織斑一夏の兄が行く   作:ふくろう639

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お気に入り登録ありがとうございます。
夏の暑さにやられておりました。アイスウマ―。

誤字報告もありがとうございます。
誤字は無いようにしてますが意外とあるもんですね。

前回お知らせしたとおり、今回は小話………小話?回です。
これは小話なんです。たとえ小話1話の文字数が本編並でも作者が小話と言えば小話なんです。全体の文字数がすごくて1話だけ別であげる予定でも小話なんです。

百春がキャラ崩壊したらどうなるかな、とか思いながら書いておりました。


 閑話 小話②

〜IS学園ラジオ〜

 

 時間は昼。みんなで昼飯を食べようと食堂に集まった時だ。

 

『IS学園ラジオ〜!』

 

 天井のスピーカーから明るく元気な声が流れた。

 

『さぁさぁ今日も始まりました。元気が無くなりそうな金曜お昼にお送りするIS学園ラジオ! 皆さんお馴染みの放送部提供でお送りします!』

 

「あ、始まったわね」

 

「昼飯ぐらい静かに食わせてほしいんだがなぁ。音が下げられないのが辛いな」

 

「確かに、もう少し落としても大丈夫だろうに」

 

『では、まずはさっそく曲のリクエストから! ハンドルネーム「山田先生イジり隊」さんリクエストのこの曲です!』

 

 何ですかその名前はぁ!? なんてどこからか聞こえた気がするが気にしない気にしない。先々週なんて『織斑先生に罵られ隊』だったしな。

 

「そういえば、一夏さんはどちらへ?」

 

「なんか呼び出されたとか言ってたわね。もも兄知ってる?」

 

「いや、知らないが………嫌な予感はするな」

 

「どうして?」

 

「普段一緒に昼飯食べないお前がいるからだよ楯無」

 

 このテーブルにいるのは俺・箒・セシリア・鈴、そして何故かいる楯無だ。いつも昼は自分のクラスメートか友人と食べてるこいつが今日は何故かここにいる。これだけで充分な理由になるだろ。

 

「私がいるから、なんて失礼ね。今まで何かしたかしら?」

 

「どこが失礼だ妥当だろうが。自分の胸に手を当てて過去の行動思い出せ」

 

「………………うん、何もしてないわよ?」

 

「ほぉぅ………………俺のトレーニングに混ざりに来たと思ったら妨害したり、うちの教室にやってきたと思ったら爆弾投下(ダーリン呼び)したり、放課後の一夏の訓練中にやってきて引っかき回し箒達を唆したのは何かしたに入らないと?」

 

「入らないわね」

 

「おう、即答すんな。少しは悪びれろ」

 

 朝のトレーニングに来たと思ったら参加する訳でもなく野次を飛ばす、放課後に教室に来たと思ったら『今日は家業の方を手伝わなきゃいけないから生徒会はよろしくねダーリン?』とかぶちまけてくれたお蔭でクラスメートに包囲される、クラス対抗戦に向けた訓練中に現れたと思ったら箒とセシリアに無い事吹き込んで一夏に対する狩りが始まる。それらの対処がどれだけ面倒だったか。

 

『………はい! リクエスト曲をお送りしました〜。そしていつものコーナーに行くところですが、今日は放送内容を変更してお送りします! なぜならゲストでこの方が来てるからです! それでは自己紹介どうぞ!』

 

『えっと、どうも。1年1組の織斑一夏です。よろしくお願いします』

 

『よろしくお願いしまーす!』

 

「「「「ブッフォッ」」」」

 

 楯無以外の全員がむせた。いないと思ったら何やってんだ一夏。楯無はニンマリと笑って俺達を見てるあたり知ってたな?

 

『え〜、弟くんをゲストで出して欲しい、という要望が多かったため、今回お呼びしました。今のお気持ちは?』

 

『あ、ありがとうございます? で合ってます?』

 

『合ってるよ〜。なので今回は弟くん自身について根掘り葉掘りとインタビュー、と行きたい所ですが! ここはあえて、変更!』

 

『じゃあ何を話すんだ?』

 

『良い合いの手ありがとう! 今回は………………題して、弟だから知っている! 兄の素顔〜!』

 

「は?」

 

『実はお兄さんの方にもゲストの要望が来てたんだけど、2人一緒に出したら時間が足りそうにない。けど、片方だけだともう片方の要望を出した人に申し訳ない。だからこそのこの内容!』

 

『なるほど?』

 

『それに、本人に聞いたところで隠す事もあるでしょ? 弟くんも』

 

『それは、まぁ、確かに』

 

『というわけで、弟くんにお兄さんについて聞いていこうと思いまーす!』

 

 ガタガシッ

 

 この放送は権力乱用してでも止めねばならない。そう思って立ち上がろうとした瞬間に誰かに肩を押さえられた。こんなタイミングで押さえるような奴は1人しかいない。

 

「どこに行くのかしら百春くん? まだご飯が残ってるじゃない」

 

「楯無ィ………………!」

 

 動きを押さえてきたのは当然楯無。こいつの狙いはこれか! 俺の弱みを握ってからかうのが目的だな?

 

『まずはジャブ! お兄さんの好きな物は?』

 

『コーヒーとトレーニングだな』

 

『それはもう知ってるのよねぇ………もっと他にない? 

こういう動画見てるとか、オフはこんな事してるとか』

 

『うーん、動画………………あ、そうだ。よくAV見てるな!』

 

 瞬間、食堂の空気が凍り付いた。恐らく校内すべてが局地的ブリザードによって凍り付いたであろう。放送事故にも程がある。やはり止めに行かねばならない。が、その前に、

 

「(お兄さんもそういうのを見るんですね)」

「(昔を知ってるとそんなものより鍛錬だ、と言うと思っていたが………)」

「(もも兄も男の人、ってことよね………)」

 

「おう、そこの3人娘。しっかり聞こえてるからな」

 

「も、百春くん、その………言ってくれたら配慮するから、ね?」

 

「『ね?』じゃねぇよ余計な気遣いをするな! というか見たことすらねぇよ!」

 

 しかし、一夏がこんな嘘を吐くとは思えない。何の事を言ってるんだ………?

 

『え、AV!? ま、まぁ、お兄さんも男性だし………………ち、ちなみにどういうのを?』

 

『主にネコかな』

 

『ネコぉ!? まさかのそっち系!?』

 

 カチャンコロコロコロ、と箸の転がる音が聞こえた。音がした方を見れば、楯無が表情が抜け落ちたような顔で固まっていた。あとの3人も似たようなもので………ヤバい、被害がどんどん広がってる。

 

『っていうか知ってるって事は弟くんも見たの!?』

 

『おう。俺もよく見るし、千冬姉もよく見るぞ』

 

『織斑先生も見てるの!?』

 

 み、見てないぞ!? だからそんな目で見るな摩耶! なんてどこかから聞こえた気がするな。それにお前らも光を失った目でこっちを見るな。楯無も『そんな、織斑家は腐っていた………?』とか呟くんじゃない。

 

『あぁ。テレビでもやってるしなたまに』

 

『え、あ、あぁ、そうね。有料チャンネルの深夜枠ならやっててもおかしくは』

 

『いや、ゴールデンタイムに地上波で』

 

『やってないよ!? 間違ってもゴールデンタイムなんかにネコは流さないよ!?』

 

『やってるって。ネコだけじゃなくてイヌとかウサギも』

 

『………………………犬? 兎? 弟くんごめん。そもそもAVってなんの略?』

 

『え? アニマルビデオだけど、それ以外にあるか?』

 

『『『紛らわしい!』』』

 

 スピーカーからも食堂も恐らく学校中も合わせた大合唱。というかそれの事だったのか。それなら確かによく見るな。

 

『普通に動物の動画って言ってよ! 何でそんな風に言ったの!?』

 

『え、兄貴の友達に、こういうことを聞かれたらこう言うといいよ、って言われてたから言ってみたんだけど………』

 

『恨むよお兄さんのお友達!』

 

 ………一夏にこんな事を吹き込む友人なんて1人しかいない。後で対あいつ用の札を切らせてもらおうか。

 

「こ、こんな事だろうと思っていたよ! まぁ、私は分かっていたがな!」

 

「しかし、本当に大丈夫でしょうか………? 一夏さんが、その、男性の方が好きだったりしませんよね………?」

 

「だ、大丈夫よねもも兄? 織斑家はみんな女の子が好きよね?」

 

「その聞き方だと姉貴もになるぞ。俺と一夏はいたってノーマルだ」

 

 姉貴は知らないがな。

 

「ほ、本当よね? 百春くんもちゃんと私達で興奮するわよね?」

 

「それは答えても答えなくてもマズいだろうが!」

 

 代わりと言わんばかりにチョップを楯無に落とす。答えたら気まずく、答えなかったら………うん。考えたくないな。高校の悪夢が蘇るようだ。

 

『はぁっ………はぁっ………と、とりあえず気を取り直して。つまり、お兄さんは動物が好きなのかな?』

 

『そうだな。見てると癒やされるらしい。実家の部屋にもウサギのぬいぐるみが置いてあるし』

 

 それを聞いた楯無が口を手で押さえてニヨニヨとこちらを向く。

 

「へぇ〜? ウサギのぬいぐるみとか意外とかわいい趣味なのねぇ? こっちには持ってこなくて良かったの?」

 

「いや、あれはな………………呪われてるんだ」

 

「え? 呪い?」

 

「あぁ。………小さい頃に貰ったんだが、何度捨てても戻ってくるんだ。燃えるゴミに出しても旅行先でゴミに出しても富士の樹海に投げ捨ててもお焚き上げしても何をしても! その日のうちに部屋に戻ってる! 持ち主より先に部屋に戻ってるとかどうなってんだ!?」

 

「ちょっ、百春くん落ち着いて!」

 

「しかも持ってきてないのに寮の部屋にあったんだぞ!? とりあえずトイレに飾ってるけどよ!」

 

「言われてみれば確かにあったわ!? 鼻眼鏡かけて時計持ってる白ウサギ!」

 

 おっと、蓋をしていた記憶が漏れ出した。というか、処分がてら庭で焼き芋やりながら燃やしたのに部屋に戻ったらあった事もあったしどうなってんだあのぬいぐるみは。

 

「………ふぅ、落ち着いた。すまんな、驚かせたか?」

 

「いや、それはいいんだけど………そういえば、もも兄って幽霊苦手なんだったっけ?」

 

「はっはっは、何を言ってるんだ鈴。幽霊なんていない。いいな?」

 

「アッハイ」

 

〈呪いを認識してる時点で幽霊はいると言っているようなものでは? アリスは訝しんだ〉

 

(黙れ)

 

〈アッハイ〉

 

(というか、ウサギのぬいぐるみって、どう考えても姉さんだな………?)

 

(お兄さんにも苦手な物があったんですね)

 

(今度お化け屋敷にでも連れて行ってあげようかしら)

 

「楯無。お前放課後石畳な」

 

「バレた!?」

 

『くっ………気付いたら大分時間が取られてた………! 苦手なモノも聞きたかったけど仕方ない。ここはもう聞いてるみんなが気になってるであろう女性関係について聞いてみよう!』

 

 ガタガタッ

 

 食堂のいたる所から物音が聞こえた。俺のいる机からも複数聞こえた。そんなに気になるか?

 

『兄貴の女性関係って、女友達ってことか?』

 

『それもそうだけど、聞きたいことはズバリ! 彼女はいるの!?』

 

『いないはずだぞ。いた事すら無かったはずだし』

 

『え、いた事すら無いの? 結構モテてそうなのに』

 

『なんだっけな………確か、さっき話に出た友達の方が高物件だからとか、生徒会にバイトに忙しいからいらないとか何とか』

 

『えぇ〜、学生時代は恋愛が醍醐味なのにぃ〜………じゃあ、お兄さんの好きなタイプは?』

 

『………………あれ? 知らないかも』

 

『嘘でしょ? 男兄弟とか友達って、こう、一緒にグラビア雑誌見ながら「この子いいなぁ」とかやるもんじゃないの?』

 

『そういうものなのか? やったことないな』

 

 確かにそういう話をしたことは無いな。一夏の好みのタイプは一方的に知ってるけど。

 

『う〜ん………じゃあ、さっきの女友達だ! 女友達の共通点が好きなタイプだきっと! という訳で早く思い出して! 時間も押してるから!』

 

『え、え~と………………………髪が長い人?』

 

『それだけ!? ここまで引っ張っておいて!?』

 

「………ってことらしいけど、もも兄の好きなタイプは?」

 

「いくつかあるが………そうだな、飯が美味いのはいいな」

 

「確かに、百春さんはよく食べるしな」

 

「や、やはり男性は料理が得意な女性が好きなんでしょうか」

 

「一概には言えないが、好評価になるとは思うぞ。自分好みの味付けだったら尚更な。なんだったら今度弁当でも作って一夏に食べてもらえばいいんじゃねぇか? 好みの味を知ってれば後々活きるだろ」

 

 好みの味付けの弁当作ってあげたり、デートした時の食事場所なんなりな。

 

「そうですわね! それならばぜひとも作らねばなりませんわ!」

 

「それならGW明けの初日にみんなで弁当でも持ち寄るか。一夏には俺が用意するとでも言っておく」

 

「百春さんも料理は作れるのか?」

 

「簡単な物ならな。弁当ならおにぎりかサンドイッチか丼物だな」

 

 ちまちまとおかずを用意して弁当箱に詰めるのは向かないからな。俺は質より量だから簡単にかさ増し出来るメニューは良い。

 

「ところで、どうした楯無。大人しいな」

 

「いや、ちょっと、ね。………時に百春くん、私がイメチェンで髪を伸ばしたら似合うかしら?」

 

「髪? 別に伸ばさなくてもいいだろ。お前はそれが似合ってる」

 

「!! そ、そう! 百春くんがそういうならこのままでいいわね!」

 

 髪をいじっていた楯無だが、そう言うと残っていた昼食を食べ始めた。………こころなしか顔が赤く見えるな。

 

「(こういう所は一夏にそっくりね………羨ましい)」

「(確かに、あのように言われるのはとても嬉しいですわね)」

「(だが、一夏が言ってくれるかというと………)」

 

「「「………………はぁ」」」

 

「あ〜、プチシュー食べるか?」

 

「「「………ください」」」

 

 目に見えて落ち込んだ3人娘にデザートとして購買で買っておいたプチシューを分ける。無言でスッと楯無も手を出してきたからその手に載せておいた。

 

『結局今回お兄さんは動物とロングヘアーの娘が好きってことしか分からなかったじゃんか!』

 

『というか兄貴なら直接聞いても答えてくれたんじゃないか? 案外、この放送が流れてる中で箒達に詳しく話してたりして』

 

『私の失敗だったということかチクショーメ!』

 

 おっと、そろそろ放送が終わりそうだな。放送が終わる前にやっとくか。

 

 電話帳から、生徒会業務で使うだろうからと入れておいた放送部部長の番号に電話をかける。

 

『………ん? 電話? あれ、勝手に繋がった』

 

〈スピーカーモードで繋げといたよ〉

 

「(でかした)よう、お2人さん。俺について何か分かったか?」

 

『兄貴!?』

 

『お兄さん!? え~と、なんのご用件でせうか?』

 

「ん? いやな、俺を公開処刑してくれた愚弟をどうしてくれようかと思ってな? いっそ、同じ事をしてやろうかと思った次第だ」

 

『! それはつまり!』

 

「今度俺がゲストとして招かれた暁には、しっかりと情報を流してやる。俺は色々把握してるからな」

 

『あ、兄貴!?』

 

「そう心配すんな一夏。大丈夫だ安心しろ」

 

『だ、だよな! 俺が恥ずかしくなったりするような事にならないよな!』

 

「もちろんだ。純然たる事実だけを持って、好きなタイプに性格、初恋相手がどんな人だったかまでちゃんと流してやる」

 

『いやそれ公開処刑! しかも恋愛関係だけ!?』

 

『おぉ〜! それはそれは期待できそうですね! そしてちょうど時間もいい頃合い。そろそろ締めるといたしましょう』

 

『待って! このまま終わらないで! 兄貴も冗談なら冗談て言って──って通話切れてる!?』

 

『お兄さんのゲスト参加予定日はGW明けから検討するのでしばらく待っててね! それでは今日はこの辺で! この後の授業も頑張って行きましょー! さ〜よ〜う〜な〜ら〜』

 

 

〜おまけ〜

 

 トゥルルル………トゥルルル………ピッ

 

『どうしたんだいモモ。また何か』

 

「死ね」

 

『シンプルな罵倒!? いきなり何だい!?』

 

「お前、俺が動物の動画を見ている事に関して、一夏に吹き込んだ事、忘れてねぇよなぁ? 昼の放送でやらかしてくれたんだが」

 

『………………さて、何の事だろう』

 

「お前ならそう言うと思った。だから地獄を見てもらう」

 

『一体何を………?』

 

『………………ねぇ、龍久。今モモから「そういえばタツとジェシカが前に生徒会室で2人きりで汗をかくほど運動してたんだが知ってたか?」なんて来たんだけど、どういうことかしら?』

 

『ゴフッ!? い、いやそれは、というかなんでモモが知ってるんだい!? 誰にも知られてないはずなのに!?』

 

『あ、「誰が生徒会室の掃除を担当してたと思ってる」ですって。で、どういうことかしら?』

 

『あ、それはデスネ』

 

『ジェシカはちょっと黙ってて!? 頼むから!』

 

『じゃあ、フタリだけの秘密デス、とかは言わない方がいいんデスネ?』

 

『それトドメ! というか分かってて言ったよね!?』

 

『………そこになおれ龍久ァ! 私というものがありながら──』

 

 ピッ

 

「いい気味だ。フッフッフッ………」

 

「「「「笑みが黒ーい………」」」」

 

 尚、実際は2人でDDRに熱中していただけの模様。この後3人は滅茶苦茶スマブラした。

 

 

────────────────────

 

〜息抜きは大事〜

 

「──簪の様子がおかしい?」

 

 ある日の放課後。俺と本音だけで生徒会業務をこなしていると、休憩がてらそんな事を本音が言ってきた。以前、俺が簪と話していたのは本人から聞いていたらしく、今回相談してきたようだ。

 

 ちなみに楯無に付いてる虚さんのような感じで、本音は簪に付いてるらしい。部屋は同じだそうだ。………本音の性格で付き人が務まるのか疑問に思ったが聞かないでおいた。

 

「そーなんだよねー。かんちゃん、いつにも増して作業に取り組んでてさ。切羽詰まる、っていうのかな。昨日なんか──」

 

『かんちゃん、まだ寝ないの?』

 

『ごめん、あともうちょっと。区切りが良いところまで』

 

『それ昨日も言ってなかった? それに今日の授業中に寝てて怒られたって聞いたけど』

 

『………ごめん。それでもやりたいの』

 

「──って、今朝の4時まで起きてたんだけど、どう思う?」

 

「………………かなり悪化してるな。これが続けば倒れてもおかしくはない」

 

「どーすればいいかな………?」

 

「そうだな、今話を聞きに行っても断られるだろうから………………よし、次の土曜だな。本音、金曜の夜は意地でも寝かせろ。週末に集中してやるなら今日は早めに寝た方がいいとかで。最悪、睡眠薬ぶち込め」

 

「それならたぶんできると思うけど………土曜日なにやるの?」

 

「こういう時にやる事は1つ。………バカをやるんだよ」

 

 

 土曜、朝9時。整備棟。

 

 ドパァンッ!

 

「──御用改めだオラァ!」

 

「!? 何!?」

 

 簪がいる整備室の扉を壊さんばかりの勢いで開ける。ミシッ、とか聞こえた気がするのは気のせいだろう。

 

「お兄さん!? 一体何しに」

 

「対象確認! 確保ー!」

 

「確保ー!」

 

「本音まで!? ちょっと………!」

 

 俺の陰から出てきた本音が室内に突入し、床に座り込んで作業していた簪を抱き締める。後ろからさりげなく両腕を上げられないようにしている辺り、普段から抱き着いている言っていただけのことはある。

 

「はるはる隊長! かんちゃん確保しました!」

 

「よし! のほほん隊員! 簪を外出着に着替えさせた後、ヒトマルマルマルまでに正門集合! それとはるはる呼びは止めろ」

 

「了解であります! はるはる隊長!」

 

「結局呼び方変わってないよ本音!?」

 

 

 

「………という訳で、やってきましたレゾナンス。はい拍手〜」

 

「いぇ〜い! ほら、かんちゃんも」

 

「い、いぇ〜い………?」

 

 しっかり拍手する俺と本音に対し、まばらに簪は拍手する。………ノリがイマイチだな。

 

「簪、ほらもうちょっと元気に行こうぜ。せっかくここまで来たんだからよ」

 

「あ、ごめんなさい………じゃなくて! 何で私を連れてきたの? 週末はISの作業を進めようと思ってたのに」

 

「それは………と答えたい所だが、文句疑問その他諸々は帰りに聞く。今何を言おうと受け入れないだろうからな」

 

「………内容によっては私にも考えがあるからね」

 

「肝に命じておこう。………本音の」

 

「私なの!?」

 

「いや、そこは自分の肝に命じておきなよ、モモ」

 

「来たか。というかモモの発音は桃じゃねぇ腿だと言ってるだろうが。久しぶりに間違えやがって」

 

 かけられた声の方を見ると、黒髪眼鏡の男と金髪ロングヘアーの女という見慣れた2人がそこにいた。

 

「ん? ヒメはどうした? 来る予定じゃなかったのか?」

 

「姫子は残念ながら急用が入ってね………今日は僕達だけだ」

 

「にしても久しぶりデス。お元気でしたかピーチボーイ」

 

「その名で呼ぶなと何度も言ってるだろうが! 誰が桃太郎だ!」

 

「なら………チェリ」

 

「ふん!」

 

「Ouch! Help! Help me!」

 

「………モモ、彼女はいつものことなんだからその辺で」

 

「それもそうか」

 

 コブラツイストを金髪の方にかけていたがタツに言われて解放する。こいつ身体柔らかいから折檻があまり効かないんだよな………

 

「お兄さん、その2人は?」

 

「ん? あぁ、そうか。姉組は会ってたが妹組は会ったこと無かったか。なら紹介しよう。2人とも俺の友人で、眼鏡をかけてる黒髪の男が龍宮龍久、俺のISのスポンサーみたいなやつだな。で、金髪ロングの外国人の方が」

 

「Hi! ジェシカ・フェニックスデス! 今日はよろしくデース!」

 

「デスフェニックスさん? 4マナの?」

 

「違いマス! 暗黒王ではないデス! フェニックス、がファミリーネームデス!」

 

 腰に手を当ててプンスコ! といった感じで簪に答えるが、態度だけだな。サブカルチャーが話せる人だ、と内心喜んでるなこいつ。簪もちょっと目を輝かせてる気がする。

 

「という訳で、今日は俺が学園に来る前にいた高校の友人を誘った。で、お前らにも紹介するが、眼鏡かけてる方が更識簪、のほほんとしてる方が布仏本音だ。タツにはあの2人の妹達と言ったほうが分かりやすいだろ」

 

「あぁ、なるほど。よろしくね」

 

「よろしくお願いします」

 

「よろしく〜。で、はるはる。この5人でどこ行くの?」

 

「ブッフッ!」

 

 本音がそう言った途端ジェシカが噴いた。

 

「ハ、ハルハル!? ッフフ、それなら金髪ツインテールにしてロングコートを着なきゃいけないデスネ! ハ・ル・ハ・ル!」

 

「だぁれが金剛型3番艦のメンタルモデルだオラァ! バーニングラブかましてる1番艦みてぇな喋り方してる奴がよぉ!」

 

「私は英国生まれじゃなくて米国生まれデース! あとワタシの腕はそっちに曲がるように出来てないんデース!」

 

「モモ、それ以上いけない」 

 

「む………騒がしいから誰が騒いでるのかと思ったらドレッドじゃないか」

 

 ジェシカにアームロックを極めているのをタツに注意されていると、クレープを食べているエムが現れた。

 

「………………モモ、彼女は?」

 

「あ〜………こいつはエム。この辺りに住んでるハトコだ」

 

「「名字は宝生だったりします(マス)?」」

 

「しないが? というかドレッドにも言われたがホウジョウ・エムとやらは誰だ」

 

 顔が似ている以上赤の他人という言い訳は出来ないからハトコという理由をつけたが、エムも察してくれたのか何も否定は無かった。そうして女性陣がエムに話しかけている裏で、タツが小声で話しかけてくる。

 

「(で、モモ。本当は誰なんだい? キミ、ハトコどころかイトコもいないだろう?)」

 

「(それが分からん。顔が瓜二つレベルで似てる以上、血縁関係はあるはずなんだがさっぱりだ)」

 

「(もしかしたらキミかお姉さんのクローンだったりしてね。モモはお姉さんともそっくりだし)」

 

「(………………………かもな)」

 

「(?)」

 

 クローンというかなんというか、そういう技術が実際にあるのはよく知っている。海外の友人もそうだからな。………そういえば、束さんに引き取られたあの子は元気かね? 束さんに引っ張り回されて苦労してそうなイメージしかないんだよな………

 

「しかし、久しぶりだなエム。また勧誘されたりしてないか?」

 

「あぁ、あの時のような鬱陶しい男ならさっき会ったな。簡単に痩せる薬が欲しくないか、とかなんとか」

 

「どこだそいつは。しばき倒して警備員に突き出してやる」

 

「安心しろ。あまりにも鬱陶しかったからしばき倒しておいた。私服警官もいたから大丈夫だろう」

 

「ならば良し」

 

「………ほんと、そっくりだよキミ達。犯罪者を容赦なくしばこうとする辺りが」

 

 俺とエムを見て他の奴は苦笑している。どこにそんな要素が………?

 

「それでだ。ドレッドは何をしてるんだ? 漫才とやらか?」

 

「んな訳あるか。これから遊びに行く予定なんだよ。せっかくだしお前もどうだ? ちょうど1人欠けてるから来てくれると遊ぶ時に人数が分けやすいんだよ」

 

「ふぅむ………………大丈夫だろう。時間には余裕がある」

 

「よし。ならこの6人で遊ぶか!」

 

「「「おー!」」」

 

「「お、おー」」

 

 

 レゾナンス内アミューズメント施設。数時間分の料金を払えば色々なゲームで遊ぶことができる(一部施設を除く)。例えば──

 

「じゃあ最初はモモから行こうか」

 

「よし………ボールを相手のゴールにシュート!」

 

「超! Excitingデース!」

 

「………なるほど。初めて見たがボーリングとはこうやるのか。次は私がやろう」

 

「いやバ○ルドームじゃないしゴールじゃないしエキサイティング要素見当たらないしボール転がってないしそのやり方を信じちゃってるし私のツッコミ長すぎるし! ………はぁ、はぁ」

 

「はい、かんちゃん。飲み物」

 

──ボーリングだったり。

 

 

「ねぇ、3人とも。何で僕が怒ってるか分かるかい?」

 

「なぜだ? スカートで登るなと言っていたのに金髪が登ったからか?」

 

「………違う」

 

「あれか? ジェシカが上にいるときにお前がスカートの中をガン見してたのをヒメにメールしたからか?」

 

「違う。というかなんて事をしてくれてるんだい?」

 

「ならあれデスネ。パンツを見たかったのにワタシがスカートの下にスパッツを履いていたことデスネ? 下を見たときにガッカリしてマシタ」

 

「何もかもが違う! あのね! ここは1つ1つ登るのを楽しむんであって、ジャンプでどこまで届くかとかそれは垂直跳びなんだよ! 君達が競ってる時に職員に白い目で見られていた僕達の立場ってものを考えてよ! 更識さんなんか頭まで下げてたのにさ!」

 

「「「それだったかー」」」

 

「本音、放して………! 一回叩かせて………!」

 

「かんちゃん、どーどー」

 

──ボルダリングだったり。

 

 

「ふぅ………ゲームクリア、と」

 

「簪、お見事。エムも初めてなのにクリアまで行くとは」

 

「ふん、この程度のガンシューティングとやらなら余裕だ」

 

「その余裕をクリアできなかったのがこちら〜」

 

「は、はは………どうせ僕にシューティングは向いてないんだ………」

 

「別にISに乗るわけでも無いからクリアできなくてもくやしく無いデース………」

 

「レースゲームも格闘ゲームもなんなくクリアしてたし………エムさんの名字やっぱり宝生だったりしない?」

 

「しない。だから誰なんだホウジョウ・エムとやらは」

 

──ゲーセンだったり。昼飯を挟みながら思い切り遊んでいた。

 

 その途中。

 

 うー、自販機自販機。今、自販機を求めて歩いてる俺はごく一般的な高校生。強いて違う所をあげるとすれば年上の女性に興味があるってところカナー〉

 

(おうアリス、なに勝手に人の言葉を捏造してんだ)

 

 バスケをする前に飲み物を飲もうという話になり、じゃんけんで負けた俺が施設入口の自販機に向かっていた。

 

〈え!? ももくん年上の女性に興味無いの!? 束さんとかちーちゃんとかも!?〉

 

(年上だろうが年下だろうが興味あるやつにしかねぇよ。というか束さんは良いとして何故姉貴を挙げた)

 

〈いや〜、ちーちゃんがこのまま行くと──〉

 

 

──ガンッ

 

『くそっ! 情けない男ばっかりだ!』

 

『姉貴、また合コン駄目だったか。あと缶を机に叩きつけないでくれ傷がつく』

 

『百春、おかわり!』

 

『明日が休みとはいえ飲みすぎないでくれよ? あとこれつまみの塩キャベツ』

 

カシュッ

 

『ングングング………プハッ。恐れ多くても参加してる時点で彼氏が欲しいのは分かるだろ! 恐れずに来いよ! 同僚も同僚だ! 私の理想のどこが高いんだ! ………あぁ、この塩気が酒を進ませる………』

 

『酔ってんなぁ………姉貴が求めるのは料理の腕と腕っぷしの強さだろ? 料理の腕はほどほどで良いとしても、姉貴を倒せる腕っぷしの強さとか言ってみれば俺並なんだ。このご時世、そうそういないだろ』

 

『そうだよな………百春並に強くて、百春並に気がきいて、百春並に酒のつまみを………?』

 

『? 寝るならせめて布団に行ってくれよ?』

 

『百春』

 

『おう、何だ姉貴。目が座ってるぞ?』

 

『私を抱け』

 

『何言ってんだこの酔っぱらい』

 

『気付いたんだよ百春。私の好みの男性像をまとめたらお前になると』

 

『ベルト外すなズボン下ろすなブラウス脱ぐな!』

 

『式を挙げられないし、世間の目もあるが………まぁ、問題ないな』

 

『問題しかねぇんだよ! あと下着まで脱ぐんじゃねぇ!』

 

『とはいえ、私も女だからな。女の悦びというのを知りたいんだよ』

 

『だからって弟に手を出すな! 俺のズボンにかけた手を離せ!』

 

『ええい、往生際が悪い。もういい。私が抱く!』

 

『ちょっ、まっ、アッ──────!』

 

 

〈………ってなると思うんだよね。翌朝乙女の顔でももくんに笑いかける所まで想像できた〉

 

(やめてくれ恐ろしい)

 

〈やっぱり?〉

 

(当たり前だ。何が恐ろしいってその未来が来ない、って言い切れない所が恐ろしい)

 

〈弟にまで結婚できないと思われてるよちーちゃん………〉

 

 もしかして、俺が結婚できるかって姉貴が結婚出来てるかどうかで変わるのか? そんな訳ない事を祈る。

 

 そんなこんなで自販機に辿り着いた俺はスポドリを人数分買うために千円札を取り出したのだった。

 

 

〜簪視点〜

 

「あの………龍宮さん」

 

「どうしたんだい更識さん?」

 

 お兄さんが飲み物を買いに行ってる間、バスケコートの脇にあるベンチに私たちは座っていた。本音はお菓子をポリポリ食べていて、エムさんはジェシカさんにバスケの手ほどきを受けている。………ボーリングもバスケも知らない見たことないって、エムさんはどんな生活をしてるんだろう?

 

「お兄さん………百春さん、って高校だとどんな感じだったんですか?」

 

「どんな感じ? あぁ、なるほど。学園のモモと今日のモモが違いすぎるからかな?」

 

「はい………あんなにはっちゃけてるお兄さんは初めてで」

 

「なるほど。確かに、学園のモモは一歩引いた場所で見守ってる感じだったね。どちらかというと、高校の時も学園の時と変わらなかったよ。………ある状況を除いて」

 

「ある状況?」

 

「そう。今日みたいなモモになるのは大体誰かが思い詰めて悩んでる時だ。そういうとき、こうやって連れ出して遊ぶんだよ。ヒメもジェシカも、僕も何度か連れ出された」

 

「龍宮さんも?」

 

「これでも龍宮グループの次期総裁、思い詰めることはいくらでもあった。次期総裁になるために思い詰めてたり、学業との両立に悩んでたりね」

 

「じゃあ、今日私が連れ出されたのは………」

 

「キミが思い詰めていたからだ。………あぁ、何で思い詰めてたかは聞かないよ? それはモモの役目だからね。だから今キミがやることはただ1つ。頭を空っぽにして遊ぶこと。モモ風に言えば『バカをやる』だね」

 

「バカをやる………」

 

「まぁ、要するに学生らしく遊べってことだよ。大体僕らが頭悩ませてるのは学生らしからぬ内容だからね」

 

 僕にもボールちょうだい、と龍宮さんはジェシカさんに声をかけて丁度やっていたパス練習に混ざっていった。

 

 ………私が思い詰めてるとお兄さんが知ったのは、おそらく本音からだろう。本音がお兄さんに相談したということは本音に心配をかけてたからであって、それを聞いたお兄さんがこんなに早く動いたのはお兄さんも同じように心配したからであって。

 

 今にして思えば、確かに思い詰めてた気がする。いや、『気がする』じゃないな。この前までの行動を振り返ると明らかにやりすぎだ。本音が私と同じことをしてても、私は本音と同じことをすると思う。

 

 原因について思い浮かべ、なんで私がこうなっていたかと考えると………

 

「………焦ってたのかな、私」

 

『おい、お前ら』

 

「え?」

 

 

〜百春視点〜

 

「………で、その後このコートの使用権をかけて勝負することになったと」

 

「そういうこと」

 

 飲み物を抱えてバスケコートに戻ってくると、何やら知らない面子と3on3をやっていた。ベンチにいたタツに話を聞くと、コートの予約がブッキングしていたらしい。それで使用権をかけて3本勝負することになったとか。ちなみに俺達がちょっと負けてる。

 

「にしても、やるねモモ。飲み物を買いに行ったついでに綺麗な女性まで手に入れてくるなんて」

 

「おう、人聞きの悪いことはやめろ」

 

「そうなのよ。あんなに熱く口説かれたら断るのも野暮ってものじゃない?」

 

「あんたも乗るな」

 

〈やはり、ももくんは年上好き………〉

 

(お前は黙れ)

 

 タツの言う綺麗な女性とは、エムの保護者であるスコールというアメリカ人の女性だ。エムから聞いたことがあるからか、ペットボトルを抱えて歩いてる俺がドレッドだと気付いた。………ついでに男性操縦者の織斑百春とも。エムはスコールさんに言われてから気付いたらしいが、意外と抜けてるのかあいつ?

 

「で、何でお前は眼鏡をかけずにベンチにいんだ?」

 

「あぁ、向こうはちょっと、ダーティなプレイが目立ってね。僕は眼鏡が割れたからコンタクト入れがてらベンチに。エムさんは超初心者だから参加はやめておいた。それで、残った3人が頑張って──」

 

バタンッ

 

「かんちゃん!」

 

 何かが倒れた音と本音の叫び声を聞いてコートの方に目を向けると簪が足首を押さえて倒れていた。

 

「大丈夫デスカ!?」

 

「本音、ジェシカ、どいてくれ。簪、触るぞ………………こりゃ、足首を捻ったな。タツ、確か受付辺りに救護室があった筈だ。ひとっ走り頼む。エムはそこのスポドリを患部に当てといてくれ」

 

「まかされた」

 

「了解した」

 

「そこの! 今、わざとかんちゃんの足を引っ掛けたでしょ!」

 

『はぁ? 何言ってんのかさっぱりだなぁ?』

 

『そいつが勝手に転んだろ? そうだよなお前ら?』

 

 それぞれ言葉は違うが肯定する相手チーム。………ちょっと堪忍袋の緒が切れ始めてる気がするなぁ?

 

「………お前ら、何故汚い真似をする? いくら勝負と言えどやっていい事と悪い事くらい分かるだろ」

 

『おいおい、俺達が勝負に勝ちたいからやってると思ったら大間違いだ』

 

『そうだぜ。別に勝負にかこつけて、このご時世にハーレム状態の奴を見かけたから痛い目に合わせたいとか思ってないぜ』

 

「いや、口からハッキリと出てるが」

 

「というかそれで女の子を痛めつけるとか意味が分からないデース」

 

「それに、こんなことをしてもあなた達がモテるわけでもないし、むしろこんな事をしてるからモテないんじゃない?」

 

『うるせぇぞ、おばさん』

 

 ピシリ、と何かがひび割れるような音がしたと思ったら、急に寒気が………………その寒気で俺の堪忍袋の緒は元通りになったが、横にいる人のやつが切れただろこれ。

 

「ふ、ふふふ………………いい度胸ね。誰に何を言ったのか分からせてあげる。ドレッド、あとジェシカだったかしら? やるわよ?

 

「「Yes,mum!」」

 

 その凄みに圧され、思わず敬礼をしながら叫んだ俺とジェシカは悪くないはずだ。

 

 

 

 あの後、逆転どころかダブルスコアをつけて俺達が勝利した。生半可な速度のパスは俺にカットされ、シュートはジェシカにカットされ、スコールさんは俺とジェシカを足して割ったような活躍を見せた。

 

 ………黒いオーラに赤く光る目を幻視させたスコールさんは相手だけでなく味方からも恐れられていたことは黙っておこう。

 

 結局、タツの眼鏡や簪の怪我もあり、この日は解散することとなった。歩くのは厳しそうな簪は俺が背負っている。

 

「………………お兄さん、今日はありがとう」

 

「ん?」

 

「私ね、この前の襲撃で何もできなかった。専用機はあるけど使える状態じゃなかったから避難するしかできなかった。お兄さん達は戦ってて、本音でさえ避難誘導してたのに」

 

「かんちゃんひどくない?」

 

「いつまたあんなことが起こるかも分からない。専用機が未完成のままだったら、また私は何もできないでいることになる。だから早く完成させないと、って焦って思い詰めてた」

 

「過去形ってことは今は大丈夫だな?」

 

「うん。頭の中はスッキリしてる。今までやり込みすぎだったから、ほどほどで進めていくよ」

 

「それなら連れ出したかいがあった。焦るな、とは言えないが、思い詰めるくらいなら俺に相談しろよ?」

 

「うん。分かった、お兄ちゃん」

 

「………………」

 

「? お兄ちゃん?」

 

「………………のほほん隊員、聞いたか?」

 

「もちろんです、はるはる隊長。プロですから」

 

「何のプロだよ」

 

「どうかしたの?」

 

「簪は気にしなくていい。俺は『お兄ちゃん』だからな」

 

「そうだよかんちゃん。はるはるは『お兄ちゃん』だからね」

 

「ん〜? ………………………あっ、今すぐ忘れて2人とも!!」

 

「いや〜、何について言われてるのか『お兄ちゃん』には見当も────待て簪! 暴れるな落としかねん!」

 

「じゃあ早く忘れてお兄ちゃ、お兄さん!」

 

「はるはるがかんちゃんのお兄ちゃんか〜。やったねかんちゃん、家族が増えるよ」

 

「おいやめろ」

 

「こら、本音ー!」

 

 逃げる本音を簪を背負った俺が追いかける。後日、本音から聞いたが、その時の簪はとてもいい顔で笑っていたらしい。

 

 

〜おまけ〜

 

「そういえば簪。今日の事に納得いかなかったらどうしてたんだ? 考えがある、って言ってただろ」

 

「考え、っていってもお姉ちゃんに言うだけだよ?」

 

「ちなみに何て?」

 

「え~と、例えば『今日お兄さんに無理矢理(外に連れ)出された』とか『あんなことやこんなことをする羽目になった(※スポーツの意)』とか?」

 

「やめろ。俺を社会的に殺す気か」

 

 

〜おまけ2〜

 

 寮の部屋にて。

 

「にしてもかんちゃんがはるはるを『お兄ちゃん』呼びするなんてね〜」

 

「うぅ………思い出させないで本音………まだ恥ずかしいぃ………」

 

「そんなかんちゃんに朗報です。お兄ちゃん呼びしても大丈夫な方法があります」

 

「………………………………どんな方法?」

 

「葛藤なが〜い。簡単だよ。お嬢様とはるはるをくっつければいいんだよ。そうすれば周囲に誰がいても『お義兄ちゃん』と呼べるよ〜?」

 

「それは確かにそうだけど、お姉ちゃんがお兄さんを好きとは限らないんじゃないの?」

 

「………かんちゃん。はるはるから散々愚痴られてるでしょ? お嬢様が好きでもない男にあんなことすると思う?」

 

「………………思わない」

 

「そういうことだよ」

 




TOPICS:ジェシカ・フェニックス
 百春がいた高校に通っているアメリカ人。留学生ではなく、親の仕事の都合で日本に引っ越してきている。アメリカではチアガールをやっていて、そのせいか身体能力うが高め。だが、日本文化に触れてからアニメ・漫画・ゲームをこよなく愛するオタクとなったため、宝の持ち腐れのようなものになっている。百春との初対面時にモモからピーチを連想したことからそれにちなんだ名前をよく呼ぶ。その対応が非常に鬱陶しいため、ピーチと呼ばれることをモモは嫌っている。ちなみに、龍久がモモの発音をあえて間違えるのはジェシカと百春のやり取りを見たからである。龍久の愛人を目指しているらしい。

TOPICS:ウサギのぬいぐるみ
 百春が部屋に飾っているぬいぐるみ。カメラのレンズのような目に、鼻眼鏡をかけて時計を持っていることが特徴。中には綿が詰まっているが、握ると固い何かやひものようなものが入っているのが分かるようだ。とある人物からのプレゼントであるが、ボロボロになったので捨てたら部屋に戻っているという現象が発生。それ以降どうやっても戻ってくるためあきらめた。戻ってくるたびに部屋の窓が開いているが、それも謎である。尚、犯人は………


というわけで小話でした。

一応時系列のようなものとして、ラジオはGW前、息抜きの方はGW明けてしばらく経った頃を考えています。

次回は本編、と行きたいところですが前書きにも書いた通り、もう1話だけ小話をやる予定です。本編はもう少々お待ちください。

ではでは次回も気長にお待ちください。
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