7.5話 Regret &...
誰も居ない真っ暗な深夜の道。
後ろに小さな影が寄り添い、歩き続け、目的の場所までたどり着く。
河原。
川を挟んだ向こう側で街の明かりが明滅している。
立っているのは堤防の上。
そこから芝の斜面を降りて、二本の脚で大きく胸を張る。
冷たい夜風。
頭を冷やすには最適の環境だが、今の俺たちはそんなもので鎮火するほど、冷めちゃいなかった。
深呼吸をする。
深く、空気を肺に入れる。
口に空気を吸い込む音が二つ、無音を破る。
そして——全てをぶちまける。
「ちっくしょおおおおおおおおおお!!!!」
「くっそおおおおおおおおおおおお!!!!」
冷めない熱が爆発した。
「ムカつく!」
「イラつく!」
感情があふれ出る。
「涼子も!」
「チケットも!」
留まるところを知らず、吐き出される。
「それより!」
「なにより!」
「「自分がウザい!」」
悔しさで歯を噛み砕いて、天に吠える。
「「ちっくしょおおおおおおおおおおおお!!!!!」」
吠えた。
叫んだ。
喉がちぎれるくらい叫んだ。
「タイシン」
「トレーナー」
隣を見て、同時に口を開いた。
「悪かった!」
「ごめん!」
頭を下げて、吐き続ける。
「俺、お前を強くすることだけを考えてた。自分は完全だったと思ってた」
「アタシ、浅かった。レースに対して本気になれてない、浮ついてた!」
後悔と反省。
「「もっと、強くなりたい!」」
心が重なる。
「もっとお前のことを」
「もっとアンタのことを」
顔を上げ、息を吸い込む。
「「知りたい!!」」
そして、俺たちは……
「「勝ちたい!!」」
夜の街を震わす声で言い切った。
体ごと彼女の方を向く。
「タイシン!」
彼女もまた、俺と向き合う。
「俺を蹴っ飛ばせ!」
腰を低く構えた。
「……わかった」
困惑の色は無い。ただ数歩退いて、体制を低くして俺を睨む。
「不甲斐ない俺をぶっ飛ばして、お前も一つ、いいや100個! 殻をぶち破れ!」
「上等!」
ぎゅっと、足裏をこすりつけて、
「行くよ!」
「来いや!」
助走をつけて、高く飛び上がって、片足を突き出す。
「やあああっ!」
青く輝く瞳が迫る。
そして、清算の一撃が腹に突き刺さった。
「ぐぼああああっ!」
吹っ飛ばされて、天地が何度も移り変わって、
「ばふお——ッ!?」
頭から芝へダイブした。
タイシンもジャンピングキックの着地を失敗して、柔らかな芝の上にあおむけになった。
かき乱した静寂は、俺たちが黙るとすぐさま帰って来る。
なんつーか、
空を見上げる。
星たちが輝く。
街灯の少ないここなら輝きが目に突き刺さる。
「ぷっ……」
「はっ……」
無音がたった一つの破裂音で、変わった。
「あははははははは」
「かははははははは」
笑い声が弾けて、止まらない。
「なにこれ、昭和の漫画?」
「殴ったあとに笑うヤツだろ?」
「そうそう」
「ははっ」
「あはは」
「「バッカじゃねぇの!!」」
星空の下。笑い声がどこまでも届いて、息ができなくなるまで笑いあった。
眠気にも似た安らぎが俺たちを包む。
「ねぇ、トレーナー」
首を傾けると、彼女の脚が目の前にあった。
「アタシ、やっぱり悔しかったよ」
「……ああ」
「強くなってた。でも、最強じゃなかった」
「ああ」
「次は……勝ちたい……っ!」
震える声で、星に呟いた。
「勝ちたい!」
タイシンの意志は星空に轟いた。
トレーナーとして……違う。俺として声をかけるんだ。
勝たせる……、じゃない。
「勝とうぜ。相棒」
「……うん!」
教える立場から、一緒に成長する立場に立って、トレーナーもウマ娘も強くなるんだ。
人馬一体。
涼子が言いたかったのは、俺が気づきたかったのは、それだった。
もう二度と、味気の無い、俺らしくない特訓はさせない。
タイシンを不安にさせない。
道標になって、共に歩くんだ。
「タイシン」
「ん?」
「一緒に、強くなろうぜ」
「うん……!」
再び夜空を見上げる。
「快進撃、始めるぞ」
「いいよ……相棒!」
満点の星空の元、新たな道が出来上がり、俺たちは進んでいくのだった。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
軌道に乗ってきました。
ここからです!
ウマ娘たちはトレーナーに影響を受けて、キャラが変わっていきます(今回のチケットしかり)
この世界線での成長だと思って読んでいただけるとありがたいです。
誤字の報告もありがとうございました。
仕組みがよく分かっていなかったので対応が遅れてしまいました。
次回からもよろしくお願いします!