織斑一夏の兄が行く   作:ふくろう639

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お気に入り登録ありがとうございます。

ぎりぎりGW中に投稿できました。
これもすべて今更手を出したDMC5でSランクが取れなかったのが悪いのです。
あと次話の流れが中々決まらず何度か修正していたのも悪いのです。

前回のアンケートも参加ありがとうございました。
私の予想では嘘予告とこのすばが逆の順位でした。あと少しで10票とか、このすば意外と人気あったな………?
気が向いたらいつか書くと思いますきっとたぶんメイビー。

高校生の時ってどんな会話してたか分からない今日この頃です。
思考回路がまずそっち方面に直結してた気がします。


第9話 クラス対抗戦

~鈴視点~

 

 あたしが2人に会ったのは引っ越してすぐのことだった。

 

 お父さんとお母さんは新しく開く中華料理屋の準備で忙しく、あたしは1人で近くにある公園に遊びに行った。

 

 そこで遊んでいる子達がいたから、混ぜてもらおうと声をかけた。だけど、あたしの日本語が片言で、中国から来た、というのが分かったらいじめてきた。後でもも兄に聞いたら、

 

『自分達と違うから、って理由でいじめる奴もいる』

 

 って言ってた。その時のあたしは、嫌いだからいじめる、としかいじめる理由を知らなかったから、初対面なのに何か悪いことしたの? って思った。

 

 体を押されたり、足で小突かれたりしてどんどん公園の隅に追いやられいく。涙目になりながらも耐えてたんだけど、とうとう思いっきり突き飛ばされて転んでしまった。

 

 そんなあたしを見てもいじめっこ達は笑ってばかりで、思わず口から言葉が漏れた。

 

『………………タスケテ………!』

 

『よってたかって女の子いじめてんなよな』

 

 あたしの声を聞いてくれたのか、あたしの前に現れた背中は今でも覚えてる。とても、頼りがいのありそうな、安心できる背中だった。

 

『こいつ織斑だ! あの──ふげっ』

 

『四の五の言ってないでかかってこいよ』

 

『よくもよっちゃんを! みんな、やっちまえ!』

 

 その後の事は覚えてない。というのも、喧嘩をしている声は聞こえていたけど、ちょっと目を閉じて開けたらベンチで横になっていたからだ。たぶん、誰かが助けてくれて安心したから寝ちゃったんだと思う。

 

『良かった。目が覚めたか!』

 

 横になっていたあたしに膝枕をしていたのが一夏だった。自分の状態を把握するのに時間がかかって、膝枕されてることに気付いて起き上がろうとしたら優しく肩を押さえられた、

 

『あぁまだ横になってた方がいいよ。今もも兄が救急箱持ってきてくれてるから』

 

『イモモニ?』

 

『違うよもも兄。も・も・に・い。俺の兄ちゃんなんだ』

 

『おーい、一夏~』

 

 声がした方を見ると、膝枕をしている男の子と同じような顔の男の子が救急箱を持っていた。それが、もも兄。慣れた手つきで消毒から絆創膏まで貼ってくれた。

 

『………よし、これで怪我は大丈夫か。擦り傷だけで良かった』

 

『怪我の手当て慣れてるよなぁ』

 

『そりゃ自分の怪我手当てしてるからな。やり方はあの人に教えてもらったし。っと自己紹介がまだだったな。織斑百春だ』

 

『あっ、俺もしてなかった。俺は織斑一夏』

 

『………凰鈴音。タスケテ、アリガト。イチカ、モモ………ニー?』

 

『………一夏お前、俺の事もも兄と最初に紹介したな?』

 

『? もも兄はもも兄だろ?』

 

『初対面の女の子に兄と呼ばれる気持ちをだな………まぁ、いいけどよ。所で一夏、この辺で昼寝してた奴らは?』

 

『え? みんな起きたら逃げてったけど』

 

『ちっ、釘を刺す前に逃げられたか』

 

『もも兄がいつも暴れてるからだろ? この前だって千冬姉に怒られたばっかだし』

 

『うるせー! 今回はお前も暴れただろうが!』

 

『もも兄ほど暴れてねぇよ!』

 

『アノ………ケンカ、ダメ』

 

『『いやいや、喧嘩してる訳じゃ………ん?』』

 

『………プッ』

 

 公園にあたし達の笑い声が響いた。喧嘩してるように話してたのに、息ぴったりに否定して。仲のいい兄弟ってすぐ分かった。

 

 その後は3人で夕暮れまで遊んで、家まで送ってもらった。あたしが怪我をして帰ってきた事にとても驚かれたけど、楽しそうに話してるからあまり強く言えなかったみたい。

 

 学校が始まって、当たって欲しくはなかったけどやっぱりいじめれた。けど、その度に一夏とその友人達が助けてくれた。公園でも学校でも助けてくれた一夏を好きになるのは自然な事だと思う。

 

 もも兄も違う意味で助けてくれた。一夏達が助けてくれるけど、いじめられる、っていう事がどうしても辛くて公園で1人泣いていた時もあった。そんな時にたまたま会って話を聞いてくれて、泣くのに胸を貸してくれた。

 

 あまりの泣きっぷりだったのかなんなのか分からないけど、

 

『泣きたくなったらいつでも胸を貸してやるからな』

 

 って言ってくれたのはすごい嬉しかった。今まで何となくで出会った頃からもも兄って呼び続けてたけど、その時から本当の兄みたいにもも兄って呼ぶようになった。

 

 中国に帰らなきゃいけなくなった中学2年。空港での別れ際、あたしは勇気を出した。

 

『あのね一夏………あたしが酢豚を上手く作れるようになったら、毎日酢豚を食べてくれる?』

 

『おう!』

 

 だからこそ、悲しかった。あたしにとって大切な約束を一夏は覚えてなかった。放っておいて、って言ったらホントに放っておくし。もも兄はざっくりとだけど大事な部分は覚えてくれてたし、放っておいて良い奴と駄目な奴の区別くらいつく、って言ってくれたのに。

 

 だからこそ、この試合であたしの怒りを叩きつける。大切な約束を忘れた事を後悔させる。

 

 そして、この試合に勝って──

 

 

────────────────────

 

 

「何話してるんだろーね、おりむー」

 

 ポリポリ

 

「広域回線ならアリーナに流れてくるんだが、秘匿回線みたいだしな」

 

 パリポリ

 

 クラス対抗戦当日。俺はクラス連中と固まって観客席に座っていた。隣にいる本音が持っているポップコーンをポリポリとつまみ、代わりに俺のナチョスを本音に差し出す。

 

「お2人とも観戦ムード過ぎません?」

 

 ズゾゾーッ

 

「「そんなわけない」」

 

「ドリンクまで用意されては説得力の欠片もありませんわ!」

 

「というかどこで用意したんだ2人共………」

 

「購買に売ってたー」

 

「というか俺達だけじゃないぞ」

 

 と箒とセシリアに分かりやすい他のクラスメートを指差す。

 

『あー、チュロス食べきっちゃった』

 

『早くない? 第一試合これからだよ?』

 

『追加のコーラ持ってきたよー』

 

『じゃあ、私とあっちだね』

 

『おい私がいない間にキャラメルポップコーンを食べたのは誰だ』

 

『僕だ』

 

『貴様はメ○トスコーラの刑に処す!』

 

『『『おい馬鹿やめろ』』』

 

『は・な・せ!』

 

「………観戦ムードですらないな」

 

「………いつものバカ騒ぎですわね」

 

「………あれはやりすぎだが、俺が言いたいのは気を張りすぎるな、ってことだ。試合の2人も軽口叩いてるだろ」

 

「確かに………何を言ってるか分かりませんが、代表決定戦の時のようなピリピリした感じではないですわね」

 

「というわけで2人もどうだ?」

 

「「………いただきます」」

 

 後で食べようと思っていたチュロスを2人に一本ずつ渡す。途中の休憩時間でまた買ってくるかな。

 

 それから他愛ない話をしながら食べていると試合開始のブザーが鳴った。

 

「おっ、試合が始まったか」

 

 試合開始のブザーが鳴ったと同時に一夏が後方に下がった? いや、体勢からして吹き飛ばされたのか?

 

「鈴のIS、中国の第三世代の甲龍だったか。あれの第三世代装備って所か?」

 

「そうだろうな。あの肩辺りに浮いている丸いやつがそうなのだろうが、特に何も動きが何も無かったな」

 

「セシリア、あれについて分かるか?」

 

「確か、中国が開発していたのは空間に圧力をかけて弾として撃ち出すもの、だったかと」

 

「空間に圧力………空気砲、いや衝撃砲の方が合ってるのか?」

 

「『ドカン』とか声はいらないみたいだね〜」

 

「青狸の道具じゃねぇんだから」

 

 鈴の第三世代装備を考察している俺達の視線の先では、一夏がアリーナの外周部分を不規則に飛び回っている。中央にいる鈴が件の装備で攻撃しているんだろうが、弾が見えないのによく躱してるな。

 

『やるじゃない一夏! この攻撃を避けるなんて、あんたの勘は捨てたもんじゃなさそうね!』

 

『勘じゃない。兄貴の特訓のおかげだ! それに手伝ってくれた箒とセシリアも!』

 

『………あたしの前で他の女の子の名前を出すなんていい度胸してるわね一夏!』

 

『何でそんなに怒ってるんだ?』

 

 あの訓練のおかげだったらしい。だが、あれはレーザーだから弾は見えていたのであって、鈴の衝撃砲は見えないんだから訓練がそんなに活きるとは思えないんだが………訓練時のセシリアの狙いの良さか? まさかとは思うが、丸いあれの向きを見て判断してる訳じゃないよな? それはさすがの姉貴ですら………やれそうな気がする。姉が姉なら弟も弟ということか。

 

(これが若者の一般人離れか………)

 

〈そんなわけないでしょ。それに一般人の身体能力からかけ離れてるももくんが何言ってんの。たぶん操縦者本人の癖を見てるんだろうね〉

 

『癖?』

 

〈そ。見てる感じ、どうも中国娘は撃つときに目に力が入るみたいだからそれで判断してるんじゃない? ハイパーセンサのおかげで普通に見えるだろうし〉

 

 言ってみれば、引き金を引く代わりに目に力を入れてるようなものか? 発射タイミングさえ分かれば位置をずらして多少は避けられるが………なるほど、そこで訓練の成果か。セシリアが当てないように撃ってたから、当たらない向きは分かる訳か。まさかここまで訓練が活きるとは………意外とそういう職が向いてるのか?

 

「………しかし、一夏さんが怒らせたにしては、鈴さんは落ち着いていますわね?」

 

「むしろ、日常会話の延長、のような感じがするな。こう、私が一夏を怒る時のような。あの啖呵を切ったにしても落ち着いている」

 

「啖呵? ………あぁ、そういえば転校の翌日に『この試合で思い知らせてやる』みたいなことをおっしゃってましたわね」

 

「あれはさすがに一夏が悪い。誰だって怒る。私だって怒る。にしては一晩で怒りが収まっていたが」

 

「それは多分あの一件の後に俺が慰めたからだな」

 

 シーン、と周囲が静まり返る。本音は変わらずパリポリ食べているが、その音しか聞こえない。何か変な事言ったか?

 

「「『『『慰めた!?』』』」」

 

「お、おう」

 

『だ、誰が』

 

「俺が」

 

『誰を?』

 

「鈴を」

 

『どこで』

 

「ロビーで」

 

『どうしたって!?』

 

「慰めたんだが、何かおかしいか?」

 

 周囲から今度はヒソヒソと話す声が聞こえる。え、俺本当におかしな事したか? 慰めただけだろ?

 

「(まさか、百春さんと鈴はそういう関係だったのか?)」

「(食堂やアリーナでの一件ですと、鈴さんは一夏さんに好意を持たれてるみたいでしたが………)」

「(分からんぞ。異性としては一夏が好きだが、百春さんとはそういう関係なのかもしれん)」

「(そ、そんなハレンチな! 好きな人の兄となんて………)」

「(しかもロビーで、だ。なんて高度な………)」

 

「箒、セシリア。お前らまでどうした」

 

「「何でもない(ありませんわ)!」」

 

 問い詰めたいが、これは答えてくれないな。本音はポップコーン食べてるから聞いても意味ないだろうし………

 

『アリス、どういうことか分かるか?』

 

〈たぶん意味が違うんじゃないかな? みんな思春期ということだね!〉

 

 意味? 思春期? 慰めるに他の意味なんか………あるな。

 

「………おう、お前ら。まさかとは思うが、俺と鈴がアダルトな関係だと思ってないだろうな?」

 

「「『『『え、違うの?』』』」」

 

「普通の意味に決まってんだろこんの脳内ピンクの馬鹿共が!」

 

『いや、脳はたぶんピンクじゃない?』

 

「シャラップ! 黙ってろムッツリスケベ共! 全員そこにな──いや、伏せろ! 早く!」

 

ズドォォオンッ!

 

 俺が馬鹿共に雷を落とすのとほぼ同時に、轟音と共に光の柱がアリーナ内に落ちてきた。

 

 

 

「(束のやつ! ここまで派手にやるやつがあるか! 訓練というのを忘れてないだろうな!)」

 

「織斑先生! アリーナのシールドが破られた影響で非常用システムが作動! 各所に影響が出てます!」

 

「山田先生はそのまま影響箇所の確認とアリーナ内の生徒に避難をするよう連絡を! 校舎への連絡は私がする!」

 

「分かりました!」

 

「(くそっ、ISが2機も来るなんて聞いてないぞ! 1機がアリーナに突入してくるだけじゃなかったのか!?)」

 

 

 

「くっそ………お前ら怪我はないか?」

 

「な、何とか………」

 

「一体何が………?」

 

 轟音と衝撃が収まった頃を見計らって、周囲に声をかける。直前にアリスが反応してくれてなかったら怪我人が出ていたかもしれない衝撃だった。

 

「周囲に怪我人がいないか、それぞれ確認してくれ」

 

『ここは誰? 私はどこ?』

 

『こっちは大丈夫』

 

『あ、私のコーラにメ○トスが』

 

『ちょっ、私の携帯が泡に呑み込まれた!?』

 

『あっちも大丈夫みたい』

 

「よし、問題無いな」

 

「問題起こってましたわよね!?」

 

「怪我人じゃないから大丈夫だ。それよりも」

 

 と轟音と衝撃の原因であろう物に目を向ける。それはアリーナの中央で向かい合っていた一夏と鈴の間に佇んでいた。

 

〈あ、あれはまさか………〉

 

『知ってるのかアリス』

 

〈うむ。あれはまさしく開発者が作成していた自律行動無人IS『ゴーレム』。まさか完成していたとは………〉

 

 ゴーレム、か。ずんぐりとしたフォルムに3m程の大きさの人型は確かにゴーレムという名が合うな。色合いを変えたらRPGにも出て来そうだ。というかしれっと無人ISって出て来たが何を作ってんだ束さん。

 

『………って、じゃあこれの原因はあの人じゃねぇか』

 

〈サプライズ好きだからねー。いっくんの試練みたいな感じで送り込んできたんじゃない?〉

 

『否定出来ないのが何ともな………』

 

〈私は開発者をベースに作られてるからね。大体のことは分かるよ──って、ももくんもう1機来る!〉

 

「もう1機だと!?」

 

 ディアブロの頭部を部分的に展開して、センサーの反応を確認する。視界でも確認できたが、同じ全身装甲のゴーレムに比べるとやけに細く見えるシルエットだな。

 

『アリス、あれも束さんか?』

 

〈違うよ。あんなのは作ってなかったはず〉

 

『つまり、あれは襲撃者ってわけか』

 

 しかし、現れたにしては破れたシールドの辺りに留まっているだけで動きが無い。頭部は左右に動いているが………何かを探してるのか?

 

「百春さん、もう1機って………」

 

〈こっち来た!〉

 

「………今のうちに本音は生徒達の避難誘導。生徒会役員なんだからたまには働け。連絡は俺の携帯にかければISの方で拾える。セシリアは万が一の護衛だ。俺はあれを抑えに行く」

 

「わかった!」

 

「お兄さん、ここは2人で、いや代表候補生である私が行くべきです!」

 

「却下だ。お前の戦い方だと流れ弾がどうなるか分からないし、生徒の護衛は必要だ。3機目が来ないとも限らない。それに、俺はIS学園生徒会副会長だ。生徒を守る義務がある。それじゃ、まかせたぞ」

 

「お兄さん!」

 

 ディアブロを展開して空に飛び上がる。俺と襲撃者は高さが合うとその位置に留まった。

 

 襲撃者のISは近くで見るとゴツい腕と肩部を除いたら全体的に細いスタイルだな。だが、人が乗っているにしては胴が細すぎる。コルセットを着け続けた人なら可能性があるかもしれないが、下半身も同様に細すぎる。ゴーレム同様無人機か………?

 

「さて、正門以外からの急な来校はご遠慮願いたいんだが、何の用だ?」

 

『………………………』

 

「黙りね。それならこっちからちょっと聞きたいんだが、お前の中身、どうなってる?」

 

『………………………』

 

ずんぐりした奴(あっち)と比べると明らかにお前が細すぎてな。どっかの誰かが無人での運用を確立したか? それとも、まさかとは思うが………非人道的な中身をしてる訳じゃないよな?」

 

『………………………!』

 

「その行動じゃ認めてるようなもんだぞ襲撃者。そんなに殴り合いをしたいなら新武装で相手してやるよ」

 

 一瞬テレビの砂嵐のような音が聞こえたかと思えば、武装を展開せずにそのゴツい腕で殴りかかってきた。が、新武装を展開し一回り大きく鋭くなった片手で受け止める。ふむ。

 

 掴まれた腕を離させようともう一方の腕をラリアット気味に振るってくるが、受け止めてから手首を掴む。流石タツとヒメ。聞いた通りの硬さだ。

 

 ふと、俺の脳裏に新武装を受け取った時の光景がよぎる。

 

『──さて、モモ。これが今回の………って顔が赤いけど大丈夫かい?』

 

『大丈夫ダ。問題ナい』

 

『………どう思う? 姫子』

 

『半分半分って所ね。大丈夫だけど大丈夫じゃない、みたいな』

 

『そういえば、さっきまで更識のたっちゃんと買い物に行ってたんだっけ? 何かあったかい?』

 

『ナニモ………いや、あったな。異名の原因と会った』

 

『………なるほど。大体分かった』

 

『龍久、どういうこと?』

 

『モモ確認だけど、更識のたっちゃんもかい?』

 

『………………あぁ』

 

『だからどういうことよ?』

 

『異名の原因、はざっくりと言えば不良だ。そしてモモは大抵失言時に嘘をつく。不良、失言、互いに赤面。導き出される結論は──』

 

 違う。この場面じゃない。この後小1時間ほど問い詰められたのは記憶の彼方へ葬ろう。この後だこの後。

 

『──今回は近接格闘用の装備だ』

 

『ってことは、剣とかか?』

 

『そうだね、ケンだね』

 

『俺が剣を使えないのは知ってるだろ?』

 

『いや、この前のオルコットさん相手に使ってたじゃないか』

 

『え?』

 

『え?』

 

『………バカやってんじゃないの。モモ、龍久が言ってるのは文字通りの近接格闘装備よ』

 

『………な~る、ケンじゃなくてコブシかよ』

 

『さっきからそう言ってるじゃないか』

 

『もう龍久は黙ってなさい。という訳で今回の装備はこれ、爪鉄(くろがね)

 

『おう、拳じゃなくて爪じゃねぇか。そんでまた駄洒落か?』

 

『いや、駄洒落のつもりはないんだけど………』

 

『シャラップ龍久。今回のコンセプトは殴ってよし裂いてよし守ってよしの三拍子よ。この前の一戦でモモが殴りかかることが分かったからそれに対応した感じね』

 

『………ん? こっちは?』

 

『そっちは脚用。殴りかかるやつが蹴らない保障はないでしょ』

 

『それは確かに。何にせよ戦う時の選択肢が増えるのは助かる』

 

『それらの素材は弾鋼と同じ物を採用してるから硬いはずよ』

 

『(お前の胸よりもか、とか言ったら怒るだろうな)』

 

『聞こえてんのよ! 少なくともあんたの頭よりは硬いわよ試してあげる!』

 

 そうそうこの会話。この後一悶着あった後に詳しい説明を聞いたからやけに時間がかかったんだよな。

 

『兄貴! 大丈夫か!?』

 

『こっちは気にするな一夏。そっちに集中しろ』

 

『だから言ったでしょ一夏! もも兄なら大丈夫だって。それよりもこっち、どうにかするわよ!』

 

『けどこいつ厄介だぞ! さっき斬ったけど効いてる気がしない!』

 

『分かってるわよ! レーザーの火力高い上に硬いとか面倒ねこいつ!』

 

『(例えるなら鈴の頑固さみたいな硬さ、って言ったらマズい気がする)』

 

『今何を思った一夏ァ!』

 

『おう、実は余裕だなお前ら?』

 

 軽口叩きながら相手している辺り余裕がうかがえる。まぁ、片や弾幕訓練、片や代表候補生がチームなら余裕も生まれるか。切羽詰まるよりはマシだ。

 

 ジャカッ、と嫌な音が耳に入ると共に、襲撃者の肩部装甲が細かくオープンし、それらから覗くは銃口の山。

 

〈回避ッ!〉

 

『分かってるよ!』

 

 距離を取ろうとしたが掴んでいた物を手放す工程が含まれたせいでワンテンポ遅れ、ショットガン並の弾幕が直撃した。

 

「ぐうっ………! そこそこ削られたか………?」

 

〈いや、エネルギーにはまだまだ余裕があるよ。弾が軽かったみたい。とりあえず解析した結果は………ゴム弾? IS戦で?〉

 

「………! 狙いは生身の人間か! やらせるか!」

 

 怯んでいた隙に観客席に向かっていた襲撃者を追いかけるが………回り込むのは厳しいか。なら、

 

『やれるなアリス!』

 

〈モチのロン!〉

 

「──ぶっ潰れろ!」

 

 アリスに瞬時加速を起こしてもらい、襲撃者の背中に飛び蹴り(ライダーキック)を炸裂させ、無人の観客席に叩きつける。………観客席を壊したのは必要経費としよう。

 

「………そろそろ自分でも瞬時加速をやれるようにしないとな」

 

〈私がいるんだから気にしなくていいのに〜〉

 

『いつまでも頼り切りはマズイだろ。どうしてもワンテンポ遅れる』

 

 そうしないと、いざ試合で使おうとしたらタイミングがズレて効果が薄いだろうしな。隙を見つけても活かせないんじゃ意味がない。

 

 と、そんな会話をしながら襲撃者の近くに降りる。というのも、観客席にまだ生徒が残ってるからだ。避難にはもう少し時間がかかりそうだな。

 

『──アァ、ホンットにムカつくなぁお前はよぉ!』

 

「!?」

 

 這い蹲る体勢から立ち上がる襲撃者から音声が聞こえた。スピーカーを通しているから機械的だが、声質は男の物。だが、それよりも俺には聞き覚えのある声だった。

 

『剣どころか銃すら出さねぇとか舐め腐りやがって!』

 

「その声………毒島か?」

 

『流石に分かるか………そうだよ、毒島だ。お前に人生を台無しにされたなぁ!』

 

「お兄さんに? 一体何が………?」

 

「友人を性的な意味で襲おうとしてたから文字通り血祭りに上げた」

 

『『『それは自業自得』』』

 

 その場に残ってる生徒全員が頷いた。だがその友人は男であることを黙っておこう。何人か歓喜するかもしれないが、面倒くさい事になる。

 

「そんなことは置いといて、毒島、何で男のお前がISを動かしてる?」

 

『あ~ん? お前だって動かしてんだ。俺が動かせたっておかしくないだろうが』

 

「おかしさしかねぇよ。お前が動かせてたんなら学園に来ないはずないだろうが、お前の性格からしてよ」

 

『へっ、知らないとこじゃあ技術は進んでんだよ。ISに乗らずに動かせるような技術がな。そんな技術を持ってる人に条件付きで、お前に復讐できるこの力を貸してもらったわけだ』

 

「条件?」

 

『アァ。さっきここにいるのは確認したんだが、どこに隠した? あの篠ノ之束の実の妹、篠ノ之箒は』

 

「箒だと………? 箒に何の用だ」

 

『そこまでは聞いてねぇよ。ただ篠ノ之箒を誘拐してくれればISを自由に使っていい、って条件なんだわ』

 

 束さんの妹と知っていながら箒を狙う、ってことは嫌な予感しかしないな。束さんを呼び出すエサか、ただ単に束さんへの嫌がらせか。しかし、箒に手を出したら束さんが何をするか知らないのか? 何にせよ、接触させるわけにはいかないな。

 

『セシリア、箒は避難済みか?』

 

『箒さんですか? 箒さんならお兄さんが戦い始めた頃に本音さんが万が一の為に、と先に避難させてますわ。箒さんが篠ノ之博士の妹と知っていたんでしょう』

 

 秘匿回線でセシリアに聞くが近くにいないか。本音が知ってたのは虚さん経由か? 普段にあるまじき良い意味の予想外の行動で助かった。

 

『で、どこに隠したよ織斑』

 

「さてな。隠した場所を知ってたとしても、言うと思うか?」

 

『だと思ったぜ。だからあぶり出す。ま、喋ってくれるならその方がいいんだが』

 

「何?」

 

『まさか、ここに攻め込むのに何の用意もしてないとか思ってないよなぁ?』

 

「なんだと?」

 

 次の瞬間、アリーナのバリアを破った光の柱が無人の観客席へと突き刺さる。椅子が壊れる所か裏にあった通路まで穴が空いている。

 

『おりむにー、まずいよ! 扉が!』

 

『何だこいつ!? 動きが急に──』

 

『絶対に避けなさい一夏!』

 

 弟や友人の焦る声が聞こえる中、毒島は不敵に佇んでいた。

 

 

〜おまけ〜

 

『しかし鈴を中国娘って………セシリアだったら?』

 

〈英国娘〉

 

『楯無だったら?』

 

〈同居人〉

 

『タツだったら?』

 

〈メガネ〉

 

『俺だったら?』

 

〈筋肉ダ──違うももくん!〉

 

『………俺をどう思ってるのかよく分かった。ここらで上下関係をはっきりと分からせておこうか』

 

〈私が下です! だからあれだけは──〉

 

『お仕置きプログラム、起動』

 

〈ちょ、まっ………あひゃひゃひゃひゃひゃ!〉

 

 

〜おまけ2〜

 

『まさか篠ノ之さんが篠ノ之博士の妹だったとは………』

 

『もしかして、くらいは思ってたけど、誰も言わないし本人も言わないし、違うと思ってたよ』

 

『よくて親戚くらいだよね。普通は思わないって』

 

『そういえば、織斑くん達と面識あったみたいだよね』

 

『初日だっけ? 言われてみれば確かに初対面にしては仲良かったしね』

 

『家族ぐるみの付き合いとかしてたのかなー? 織斑くん家と篠ノ之さん家』

 

『ちょっと待って。両家の弟・妹の織斑くんと篠ノ之さんがああいう仲ってことは、お兄さんはもしかして博士と………?』

 

『『『………なるほど! 今のうちにお兄さんともっと仲良くなっておくべきだね!』』』

 

「皆さんおしゃべりしてないで避難して下さいます!?」

 




次回が戦闘回でシリアス多めになりそうなので、コメディ多めでお送りしました。
新装備のTOPICSは次回です。

しっかし、このシリーズは当初は織斑兄弟がツッコミ役を予定してたのに、勝手にセシリアがツッコミ入れるから百春がボケ始めた………キャラが勝手に動くとはこのことか。


では、次回も気長にお待ちください。
今回を投稿するにあたってある程度話は書いたので多少早く投稿できると思います。
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