織斑一夏の兄が行く   作:ふくろう639

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お気に入り登録ありがとうございます。

クリスマスだし、ヒロイン発表したし、書くか!
となったのでクリスマス回です。
たまにはR-15タグさんにもお仕事あげないといけないからね。
そういう話を見たくねぇ! という方はお戻りください。

今回はハーレムルートではなく、個別ルートとなります。
PCゲー風に選択肢っぽい感じにしてみました。
順番はなんとなくです。

若干本編のネタバレもあったりしますが、気にせず読んでいただければ。


番外編 if 恋人とのクリスマス

「36.3℃………やっと熱が引いたのはいいんだが、遅いんだよなぁ………」

 

 実家の自室のベッドから見た外の景色は、ほぼ日が落ちた中でイルミネーションに照らされた雪が降り続けていた。

 

 ──12月のメインイベントと言っても過言ではないイベント、クリスマス。今年はクリスマスイブ・クリスマスが土・日と続く珍しい年だった。

 

 せっかくだから学生メンバーでクリスマスパーティーをやろう、とタツに誘われて学園のいつものメンバーも誘った。夕方から遅くまでやるつもりだから人数分ホテルの部屋も用意しとくよ、と太っ腹な対応もしてくれるらしい。ホテルの会場に加えて部屋も押さえているこういう時にあいつは大企業の息子なんだよな、と実感する。

 

 土曜の夕方からは雪もチラついてかなりの地域で積もる事が予想されている中、俺はというと、

 

『………37.5℃。微熱だが、今晩は欠席だな』

 

『マジか………』

 

 若干の熱を出していた。

 

 水曜日あたりから微妙に体調が悪く終業式の金曜日は熱を出してダウンしていた。タクシーで3姉弟揃って実家に戻って、翌朝に測ったら治っておらずパーティーの欠席が確定した。

 

『今日は大事を取って休んでいろ。夜には戻るようにする』

 

『気にしなくていいっての。姉貴は山田先生の家で(独身の)教員達でのお泊まり会なんだろ? この分なら熱は夕方には完全に引いてるだろうからゆっくりして来てくれ』

 

『何か含みがあった気がするが………分かった。その言葉に甘えさせてもらおう』

 

『兄貴、何かあったら電話でもメールでもいいから連絡くれよ? すぐ駆けつけるから』

 

『お前も気にしないで楽しんでこい。あ、そうそう。ホテルで誰かと一緒に寝たかったらタツにこっそり言えば手配してくれるからな?

 

『!? し、しねぇよそんなこと!』

 

 姉貴と一夏が昼過ぎに出ていった後にひと眠り。そして夕方に目が覚めて、熱を測ると下がっていたのだがせめて今朝にこの体温であって欲しかった。

 

 ふと気づくと、机の上に置いていた携帯のランプが光っている。開いてみると、今日パーティーに参加しているメンバー全員からそれぞれ俺を心配するメールが来ていた。件名で済ませている奴(本音)もいれば本文に長々と書いている奴(ヒメ)がいたり、こういう暇な時に布教すると言わんばかりにオススメのアニメや漫画を紹介してくる奴(簪・ジェシカ)など、様々な内容だった。

 

 全員に返信したいところだが似たようなメールを全員分送るのも面倒だし、誰か1人に送ればいいか。

 

 ──俺は誰と恋人関係だったか。

 

 ▷楯無

  鈴

  ラウラ

  シャル

  束

 

 

────────────────────

 

 ………楯無に送っておこう。

 

 そう決めた俺は、今の体調や俺のことは気にせずパーティーを楽しんでくれ、といったことを簡単にまとめてメールを送った。なんだったらメールじゃなくて電話でも良かったが、多分パーティーが始まった頃かそこらだろうからわざわざ中断させるような内容でもないしな。

 

 さっきまで寝ていたが、せっかくだしもう少し寝ておこう、とベッドに横になって目を閉じた。

 

 

 

「………あら、起こしちゃったかしら?」

 

 何か物音がしたような、と目を開ければ、そこにはパーティーに出ているはずの楯無がいた。手には洗面器とタオルを持っているから濡れタオルでも乗せに来たのか? いや、そもそもその前に、

 

「お前、どうやって入ってきた? 玄関の鍵は?」

 

「あ、それは弟くんから鍵を借りたのよ。百春くんの様子を見てくる、って言ったら貸してくれたわ」

 

「そうか………わざわざすまないな。パーティー楽しんでいる所だったろうに」

 

「気にしなくていいのよ。ちょうどプレゼント交換からゲーム大会に移る所だったからタイミングもよかったしね。こういう時くらい彼女に甘えなさい」

 

「………そうだな。普段、俺に甘えまくって作業だなんだと残していく楯無が言うんならそうさせてもらうか」

 

「それとこれとは別でしょ!?」

 

 恋人関係になってから、俺にぶん投げる作業の数が増してるんだよなぁ。虚さんに相談したら『甘えてるんだと思います』とか言ってたし間違いない。

 

 体を起こすと、額に乗っていたであろうタオルが落ちてきた。持ち上げると常温になっていたあたり、結構前から楯無は来ていたらしいな。

 

「メールでも熱は引いたって書いてあったし、触っても特に熱くなかったけど念のため濡れタオルは乗せておいたの。気分はどう?」

 

「だるくもないし、好調だよ。なんだったら今からでもパーティーに向かいたいくらいだ」

 

「ダーメ。これから年末なのにぶり返したらどうするの。私が一緒にいてあげるから、今日は家にいなさい」

 

「そう言うと思った。ところで、今何時だ?」

 

「今? そろそろ19時になる所ね」

 

「ちょうど夕飯時か………楯無、夕飯まだなら一緒に食べるか? まぁ、メニューはこんな日なのに乾麺のパスタにレトルトのソースになるが」

 

「あ、それなら龍宮のたっちゃんから百春くん用に色々もらってきてるわよ。オードブルとかチキンとかケーキとか。治ってるなら普通にご飯を食べるだろうから、って」

 

「流石タツ。俺の事をよく分かってる」

 

「あと、『試作品のヒーターボックスの批評よろしく』ですって」

 

「ちゃっかりしてやがる」

 

 楯無に先に行かせ、散々汗をかいて染み付いたであろうジャージを着替えた。シーツも後で洗濯するから後でいいや、と部屋の隅に脱いだものは置いといてリビングに向かう。

 

 新製品だというクーラーボックスならぬヒーターボックスに入れられていた料理は温かく食べやすい温度で、レンジで温め直すことなく2人で食べることができた。さすがにケーキはクーラーボックスに入ってた。

 

 あと、忘れないうちにタツに批評を送っておいた。重さとバッテリーの充電がネックになりそうだが、いい品だとは思う。

 

 

 

「………………遅いな?」

 

 クリスマスケーキも食べ、食後のコーヒーも飲み終わった頃。

 

 コーヒーを一口飲んだ後、俺がさっき脱いだジャージを洗濯機に放り込むべく取りに行こうとしたが、楯無が代わりに取りに行くからゆっくりコーヒーを飲んでなさいと言い残して向かったまま戻ってこない。分かりづらい場所に置いといた訳でもないから、すぐだろうと思っいたがそれでも戻ってこない。

 

 とりあえず様子を見に行こうと自分の部屋の前に立つと、中から深呼吸をしている音が聞こえた。何してるんだと思いつつ扉を開けたんだが………

 

「………………楯無、なかなか降りてこないと思ったら何してんだお前」

 

「!? いやあのこれはその」

 

 ………俺が寝てたベッドに腰掛けて、さっき脱いだジャージ(上)の匂いを嗅いでるとは思ってなかったわ。

 

「ち、違うのよ百春くん! 違うの! まだ何もしてないの!」

 

「ほーう………『まだ』ね。それと『違う』というのは、部屋の主がいない間にその主がついさっきまで着てた服に顔を埋めていた楯無が変態だというのは俺の勘違いだということか?」

 

「そそそそうよ! ほら、熱を出して寝てたなら汗をかいているはずじゃない? 程度によってはすぐに洗濯機を動かす必要があるかと思って! 触った感じは濡れてなかったけど匂いで分かるかと思って近づけて匂いを嗅いだ所で百春くんが部屋に入ってきたから私がそう見えただけなのよ!」

 

「確かに汗はかいてただろうから程度によっては回す必要があるな。で? 本当は?」

 

「百春くんの匂いに我慢できなくて思いっ切り嗅いでからこっそり持って帰ろうと思ってました。なのでこれをください」

 

「却下だド阿呆ッ!! 付き合い始めてから色んな意味で容赦なくなりやがって………そいつを渡せ! すぐさま洗濯してくれるッ!」

 

「嫌よ! せっかくのクリスマスなんだからクリスマスプレゼントを貰ってったっていいじゃない!」

 

「明日渡すとメールを送っただろうが!」

 

「明日の分は明日欲しいのよ!」

 

「この欲張り娘!」

 

 楯無の前に立って握り締められている俺のジャージを取ろうとするが、向こうも取られまいとあちらこちらに手を伸ばして躱していく。何がそこまでお前を駆り立てるんだ………

 

 楯無の背後にまで手を伸ばされると届かないからと片方の膝をベッドに立てて、その状態で取ろうとしている時にそれは起きた。

 

ズルッ

 

「「あっ」」

 

 膝が端に寄り過ぎていたのか、それとも手を伸ばし過ぎていたのか、はたまた両方か。体重を支えていた膝がベッドから滑り落ちた。

 

 結果、

 

「〜〜〜〜〜〜っ!」

 

「す、すまんすぐに退く!」

 

 楯無をベッドに押し倒すように倒れた。顔をぶつけないようにと、咄嗟に片腕の肘でなんとか耐えることに成功したが、気付けば鼻が当たりそうな距離に楯無の顔があった。思わず硬直する。

 

「──────えいっ」

 

「んむっ!?」

 

 その隙を突かれて楯無に抱き寄せられ、その勢いのまま俺達はキスをした。

 

 ただ触れているだけのキスだが、強く抱き締めてくる楯無に応えるように俺も強く抱き締め、ベッドに転がる。

 

 数秒か、数十秒か、数分か。実際は分からないが、とても長いそうしていた気がする。

 

 ふと、どちらかともなく唇を離した。

 

「ぷはっ………………ふぅ、楯無お前なぁ」

 

「………だって、こうでもしないとノッてくれないでしょ?」

 

「さてはお前、俺のジャージの下りから全部仕組んでたな?」

 

「ふふっ、大成功」

 

「はぁ………キスくらいなら普段してるだろ。それとも、もっと激しいのがお望みか?」

 

「それも欲しいけど、欲しいのはそれだけじゃないわよ。今日はクリスマス。これで、分かるでしょ………?」

 

 トロンとした目で楯無は俺を見つめてくる。やけに色っぽく見える楯無は俺の手をそっと取って、自身の胸元へと触れさせる。指先には、楯無の肌を覆う布を留めている固いものが当たった。

 

「楯無………」

 

「もう、女の子にみなまで言わせる気………? 百春く、んっ………」

 

 返事の代わりと言わんばかりに強く口づけをし、指先にあった服のボタンへと手を伸ばした。

 

────────────────────

 

 ………鈴に送っておこう。

 

 そう決めた俺は、今の体調や俺のことは気にせずパーティーを楽しんでくれ、といったことを簡単にまとめてメールを送った。なんだったらメールじゃなくて電話でも良かったが、多分パーティーが始まった頃かそこらだろうからわざわざ中断させるような内容でもないしな。

 

 さっきまで寝ていたが、せっかくだしもう少し寝ておこう、とベッドに横になって目を閉じた。

 

 

 

「………あ、もも兄起きた?」

 

「鈴か………」

 

 誰かの気配を感じるような、と目を開けてみれば、エプロンを付けた鈴がいた。

 

「一夏から鍵を借りて様子を見に来たけど、元気そうで良かった」

 

「メールでも送っただろうが。そんなに心配することでもないだろ」

 

「それはそうなんだけど、今の今まで風邪を引いて熱を出したことのないもも兄が寝込んだって聞いたらさすがに心配なのよ」

 

「いくら俺でも熱を出したことはないことはないぞ」

 

「あるってシンプルに言ってよ分かりづらい」

 

「いいか鈴。風邪を引いて『あ、これ熱あるな』と思ってもな、測らなければ熱はないんだよ。だから学校に行ける。シュレディンガーの猫的なやつだ」

 

「熱を出したまま学校に行くな! というか熱ありそう、って思ってる時点でシュレディンガーは意味を成さないわよ!」

 

 ちゃんと熱は下がってるんでしょうね!? と体温計を叩き付けられたのでしぶしぶ測る。………うん、平熱だな。

 

「………ちゃんと下がってるわね」

 

「だから心配することでもないって言ったろ。さてと、夕飯にでもするか。こんな日だが、せっかくなら鈴の中華料理が久々に食いたいんだが」

 

「ダメよ。熱を出してたんだから脂っこい料理なんて胃に負担がかかるからダメ。おかゆ作ってあげるからそれで我慢して」

 

「おかゆ〜? もう普通に食べられるくらいに元気なんだが………さすがに具はあるんだよな?」

 

「もちろん。セリにナズナ、ゴギョウ、ハコベラ、ホトケノザ」

 

「スズナ、スズシロってか。七草粥じゃねぇか。時期早すぎだろせめて中華粥食わせろ」

 

「あはは! 冗談よ。ちゃんとした具を用意してるから。あと、ケーキは龍宮さんから貰ってきてるから安心して?」

 

 準備してるから着替え終わったら来てよね〜、と言って鈴は部屋を出ていった。が、その際の表情がちょっと気になった。

 

(………? 落ち込んでたように見えたのは気のせいか………?)

 

 普段明るい鈴が浮かない顔をしてるのは珍しかった。

 

 

 

 そんな鈴から頼られたのはケーキまで食べ終えた後。

 

「………ねぇ、もも兄。いい?」

 

 鈴からそれだけボソッと言われた。俺と鈴だけが分かる主語も何もない言葉の意味は、昔から決まっている。

 

 コーヒーが入っていたマグカップを机に置いて頷くと、鈴がこっちまで寄ってきて俺の膝の上に座った。そのまま俺に抱き着いて胸元に顔を埋める。

 

 さっきの鈴の言葉は昔から、何か悲しい事があって耐え切れるか分からないから胸を貸してほしい、というのを指している。泣くほどかは分からないが、泣きたくなるような事の時は問答無用で抱き着いてくるから、今日はまだマシな部類なんだろう。

 

「どうした鈴。今日は随分と甘えてくるな? 彼氏が恋しくなったか?」

 

「………分かってて言ってるでしょ。そうじゃないわよ。それもあるけど」

 

「ふ〜ん? まぁ、いつもみたいに言いたくなったら言えばいい。それまで気長にテレビでも見ながら待つさ」

 

「………………ありがと」

 

 鈴が静かになったから、テレビのチャンネルを変えながらバラエティ番組を見ることにした。いやぁ、クリスマス特番じゃなくていつも通りのバラエティ番組をやってる局は偉大だわ。

 

 ………………ちょっとだけ出したクリスマス特番の街頭インタビューの後ろの方で缶ビールを箱で担いでいる姉貴が映ってた気がするから特番を見ないとかじゃないから。一緒に歩いてた2組の担任がつまみが山程入った袋を持ってたとか見てないから。外に出れないから出たくなるようなものを見ないだけだから。

 

「………………あのね、もも兄。今日ここに来る途中で久しぶりに会った人達がいたの」

 

「久しぶりに? 五反田一家とかか?」

 

「ううん。弾達じゃなくて、その………昔、小学校の時の、あたしをイジメてたクラスメイト」

 

「鈴、会った奴らの名前を教えてくれるか? なに、ちょっとオハナシしてくるだけだから」

 

「判断が早い! あんな奴らにもも兄がいちいち手を出す必要なんてないわよ」

 

 強くはないが、チョップを眉間に落とされた。うん、ちょっとずつ鈴は元気になってきてるかな。

 

「それで? 会って何を言われたんだ? ただ会っただけならそこまで落ち込まないだろ」

 

「………………ナンパされたの」

 

「ん?」

 

「だから、ナンパされたの。自分達が昔あたしをイジメてたのを棚に上げて、『良かったらこれから一緒にクリスマスを過ごさないか』って」

 

「どうしてそうなった………?」

 

「なんか、色々ゴチャゴチャ言っててよく分からなかったけど、結局は自分達が知ってるあたしよりすごい可愛くなってるから誘った、みたいな感じだったかな。もも兄に分かりやすく言うと、小学校のあたしと中学校のあたしの違い、みたいな」

 

 なるほど。鈴が小学生の時は引っ越してきたのも言葉が通じないのもあって内向的な感じだったが、中学に上がってから心機一転と言わんばかりに明るい今の正確になったからな。確かに小学校の時の鈴しか知らなかったら可愛くなったと思うのも無理はない。

 

「予定があるから何度も断っても食い下がってくるから………つい、もも兄と………向こうは一夏は知ってるから、向こうにも分かりやすく『一夏の兄と付き合ってる』って言ったのよ。それで………………」

 

「その後に何があった?」

 

「………ほら、もも兄って男性操縦者だからニュースで紹介されたりしてるから知名度はそこそこあるでしょ? だから向こうもどういう人かある程度は知ってて………………その『遊ばれてるだけだろ』って」

 

「は?」

 

「『男性操縦者なんだから選り取り見取りだろうし』とか『相手がいない間の暇つぶし相手だろ』とか………………『どうせまともに相手されてないんだから俺に乗り換えないか』とか言われた時には思わず殴っちゃった」

 

 あはは、と力なく笑う鈴を少し強く抱き締めて、頭を撫でてやる。これで、俺の思いが少しでも伝わればいいが………それはそれとしてやっぱりオハナシは必要だな。

 

「………それで? お前はそれを真に受けたのか?」

 

「そんなわけないでしょ!? ………でも、不安なの」

 

「不安?」

 

「学園って綺麗な人が多いから、もっともも兄にふさわしい人がいるんじゃないか、って。あたしより頭が良い人もいるし、背が高い人もいるし、スタイルが良い人もいるし………」

 

「………………………」

 

「もしかしたら、昔から兄のように慕ってたから悲しませないように告白を受けてくれてたのかな、って。あたし以上に好きな人ができたら捨てられちゃうんじゃないか、って。言われた後からずっと頭の片隅に残ってるの………」

 

(………………ムカつくなぁ)

「こっちを向け鈴」

 

「なに? ももに、んぅ!?」

 

 俺の顔を見た瞬間に鈴の唇を奪う。何度かやったことのあるような触れるだけのキスではなく、強く、乱暴な、もっと深いキス。

 

 ある程度してから、されるがままだった鈴から唇を離すと、互いの口から透明な糸が伸びていた。

 

「これでも足りないか?」

 

「た、足りない、って………?」

 

「俺は、妹分から告白されたから何となくで受けた訳じゃない。凰鈴音という女の子からの告白を受けたつもりだ。付き合い始めてから一緒に過ごす時間を増やしたり、デートしたりと、彼氏として努力してきたつもりだ。それでもお前が不安になったというなら、それは俺の責任だ」

 

「! 違う! もも兄のせいじゃない! それならあたしだって、今までもも兄と恋人らしい事してたのに不安になったのが悪いの!」

 

「鈴………………それなら、今まで以上に恋人らしい事でもしてみるか?」

 

 今日は恋人達の聖夜らしいからな、と言うと鈴は首を傾げた。どういう、と鈴が口に出した所で思い至ったのか、顔を真っ赤に染め上げた。

 

「も、ももも、もももももも兄!? そ、それって、その………………そういう、こと?」

 

「まぁ、それだけが恋人らしい事でもないから他の事でもいいんだが、その、なんだ。別に無理しなくてもいいからな。嫌なら嫌と言「する」お、おう。分かった」

 

「………あ、でもその、その前に汗を流させていただけるとありがたいです………」

 

「何で敬語? まぁ、風呂は沸かしてるから入れるが………なんだったら、一緒に風呂に入るか?」

 

 俺が普段は絶対言わない事をこのタイミングで言うということはそういう意味で。

 

 言葉の裏を理解したのか、鈴の赤い顔がさらに赤くなったような気がした。顔を伏せたと思ったら、そのまま俺の胸元に押し付けて何かを呟いた。

 

「──────す」

 

「ん?」

 

「………………お願い、します………」

 

 消え入りそうな言葉を最後まで聞き取った俺は、鈴を抱き上げると2人で汗を流しに向かった。

 

 

────────────────────

 

 ………ラウラに送っておこう。

 

 そう決めた俺は、今の体調や俺のことは気にせずパーティーを楽しんでくれ、といったことを簡単にまとめてメールを送った。なんだったらメールじゃなくて電話でも良かったが、多分パーティーが始まった頃かそこらだろうからわざわざ中断させるような内容でもないしな。

 

 さっきまで寝ていたが、せっかくだしもう少し寝ておこう、とベッドに横になって目を閉じた。

 

 

「………む? あぁ、起きたかハル。元気そうだな」

 

「いやお前、リラックスし過ぎじゃね?」

 

 ふと誰かの気配を感じて目を開けると、机にマンガを積み上げて随分とリラックスしながら読み耽っていただろうラウラがいた。お前は何しに来たんだ。

 

「お前の様子を見に来たがメールの通り大丈夫そうだったのでな。起きるまでどう暇を潰そうかと思ったところに、向こうで読んだことのないマンガが本棚にズラッと並んでいたから、ハルが起きるまで読んでいようと思ったのだ」

 

「部屋の主に無断で随分とまぁ。それにどうやって家に入ってきた?」

 

「ちょっとした道具で玄関の鍵をちょちょいとな」

 

「不法侵入罪!」

 

「冗談だ。ちゃんと鍵を一夏から借りている」

 

 スッ、とピッキングツールを取り出したラウラに叫ぶと、その影から一夏のキーカバーが付いた家の鍵が現れた。

 

「寮のならまだしも、民家の鍵をそれでやったらアウトだからな。いいかやるなよ、絶対やるなよ」

 

「それはあれか。ジャパニーズコメディの振り、というやつか? 押すな押すないや押せよ、という」

 

「ガチの注意だよ!」

 

 ………こいつは寮の鍵を何度かピッキングしてるからな。一夏から鍵を借りれてなかったら実際にやってただろう。

 

「ハルがそこまで言うなら仕方ない。緊急事態を除いてやらないようにする」

 

「絶対だぞ。家でやったら姉貴の雷落ちるぞ。ドイツ軍訓練時の檄が優しく見えるほどの」

 

「ぜぜぜ絶対にやらん! 絶対に、だ!」

 

 あれ以上は嫌だもう嫌だいくら教官でもあれだけは嫌なんだ、とラウラが頭を抱えてガクブルしている。俺が言えた義理でもないが、どんな檄を受けたんだ? 俺がいる時はそうでもなかったはずだが、ラウラがアイデア成功して発狂でもしたかのような早口で呟き続けてる。精神分析持ってないんだよなぁ。(物理)はしたくないし。

 

 とりあえずラウラが落ち着くまで、持ってきてくれてたらしき料理を準備でもしてるか。ラウラを抱き上げてリビングに移動した。

 

 ちなみに、俺は鬼武者事件の時に初めて雷が落ちている。最近だと、俺が学園に入った後でまた合コンに失敗した姉貴をついからかったら落ちた。まさか俺への脅し文句が『態度を改めないようならお前で処女を捨てるぞ!』だったのは凄い怖かった。弟に手を出す事を考える程に男に飢えてる姉貴が。

 

 温めたコーンスープの匂いが広がった頃、ラウラは正気に戻った。そのまま2人で夕食を食べることに。

 

 そんな最中で、

 

「ところでハル。元気そうならちょっと頼みがあるんだが」

 

「なんだ」

 

「クローゼットの中にあったダンボールの中身なんだが、後でやらないか? 見たことのないテーブルゲームがいくつかあったからやってみたいんだ」

 

「おう、お前俺が寝てる間に家探ししてただろ。まぁ、いいけどよ。それなら寝る準備してからやるか」

 

「了解した。シャワーは一緒に浴びるのか?」

 

「1人ずつだわこのド阿呆」

 

 

 

「………………なぁ、俺は寝る準備をしろと言ったよな?」

 

「言ったな」

 

「それで、お前が今着てるのは?」

 

「サンタの服だな」

 

「それで寝るのか?」

 

「そのつもりだが?」

 

「そうか………」

 

 シャワーを浴び終わったラウラが着ていたのは赤ではなく黒のサンタ服だった。確かドイツでブラックサンタとかあったな。悪い子にじゃがいもとか石炭とか臓物とかをプレゼントするとかいう。

 

「まぁ、ISも黒だからかよく似合うが」

 

「ふふん。そう褒めるなハル。今の私を褒めてもじゃがいもと石炭しか出ないぞ」

 

「おう、さらっと悪い子認定するんじゃねぇよ」

(明日じゃがバターでもやるか………)

 

「さて、ハル。これからゲームをやる訳だがただ遊ぶのも面白くない。戦績で負けたハルに罰ゲームというのはどうだ?」

 

「なるほど。いいだろ────いや良くねぇわ! 俺だけに罰ゲームを押し付けるな!」

 

「チィッ。乗らなかったか」

 

「戦績で負けた方に罰ゲームな。じゃ、ゲームスタートだ」

 

 互いの数字を当てるものだったり、駒を重ねられる○✕ゲームのようなものだったり、潜水艦モチーフのゲームだったりと色んなテーブルゲームをやった。結果、

 

「馬鹿な………この俺が負けるとは」

 

「ビギナーズラックを甘く見たな」

 

「ハンデに待ったに泣きの1回にと駄々を捏ねまくったのはどこの誰だ」

 

「ハル、こんな言葉がある。『勝てばよかろうなのだ』と」

 

 わずか一勝の差で俺が負けた。高校にいた時に主にタツ達生徒会メンバーでやり込んでいて、ハンデ有りくらいには早々負けるつもりはなかったが、まさか待ったに泣きの1回までやるとは思ってなかった。

 

「まぁ、負けたのは俺だから罰ゲームは大人しく受けるが………何するんだ?」

 

「ふむ。そうだな………まず、ベッドに寝てくれ」

 

「? おう」

 

 言われるままにベッドに仰向けで寝る。すると、ラウラはいきなり俺の身体に跨ってきた。

 

「何をする気だ、って俺のジャージに手をかけるんじゃない!」

 

「貴様が悪いんだぞ? だからこれは、そう。罰ゲームという名のお仕置きだ」

 

「お仕置き、って俺が何かしたか?」

 

「何もしてないから問題なのだ! ハル、愛しい愛しい恋人(わたし)に最後にキスをしたのはいつだ?」

 

「………先月末?」

 

「そう! 一月もしていない! クラリッサに相談したところ、貴様が浮気をしている可能性があると言っていた」

 

「何吹き込んでくれてんだあの馬鹿! 誰がするか!」

 

「口ではどうとでも言える。杞憂ならそれでいいがもしかすると本当の場合もある。だから、私の側に居続けてもらうためにも、ハルには一晩かけて私の良さをたっぷりと思い知らせてやろう。現役軍人の責めからは逃れられんぞ?」

 

「いや、ホントにお前は何をする気だ………?」

 

「ふっふっふ………さぁ、大人しくお仕置きを受けるがいい、ハル」

 

 俺は、舌舐めずりをしながら怪しげな笑みを浮かべるラウラのお仕置きとやらを受ける羽目になった。

 

 

────────────────────

 

 ………シャルに送っておこう。

 

 そう決めた俺は、今の体調や俺のことは気にせずパーティーを楽しんでくれ、といったことを簡単にまとめてメールを送った。なんだったらメールじゃなくて電話でも良かったが、多分パーティーが始まった頃かそこらだろうからわざわざ中断させるような内容でもないしな。

 

 さっきまで寝ていたが、せっかくだしもう少し寝ておこう、とベッドに横になって目を閉じた。

 

 

 

「あ、モモさん起きた? 様子が気になったから来たんだけど大丈夫そうだね」

 

「………なんだシャルか、と思ったが、俺はまだ夢の中にいたらしいな」

 

「ちょっと!? 寝直そうとしないで! 夢じゃないから! ちゃんと現実だから!」

 

 誰かの気配を感じるような、と目を開けてみれば、まだ夢の中にいたらしい。いや、だってなぁ………………とりあえず確認しよう。

 

ふにふに

 

ひょっとにゃにするにょ(ちょっと何するの)

 

「ちゃんと触覚があるな………現実か」

 

ひふんのへためひてよ(自分ので試してよ)!」

 

 目の前にいるシャルらしき人物の頬を摘んでみると、しっかりと柔らかな感触がした。どうやら現実らしい。

 

「すまんな。それで、シャルにそっくりのお前は誰だ? あいつには兄弟姉妹はいなかったと思うんだが、ドッキリの為の超そっくりさんか?」

 

「本人だよ!!」

 

「冗談だ。………で、何でそんな格好してんだよ」

 

「プレゼント交換が終わってから来たんだけど、僕が貰ったのって龍宮さんのプレゼントだったんだよね。せっかくだから着ようかなって」

 

「あいつはプレゼントをなんだと思ってるんだ」

 

「プレゼントでしょ」

 

 さっきから俺が現実というか目の前のシャルを直視しない理由はシャルの服装にある。

 

 こいつ、何故かメイド服を着てるんだよ。ロングスカートタイプの、なんだっけ、クラシカル? とかいうやつ。

 

「まぁ、百歩譲ってメイド服がプレゼントとしては良いとして、一夏とかに当たりでもしたらどうしてたんだ。パーティーは他にも男性陣がいただろ………」

 

「男の人に当たったら執事服に変えるつもりだった、って言ってたよ。僕も執事服にしようか悩んだけどメイド服にしたんだ。可愛いでしょ?」

 

「さして変わらんと思うが………まぁ、執事服よりはメイド服が似合うからいいか。確かに可愛いし」

 

「………またそういうことをさらっと言う………」

 

「メイド服が似合う社長令嬢なんてお前くらいだろ」

 

「上げて落とすなー! もらってきた料理あげないよ!」

 

「私めが悪うございました。つきましては、謝罪の方法について相談させていただきたく」

 

「頭が低い」

 

 いや、もらってきた料理って多分パーティーの料理だろ。夕飯をレトルトソースのパスタで済ませようと考えた俺からしたら是非とも食べたいからな。素直にでもなる。

 

「い、いや、ちゃんとあげるから。龍宮さんにも頼まれてるし」

 

「なら良かった。ちなみに何があるんだ?」

 

「サラダとかチキンとかスープとかケーキとか………あ、そうだ。これももらってきてたんだ」

 

 と、シャルが俺に差し出してきたのはラベルの無い茶色い小瓶。物としては栄養ドリンクか?

 

「なんだこれ?」

 

「弱った身体向けの栄養ドリンクの試作品だって。食前に飲んでね、って言ってたよ。僕の分も貰ったから一緒に飲もう?」

 

「ふ~ん。ならありがたく飲ませてもらうとしよう」

 

 2人揃って蓋を開けて一気飲みする。味は市販のものより少し苦いな。ちょっと漢方っぽい。

 

 その後、2人で料理を用意した後、ささやかなディナーを過ごした。

 

 

 

 食後に2人並んでソファに座り、テレビを眺めていた時。それは唐突に言われた。

 

「あ、そうだ。せっかくメイド服を着てるんだから、何かご奉仕してあげようか」

 

「っんぐっふ!」

 

「大丈夫?」

 

「変な事を抜かすな! 気道にちょっと入ったわ!」

 

「そんなに変なこと言ったかな? メイドって言えばご奉仕でしょ? 何でもするよ?」

 

「おう、かつてのバイト先に文化祭を思い出せこの馬鹿」

 

 シャルが初めてメイド服を着ただろうっていうタイミングはカフェの制服だったし、文化祭のクラスでの出し物をやった時もカフェの制服だ。そんな意味は断じて無かったはずだ。

 

「それは思い出してるけど、龍宮さんが恋人と2人きりの時はそういう意味になるって」

 

あいつ、今度ヤキ入れてやる。それと、何でもはやめろ。言質取られたら余計な事にしかならんぞ」

 

「モモさんくらいにしか言わないし、そんな事しないでしょ?」

 

「それでもだ。俺が何かの拍子にトチ狂って『下着が見えるようにスカートたくし上げろ』とか言い出したらどうする気だ」

 

「………………………モモさんが言うなら」

 

「分かってくれてなによ────ってどこ行く?」

 

 席を立ったシャルは俺から少し離れた場所に移動した。家具などに遮られない位置に立ったシャルは俺の方を向くと、顔を赤くしながら自分のスカートの裾を持ってゆっくりと持ち上げ始めた。

 

 足首、脛、膝、とロングスカートに隠されていた肌色が徐々に露わになっていく。太腿も露わになり、とうとう隠されていた部分の全容が今、明らかに──

 

「──いや、何してんだお前は!? やれって意味で言ったんじゃねぇよ! 『もし言われたら嫌だろ? だから言うのはやめろ』って意味で言ったんだよ!」

 

 ふと我に返り、シャルに駆け寄ってその持ち上げていたスカートはたき落とす。スカートは当然重力に従って下がっていき、また全てを隠した。

 

「………別にモモさんならいいのに」

 

「お、おう。それは彼氏冥利に尽きると言えばいいのかなんなのか………じゃなくてだな!?」

 

「それにしっかり最後まで見てたでしょ? 白い下着まで」

 

「いや、お前が履いてたのは黒いレースの大人っぽいやつ────ハッ!」

 

 慌てて口を塞ぐが時既に遅し。完全に言い放っている。確かにシャルの言う通りしっかり見ていた。いつもの俺なら持ち上げ始めた瞬間に勘付いて止めに入るのに、今回は『ちょっと見たい』なんて思考に乗っ取られたように終わるまで見つめて………?

 

「………おかしい。いくら俺でもここまでストレートにものは言わないはず………それに例え話の時も、もっと別の話にしてたはずだ」

 

「さっすが、モモさんだね。気付くのが早いや」

 

「………………お前、何をした?」

 

「実はさっきの栄養ドリンクに、自分の心に素直になる隠し味とか、身体に元気が漲る隠し味とか、他にも色々」

 

「彼氏に一服盛るんじゃねぇよ! というか自分にも盛ってるんじゃねぇよ! ………そういえば貰った、とか言ってたが誰から貰った?」

 

「今日のパーティーで『せっかくの機会だったのになぁ』ってボソッとこぼした言葉を聞いた………えっと、ランマオさんから?」

 

「あんのクソネコォォオオオッ! ちゃんと手綱を握ってろタ、ツの、やつ………」

 

 ………ヤバい。クソネコ特製の漢方薬が頭にまで回り始めたか。風邪とは違う感じで、頭がボーッとしてきた。身体も少し熱くなってきたような気がする。思考が働かない………

 

「ねぇ、モモさん」

 

「なんだ………?」

 

「クリスマスプレゼント、何が欲しい?」

 

「プレゼント………?」

 

「そう。何でもいいよ? どんなモノでもいいし、何かしたい事でも、してほしい事でも、ね………?」

 

 俺を抱き締めたシャルがそんな事を囁いてくる。布越しに感じるシャルの女性特有の柔らかさが、身体に広がる熱が、俺の口から言葉を吐き出させた。

 

「────────」

 

「………うん、分かった。目を閉じて………?」

 

 ほとんど掠れて聞こえていなかっただろうが、シャルには伝わってくれたのか。言われたままに閉じた目に映らない所で何をしているかは分からないが、衣擦れの音がやけに大きく聞こえた。少し、身体が涼しくなったような気もする。

 

「………じゃあ、僕からのクリスマスプレゼント、受け取ってくれる?」

 

 ………俺は一晩かけて、そのプレゼントを余す所なく堪能させてもらった。

 

 

────────────────────

 

 ………今送らなくてもいいか。

 

 そんなすぐに返信しなきゃいけないものでもないし、それにメールを送った誰かが気になって様子を見に来る可能性もある。せっかくのパーティーに水を差すのも悪い。

 

 そう思った俺は誰にもメールを返さず、もう一眠りすることにした。

 

 

 

 目が覚めた後に、夕飯をレトルトソースのパスタで済ませて食後のコーヒーで一息つきながら、貰っていたメールにちまちまと返信していた時だった。

 

ピンポーン………………ピンポーン………………

 

「ん? 誰か来たのか?」

 

 こんな日の夜にセールスなんかは来ないだろう。もしかして、メールが中々返ってこないからわざわざ見に来た奴がいたのか? それともやっぱり心配になって姉貴が………いや、それはないな。酒が入った姉貴がそこまで考えない。

 

 とりあえず対応するためにインターホンを覗いてみると見覚えのあるピンクの髪色が若干見えていた。………もしや。

 

ポチッ

 

「はい。どちらさ──」

 

『へーい、ももくん! メリークリスマス! さっそくで悪いんだけど早く家の中に入れてもらっていい? サンタのコスプレしてきたら寒くて肌の感覚がががが………』

 

「コートくらい羽織って来い!」

 

 扉を開ければ、プレゼント袋まで持ってきていた束さんが肌面積の多いサンタ衣装でガタガタ震えていたから思わず叫んだ。今雪降ってるのにそんな薄着で来るんじゃない。

 

 とりあえず家の中に入れた束さんを風呂に叩き込んで暖まってもらってる間に暖房やら温かい飲み物やらを、本人がやたらと希望するから俺の部屋に用意した。

 

「ふぃ〜………………いやぁ、ももくんお風呂ありがとねぇ。ココアも美味しいよ。それで、えっちな本はベッドの下かな〜?」

 

「探すな! それを探すために俺の部屋を希望したのかあんたは!?」

 

「バレたか」

 

「バカタレ。で? 今日はどうしたんだ束さん」

 

「チッチッチッ。今日の私は束さんじゃないよ。束サンタです!」

 

 おう、ダジャレか? 口に出すと面倒だから言わないが。

 

「………で、その束サンタ何をしに?」

 

「束サンタは今年頑張った恋人であるももくんにクリスマスプレゼントをあげるサンタクロースです。なので、ももくんにプレゼントを持ってきました〜!」

 

「随分限定的なサンタだな。どんなプレゼントをくれるんだ?」

 

「束サンタからのプレゼントをもらうには、束サンタにももくんからのクリスマスプレゼントを渡してね?」

 

「まさかの交換制?」

 

「渡したプレゼントの価値に応じたプレゼントをももくんにプレゼントするよ!」

 

「そして等価交換制!? クリスマスプレゼントにそんな制度を持ち込むな! 物々交換じゃねぇんだぞ!?」

 

 そんな子供の夢を奪うようなサンタがいてたまるか。朝子供が起きて『サンタさんへのプレゼントが無かったので今年のプレゼントはありません』とかやってみろ。希望の朝が絶望に変わるぞ。

 

「とりあえず、せっかくのクリスマスイブなのに独り寂しく過ごしてたももくんから暖まるために色々して貰ったから、クリスマスケーキをプレゼント」

 

「おう、喧嘩売ってんのか? こっちだって独りで過ごす予定じゃなかったんだわ。………………まぁ、それはそれとしてケーキは貰うけど」

 

 プレゼントの対価は行為も含むのか………

 

 そんな事を考えながら、貰ったブッシュドノエルを2人でもくもく食べた後。

 

「じゃあ、本命のクリスマスプレゼントなんだけど………」

 

「クリスマスに本命とかあったのか。バレンタインじゃねぇんだから」

 

「シャラップ。右ストレートを打つ前にジャブを打つように、本命の前に前座があってもいいでしょが」

 

「おう、例え方を頑張れよ束サンタ。 ………まぁいいや。じゃあ、明日渡す予定だったこのプレゼントを」

 

「うん、それも嬉しいんだけど………束サンタはさらに欲しいものがあるんだよね」

 

「更に、ってことは追加でか? どんだけ凄いプレゼント用意してんだ。まぁ、俺がすぐに用意できるものなら何でも用意するが………」

 

 ────この時『何でも用意する』と言った事を俺はすぐに後悔する羽目になった。

 

「ホント!? よかったぁ………それじゃあ、ももくんの、子供が欲しいなぁ」

 

「ブッ!?」

 

 目にシイタケでもあるんじゃないかってくらいに目を輝かせて破顔した束さんは、そんなことを言い放った。思わず吹き出して、束さんの言葉の(あるはずもない)真意を考えようとした隙に、気付けば床に押し倒されてた。

 

「いやぁ、ホントにそう言ってくれて良かったよももくん。今年はなんだかんだであんまり手を出せなかったからね。せっかく恋人になったんだし、もっとそういうことの一発や十発やりたくてしょうがなかったんだよね〜」

 

「数がおかしい!」

 

 マウントポジションを取りながらそう言ってくる束さんは、さっきのシイタケどこいったと言いたいぐらいに目の輝きが変わっていた。………あれだ、獲物を見つけたネコ科の動物の目だ。舌舐めずりまでしだした束さんは肉食系女子と化していたらしい(多分意味は違う)。

 

「心配しなくていいよ? そういう知識は仕入れてるから優しくリードしてあげるし」

 

「そういう問題じゃない」

 

「あ、もしかして私のプレゼントの方? んもぅ、心配性だなぁ………ちゃ〜んと、それに見合ったプレゼントは渡すよ? そうだなぁ………………私の身体を自由にできる権利、とか?」

 

「何を言ってるんだあんたは!?」

 

「ふ〜ん、そんなこと言うんだぁ〜? さっきからずぅっと胸元とか太ももとか、際どい所を見てるのに〜?」

 

(うぐっ………バレてた………)

 

 ぶっちゃけ、今の束さんの格好に目を取られない方がおかしい。

 

 玄関の扉を開けた時にも思ったが、肌面積が非常に多いサンタ衣装を束さんは着ている。上下は完全に分かれているタイプで、上は胸元に、下は腰骨の辺りに大きなリボンがワンポイントと言わんばかりに主張している。上は腕どころか肩もお腹も露出してるし何なら胸の谷間も普通に晒されている。下はミニスカートと言うには短過ぎる長さのスカートでちょっとでも体勢が変われば見えてしまうんじゃないかと思うほど。そんな格好の束さんに跨がられている今の状況ならどうしてもそういう部分に目が向いてしまう。

 

「女の子は視線に敏感なんだよ? さっきから見てるけど、この胸元のリボンはね………解くと、服が脱げるようになってるんだ。気にならない? この服の下がどうなってるか」

 

「何を………!」

 

「スカートも同じようになっててね? このリボンも解くと………ストン、ってスカートが落ちるんだよ?」

 

「………………っ」

 

「上と下のリボンを解いたら、私はどんな格好になってるんだろうね? 一回り小さいのを着てるかな? 下着姿になってるかな? それとも──」

 

 ────何も、着けてないかもしれないね?

 

 そう耳元で囁くように言われた俺は、思わず唾を飲んでいた。ルームメイトから枯れてるの? とか言われた事もあるが、俺とて男子高校生。そういった事を考える事もある。

 

「今、この家には私たちしかいない。ももくんと私、恋人同士がふたりっきりでクリスマスの夜に一緒にいるんだから、ね?」

 

 言いたいこと分かるよね? と暗に言っている束さんは俺の瞳を覗き込むように俺を見つめてくる。少し目線をずらせば、目線が向いた事が分かったのか、これ見よがしに揺らされる果実がふたつ。

 

 思わず手を伸ばし、触れる寸前で戻そうとしたが、束さんに阻止され、それに押し付けられた。そのままゆっくりと、優しく、俺の手は開いて閉じてを繰り返され、束さんの手が離れても先程までの動作を繰り返し続けていた。

 

 ………………力を入れるままに形を変えるそれの感触に、何度も耳に拾う色っぽい堪えるようなその声に、俺の頭の中で何かが外れた。

 

 先程まで触っていたそれを撫でるように手を動かしてリボンに触れると、プレゼントを開封するように、丁寧に解き始めた。

 

 

────────────────────

 

 

 ────ちゅんちゅん………ちゅんちゅん………

 

「………………ん。朝か………」

 

 昨晩は寝る時に何故か部屋の中が暑かったから、換気がてらほんの少し開けていた窓からスズメの鳴き声が聞こえてきた。

 

 伸びをしながら横を見ると、一夜を共にした恋人が気持ち良さそうにスピスピ寝ている。その寝顔を見ていると昨晩の出来事がありありと思い浮かび抱き締めたくなるが、今はそんなことをしている場合ではない。

 

 とりあえず、今のうちに済ませておく事は、

 

「掃除と洗濯………だな。ゴミも出しておくか」

 

 タイムリミットはいつ帰ってくるか分からない姉貴と一夏が帰ってくるまで。クリア目標は痕跡の消去だ。

 

 手早く着替えた俺は、寝ている彼女を起こさないように行動を開始した。

 

 尚、この後にタツから来た電話で、

 

『やぁ、おはようモモ。昨日はお楽しみだったかい?』

 

 なんて開口一番言われたので携帯を握り潰しそうになった。次会ったときは真っ直ぐ行って右ストレートでぶっ飛ばす。

 




そんなわけでクリスマス回でした。

ではでは次回も気長にお待ちください。

以下、R18が書けない作者の各ヒロインとのシーンネタ。
興味がある人は反転して読んでね。

楯無:互いの反応をからかい合いながら終始イチャラブックス

鈴:洗いっこした後に百春に攻められて愛情をたっぷり注がれる

ラウラ:調子に乗って煽り続けたらプッツンした百春に『お前がしたいだけだったんだろ? ん?』とわからせられる

シャル:メイド服を着てたこともあってそういうプレイに発展し、後日百春を素でご主人様呼びするかもしれない

束:リードして年上の余裕が残ってるうちに終えようとしたら火が付いた百春に押し倒されて何度も延長戦へ
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