織斑一夏の兄が行く   作:ふくろう639

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お気に入り登録ありがとうございます。

アンケートにも投票していただいてありがとうございました。
結果は僅差で「増やそう」が勝ったので増やす方向で進めていこうと思います。

今回は本編ではなく、このキャラととりあえず関わらせておきたいな、とか
入れようと思ったけど入れるところが無かった小話集になります。

小話なので描写は軽めです。そのはずです。




 閑話 小話

~整備庫の住人~

 

 

 金曜日の放課後。俺は整備棟のIS整備庫で本とにらめっこしていた。

 

「ISの塗装ってどうやるんだ………?」

 

 というのも数日前、ISを受け取った際に山田先生から、

 

『せっかく百春くんの専用機になった訳ですし、自分好みに塗装してみたらどうですか? 私も手伝いますよ』 

 

 と言われて一理あったから、今日の放課後に予定を合わせてやる事にしたのは良かったが、クラス代表決定戦に向けての打ち合わせを急遽することになり、遅れるとの事だった。

 

 先に来て少しでも進めようかと思って、整備庫に来たらこれだ。塗料は持ってきたが、やり方が分からない。

 

「どうしたもんか………お?」

 

 整備庫の隅で打鉄らしきISの前に座り込んで作業している奴がいる。シリアルバーとかペットボトルとか、やけに周囲に生活感出てるが、住人か何かか? けどあの髪色は楯無だよな? 今日は生徒会で遅くなるとか言ってたような気がするが………いるなら聞いてみるか。

 

「おう、ちょっといいか?」

 

「………………私?」

 

 と振り向いたそいつは楯無じゃなかった。目付きが違うし、眼鏡をかけている。

 

「ん? 楯無の親戚か何かか?」

 

「………私は妹の簪。それで何」

 

 楯無の名前を出したからか、態度が目に見えて悪くなった。妹と仲悪いのかあいつ? まぁ、それよりも、

 

「あれの妹かぁ………せっかくだから聞きたい事があるんだがいいか?」

 

「何? お姉ちゃんについて聞きたいなら本人に聞いてよ」

 

「いや、あいつの周囲にいる奴に聞きたいんだよ。あいつは昔からああなのか?」

 

「………そうだよ。お姉ちゃんは昔から何でもできて──」

 

「いや、そうじゃなくて。昔から頭があれなのか? 残念なのか?」

 

「………え? 残念? お姉ちゃんが?」

 

 何やらポカンとした顔で更識妹は俺を見てくる。さっきまでの卑屈そうな空気がどこかに消えたぞ。

 

「残念というか頭の良い馬鹿というか………生徒会長やってるのにあれはどうなんだ、と」

 

「あのお姉ちゃんが………? ち、ちなみにどんな事があったの?」

 

 どんなこと、か。すぐ出てくるのはあれだな。初日に見事かは知らないが新婚3択をカウンターで返したのを根に持ってるのかなんなのか、俺が部屋に戻ったら何かしら仕掛けてくる事か。

 

 例えば、

 

『お帰りなさいダーリン!』

 

『………あぁ! 帰ったよハニー!』

 

『ブフッ! に、似合わないわねその台詞!』

 

『お前が振ったんだろうが悩んだ時間返せ』

 

 とか、

 

『お帰りなさいませ、旦那様』

 

『………あぁ、今帰った』

 

『夕食の準備は出来ておりますが、いかがいたしますか? メニューはカレーうどんのカレー抜きです』

 

『素うどんじゃねぇかせめて汁かけろ』

 

 とか、そんなやり取りか。後は………

 

『じゃあ先にシャワー浴びるわね。私の裸が見たくても覗いちゃダメよ?』

 

『誰が覗くか。覗くくらいなら「背中流そうか」って合法的に見るわ』

 

『えっ!? じ、じゃあ、その………お願いします』

 

『何で受け入れてんだ断れよ』

 

 とか、そんな感じか。

 

「………っていうことが一週間も経たずにあったわけだが、どう思う」

 

「何やってるのお姉ちゃん………」

 

 声色で実際にあったことと思えたのか、更識妹がとうとう頭を抱えた。楯無、お前の行動身内から見ても駄目そうだぞ。

 

「で、どうなんだ? あれは昔からか?」

 

「い、いや、小さい頃は普通だったよ。人をからかうようになったのは………あの頃かな」

 

「あの頃?」

 

「………家は家業を営んでて世襲制なんだけど、お父さんの具合が悪くて、お姉ちゃんが継いだの。その頃から家じゃ忙しいから一緒に遊ばなくなって………」

 

「あー、言いたくないなら言わなくていいぞ? そこまで聞こうとした訳ではないしな」

 

「………うん、ごめんね。変なこと言って。なんか話しやすくて、つい」

 

「おう、気にするな。俺で良かったら話ぐらいは聞くさ。で、本題なんだが、更識、ISの塗装のやり方って分かるか?」

 

 更識妹………もとい簪に教えてもらいながら塗装を始めた。名字呼びよりかは名前呼びの方がいいらしい。

 

 塗装の下地を塗りながら他愛ない話をしてたんだが、簪がやっていた作業の話になった。打鉄みたいなISについても聞けたんだが………

 

「一夏の方に技術者取られて打ち切りになったぁ?」

 

 思わずアホみたいな声が出た。いやだってなぁ。

 

 簪は日本代表候補生らしいが、その専用機の開発を倉持技研がやってたそうだ。それが男性操縦者の一夏が現れた事により、開発を凍結。それで開発途中のIS………打鉄弐式を簪が引き取って自分だけで開発しているとのこと。

 

「弟がすまん、と謝りたいが………悪いのは倉持だよな、これ。開発放り出すか普通?」

 

 契約とかどうなってんだ………? いや、あれか。依頼元が同じなのか。どうせ政府のIS関連の部署だろうけど、違約金出して一夏に専念する事に切り替えたのか? タツならその辺り予想できそうだが………

 

「しかし、簪、何で1人で開発してんだ? 1人でやる作業じゃないだろ」

 

「それは………………」

 

「あー、さっきの言いたくないことに繋がってるのか? なら言わなくても──」

 

「──ううん。ここまで話しちゃったし言うよ。話ぐらいは聞いてくれるんでしょ?」

 

「………分かった」

 

 一旦作業もやめるか。片手間に聞く内容じゃなさそうだ。

 

「ほら、飲み物」

 

「ありがとう」

 

 俺が飲み物を買ってくる間に用意してもらったパイプイスに座る。飲み物はコーヒーに限るな。

 

「………さっきの話の補足からなんだけど、よく私とお姉ちゃんって比べられてたんだ」

 

 ここだけならよくある話だ。俺も姉貴と比べられて剣の腕がどうとか、一夏も比べられて上2人に対してどうとか、周囲によく言われたもんだ。

 

「それで比べられる事に嫌になってた頃、お姉ちゃんが家業を継ぐ事になって、私も手伝おうとしたんだけど、お姉ちゃんに『あなたは無能なままでいなさい』って言われてね」

 

 は? 妹にそんな事言ったのかあいつは? ………折檻コース考えておくか。姉の癖に妹に何言ってんだ。

 

「すごくショックだった。部屋に閉じ籠もったりもした。あのお姉ちゃんにそんなこと言われるなんて、って」

 

「………………」

 

「しばらくしてお姉ちゃんが学園に入学して………気付けば自分1人で作った専用機を持ってた」

 

「自分1人で作った? 専用機を一から?」

 

「ロシアの第三世代機の設計書を元に作ったんだって」

 

「あぁ、そういうことか。一学生が1人で作り上げたら技術者顔負けだしな」

 

 それこそ束さん級の技術の持ち主だ。

 

「それで私が代表候補生になって、専用機の開発が中止になったとき、チャンスだと思った」

 

「チャンス?」

 

「お姉ちゃんは1人でISを作った。なら私も1人で作ればお姉ちゃんと同じくらいの技術があることになる」

 

「………………」

 

「お姉ちゃんがやり遂げたことを私もやって証明したいの。私は無能なんかじゃない、って。私だって役に立てる、って」

 

 簪はそう言うが、その表情は暗い。大分思い詰めてるな。出来ればどうにかしてやりたいが、ふーむ………

 

「………簪。話は変わるが、料理はできる方か?」

 

「り、料理? 人並みにはできるけど………」

 

「今ここにスパイスで作るカレーライスのレシピだけがあるとする。これを自分好みに作るにはどうする?」

 

「うーん、必要なものを買ったりして揃えて、野菜とかは手頃な大きさに切ってレシピに沿って作るかな。アレンジなら味見しながら調整したり………何かをトッピングするのもいいかも」

 

「俺もそう思う。じゃあ、レシピ無しでスパイスから作ろうとしたらどうだ?」

 

「スパイスの調合からやらなきゃ………いや、そもそもどうしたらカレーになるのか分からないから………長い時間をかけて試し続けるかな。そう考えるとレシピ無しで作るのってすごく難しいね。けど、これが関係あるの?」

 

「おう。これで話を戻すが、ISを設計書(レシピ)を元にして自分好みにするのと設計書(レシピ)関係なく自分好みにするのが同じ難易度だと思うか?」

 

「………思わ、ない。けど打鉄弐式だって設計書が──」

 

「それは完成までの手順が載ってるのか?」

 

「え………?」

 

「いいか。話を聞いた限りだと、楯無は完成品の設計書を元にして専用機を作った。対してお前は完成品の設計書無しで作ってる。この時点でもう、楯無が出来たから私も、って証明が出来ない訳だ」

 

 未完成品の設計書は使っているが、それはあくまでその時点での設計書。開発中の部分が書かれてるものそのままで動く訳がない。トライ&エラーが必須な時点で難易度は桁違いだ。

 

「そんな………じゃあ私は今まで何を………」

 

「何か勘違いしてないか?」

 

「え?」

 

「難易度はお前の方が上だぞ? 自分でも言ったろ? 設計書(レシピ)無しで作るのは難しいって」

 

「あっ」

 

「まぁ、打鉄をベースにしてるから多少は難易度は下がってるだろうがな。さっきの料理で例えるならポトフをカレーライスにしようとしてる感じか? だから今やってることは、楯無より出来る、って証明な訳だ。少しは気が楽になったか?」

 

「………うん。何でこんな事もできないの、とか思い詰めることは減りそう。お姉ちゃんより難しいことをやってる、って思えばこれまで以上に頑張れそう」

 

「頑張るのはいいが、やりすぎるなよ?」

 

「もちろん。それよりも………なんで例えが料理? 他にも例えがありそうだけど」

 

「………ちょっと、腹が空き始めてな………」

 

「フフッ。じゃあ早く終わらせないとね?」

 

 そうして再開した塗装している簪は、少し晴れやかな顔をしていた。

 

 

~おまけ~

 

 話が終わった後の塗装作業中。

 

「そういえば、ISの名前は変えないの? 変えるのは簡単だから変えてあげるよ?」

 

「俺はデフォルトネーム派だから変えないでいい。そのままでもかっこいいと思ってな。リヴァイブとか」

 

「………ふ、ふ、ふ、ふ、ふふふふ~」

 

「ふふ、ふ~ふ~、ふ~ふ~」

 

「分かるの!?」

 

「多少はな。2号ライダーならクローズが俺は好きだな」

 

「………バカ?」

 

「バカとは何だ。筋肉をつけろ筋肉を」

 

「~~~~~! 分かる人だ! じゃあじゃあこの前の──」

 

「あぁ、あの話か。あれは──」

 

「………百春くんお待たせしました、って楽しそうにお話ししてますね。お邪魔したら悪いですし、もう少ししてから来ますか」

 

 だが、山田先生がまた来るまで特撮談議は終わらず、作業が終わったのは大分後のことだった。

 

 

────────────────────

 

~よく似た誰か~

 

 

「ここにもチェーン店があって良かったな」

 

 買ったコーヒー豆をカバンにしながら店を後にする。姉貴が一旦家に帰ると言ってたから、ついでに俺のコーヒー器具一式を持ってきてくれ、と頼んだので道具の心配はない。

 

 学園の近くにある大型複合商業施設レゾナンス。楯無からこの場所を聞いて調べた所、よく使うコーヒーショップのチェーン店が入っていた。缶コーヒーもいいが、無性に淹れたてのコーヒーが飲みたくなったから買いに来た訳だ。翌日にクラス代表決定戦を控えてるし、気分転換にはちょうどいい。

 

 あと楯無に、顔が割れてるから軽く変装した方がいいかも、とアドバイスを貰ったから着いてすぐに伊達メガネを購入。そのお陰か普通にうろつく事ができたが、顔が割れてるから、って俺は犯罪者か何かか?

 

「豆買った、薬買った、つまみ買った。こんな所か」

 

 昼飯も済ませたし、と足を駅に向けようとしたところで声が聞こえてきた。

 

『どうお嬢さん! 芸能界に興味出てきたでしょ!?』

 

「興味ない」

 

 聞こえた方を見ると、噴水広場に座っているキャスケット帽を深くかぶった女の子に整った顔立ちの男が話しかけていた。会話の感じからしてスカウトか? このご時世でも女性に果敢に話しかけているのはすごいが………

 

『そんなこと言わないでさ、ほら、ちょっと向こうで詳しい話をしようよ!』

 

「人を待っている」

 

『それならその人が来るまででもいいからさ。ちょっと向こうで──』

 

 とその手を掴んで立たせようとする男。指された方向は確か駐車場………これ、スカウトはスカウトでも裏社会的なスカウトだな? 止めなきゃまずいな。

 

「人を待っている上に興味がないと言っている。さっさと失せろ」

 

『このガキ! 人が下手に出てれば付け上がりやがって! いいから来い!』

 

「──そこまでだ」

 

『いってぇ!』

 

 女の子を無理矢理引っ張り上げた男の手を掴んで捻り上げる。男が痛みで女の子から手を離したのを確認した後に手を離して、女の子を背で隠すように2人の間に立つ。

 

『何しやがんだ!』

 

「何、って連れを無理矢理連れていこうとしていたからな。止めるのは当然だろ?」

 

『連れぇ? こんなタイミングよくか? じゃあ聞くが、そのガキとどんな関係………っち、兄貴かよ』

 

「? どうでもいいが、ここに留まってていいのか?」

 

『そりゃどういう意味──』

 

『失礼、お客様』

 

 と男の後ろから声をかけたのは警備員。介入する前に一声かけておいて良かった。きな臭さを感じてここまで来てくれたようだな。

 

『未成年であろうお客様に対しての行動について、少しお話を聞かせていただいてよろしいですか? 確か先日も似たような事をしていたと思いますが』

 

『ちっ! 覚えておけよ!』

 

『逃がすか! 噴水広場担当から本部! 先月に確認した男が──』

 

 逃走した男を追いかけて警備員が去っていく。先月も、と言っていたし常習犯か。大捕物になりそうだな。

 

「さて、大丈夫か? あんな男に話しかけられるとは災難──」

 

 後ろにいる女の子に身体を向けると、男の手を捻り上げた時の影響か、深くかぶっていたキャスケット帽が落ちていてその顔がはっきりと確認できた。その顔立ちは………

 

「………………俺に似た、顔?」

 

 

 

 

「………苦い。そっちをよこせ」

 

「………おう」

 

 さっき豆を買った店はカフェスペースも設営されている。そこに女の子と戻って、エスプレッソとカフェラテを頼んだ訳だが、勧めたエスプレッソは苦かったらしく、カフェラテと交換して一口飲んだ所だ。

 

「………で、何でこんな状況になってるんだ?」

 

「外を見てみろ」

 

「外?」

 

 と促されて外を見てみると、反対側の店の陰からこっちを見ている男が2人。ふむ。

 

「さっきの男の仲間、って所か?」

 

「そうだろうな。狙いが私にしろお前にしろ少し待つべきだ。私の待ち合わせしている奴に連絡したから後10分くらいか」

 

「そうか。………なぁ、お前に聞きたい事があるんだが」

 

「お前、ではない。エム、とでも呼べ」

 

「………名字は宝生だったりするか?」

 

「しないが? 偽名に決まってるだろう」

 

「だよな。変な事を聞いた」

 

「まったくだ。詫びとしてこのチョコケーキを食わせろ」

 

「おう、頼め頼め。何ならカフェラテのお代わりも頼め」

 

「では遠慮なく。………で、お前は?」

 

「俺はまだ残ってるから大丈夫だ」

 

「そっちではない。名前だ名前。ここまでしてもらってお前呼びを続けるほど恥知らずではない」

 

「そっちか。そうだな………ドレッド、とでも呼んでくれ。ネットのアカウント名もそれだしな」

 

「ではドレッド。何か聞きたい事があるんだろう?」

 

 とチョコケーキを食べながら俺を見つめる目は、姉貴そっくりだ。行動は似ても似つかないが。分かりにくかったがチョコケーキが来たら目を輝かせたり、もっきゅもっきゅと頬張ってるとか、姉貴がこんなに可愛いわけがない。

 

「あぁ。………エム、お前は誰なんだ?」

 

「………………………」

 

「近い年代が他にも親戚にいるとは聞いたことがない。だが、親戚じゃないにしては似すぎてる。よく似た誰か、で済ませるのは無理だろう」

 

「………………………実際の所、分からない」

 

「分からない?」

 

「物心ついた時には今の大人の元だった。引き取られた、としか知らない。どこに住んでいたのかも、どんな家族がいたのかも分からない。ただ………」

 

「ただ?」

 

「………兄がいたらドレッドみたいな感じかと思っただけだ。気にするな」

 

 そう言うエムの表情はどこか寂しそうな顔をしていた。話が本当なら、エムの家族は引き取ったという大人だけ。親と言わない以上、線引きをしたままここまで来てるんだろう。

 

「………………」

 

「!? ………いきなり何をする!」

 

 思わず手を伸ばしてエムの頭を撫でた。帽子の上から撫でたから帽子の位置がずれたが、エムに弾かれるまで撫でていた。

 

 俺には姉貴と一夏がいたが、こいつにはいなかった。もしかしたら心から信頼できる人がいないのか、と思った時には既に手が伸びていた。

 

「エム」

 

「………何だ」

 

「あまり1人で抱え込むなよ。俺でよかったら話ぐらい聞くからな」

 

「………初対面のくせに兄貴ヅラをするな。まぁ、なんだ………覚えておく」

 

 確かに初対面の奴に対しての行動じゃなかったが、放っておけなかったから仕方ない。

 

 外の方が騒がしいと思って、ふと見ると男達がストレッチャーで運ばれている所だった。もしかして、エムの連れが何かしたのか?

 

「さて、外が片付いたみたいだし、俺は帰るとするがエムは?」

 

「ここにいることを連絡しているから、このままここにいる。カフェラテもケーキも残ってるしな」

 

「そうか。支払いはしとくからゆっくりしてけ。じゃ、またな」

 

 

 

 

「──お待たせ、M。まったく、人に荒事押し付けておいて自分はティータイムなんて良いご身分な事」

 

「今日はまだ下見のはずだ。騒ぎを大きくしかねないから連絡したと電話で伝えただろうスコール」

 

「確かに聞いたけどね………あら? 何か良いことでもあった?」

 

「………何もない」

 

「そう? ならいいわ。ここでこのまま報告を聞きましょうか」

 

「分かった。まずは──」

 

 

────────────────────

 

~百春のとある1日~

 

 

 世界初の男性操縦者である織斑一夏の兄、2人目の男性操縦者の織斑百春。今日はその1日を見ていこう。

 

 午前6時。目覚まし時計を使わずに起床する。目覚ましは寝過ごした時用にセットしているようだ。

 

 身支度を整えて冷蔵庫で冷えたコーヒーを飲んでからトレーニングの為に外へ。ランニングで寮の回りを一周走り、それが終われば筋トレを行い、終わればまた走る。それを一時間可能な限り繰り返す。

 

 午前7時。部屋に戻ってシャワーで汗を流し、脱衣所でそのまま制服に着替える。ネクタイをしっかり締めず緩めた状態にし、Yシャツの第一ボタンを外した格好が百春のスタイルだ。同居人の更識楯無も百春と入れ替わりで脱衣所で着替えている間に豆から淹れたコーヒーを飲んで朝食を取りに食堂へ。

 

『おはよう、兄貴、会長』

 

『あら一夏くんに箒ちゃん、おはよう』

 

 食堂で弟の一夏とその同居人の篠ノ之箒と合流して共に朝食を取る。最近、ここにセシリア・オルコットが増えた。

 

『織斑くん達、おはよ』

 

『おりむーに、おりむにーおはよー』

 

『おう、おはよう』

 

 教室に着けば、クラスメート達と挨拶を交わす。そしてホームルームが始まるまでは雑談をし、時間が近くなれば全員に席に着くよう促している。クラス代表は織斑くんだけどクラス委員長はお兄さんだよね、という意見は満場一致らしい。

 

 授業には至って真面目に取り組んでいる。といっても本人としては既に学んだ内容なので、どちらかというと復習の意味合いが強い。ノートを取るよりかは復習用の問題を作成しているのがほとんどだ。これらはいずれ来る定期試験で役に立つことだろう。

 

 昼食を終え、午後の授業が始まる。今回はISそのものやISが使用する装備の実際の重さを知り、整備をする際の注意事項等をグループ毎にまとめて発表する、という内容だった。

 

『おう、これがこのグループの分な。次はあっちか』

 

『あ、ありがとうございますお兄さん………』

 

『何で複数のグループ分を担いで配れるんだろうか………?』

 

『………兄貴なら生身で武器使えるって言われても信じるぞ俺』

 

 ………ISのパワーアシスト無しでは重いため、生身での扱いに注意しよう。そういった意図の授業だったが、そんなことに関係なくケロッとした顔で装備を運んでいる辺り、百春の規格外さが伺える。

 

 午後4時。今日の授業が終わった百春は校内を走り回っていた。トレーニングルームで器具を使った筋トレをしようとしていた百春が何故走り回っているのか。それは、

 

『ドォコ行ィキヤガッタァ、楯無ィ!』

 

 生徒会業務を放り出して逃げた楯無の捕獲である。しかし、百春は激昂し過ぎて捕獲どころか討伐しかねないテンションになっている。ロボット物なら拘束されていた口を開いて雄叫びをあげていただろうし、ヒーロー物なら目がトンガリ過ぎて垂直に近い角度になっているかもしれない。

 

 百春は一応理解のある人間である。家業の手伝いや用事などで業務を行えないのであれば、二つ返事で代わりに行うくらいには理解がある。だが今回は、

 

『今日はサボるわね、と言って会長が消えました』

 

 と帰りのホームルームが終わった直後に訪ねてきた会計に言われ沸点を突破した。疲れてるからサボる、昨日まで忙しかったからサボるなどは分かるが、サボりたいからサボるなど許しはしなかった。

 

『(やっと向こうに行ったわね。ここも早く出ま)』

 

ガシッ

 

『見ィツケタァ!』

 

 校内のどこかにある掃除ロッカーから悲鳴が響いたが、部活動の喧騒にかき消されて聞いた者はいなかった。

 

 午後11時。消灯時間も過ぎ、寝静まった夜だが、百春は起きていた。シャワーを浴び夕食を終えた後から、卓上ランプを点け、現在はIS関連の本を読んでいる。

 

『………………………ただいま』

 

『おう、おかえり』

 

『また起きてたの? この前も言ったけど、先に寝てていいのよ?』

 

『別に待ってるつもりはねぇよ。今日は本読んでて気付いたら楯無が帰ってきただけだ』

 

『今日は、ね。じゃあ、そういうことにしといてあげる』

 

『………これは独り言だが』

 

『?』

 

『帰ってきた時に誰もいないのは少し寂しいもんだ』

 

 この日は実に貴重な映像が撮れた。百春の貴重なツンデレシーン、これは当番組の偉業に刻まれ──

 

「──何やってんだ?」

 

 

 

 

 再生を終えた動画を閉じ、製作者に視線を向ける。そいつは正座をしてこちらを見上げていた。

 

『………って感じのドキュメンタリー風な動画を暇潰しに作ったので開発者(マスター)に送ろうとしてました、はい』

 

「パソコンが勝手に動いてると思ったら………ほい削除」

 

『あ──────! 人がせっかく作ったのに! この鬼! 悪魔! ちひろ!』

 

「誰だよちひろ。そしてお前は人じゃないだろアリス」

 

『その発言はAI差別だぞ! まぁ、人じゃないんだけど』

 

「それにプライバシーってものがあるんだからな。次やったらウサギさんからもらったこのお仕置きプログラム起動す──」

 

『絶対やりません! なのでそれだけはどうか!』

 

「ホログラムだけど、小さな人形が土下座してる光景ってシュールよね………」

 

「何を作ったんだウサギさん………」

 




TOPICS:お仕置きプログラム
 アリスが勝手にISの名前を変えたことを百春から苦情として連絡された束が作成したAIをお仕置きする名前の通りなプログラム。3つのモードがあり、今は『くすぐり地獄』だけ開放されている。実行した場合、AIを仮想空間上にて人型に固定して人間がくすぐられた際の電気信号を元に作成したデータを強制アップロードしてAIを狂わせる上、更なるお仕置きがアンロックされる模様。


というわけで小話回でした。やけに百春が年下に甘かった気がするけど・・・なんでやろな?
なお、エムに対しての方が甘いです。シスコンか?(迷推理)

簪のエピソードがうろ覚えで原作と違うかもしれませんが、違ってたら独自設定ってことでここはひとつオナシャス。
出会って早々話しすぎとも思いましたが、しばらく登場する予定が見当たらないので凝縮しました。姉妹として過ごせてなかった頃に面倒見の良い兄の登場。色々話しても仕方ないね。

そして百春に似ているエムと名乗る少女・・・イッタイナニモノナンダー
ちなみに百春のアカウント名は以下のような感じで龍久が考えました。
デフォルト派だから名前考える画面で小一時間かかる人だからね。しょうがないね。
 百春→百→ハンドレッド→ハンドルネーム ドレッド

あと、しれっと出される百春の身体能力・・・
百春の身体能力は千冬と同等または少し上を想定してます。
比較するとこんな感じ。

     身体能力 剣の腕
  千冬   S    S
  百春   S    D
  一夏   B    A


では次回も気長にお待ちください。
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