人格形成には周囲の環境というのが大きく影響するという。
だとすれば、僕が今どこにでも居るようなごく平凡な男子高校生なのはまさに奇跡の産物と言えるかもしれない。
そう、僕は常々思うのだった。
「おはよ~、学校行きたくねぇ~。あ~、タイムパラドックスが起きてギリシャ時代の学者がなんか発見する前にみんなおっ死んでくんねぇかなぁ。」
「も~、朝から辛気臭いこと言わないの!ほら、お母さんがごはん置いといてくれたよ。」
階段を下りて、リビングに入ると妹がテーブルで飯を食っていた。
今日はハムエッグか....。
昨日と同じだな。
別段なんの感慨も抱かずにテーブルに着く。
そして、眠気に抗いながら口の中に適当に卵は焼けたハムを口に運ぶ。
欠伸を噛み締めていると、アリカが手を合わせる。
「ごちそうさま!お先に行くよ!それと、今日は帰り遅くなるから!!」
「それは...友達と遊ぶとかそういう用事か?」
妹は立ち上がりながらもそう言う。
なんとなくその理由には察しがついたが、一応僕はある種の祈りを込めて聞き返す。
友達と遊ぶ。
それは普通の女子中学生なら誰しもが一度はやってることだし、それに夢中になって帰宅が遅くなることに関しては僕はなんとも思わなかった。
つーか寧ろそうあってほしいと願う程だ。
しかし、僕の祈りは虚しく妹は笑顔で僕に答えた。
「ううん!今日も修業だよ!ほら、私って魔法少女じゃん!!」
「.....そっか、魔法少女だったか.....。」
これだ。
なんの臆面もなく、ふざけている様子でもなく自分のことを魔法少女と断言している。
幼い頃からそう自称していた。
その時はまだ子供らしい幼稚な.,,別の言い方をすれば微笑ましい夢だと思って聞いたものだ。
しかし、この年代でまだ言っているということに問題があるのだ。
ヤバすぎる...しかもこれガチで言ってるんだぜ?
中二病的なポエムでもなんでもなく。
中学生が漠然と将来の夢を公務員と語る時と同じトーンで自分は魔法少女であると言っているのだ。
マジで、僕の妹大丈夫か?と心配になる。
修業って何やってるんだよ、宝石集めか??
だがだからと言って頭ごなしにそれを否定すると泣きじゃくりながら自分が魔法少女であると主張して収集が付かなくなる。
いつからか僕は見守りの姿勢を貫くことにした。
今は聞く耳持たなくてもいづれは中学生になれば思春期になって、友人も変わって治るはずだと祈っていた。
そして今は高校生になればまともになるはずと未来に淡い希望を託している。
まだ中学生くらいならすっげぇ痛いけど、中二病って言葉が容認されてるくらいだし....。
高校になってまだこんなことを口走っていたら、もう絶望でしかないけどな。
「うん!も~、忘れないでよ~お兄ちゃんでしょ?」
「お兄ちゃんだからこそ、忘れたいよ。」
自分の妹がまともな子であると信じ込みたいよ。
現実逃避したいよ。
しかし、僕はお兄ちゃん。
いざとなれば、妹を守る立場なのだ。
家を空けがちな両親の分もちゃんと妹の現状と向き合って行かなきゃいけない。
だからこそ、僕はいつもの日課として真剣に妹に声を掛けるのだ。
「...なぁ。もし嫌な人が居たり、学校でいじめられたりしたらお兄ちゃんに相談しろよ。絶対に力になってやるからな....。」
あんな痛い子学校に居たら、虐められたり避けられたりしてるかもしれない。
だからこそ、僕はアリカに常にそう声を掛けることにしていた。
お兄ちゃん、何かあったら家族の為に全部投げ出す覚悟は出来ているからな....。
ほら、兄ちゃんなんの取柄もないどこにでも居そうな奴だからそのくらいしかできないし。
僕の質問を聞くと、我が妹は心底おかしそうに笑う。
「も~、心配しすぎ~!私ぃ、お兄ちゃんよりも友達居るから大丈夫だも~ん!」
「おい、僕の話は今関係ないだろ。なぁ。」
なんか知らないけど、不意に妹に傷つけられた。
しかしアリカは僕にあっかんべーをした後にパタパタとリビングを出て行った。
その数秒後に階段を下りる音と共に玄関のドアが開いた音、そして施錠音が聞こえた。
「...あんなこと言っている奴より、僕の方が友達が少ないってどういうことなの...はぁ....。」
いつも思っていることを呟いて溜息を吐く。
やっぱアリカは顔が良いからだろう。
はぁ~やっぱ顔が良い奴は良いよなぁ~イケメンとか美人とか。
どんなことやっても法に触れなきゃ大体許してもらえるんだから。
見た目だけでなんとかなってるとか卑怯だろ、チーターがよぉ。
そう内心文句を吐きながらも飯を掻き込んで、皿を食洗器に入れる。
そして、登校の用意を始めたのだった。
学校の門をくぐって、下駄箱で靴を履き替える。
そして、本棟の階段で3階に上がる。
俺の教室はB組。
3年だったら3年B組になるなとかクソどうでもいいことを考えていた。
そのくらいしなきゃこのクラスは俺にとっては耐えられる環境下ではないからだ。
教室のドアを開けて、教室に入る。
まだ授業が始まっていないからか生徒たちは自由に散らばって好きに話していた。
そんな中、俺は自分の席に座る。
すると、女子が数人集まっていた場所から一人の人影が俺に歩み寄ってきた。
「よっ!明日野!!おはよう!!」
「あぁ...おはよう。」
爽やかな挨拶にふさわしく、中性的で爽やかな顔面してやがるイケメン。
市之瀬輝道。
中学時代からの腐れ縁である。
剣道部の主将であり、その顔面偏差値の高さ故に昔から女には困らない憎い奴。
今だってそうだ。
僕を見て集まってきた女の子達の集団から抜けてきたんだろうが、その子たちが僕の事を睨んでいた。
やめてくれよ....僕はお前らの恋敵じゃねぇよ.....。
睨むなら周りの女で睨み合ってくれよな.....。
「ハハ、相変わらず明日野は朝テンション低いよなぁ~。元気出していこうぜ、一日の始まりだぞ?」
そんな僕の心など知る由もない市之瀬はニコニコと笑いながら肩を叩いてくる。
なんでだろう、正しいこと言われてるのは分かるけどすげぇムカつくぜ。
そもそもげんなりしているのは朝から格差見せつけるどこかの誰かさんのせいなんだっていうね。
「そういうお前はいつも元気いっぱいじゃないか。あんなに女の子侍らせて、後輩も入ったし今年のバレンタインは大変になるな。もらえるもんが多そうで。」
元気なのは身体の中でも下半身の方なんじゃねぇの?っといった意図を込めた皮肉と飛ばす。
実際、彼は試合での活躍も相まって後輩から憧れの視線を向けられているというのは耳に入っている。
なんだお前、女殺しか??
遺伝子構造から僕とは違うのだろうか?
頼むから家系図滅茶苦茶になっててくれ。
しかし彼はそれが皮肉とは気づいていないのか照れ笑いを浮かべる。
「やっぱり...そうなっちゃうのかな....。好きになってもらうのは嬉しいけど...やっぱり消費しきれなかったりしたら申し訳ないから困るわ。」
はぁ~~~~っ??????
コイツ今チョコもらえて困るって言ったのか?
え、なにこれ喧嘩売ってる?
目の前に毎年お母さんと妹(自称魔法少女)の家族チョコしか食ったことのない僕氏が居ると知っての狼藉かコレ?
それに何が好きになってもらうのは嬉しいけどだ!
良い子ちゃんぶりやがって....てめぇは四六時中女の視線でも気にしてるのか!!!
「へ、へぇ...や、やっぱりそうなんだぁ~。でも、そこまで人気ならやっぱいっぱい手を出したりするんじゃないのぉ?英雄色を好むっていうし~、うん!据え膳食わぬは男の恥っていうしねぇ~相手くらいしてあげたら~。」
そうなったら僕がお前が女の敵であるっていう大義名分を得てお前を二度と日の目を拝めない身体にしてやるけどな。
腕っぷしじゃ剣道やってるお前には勝てないけどなぁ!
武力がなくても相手を潰すことは出来るんだよ!!
おら!ノッてこいや色男!!
どこからでもかかってこい!!
しかし、目の前の市之瀬は困ったような表情で口を開く。
「おいおい、前にも言っただろ?俺はそういう浮ついたことは出来ない立場なんだよ。なんたって俺....勇者だから。」
「....あぁ、なんか言ってたね。」
...そうだ、コイツもコイツでおかしいんだった。
コイツのリア充感に頭来てすっかり頭から抜けていたがコイツも妹と同類なのだ。
コイツもコイツで中学生の頃から、自分は勇者であると平気な顔でのたまっているのだ。
出会った当時は中二病的なアレかな?といった感じで面白れぇ男と思っていた。
しかし、どうにも僕は妹の時もそうだがそういうヤバさ孕んだ人物を見分けて距離を置くという危機管理能力が極端に低いようだ。
気づいたのは中学3年生頃。
将来なにになりたいか考える課題で聞いてみた時である。
まるで実家の家業を継ぐかのような感覚で勇者になると言ったのだ。
冗談やめろと言ったし、しまいにはふざけるなと怒ったものだ。
しかしそれから3日間口を聞いてもらえなかったり別の要因も絡んで僕はコイツはこういう人間だと一種の諦めによる受容を行ったのである。
つーか勇者の癖に怒ったら3日間口利かなくなるってどういうこと?
ちゃんと発言に準じた行動をしろや。
「そ、だからそういうことは....。」
「はぁ...はぁ...テル!酷いよ!!!」
市之瀬が話を続けようとした矢先、その話をブチ切るようにして女の子が響く。
青みがかった黒髪にくりくりと幼気な瞳。
ショートヘアに整えられた髪の可愛らしい少女が教室の中に息を切らしながら入ってくる。
そんな彼女を見て、市之瀬は笑顔を見せる。
「七海、おはよう!寝坊するものって思ってたけどちゃんと登校できたんだな。偉いぞ。」
「え、えへへ...じゃなくて!!もぉ~!!いつも休日には私が起こしに来てるんだから平日には君が起こしに来てよぉ!!」
「ハハ...ごめんな。お前待ってたら遅れちゃうんじゃないかなって思って.....。」
「あっ、ううん。そんな...凹まなくても良いよ、悪いのは学校がある日に限って起きれない私だから....。え、えへへ...なんかおかしいね。私達。」
怒っていた少女が市之瀬に撫でられて、なんか市之瀬の顔を見て俯いたかと思ったら嬉しそうに笑ってた。
....なにこれ?
いや、彼女は誰かは知っている。
彼女は参波七海。
市之瀬の幼馴染である。
もうなんかずっと市之瀬と一緒に居て、一挙一投足から彼への恋心を隠そうともしない乙女である。
僕が言いたいのはそういうことじゃなくて、部外者居るのに目の前で何見せつけられているの?ってことである。
僕、ここに居らんのか?
僕もしかしていない者?
そう思ってしまう程に彼らの振舞いは周りの人々の存在というのを度外視したものだった。
めっちゃくちゃ目の前でいちゃいちゃされてるんだけど。
普通少しは憚ったりするよね?
しかも何休日の話とかして匂わせしてんだ。
そのせいで周りの女どもの視線ささってんだよ。
流れ弾で胃が痛くなってきたんだけど!!
当事者は二人の世界に入って気づいてもないのに、なんで僕が胃痛めてんの?おかしくない?
すると、やっと僕という存在が同じ空間内に居たことに気づいたのか参波はこちらに微笑を向けた。
「あっ、おはようございます明日野くん!」
「あ...はい、おはようございます。」
彼女の挨拶に僕はただただ何の感慨もなく返す。
実際彼女は神天原の碧姫と呼ばれる程に、見た目は良い。
性格も表向きは誰にでも優しい少女。
...そもそもそこまで親しくもないので表向きしか知らないのだが。
目が合うだけで喜ぶ男子生徒も居る程である。
僕は、女性経験はない。
見た目も僕の好みから外れているというわけでもない。
であれば、僕も喜ぶ側の人間になってもおかしくないだろう。
しかし、そうならない理由は.....。
「明日野、今日も朝から辛気臭くてさぁ~。俺を見ろよ!元気だぞ~!って話してたんだよ。」
「ん~、明日野君には明日野君のペースがあるからそうやって押し付けるのは違う気がするよ。それに、テルは勇者だから日々元気なのは当たり前だよ!」
「そっか、それもそうだな!!」
コイツもコイツで幼馴染と同じくおかしいからだ。
彼女は市之瀬の自称勇者発言をあたかも当然の摂理のような前提を持って話している節があるのだ。
それは僕が市之瀬の勇者発言を否定した時に顕著に分かったのだ。
最初はきょとんとしていたが、話が進むにつれてなぜか俺が説教されていた。
僕、間違ったこと言ってなかったのに....理不尽だ....。
挙句の果てにはテルが勇者になるなら私の夢はそれを支えることかなとか言う始末。
僕が市之瀬に対して諦めにも似た受容をせざるを得なくなった原因の一人である。
妹は自称魔法少女で友人は自称勇者、そして友人の幼馴染の女の子はそんな自称勇者のイエスマン。
俺が知らないだけでこの土地に生きているティーンエイジャーは荒唐無稽な思想に陥りがちなのか?
風土病??
しかもそんな世迷い事吐いている男がモテてるとかこの世の終わりだろ。
こんなんじゃまともなのはぼくだけじゃねぇか?
そう思ってしまうな。
まぁなんにせよ恋は盲目という言葉があるが、それにしたってひどすぎる。
最早何も見えてないだろ。
あー、こぁ~んな無条件で好き好きオーラ振りまいている幼馴染が居ながらあんな風に女の子に人気で喋ったりするんですねぇ~。
僕なんか幼馴染なんて高尚な物居ないのに。
ラノベかエロゲの主人公かよお前。
羨まし過ぎてハゲそう。
僕がいちゃつく二人を他所に嫉妬に身を焦がしていると、不意にチャイムが鳴り響く。
すると、周りの生徒たちも自分の席へと向かい始める。
二人も自分の席に着席する。
その直後、老年のおじいちゃん先生が入ってきてHRが始まる。
どうでもいい連絡事項を聞き流しながらも、窓を見て呟いた。
「....彼女、欲しいな。」
別にモテなくていいから。
市之瀬みたいに沢山の女の子に思いを寄せられなくても良いからこう....彼女が欲しいよ。
こうエッチなことだけじゃなくてさ、なんか二人でドキドキしながら手を繋ぐ~とかそういう青春してぇよ。
贅沢言うならロリ顔巨乳でほんわか系な彼女が欲しい。
そう取り留めもないことを考えながら、授業の始まりを迎えるのだった。
◇
「俺、何やってるんだろうな....。」
時刻は夜。
どうせ妹の帰りも遅いと思うと、まるで学校で貯めたストレスを発散するかのように一人カラオケに行っていた。
辺りは既に暗くなっており、夜道を一人で歩く。
一応ごはんの材料をスーパーで買ってきたので、文句は言われないはずである。
....コイツ、なんでも一人でやってんな。
これからもなんでも一人でやってるんじゃねぇだろうか。
そんな今の自分の状況に将来への危惧を載せて不安に少し苛まれていた。
それにしたって今日の夜は少し肌寒い。
どこか胸騒ぎもする。
動悸か....?
そんな年齢でもないだろうに。
「聞きたい事がございますの。」
そんな夜の闇。
不意に自分の真後ろから女の声が響いた。
鈴でも転がしたかのような綺麗な声色。
しかしそれがかえって空恐ろしさを増していた。
当然だ、夜道で突然人に声を掛けられたら誰でも怖いだろう。
でもまぁ、何かを俺に聞こうとしているんだ。
道とかだろう。
自分でスマホで調べろと思わなくもないが、充電切れたりしたらそういうわけにもいかないしな。
「良いですよ、なんで...すか.....?」
僕にしては人当たりの良い感じで答えながら振り返る。
そして、尋ねてきた相手の容姿を目に収めると言葉が途切れてしまう。
仕方ないだろう、だって目の前に居るのが般若面を付けた白袴の金髪女だぞ?
面食らうだろ、普通に怖いわ。
ジャパニーズホラーか?
いや、普通に不審者だけど....。
「...?質問してよろしくて?」
「え、あ...あぁ!良いですよ!あ、あは、アハハ~.....。」
勘弁してくれよ....。
今日も中身がおかしい奴らに当てられていたって言うのに、今度は見た目までおかしい奴の相手しないといけないのか。
なんだ?僕はなんかどこかイカれてる奴らを引き寄せるフェロモンでも振りまいているのか?
とにかく不審者っていうのはあんまり刺激しない方が良いだろう。
なんとか友好的な姿勢を崩さないようにして答える。
「ワタクシ、人を探しておりますの。...明日野彼方という御人なのですけど。」
....僕のことじゃん。
えっ、なんでこの不審者僕のこと嗅ぎまわってるの?
当然、こんな夜中に怖いお面付けてるような知り合いは居ないし、そもそも金髪の知り合いは居ない。
となれば妹の身内?
いや、それもない気がする。
そもそも妹の身内なら僕を態々探さなくても妹に聞けばいい話だからな。
正直、めっちゃくちゃ怯えている。
だってこんなモロ不審者の口から自分の名前が出るんだぞ。
どこで知ったのか、なぜ探しているのか分からない。
もう膝まで震えてやがる.....。
ここで飛び掛かられたりとかしたらチビる、つーか漏らす。
「し、知らないなぁ。す、すいませんねぇ...あの、力になれなくて。」
僕は嘘を吐いた。
こんな不審者に自分のことを聞かれて素直にあっ、それ僕ですよとか言う奴いないだろ。
しかし取り敢えず頭は下げておく。
なっ?下手には出てるだろ?
だから望ましい返答がないからって言って怒らないで...ねっ?
相手の顔色を伺う。
暫しの静寂。
...な、なんだ...何か喋れよ....。
顔を上げる。
すると、すぐ目と鼻の先。
般若面女がすぐ目と鼻の先に肉迫していた。
「ヒッ....!?」
「怯えなくても取って食いはしませんわ。ワタクシ、人間ですから。..ですが、よくわかりましたわ。えぇ、分かりました。へ~なるほど~って奴...でしてよ。協力感謝いたしますの。」
人間だから怖いんだろ何言ってんだ。
そう思いながらも、意味の分からないことをのたまっているコイツを静観していると踵を返してどこかへ歩いて行った。
....警察に相談だな。
どうせあんな見た目の奴が歩き回っていたら嫌でも目に付くはずだ。
そうなれば不審者情報としてタレコミが相次いでもおかしくないはずだ。
「...これからは早めに帰るとするか。」
そう考えると歩みを再開する。
一応、遠回りをして人気の多い道を選んで帰ることにしよう。
そう思いながらも、妹に今あったことをメールして注意喚起するのだった。
家に帰宅して、飯や風呂を済ませる。
そして、ベッドに入る。
今日は色々あったな.....。
いつも通り、自称勇者を見て精神的にガリガリ削られているのに加えて僕のことを不審者が探していたのだ。
正直、心中穏やかではないが明日も学校だ。
いつまでも起きてはいられない。
授業を寝て過ごす羽目になるからな。
だからこそ、無理やりにでも寝よう。
せめて、目を閉じて身体を休めることにしよう。
そう思うと、目を閉じた。
ベッドの中は段々と自分の体温であったかくなっていき、その熱が僕を眠りへと誘っていく。
よかった...眠れる。
あんなことがあったばかりなのに寝れる自分に驚かされる。
結構図太いのだろうか、僕。
アリカも僕の話を聞いて心配していたからな。
明日は無理やりにでも元気な姿を見せないと。
...まったく、自称魔法少女さえなければ良い子だし、安心できるんだけどな.....。
そう思っていると、瞼が重く意識もふわふわと朧げになっていく。
その睡魔に身をゆだねると段々と意識が遠くなっていった。
『....モン...イ....。』
声が聞こえる。
誰かの声が、途切れて。
『...モン...ーイ.....。』
その声が何者かの声かは皆目見当もつかない。
しかしそれはまるでこちらを呼ぶように等間隔で声が響いて来た。
そして、声は響けば響く程大きく明瞭になっていき.....。
『カモォォォン、マイボーイ❤』
明瞭に聞こえた瞬間、それが野太い男の声だったということが分かる。
そして、色黒の筋骨隆々な外国人男性のが現れるとニッコリ笑顔を浮かべながらこちらに走り寄ってくる。
頬を赤く染めた筋肉ムキムキマッチョマンが走り寄ってくる。
そこには薄ら寒い物を感じ、体中に怖気が走るのを感じる。
『うわぁぁぁぁあああああ!!!!』
「ぁぁぁああああああ!!!....ゆ、夢か....。」
筋肉ムキムキマッチョマンの変態に迫られる夢とかどうなってるんだ。
自分の見た夢に寝ぼけ眼ながら首を傾げていると、さらに違和感を感じた。
身動きが取れない。
寝違えたかと思ったが、痛み自体はない。
なんとか首を動かして周りを見回す。
すると、自分が麻縄で縛られていることと同時に開かれた窓から差し込む風でふわりと揺れるカーテン。
そして....。
「....あ。」
「は.....?」
猿轡を構えたおかめの仮面を被った金髪の袴を着た女。
...いや、仮面変えているけど僕の事夜嗅ぎまわっていた奴だよねぇ!?
えっ、家入ってきた!?窓カギ閉めてただろ!?
...いや、閉めてたっけ?そんなところまで意識してねぇから忘れたよ...つーか!!
「お、お前...これ不法侵入だぞ!!分かってるのか!!けいさ..ふごごご....!!」
話している途中で猿轡噛ませるな!!
僕が話している途中でしょうが!!!
めっちゃゆっくりと猿轡噛まされたよ。
なんでそこで落ち着いてんだよ!!お前侵入者側だろ!!!
抵抗しようとするも、蛆虫のようにうねうねと藻掻くことしか出来ない。
そんな僕を仮面女は見下ろしつつも、脇に抱える。
いやいや、体格的にごく平均的な男子高校生の僕を持ち上げるのは不可能だろ!!
分かったら諦めて僕を離.....
「よいしょ...ですわ。」
「むー!?むーむふぉむーむー!!?(マジかよ!?ウッソだろお前!!?)」
体格差のある男を脇に抱えちゃったよ。
冷静に考えて、これ拉致されそうになってるよね!?
なんだこれ!?どこに連れていくつもりだ!!
遠洋漁船にでも乗っけるつもりか!?僕の家庭に借金はないはずだぞ!!
と、とにかく大きな音を立てて気づいてもらわないと.....!
「むー!!んむー!!!」
頼む...父さん、母さん、アリカ...っ!!
異変に気付いてくれ....!!
しかし無情にも僕の唸り声と吹き込むそよ風の音だけが虚しく自室内を響くだけでどこからも他の家族が起きたら鳴るであろう物音がしない。
そしてそのまま仮面女は僕を抱えながらも開いている窓に近づいていく。
近づくにつれて身体に風がチラチラと当たっていく。
オイオイオイ....まさかお前...!
いや、嘘だろ?
流石に人抱えてるのにそれは無茶だと.....。
「ん~!んむ~!!む~!!!!」
声を発しながらも首を必死に横に振る。
やめろやめろと態度で示す。
しかし、俺の予想はこんな時に限って的中した。
窓枠に足を掛ける女。
そしてそのまま外へと身を躍らせた。
わぁ....今、僕空を駆けているよ。
どっかでこんな映画あったなぁ。
月明かりに照らされながらも、現実逃避気味にそう考えていた。
まともということは人間的に善い人であるということには直結出来ないと思います。なので主人公は普通に嫉妬したり、羨んだりします。というか普通に自称魔法少女とか自称勇者とかと並べてみると主人公は自称まともに該当しますね。
めっちゃ嫌がりそう(小並感)