今までの投稿速度から考えるとおかしな速さでの投稿です。
まぁ、今回の話を途中まで書いてから小話を書いたのでこの速度なんですよね。
~一夏視点~
祝勝会から一夜明けて、ホームルームが始まる前の時間だけど、話題はもっぱらクラス対抗戦の事だった。
『うちのクラスの代表が織斑くんに決まって良かったねー』
『男性操縦者だし、専用機も持ってるし。お兄さんでも良かったけど、専用機があると箔っていうの? それが違うよね』
『けど、お兄さん専用機持ち2人に勝ったじゃん。勝ちに行くんならお兄さんの方が良かったんじゃない?』
『それはあれよ。「仮にお前が負けようとも俺がいる! 後の事は気にするな!」みたいな』
『いや、対抗戦は1人しか出れないんだから負けても何も無いんだけど?』
今月末に控えたクラス対抗戦について色々話してるけど、俺って信頼されてるのかどうなのか………
「まったく………一夏が代表になったのだから素直に応援すれば良いのだ」
「えぇ、その通りですわ」
「箒、セシリア………」
「「学食デザート半年間フリーパスのために!」」
確かにクラス対抗戦で優勝したら貰えるけどさ………こんなに俺とクラスの皆で意識の差があるなんて思わなかった。こんなんじゃ俺、勝ちたくなくなっちまうよ。
「はぁ………………」
「む? 一夏、こんなのは冗談に決まっているだろう。なぁ、セシリア」
「え!? え、えぇ、そうですわね………」
そう言ってくれるのはルームメートの箒。セシリアもその言葉に同意してくれる。ちょっと反応が怪しかったけど。
………あぁ、うん。そうなんだ。俺のルームメートは箒だった。知ってるやつで助かったけど、兄貴が山田先生を連れていくように行ってくれなかったらどうなってたか。
寮の部屋に着いて山田先生に説明をしてもらおうとしたら、ちょうどシャワーを浴び終わって身体を拭いている所だったみたいで、ギリギリセーフだった。
次の日に兄貴にその事を話したら、
『おう、危なかったな。先生がいなかったら木刀でも飛んで来たんじゃねぇか?』
と笑っていたけど、洒落にならないぜ兄貴。この間、下着姿の箒に遭遇して実際に飛んできたんだ。
「どんな勝負でも負ける訳にはいかないだろう。例えどのような相手でもな」
「それもそうだな。どんな相手が来るか分からないし、むしろ気合入れないと」
「それにしても、皆さん浮かれてません? 対戦相手がどのような方か分からないのに、まるで勝つことが決まっているかのような………?」
そう言われてみると、確かに浮かれてるように思える。耳を澄ませてみるとあれ食べようこれ食べようとか、勝った後の事を話してるな。
と3人揃って首を傾げていると、
『ん? あぁ、そういえば織斑くん達にはまだ言ってなかったね』
「何をだ?」
『調べた所によると、専用機を持ってるのは1組と4組だけなんだって』
『しかも4組は専用機の調整が間に合うか分からないらしい』
『だから、クラス対抗戦は1組が貰ったも同然な訳よ!』
「ちなみにわたしも調べたよ~」
いつも兄貴に馬鹿と言われてる4人とお菓子を食べてるのほほんさんが教えてくれた。
「その情報、古いよ」
と、教室の入口から聞き覚えのある声が聞こえた。そっちに顔を向けると、
「2組の代表は専用機持ちに変わったのよ。中国代表候補生である、このあたしにね」
見覚えのある顔とツインテール、そして声。もしかして、
「鈴………? お前鈴か?」
「えぇ、そうよ。凰鈴音。日本に帰ってきたわ」
「何で格好つけたんだ? 似合わないぞ?」
「それ今言うこと!? 感動の再会なんだから他に言うことあるでしょ!?」
いや、だって、似合ってなかったし………
「所で………もも兄は? 違うクラス?」
『桃煮?』
「『い』が抜けたわよ」
『芋煮?』
「そう醤油で味付けしたお芋が………って違う。『い』の位置も違う」
『この組み合わせ………見事に味が調和している!』
「それはハーモニー!」
『嘘だと言ってよ!』
「バーニィ!」
「それは、って人の台詞を取るな一夏!」
「悪い悪い。兄貴ならこのクラスだから、そろそろ来ると思うぞ」
生徒会室に顔出してから来るって言ってたし、もうそろそろホームルームも始まるしな。ってすると、千冬姉もそろそろ来るな。
「けど鈴、兄貴を待つのはいいけど、早く戻らないと千冬姉が来るぞ」
「うっ、千冬さんか………さすがに早々に魔王に怒られたくないわね………」
「誰が魔王なんだ?」
「誰って、千冬さんともも兄よ。あの2人が怒ってる時は後ろに悪魔が見えるじゃない」
「「ほう」」
気付けばクラス全員が鈴に合掌していた。さっきから入口に立ってこっちを見て話してたから、教室に入ろうと後ろに立っていた人物に気付いてなかったのが運の尽きだったんだろう。
鈴の両肩にそれぞれ手を置いた人物を見ようと、ギギギと油のきれたロボットのように鈴が振り向いた。
「も、もしかして………………!?」
「教室の入口で何を話してるかと思えば………先生に向かって随分な言い様だな? 凰」
「おう、鈴。久しぶりに会った所で悪いが、ちょぉっと廊下で話そうぜ?」
いつも通りの表情の千冬姉と笑っているけど目が笑ってない兄貴が鈴の後ろに立っていた。
「い、いや、ホームルームが始まるから戻らないと………」
「大丈夫だ。織斑先生もいるからすぐに済む」
「あぁ。という訳で山田先生、先にホームルームを始めていて下さい」
「は、はい!」
「いや、あの………」
「「いいから来い。返事は、はい or Yesだ」」
恐る恐る中に入る山田先生と入れ替わりに、2人に肩を捕まれて外に引きずられる鈴。
ピシャンと無慈悲に教室の扉が閉まる。そして、
『ギニャァァァァァアアアアッ!』
廊下から叫び声が響いたのだった。
「待ってたわよ一夏!」
昼飯を食おうと一夏・箒・セシリアと食堂に来たら、鈴が受け取り口の前に待ち構えていた。ちなみに俺の今日の昼飯は今朝鈴を見て中華が食べたくなったから中華にした。
「いや、そこに立たれると食券出せないんだけど」
「それは悪かったけど、他に言うことあるでしょ!?」
「おう、落ち着け鈴。話すなら飯食いながらの方がいいだろ。お前の飯代わりに受け取っといてやるから席確保しといてくれ」
「ぐっ、確かに………じゃあもも兄、お願いね」
と俺に食券を渡した鈴は空いてる席を探しにいった。
「2人とも聞きたい事はあると思うが、抑えろよ?」
「い、言われずとも分かっている」
「授業中の二の舞になりたくありませんし………」
この2人、一夏と鈴の関係を授業中に授業が聞こえないほど考え込んだり、合間の休憩時間に問い詰めようと騒いだりした結果、姉貴の出席簿が炸裂していたりする。一途と言うべきか盲目と言うべきか………
「これ、お前のラーメンな」
「ありがと。ってもも兄もラーメン? 相変わらずよく食べるわね」
「お前の顔を見たら食べたくなってな。別に量は普通だと思うんだが」
「いや、食べ過ぎでしょ。女の子に喧嘩売るくらい」
鈴が確保したテーブルに4人揃って着いたらそんな事を言われた。そんなに多いか? ラーメン大盛、チャーハン大盛、餃子2人前って。
「女子でもいけるだろ。箒ならいけないか?」
「大盛じゃなければいけるかもしれないが………それでもかなりキツいだろうな」
「あたしもそれくらいね」
「私は無理ですわね。そんなに食べられる方ではありませんし」
「俺でも無理だぞ兄貴」
と雑談をしながら飯を食べる。意外と自己紹介しなくても他愛ない会話ならできるもんだ。全員腹減ってたみたいだしな。
「さて、そろそろ話してもらおうか一夏」
「? 何を?」
「先程から普通に話していたが、この凰との関係についてだ!」
「も、もしかしてお付き合いされているとかありませんよね!?」
「そ、そう見えちゃう? いや~、あたしと一夏は──」
「付き合ってないぞ。幼馴染みだ」
このタイミングで既成事実を作ろうとした鈴だが、一夏にしれっと否定された。一夏の言葉の前後での表情の変わりようがすごいな。
「何を言っている! お前の幼馴染みは私だろう!」
「小4で箒が引っ越したのと入れ替わりで来たからなぁ。中2で鈴が引っ越すまでだから、付き合いは同じくらいか? 言うなれば箒がファースト幼馴染みで鈴がセカンド幼馴染みだな!」
あはは、と一夏は笑っているが周囲を見てくれ。箒と鈴が睨み合って背後に龍と虎が見えてるんだぞ。「そんな第一夫人、第二夫人みたいな言い方するんじゃねぇよ」火に油どころかガソリン注ぎやがって。
「どうも。第一夫………ファースト幼馴染みの篠ノ之箒だ」
「どうも前妻さん。セカンド幼馴染みの凰鈴音よ」
「「よろしく」」
ガッシリと握り合う2人だが、各々全力で握ってるな。背後の龍と虎が殺意の波動に目覚めそうだ。そして一夏、仲良いなー、とか言いたげに見てるんじゃない。
「でしたら私もご挨拶を! 私は──」
「あんたどっかで見たことあるのよね………ちょっと待って思い出すから」
「………なんでしょう。先週にも似たような事があったような」
「──あぁ! 思い出した! イギリスファッションモデルのセシリア・ウェストコート!」
「そう! イギリスのファッショ──って違いますわ! イギリス代表候補生のセシリア・オルコットです! 誰が西海岸ですか誰が! しかもお兄さんと同じような間違い方をして!」
「え? あんたも代表候補生だったの? 他の候補生に興味無かったから知らなかったわ」
ぐぬぬ………、とセシリアが怒りをこらえている。煽り返さないだけ成長したな。
「そういえば1組の代表ってどっち? もも兄?」
「一夏だ。経験を積ませたくてな」
「ふーん、一夏かぁ………ねぇ、あたしが鍛えてあげようか?」
やめろ鈴。好意か善意か分からんが、その話題を出すな。
「え? 鈴が教え──」
「「私が教えるから(ので)結構だ(です)!」」
………ほらこうなった。
実は一夏に誰が教えるかは祝勝会の時に話題に上がっていた。
『一夏には私が教える!』
『いえ、私が教えますわ! 接近戦が及第点ならば、銃に対しての立ち回りをまずは教えるべきです!』
『いいや違う! まずは接近戦を鍛え上げるべきだ! 接近戦を極めてから立ち回りを教えることで自然と戦い方が身に付いてくる! そもそも一夏に平行して覚えさせるなど無理がある!』
『くっ………一理ありますわね。でもそれとこれとは別ですわ!』
『何で俺バカにされてんの?』
『おう、お前ら。そこまで喧嘩するなら俺がしばらく一夏の訓練をやる。いいな?』
『『横暴だ(ですわ)!』』
『い い な ?』
『『………………はい』』
とまぁ、こんなやり取りがあって、俺がしばらく相手することになった。その後も2人がごねて来たから訓練時の相手をさせる、ってことで納得させたんだがな………
「いや、あたしが教えるわよ。一夏に教えるんなら同じ専用機持ちの方が良いだろうし」
「ぐっ」
「同じ専用機持ちでも戦い方が近い方がいいだろうしね?」
「くぅっ」
「見事なカウンターで返した所悪いが、俺が鍛えるんだよ鈴」
「もも兄が?」
「おう。それに対戦相手に手の内晒したくないからな。1組として勝ちに行かせてもらう」
「それもそうね。なら2組代表として迎え撃たせてもらうわ」
互いに不敵な笑みを浮かべながら握手を交わす。試合当日が楽しみだ。
「………これ、普通なら一夏さんがやる所なのでは?」
「………シッ。静かにするんだセシリア」
「………やっぱ兄貴が代表の方が良かったんじゃ?」
「おう、聞こえてるぞ3人とも」
「締まらないわねー」
「と、いうわけでお待ちかねの訓練の時間だ」
「何をやるんだ?」
放課後のアリーナ。ISを展開して俺達は立ち話をしている。箒は申請して借りられた打鉄だ。
「その前に方針からだな。代表戦まで打倒鈴を目的に訓練をする」
「それは別に構いませんが、4組にいるという専用機持ちの方はいかがいたしますか? 調整が間に合うか分からない、と聞いておりますが蔑ろにするのはまずいかと」
「そっちは本人に確認取った。クラス代表じゃないらしいから問題ない」
「? その方はお知り合いで?」
「先週ちょっとな。だから鈴を目的にする。問題ないか?」
3人とも首を縦に振ってくれる。じゃあ次だ。
「で、鈴だが戦法の目星がついた。遠距離武器は使うだろうが、基本的には一夏と同じ近接型だろうな」
「それも聞いたのか?」
「いや、昼飯の時に本人が溢してただろ? 『同じ専用機持ちでも戦い方が近い方がいいだろうし』ってな。一夏と戦い方が近いって事は近距離もしくは中距離って所だ」
「待ってくれ百春さん。それなら何故鈴は一夏が近接型だと知っていたんだ?」
「一夏が剣道やってたのは知ってるし、クラスメートから男性操縦者の情報として聞いててもおかしくないだろうな」
「それってつまり、鈴に俺の武器が剣しかないってバレてるのか………?」
「むしろ全校生徒に広まってるだろうよ。俺含め、男性操縦者だから絶好の話の種だ。知らない奴はいないと思った方がいい」
黛の新聞にもそう書かれていたしな。
「………兄貴、俺に勝ち筋ある?」
「ある。零落白夜だ」
「! そっか、あれなら!」
不安げに聞いてきた一夏だが、俺の言葉を聞いて持ち直した。一撃必殺と言っていい零落白夜を当てれば勝てる。逆に言えば当てないと勝てない訳だが、黙っておこう。
「だから、徹底的に立ち回りを鍛える。具体的には銃を持った相手の懐に入る操縦だな」
「でしたら!」
「あぁ。セシリアを主な相手として訓練する、が箒も一緒に相手してもらう。ISに慣れていないとはいえ、剣の腕は有数だからな」
「くっ、マンツーマンではないが仕方ない」
「ん? でも兄貴、2人同時にってどうするんだ?」
「とりあえずやってみるか。ポジション教えるぞ」
箒をアリーナの中央上空に配置して、一夏を同じくらいの高さで壁際に配置する。俺とセシリアはというと、地上の壁際に邪魔にならないように立っていた。
「私がメインでは!?」
「メインだぞ? セシリアの役割が重要と言っていい」
「はぁ………? それで、私は何を?」
「箒の所までティアーズを飛ばしてくれ。ミサイルは無しで………そうだな、箒を縦に囲う感じで」
渋々といった感じでセシリアはティアーズを箒の所まで飛ばす。………よし。
「箒、アサルトライフルを展開しておいてくれ」
「分かった」
この訓練の概要はこうだ。
一夏には箒とティアーズによる弾幕を避けつつ、箒の懐に入って剣を振ってもらう。ただし、剣を展開するのは攻撃する時のみだ。ティアーズの弾幕を零落白夜でかき消されても訓練にならないし、剣を盾にして弾を防がれても意味がない。あくまで避ける練習だからな。
攻撃する時のみ剣を展開するのも意味がある。零落白夜はエネルギーを凄く消費するみたいだからな。ピンポイントで発動するようにしなきゃいけない。かといって訓練で使おうもんならエネルギーが無くなって補給が必要になるから、剣の展開でタイミングを覚えようという訳だ。
また、ISに慣れていない箒はアサルトライフルでの銃撃の練習。セシリアはティアーズを動かしながら苦手だというブレードの展開の練習。こうすることで全員が訓練できる訳だ。
「良い案だろ? 俺は訓練できないが」
「「「ダメな案では?」」」
「俺はこの後生徒会業務やらなきゃいけねぇんだよ………そろそろ楯無が脱走しかねないらしいからな」
で、さっそく始めた訳だが、
「おう、お前ら。弾幕薄いぞ何やってんだ。箒、扱いはいいが、リロードないしはもう一丁の展開が遅い。セシリア、狙いをつけて撃とうとするな。今は正確性より弾幕だ。数撃て数」
「くっ………! 一夏め、ちょこまかと!」
「箒、一夏が今いる場所を狙っても当たらない。少し先を狙え」
「数撃つにもある程度の狙いはつける必要がありましてよ! ここからじゃ狙いにくいですわ! 箒さんの所まで行ってはいけませんの!?」
「箒の邪魔になるから駄目だ。それとセシリア、ブレードの展開がお粗末になってる」
「兄貴、全然近付けないんだけど!? おわっ!」
「それを近づくための訓練なんだよ一夏。上手く立ち回ってみせろ」
箒の周囲をグルグルと回りながら接近しようとする一夏を箒とティアーズの弾幕が阻止しようとする。やっぱ実戦に勝る経験は無いな。
段々と慣れてきたのか、一夏が迫ろうとして離れてを繰り返し始めた。箒も狙いの付け方を分かってきたみたいだし、セシリアも自分も当てにいくと一夏が迫りやすくなるのが分かってきたのか邪魔するように撃ち始めた。一夏の立ち回りを鍛える意味ではティアーズの弾幕が重要だ。だからセシリアがメインなんだよな。
これなら問題も起きなさそうだと、一声かけてから俺はアリーナを後にした。
「けど、この問題は予想外なんだよな………」
結局夜までかかっても終わらなかった業務は貯めた張本人である楯無に擦り付け、先に寮に戻ってきた訳なんだが………
「ぐすっ………ひっく………………うぅ」
何でロビーで鈴が泣いているんだ………?
うーむ、足元にボストンバッグがあるから、ルームメートと反りが合わなかったのか? 数日前に寮に入ったんだろうが、日数が経って譲れない部分がぶつかり合ったとか………ありそうだな。
「おう、どうした鈴」
「………………ももにぃ………?」
「ボストンバッグ持ってこんなとこで何してんだ? 喧嘩でもしたか?」
「………放っておいて」
「そうか、じゃあ俺はこれで………って行くわけねぇだろ。放っておいて良い奴と駄目な奴の区別くらいつくわ」
「………………う」
「う?」
「うううぅぅぅぅ、ももにぃぃぃいい………」
「ちょっ、まっ、ぐふっ!」
屈んで目線を合わせたのがまずかったか。首に腕を回されて鈴に引き寄せられた。鈴が座ってる椅子の背もたれに当たった額が痛いがそれどころじゃない!
「一夏が、一夏がぁぁぁあああ………」
「分かった! 分かったから! 抱き付くなとは言わないから腕を首に回すな首を絞めるな! せめて脇の下に通せ!」
カヒュッ、コヒュッ、ヒュー、ヒュー、と鈴に飛び付かれた影響で呼吸が思いっきり乱れるが何とか腕を移動させる事に成功する。短時間だから良かったが、もう少し経ってたらヤバかった。
ついでに位置も変えて俺が座って鈴を抱き締める形に。背中をポンポンと叩いてやりながら落ち着くのを待つ。夜も遅いからいいが、誰か通りかかったらヤバイな。アリスにセンサー頼んどこう。
「………落ち着いたか?」
「………うん。ありがと、もも兄」
「泣き虫は治ったと思ったんだがなぁ」
「『俺の胸で良かったらいつでも貸すぞ』って言ったのはどこの誰だっけ?」
「小6から借りてない奴が今さら借りるとは思わないだろ」
小学生の頃に鈴が越してきてから、こういうことは良くあった。日本語に慣れてないから片言で、中国人ってのもあったのか、鈴がいじめられる事がよくあった。俺と一夏が鈴と初めてあったのも公園でいじめられてる所だったしな。
学校ではいじめられても一夏とその友人達が助けてたみたいだが、いじめられた、っていう事が辛かったらしい。何度もあればその分辛さが溜まっていく。かといって、ただでさえ助けてくれている一夏達には言えず、親にも心配かけたくないから言えない状態で1人で泣いて所で俺が現れた。
最初は一夏の兄ってことで話すのを躊躇ってたみたいだが、ポツポツと口に出してくれるようになって、終いには思いっきり泣き出した。そこから我慢できなくなったときは胸を貸すようになったんだっけか。
「で、今日はどうした? ルームメートと喧嘩したか?」
「………その前にもも兄。空港で見送ってくれた時の事って覚えてる?」
「お前が中国に帰るときのか? ざっくりと覚えてるが………」
「その時、あたしが一夏に何を言ったかは?」
「一夏に? ………酢豚がどうとか言ってたやつか?」
「それそれ」
「確か………『酢豚を毎日食べてくれる?』みたいな感じだったよな? 味噌汁の酢豚版みたいな」
「そう! あたしがその時勇気出して言ったのに、さっき一夏に覚えてるか聞いたら何て言ったと思う? 『毎日酢豚をおごってくれる』よ!? 間違って覚えてるのに何が『自分の記憶力も捨てたもんじゃないな』よ! 思わず頬を叩いてあたしを追いかけてこようとした一夏に『放っておいて』って言ったら本当に放っておくし!」
「揺らすな揺らすな」
あー、じゃあ鈴の性格からして、一夏のルームメートが箒だって知って、箒に代わってもらいに行って、一夏がボケた感じか。で、自分の大切な約束を一夏が覚えてなかったことに悲しくなって叩いてここに来たと。
その時の怒りを思い出したのか、俺の膝の上で騒ぎながら胸ぐらを掴んで揺すってくる。昔は大人しく溢してたのに随分と変わったもんだ。
「ちょっと聞いてるのもも兄!」
(こりゃ、長引きそうだな)
アリスから、誰かが通りがかりそう、と言われるまで俺は鈴の愚痴を聞き続けた。
というわけで鈴の登場でした。
近所に住んでいる年上の人をお兄さんお姉さんと呼ぶことがありますよね?
そんな感じのポジションに鈴を置いてみました。箒は名前呼びですし。
兄として慕ってるけど距離感がおかしいのも考えたんですが
似たような距離感を予定しているのが他にいますので無しとなりました。
ではでは、次回も気長にお待ちください。