた褒めしてやろうか? ああ!?」
「じゃ、じゃあ! どうすればいいの!!」
「そりゃ簡単!!」
太陽に人差し指を立てて——振り下ろす。
「ここ、じゃねぇか?」
◇
「ここ、ねぇ……」
深夜。最後の夜。皐月賞は明日。
アスファルトの上を歩く。
以前トレーナーに言われたことを、心臓に手を当てて思い返す。
「気持ちで勝ててないだけ」
フードを被って夜道を歩く。
「お前の心に火を焚きつける何かを見つけりゃいい。か……」
等間隔の街路灯。林道の横を過ぎ去るテールランプ。
「なんだろね……アタシの心って」
辺りに人通りがなくなって、静けさと夜風が無駄にアタシの声を大きく運んだ。
頭を掻いて少し恥ずかしい思い出が脳裏をチラついて、熱くなった頭を振った。
◆
「~~~っ!!」
イヤホンで例の実況を流しながら走る特訓。それはただただアタシをイラつかせた。
「勝てない!!!」
地面に寝転がって自棄になる。
何回目だ。この負けのスパイラルは。もうノイローゼ気味。誰かアタシを開放して……。
「『ここ』で全部解決するって言っても、明確な必殺技じゃないし……わかんない」
自制心がまだほんの少し残ってるからいいけど、もう少しで赤ん坊みたいに暴れそう。
アイツが指さした場所は……『心臓』。
実力は確実についた。なら足りないのは気合だけ。そう言った。
昭和のスポコンかって言いたくなるけど、アイツの目は確信に満ちていた。きっと、その通りなんだと思う。実力が同じ者同士の戦いで決着を分けるのは『気持ち』だってことは、アタシも分かる。
起き上がって、走りだす。考えているだけじゃパンクしそうで、体が勝手に動き出す。
すぐに林道はレース場に様変わり。前に二つの幻影が現れる。
見知った後姿。
ふたりの気持ち。レースに挑む心意気って、何だろう。
一番前を走ってる葦毛のライバルを睨む。
アイツの走る理由はたしか『勝利の方程式を手に入れるため』。デビュー前から口にしていた。「私はそれを手に入れるまで走ることをやめない」覚悟のこもった表情で言い放った。
視線を移す。黒髪のウマ娘。背中から感じる暑苦しさ。アイツの走る理由は鼓膜が破れるほど聞いた。『ダービーで勝つんだああああ!!』笑顔で、闘志を燃やして、ずっと叫んでた。それが原動力。皐月賞はダービー前のG1。絶対にチケットは強くなってる。気持ちはダービーに向けて留まるところを知らないくらい上がっている。
そんな二人に負けないくらいの心……。
がむしゃらに手を振る。腿を上げる。息が荒くなる。
心臓を握った。
答えが出た。
そのとき、アタシはゴール板を駆け抜けた。
————なにもない。
それが答えだった。
◆
苦い思い出が蘇ったが、目的地に着いたこととで意識は今に戻された。
曇り空へと続く長い階段。アタシはゆっくりと一段一段踏みしめる。
修行を終えた。
力はついた。
負ける気はない。
勝てる確証もない。
理由が無い。
心の底からアタシを動かすものが見つからない。
アイツらはあるのに。
今まで———どう走ってたっけ。
「あ…………」
自問の果てに上る階段はなくなっていた。
「懐かしいな……」
現れた景色に頬が緩んだ。
ここに来たのは二度目。メイクデビュー以来。トレーナーに連れられてきた神社。
ここからは街が一望できる。
真下の明かりは星空みたい。
空は一面の雲。山奥で見ていた空の代わりに街が輝いてアタシを迎えてくれているみたいだ。
「ポエマーかっての」
鼻で笑って一蹴。
再び、街に目を落とす。
ここに来れば何かわかるかもって気がしたんだけど……なにもないな。
「はぁ……」
帰ろ。
瞼を閉じた。そのとき——
「ねえ、お前ナリタタイシンでしょ?」
背中に声がかかった。
怒気の含まれた、どこか聞き覚えのある声。聞いた瞬間に、なんだか胸の底がざわついた。
ゆっくりと振り返る。
「アンタは……?」
その先には少女が居た。
アタシとおんなじくらいの背。赤髪のショートカット。その赤は彼女自身を表してるようだった。
「私のことはどうでもいい。お前に聞きたいことがあったんだよ!」
人差し指を突き出し、睨んだ。
なんだコイツ。いきなり喧嘩売りにきて……。なんか、ムカつく。
「分かった、聞いてあげる」
足を肩幅まで開いて腕を組む。正面から受けてやる。
「へぇ……度胸はあるんだね」
少女は壊れかけの笑みを浮かべた。
「皐月賞、出るんでしょ?」
やけに真剣に問う。
「そうだけど?」
「……はっ、やめときなよ」
まっすぐな顔はすぐに壊れ、片側の口が吊り上がる。
「お前さ、分かってないよ。他二人と……体格も! 実力も! 違いすぎるっての。無謀だ」
赤髪を掻きむしり、言葉を吐き出す。
「お前見てるとムカつくんだよ。絶対に敵わない相手に挑み続けてさ。ホープフルでわかったでしょ? ウイニングチケットの方が強い。体格の差は絶対に縮まらない。神様が作ったこの世界で結果は全部決まってんの」
滝のように、言葉が流れる。
「お前の未来当ててやるよ……」
たいそう嬉しそうに女の口は三日月を描く。
「ポッキリ折れてジエンド」
言いたいこと言ってすっきりした。と女は涼しげな顔で向き直り、最後に冷たい瞳でアタシを睨んだ。
「やめときな。負けるだけだ。最悪全部を失う」
「————。」
心が震えた。
ぐつぐつと奥底で何かが燃え上がる。じゃ口が壊れたみたいに感情が沸き上がる。アタシはアタシを思い出した。
「はは……」
乾いた笑い。
なんで忘れてたんだろ……アタシが走る理由、在ったじゃん。とっておきの、歪んだ原動力が。
山奥行ってて気づかなかったんだ。世界がアタシをどう見てるか。ほんっと、アイツに守ってもらってばっかじゃん。
一歩踏み出す。
風が舞い上がる。
震えているのはアタシか大地か。
雲が消える。
黄色の光が背中に当たる。
足を前に出す。
「……なんだよ! やっぱ言い返せないんだろ! やめちまえよ!! 恥かくだけだ! 向いてねぇんだよ!」
なんか、喚いてる……。ウザ……。
「努力だけじゃ超えられない! 明確な差ってやつがあるんだよ!!」
声デカい……。進む度でかくなる。
「お前は勝てないっ!!」
……。ここか。
声の震源地。そこで、口を開く。今の感情を。煮えたぎった心を吐く。
「————黙って見てろ」
満月を背に、皐月へ歩く。
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