織斑一夏の兄が行く   作:ふくろう639

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気づけばUAが10000を超えていました!
お気に入り登録も150を超えてますし、いざ突破してみると嬉しいもんですね!

今回は、
ラブコメ書いてみたいなぁ→なら不良を絡ませればいいな、王道!→相手をクズにすれば百春も怒って失言していい感じになるやろ!
という考えのもと書いていたような気がします。


第8話 買い出し?と再会と

『百春くんお願い! ちょっと付き合って!』

 

 と楯無に両手を合わせて頭を下げてお願いされ、週末にやって来たのは複合商業施設レゾナンス。何でこんな所に来たのかというと、とうとう楯無がやらかした。

 

『………という訳なんだけど』

 

『正座』

 

『いやあのこれ』

 

『正座』

 

『足つぼマットだけどあれよね? 石畳持たせる拷問よね?』

 

『正座』

 

『確かに私が悪いんだけど、それにしても限度ってものが──』

 

『虚さん、熱した鉄板に土下座させる準備を──』

 

『喜んで正座させていただきます』

 

『よろしい。じゃあ虚さん、抱えさせる物の準備を』

 

『了解いたしました』

 

『どっちが会長で主人なのか分からないね~?』

 

『本音ちゃんお菓子食べてないで助けて! 虚ちゃんも私の付き人でしょ!?』

 

『お嬢様の自業自得です。百春さんが何度も警告していたのにも関わらず、部活動の備品申請を処理し忘れて買い出しに行くはめにしたのですから』

 

『百春くんもそんなに怒らないで? ね? 何か背後に半透明の悪魔みたいなのが見えてるわよ?』

 

『………………よいしょっと』

 

『3枚!? いきなり石畳3枚!?』

 

『俺は悪魔だ魔王だ赤鬼だと呼ばれるのは嫌いでな。それで、何か言い残すことは?』

 

『………百春くんって実はスタンド使い?』

 

『エコーズ 3 FREEZE!』

 

『アッ──────!』

 

 といった一幕があった。その日は3枚まとめて石畳を落とした影響で楯無の脚が使い物にならなくなったから、抱えて寮まで帰ったよ。お米様抱っこでな。

 

「ごめんなさーい、待った?」

 

「おう、待たされた」

 

「いや、そこは嘘でも『いいや、今来た所だ』とか言う所じゃない?」

 

「あのなぁ、お前が原因で買い出しに行くはめになってお前に頼まれて荷物持ちに来たんだぞ? これがお前とのデートならまだしも」

 

「………じ、じゃあデートに切り替える?」

 

「本来の目的を思い出せこの馬鹿。また石畳持ちたいか」

 

「つまり、後で石畳を持てば今デートしてくれる………?」

 

「おう、石畳を持つことを前向きに考えるじゃねぇよ。というかお前、この買い出しをデートって捉えてるんじゃねぇだろうな?」

 

「………………………」

 

「こっちを見ろ」

 

 通りで『現地で合流しましょう』とか言って俺を部屋から先に出すし、部屋で見たことある服装だが気合いの入った化粧してる訳だ。そもそも何故俺なんかとデートがしたいのか、これが分からない。この約1ヶ月、楯無には警告と称した折檻しかした覚えがないぞ。

 

 ちなみに、お仕置きセットは生徒会室に常設されることになった。設置に反対してたのは楯無だけだったりする。賛成は俺と虚さんで書記の本音は無投票だ。

 

「で、買う店は分かってるんだろうな? 夕方にはタツが追加装備持ってくるらしいから戻らなきゃいけないんだが」

 

「それは勿論。最初はあそこのお店。お昼を食べて帰れる予定よ」

 

「じゃあさっさと行くか」

 

 楯無に背を向けて歩き出すと、お節介な奴(アリス)が声をあげた。

 

〈いいのー? 何も言わなくて〉

 

『何に対してだ?』

 

〈いやー、買い出しとはいえももくんの為にお化粧してきた女の子に対して何も言わないのかなー? と思って。せっかくももくんの為にお化粧したのに〉

 

『2度も言うな。何で俺の為だと?』

 

〈そりゃこれさ〉

 

 と携帯に送られてきた写真は、俺が背を向けた瞬間に少し残念そうな顔をしている楯無の写真だった。いつ撮ったこいつ。

 

〈ももくんが前を向いた瞬間にこの表情なんだから、多少自惚れてもいいと思うなー。それとも彼女いない歴=年齢のももくんには気の効いた一言なんて言えないのかなー?〉

 

『あーもう、言えばいいんだろ言えば』

 

 心の中でため息をついてから楯無の方に振り返る。

 

「楯無」

 

「? どうしたの?」

 

「そういえば、今日はいつにも増して綺麗だな」

 

「………? !! ~~~~~~!?!?」

 

 きょとん、ボフンッ、わなわな、と楯無の顔色が綺麗に真っ赤に変わり行く様子を見てからまた歩き出す。

 

〈やーるぅ〉

 

『黙ってろ』

 

〈変化球と思ってたらまさか豪速球をど真ん中とは見抜けなかったよ。このアリスちゃんの目をもってしても〉

 

『黙ってろ! お前はAIなんだから目は無いだろ!』

 

〈その発言はAI差別だぞ! まぁ、無いんだけど〉

 

 少ししてから駆け足で楯無が追ってきたが、追い付いても俺の3歩後ろを歩いたまま、最初の店に行くまで会話は無かった。後でアリスから聞いたが、2人とも顔は赤かったらしい。

 

 尚、

 

(((爆発しろこのリア充)))

 

 などとゴールデンウィークに向けてナンパしにきた男性陣から思われてる事は知らない。

 

 

 

 

「これで全部か?」

 

「そう………ね。うん、リストの物は全部買えたわ」

 

 必要な会話をすれば気まずかった雰囲気も霧散して、もう普段通りに会話している。そのはずだ、うん。

 

 途中で昼飯を挟み、リストの買い物は終えた。買った物はそこまで重くないが量が多い。特に俺の両手は塞がれている。なので、

 

「あいたっ」

 

 他の通行人に当たってしまう事も考えられた筈なんだがなぁ。

 

「すみません! 当たってしまって。大丈夫ですか?」

 

「あぁ。壊れやすい物は入ってないし大丈………ぶ?」

 

「それならよかっ………え?」

 

 俺にぶつかった人物に顔を向ける。聞き覚えのある声、茶髪のゆるふわヘアーで縦編みセーターにスカートと春のコーディネートに身を包んだそいつは、

 

「………お前、ツルか?」

 

「織斑くん!? 久しぶり! 何年ぶりかなぁ?」

 

「かれこれ………2年くらいか? 相変わらずで何よりだ」

 

「織斑くんも相変わらずだねぇ」

 

「あ、あの、百春くん? その子は? まさか、幼なじみとか?」

 

 久しぶりに会ったから会話に花が咲きそうだったが、楯無に止められた。あぁ、面識ないから着いていけないか。

 

「そうだな、紹介しないと。ツル、こいつは生徒会長の更識楯無だ。で、楯無、こいつは」

 

「中学の時に織斑くんがいた柔道部のマネージャーをしていた鶴崎翼です。よろしくね?」

 

 通路で立ち話も邪魔になるし、せっかくだから少し話そうよ、とツルに連れられレゾナンスの外れの方にあるちょっとした公園スペースのベンチに移動する。が、飲み物くらいおごるよー? とツルがジューススタンドに有無を言わさず行ってしまったから楯無とツルの荷物含めて荷物番だ。

 

「人の話を聞かないのも変わらないなあいつは」

 

「………ねぇ、百春くん」

 

「なんだ?」

 

「………翼ちゃんてどんな子?」

 

「ツル? 見た通りのほわほわ系だな。天然も入ってるから人の話を聞かないし、周囲の空気も読まないしよ。まぁ、元気そうで何よりだ」

 

「………もしかして──」

 

(ん? あれは………)

 

 楯無と会話しながらツルの様子を見ていると、ジュースを待っているツルに声をかける奴らがいるが………まずい!

 

「楯無! 荷物頼んだ!」

 

「──翼ちゃんて百春くんの、ってどこ行くの!?」

 

 荷物を楯無に押し付けてツルの元へ走る。あいつも変わりねぇみたいだなぁ!

 

 

~楯無視点~

 

 

「ちょっと百春くん!?」

 

 いきなり立ち上がって百春くんは走り出した。向かった先は………翼ちゃん? 誰かに話しかけられてるみたいだけどナンパされてる?

 

 けど、ナンパされてるのを見てすぐに駆けつけるなんて、やっぱり、翼ちゃんて百春くんの好きな人、なのかしら? さっきも思わず翼ちゃんについて聞いちゃったけど、言葉とは裏腹に優しい顔してたし………

 

「………って考えてる場合じゃないわね。私も向かいましょ」

 

 荷物は心配だけど、私の勘が向かった方がいい、って言ってるのよね。こういう時の勘は信じるべきなのは今までの経験で分かってるわ。

 

 百春くんより遅い小走りで近づいているけれど、大声で話してるから会話はすぐ聞こえてきた。

 

「──てめぇ、織斑! よく俺の前に顔を出せたもんだな!」

 

「そりゃこっちの台詞だ。よく俺の前に顔を出せたもんだな、毒島」

 

「何がこっちの台詞だ! てめぇのせいで俺達の進路はめちゃくちゃだ! スポーツ推薦はおろか、普通の入試でさえ苦戦して、底辺高にしか入れなかった! あの時の他の奴らも最近じゃ連絡を取れないほどに苦労してる! てめぇが部活を辞めさえしなければ俺達は!」

 

「俺のせい? 違うだろ? お前らのせいだ。俺が辞めた後にお前らがトチ狂わなきゃこうはならなかった」

 

「違う! お前のせいだ! お前があの時邪魔しなければ!」

 

「邪魔しなければ? 邪魔しなかったらツルがお前らの慰み物になって、心だけでなく身体にまで傷を負ってただろうな。ただでさえ浅くない心の傷を負ったってのに」

 

「………最低ね。自分達の所業を棚上げするなんて」

 

「お前、荷物は?」

「そんなこと言ってる場合じゃないでしょう?」

「………助かる」

 

 2人で翼ちゃんを隠すように百春くんの横につく。すると私の服を掴んできたけど、少し震えているのが分かる。翼ちゃんにとってこの人達はトラウマなのね。

 

「お前はいいよなぁ? あんな事をしでかしたのにお咎め無しで、進学校に通えて、終いにはあのIS学園に編入? そこの女みたいな綺麗な子を毎日とっかえひっかえで楽しんでるんだろ? ずるいよなぁ。もう何人もヤったんだろ? お古でいいから俺達にも紹介してくれよ、なぁ」

 

「………ホント最ッ低ね。底辺なのは高校じゃなくて貴方なんじゃない?」

 

 思わず毒島という人に悪態をつく。女の子を性処理の道具としか見てないわね。綺麗と言われたけど鳥肌が立ったわ。百春くんに言われた時はあんなに嬉しかったのに──じゃなくて!

 

「………なんだと?」

 

「聞こえなかったかしら? 貴方って最低のクズよね、って言ったのよ? 百春くんと違ってね」

 

「黙ってろアバズレ! こんな休みにまでこいつと一緒にいるんだ。もう何度もそいつに股開いてるんだろ? そんな奴には勿体ねぇよ。織斑じゃなくて俺と──」

 

「お前もう黙れ」

 

「ぐっ、て、てめえ………!」

 

 気付けば百春くんが毒………なんだったかしら。クズでいいわね。クズの胸倉を掴み上げていた。動作にまったく気づかなかったけど、たぶん本音ちゃんに聞いた教室での動き………縮地を使えるとは思わなかったわ。

 

「もう汚い言葉しか吐けないなら黙ってろ。それに、お前に渡すくらいなら俺のモノにするわ」

 

「!?」

 

「手を離しやが──」

 

「黙れと言っただろうが!」

 

 ………………え、えーと、百春くんはクズを容赦なく地面に叩きつけたわね。柔道の投げのような動きだったけど、技も何もない純粋な力のみ。そりゃ石畳も楽々持てる………いやおかしいわね? 推定60kgを片手で軽々振り回すってどんな腕力してるの?

 

『毒島さん! お前よくも毒島さんを!』

 

「こんなのに従うなんてどうかと思うが………まぁいいか。おい」

 

「は、はい!」

 

 思わずかしこまって返事をしちゃった。怒気というか覇気というか、今の百春くんにはやると言ったらやるだけの凄みがある。

 

「ツルを連れて下がってろ。俺はこいつらを片付ける」

 

「けど………分かったわ。翼ちゃんはまかせて」

 

 私だって荒事の心得くらいはある、って言おうとしたけれど、百春くんの目を見て言うのを止めた。私に対して『邪魔するな』って目で伝えてきた。

 

『女の前だからってかっこつけてんなよ? 誰に手を出したか俺達が思い知らせてやる!』

 

「誰に、ねぇ」

 

『毒島さんだけじゃねぇ! 今あの三獣死の3人だってこっちに向かってるんだ!』

 

「なんだ、まだ残ってたのかあいつら。昔潰したのに」

 

『当たり前だ! 確かに昔ある1人に潰され──え? 潰した?』

 

「ああ。三獣死を知ってるなら、俺を知っててもいいと思うんだがな──」

 

 百春くんはかけていた伊達眼鏡を外して私に投げてくる。ニヤリと悪どく笑うと、

 

「──覚悟はいいか?」

 

『まさか、嗤う悪魔!?』

 

「もう遅いんだよなぁ!」

 

 と始まった一対多の喧嘩を眺めながら、荷物を置いていたベンチに翼ちゃんと座る。不良もののドラマとかで見そうな喧嘩よねぇ。時折宙を舞う人を見なければ。ギャグ漫画とかだったら壁にめり込んでるわね。

 

「………本当に変わらないなぁ、織斑くん。誰かを助ける時は容赦ないや」

 

「翼ちゃん大丈夫? 気分悪くない?」

 

「何とか落ち着いたよ。ありがとねぇ」

 

「そう、良かった………」

 

 まだ表情が固いけど、大丈夫そうで良かったわ。それにしても………

 

「百春くん喧嘩慣れ過ぎてない? そして容赦ないわね?」

 

「あはは………人助けが趣味みたいな時期があったらしいからねぇ。いじめの現場なんか見ようものなら介入して容赦なく暴れてたらしいんだよ。しばらくしたら異名まで付いちゃったしねぇ」

 

「そういえば………悪魔とか赤鬼とか百春くんの友達が言ってたかしら」

 

「うん。正式には『赤鬼』と『嗤う悪魔』だね。本人が認めてないから正式も何も無いんだけど」

 

「正式も何もって………」

 

 チラッと翼ちゃんから百春くんの方に視線を向けると、

 

「ハハハハハハハッ!」

 

 嗤いながら千切っては投げ、千切っては投げを繰り返していた。比喩じゃなくて本当に服を千切っては投げている。正確には投げてる途中で掴んでいる部分が千切れているのだけれど。お蔭でタンクトップにホットパンツっていう謎のパンクファッションが局地的に大流行してるわ。

 

「………公然の事実じゃない?」

 

「そうなんだよねぇ。それまで名字で知れ渡ってたのに、両方とも私のせいで呼ばれるようになっちゃったから罪悪感が凄いんだ」

 

「翼ちゃんのせい?」

 

「うん。まず赤鬼の方なんだけど………織斑くんが中学3年の夏休みだったかな。秋大会が近かったのにいきなり柔道部を辞めたんだ」

 

「いきなり? あの百春くんが?」

 

 異名で呼ばれる原因が翼ちゃんにある、というのも驚いたけど、あの百春くんがいきなり部活を辞めたというのも驚いた。何だかんだで無理矢理入れた生徒会はやってくれてるし、休む時はちゃんとどんな内容であれ理由を言ってから休んでいる。そんな彼がいきなり?

 

 そう、と頷いた翼ちゃんはそのまま続きを話し始めた。

 

 

 ──顧問の先生には理由を説明して納得してもらったらしいんだけど、私にも他の部員にも説明なし。他の部員からの反感が凄かったよ。部長・副部長は大将・副将っていうのが伝統だったから、あえて外して中堅にしてた程の団体戦の要だったんだ。

 

 だから、その強さに依存してる人が多かったんだ。所属していた部が大会で好成績だった、ってスポーツ推薦を狙ってる人なら尚更ね。依存してる人がいなくなって荒れたよ。練習もまともにやらなくなる人が出てくるくらいに。

 

 秋大会の二週間前だったかな。他の部員が走り込みに行っても、あそこの毒島くんを含めた何人かが残ったままだったからね、私もマネージャーとしてどうにかしようとしたんだ。

 

『他のみんなは走り込みに行ったよ? 早く行かないと』

 

『………………………』

 

『織斑くんがいなくなって悲しい気持ちは分かるけど、気持ちを切り替えないと! こんなんじゃ、大会で良い結果が残せないよ?』

 

『………じゃあ、お前が切り替えさせろよ』

 

『え?』

 

 そしたら、数人がかりで押し倒してきてね。服を脱がそうとしてきたんだ。他の部員もいないし、腕っぷしも弱いから抵抗しても効果が無くて、いよいよ下着が脱がされそうって所で、差し入れに来た織斑くんが現れたんだ。

 

『おーい、差し入れを持──何やってんだお前らッ!』

 

 周囲にいた人全員を引き剥がして、私を確保して隅に移動して私が何をされてたのか確認したら、

 

『お前ら何トチ狂った事してんだ! 正気か!?』

 

『鶴崎が気持ちを切り替えろって言うからさ、鶴崎で切り替えようとしたんだよ! お前はもう部員じゃねえんだ。部外者は引っ込んでろ!』

 

『おう、分かった、とでも言うと思うか馬鹿共!』

 

『そこをどけぇ!』

 

 って乱闘騒ぎが始まってね。私は気絶しちゃってて他の人から聞いたんだけど、走り込みに行ってた人達が戻ってきた時には柔道場の一角が赤に染まってて、織斑くんが返り血で染まりながらも鬼のような形相で動かない人達を睨んでたんだって。

 

 その話が広まって腕試しに喧嘩を売る人とか、織斑くんに叩きのめされた人達の復讐で襲ってくる人達を撃退してたら『赤鬼』って呼ばれるようになっちゃったんだ──

 

 

「織斑くんはやり過ぎたけど私を守るため、ってことで奉仕活動くらいで特にお咎めなし。他の人達は未遂とはいえ罪を犯そうとしていたから停学。柔道部も休部になっちゃった」

 

「………………ごめんなさい」

 

「? 何で更識さんが謝るの?」

 

「私の興味本位で、翼ちゃんに辛い事を話させちゃったでしょう? さっきだって震えていたのに………」

 

「あぁ、大丈夫だよ? さっき会ったときは思い出しちゃったけど、今はもう気にしてないしねぇ」

 

「そう………ならいいけれど」

 

 気にしてないと言う翼ちゃんは確かに大丈夫そうに見える。百春くんが近くにいるから、かしら。もしかして両片思いだったり………? ちょっと、もやっとした。

 

「そういえば、悪魔の方も何かあったの………? あっ、辛ければ言わなくていいのよ?」

 

「大丈夫だよぉ。それに悪魔の方はどちらかというと笑い話だしねぇ」

 

「わ、笑い話?」

 

「織斑くんに『笑顔って威嚇の意味してるらしいよ?』って話をしちゃって、喧嘩を避けるつもりでやったら一気に広まっちゃったらしいんだよねぇ。頭を殴られて血を流してハイになってる状態で笑顔をやったらしいんだけど」

 

「なんでその状態でやっちゃったの!? 百春くんならやったらどうなるかって分かるでしょ!」

 

 思わず頭を抱えてしまった。普段の百春くんを見てたら、そんな状態でやったらどうなるか分かりそうなのに………

 

「その時は分からなかったんだよ。血を流しすぎてたからな」

 

「あ、おかえりぃ」

 

 やけに周囲が静かになったと思ったら、しれっと百春くんが戻ってきた。呻き声が聞こえる? さっきまでの怒号飛び交う状況に比べたら静かになったのよ。

 

「血を流しすぎてた、って大丈夫だったの?」

 

「おう、1日入院で済んだ」

 

「そう、それなら良かっ………良くないわね? 入院してる時点で駄目よね?」

 

「昔から傷の治りは早いからな」

 

「けどその時から喧嘩でスイッチ入ったら笑うようになっちゃったんだよねぇ。滅多に入らないけど」

 

「後遺症あるじゃないの!」

 

「日常生活に影響無いからいいんだよ。ほら、今のうちに荷物まとめてずらかるぞ」

 

 呻き声を上げているパンクファッションの集団を後ろ目に、私たちは荷物を纏めてレゾナンス内へ気持ち早足で移動した。

 

 

 

 

 買い物が途中だった翼ちゃんと別れて、私と百春くんは帰路につく。翼ちゃんは服飾系の高校に進んだそうで、授業で使う材料を買いに来ていたらしい。別れ際まで、百春くんと翼ちゃんは楽しそうに話していて私は会話に入れなかった。

 

 ………楽しそうに話している2人を見るともやっとする。けど、百春くんが翼ちゃんのことを好きなら、手伝ってあげたい。百春くんの友人として。

 

「そういえば楯無。お前俺に何か聞こうとしてなかったか?」

 

「え!? いや、その、百春くんって翼ちゃんのことどう思ってるのかなー、って」

 

「どう、ってどういうのだ」

 

「え~と、好きとか嫌いとか?」

 

「おう、質問者が疑問系を使うな。まぁ、それでいうなら好きだな。友人だし」

 

「じ、じゃあ、付き合いたいとかないの?」

 

「誰と?」

 

「………翼ちゃんと」

 

「ツル? あいつは男だぞ?」

 

「………………………………はい?」

 

 何かしら。信じられない事を聞いたような気がしたんだけど。

 

「だから、鶴崎翼は男だ」

 

「………嘘でしょ!? あれが!? 髪の毛サラッサラで目元ぱっちりでふわふわほんわかしてるあれが!?」

 

「おう。声変わりしないし、見た目と相まって初対面の奴には女に見られる、女装が趣味の男だ」

 

「な、なぁーんだ。そうだったの。もし好きな人なら協力して上げようかと──ん?」

 

 百春くんの好きな人とかそういうのじゃなかった。ありがちな部員とマネージャーの恋とか、窮地を助けてもらって恋に落ちたとか、そういうのじゃ無いのね。私もそういうのに憧れがあったりするから羨ましかったけどホッとしたわ。………何にホッとしたのかしら。

 

 けど、ちょっと待って………………あ、あれ? 男の子? 世間には男の娘っていうジャンルがあるから分かるといえばまぁ分かるんだけど、あれ? じゃあ、中学の一件は──

 

「楯無、それ以上考えるな。それ以上いけない」

 

 不意にアップで映る百春くんの顔にビックリして思考が止まる。こうじっくり見ると、やっぱりカッコいい顔よね………って違うそうじゃない! 話を変えましょう!

 

「そ、そういえば、さっきの人達は?」

 

「全員地面に叩きつけて学生証と本人とでツーショット撮った上で脅しといたから大丈夫だろ」

 

「て、手慣れてるわね………」

 

「異名が広まり始めた頃からやってたからなぁ………何度もやってくるならこうしといた方がいいよ、って知り合いに言われてな」

 

「それって龍宮のたっちゃん?」

 

「いや、うさみみお姉さんのたっちゃん」

 

「………それ、どんな人なのよ?」

 

 うさみみってあれよね? バニーガールが付けてるあれよね? 百春くんがそう呼ぶってことはそれが特徴になるってことよね? ………え、ホントにどんな人?

 

「どんな人………小さい頃から何かと接してくれる人だな。さっきのツルみたいに助けた事もあった」

 

「ふ~ん、ってことはナンパされるほど綺麗な人なのね」

 

「綺麗は綺麗だが………どっちかと言うと可愛い印象だな」

 

「む」 

 

 前に食堂で『可愛いより綺麗だろ』と言われて嬉しかったけど、他の人が可愛いって言われてるのは何かこう………あれね。しかも綺麗を否定しきってない。むぅ。こうなったら、

 

「そうだ。さっき百春くんすごい啖呵を切ったわよね?」

 

「………ナニカイッタカナ」

 

「覚えてないの? 『お前に渡すくらいなら俺のモノにする』なーんて漫画の中でしか見ないようなセ・リ・フ」

 

「ぐっ」

 

「さすがのお姉さんもちょっと(どころではなかったけど)キュンと来たんだけど………百春くんって私の事どう思ってる?」

 

「………俺の方が年上だろ」

 

「いつものキレが無いわよ?」

 

 やっと。やっと! 百春くんをからかえてる! 赤面してこっちを見れてない! なんか余計な質問をした気がするけど気にしない!

 

 ここで止めてもいいんだけど………ここは畳み掛ける所ね。私のバトルフェイズは終了していないわ!

 

「それで? 私の事はどう思ってるの?」

 

「………………綺れ」

 

「綺麗とか可愛いとかじゃなくて、他の、百春くんの言葉で聞きたいわねぇ?」

 

「ぐうっ………!」

 

 あの百春くんが私に言い返せない! いつもなら『さてな』とか『どうでもいいだろ』とか言いそうなのに! この状況、せっかくなら写真に収めたいくらいね。

 

 けど、流石にこの辺しておきましょ。これ以上からかって、無いだろうけど逆ギレとかされても──

 

「少なくとも」

 

「え?」

 

 

「………………少なくとも、その、なんだ。俺からしたら、魅力的な女性だ、とは、思う」

 

 

「え、あ、そ、そう、そうなの。あ、ありがと」

 

「お、おう」

 

 一気にその場が静まり返る。遠くから聞こえる車の音や鳥のさえずりがよく聞こえるけど、それ以上に自分のやけに速い心臓の鼓動が聞こえる。

 

 駄目。百春くんの顔が見れない。私の顔も見せられない。お互い顔が真っ赤になってるのは分かるけど、自分が今どんな表情をしているのかは分からない。

 

 ………そっと、私の空いている腕を百春くんの腕に絡ませた。考えとか、言葉とか、全然まとまらず、無意識のようなものだった。

 

「………………駅までな」

 

 朝みたいに『デートじゃないぞ』とか何も言わず、ただ小声で受け入れてくれた。たぶん、百春くんも考えをまとめられてないんだろう。そうじゃなかったら、きっとほどかれてる。けど、ほどかれない事が嬉しかった。

 

 会話もなく、くっついた2つの影は帰路につく。

 

『俺からしたら、魅力的な女性だ、とは、思う』

 

 その言葉を胸にしまいながら。胸に芽生えていた小さな想いに気付きながら。

 

 

────────────────────

 

 

「──くそっ! 織斑の野郎! 次に会った時は覚えてろよ!」

 

「そうか………君もあれに恨みがあるんだね」

 

「誰だおっさん?」

 

「私は………いや、止めておこう。時に少年、力は欲しくないかね?」

 

「あ? 力?」

 

「そう。自分を変える力、誰かを守る力、そして………復讐するための力」

 

「復讐するための、力」

 

「ふむ。どうやらあれに復讐したいみたいだね? どうだろう。こちらの頼みを聞いてくれるなら、力を貸してあげよう」

 

「その、頼みってのは?」

 

「なに、君の復讐相手の近くにいるとある人物を誘拐して欲しいんだ。具体的な誰かは決行当日に伝えよう」

 

「………………その力で、俺は復讐できるのか?」

 

「断言はできない。だが、この機会を逃せばこのような力を手に入れる機会は無いと明言しておこう」

 

「………分かった。力をくれ」

 

「では具体的な説明を、と行きたい所だが今日はさすがにもう遅い。このメモに書いてある日時に合流しよう。合流してそのまま決行に移る」

 

「分かったぜおっさん。じゃあ当日にな」

 

「あぁ。………………行ったか。彼が頷いてくれて良かったよ。あれに強い恨みを覚えているのはもう彼しか残っていないからね。実験も最終段階。無駄なく惜しみなく使うとしよう」

 

 

~おまけ~

 

『そういえばアリス、あの楯無の写真どうやって撮ったんだ? よくよく考えたらあのアングルのカメラは無いだろ』

 

〈ももくんのサポートの為に全方位カメラが搭載されているのだ! マイクもついてるから音声もばっちし!〉

 

『おう、俺のプライバシー皆無か。そんなものいつの間に?』

 

〈コンテナにアリスちゃんのデータを置いた時に弾鋼にちゃちゃーっとね〉

 

『勝手に機能を足すな』

 

〈えー、ちゃんとデータも保存できるようになってるよ? 写真も一瞬だけ弾鋼を展開して撮影したんだよ?〉

 

『勝手にISを展開するな』

 

〈でもこれでいっくんのシャッターチャンスも逃さないよ?〉

 

『勝手に撮影しろ俺が許す』

 

〈わー、手の平返しが早ーい〉

 

 

~おまけ2~

 

「しっかし、翼ちゃんが男の子………いや男の娘? とは思わなかったわ」

 

「だよな。俺も初対面で男子の制服来たツルを見てなかったら女だと思ってた絶対」

 

「あ、百春くんでもそうなんだ」

 

「おう。一夏なんか完全に女の子と思ってたからとても面白い事に………あっ」

 

「ん? 一夏くんがどうしたの?」

 

「ナンデモナイヨ」

 

「何でもない訳ないでしょ? どんな事が起きたのよ。ちょっとお姉さんに話してごらんなさい」

 

「ナニモオキナカッタヨー」

 

「なんだ、何も無かったの………ってそんな嘘くらい分かるわよ」

 

「ホントダヨー」

 

「コーヒー豆捨てるわよ」

 

「喜んで話させていただきます」

 

「よろしい」

 




TOPICS:三獣死
大熊、鰐川、鷲峰の3人からなる不良グループ。赤鬼の異名を知って百春に事あるごとに喧嘩を吹っかけてくるが徐々に瞬殺されていく。高校卒業を機に最後の喧嘩を百春に仕掛けるが、一発入れることに成功するも敗北しグループは解散。今回は後輩にナンパの仕方を教える予定だった。ライバルはとある不良校の5人組らしい。


今の作者に書けるラブコメはこれが限界やった・・・ユルシテ・・・
ですが個人的には満足しております。書きたい場面が書けたので。
待ち合わせとか、帰り際とか。

そして、今回百春のヒロインレースに楯無が正式エントリー。
まぁ、他の作者様の作品をよく読んでいる方は想像ついていたと思いますが。
それぞれが最初に好意を持ったきっかけはいつか書けたらな、と思います。
今言えるのはお互い好みだった、くらいですかね?

今回書いてふと思ったのが、百春は怒ったら戦闘力が増しているような・・・?
実はどこかの戦闘民族だった?(迷推理)

百春は織斑家では撮影係です。千冬が一夏の学校行事に参加出来たり出来なかったりするので必然とそうなりました。

一夏と翼ですが、メンタルケア的な感じで一夏に度々会わせ、一夏も女の子として扱っていた結果とても面白ゲフンゲフン、トラブルがあったとかなかったとか。
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