4.5話
「反省会だッ!」
夜の札幌レース場前。
俺の声が遠くまでつんざいた。
「うるさい」
仏頂面でタイシンがそっぽ向く。
そのスカした顔面に例の動画を突き付ける。
『ひびけ ふぁーんふぁーれ!』
残酷にがっちがちな声がスピーカーから流れだした。
「~~~~~っ!」
顔を真っ赤にして反対を向くから、俺もスマホをそっちに向ける。
それをやり続けていると、流石に空気が変わって……
「やめろって!」
「ぐぼあっ!?」
腹に蹴りが突き刺さった。
スケート選手もびっくりの空中トリプルスピン! そっから地面にたたき落される。
「それ以上やったら蹴っ飛ばすよ!」
小さい女の子みたいに両手でぐーを作って、うるうるした目で怒鳴った。
「今……蹴ったじゃん……」
筋肉の装甲が無ければ死んでいた。
やはり筋肉。
筋肉は全てを解決する。
「今のはパドックの分」
「あぁ、あれね……」
「恥ずかしくて死にそうだったんだけど」
またそっぽ向いて、呟く。
「でも、緊張は取れただろ?」
「うん……」
複雑そうな表情で頭を掻いた。
腹の痛みも引いたので立ち上がる。
「それじゃ、反省会すんぞ。来い」
レース場を後にした。
◆
「そんで、どうしてああなった?」
夜道を歩く。
笑い半分で訊くと、タイシンも清々しくため息を吐き捨てた。
「ウイニングライブのことすっかり忘れてた」
「おいおい、ウマ娘先生。勝ったあとのことも考えましょうぜ?」
「仕方ないじゃん。勝つのでいっぱいいっぱいだったんだし」
「まあな。でも、次からはダンスも特訓してもらうからな。勝者ってのには責任が掛かる。勝ったんなら最後までカッコよく、だ」
「……うん。勝ったんなら最後まできっちりしないと、負けたやつが浮かばれない」
経験から来る言葉の重み。
こいつも学園で負け続けた。
きっと、敗者の気持ちは十分わかってるんだろう。
「よし。そんじゃ、ダンスレッスンサボるなよ」
気持ちが固まって、これにて反省会終了。と思ったのだが、タイシンは苦笑いをして頬を掻いた。
「あのさ……。アタシ、レッスン申し込み忘れたんだよね……」
・・・・・。
頭が痛くなる白状に殺されかける。
「カーーーーーーーーー」
また口があきっぱだ。
そろそろ顎外れんぞ。
「レースに全部かけてたから……」
そもそも、サボってたわけじゃなく、無かったのだ。
学園のカリキュラムとは別にダンスレッスンがあるのだ。つまり、それに登録していないとコーチも付かないし、訓練もできない。
それをタイシンは思いっきり忘れてたのだ。
「テメェもたいがいバカじゃねぇか」
ひきつった顔で俺も吐き捨てる。
「う、うっさいな」
「しゃあねぇ。分かったよ」
少し考えて、唸って、頭の後ろで腕を組んだ。
「何とかすっから」
「……ごめん」
「それもトレーナーの仕事だ。確認してなかった俺も悪い」
タイシンが分が悪そうに俯いたところで、目的地に到着。
パシンと手を叩いて気分リセット!
「よし、反省会はこれで終了」
立ち止まる。
「こっからはパーティだ! 打ち上げだ! 焼肉だああ!」
焼肉屋の前で拳を振り上げる。
「え、帰らないの?」
「バカ、飯食わずに帰れっか! 今日は頑張った。だから奢ってやる。たらふく食うぞおおおお!」
「言ったね」
タイシンも元の調子を取り戻してにやりと笑う。
「おう! 勝ったら毎回奢ってやるよ」
「絶対だからね」
挑発と挑戦。二つが良い歯車になって回りだす。
「うっしゃ、食って、次も頑張んぞ!」
膝を折って、拳を握って、
「「おーーーーー!」」
空へジャンプし振り上げた!!
◆
「そんじゃ、改めて……」
ビールジョッキを持って、タイシンはコーラを持って。
「メイクデビュー勝利おめでとう!!」
「かんぱーい!」
「かんぱい」
ガシャン。ジョッキが最高の音を奏でた。
ガンガン肉を焼いて、食うっ!
「うんめぇえ!!」
「最高……!」
一口食べて完全に緊張がゆるんだのか、脱力して目をとろけさせてる。
ちょっと奮発してよかったぜ。
タイシンが気を抜ける瞬間をこっちで作ってやんねぇとな。
根詰めすぎなんだ。
このくらい神様だって許すだろうさ。
しっかし、酒+焼肉の組み合わせは完璧だ。
お互い、美味さにしびれつつもぐもぐ食う。
「お前が小食でよかったぜ。他の大食いとこういうとこ来れないからなぁ」
カカッ、と笑う。
酔いが回ってきた。
不甲斐ないことに四杯も飲めば酔って、五杯目で頭に来るのだ。
つまり酒に弱い。
そんで、今は結構気分がいい。
笑う俺にタイシンはむすっとして、にやっと笑った。
「じゃあ、何注文してもいいんだ?」
「いいぜ~! お前の勝利記念だ! 何回だって奢ってやる!」
けど——ッ!
ニシっと笑って指さした。
「負けたらファミレスで反省会な」
そんなことに動じず、メニュー表をぱらりとめくる。
「すいませーん」
タイシンが店員さんを呼んで、俺を見てニヒルに笑った。
「ここで一番高いのってなんですか?」
とても嫌な予感がした。
「そうですね……。上カルビ、上タン、上ロース……。まあ、上って付いてればなんでも高いです」
「そっか……」
一気に酔いが醒めてく……。
「おい、タイシン……」
「なに?」
「なんでそんな質問したノ……?」
「…………」
こういうのを張り付いた笑顔って言うんだろう。
無言でただじっと笑ってる。
「タイシンサン……」
心臓をバクバクさせて、か細い声で尋ねる。
嫌な予感よ外れてくれ。
頼むから!
まじで! マジで!!!!
そして、俺の(財布の)運命を決める一言が放たれる。
「それ、全部ください」
「はい! かしこまりました!」
元気な声が俺を貫通した……。貫いた。ぶっ殺した。
……こうなったら、笑顔だ。
仏になろう。
グッバイ給料。
「いっぱい食べて大きくなれよ……」
燃え尽きながらそう言った。
そんな俺を見て、タイシンはくすりと笑い。
「ざまあみろ」
優しくとどめを刺したのだった。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
レース後の幕間が大好きです。
平均文字数クラッシャーですが、短い話も書いていけたらなと思っています。
次回投稿土曜になるかもしれないです
遅くなって申し訳ないです