織斑一夏の兄が行く   作:ふくろう639

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お気に入り登録ありがとうございます。
何とか今年中に投稿できました。

今回はコロコロ視点が変わりそうだったので、練習を兼ねて第三者視点で書いてみました。

他の話と書き方が違って読みにくいかもしれませんが、お付き合いください。
(そもそも今までも読みやすくなかったらごめんなさい)


第5話 放課後の決闘

~三人称 視点~

 

 ピットから出た百春は操縦感覚を試すように、観客席付近を横回転・縦回転をしながらアリーナ内を大きく一周飛び、中央で待つ一夏の前に向かい合うように停止した。

 

「おう、一夏。待たせたな」

 

「いや、俺もちょうど着いた所だから待ってないよ」

 

 付き合ってるのかこの2人、と一部観客が思うような会話を百春と一夏は交わす。そのやり取りでムッとしてる女生徒がピットにいたり、興奮して手元のメモにナニかを書き込んでいるクラスメイトがいたりするが、本人達の預かり知らぬ事である。

 

「ってか一夏。お前のさっきの試合について色々言いたいんだがよ………お前『俺も家族を守る』とか言ってあの負け方は無いだろ」

 

 先程行われた試合がモニターで流れていた際、会話も一緒に流れている。秘匿回線での会話は流れないが、広域回線での会話は流れるようになっており、一夏が一次移行を終えて零落白夜を発動させた時にこんな台詞がモニターから流れていた。

 

『千冬姉と兄貴の背中に隠れて守られてばかりじゃいられない。俺も家族を守る。とりあえずは、千冬姉の名前を守るさ』

 

 そう言った直後に零落白夜の使いすぎでエネルギー切れでの敗北という結末。自信満々に先導しようとしたら方向が真逆だと指摘されるくらい滑ったな、と百春は一瞬思っていた。ピットに戻った一夏が色々言われる光景を想像する事は、似たような光景を何度も見た事がある百春にとっては造作もない。が、百春も言わずにはいられなかった。

 

「いや、分かってる。分かってるから言わないでくれ兄貴………さっき戻った時に千冬姉と箒にも色々言われたし………」

 

「だろうな。だから俺からは1つだけだ」

 

 百春は右手に弾鋼を呼び出し、その先端を一夏に向ける。その表情は非常に楽しそうな、ワクワクしているような笑顔だった。

 

「俺を、姉貴を、家族を守りたいというのなら、手始めに俺を越えて見せろ。お前を守ってきた背中の大きさを教えてやる」

 

「────ああ!」

 

 一夏が専用機である白式の唯一の武装・雪片弐型を呼び出し、上段に構える。それに対して百春は弾鋼を腰だめに構え、左手を添えた。

 

 少し睨み合った後、試合開始のブザーが鳴る。

 

「はぁぁぁっ!」

 

 一夏が百春に攻撃すべく距離を詰める。ブレードしか無い以上、相手と距離を詰めて斬りつけるしか相手にダメージを与える術はない。

 

 一方、百春は一夏を正面に見据えたまま後方へ全力で移動。そしてそのまま、まずは一発、と銃撃する。

 

 ガォンッ! と明らかに銃の音ではない音が鳴り、飛び出した弾丸は一夏の肩を掠めていった。掠めただけでも一夏のエネルギーが通常の銃器よりも多く減っており、直撃はまずい、と一夏に思わせるほどには威力が高かった。

 

 掠めた際に思わず速度を落とした所を百春に狙われた一夏は、距離を取りながら反撃の糸口を探す。しかし、百春に近付くにつれて銃撃に掠りやすくなり、攻めあぐねているがエネルギーは確実に減っていった。

 

 そんな一夏に対して銃撃を行っていた百春はと言うと、

 

(思ったより反動無いな。撃つときもう少し力を抜くか………)

 

 自身の感覚とのズレを調整していた。

 

 百春の中にある感覚は入試の時のアサルトライフルを撃った感覚である。銃種が違うので力を入れて撃ってみたが、さほど反動が無かった。力を入れすぎると逆に撃ちにくくなるのは入試の時に気付いていたので、ちょうどよい力加減を撃ちながら探し始める。

 

 

 

 

「百春くん、よくあんな銃をポンポンと撃てますね………ラファールの各部調整でもしたんでしょうか?」

 

 管制室から試合を眺めている副担任の山田真耶はそんな事を呟いた。初期装備として搭載されていない、明らかに反動が大きい事が予想できる大型銃を苦もなく百春が撃っている。そんな事をするには腕部マニピュレータかスラスターなどの出力調整が必要かと思ったが、隣にいる千冬に否定される。

 

「いや、あの装備が届いたのは白式が届く少し前。量子変換の時間を考慮しても調整する時間は無いだろう。届いてから何をしていたかは私も把握してないが、仮に調整してなくともあいつならあれくらいの反動はほぼ無いに等しい」

 

「………あの、音からしてもかなり反動が有ると思うんですが、それを生身の力で押さえつけてるんですか………?」

 

「あいつの身体能力はかなり高い。柔道部に入っていたのもあるかもしれんが、中3で大人を地面に叩きつけられるくらいにはあったからな。そんなあいつの今なら、並大抵の武器では反動は無いに等しいだろう」

 

「いやあのさすがに冗談ですよね………? 相手が小柄だったとか女性だったとかですよね………?」

 

「いや、大柄な男だったと聞いている。それを数人、何度も投げたそうだ」

 

「か、仮に大人を叩きつけたのが本当だとしても、そんな暴力を振るうようには見えないんですが………」

 

 真耶が知っている百春は面倒見が良い人物という認識だった。チャイムが鳴りそうになると着席を促したり、本人が本来なら高3ということもあってか数学などの基礎科目で悩んでいる生徒に声をかけて教えたり、とフォローをよくしている。そんな生徒が暴力を振るうとは思えない、と真耶は考えていた。

 

「………自衛だ。私が不甲斐なかったせいでな………未だ消えない心の傷(トラウマ)も残ってしまった」

 

 苦虫を噛み潰したような表情で答える千冬。自身を不甲斐なかった、という言葉通り、どこか後悔しているように思えた。

 

「トラウマ、ですか?」

 

「………お喋りが過ぎたな。そろそろ試合が動くぞ」

 

 そう言い表情を元に戻した千冬の視線の先では、一夏が百春に向かって突撃しようとしていた。

 

 

 

 

(やっぱりそうだ!)

 

 一夏は百春の銃撃を避けながら、百春の行動を観察していた。時折突撃するが近付くほどに百春の命中率が上がってくるので斬りかかれる距離にまでは至っていない。

 

 しかし、それを何度か繰り返すと、あることが一夏の頭の中をよぎった。それを確かめるために再度突撃し、銃撃を避けて大きく距離を取った所である。

 

(明らかに俺に隙があったのに撃って来なかった………つまり、兄貴は多くても一度のリロードで5発しか撃てない! そこを突けば!)

 

 百春は今、大型銃のリロードをしようと銃口を上に向けた所だ。さっきも見たように、大型銃の真ん中辺りから横に銃身を折り畳むように割れて排莢するのだろう。リロードに少し時間が掛かっている今がチャンスだ。

 

「全力で!」

 

 背中のスラスターを最大出力で稼働させ、一気に距離を詰める。表情はよく見えないが向こうはリロードしようとした体勢のまま止まっている。このまま斬りかかり、リロードをするなら本人に、避けようとするならば銃を破壊できる。一夏はそう思っていた。

 

 だが、百春は上に向けた銃口をそのまま下ろして、先程までのやり取りよりも距離を詰めた一夏に狙いを定めた。

 

(え?)

 

「おう、一夏。リロードの隙を攻めて来たのは良い判断だ。だがな、誰が弾鋼(コイツ)の装填数が5発なんて言った?」

 

 呆気に取られている一夏に銃撃が直撃した。突撃・離脱を繰り返した上に銃撃を何度か掠めたことで半分近くまで減っていたエネルギーが大きく削られる。一夏の残りエネルギーは3割ほどだ。

 

「(読まれてた!? 自分の行動が読まれることまで読んでたのか兄貴は!)だけど、それでも!」

 

「!」

 

 銃撃を受けて怯むも、すぐに再突撃する。受けてすぐ再突撃してくるとは百春も思ってなかったのか、対応がワンテンポ遅れた。だが、その隙で一夏は百春を自身の攻撃範囲に納めた。

 

 身体の右側に腰だめで弾鋼を構えている百春に対し、一夏は雪片弐型を振りかぶり無防備な左側に狙いを定める。零落白夜を当てれば、ここで勝負が決まる。

 

「これで──」

 

「終わると思ったか?」

 

 一夏が振り下ろそうとした瞬間、百春がその場で素早く右回転した。大型銃を腰だめに構えた百春が回転するとどうなるか。一夏の頭にハテナが浮かぶが、その答えはすぐに一夏に襲いかかった。

 

「──まずっ!」

 

 自身の右側へと襲いかかってくる弾鋼を、一夏は雪片を振り下ろす軌道を無理矢理変え、ガキィンッ! と甲高い音がするが、何とか受け止めることに成功する。

 

 百春はその場での回転を利用することで、弾鋼の銃身で一夏を殴ろうとしていた。試合開始前にアリーナ内を飛びなから回転した際に、その場で回転とか出来そうだな、と思ったのをこのタイミングで実行した。要するに、ぶっつけ本番である。

 

 百春は横向きに構えた弾鋼で、一夏は真っ直ぐ振り下ろした雪片で鍔迫り合いをして膠着状態になった。

 

「あっぶねぇ………ただでさえ残り少ないエネルギーが無くなる所だった………」

 

「よく対応できたな、一夏。普通に通ると思ったよ」

 

「ギリギリだったけどな。ってか何だよその銃。思いっきり振り下ろしたのに、凹みもしないってどんな硬さだよ………! オルコットのビットは壊せたのに………!」

 

 会話している最中でも一夏はスラスターを吹かせて力を入れ続けているが、百春は涼しい顔で受け止め続けている。仮に零落白夜を発動させても百春が受け止めている雪片から刀身が伸びるだけなので、無駄にエネルギーを消費するだけ。再度距離を取ってもここまでまた接近出来るか分からない一夏は、無理矢理にでも百春の大型銃を破壊しようとしていた。

 

「この弾鋼は龍宮グループの金属加工技術を持って造り上げられてんだ。あんな小物と一緒にするな。それとな一夏」

 

「何だよ」

 

「お前、俺を相手に力押しでいいのか?」

 

「! しまっ──」

 

「もう遅い」

 

 百春は一夏がスラスターを逆噴射するよりも早く行動を移した。

 

 受け止めていた雪片を受け流すように弾鋼を傾け、自分も弾鋼に続けて身体を傾けていく。ギャリギャリと弾鋼の側面を滑っていく雪片を一夏は止めることができず、百春が最初の体勢から真横を向く頃には、一夏は百春に背後を取られるポジションになっていた。

 

 一夏はスラスターを吹かせて離れようとするも、先程逆噴射しようとした影響で移動速度が大きく下がってしまった。ほんの数秒の間だが、それを逃す百春ではない。

 

(ここで銃撃を連続で叩き込みたかった所だがリロードができてない。………試してみるか、砲撃)

 

 試合開始から一切使っていない弾鋼のもうひとつの銃身。次の試合での隠し球として使おうとしていたが、かなり一夏に密着している今、映像では何を撃ったかは分からないだろう。隠し球としては活きると判断した。

 

 砲撃を放つにはグリップに付いているボタンを押しながら引鉄を引くだけ。渡された資料によるとボタンを長押しするとチャージされる仕組みらしい。百春は実行に移した。

 

 直後、一夏の背部で爆発が起こった。

 

「ガッ!」

 

 一夏が背部から煙を上げながら高度を下げていく。一夏ならすぐに体勢を立て直すだろう、と百春はリロードを行いながら先程の砲撃について考えていた。

 

(1秒ほどのチャージでこの威力………フルチャージの龍擊砲だったら一撃で全部持ってくんじゃねぇか? これ)

 

 元々は遠距離用のレーザー兵器として開発された機能だ。撃てばその威力が減衰していくため、より遠くに届かせるにはその分エネルギーを収束させる必要がある。

 

(その収束した分が発射直後に全て弾けるんだから、この威力も当然か。………そういえば)

 

 いつまで経っても一夏が体勢を立て直さない。背部のスラスターからは煙が上がったままだ。砲撃直後は移動速度がほぼ無かったのでゆっくりと下がっていたが、今は通常の移動速度ほどになっている。

 

「………! まさか、スラスターがイカれたのか!? だとしたらマズイ!」

 

 いくらISがシールドで守られているとは言え、目の前で地面に落下していく弟を眺めていられるほど、百春はろくでなしではなかった。

 

 スラスターを全力で稼働させ、百春は下方の一夏の元へ向かう。が、百春は直感で悟る。このままでは速度がギリギリ足らない。弾鋼を重り代わりに持って地面に向かって加速しているが、それを含めても間に合わないと気付いてしまった。

 

(くっそ! 何か手は………!)

 

〈私がサポートする! そのまま行って!〉

 

 突如、聞き覚えのある女性の声が百春の耳に届いたと思ったら、ISが一気に加速した。身体へのGも増加したが、持ち前の身体能力で抑え込む。

 

 一夏が地面まで残り数メートルという高さで、先に地面に到達した百春が速度をそのままに地面に沿って飛び一夏を横抱きに受け止めた。百春は一夏を抱えたままスラスターを逆噴射させて足で地面をガリガリと削りながらも着陸した。

 

「おう、一夏。無事か?」

 

「た、助かったぜ兄貴………地面に漫画みたく埋まる所だった………」

 

 横抱きに抱えられたまま百春と言葉を交わす一夏。その光景を見て、また2人のクラスメートが鼻から情熱を溢れさせながら手元のメモに激しくナニかを書き込んでいるが、これもまた預かり知らぬことである。

 

〈いや~、間一髪! 何とか間に合ったねぇ~。よかったよかった〉

 

 謎の声が再び百春の耳に聞こえる。しかし、目の前にいる一夏に気付いている素振りはない。どうやら百春にしか聞こえていないらしい。

 

 広域回線で話すとアリーナ内に広がってしまうので、百春はいつの間にか増えていた恐らく謎の声のものであろう接続先に秘匿回線で話しかけた。

 

『おう、助かった。ありがとな』

 

〈なんのなんの! パイロットの行動をサポートする。それが、サポートAIアリスちゃんのお仕事だからね!〉

 

 

────────────────────

 

 

 結局、試合の方は一夏が続行不可という判断になり、百春の勝利ということになった。

 

「おっかえり~百春くん。まずは一勝おめでと」

 

 百春がピットに戻ると、龍久・姫子と談笑していたルームメートの楯無が出迎えた。開かれている扇子には『祝! 初勝利!』と書かれているが、その表情にはどこか疲れが見えるが気のせいだろうか。

 

「おう。で、その後ろの人は?」

 

 楯無の後ろに女性が1人控えていた。眼鏡をかけたその女性は一礼した後に自己紹介を始めた。

 

「初めまして。お嬢様と同じく生徒会役員で会計を務めております、3年整備課の布仏虚と申します。よろしくお願いいたします織斑百春さん」

 

「おう、よろしくな。俺のことは弟もいるから百春でいい。布仏ってことは………」

 

「はい。本音の姉です。妹がお世話になっております。私のことも虚とお呼びください、百春さん。年は同じですし」

 

 百春の脳裏にのほほんと休憩時間におやつを食べているクラスメートの姿が浮かぶ。この姉あっての妹なのか、あの妹あっての姉なのか。百春には判断がつかなかった。

 

「ん? というか、今これをお嬢様って………」

 

「ひどくない? 人をこれ呼ばわりってひどくない?」

 

「はい。人をからかうのが好きで、生徒会業務をサボりがちなので百春さんの忠告を忘れて先程まで積み重なった書類の山を片付けていたこれの付き人をしております」

 

「扱いひどくない!? 虚ちゃんは私に仕えてるんだよね!?」

 

「………仕事をしない生徒会長を持つと苦労するな」

 

「………分かりますか」

 

「おう、分かるとも」

 

「人を無視するなー!」

 

「というかしれっと僕に流れ弾が来てるんだけど」

 

「実際龍久はあんまり生徒会室にいないじゃないの。だから新しい先生に生徒会長を間違われるのよ」

 

 熱く握手を交わす百春と虚に叫ぶ楯無、流れ弾を見事に食らった龍久につっこむ姫子と、百春陣営のピットは騒がしいことになっていた。

 

「しかし、モモが人をこれ呼ばわりするとは珍しい。何かあったかい?」

 

「………ナニモナイヨー」

 

「相変わらず嘘吐くの下手くそよね」

 

「ソンナコトナイヨー」

 

 明後日の方を向いて否定する百春だが、棒読み過ぎて嘘であると宣言しているようなものだった。さらに、それを確定させるかのように、声が響く。

 

『いいや! 心拍数並びに発汗量の増加! この情報(あじ)は嘘を吐いている情報(あじ)だ!』

 

「いや、味は分からないだろAIなんだから」

 

『その発言はAI差別だぞ! まぁ、分からないけど』

 

「「「「誰!?」」」」

 

 百春と会話する、ピットに響く女性の声に驚く一同。すると、

 

『誰だ、って顔をしてるというか聞かれたから自己紹介させてもらうけど、私はIS操縦者サポートAIのアリス! 主に射撃系のサポートをするけど基本的には全部サポートできるよ!』

 

 と百春の右肩にホログラムでデフォルメされたような人形姿の女の子が腰に手を当てて、ふふん、と自慢げに現れた。名前が示す通り、不思議の国のアリスのような格好をしている。

 

「これがAI………!? こっちの会話を認識した上での情報処理をして、滑らかに会話も出来てるし、既存の物より遥かに高性能よ!? ちょっとモモ、どこの誰よこんな代物用意したの! あんな反応してたんだし、どうせ知り合いなんでしょ! 教えなさい!」

 

「離せ揺らすな少しは黙れ!」

 

 ゆっさゆっさ、というよりかはブンブンと姫子に肩を掴まれた百春が揺らされる。仮に言おうとしてもこの状態ではまともに何も言えない。百春には微塵も言うつもりはないが。ちなみに肩にいたアリスは百春の頭の上に移動していて、おっとっと、とバランスを取ろうとしていた。ホログラムなのに器用である。

 

「落ち着いて姫子。そっちについてはいつでも聞ける。それよりもまずはモモと更識のたっちゃんに何があったかを問い詰めるべきだ」

 

「………それもそうね。こいつが嘘を吐くときは大抵やらかした時よね」

 

「けど、百春は滅多に口を滑らせない。こうして話していて意識させてしまったから尚更だ」

 

「でしたら、そこで赤面しているお嬢様に聞くのはいかがでしょうか。先程話題に出た際に赤面して俯かれておりましたし」

 

「「それで行こう」」

 

「え、ちょ、わ、私!? も、百春くんとは何もなかったわよ! ファーストコンタクトに失敗したとかそんなことはないわよ!」

 

「お嬢様………普段はもっと上手く流せるでしょうに」

 

「なるほど………モモとファーストコンタクトを失敗した結果、更識のたっちゃんにとって恥ずかしいことになったと」

 

「何も無いったら!」

 

(今のうちに………)

 

 普段なら受け流しているのに余程慌てているのか墓穴を掘っている楯無を龍久と姫子が問い詰め、その光景を眺めている虚達からこっそりと百春はこっそりと離れる。先程の試合で使用したエネルギーを補給しなければならないし、アリスに聞きたい事があったのだ。

 

「………これで補給はいいのか?」

 

『おけおけ。終わったらこっちで切り離しとかやっちゃうから放っておいていいよ』

 

 手のひらの上にいるアリスから説明を聞きながらラファールを補給装置に繋ぎ、エネルギー供給を始める。アリス曰く、そこまで減ってないから十数分で終わる、とのことで、話ができる時間はその時間だけだろう。

 

「さて、アリス。お前には色々聞きたいんだが」

 

『もちろん答えるよ! なんだったら開発者(マスター)の近況からスリーサイズまで何でも教えちゃうよ!』

 

「いや、お前の事だけが知りたいんだ」

 

『うわぁお………すっごい口説き文句………アリスちゃんが人間だったら落ちてたよ、間違いない。まだ、心臓がドキドキしてるもん』

 

「いや、心臓ないだろAIなんだから」

 

『その発言はAI差別だぞ! まぁ、無いんだけど』

 

 送られてきた箱に描かれていたロゴで誰が作って送ってきたかは百春には想像がついているし、アリスの言動も見た目も声もウサギさん(束さん)にとても似ている。アリスは明言を避けているが、開発者はそういうことだろう。

 

(どうせメールなり電話なり何かしら連絡がそのうち来るだろうし、今は必要じゃない。今はアリスについて知るべきだしな)

 

「まず、サポートAIの役割についてか? 主に射撃系のサポートをするらしいが、それだけでウサギさんがお前を送るとは思えないんだよな」

 

『うーん、その役割は方便みたいなものなんだよね。他人に知られた時用のカモフラージュかな? 他にも色々あるけど、第一はももくんのサポートなんだ。ISに乗っている時だけじゃなくて、私生活の方も』

 

「私生活?」

 

『そう! トレーニングメニューから勉学、夜のおかずまでも完全にサポートするよ!』

 

「………なるほど、夕食の献立を考えてくれるのは楽でいいな」

 

『そっちじゃないんだけどな~。ま、いいか』

 

 いきなり何を言ってるんだこのチビ助は、と百春は思ったが、触れるのは逆にまずいと受け流した。

 

『あとはももくん回りの警戒かな。最近ちょっと物騒でね~。当日入寮する事になったのもそれが原因なんだよ』

 

 入寮した翌日にモノレールに爆弾を仕掛けた人物が捕まった、とかネットニュースにあったなと百春は思い出した。その辺りが原因で、まだ終わってないのかもしれない。

 

「そういえば、さっきの試合の最後は何をしたんだ? 凄い加速をしたけどよ」

 

『あぁ、あれは簡単だよ。ISのPICを切ったの』

 

「………おい、それってISを浮かすためのシステムだよな?」

 

『簡単に言っちゃうとそうだね。んで、それを切ったから自重+重力+エトセトラで一気に加速したんだよ』

 

「おう、それ落下してるって言わねぇか?」

 

『言い換えればそうとも言えるね!』

 

「人を殺す気かこの馬鹿」

 

『ちゃんと地面ギリギリで戻したでしょ~? それに、いざという時は私が操縦したから無問題(もーまんたい)!』

 

 ブイッ、とピースサインを百春に向けるアリスに、それでもやりようがあっただろ、と百春はため息をつく。そして、ちょっとばかり腹いせにデコピンを放った。相手はホログラムなので当たりはしなかったが、アリスは当たったかのようによろけていた。

 

「………さて、アリス。次の試合についての真面目な話だが」

 

『ふんふん。あえてその話題を出す、ってことは何か私の力が必要なのかな? それとも、さっきの試合がももくんらしくない戦い方をしていたのと関係ある?』

 

「両方だな。次の試合での動き方なんだが………」

 

 

────────────────────

 

 

 第三試合開始間近となったアリーナ内で、先に到着していたセシリアは、対戦相手となる百春について考えていた。

 

(お兄さんは第二試合の内容から察するに、恐らく私と同じように狙撃するタイプ。ティアーズがいる私の方が有利ですわ)

 

 遠距離での命中率は低く、中距離くらいでそこそこの命中率。その上威力が高く、リボルバーのような弾倉からして連射が出来ず単発式。自身のティアーズのような武装も無い。はっきり言って自身の下位互換だろう。

 

(銃は上の銃口は通常の弾丸。はっきり見えませんでしたが、下の銃口は恐らくグレネードランチャーの役割なのでしょう)

 

 通常弾の方はいいとして、グレネードランチャーらしき方はチーム戦のような乱戦ならともかく、個人戦ではまともに当たるかも怪しい。その点、自身のティアーズにはミサイル型のビットがある。この点もまた下位互換。

 

(要素毎に見れば私の下位互換と言える装備。ですが、その装備で第二試合は無傷で勝利しています)

 

 第一試合で戦い方に慣れた一夏に対し、百春は常に優位に立ち回っていた。弟だから考え方が読めている、というのもあるかもしれないが、交わしていた会話からして恐らく策に嵌めたのだろう。それでも、相手がどう行動するか分かっていなければあの言葉は出ない。

 

 自身は零落白夜を受けるギリギリで一夏のエネルギー切れによって勝利を納めたが、百春はそれすらも使わせず圧倒した。このことからも、相手の行動を読むことに長けているのかもしれない。

 

(強いて警戒すべき点を上げるなら、お兄さんの懐に入り込んだ時、でしょうか)

 

 第二試合で一夏と鍔迫り合いになった際の対応力、あれは警戒するべきだろう。もし懐に入り込まねばならない状況になれば、先程の一夏と同じような運命を辿るかもしれない。まぁ、そもそも自分が距離を保てばいいのだし、遠距離での銃撃戦になるのだから、あまり関係は無いのだが。 

 

(私に対しても策を用いて戦いに来るのでしょう。ですが、その策に嵌まらなければいいだけのこと。………第一試合では素人に追い詰められる、などという結果。オルコット家を守るためにも、こんな所で苦戦して負けそうになっている場合ではないのです!)

 

 両親が事故で他界し、幼いながらもオルコット家を守ることにセシリアは尽力してきた。そんな中で掴み取った代表候補生の座。オルコット家を守るためにも、代表候補生であるためにもこんな所で負ける訳にはいかない。

 

 相手が策で来るならば、それを明かした上で敗北を叩きつけよう。それが、自分が男性操縦者にも負けない、という強さの証明になる。そうセシリアは気合を入れた。

 

 だが、セシリアは百春の策に既に嵌まっていることに気付くことは出来なかった。

 

 

────────────────────

 

 

『おう、待たせたな』

 

『まったくですわ。レディを待たせるなんて、これだから男は』

 

『………へぇ。レディだったのか。クラスメートとも仲良くする所か四方八方威嚇してるもんだから子猫(キティ)だと思ってたよ』

 

『何ですって………!』

 

 アリーナの中央で向かい合う百春とセシリア。百春のピットでモニターを見ていた4人が画面越しでも一触即発の空気が感じ取れるほどに、ピリピリとしていた。

 

「モモがかなりキレてるねぇ………よっぽどの事が起こらない限りあそこまでキレない筈なんだけど、更識のたっちゃんか布仏さん何か知ってるかい?」

 

「確か、授業中にすごく怒ってた、とか聞いたわよね虚ちゃん」

 

「はい。妹の本音の話によると、クラス代表を決める話し合いの中でオルコットさんが『あなた方の親はどんな教育をしてるのか』のような事を言って激怒したと────どうされましたかお2人とも」

 

 楯無と虚が織斑兄弟と同じクラスである本音の話を思い出しながら話していると、龍久と姫子の顔から血の気が引いていた。

 

「………龍久、まずくない?」

 

「………まずい。非常にまずい」

 

「? 何がまずいの?」

 

「モモに対して親の話題は完全NGだ。数少ない地雷と言ってもいい」

 

 龍久は中指でメガネのブリッジを押し上げているが、その指は携帯のマナーモードを彷彿とさせるほどに震えていた。

 

「百春くんってそんなに親と仲が悪いの?」

 

「惚けなくていいよ、更識のお嬢様。世界初の男性操縦者の兄だ。家庭環境くらい既に調べているんだろう?」

 

「! まさか、うちの事を知って………?」

 

「もちろん。うちぐらいの規模になれば耳に入るし、力も借りた事もあるからね」

 

 先程の態度が嘘かのように態度を戻した龍久が楯無に問い詰める。百春がいたならば、こういう切り替えができるのがタツの裁量が広い要因なんだろうな、と言っていただろう。先程やっていたファーストコンタクト云々の時と比べて、かなり真剣な表情を龍久は浮かべている。

 

「で、どうなんだい?」

 

「………えぇ。確かに知ってるわ。ご両親と一夏くんが交通事故にあった時に、ご両親を亡くして、一夏くんが幼少期のことを忘れてしまったことも」

 

「(なんだ、半分だけか。)僕らが言うのもなんだけど、子供は残酷だ。自分達と違うからって邪魔者扱いする。モモの場合は親がいない、という理由で周囲からかなり色々言われたらしい。けど、その事故で親を亡くした事とは別にもうひとつ色々言われる原因がある」

 

「もうひとつ? それも親の話題なの?」

 

「別に話してあげてもいいけど、こういうのは本人から聞くのが筋じゃないかい? これから仲良くやっていこうというのに、自分から関係に致命的なヒビを入れておくのかい? これだけは言っておくけど、もしモモに僕から聞いた事がバレたら、友人も何もない、完全に赤の他人として扱われるよ」

 

「それは………」

 

 龍久の言うことには一理ある。本人が話さない内容、それも触れられたくない内容を他者から聞いた、というのが本人に知れたら確実に関係に溝ができる。

 

 楯無個人としては聞かずにいたいが、日本の暗部たる更識家としては聞かずにはいられない。世界で2人目の男性操縦者についての情報は集めておいても損は無いからだ。だがそれでも、個人としての考えが暗部としての考えを邪魔していた。

 

「更識さん、あまり気にしないでいいわよ。龍久が自分が言わないで済むように言いくるめようとしているだけだし」

 

「姫子。それは言わないでよ」

 

「モモに黙って私ともう一人の生徒会メンバーにバラしたら、キレたモモから折檻食らったのが若干トラウマになってるからだし」

 

「だから言わないで、って」

 

「その上学校生活で頼りきりだったモモのフォローも無くなって、ごめんなさいとモモに土────」

 

「お願いしますやめてください僕にも男としての見栄とプライドというものがあるんです」

 

「………なんかごめんなさい」

 

 自分が葛藤している所でいきなり茶番が始まって、その空気でどうでもよくなった楯無だった。

 

「………すみません。話を戻しますが、結局、何がまずいのでしょうか。百春さんが地雷を踏み抜かれた、というのは分かりましたが」

 

 先程から黙って見ていた虚が話を戻す。

 

「あぁ………モモがその話題で馬鹿にされたら、大抵ロクなことにならない」

 

「………何があったの?」

 

「一番酷かったのはあれかな。とある運動部の部員の大半を病院送りにしたやつ」

 

「中学時代のやつだっけ? あれは部員の方が問題だったんでしょ? 実際モモにお咎めなしだったらしいし」

 

「高校の方も酷かったけどね。元生徒会長率いる不良共を一人で蹴散らしたし」

 

「蹴散らさせた、の間違いでしょ。あの時は病院送りにならない程度で済んでたけど」

 

 一番酷かったのは、と言うことはそれと比較できるほどに百春がキレた事が有る訳で。口が悪い時はあるが普段の態度からでは想像してなかった出来事に対して楯無は、

 

「………百春くんって、結構やんちゃしてたのね………」

 

「やんちゃで済ませるのもどうかと思いますお嬢様」

 

「ま、要するに、地雷を踏み抜いた彼女には、ロクな結末は待ってない訳だ」

 

 そんな4人が眺めているモニターの向こうでは、試合が始まろうとしていた。

 

 

────────────────────

 

 

「──これ以上の言葉は不要! どちらが上か思い知らせて差し上げますわ!」

 

 アリーナの中央で向かい合ってからずっと言葉を交わしていた二人。主にセシリアの言葉に対して百春が煽るという流れで、セシリアは怒りがピークに達しようとしていた。

 

「おう。最初からその小物を使って全力で来い」

 

「またティアーズを小物と! いいでしょう。そんなにお望みでしたら、私とブルーティアーズが奏でる円舞曲で踊っていただきますわ!」

 

 先程までの会話を終えて、互いに武器を構えて互いを狙い合う百春とセシリア。試合開始のブザーがなる前なのでビットをセシリアは展開していないが、始まった瞬間に展開できるよう集中しているように百春は見えた。

 

 当然、百春もただ試合が始まるのを待っている訳ではなかった。むしろピットを飛び出す前から準備を始めていた。

 

『アリス。調整は』

 

〈終わってるよ。ももくんが口喧嘩して時間稼いでくれたからね、もう余裕のよっちゃん〉

 

『誰だよよっちゃん』

 

 百春は秘匿回線でアリスの調整が終わった事を確認した。アリスが機能した時点で初期化・最適化が終わり、百春に合った調整がされていたが、この試合用にアリスに各部の調整を任せていた。

 

『じゃあ作戦通りに』

 

〈まかせんしゃーい!〉

 

 試合開始のブザーが鳴る。

 

「行きなさい──」

 

 ティアーズ、そう叫ぼうとしたセシリアは最後まで言うことが出来なかった。

 

『アリス!』

 

〈合点承知!〉

 

 百春が大型銃を構えたままとてつもない速度で突撃してきたからである。

 

 瞬時加速。高等技術であるそれを、素人の域を出ない百春はアリスに操作を委ねることで使用可能とした。更に、スラスターを前方への直線移動に特化させる調整をしたことで、一時的に第二世代機が第三世代機を上回る速度を手に入れた。

 

「ガッ………!?」

 

 腰だめに構えられていた大型銃の銃口がセシリアの腹部に突き刺さり、その勢いのまま後方へ押しやられていく。

 

(くっ………早く距離を取らないと………!)

 

 百春が腹部に銃口が強く押し当てて突撃しているため、上下左右には離脱不可能。一度後方へ下がって銃口と距離を取ってから離脱しようにも、スペックではティアーズが上回っているはずなのにラファールの方が何故か速く逃れられない。

 

 セシリアはその状態のまま何もできず、アリーナの壁に背中から激突した。

 

「ガハッ………!」

 

 壁に激突した衝撃で口から空気が漏れる。だが、ようやく止まった。この状態から距離を取るには自傷を覚悟するしか無いが、このまま男になすすべなく負けるよりはマシだった。

 

「ティアーズ!」

 

 セシリアはレーザー射撃型ではなく、ミサイル型のブルーティアーズを射出した。今なら零距離で相手に直撃できるが、爆発のダメージは自分にも来る。だが、その衝撃で相手は怯んで距離を取るはず。そうなれば自分が思い描いていた遠距離戦で勝つことができる。

 

 そう、思っていた。自身の腹部に突き付けられている筈の銃口が、少し離れた位置で青白く光っているのを見るまでは。

 

「え──」

 

 直後、ミサイル型のビットごとセシリアは爆風に飲み込まれた。

 

 

 

 

(………威力高過ぎだろ。オーバーキルにもほどがある)

 

 爆風が晴れ、龍撃砲の後が残る壁の前で、百春は放った龍撃砲の威力に絶句していた。壁に丸く焦げ跡が残り、中心部は軽く削れている。セシリアに当たった事を踏まえても、気軽に撃っていい威力ではない。

 

 アリス、と百春は問い詰めるように呼んだ。

 

〈いやぁ~、エネルギー充填120%! とかアニメであるじゃん? ついやっちゃった〉

 

『人殺しにする気かこの馬鹿』

 

〈大丈夫だって。防御諸々踏まえた一撃だし、エネルギー枯渇して落っこちるくらいだよ。それに完全に直撃とは行かなかったしね、結果オーライ〉

 

「ん? ………なるほど、流石は代表候補生。咄嗟に避けたか」

 

〈即死が瀕死になったくらいだけどね~〉

 

 アリスの言葉を元にISのハイパーセンサーでセシリアを探すと、ISを纏ったまま地面に倒れ起き上がろうとしている姿が確認できた。エネルギーはアリスの言う通り1割あるかないかほど。虫の息、と言ってもいいレベルだった。

 

(ぐっ………なんて威力………)

 

 セシリアは龍撃砲が放たれる寸前に、ほぼ無意識に回避行動をとっていた。銃口は上半身に狙いをつけていたので、少しでも離れるように地面に向かって瞬時加速を行っていた。少ししか避ける事はできず、爆風をもろに受け、着地というよりかは墜落するように地面に倒れた。

 

 代表候補生として訓練を積み重ねたお陰か、はたまた生存本能のようなもののお陰かは分からない。だが、結果として、セシリアのエネルギーは残っており、試合は終わっていなかった。

 

「………い、いつから………」

 

「ん?」

 

「一体、いつからこの策に私は嵌まって………?」

 

「いつから、ねぇ………初めから、かな?」

 

「初めから………?」

 

「おう。と言ってもそれだけじゃ分からねぇだろうからヒントを出そう。俺は、遠距離射撃型じゃない。近接格闘型だ」

 

「近接………まさか!?」

 

 セシリアの脳内に百春の言葉が甦る。

 

『剣を振るくらいなら銃を使う』

 

「先週から策を仕掛けてましたの!? 剣より銃を使うと!」

 

「先週………? あぁ、専用機の話があった日か。それもある。だが一番は今日の一夏戦だ。お前は代表候補生と言われるほどの実力者だ。あの試合から、情報がない俺の戦闘スタイルがお前と同じだと判断すると思ったよ。さて、時間稼ぎはもういいか?」

 

「ぐっ………」

 

 百春は弾鋼の照準をセシリアに合わせながら、ゆっくりと地面に降りていく。慢心か、余裕か。いずれにしてもセシリアにとってはまたとないチャンスであるが、残りのエネルギーで百春のエネルギーを削りきれるか、と問われたらかなり厳しい。

 

 百春や一夏のような一撃必殺があれば別だが、ブルーティアーズはどちらかというと手数で削るタイプ。龍撃砲で高火力のミサイル型のビットを失い、更には握っていたライフルも失っていた。あるのは通常のビットと近接ブレードのみ。敗色は濃厚だった。

 

(私が負ける………? 男に、何もできず………?)

 

 一夏との戦いでは最後がどうであれ、攻撃は当てられている。だが、この試合では何もできていない。文字通り、何も出来ていないのだ。ティアーズを展開することも、相手に回避行動を取らせることすらも。

 

「──それでも、こんな所で負ける訳には行かないのです! 私は守らなければいけないのです!」

 

 そう奮起し、ブレードを構えてビットを展開するセシリアを見た百春は、幼い頃のとあるやり取りを思い出した。

 

『──ねぇ。君は何でそんなに力を求めるの?』

 

『………強くならなきゃ、力がなきゃ、誰も助けられない、守れないんだ。だから──』

 

 過去の情けなかった自分を見ているようで、百春は我慢出来なかった。

 

「──歯ぁ食いしばれオルコット!」

 

〈ちょっ、ももくん!?〉

 

 弾鋼を収納し、右手を握り締めてセシリアに真っ正面から突撃していく。瞬時加速には届かないがそれでも十分に速い。

 

 小細工なしに正面から突撃してくる百春に対し、セシリアは自分の周囲に展開したティアーズで攻撃するが、百春は意に介さず突撃を続けている。

 

 ここで距離を取ってもエネルギー切れで負けるだけならば、と判断したセシリアはブレードでのカウンターを選択した。見え見えのテレフォンパンチの構えに対してカウンターを叩き込むのは、代表候補生として訓練を積んだセシリアにとっては容易だ。

 

 ただ、至近距離での百春の対応力をセシリアは失念していた。

 

 ドンピシャのタイミングでブレードを振り抜いたセシリアだが、手応えはなく、空を切った感覚だけだった。何故、と驚愕している間に百春は目の前にいた。

 

 百春はブレードの射程範囲外ギリギリで一時的に減速し、更には若干姿勢を反らすことで目の前でセシリアに空振らせた。

 

「気持ちだけじゃ何も守れはしねぇんだよ!」

 

 ブレードを振り抜き隙だらけになったセシリアに百春の右拳が振り抜かれた。

 

 ──試合終了のブザーが鳴る。アリーナのモニターには『WINNER 織斑百春』と表示されていた。

 

 

~おまけ~

 

 百春が一夏と戦い始める前のこと。

 

「さーて、百春くんの試合を………あら? 先客かしら」

 

「ん? そういうキミは?」

 

「(もしかしてこの子が………?)初めまして。この学園で生徒会長をしている更識楯無よ。気軽にたっちゃん、って呼んでね?」

 

「これはどうも。モモ………もとい百春が前にいた高校で生徒会長をしている龍宮龍久だ。たっちゃん、とでも呼んでくれ」

 

「よろしくね、たっちゃん」

 

「こちらこそよろしく、たっちゃん」

 

「「いや、どっちもたっちゃんでややこしい」」

 

 と姫子と虚がツッコミを入れたため、それぞれ更識のたっちゃん、龍宮のたっちゃんと呼び合うようになったそうな。

 

 




TOPICS:アリス
 百春のISにインストールされたサポートAI。IS戦闘はもちろん、日常生活までサポートすることを目的として篠ノ之束が作成した。言動・容姿・その他諸々は本人をベースにしているというかほぼそのままなので、本人と接するように百春は接している。一夏の白式改修に時間を取られ、大急ぎで作成されたにも関わらず、既存のAIを凌駕する性能を持っている。たまに本人が成り代わっているらしい。


はい、というわけで、一夏戦+セシリア戦でした。
いろんな方が戦闘描写難しい、と言っていたのが良く分かりました。

前後編に分けようかとも思ったのですが、いい加減にセシリア戦に入りたかったのでまとめてドーン。

結果、文字数がほぼ2話分となりました。ドウシテコウナッタ

セシリア戦ですが、元々百春としてはセシリアを殴り倒す、という考えがありました。龍久に装備発注を断られていたら、適当な企業に鉄血のグシオンのハンマーを発注する気でした。本文には欠片も出ませんでしたが、百春にハンマー搭載するのは面白そうだな………?

百春の過去についても少しずつ出していきます。組み込んだ結果前後の繋ぎがおかしくなってたりするかもしれませんが、見逃してください。文才が無いのです。

次回ですが、リアルが多忙になることが予想されるので今回より時間が空くかもしれないですが、気長にお待ちください。


百春のヒロインどうしよう

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