タイシンと究極バカ   作:かわだ

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バカときどきシリアス。

今回はそのシリアスの部分です。
多分、ちょっと、シリアスです。


二話

  二話

 

「はぁ……」

 

 

 大きなため息をして机に突っ伏した。

 

 

「おはよう。朝からおつかれか、タイシン」

 

「ハヤヒデ……」

 

 

 朝の教室で声を掛けられる。

 

 

「あいつ、暑苦しすぎて面倒」

 

 

 今朝のことを思い返す……。

 

 

 

「よお、タイシン!」

 

 

 まだ薄暗いグラウンドでぶんぶん手を振って嬉しそうにアタシを迎えるバカ男。

 

 

「おはよ」

 

 

 相変わらずの無邪気な姿に呆れて頬を緩めるたが、次に瞬間後悔する。

 

 

「声小せぇぞ! おっはよおおおおおおお!」

 

 

 鼓膜敗れるくらいの大声。朝も早いから響きまくる。

 

 

「うざ……」

 

「ひでぇぞ、朝はでかい声であいさつだ! 体も飛び起きるってもんよ!」

 

 

 うっし、と拳を打って。

 

 

「今日もがんばっぞ! せーの!」

 

 

 大きく息を吸って、

 

 

「おーーー!」

 

 

 拳を天高く掲げた。

 

「…………」

 

 

 こいつ……テンションおかしくない?

昨日のちょっとカッコよかったあいつはどこ行ったの……?

 

 

「お前もやんだよ」

 

 

 白けた雰囲気の中、ジト目で強制してくる。

 

 

「いや」

 

「気合は最強の武器だぞ」

 

「武器は末脚じゃないの?」

 

「………。それは超最強の武器だ」

 

 

 本当にバカすぎて呆れる。

 なんでコイツを選んじゃったんだろって後悔が出てくる。

 

 彼を見上げると、ブンブンと首を横に振って、そんなのはいいんだよ、とアタシの手を握った。そして、無理やり拳を作らせて

 

 

「頑張るぞ!」

 

 

 手首を空に突き上げられた。

 

 

「おーーー!」

 

「……おー」

 

 

 アタシが言って満足したのかそいつはにかっと笑って特訓が始まった。

 

 

 

 

「最悪……」

 

 

 思い返して更に疲れた。昨日のアタシを呪いたい。

 

 

「本当に浮かない顔をしているな」

 

「あいつ暑苦しすぎてウザい」

 

 

 うんざりしていると、見下ろすハヤヒデは何故か笑った。

 

 その姿に首をかしげる。

 

 

「そう不機嫌そうな顔をするな」

 

 

 にこにこしながらそう言った。

 

 

「そんなに邪険にされているのに離れないトレーナーか。私も興味が沸いてしまった」

 

 

 何か釈然としないままホームルームが始まった。

 

 

 

 

  ◇

 

 

「くう~~~っ、疲れたあ」

 

 

 トレーナー室で伸びをする。

 

 今は14時か。

 

 昨晩、タイシンのトレーナーになってからずっと特訓メニューを考えていた。

 深夜テンションのまま行っちまったが、朝練はいい気分転換になったなあ。

 あいつが居てくれてよかった。よかった。

 

 完成した紙束をペラペラめくる。

 

 あいつの末脚を磨けるメニューだと確信する。

 

 成長が楽しみだ。

 

 でも……いい加減腰がバキバキだ。

 背もたれに全身を預けて目を瞑る。

 

 

 

  ◆

 

 

 キーンコーンカーンコーン。

 

 チャイムが鳴って飛び起きる。

 

 

「あっぶねぇ……。初日に遅刻は洒落にならなぇぞ」

 

 

 両頬をぶっ叩いて目を覚ます。

 

 机の上の紙束を握って部屋を後にした。

 

 

 

 

「よっ!」

 

 

 教室までタイシンを迎えに行ったらちょうど出てきたところだった。

 

 

「げぇっ」

 

「あからさまに嫌そうな顔すんなよ」

 

 

 苦笑い。

 

 

「む、君はタイシンのトレーナーか?」

 

 

 続いて、芦毛で頭のデカいウマ娘が出てきた。

 

 

「今、失礼なことを考えなかったか?」

 

「いえ、ナニモ!」

 

 

 眼鏡越しの鋭い視線に、びしっと背筋を伸ばした。

 

 まあ、いい。と腕を組んで彼女は話し始める。

 

 

「私はビワハヤヒデ。友人として、タイシンのことよろしく頼むぞ。トレーナーくん」

 

 

 おだやかに微笑した。

 

 

「ああ、頼まれた。タイシンは最強のウマ娘になるからな。お前もライバルになるかもしんねぇ。強くなってまた会おうぜ!」

 

 

 拳を突き出すと、瞳を闘志で燃やして挑発的な笑みを浮かべた。

 

 

「勿論だとも」

 

「ちょっ」

 

 

 ハヤヒデと笑いあってたら、端にいたタイシンは今にも沸騰しそうな顔を上げて目が合ったと思ったら、すぐに目を伏せた。

 

 

「さいきょうとか……いいふらすな……」

 

 

 小声でぼそぼそ、もじもじ言った。

 

 

「?」

 

 

 聞こえてはいたが意図が見えずに首を傾げていると、

 

 

「なんでもないっ!」

 

 

 言い切って、俺の袖を引いて足早にこの場を去ろうとする。

 

 

「こういうやつだ。温かい目で見守ってくれ」

 

 

 笑顔で見送るハヤヒデ。

 

 

「お前、いい友達持ったな」

 

「うっさい」

 

 

 顔は見せずに俺を引っ張って廊下を歩いていた、瞬間——

 

 

「探したぞ」

 

 

 凛々しい声が正面からかかった。

 

 

「会長さん……?」

 

 

 立ち止まって、予想もしなかった人物に唖然とする。

 

 

「トレーナー君。ナリタタイシンのことについて話があるそうだ。今すぐ理事長室へ行ってくれないか?」

 

 

 妙に切迫した声音に身構える。

 

 

「タイシンのこと……? 書類に不備はないはずだが」

 

「そう単純な話ではないんだ。とにかく急いでくれ」

 

「分かった。タイシン」

 

 

 隣の彼女に紙束を押し付ける。

 

 

「悪いがこれ持っててくれ。あと、今日はオフだ」

 

「え、ちょっと」

 

 

 不安そうな顔を一瞬魅せるが、頭をくしゃっと撫でたら少し和らいだが、すぐにむっとイラついて、

 

 

「さわんな!」

 

 

 手を見事な力で振り払われる。

 

 

「そんくらい元気ありゃ十分! 明日の朝練はみっちりしごいてやかっら覚悟しとけよ」

 

 

 笑ってみせた。

 

 

「……わかった」

 

 

 そっぽを向いてハヤヒデに駆け寄った。

 

 

「行きましょうか」

 

 

 会長さんの不安な目を見て、促した。

 

 嫌な予感がした。

 こんな顔をしている会長を俺は見たことがなかったからだ。

 

 一瞬ちらついた不安要素。

 

 

『私は反対ですから。理事長へ意見をしに行ってきます』

 

 

 昨日、去り際に言った女性トレーナーの言葉。

 

 当たってほしくない予想が沸き上がるが、首を振ってそれを否定し、足を進めた。

 

 

 

 

 重々しいドアのハンドルを握って、扉を開く。

 

 そして、まっさきに最悪な言葉が飛び込んできた。

 

 

「ナリタタイシンはトレセン学園を退学するべきです」

 

 

 

  ◇

 

 

 とりあえず、あいつから貰った紙束をカバンの中にしまう。

 

 

「ふむ、二人になってしまったな」

 

 

 トレーナーたちの後姿を見てハヤヒデはそっとため息を吐いた。

 

 

「タイシン、ちょっと話をしてもいいかな?」

 

「アンタ、トレーニングは?」

 

「今日は私もオフなんだ」

 

「そっか」

 

 

 アタシもすることないしな……。

 

 

「わかった。いいよ」

 

 

 返事に微笑して

 

 

「では行こうか」

 

 

 歩き出した。

 

 

 

  ◆

 

 

 移動した先はカフェテリア。

 

 ハヤヒデはコーヒー。アタシはコーラを頼んで席に座った。

 

 

「このところ、お互いドタバタして話す機会がなかっただろう?」

 

「久々に話そうってわけね」

 

「ああ」

 

 

 目を伏せてコーヒーを一口。

 

 こういう大人っぽい凛としたところは正直うらやま……、何考えてんだアタシは。 

 自分をくすりと笑い、こっちも気になってたことを話す。

 

 

「ハヤヒデもトレーナー決まったんだよね?」

 

「ああ。そうだな」

 

「どんな人?」

 

 

 ストローをすって気軽に語る。

 

 

「そうだな、彼女はまじめだ」

 

「うわ、ストレス溜まりそう……」

 

 

 こらこら、と笑いながら諭して話を続ける。

 

 

「練習メニューもきちり書いて、ウマ娘のことを第一に考える真剣で素敵な人だ」

 

「へぇ、そこは羨ましいかも。こっちのトレーナー根性とテンションだけだし……」

 

 

 格差ってやつ、というかトレーナーに呆れて机に顎をついた。

 

 

「そんなことはないぞ。彼は君のことしか考えていないように見えたが」

 

 

 やけに自信ありげに語った。

 

 

「さっきの紙、見てみたらどうだ?」

 

「いいけど……」

 

 

 あれ、結局何だったんだろ。カバンから取り出して机の上に置くと、一番上のページにドン、と太字で『ナリタタイシン 最強化計画!』と書いてあった。

 

 困惑とよくわからない感情が心の中で渦巻いている。それに釘付けになっていると、ハヤヒデに引き戻される。

 

 

「開いてみたらどうだ?」

 

 

 200ページは軽く超えている分厚い紙束。

 

 それをペラペラめくると、

 

 

「なにこれ……」

 

 

 思わず目を見開いた。

 

 そこに記されていたのは、アタシの過去の戦歴、未来のライバルのデータ。そして、末脚を最大限強化するために決められた練習メニューとその詳細。

 

 昨日の今日でこんな量……。人間業じゃないでしょ。

 

 

「君は恵まれている。素晴らしいトレーナーに巡り合ったじゃないか」

 

 

 微笑するハヤヒデとこの書類に向かってため息を吐く。

 

 

「ちょっとでも後悔したって思ったの、悪かったね」

 

 

 さて、とコーヒーカップを机に置き、意地の悪そうにアタシをのぞき込む。

 

 

「トレーナーはこれほどタイシンのことを知っているが。彼こと、知りたくはないか?」

 

「計算してたの……?」

 

「さてね」

 

 

 にっこり笑ってご満悦そうだ。

 

 朝の様子を見てここまで根回ししたなら、どんだけお節介なんだって呆れてくる。

 

 

「わかった。乗ってあげるから、言いなよ」

 

 

 そうむすっとするな、となだめてスマホを操作してある記事を出しだす。

 

 

「なにこれ」

 

 

 十年前のニュース記事だ。

 

 なになに……。

 

 

「消えた幻のピッチャー……?」

 

 

 

  ◇

 

 

「おお、トレーナー。来てくれたか」

 

 

 理事長が苦笑して迎え入れた。その反面、女性トレーナーはこちらを睨む。

 

 ポニーテールとスーツの若い女性。いわゆるエリートトレーナー。

 確か、年は俺の一つ下。

 昨日色々と調べているうちにわかったことだ。

 そして、昨日タイシンにトレセンを去るのを勧めたのも彼女。和泉トレーナーだ。

 

 部屋を見渡す。理事長にたづなさん。そしてトレーナーが数名。

 

 彼女は今現在、理事長を説得中なのだろう。

 

 

「今は彼女の言い分を全て聞きたいので、私のことは気になさらず」

 

 

 彼女は俺に背を向けて、理事長に抗議を続ける。

 

 

「ナリタタイシン、彼女の体躯で走り続ければ最悪な未来が訪れます」

 

「どのような?」

 

 

 俺の横で見ていたルドルフ会長が尋ねる。

 

 彼女は振り向いて一瞬、顔を曇らせる。

 

 

「不甲斐ないことに、私は一度担当ウマ娘の希望を叶えるべく無理な出走をさせました。そして、彼女の無理を通した結果、二度とレースができない体になりました。」

 

ぎゅっ、とズボンの裾を握って過去の自分を叱りつけながら彼女は言った。

 

「なるほど、それで君はナリタタイシンを重ねてしまったのか」

 

「はい。ウマ娘は必ずしもレースに出ることが定めではありません。夢を砕かれ、二度とそれに挑戦できない体になってしまったらと思うと……私は彼女を出走させることをやめさせた方がよいと思うのです」

 

 

 真剣で揺るがない瞳。

 

 

 和泉トレーナーは苦いトラウマを経験し、それを絶対に防ぎたいと思っている。だから頑なにタイシンの出走を認めない。

 

 

 あいつの今までの走りを見たらその反応も納得だ。

 

俺も言いたいことができた。

 

 

「無理に先頭集団へ突っ込む走り。小柄な体系が故に一歩間違えれば転倒し、二度と走れなくなる。そう言いたいんですよね?」

 

 

「ええ。夢を奪われることは何よりも悲しく、苦しいのです。あなたもそれが分かるはずです。過去、幻のピッチャーと呼ばれたあなたならば!」

 

 

 

  ◇

 

 

「ちょっと、これ……」

 

 

 アタシのトレーナーは高校時代、最強のピッチャーだったらしい。

 

 試合に出れば完投。投げれば完封。

 

 漫画以上の反則級の強さを持った彼はプロ入り確定なんて騒ぎを起こす間違いなく最強の投手だった。

 名門校ということもあり、県大会で優勝。甲子園への切符を手に入れる。

 

 誰もが注目した選手。しかし、その最後はあっけなく幕を閉じた。

 

 記事に目を通していくにつれ、嫌な空気が充満する。

 

 甲子園前日。

 

 彼は交通事故にあった。

 

 

「…………っ!」

 

 

 左腕の靭帯損傷及び骨折。

 

 絶望的だった。

 

 甲子園はおろか、彼は二度と野球をできない体になってしまったのだ。

 

 そして彼はこう呼ばれる。『幻のピッチャー』と。

 

 そこでアタシはスマホを切った。

 

「なに、これ……?」

 

 

 感情のぶつけ所が分からなくて、最悪にイラついてる。

 

 

「タイシンのトレーナーの夢が破れた瞬間だ」

 

 

 ガシャン——。拳をテーブルに叩きつける。

 

 

「アンタ、ふざけてんの?」

 

「いいや、これを見せたのには意味がある」

 

 

 表情を一切変えずにハヤヒデは冷静に続ける。

 

 

「先ほどルドルフ会長が彼を呼びに来ただろう」

 

「うん」

 

 

 なんの話……?

 

 

「そこで、君について話があると言った」

 

「それって事務的なやつじゃないの? あいつ、そーゆーとこ抜けてそうだし」

 

「あれほどの書類を一日経たずに書き上げる者が抜けてそうだと、本当に言えるのか……?」

 

「——!?」

 

「彼は今、君について話している。いいや、抗議されているといった方が正しいか」

 

 

 嫌な予感が体を震わせ、机をたたいて立ち上がる。

 

 

「どういうこと?」

 

「君に忠告したトレーナーがいただろう?」

 

 

 昨日のあのお節介な女の人か。

 

 

「彼女が君を退学させようとしてる」

 

「なにそれ?」

 

「タイシン、君は何としてもこれを防がなければならない。そこで、説得している彼のことを知ってから、君も論議に混ざった方が良いと判断した」

 

「意図が分からないけど、アタシ、行くから!」

 

「最初は聞き耳を立てていろ。ここぞというときに部屋に入るんだ。いいな?」

 

 

 釈然としないけど、頷いてカフェテリアを後にし、全力で理事長室を目指した。

 

 

  ◇

 

 

「ええ。夢を奪われることは何よりも悲しく、苦しいのです。あなたもそれが分かるはずです。過去、幻のピッチャーと呼ばれたあなたならば!」

 

 

 悲痛の叫び。

 

 彼女は……本気で悩んでいる。

 きっと彼女の中で葛藤が渦巻いている。

 

 タイシンが夢を失う瞬間、走れなくなる瞬間を絶対に回避させたいと思う心とタイシンに夢をかなえてほしいという心。優しさから来る感情だ。

 

 彼女を否定できる者はきっとここには居ない。

 

 だから、本心を言う。

 今この場で俺しか言えない言葉を。

 

 

「確かに、そんなことを言われた時もあった」

 

 

 昔を思い出す。

 

 

「その頃の夢は、ただ投げたいってことだった。できそうな気がした。やってみせるって思って、血反吐吐くほど特訓した。けどご存知の通り、交通事故でその夢を失った。あの頃はキツかったなぁ……」

 

 

 正面で聴いているいる和泉トレーナーの顔は悲しそうな、申し訳なさそうに俯いていた。それでも一言、抗う。

 

 

「夢を失うとき。それは残酷です。だからこそ、タイシンさんは走るべきじゃない。走るのが好きなら、中央ではやめるべきです。必ず、あの体格なら、レース中に……」

 

 

 震えるように縮こまって、彼女の歯切れは悪くなる。

 

最悪のケースを考えて、思い出して、泣きそうな声。

 

だからこそ。言う。

 

 

「俺は、投げましたよ」

 

 

「——!」

 

「事故にあわなかったとしたら。腕が壊れるまで投げました。トレーナーとしてこんなこと言うのは失格ですけど、俺の全てはマウンドにあった」

 

 

 そう。灼熱の中心。あそこが、俺の場所だった。

 

 

「諦められないんですよ。それが夢ってやつです。誰の指図も受けない自分自身。明確なものはない。けど、そこにある気がする。だから投げる。それを危険だからって諦めることは絶対にできない」

 

「それでも……っ!」

 

 

「だから! トレーナーが、俺たちが居る。夢を支える。それがトレーナーってもんだ」

 

 

 さえぎって俺の本心を言い放った。

 

 

「俺は……、誰に反対されようが、世界に反対されようが、タイシンを最強のウマ娘にしてみせます。それが、幻の投手の今の夢です」

 

 

 静寂が訪れる。

 

 

 負けた。

 

 トレーナーとして、負けてしまったなぁ。と和泉トレーナーはすがすがしい顔と反省の顔を見せて、理事長に頭を下げる。

 

「すみません。私が間違っていました」

 

「うむ。彼の言ったこと、穴だらけではあったが信念はあった。それは正しい。和泉も信念をもって励むのだぞ!」

 

 

 理事長は笑顔で言って、場が和む。

 

 

「ご苦労だったな、トレーナー君」

 

 

 ルドルフ会長が微笑して一瞥した。

 

 

「会長も、ありがとうございます」

 

 部屋を出る前に顔の見えない彼女に声をかける。

 

「じゃあな和泉。お前も答え、見つけろよ」

 

 

 軽く手を振って勢いよくドアを押すと、ガタン!

 

 なんかが、ぶつかった。

 

 

「ん?」

 

 

 もう一回押すと、ドアが開いて、頭をさする少女が床にしりもちをつく姿が飛び込んできた。

 

 

「お前……、盗み聞きかあ?」

 

 

 昨日してた俺が言えないんだけど。

 

 

「ち、違う! アタシはハヤヒデに言われて……」

 

「ま、ちょうどいいや」

 

 

 後ろに回り込んで、わきの下に手を突っ込んで持ち上げる。

 

 

「皆さん、こいつが、未来の最強ウマ娘です!」

 

 

 理事長御一行に笑顔で言い放った。

 

 

「ばか、降ろせ!」

 

 

 小学生みたいに駄々をこねるが、面白いのでこのままにして、その場を去った。

 

 

 廊下にて……、

 

 

「タイシン猫みたーい!!」

 

 

 チケットに大いに笑われたのだった。

 

 

  ◇

 

 

「やあ、どうだった。トレーナーくん」

 

 

 理事長室から出てきた和泉トレーナーに待っていたビワハヤヒデが話しかける。

 

 

「ごめんなさい。迷惑かけたわね。ビワハヤヒデ」

 

 

 申し訳なさそうに苦笑して彼女は答える。

 

 

「何か、分かったかい?」

 

「ええ。私は、彼女の夢を潰そうとしていたのね」

 

 

 反省だわ。と目を伏せる。

 

 

「怖かったの。タイシンさんとあの子を重ねてしまって」

 

 

 彼女は、過去担当したウマ娘のことを思い返す。

 

 でも、とそれを胸に収め、振り切ってビワハヤヒデのことを、自分の担当ウマ娘を見つめる。

 

 

「彼女と彼ならきっと大丈夫。そう思えたの」

 

 

 微笑した。

 

 

「謝らなくちゃね……」

 

 

 彼らを思い出して、反省して彼女は呟くと、ハヤヒデも口を開く。

 

 

「そうだな。だが、それは今ではないだろう」

 

「ええ」

 

「私たちにできるのは、全力で彼女らに挑むことだ。彼らに顔向けできる強さに達してから、謝ろう」

「そうね」

 

 

 迷いは晴れた。和泉トレーナーは笑顔で、覚悟の決まった瞳でハヤヒデを見つめる。

 

 

「勝ちましょう。ビワハヤヒデ」

 

「無論だとも」

 

 

 夕暮れの廊下で、未来のライバルが決意した。

 

 

 そして芦毛のウマ娘は思う。

 

 

(タイシンも交えて説得すると思っていたが、彼一人で説得しきった……私の計算の上をいくとは、なかなか面白い男だな)




最後まで読んでいただきありがとうございます。そしてお疲れさまでした。
このトレーナー、たまにシリアスやります。
でも安心してください。
次の話はテンション高く、タイシンと一緒にがむしゃらに頑張らせます。
俺も一週間以内には上げれるように頑張ります。
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