それは遺伝子が生んだ奇跡   作:潰れないネジ穴

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そしてチーム加入

ぐでーん

仮に漫画的な表現をするならそんな表現になるだろう。

少し焼けた肌を長い髪から透かしている私、アスノセカイは練習を終え、私の所属するチームスピカのチーム室の机に突っ伏していた。

 

「あら、大丈夫ですか?潰れた貞子みたいになってますよ?」

「そこはせめて蛙くらいがいいですね...」

「ほら、早く着替えた方が楽ですわ。」

 

チームスピカに所属する先輩、メジロマックイーンさんに急かされて渋々ロッカーからタオルと着替えのキリンTシャツ君を引っ張り出し、泥まみれのジャージを脱ぎ始めた。

 

「いつものあなたの元気さはどこへ行ってしまったのか...」

「仕方ないですよ日本総大将との並走ですもん...」

「日本総大将ですか、久々に聞きますわその2つ名。ジャパンカップ以来かしら。」

 

そう、今日は私がチームスピカに加入して初めての練習日。

 

 

私は選抜レース1600mの第7組で優勝し、その成績を見て真っ先にスカウトしてくれたのは沖野トレーナー。

その沖野トレーナーが率いるチームが、レース好きなら誰もが名前を聞いたことがある、チームスピカだ。

メンバーに

・後方からの凄まじい追込がワープとさえ言われる、トレセン学園生粋の破天荒、不沈艦ゴールドシップさん

 

・周りのウマ娘も世論も全てなぎ倒し、茨の道を突き進んでダービーを制覇して見せた、恐れ知らずの挑戦者ウオッカさん

 

・ウオッカさんの終生のライバルで、3着以下を取らないミスパーフェクト、緋色の風ダイワスカーレットさん

 

・その実力は国内に収まらず、現在は海外遠征で勝ち星を重ねている。風になって飛んでいくかのような走りで大逃げをする、最速の機能美サイレンススズカさん

 

・黄金世代としての数々の激戦を根性で走り抜け、何度挫けても立ち上がった日本総大将、スペシャルウィークさん

 

・無敗2冠、骨折明けの奇跡の復活劇と、話題に事欠かないレースの天才、トウカイテイオーさん

 

・史上初の天皇賞春連覇など、強すぎてレースがつまらないとさえ評される、レース史に蹄跡を刻みつづける名優、最強のステイヤー、メジロマックイーンさん

 

と、錚々たるウマ娘達を抱えている。

最初こそ憧れの先輩方を前にガチガチに緊張していたが、今となっては(まだ1週間弱くらいしか経ってないけど)慣れてしまった。

私の足を触る度にプロレス技をかけられるトレーナーさんとニッコニコでプロレス技をかけに行く先輩方とのわちゃわちゃを見ていれば誰でも面白い人達だと気を許すはずだ。

 

しかし、このチームには私にとって足りないものが1つある。

私のルームメイトであり、ライバルのアグネスアイアンが居ないのである。

 

自主練習の時も彼女は殆ど走ろうとはしなかった。数本流した後はいつも部屋でノートパソコンとにらめっこしてうんうん唸っている。

 

 

 

 

「選抜レース、どうしますか?」

 

「うーん、あんまり気は乗らないけどね。データ収集がてら走ってみてもいいかな。タキオン先輩にも諭されちゃったからね。」

 

「なるほど!距離は?」

 

「中距離がいいから、将来を見据えて2000mかな。」

 

「中距離路線を目指すなら1600位の方がいいんじゃないですか?先生もそう言ってましたし...」

 

心配する私にニヤッと笑みを飛ばし、自信満々にこう言った。

「私の速さなら、オークスだって目じゃない。」

 

 

 

 

 

その宣言通り、選抜レース2000m第5組で後ろに6バ身差をつけて快勝。今現役で走っているウマ娘達のタイムと比べても遜色無かった。

当然、突然現れた才能の塊にトレーナー陣が注目しない訳もなく、様々なチームのトレーナーがスカウトをしに行った。私のトレーナーも例外ではない。が、彼女は全てのスカウトを断った。

 

「まだ、安定しないからな。7割の力でトップと競える速度が無いと私は追い付けないからね。」

 

化物だと思った。あんな速さでターフを駆けておきながら、全力はまだ先にあると、そう言ったのだ。

この人を越えなければ。この人と共に走らなきゃいけない。

だから私はこの人を何とかチームスピカに入れたかった。

まあスピカでなくとも良かったのだが、そこは...こう...私の我儘だ。

 

と、言うわけで私のアグネスアイアン勧誘作戦を開始する。既にマックイーンさんとテイオーさんには協力を仰いでいるので、あとはテイオーさんとトレーナーなのだが...

ガチャ

「トレーナーもうすぐ来るよ!」

あと1人。

 

 

 

 

 

 

 

「あー、やる気出ないなー」

チーム室の机に突っ伏す。思い出すのは先程マックイーンさんに目撃された潰れた貞子だが、気にしないことにしよう。

 

「アー、ダイジナコウハイノヤルキガサガッテイマスワー」

 

マックイーンさん演技下手過ぎないですか...?

 

「僕の経験上、こういう時はライバルが居るとやる気が出るんだよなー 」

 

「俺だってチームに欲しいから何度も誘ってるんだが...」

 

「アー、コノママダトダメデスワー」

 

「わかった、わかったから!」

 

 

 

△▽△▽△

 

で、私は何故椅子に縛られているんだい?

 

「ほんっっとに申し訳ない!ゴルシには加減をするようには言ったんだが...」

 

縄を解きながら沖野と名乗るトレーナーは頭を下げる。

 

「こんな仕打ちしておいてあれなんだが...」

 

いいぞ。

 

「え?」

 

だからチームに入ってやると言っているんだ。早く書類を。私の気が変わらないうちに。

 

 

そして私はチームに所属した。

 

 

▲▼▲▼▲

 

 

「どうして急にチームに?」

 

君の差し金だろ。

 

「まあ、それは否定しませんけど。」

 

タキオン先輩に急かされたからかな。

 

「ありがとうございます!明日から一緒に走りましょうね!」

 

もう遅いんだから大きい声出すなよ。

 

「はい!おやすみなさい!」

 

 

本当に疲れたな。今日は。




XX年、秋華賞
執念で勝ち取った無敗三冠。
その馬の背中は大き過ぎた。
「君がまた速くなるなら、私はその先をゆこう。」
その馬の名は…



アグネスアイアン
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