織斑一夏の兄が行く   作:ふくろう639

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小話の続きです。
ぶっちゃけ分割できたし、なんならもっと後の方で投稿しようかと思ってたけども、書きたくなったなら書くしかないよね。
明日って今さ!


UAが20000突破しました!
こんな小説を読んでくれるなんてありがてぇありがてぇ………


 閑話 束の百春観察日記

「お、観察日記じゃん」

 

 ちーちゃんが第2回モンドグロッソで見事連覇した後、お祝いの電話を入れようかと思ったけどインタビューや会見が終わるまで時間がかかるだろうと周囲の山を物色………もとい整理していたら行方が分からなくなってた日記が出てきた。

 

 ちょうどいい暇つぶしだ、と飛ばし気味に読むことにした。

 

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?月?日

 うちの道場内じゃなくて外で筋トレしてる子がいた。

 誰だろ? ちーちゃんに似てるから聞いてみよ。

 

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?月?日

 あれはちーちゃんの弟だったらしい。

 弟はいっくんだけじゃなかったのか、と聞いたらここしばらく入院してたとか。こっちに引っ越してくる前からだったらしいから知らなかったのも無理ないね。

 

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?月?日

 あの子を見かけるようになってから1ヶ月が経った。

 相変わらず外でひたすら筋トレしてる。

 うちには大体が剣を習いに来てるのに、あの子は素振りすらしてない。

 なんでだろ? また今度ちーちゃんに聞いてみよ。

 

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?月?日

 数日分をまとめて書く。

 なんとなく声をかけたあの子に周囲を有象無象としてしか見ない私もよくする目で、誰かを助けるためには力がいる、と返された。

 目と言葉が気になった私はちーちゃんに詳しく聞こうとしたら私の行動が珍しかったようで、明日の天気は槍か? なんて言われたから自分で調べることにした。文句は言わせないよちーちゃん。

 結果として、入院と引っ越しの原因となったアパートの火災で母親を助けられなかった事が原因だった。どうも、瓦礫をどければ助けられたかもしれないけど、非力なあの子じゃ無理でその場から逃げるしかできなかったみたい。そりゃあーなっても仕方ないね。

 

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?月?日

 ちーちゃんに、お前と同じく友達いないから百春を気にかけてくれ、とか言われた。あの子は知らないけど、私に友達いないのはちーちゃんくらいしか付き合ってもいい人がいないからだよ。私の友達というからには、せめてひと分野くらいは私並みでいてほしい。故に天才である私は孤独孤高なのだ。

 

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○月✕日

 私は激怒した。必ず、かの筋トレ少年が私を有象無象として見ることを止めさせなければならぬと決意した。

 私には常識が分からぬ。私は、天才である。ハイスペックな身体能力を持ち、圧倒的な頭脳で様々な物を開発して過ごしてきた。

 けれども自身に向けられる視線に対しては、人一倍敏感であった。

 

 なんて書いてみたけど、要は私にクラスの男のような鬱陶しい視線ではなく、有象無象のどうでもいいものを見る視線を向けて筋トレを続けるちーちゃんの弟こと百春には私の凄さを分からせねばならない。凄さを分からせれば私を有象無象ではなく篠ノ之束として視認し、あの視線はやめるはずだ。

 手始めに、やってる筋トレが如何に効率悪いかを指摘して効率の良いメニューに変えてやろう。

 ついでに日記もつけよう。私の凄さを分からせた後にこの観察日記を見せて、いかに分かるのが遅かったのか思い知らせるのだ。とりあえず見かけた日からの分もそれっぽく書いておこう。

 

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□月○日

 未だ視線は変わらない。

 効率の悪さ、小さい頃から筋トレしすぎると背が伸びなくなること、効率的かつ成長に影響しないメニューなどを小学3年生である彼に話したが、視線は若干変わった程度で根本は変わらないままだ。

 あの目は有象無象から多少使える有象無象になった程度だ。もっと私の凄さを分からせねば。

 

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□月✕日

 ちーちゃんに殴られた。

 ただ3姉弟がお泊りに来たから、私がお風呂に入る時に「さすがに視線変わるんじゃない?」と百春を引きずりこんで一緒に入っただけなのに。私の裸を見た上で何も反応しないとか、やはり私の凄さを分からせねばならない。

 分からせた後でまたお風呂に引きずりこんでやる。そうすれば慌てふためくのが見れるはずだ。

 

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☆月□日

 3ヶ月経った。まだ視線は変わらない。が、気付いたことがある。私が周囲に向ける視線と百春の視線は根本が違うのだ。この根本の違いが凄さを分からせる鍵だ。今以上に観察しよう。

 

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☆月★日

 観察した結果、顔付きはちーちゃんによく似ている。目付きは鋭いけど将来有望そうだ。って違う! 視線の根本を探るんだよ!

 

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✕月△日

 半年経った。それでも視線は変わらない。目線の高さは変わったのに。

 というのも、成長期もあったのか私考案のメニューですでに小6か中1くらいの体格になっている。このまま行ったら高校に入ったくらいで筋肉ムキムキマッチョメンになるのでは? ………筋肉ダルマにはさせたくないな。理由をつけて筋トレは抑えて、技を覚えさせていこう。

 まずは私が覚える所からだ。どんな技も私が教えることによって「さすが束さん!」となるに違いない。私の凄さを分からせるのだ。

 

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△月☆日

 9ヶ月経った。この日、意外な弱点を見つけた。

 うちの道場は剣を教えているのだし剣技も覚えさせようとしたけど、圧倒的に向いてないのだ。片手で振るってもぶん回すだけで、両手で振るってもどうしてもぎこちない。たぶん剣で言うなら日本刀とかより潰し斬るタイプの西洋剣が向いてるんだろうな。得意武器は長物系と見た。

 それなら今は格闘技を覚えさせることにする。

 

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○月□日

 成 し 遂 げ た ぜ。

 1年経った今ではももくんは私を有象無象ではなく私、篠ノ之束として見ている。お風呂に引きずりこんだ時も予想通りの反応をしてくれた。赤く顔を染めながらも顔を背けたりしてたけど、その時の視線がどこに向いていたか分からない束さんではないのだよ。湯船で抱き締めた時も実に良い反応をしてくれた。とても愉快である。ふふふ。

 もちろんスマートかつエレガントに視線を変えさせた、と言いたいけど実際は正反対。泥臭く喧嘩した。うちの道場内だから泥無いけど。1年経っても視線が変わらないんじゃさすがに束さんの堪忍袋の緒が切れるってもんだよ。根本の理由が分かったら尚更ね。

 そうそう、この日記をももくんに見せようと思ったけど、やめた。ちょこちょこ恥ずかしい事が書いてあるからね。これからは普通の日記として適当に書いていこう。

 

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「懐かしいなぁ〜。確かこの日って、トレーニングに来たももくんを道場に投げ飛ばしたんだっけーー」

 

 ーー私に普通に声をかけてきた百春を思わず道場に向かって全力で投げ飛ばす。今日は道場休みだし、道場の扉ごと百春が飛んでいっても私が鍛えたんだ。無事に決まってる。

 

 現に、空中で体勢を立て直して滑りながらも着地した。

 

『………いきなりだな』

 

『お前。お前お前お前! ふざけるなよ! 束さんをそんな理由で見続けやがって!』

 

『………何のことだ』

 

『すっとぼけるのも大概にしろよ! お前、私が死ぬとでも思ってんだろ!』

 

『!?』

 

『あぁ、くそ、今まで気付かなかった自分に腹が立つ。それ以上にお前に腹が立つ! 母親を失ったショックを二度と味わいたくないからって、二度と失いたくないからって大切なものを増やさないように私を有象無象として見やがって!』

 

『………………っ』

 

『私を誰だと思ってる! 束さんだぞ! スペックは周囲と一線どころか二線三線を画す束さんだぞ!? その辺の弱っちい有象無象と一緒にするな! 私を見ろ!』

 

『………………かる』

 

『あん?』

 

『あんたに何が分かる! 助けたいのに助けられない悔しさが! 逃げるしかなかった惨めさが! あんな思いを二度としたくないという怖さが! あんたに分かるのか!?』

 

『分かるかよ! さすがの束さんもエスパーじゃない! 分かってほしいなら声に出せ!』

 

『あんたに言ってどうなるってんだ! 他人でしかないあんたに!』

 

『ーーっ!』

 

 そう言われると何も言えない。私が百春に接しているのは、言ってみれば自己満足のため。そのために百春を鍛え上げて私を見る目を変えようとしてる。付けようとすれば関係の名前はつけられるけど、結局付けてないのだから他人程度の関係でしかない。

 

『そういうあんたはどうなんだ! 俺と同じように周囲を有象無象と見るあんたは!』

 

『お前と一緒にするな! お前とは違う!』

 

『あぁ、違うだろうさ! 周囲を自分以下の何かと見下すあんたとは!』

 

『!? なんで………』

 

『気付いてないとでも思ってたのか? お前は声をかけてきた時からずっと! 遊びがいのある玩具を見てるような目なんだよ! 俺はあんたの玩具でもなんでもない! 俺は俺だ!』

 

『それなら私も言わせてもらうよ! 私は私だ!』

 

『『私(俺)を見ろッ!』』

 

 2人とも格闘技の技は覚えてるのに、そこから繰り広げたのは技も何もないただの殴り合い。殴って殴られ、殴って殴られ。たまに蹴って蹴られて、また殴り殴られ………

 

 少年漫画よろしく互いの顔に拳が決まった所で、2人とも床に倒れた。疲弊した身体を少し動かして、大の字で天井を見上げる。

 

『………………ねぇ、思ったんだけどさ』

 

『………なんだよ』

 

『結局、私達って似た者同士だったのかもね』

 

 周囲を有象無象と見ていて、孤立していて、初めて話した時から互いを見る目に不満があった。そうして抱え込んだ不満がこうして同じように爆発したんだから、実に似ていると言えそうだ。

 

『そういえば、喧嘩は同じレベルでしか起きないらしいな』

 

『あはははは! そっか! 要するにーー』

 

『そう。要するにーー』

 

『私と同じレベルに上がってきたんだ!』

『俺と同じレベルに落ちてきたんだ』

 

『『………は?』』

 

『おう、ちょっと待て。俺があんたに追い付く訳ないだろ』

 

『そっちこそ何言ってんの。私にそっちが追い付かない訳ないだろ』

 

『あんなに効率的なトレーニングメニュー考えて、技は全部自分で覚えてから俺に教えてたあんたのような凄い人に俺が並ぶ訳ないだろ!』

 

『ふざけんな! この束さん考案の限界という名の壁にちょっとずつ穴を開けるレベルのトレーニングメニューを弱音を吐かずにこなし続けて、教えた技は全部きっちり覚えたそっちが私に並ばない訳ないだろ! 近接格闘なら私に並ぶぐらいだし、その辺の奴ならとっくに逃げてるよ!』

 

『分からない人だな!』

 

『そっちこそ!』

 

『『………上等だ。表出ろ! …………ぷっ、あははははは!』』

 

 口ではなんだかんだ言いながらも、結局は2人とも同じレベルだと言っているのがおかしくて、大声で笑い合う。

 

『あー、おかしくって腹痛いや』

 

『こっちは殴られた箇所もあって尚の事痛いよ。あ〜、痣になるかなこれ』

 

『う〜ん………百春………もっくん………はーくん………ももくん………うん、これかな』

 

『何をブツブツと言ってんだ?』

 

『なんでもないよ。これからもよろしくね、ももくん!』

 

『………あぁ、よろしく、束さん』

 

 ーーってな感じで成し遂げたんだよね。しかし、私もももくんをそんな目で見てたのは気付かなかったな〜。あれかな。深淵を覗くとき深淵もこっちを覗いてる的なやつ。

 

 その後、道場から出た後にちーちゃんに見つかって説教されたんだよね。たぶん、道場の外で会話を聞いてたんだろうからこってり絞られなかったけどさ。

 

 さてと、区切りはいいけど時間はまだあるし、もうちょっと日記を読み返そう。

 

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ももくん小4 夏

 これからの日付はこんな感じで進める。

 というのも、去年1年ももくんにほとんど付きっきりだった結果、国からISコアをさっさと作れと催促された。作ってなかったわけじゃないけど、週に1個作れればいいペースだったからねぇ。この状態が続くなら缶詰コース(研究所暮らし)らしいから、泣く泣く接する時間を減らすことにした。

 

 さて、ももくんはというと、私との一件からか明るくなったようで、学校でも上手くやり始めたらしい。私がこれを書いている日は、クラスの子に誘われて遊んでるそうだ。ちーちゃんに感謝されたけど、思わず『偽物?』って言ったらこめかみグリグリされた。ちーちゃんだって、私に対して槍が降るとか言ったじゃんか。

 

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ももくん小4 秋

 小学生は運動できる子がモテるもの。スポーツの秋ということもあってか、ももくんは色んなクラブ活動に呼ばれてるらしい。なんでも卒なくこなすからか、先生からも頼られてる部分もあるようだ。色々仕込んだ私としては鼻が高いぜ。女の子からの黄色い声にも反応しないのも高評価だ。

 

 ももくんは最近、柔道が楽しいらしい。クラブ活動に来たOBの大人にポンポン投げられ、力があっても勝てないのが楽しいようだ。中学も柔道部がある所にしようかな、と私に雑談がてら言ってきた。柔道か………体格がガッシリしてる人が強いイメージだけど、細身なのに強い人がいたら面白そうだ。そういえば昔、どっかの誰かが全身の筋肉をいわゆるピンク筋にする理論を発表してたような? それをももくんのトレーニングに取り入れてみよう。目指せ細マッチョ!

 

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ももくん小4 冬

 ももくんへのクリスマスプレゼントにウサギのぬいぐるみをあげた。もちろんただのぬいぐるみじゃない。ISコアの技術を応用した電源を用いた監視カメラ機能をこっそりと搭載済みである。これでももくんの部屋の防犯はバッチリだ。………決して普段のももくんを覗きたいとか、着替えシーンを覗きたいとかそんなことは思ってませんとも。だからちーちゃん、怪しいからって分解しようとするのはやめてよ。ももくんが若干悲しそうだよ。

 

 バレンタインにはちーちゃんと一緒にチョコフォンデュのお店に年下3人組を連れて行った。年相応に目を輝かせる3人はとても可愛かった。ももくんはビターなのが好きみたい。箒ちゃんも箒ちゃんでいっくんにチョコをあげていた。とても和んだ。

 

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ももくん小5 春

 ホワイトデーにはももくんからお返しとして最近流行り始めたからとマカロンを貰った。研究所の私のデスクに置いて眺めてたら『博士にも春が来たんじゃね………!』と比較的年の近い女の研究員に泣かれた。マカロンの意味は「特別な人」だそうだ。ま、まぁ? 昔から面倒見てるし? そう思われるのもやぶさかじゃないかなぁ? ………けどももくんはそんなこと知らずに贈った気がする。

 ちなみに、その研究員は高校からの知り合いにカエル入りのチョコを贈って豚足入りのマシュマロを貰ったらしい。写真も見せてもらったけど絵面がヤバくて大笑いした。だって豚足がマシュマロからはみ出てるんだもん。笑うしかないでしょこんなの。

 

 新学期が始まったももくんはというと、ちーちゃんが保護者呼び出し食らってた。なんでもクラスメートと喧嘩(という名の一方的な攻撃)をしたらしい。ちーちゃんから喧嘩の理由を聞くと『親がいないことをからかわれ続けていい加減ブチ切れた』そうだ。

 日を改めて本人に聞けば私がトレーニングを見始めた頃かららしく、ちーちゃんに迷惑かけたくなくて我慢してたが堪忍袋の緒が切れたらしい。………約2年とかよく我慢したね。抱き締めてあげたら最初は照れてたものの、しばらく動かなかった。ももくんが離れた後に私の胸元が濡れていたということは、そういうことである。いくらももくんといえどまだ子供なんだから泣きたい時だってあるさ。迷惑かけた、なんて気にしなくていいんだよ。

 

追記

 ももくんと喧嘩したクラスメートが転校してったらしい。ちーちゃんに何かしたかと聞かれたけど何もしてないよ。ホントだよ、ガキ共には何もしてないよ。ガキ共には。

 

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ももくん小5 夏

 夏といえば、そう! 海である!

 去年は一昨年サボってたからまともに休めなかったけど今年は休めたからね。去年の分まで遊ぶことにしたのだ。研究所の給料をガッツリ使ってリゾート地へちーちゃん達とGo! 両親は置いてった。はっきり言ってこの旅行に着いてこれるとは思わなかったからね。はっちゃけた若者のテンションはすごいんだ。

 

 水着に着替えたももくんはそりゃ凄かった。トレーニングでちょくちょく確認してたけど、引き締まった良い身体をしてる。手前味噌だけど、私のトレーニングのお蔭だね! その弊害か、浮き輪を使わないと海ですら浮けないのは予想外だけど。悪魔の実でも食べた?

 

 ………うん、ちーちゃん、その拳を下ろそうか。何? よだれが垂れてる? ち、違うよ、ももくんの身体を見て出た訳じゃないから。決して今もいいけど大きくなったももくんの身体も良さそうだよねとか妄想してないから。向こうを歩いてる人が持ってる食べ物を見てよだれが出ただけだから。

 

 ………結局、拳は私の頭に振り下ろされた。なんか犯罪者の目もしてたらしい。さすがの束さんでも分かってるよ。ほら、なんだっけ、あれだよあれ。Yesショタコン………Goタッチ?

 

 もう一発ちーちゃんから貰ったけど、海は思いっきり満喫した。水切りの石ってあんな気分なんだね。

 

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ももくん小5 秋

 ももくんが入院した。いつかこういうことがある、と頭の片隅にはあったけど楽観視していた。今回はももくんだったけど、それがちーちゃん………は大丈夫か。けどこれが箒ちゃんだったら? いっくんだったら? 対応が後手に回るだろう。そうしたらどうなるか分かったもんじゃない。

 

 ISコアは山程作ったし、もう十分だろ。そもそも、私の夢を理解しなかった奴らのために作らなきゃいけなかったのがおかしいんだ。せいぜいそれらを分け合えよ。

 

 この日記も一旦ここまでだ。タイミングは年度末。それまでに色々とやらなきゃいけない。1日………35時間くらいで動けば間に合うかな?

 

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「………………そっか。ここで終わって山に紛れ込んだのか」

 

 読み返してて、何で今まで忘れてたのかな〜、とか思ったけどそういうことか。納得。私が失踪する前に最後に書いたやつだこれ。

 

 私があのまま暮らす上での危険性がはっきりしたあの日から、失踪する準備をして大晦日前日あたりで失踪したんだった。ちーちゃんにだけ軽く説明して、ももくんには束さん特製トレーニング本を用意できる暇があったから良かった。

 

「失踪を決意した日はこれによると秋だから………あれだ。ももくんの誕生日の帰りだ」

 

 ーー研究所の休みをもぎ取って、ももくんとお出かけを終えて別れた後の事だった。

 

 私はこれでも有名人だ。唯一ISコアを作れる人間として、確保したい国は多いだろう。ぶっちゃけ、今までそんな目的で接触してきた国はある。交渉ならどんな条件でも拒否してたし、実力行使ならももくんに教えた格闘技で沈めてきた。………私が1人の時は。

 

 気絶したももくんの首筋にナイフを当てながら勧誘という名の脅迫をしてきた国は初めてだよ。

 

 私が動けないからか、ベラベラと喋ってくれる。ナイフを当てている奴を含めた数人以外にも、周囲にも数人隠れてるから下手な動きはできないぞ、と。私の外出時は護衛が見守ってるらしいけど、その護衛はももくんがいるからか下手に動けないみたい。使えないな。

 

 その時ももくんが目を覚ました。これでワンチャン勝つる。人質が逃げてくれればこんな奴ら2人で蹂躙できるからね。

 

 けどさ、それは予想外なんだよ。確かにももくん自身が動いて脱出とかしてくれれば状況は良くなるよ。

 

 ただ、現状を認識したら自分で当てられてたナイフを使って自分の首筋を切るのは予想外過ぎるんだよ。たぶん人質の価値を失くそうとしたんだろうけどさ、死ぬ気なのかな?

 

 ももくんは捕まえてた奴が動揺してるうちに抜け出して一本背負い。その隙にあちこちで護衛が拘束にかかってるみたいだけど遅いよ。これじゃただの人手でしかないじゃん。なんなの? 襲ってきた奴らを拘束する方が大事なの?

 

 今はそんなことよりも、ももくんを手当しなきゃ。

 

 ハンカチで抑えるだけじゃ足りない。スカートの裾を破って包帯代わりに、ベルトで強く縛って外れないようにもする。今日の為に気合い入れた服が血でどんどん汚れてくけど知ったことか。

 

『救急車呼ぶから大人しくして!』

 

『いや、あいつらを捕まえないと………』

 

『何言ってんの!? 今は止血したからどうにかなってるけど、下手に動いたら出血多量で死にかねないんだよ!?』

 

『………一夏なら出血大サービスとか言いそうだな』

 

『さすがのいっくんでもそんな不謹慎なことは言わないよ! たぶん

 

『………………束さん』

 

『?』

 

『俺はーーーーだ。知ってるんだろ』

 

『それは………』

 

 確かに知っている。ももくんの過去を調べる時に『産まれた病院から何から何まで調べてやるぜェー!』と深夜テンションで悪ノリしてた結果、知ってしまった。

 

『そんな俺が誰かの助けになれるなら、傷の1つや2つ受け入れる』

 

『だからって、あんなことしていい訳ないでしょ!? 死ぬかもしれなかったんだよ!?』

 

『どうせ、こんな俺が死んだところで誰も悲しまないさ』

 

『私は、悲しいなぁ………』

 

 その言葉が意外と言わんばかりにももくんは目を見開く。

 

『私の数少ない友達で、こうやって命を投げ捨てる勢いで私を助けてくれて。これでも、ももくんと出会ってから結構楽しかったんだよ?』

 

『束さん………………』

 

『こういうのは、もうやめてよ。さすがの束さんでも、つらいよ』

 

 自分で言って、内心驚いた。この私がいくら仲の良いももくんだからって、傷ついたのをつらいと思うなんて。仮にちーちゃんだったら心配はするだろうけどつらいとは思わないはずだ。

 

 自分のせいで傷つくのを見たくなくて、ボロボロになった姿を見るのがつらくて、失いそうになることが怖くて………側にいて欲しくて。

 

(あぁ、そっか………私はももくんが好きなんだ)

 

 ライクではなくラブ。友達としてじゃなく異性として。私はももくんが好きだと自覚した。

 

『もっと色々と言いたい事あるけど、とりあえずこれだけは約束して。もう自分の命を投げ捨てるような事はしないって』

 

『………無理じゃねぇかな。姉貴や一夏が今回みたいなことになったら同じ様なことをする自信がある』

 

『い・い・ね!?』

 

『………分かったよ。なるべくそうならないよう努力する。にしても、救急車遅くないか?』

 

『………あ、まだ電話してなかった』

 

『おい』

 

 ────うっわ。思い出したら顔が熱くなってきた。手で扇いでも熱が引かない。

 

 気付けば会見も終わってるしそこそこ時間経ってるしちーちゃんに電話しよそうしよ。別に気分を紛らわせようとか考えてないからねって誰に言い訳してるんだ私。

 

 とりあえず、ぴっぽっぱっ、と。

 

『………………もしもし』

 

「もすもすひねもす〜! 束さんだよ〜! ちーちゃんモンドグロッソ連覇おめでとぅ!」

 

『………………あぁ、そういえば、そうだったな。忘れていたよ」

 

「え、忘れてた、って………あんなに連覇するって意気込んでたのに?」

 

『私がドイツに連れてこなければ………………いや、そもそもモンドグロッソに出なければ………………』

 

「ちーちゃん………?」

 

『お前にも伝えておいた方がいいか………………万が一もある、し、な………』

 

「………どしたのちーちゃん。やけに元気ないじゃん。泣きそうな声出してさ」

 

『いいか、束。落ち着いて聞け。今ーーーー』

 

「………………………え? ももくんが、しん、ぱい、てーし………?」

 

 のんきに観戦していた決勝戦の裏で、あんなことが起きてたなんて、この時の私は知る由もなかった。

 

 

〜おまけ 隠されたページ〜

 

ももくん小5 夏(裏)

 やってしまった。くったりしたももくんが私の布団で寝ている横でこれを書いている。

 けど私は悪くない。赤ら顔でとろんとした目でささやくように私の名前を呼んだももくんが悪い。

 考えてもみてほしい。国の研究所でISのコアを作っていると下心アリアリな男共が寄ってくる。なんならボディタッチもしようとしてくるくらいだ。そんな奴には実力行使で対応したけども。1回触られた時には鳥肌が立ったし。

 そんなのにしょっちゅう囲まれてる私が可愛がってるももくんにあんな風に呼ばれたんだよ? ムラっと来ても仕方ないじゃん。アゼルバイジャン。

 だから悪くない。呼ばれた瞬間ノータイムで抱えあげて自分の部屋に持ち帰ったのは悪くない。おいしくいただいたのも悪くない。スポーツドリンクの味でした。

 とりあえず、抱きまくらにして昼寝しよ。

 

追記

 冷静になって考えてみたら、ちーちゃんにバレたら拳骨じゃすまないじゃん。なんとしてでもこのページを隠さないと。あとは私とももくんが口を滑らせなければいいのだ。

 




というわけで百春と束の過去編でした。

殴り合い宇宙をして、ラブコメもやって、死にかけながら守られて………もう訳が分からないよ。
もしや、束はメインヒロインだった………?

次回から金銀コンビの登場です。
さぁて、タグ編集の準備をせねば………

ではでは、次回も気長にお待ちください。

………シャルは誰のヒロイン?

  • やはり一夏
  • ここは百春
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