ペルソナⅤ -NOCTURNE   作:唐揚ちきん

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第五話 ミートアゲイン・シャドウ

「あっ、いっけなーい。急な用事を思い出いちゃったー。……ってことでもう帰るね。バイバーイ」

 

 ひらひらと手を振って去っていく女悪魔を見送り、蓮は膝を突いて、三十六度目の絶望に打ちひしがれる。

 潤沢にあった仲魔勧誘のための資産は既に半分以下にまで擦り減っていた。

 握り締めた拳を何度も地面に叩き付け、魂からの叫びを上げる。

 

「……悪魔だ。……あいつらは皆、悪魔だぁ!」

 

「いや、最初から全員悪魔だろ!」

 

「突っ込み待ちのボケをするとは。意外に余裕があるようだな、ジョーカー」

 

 慟哭する蓮に対し、お供の一匹と一体は呆れた眼差しを向けていた。

 当人からすれば、本気でやっているのだが、端から見れば下手なナンパで金銭を巻き上げれていく哀れな男でしかない。

 主の醜態にアルセーヌは肩を竦めた。

 

「まったく見るに堪えないな。仕方あるまい。ここは私が見本を見せてやろう」

 

「アルセーヌ……」

 

「フッ。今回だけだ。まずは悪魔会話の何たるかを見て学ぶがいい」

 

 這い(つくば)ったポーズで己の仲魔を見上げ、蓮は思った。

 ──じゃあ、最初からやってくれ、と。

 しかし、忠義を見せる己に酔い痴れる魔人には主の恨みがましい視線は届かなかった。

 不甲斐ない蓮に代わり、シブヤの地下通路を徘徊する女悪魔へ話しかける。

 

「そこの悪魔」

 

「え、アタシ?」

 

 アルセーヌが話しかけたその悪魔を後ろで蓮がGUMP(ガンプ)でアナライズする。

 『【地霊・カハク】Lv5 NEUTRAL』。

 “地霊”というのは悪魔の種族名なのだろうと蓮は推察する。ペルソナでいうところのアルカナのようなもの。

 言わばカテゴリーとしての名称。

 そして、この“NEUTRAL”という文字の表記は属性。悪魔が持つ性質を表していると考えられる。

 GUMPから展開された画面から視線を戻すと、アルセーヌが片手を己の胸に起き、もう片方の手でカハクに向かって差し伸べる。

 

「私は今、お前から大切なものを一つ頂いた。それが何だか分かるか?」

 

「えっ? アタシから何か盗んだの? ひどーい。信じられない」

 

 蝶の羽を持つ朱色の地霊はその台詞を聞いて、身に付けているものを確認するように中華風の衣装を(まさぐ)る。

 だが、すぐに何も盗まれていないことに気付くと、首を傾げた。

 

「あれ? 別に何も取られてないけど?」

 

「いいや。私は確かに頂戴(ちょうだい)した。それは……お前のハートだ!」

 

 表情の読み取り難いバイザー状の顔からでも伝わる、したり顔。

 大仰にカハクへ伸ばした手は、握り返されることを微塵も疑ってはいなかった。

 

「……え、何言ってるの? 気持ち悪い……サ、サヨナラ!」

 

 もの凄い速度で飛び去っていくカハクに気取ったポーズのまま固まるアルセーヌ。

 沈黙の後、己が主とほぼ同じ姿勢で四肢を突いた。

 モルガナが冷めた目で吐き捨てる

 

「何が見本だ! 全ッ然駄目じゃねーか。人の集合認知に帰れ、ペルソナもどき!」

 

「モルガナ……それ以上はやめてやれ」

 

 蓮としてもあれだけ自信満々で出向いてのお粗末な成果に思うところはあったが、言動を嫌悪感に溢れた拒絶で返された男へ対して殊更、鞭を打つ気にはなれなかった。

 これ以上続けても時間の無駄だと判断した蓮は、悪魔集めは中断して周囲を見回す。すると、すぐ近くの壁にいくつかの扉が目に付いた。

 

「気分転換をしよう。そこに何かあるみたいだ」

 

 アルセーヌはその台詞を聞いて、むくりと起き上がると何事もなかったかのように喋り出す。

 

「私も丁度そう提案しようと思っていたつもりだ」

 

「こいつ……どういう情緒してんだ」

 

 モルガナが毒づくがアルセーヌはまるで意に介していない。

 というより意識して無視している様子だ。

 

「ふむ。あの扉は……」

 

「知ってるのか?」

 

「まあ、直接己の目で確かめた方が早いだろう」

 

 アルセーヌに促され、蓮は扉の前に近付いた。

 薄紫色の円を三方向から囲うように三日月が張り付く模様が描かれた扉は、触れた瞬間、自動ドアのように左右に動き、内側へと導かれた。

 僅かに動揺した蓮だったが、覚悟を決めて、部屋の中に足を踏み入れる。

 室内は想像の十倍は広い空間が広がっており、傾いた巨大な三本の柱がそれぞれ中心を目指して伸びていた。

 柱の上部は繋がっており、台座のようにも見える。

 視界が上へと向いてしまったが、三本の柱の間……円で作られた段差があるその場所には奇妙な衣装で立つ老人が立っていた。

 

「人間、か……?」

 

 長い髭を生やし、紺色の司祭平服(カソック)のようなものを着込んでおり、サングラスとぴっちりしたフィット感のある中国風の帽子を被っている。

 何故か、開いた右手を突き出した姿勢で直立不動を貫いていた。

 

「悪魔が集いし邪教の館へようこそ……何が望みだ?」

 

 妙にねっとりした喋り方で尋ねてくる老人だったが、蓮としては彼が何を言っているのかも判断が付かない。

 

「邪教の館……。それがこの場所の名前か?」

 

「何だ、お主。ここがどこかも分からず訪ねてきたのか」

 

 老人の問いにこくりと頷くと、彼は「仕方ない」と姿勢を微動だにせず、説明を始めた。

 

「ここは邪教の館……。我々の秘術は悪魔を従えし者の助けとなり得る場所だ。その秘術とは悪魔合体。異なる悪魔を合体させ、新たな悪魔へと降誕させるもの」

 

「悪魔合体……」

 

 それを聞き、蓮はかつて近しいものと関わり合いがあったことを思い出す。

 ようはベルベットルームでのペルソナ合体のようなものらしい。

 

「大体分かった。ギロチンで首を切り落とすヤツだな?」

 

「違うわ! 何を悪趣味な想像しているのだ……恐ろしい召喚師(サマナー)だ」

 

「違うのか……」

 

 悪魔を合体させる邪教の司祭に悪趣味呼ばわりされ、ペルソナ合体の光景がいかに残酷なものだったかを思い知らされる。

 改めて第三者から指摘され、かなり感覚が麻痺していたことを蓮は自覚した。

 隣に立つアルセーヌも同意する。

 

「うむ。あれはなかなかに悪趣味な趣向だった」

 

「そうか。なんかごめん」

 

「まあ、許そう。もっとも、あの時の私と今の私は厳密には別の存在だがな」

 

 アルセーヌとの会話を挟んだ時、邪教の司祭がわずかに反応した。

 

「ほう。お主……不吉な悪魔を連れているようだな」

 

「アルセーヌのことか?」

 

 蓮がが聞くと、邪教の司祭は肯定した。

 

「左様。その悪魔は“呪われし死の使い”……『魔人』。その者ら、善にあらず。とはいえ、悪と断じられる者でもない。いかなる因業をもたらすかは……お主次第だろうな」

 

 不吉な呪われた存在と言われ、気分を害するかと思われたが、アルセーヌはむしろおかしそうに笑ってみせた。

 

「フッ、『呪われし死の使い』か。反逆の魔人である私には相応しい称号だな」

 

 ここぞとばかりに己の特異性を自慢げに誇るアルセーヌだったが、先ほどまでの醜態が記憶に新しい蓮としては肩を竦める他なかった。

 邪教の司祭は言う。

 

「しかし、悪魔を一体しか持たず、邪教の館を訪れるとは奇特な者も居たものだ」

 

「悪魔が全然仲魔になってくれない」

 

 憮然とした態度で蓮が返すと、邪教の司祭は何やら少し考え込む。

 

「ふむ。魔人を連れている割りには未熟な召喚師(サマナー)のようだ。これも何かの縁。お主にこの悪魔を授けよう」

 

 相変わらずの直立不動の姿勢のまま、そう宣言した。

 連は怪訝(けげん)そうしていると、持っていたGUMP(ガンプ)がピピッと受信音を鳴らす。

 上部を開いて確認してみると、悪魔ストック欄に新たな悪魔の名が増えていた。

 

「こ、この悪魔は……」

 

 そこにあった悪魔の名は──『【魔王・マーラ】』。

 蓮には悪魔の種族など詳しくは分からない。

 しかし、“魔王”という存在は地霊や精霊、魔人すらも凌駕しているように思えてならなかった。

 ごくりと生唾を嚥下(えんげ)して、そのLv(レベル)へと視点をずらし……。

 

「……ん?」

 

 二度見した。

 『【魔王・マーラ Lv6 Chaos】』。  

 Lv6……? 60の表示ミスではなく、6……?

 

「その悪魔はどうやら不完全な召喚によって大幅な弱体化を受けているようだ。ほとんど【外道・スライム】と化している。シブヤでとある場所で見つかったのだが……お主、その悪魔を見事元の存在へと戻すが良い」

 

「……(てい)のいい厄介払いでは?」

 

「……うぉっほん。邪教の館は各地にもある。悪魔を集めて、また来るが良い」

 

 露骨に咳払いを一つして、邪教の司祭はそれ以上話すつもりはないというかのように黙り込んだ。

 視線をアルセーヌに向けると、彼は両手を上げて肩を竦めた。

 ここに留まっても無意味かと思い、蓮は邪教の館を後にした。

 外へ出ると、混乱させないために沈黙を保っていたモルガナが(せき)を切ったように話しかけてくる。

 

「なあなあ、蓮。新しい悪魔を仲魔にしたんだろ? 早く見てみようぜ」

 

 あまり気乗りしなかったが、確かに仲魔に加わった以上、会っておく必要はあると考え直し、蓮はストックからマーラを召喚した。

 

「来い、マーラ!」

 

 GUMPから六芒星の魔法陣の光が浮かび上がると共にデータへと変換されていた悪魔が今、解き放たれる。

 

「……ググ…………ギギ……」

 

 顕現したのは黄緑色の溶けた粘液のような存在だった。

 

「ググ……ギ……我は……魔王・マーラ……コンゴトモ……ヨロシク……」

 

 どこか亀頭のようにも思える頭部を持つその悪魔は知性をあまり感じさせない片言の言語で挨拶をする。

 モルガナはそれを見て(ささや)いた。

 

「なあ、ワガハイ。こいつ、どっかで見た覚えがあるんだが……」

 

 連にも見覚えがあった。

 その姿はかつて、蓮がカモシダパレスで出会ったシャドウ……“ちぎれた煩悩大王”に瓜二つだった。

 




久しぶりの投稿。ストーリーはあまり進展していません。
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