織斑一夏の兄が行く   作:ふくろう639

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お気に入り登録ありがとうございます。

何とか10月中に投稿できました。
気付けばプロローグを投稿して早一年。
これからも続けていきたいですね。

日記形式からの小説形式ということもあって久々に文字数は2話分です。とても長い。
まぁ、ほとんど会話なんですけどね。
上旬に投稿しようかな、と思って読み返してみたら時間が全く進んでねぇ! ということで話の切れが良いところまで持っていったらこうなった。どうしてこうなった?

ちなみに、百春の身体能力は某梁山泊の弟子を参考にしています。

今回コメディとシリアス混ぜすぎた………


第12話 金と銀の来襲

 その出会いは、強い衝撃だった。

 

 教室の扉を開けた瞬間、視界に飛び込んでくる銀色の影。視界どころか懐に飛び込んできたそれは、俺の鳩尾に強くぶつかってきた。

 

 その勢いで弾き出されるように、教室から廊下に飛び出した俺の身体は、強かに床に叩きつけられた。

 

「久しぶりだな! 会いたかったぞ、ハル!」

 

 友人との再会その出会いは、文字通り(物理的な意味で)強い衝撃だった。………もう少し優しい再会は無かったのか問い詰めたい所だ。

 

 

 

 GW明けの初日。

 

 トレーニングの時間帯に姉貴に捕まった俺は、荷物搬入の手伝いをしていた。なんでも、運搬用のフォークリフトが壊れたらしい。ホームルームに遅れてもいいから手伝ってやってくれと頼まれたので荷物を運び、誰もいなくなった食堂で朝食を済ませた後、教室に向かっていた訳だが………

 

『きゃぁぁぁぁぁあああっ!!』

 

 廊下の先から複数の叫び声が聞こえ、頭文字Gか! と思ったがあの叫び声は歓喜の叫びでうちのクラスだ。絶対碌な理由じゃない。

 

 教室のプレートが見えるくらいまで近づくと今度は、

 

スパァンッ

 

『いってぇ! 何すんだお前!』

 

 叩く音と一夏の声が聞こえた。姉貴の出席簿かと思ったが違うみたいだな。そして一夏がお前と言う辺り知らない奴か………誰か編入してきたか? そういえば、部屋割りの時に山田先生が何か言ってた気がする。GW明けに入ってくるとかなんとか。

 

 ようやく教室の扉に着いて開けながら『遅れました』って言おうとしたら『お』の口のまま、ふっ飛ばされた訳だ。

 

 ………………いい加減現実逃避はやめるか。

 

「あぁ、ハル! 本当に久しぶりだな! 生きているのを確認できて嬉しいぞ!」

 

「………おう、ラウラ。いつまで抱き着いてんだ」

 

 俺の胸元に頭を押し付けている銀髪に声をかける。腕を俺の腕の下に回して抱きついているあたり、忘れてないらしいがとても動きづらい。

 

 この銀髪はラウラ・ボーデヴィッヒ。眼帯を付けているドイツの軍人でIS部隊を率いている隊長だ。確かこの前聞いた階級は………少佐だったか?

 

「3年も会えなかったんだ。これくらいいいだろう? クラリッサに教えてもらったが、なんでも仲の良い異性からは特殊な成分を補給できるらしくてな。今モモハルニウムなる成分を補給しているのだ」

 

「あんのオタクめ………! 今度は何を読みやがった………!」

 

 ラウラの部下のクラリッサ・ハルフォーフ。昔ラウラに持たせた日本土産がまずかったのかなんなのか、見事なオタクと化した。そのせいでマンガ・アニメ知識を日本の文化として覚えている節が………節どころじゃねぇな。完全に覚えてるから何かの度に俺が訂正するハメになっている。

 

 ちなみに、ネット注文よりも日本の俺に送ってもらった方がいくらか安い時があるらしく、時折入手依頼のあった物を送って、そのお返しでドイツの名産品を送ってもらうくらいの仲ではある。

 

「相変わらず百春を見つけた瞬間の行動は早いな、ボーデヴィッヒ」

 

「お褒めいただき光栄です教官」

 

「いや褒めてないんだが。今はホームルーム中だからな?」

 

 かつての教官だからって、俺に抱き着いたまま敬礼とかしなくていいから。しかも俺の足は扉に向いてるんだから顔の向けようもないだろ。

 

「あぁ、もう、めんどくせぇな! っと」

 

「おっ?」

 

 ラウラに抱き着かれたまま体を起こして立ち上がる。ぶっちゃけ立ち上がりづらかっただけであって、立ち上がれなかった訳じゃないからな。

 

「ったく、ホームルームを中断させるなよラウラ。という訳でおはようお前ら」

 

『『『いやどういう状況!?』』』

 

 ん? あぁ、ラウラが無駄に器用に抱き着いたままだ。コアラかお前は? 

 

「兄貴! そいつと知り合いか!?」

 

「おう、そうだが立ち上がってまで問い詰めたい内容か? それにどうした、その頬の見事な紅葉は? 今朝は箒を押し倒しただけじゃなく胸でも触ったか?」

 

「いや今日はやってねぇからな!? これは今兄貴にしがみついてる奴にやられたんだよ!」

 

「なるほど? それはラウラのせいで、箒に『今日は』やってねぇんだな?」

 

「あぁ、そうだよ。今日は箒にやっ………あっ」

 

「一夏ァッ!」

 

 一夏が口を押えるが時既に遅し。顔を真っ赤にした箒も相まって、いつかは分からないがやらかしたのは明らかだな。

 

「一夏さん?」

 

「セシリアどうし………いやなんか怖いんだけどどうした?」

 

「一夏さん。詳しく説明してください。私は今冷静さを欠こうとしています」

 

「セシリア、近い近い」

 

『オルコットさんてば大胆だね〜』

 

『こんな見られてる場所で織斑くんにキスをせまるなんてね〜』

 

『見せつけるね〜このこの〜』

 

『『『ヒューヒュー!』』』

 

「茶化すな馬鹿共………はぁ、これホームルーム中だよな?」

 

 俺にへばりついているラウラを剥がしながら呆れる。案の定、そう言われたセシリアが赤面し、それを見た箒が一夏に迫り、一夏は後退りしていく。………あのまま行くと教室後ろの壁にぶつかって逃げ場が無くなるな。

 

「………で、お前は?」

 

 その光景を見ている姉貴がため息をつき、山田先生があわあわしてる中で唖然とした表情のままさっきの光景を眺めていた金髪に声をかける。初対面だからこいつも編入生か?

 

「あ、うん。僕はシャルル・デュノア。同じ男性操縦者がいるって聞いてフランスから来たんだ」

 

「同じ? ってことは3人目の男性操縦者か。俺はそこで騒いでる一夏の兄の織斑百春。名字だと一夏と被るから名前かお兄さんとでも呼んでくれ」

 

「わかった。僕のこともシャルルでいいよ? よろしくね、お兄さん」

 

 互いに差し出した手で握手を交わす。………ふぅん?

 

「おう、よろしくな。ところで、男性操縦者が発覚した時、日本だけでなくおそらく世界中で男性操縦者が捜索されたと思うんだが、今の今まで発覚しなかったのはどういう理由なんだ?」

 

「え。いやそれはたぶん僕が郵便がなかなか届かない田舎に住んでたからだよ。それで世間とすごいズレたんだ」

 

「そうか。お前がそう言うならそうなんだろうな。っと、お前らその辺にしておけ。そろそろホームルームの時間がヤバいぞ。山田先生、何か連絡事項はありますか?」

 

「い、いえ。特にありません。今日は2人編入してくるってくらいで」

 

「織斑先生」

 

「こういう時お前がいると助かる。お前達! ホームルームは以上で終了だ。編入生は他の生徒に聞いて行動するように。1時間目に遅れるなよ!」

 

『『『は〜い』』』

 

 ホームルームを終えた2人は教室から出ていった。しかし、いくら騒いでいても締めるところは締めるあたりはうちのクラスらしいな。

 

「一夏、シャルル。さっさと着替えを持て。移動するぞ」

 

「分かった。………あ、デュノア。男子は着替える時、アリーナの更衣室で着替えなきゃいけないんだ」

 

「言われてみれば確かに男子用の更衣室なんて校舎にあるわけないもんね。わかったけど………お兄さんやけに急いでない?」

 

「何でって………遅かったか! ラウラは前、本音は後ろ! 教室の扉と鍵を閉めろ!」

 

「「了解!」」

 

 微かに聞こえた音を頼りに俺の指示を直ぐに聞いてくれるだろう2人に指示を出す。それにすぐ対応してくれるのは本当にありがたい。今日この時は。

 

 直後、ドタドタッ、と喧しいくらいの足音が迫り、教室の前辺りで止まったと思ったら、鍵のかけられた扉を開けようとしているのか扉が物音を立て始めた。若干ホラーだな。

 

「あ、兄貴………これは一体………?」

 

「ただでさえ少ない男性操縦者の3人目が来て、俺は叫びしか聞こえなかったがうちの馬鹿共のことだ。どうせ見た目か何か変な事を叫んだだろ」

 

『失礼な! 変な事なんて言ってないよ!』

 

『王子様タイプの織斑くんやお世話タイプのお兄さんとは違うとかしか言ってないよ!』

 

『そうだよ! 2人とは違う守ってあげたくなるようなタイプとかしか言ってないよ!』

 

『織斑くんかお兄さんとかけ算したらおいしそうとかそんな事しか言ってないよ!』

 

『『『そうだそうだ!』』』

 

「だから馬鹿共ってんだよこの馬鹿共!」

 

 というか俺はお世話タイプなのか。

 

「とにかく、そんな事を叫ばれてた以上、見に来るのは当然だろ。俺と一夏が入学した時でさえ、しばらく見に来てたんだからよ」

 

「だが、どうするんだハル? この状況では廊下に出れまい? IS使用も教官が許可しないだろう」

 

「まかせろ。俺に良い考えがある」

 

((嫌な予感しかしない))

 

 着替えを持たせた一夏とシャルルにそんな事を思われてるとは知らずに開けられていた窓の外を確認する。………雨樋、2階窓枠、街頭………行けるな。

 

「一夏。お前、遊園地のフリーフォールは大丈夫だったよな?」

 

「いや、大丈夫だけど………なんで担ぐんだ?」

 

「………嫌な予感が消えないのは僕の気のせい? というか僕は?」

 

 俺の行動に困惑してる一夏とシャルルを担ぎ、窓枠に右足をかける。視界良好。障害物なし。進路オールグリーン。

 

「舌噛まないように食いしばれ、よ!」

 

「ちょ、まっ、嘘だろぉぉぉぉぉおおお!?」

 

「い、いやぁぁぁぁぁあああ!!」

 

 2人を担いだまま、俺は窓から飛び出した。

 

 

────────────────────

 

 

『──そうなんだよね。描きたいのが多すぎて夏の新刊が…………あ、お兄さん来た』

 

『あ、校舎3階の窓から無傷で地面まで下りた身体能力やべぇ人が来た』

 

「あ、ジャパニーズニンジャ説が浮上した人が来ましたわ」

 

「あ、人外説も浮上した人が来た〜」

 

「おう、いきなり酷い事言ってくれるな」

 

 更衣室で着替えて集合場所に来たらそんな事を言われた。馬鹿共は置いといて、セシリアはまだしも、本音の毒が一番きつくねぇか?

 

「一体、俺のどこが人外だと言うんだ」

 

「いや百春さん、いきなり窓から飛び下りるとかしでかした人が何を言うんですか」

 

「………?」

 

「いやその『何を言ってるんだお前は』みたいな表情をされても」

 

「箒、正しくは『ちょっと何言ってるか分からない』だ」

 

「さして変わらないでしょう! というか何で分からないんですか!」

 

「いや、ただ要所要所を足場にして下りただけだろ? あれくらいなら姉貴もできるし、いつかのあの人みたいに水の上を走った訳じゃねぇんだから」

 

「千冬さんもできるならまだいいのか………? それと、あの時のあれは走ったんじゃなくて跳ねたんじゃなかったでしたか?」

 

「そうだったか? まぁ、似たようなもんだろ」

 

 

 

「──へくちっ!」

 

「風邪ですか?」

 

「いや、誰か噂したんじゃない? ん〜、この感じは箒ちゃん………いや、ももくんかな?」

 

「くしゃみで人の判別ができるんですか………?」

 

 

 

「そういや、ラウラはどうした?」

 

 教室での感じからすると、あいつに見つかったらまた抱き着かれそうだと思ってたんだが………

 

「トイレだって〜」

 

『そういえば、お兄さんってボーデヴィッヒさんとどんな関係? 名前呼び合ってたよね?』

 

『もしかして、アオでハルな関係だったり………!』

 

『百春だけに、ってやかましいね?』

 

「おう、人のツッコミを取るな。それと、ラウラは数年来の友人だよ」

 

『にしては距離感おかしくなかった?』

 

『遠距離恋愛してた、って言われた方が納得するけど』

 

「あ〜、そこはまぁ、色々あったということで」

 

(((気になる………)))

 

 ラウラに初めて会ったのは………第一回のモンドグロッソの時だな。それから考えると約5年の付き合いか。

 

「ところで百春さん。一夏はどうしたんですか? デュノアもいないですが」

 

「一夏はシャルルにアホな発言かましたから拳骨落とした。開始にはギリギリ間に合うだろ」

 

「一夏さんは何をおっしゃったんですか?」

 

「いやこれ女性に言ったらセクハラなんだが………」

 

『私は一向に構わん!』

 

『けど、お兄さんが警告した時って大体そのとおりじゃん? 授業中騒いだ時の怒られる怒られないの境目とか』

 

「確かに、そのような事はありましたが………」

 

「だが、一夏が何を言ったのか気になるな」

 

『ちょっと待ってみんな。お兄さんにセクハラ発言をしてもらったら、お兄さんに言葉責めされてるような気分になれるのでは?』

 

『『『天才か?』』』

 

「ただの馬鹿だろ」

 

 この4人組は本当に………これが馬鹿共が馬鹿共たる所以だよな。

 

『ここまで言って何も言わないのは生殺しだよ!』

 

『というわけでハリーハリー!』

 

「なら言うが………IS用のスーツってダイバースーツみたいにぴっちりするだろ? だから一夏は共感して欲しかったのか緊張をほぐそうとしたのか、『下を着替える時ひっかかって困るよな』とか言いやがった」

 

『『『引っ掛かる………!?』』』

 

「おう、その下げた視線を上げろ思春期共」

 

 ゴクリンコ………! と案の定顔を赤くして、俺の顔に向いていた視線が全部下がる。見たとしても水着で使うようなサポーター履いてるから分かんねぇよ。

 

「────あ、朝っぱらから何言ってんのー!」

 

「ぐべらっ」

 

 腰の辺りに強烈な衝撃が走ったと思ったら後ろから誰かに組み付かれた。とりあえず足を踏み出して耐えたが、一体誰が………

 

「も、もも兄! 見損なったわよ! 朝からセクハラ発言するなんて!」

 

『いや凰さんそれは………』

 

 鈴か。とするとドロップキックからの組み付きだな。流れるような技の繋ぎは中々やるな………って首に腕が………!? 

 

「り、鈴………放せ………」

 

「放さないわよ! 反省するまでは!」

 

「ま、まず………はな────」

 

 

恨むんなら弟を守った自分を恨みながら死ぬんだな!』

 

 

────カヒュッ、ヒュッ、ヒュッ、ヒュッ………

 

「鈴さん! 早く放してください! お兄さんの顔が青白くなってきてます!」

 

「え?」

 

「はるはるが過呼吸起こしてる! 早く!」

 

 ………まずい、立ってられない。

 

 ふと気付けば、膝に痛みがあった。どうやら膝から崩れ落ちたらしい。鈴が背中にいる分、後ろに倒れているかと思ったが、そこは身体が無意識に耐えているようだ。

 

「え、嘘、腕が極まってた!? ごめんもも兄!」

 

 俺の状態に気付いた鈴が離れるが、前後のバランスが崩れたので俺の身体は前に倒れた。上手く手を伸ばせず、かろうじて倒れてないと言えるくらいの体勢で肘から地面にぶつかった。

 

『え、ちょっとこれやばくない?』

 

『過呼吸の人ってどうすればいいの!?』

 

『わ、分かんないけど、とととりあえず救急車かな!? 誰か救急車呼んで!』

 

『き、救急車ー!』

 

『誰がそんな原始的な方法で呼べって言った!?』

 

「なんだ貴様ら騒がしい………ハル!? 大丈夫か!?」

 

 どけ貴様ら! と近寄ってきたラウラがしゃがみこんで俺の顔を下から覗き込む。俺の顔色を見ると顔を顰めた。

 

「チィッ………! ハル、聞こえるか!? 深呼吸だ! 大きく吸って吐け!」

 

 吸ってー吐いてー吸ってー吐いてー、とラウラの声に合わせるようにして呼吸する。少し繰り返せば過呼吸も収まり始め、おそらく顔色も多少良くなっているだろう。

 

「も、もも兄ごめんなさい………」

 

「気にするな、鈴………運ガ悪カッタダケダ………」

 

 俺の状態を見て鈴が萎れて謝ってくるのを返すが、こんな状態でも嘘が棒読みになる辺りつくづく嘘を吐くのに向いてないな俺は。まぁ、棒読みは具合が悪いからと思ってくれたみたいでよかった。

 

 ふとラウラが俺の耳元に口を寄せた。

 

「ハル………やはり、まだダメか?」

「………………あぁ、多少はマシになったかと思ったらこれだ」

「………………そうか」

 

 互いに小声で言葉を交わす。周囲に聞かれてもこんな会話からじゃ分からないだろうが、箒達がいる以上知られる訳にはいかない。どこから漏れるか分かったもんじゃないからな。

 

「整列! これより授業を始め………………織斑兄、どうした?」

 

 気付けば1時間目が始まる時間だったのか、姉貴が来ていた。ラウラの肩に手を置きながら立っている、青白くはなくなっただろうが未だ白いであろう俺の表情を見て怪訝な顔をする。

 

 俺が言うよりも早くラウラがススッ、と自身の首を撫でながら、

 

「教官、アレです」

 

「………………そうか。織斑兄、無理そうなら少し端で休んでいろ。すまないがボーデヴィッヒは付いていてくれるか」

 

「了解しました教官」

 

「あと教官ではなく織斑先生だ、ボーデヴィッヒ」

 

「ハッ。………で、どうするハル? 休むか?」

 

「………いや、大丈夫だ。もう少しすればもち直せるはずだ」

 

 久しぶりに過呼吸を起こしたから言い切れはしないが、立って話を聞く分ならいけるはずだ。それにその方が気が紛れる。

 

「では今日より実際にISを動かしていく実習を始める事になる。今日はいないようだが、実習時にはIS用スーツの準備を忘れないように。忘れたら下着姿で受けてもらうからな」

 

「先生、それは俺や一夏がいるからまずいだろ」

 

「………それもそうだな。織斑兄弟に下着姿を見られたくない者は体操服で受けるように」

 

 それだと見せたい奴は下着姿で参加していいことにならねぇか? ………楯無がいなくてホッとしている自分がいる。あいつなら確実にこのタイミングでからかってくるからな。私の下着姿見たい? とかなんとか。

 

〈けどこの前寝ぼけて下着姿でももくんの前をうろついてなかった?〉

 

(本人が気づいてないんだから触れるな)

 

〈しかも『虚ちゃんパジャマ脱がして〜』とか寝ぼけたままももくんに言ってたよね?〉

 

(触れてやるな!)

 

 虚さんの喋り方をマネして『自分で脱いでくださいお嬢様』って言ったらそのまま寝ぼけながら脱いでクローゼットまで歩いてたんだよな。目の前で脱ぎ始めた時は本当にどうしようかと(とても眼福だった)

 

「織斑兄弟といえば、弟の方はどこ行った? デュノアもいないようだが」

 

「遅いよ一夏! もう始まってる!」

「文句なら兄貴に言ってくれ!」 

 

 噂をすればなんとやら、入り口の方からその2人が全力疾走で走っていた。

 

「すみません! 遅れま──」

 

スパパァンッ

 

「5分の遅刻だ。以後気を付けろ」

 

「「分かりました先生………」」

 

 遅刻した罰なのか、2人はそのまま姉貴の横に並ぶ。一夏は俺を睨みつけているが俺は素知らぬ顔で姉貴の話を聞く事にする。あれは一夏が悪い。

 

「さて、ようやく揃った所で授業を行う………と言いたいところだが、その前にデモンストレーションを行う。そろそろ来てもいい頃だが………」

 

「どどどどいてくださぁあーい!?」

 

 誰かの声が聞こえた次の瞬間、一夏達がいた場所が爆ぜた。舞い上がった土煙が薄く透けて見える地面が抉れているのを見ると、爆ぜた勢いでクレーターができたか。………ん? 爆ぜた? 爆ぜた!?

 

「おい生きてるか!? 一夏! 姉貴! あとついでにシャルル!」

 

「勝手に殺すな百春」

 

「………僕はおまけなの………?」

 

 未だ土煙が上がる場所に駆け寄って声をかけると、土煙の陰から姉貴と脇に抱えられたデュノアが出てきた。姉貴が隣にいたデュノアを咄嗟に抱えて避けたのか。

 

「2人は無事だったか………それで一夏は!? まさか………!」

 

「気持ちは分かるが落ち着け百春。さっきの一件で昂ぶり過ぎだ。一夏は無事だろう。彼女の操縦技術を舐めるなよ?」

 

「彼女?」

 

「ひゃん!?」

「ご、ごめん先生!」

 

 ………土煙が晴れ、出来上がっていたクレーターを覗くと、ISを展開している山田先生と馬乗りになって両胸を鷲掴みしている一夏がいた。声が聞こえたと思ったらこれか………

 

「い〜ち〜か〜さ〜ん〜?」

 

「い〜ち〜か〜?」

 

 その光景を見たであろうセシリアと鈴が気付けばすぐそばにいてISを展開していた。看護婦ドラマのBGMが合いそうな場面だな。

 

「公衆の面前で教師のむ、胸をももも揉むなんてハレンチですわ!」

 

「い、いやいやいや! 立ち上がろうとしたけどさっきの土煙だろ!? 手元が見えなくて触っちゃっただけだって!」

 

「じゃあ何で両手でしっかりと鷲掴みしてんのよ!」

 

「それは──」

 

「──問 答 無 用!」

 

 連結した双天牙月を鈴が勢いよく一夏に向かってぶん投げる。あれくらいなら動揺している一夏でも弾けるだろうと思っていたが、予想外の事が起きた。

 

チュインッ

 

「へっ?」

 

 鈴が投げたはずの双天牙月が鈴の足元に突き刺さっていた。投げられた側はというと一夏はポカンとしていたが、山田先生がアサルトライフルを展開して構えていた。

 

「ふぅ〜………、危ないところでした。凰さん、ISを展開していない人に攻撃はダメですよ」

 

「あっ、はい。すみませんでした………」

 

 ………つまり、あの体勢で撃って当てただけじゃなくて、鈴の足元に弾き返せるように当てたのか? さっきも下敷きになるはずだっただろう一夏が逆に下敷きにしているから、あの一瞬で入れ替わるように動いた?

 

(………………とんでもない技量の持ち主じゃねぇか。いつもほわほわはわはわしてるのに)

 

「一悶着あったが、デモンストレーションとして山田先生と戦ってもらう。どうもお前達を見ていると教師をナメている節があるからな。この辺りで教師の実力を知ってもらう。後、相手はオルコットと凰でいいだろう。元気があり余っているようだしな?」

 

 クレーターが出来た事もあり、万が一が起こらないようにとデモ戦を見る場所を移動したところで、デモ戦が始まった。飛び上がる前の2人に姉貴が何やら耳打ちしていたのが気になるが………何だアリス? なんで一夏が砂まみれになってるのか、だって? 別に大した事は無かった。ただ移動する前に、

 

『………………兄貴』

 

『どうした一夏? まさかさっきのでどっか痛めたか?』

 

『………………すごい柔らかかった』

 

『………………………は?』

 

『なんていうか、こう………人をダメにするクッションみたいな、沈み込む感覚が』

 

『人の心配を返せこの愚弟!』

 

 なんて事があったくらいだ。思わずクレーターに蹴り落としたが、俺は悪くない。

 

「デュノア。山田先生が使用しているISについて説明してみろ」

 

「あ、はい。ラファール・リヴァイブは………」

 

 とシャルルが説明しているが、ディアブロを使うにあたって頭に叩き込んであるからスルーだ。今はデモ戦の方に集中したい。実力者の実際の技術を見るチャンスだ。

 

 ………といっても、まるで試合になってない。鈴がセシリアの射線上に出たり、セシリアの攻撃が鈴を足止めしてたりと、2人共自分勝手に動いて攻撃するから互いに足を引っ張り合ってる。これじゃあすぐ終わりかねないな………ちょっと口出しするか。

 

〈セシリア、聞こえてるか。今お前だけに話しかけている〉

 

〈!? お、お兄さん!? 直接脳内に!?〉

 

〈んなわけあるか。秘匿回線に決まってるだろ焦り過ぎだ。おっと、反応はするなよ? 姉貴にバレる〉

 

〈わ、分かりました………〉

 

〈で、さっきから何やってんだ? 協力のきの字どころかkすらねぇじゃねぇか。バトルロワイヤルやってんじゃねぇんだぞ?〉

 

〈うっ………で、ですが、一夏さんに良い所を見せるためには!〉

 

 姉貴の耳打ちはこれだな? 先生のくせに生徒を煽るとか何やってんだ。これだから彼氏が出来──

 

ギロッ

 

 ──ないのは運が悪いんだろうな、うん。毎度思うが何で気付くんだ。

 

〈じゃあ、本題に入るが、このまま為す術なく負けるのと多少は善戦してほんのちょっとでも良い所を見せるのとどっちがいい?〉

 

〈………………後者ですわ〉

 

〈ならアドバイスをしようか。先月の一夏の訓練は覚えてるな? それを思い出せ。仕留める戦いじゃなくて追い詰める戦いをしろ〉

 

〈くっ、仕方ありませんか………分かりましたわ〉

 

 言われてすぐに反映したのか、セシリアの動きが明らかに変わった。山田先生も今までの攻撃が変わった事で若干焦っているように見える。鈴は変わらず突っ込んで行くが。

 

〈所で鈴さんには何も言わないのですか? 後詰め担当ですよね?〉

 

〈おう。あいつは下手に口出しするよか本能のままにやらせる方が性格的に良いはずだ。強いて言うならお前の攻撃が先生に掠ったら入学当初くらいの勢いで煽れ。『ISに龍なんてついてる割には大した事ありませんわね? 動物園で笹食べてるのがお似合いでしてよ』とかなんとか〉

 

〈ももくんえっぐ〉

 

〈黙れアリス〉

 

〈私もそう思いますわ〉

 

 しれっと秘匿回線に割り込んで来たアリスに賛同するセシリアだが………お前の入学当初の言動も似たようなもんだろうが。

 

 あ、そうそう。一夏達とアリスの面通しは襲撃事件後に済んでいる。束さんを知ってる2人は『そっくりだな』と言っていて、知らない2人は『これが博士なのか』と少し興奮気味だった。興味無い人にはかなりの塩対応になると伝えたが、本人にいざ会った時が怖いな。

 

 ちなみに姉貴には会わせていない。何言われるか分かったもんじゃないからな。

 

〈………あの、おっしゃられた通りに言いましたら私に暴言を吐いた後、鈴さんの様子が目に見えて変わったのですが………〉

 

 確かに鈴の動きが段違いになっている。双天牙月をバトンみたいに回して銃弾弾くとか今まで出来なかった芸当だろうに。

 

〈あいつの下の名前はリンイン。昔はパンダの名前みたいとからかわれ続けてたからな。パンダ扱いすると激昂する。学園じゃ誰も知らなさそうだから、一応教えておこうかと〉

 

〈それ実際にこの場面でやる必要ありました!?〉

 

〈別にやらなくても良かったが………さっきのドロップキックの恨みは晴らさなきゃいけないからな〉

 

〈意外と根に持ってますわこの人!〉

 

〈さて、俺が口出せるのはここまでだな。集中しろよ? 終わりは近いぞ〉

 

〈………はい!〉

 

〈会話内容の切り替えが急過ぎて、なんか温度差で風邪引きそう〉

 

〈風邪なんぞ引かないだろAIなんだから〉

 

〈その発言はAI差別だぞ! 私だって風邪(ウィルス)には感染するんだよ!〉

 

〈おう、それはコンピュータウィルスだろうが〉

 

 そういえばIS搭載型AI用のセキュリティソフトとかあるのか? 今度束さんにでも聞いてみよう。よくネットにアクセスするから元から搭載されてるかもしれないが。

 

 一方、デモ戦はというと、アドバイス前とは違い、良い感じに戦っている。セシリアがブルーティアーズで逃げ場を塞ぐように攻め、逃げ場が無い事に勘付いた鈴が龍砲で牽制しつつ接近して斬りかかろうとしていた。

 

 それに対し山田先生はシールドで龍砲を防ぎながら鈴と距離を取りつつブルーティアーズのビットを撃ち落とそうとしている。ビットを1つでも落とせば逃げ場が出来やすくなるからだろうな。時折、ライフルを構えず振り回しながら撃って周囲に牽制しているのは技術の賜物か。振り回してるだけに見えるのに狙いも正確だ。

 

 だが、セシリアもビットを落とされるとキツくなるのが分かっているからか、逃げ場を塞ぐよりも落とされない事を優先に動かしている。その結果、一瞬だけ逃げ場が出来、山田先生が抜け出して最初からとループしているような戦況になる。

 

「………もういいだろう。そこまで! 3人とも戻ってこい!」

 

 この状況が長引くと判断した姉貴がデモ戦を終了させた。動きが変わってからの戦闘は短めだったが、実に有意義なものだった。

 

「はぁっ………はぁっ………くっそ、追い詰めきれなかった………!」

 

「えぇ………あそこまで上手いとは思いませんでしたわ………」

 

「ふぅ〜………オルコットさんも凰さんも途中から動きが良くなりましたが、もう少し立ち回りを考えて動きましょうね? 1人で戦ってるわけじゃないんですから」

 

「3人ともご苦労。お前達、これで分かったと思うがIS学園の教師はお前達より遥かに格上だ。今回のように専用機持ち2人を相手にしても十分立ち回れるどころか撃墜もできただろう。経緯を持って接するように。まぁ、今回は撃墜される前にどこぞの誰かが入れ知恵したようだが」

 

 チラッと姉貴がこっちを見てくるが、顔を背けて無視する。普段のポテンシャルを出せないように代表候補生を煽った姉貴には何も言われたくないからな。

 

「………まぁいい。さて、それでは今日の授業内容だが、お前達には実際にISに乗って動かし方の基礎である歩行訓練を行ってもらう。織斑兄弟、オルコット、デュノア、凰、ボーデヴィッヒの専用機持ち6人をそれぞれリーダーに置いた班にまず分かれろ。その後、班ごとに使用する打鉄かラファールのどちらかを取りに来るように。班分けに決まりはないが、下手に騒ぐようなら出席番号で分けるからな」

 

『『『は〜い!』』』

 

 と班分けの時間になった訳だが、あっさり決まった。まぁ、予想はしてた。

 

 まず、俺・一夏・デュノアの男性操縦者班に我先にと集まって来たが定員が決まってる上に周囲に集まっただけじゃ分けられないから、俺が手を挙げてハイタッチの先着順で捌き始めた。上手い事捌いているのを見た他2人も真似て捌いたようだな。合法的に触れるからか勢いが増してるけど。それで3人の班がいっぱいになったら他の専用機持ちの班に分かれていった。

 

 で、1組2組が混ざって集まった俺の班員だが、姉貴にここに行けとでも言われたのかと思った4人組がいた。バラける訳でもなく固まって来たしな。

 

「うちのクラスの4人組馬鹿共に本音もいるのか。2組もあまり接点は無かったがよろしくな」

 

「よろしくね〜」

 

『『『よろしくお願いしまーす』』』

 

『………お兄さん。いつも思ってたけど言わせてもらうよ』

 

「何をだ? そして今なのか?」

 

『………いい加減馬鹿共じゃなくて名前で呼んで欲しい! お兄さんの事だから把握してるでしょ!?』

 

「なんだその事か。把握はしてるんだが、どうも名前と顔が一致しなくてな」

 

 4人組を構成してる名前は覚えてるが、誰が誰とかは覚えていない。見かける度、騒ぐ度に4人で固まってるからまとめて覚える方が楽なんだよな。

 

『なら改めて自己紹介をしようか! 馬場のどか!』

 

『鹿目静香!』

 

『堂鳩要!』

 

『ステファニー・モール! 以上よろしく!』

 

 と、張り切って自己紹介をしてもらったが………

 

「名字並べたら結局『馬』『鹿』『堂』『モ(馬鹿共)』じゃねぇか」

 

『『『『………………確かに!』』』』

 

(((なんでコントしてるの1組の人達………?)))

 

 とりあえず、この4人組はどうあがいても馬鹿共だな。

 

「はるはる〜。ラファール受け取って来たよ〜」

 

 馬鹿共と話している間に、本音が授業で使用するISを受け取って来ていた。打鉄じゃなくラファールを持ってきているあたり分かっている。

 

『ありゃ? お兄さんラファールなの? 打鉄の方が操縦しやすいんじゃなかったっけ?』

 

「おう、前回の授業じゃそう言ってたが、俺の専用機がラファールだからな。慣れてる部分もあるから多少説明がしやすい。さて、始めてる班もあるみたいだし、俺達も始めるか」

 

『おっ。じゃあ、順番決めだね?』

 

『ならここは、いかにお兄さんを魅力的に誘えるかでトップバッターを』

 

「決めようとするとああなる」

 

 スッ、と一夏の班を指差す。すると、一夏に対して班員が背を90度曲げたお辞儀姿勢で手を差し出している光景が広がっていた。しれっと一夏の班に参加していた箒はやってないようだが。

 

スパパパパパパァンッ

 

「ほう、そこまでやる気があるようなら、私が直々に教えてやろうか」

 

『『『いえ、大丈夫です………』』』

 

『さすがは織斑先生………! 一度の出席簿の振り抜きで全員の頭を叩くとは………!』

 

『見事なワザマエ………! 一瞬でネギトロめいた状況に』

 

「なってたまるか。時間も勿体ねぇからいい加減やるぞ。とりあえず本音からでいいか」

 

「りょ〜か〜い」

 

 とISの歩行訓練を始めた。当然、歩く姿が危ういので俺もディアブロを展開して付き添いながら指示していく。

 

「焦るな、ゆっくりとだ。そう、右、左、右………」

 

「意外と難しいね………倒れそう」

 

「倒れそうになっても気にするな。支えてやるから」

 

「よいしょ………ほいしょ………よっこらしょ」

 

「よーし、上手だぞ。そのままそのまま」

 

『………なんだろう、この感覚。あのやり取りを自分がやると想像すると、なんか、こう、ダメになっていくような、身を任せたくなるような………』

 

『バブみを感じる?』

 

『『『それだ』』』

 

「黙って見てろ待機組! 自分ならどう歩くかイメトレしてろ!」

 

 なんてやり取りを挟みながら、本音、馬場、モールと順番に進めていた途中で、俺の班員じゃない女子が話しかけてきた。

 

『お兄さん、ちょっといいですか』

 

「おう、どうした。アドバイスか?」

 

『それも欲しいですけど、それ以前の問題で………私たちの班長はボーデヴィッヒさんなんですが』

 

「ラウラか。あいつは軍人だから多少スパルタでもしっかり教えられるはずだがどうした?」

 

『教えてくれないんです』

 

「は?」

 

『ですから、何も教えてくれないんです。教えて欲しいと言っても「勝手にやれ」ということで………とりあえず山田先生に今は見てもらってますが、お兄さんお知り合いみたいですし、どうにかなりませんか?』

 

「………………ラウラァ! 集合!」

 

「やっと呼んだかハル! 何が分からないんだしっかり教えてやるから恥ずかしがらずにちゃんと──」

 

「お前、なんで班員に教えない?」

 

 声をかけた瞬間に飛んできたラウラがビタッと止まった。表情は天気に例えるなら快晴から曇天すっ飛ばして吹雪になるくらいの落差だ。通り雨もびっくりだろう。

 

「………なぜ教える必要がある。こんな奴らにいちいち私が教える必要性が「姉貴のオフショット」おい、何をしている貴様ら! しっかり操縦を叩き込んでやるからそこに並べ!」

 

『『『は、はい!?』』』

 

『『『手のひらドリルかな?』』』

 

 渋っていたラウラに魔法の言葉を囁くと、うちの班員が言うように手のひらをドリルの回転ばりに返した。さっきまでと打って変わった態度に向こうの班員は困惑気味だが、山田先生が近くで気にしてるし、まぁどうにかなるだろ。

 

 ラウラに対して頼み事をするときは大体姉貴の写真を渡すと二つ返事で受けてくれる。中でも俺からしか手に入らないオフショットの時はやる気が段違いになる。………尚、渡した写真はドイツの部隊部屋にアルバムされているらしい。姉貴の人気は伊達じゃない。

 

 そんなこんなで、午前の授業は過ぎていった。

 

 

────────────────────

 

 

「おう、待たせたな」

 

 GW前に話してた通り、弁当を持ち寄って食べるため、屋上に俺達は集まっていた。ベンチはあるがテーブルは無いので、レジャーシートを敷いている。

 

「待ってたぜ兄貴。まぁ、俺の代わりにシャルルを購買まで案内してくれてたから気にしないけどさ」

 

「午後の授業進行について先生達と話してたからな。着替えるのに時間がかかってたシャルルと時間が合ったからちょうどいいだろ」

 

「………思ったが、何で百春さんが先生達と話しているんだ? 1組の代表は一夏だし、2組は鈴だろう?」

 

「そりゃあれでしょ。一夏やあたしよりもも兄が頼れるからでしょ」

 

「それ遠回しに俺が頼りないって言ってる!?」

 

「あんた、もも兄と比べて自分に頼りがいがあるって言える?」

 

「ゔっ………そう言われると………」

 

「まぁまぁ鈴さんその辺に………あら? お兄さん、そういえばボーデヴィッヒさんはどうされました? 先程お手洗いに行った時に3人で歩いてらしたのを見かけたのですが」

 

「姉貴に連れてかれた」

 

「織斑先生に? 何かあったのでしょうか」

 

「俺に聞かないでくれ………疲れた………」

 

「あ、あはは………」

 

 事情を知るシャルルは何とも言えない顔をしながら苦笑いしている。あれはな………

 

「じゃあ2人も来たところで食べようぜ。腹減った」

 

「おし、広げるか。シャルルも気にしないで摘んでいいからな」

 

「あ、うん。ありがとう」

 

 シート上に置かれたメニューは、俺作おにぎり、箒作定番弁当おかず、セシリア作サンドイッチ、鈴作中華おかずだ。5人分となると量も凄いな。一夏に食べてもらえるからか、気合入れて作り過ぎだ。まぁ、残ったとしても俺がしっかり食べよう。

 

 いっただきまーす、と皆で手を合わせて昼飯を食べ始めた。

 

「うわ、お兄さんのおにぎりおいしいね。中に入ってるのはチーズと………?」

 

「昆布だ。合うんだよなこの2つ。後そっちのはニンニク効かせた豚肉が入ってるから苦手なら気を付けろ。これはシンプルに塩だ」

 

「ん〜、おいしい〜。ちょっと汗かいてたから塩っ気がいいね」

 

 両手で1つのおにぎりを持ちながら少しずつもぐもぐとシャルルは食べ進める。そんな光景を目を細めて見ながら、俺もおにぎりを食べ進める。そうしていくつか食べた頃、

 

「………………で、どうするのあれ」

 

「………いい加減止めるか。おう、そこまでにしとけお前ら。一夏が食べれねぇだろ」

 

 目の前で何も食べずに騒いでる4人に声をかける。何で騒いでたのかというと、

 

「た、助かったけどもうちょっと早く助けてほしかった………」

 

「「「それで誰のから食べるの!?」」」

 

 自分のから食べてもらおうと一夏の眼前に自分の弁当を突きつけていたからだ。仮に食べようとしても取れないだろそれ。

 

「おうお前ら、いくら自分のから食べて欲しいからって、そんなことやってたら食べてもらう前に昼休みが終わるぞ」

 

「? 何で俺に食べて欲しいんだ?」

 

 一夏、そういうところだぞ、箒達に怒られるのは。流石の俺でさえ自分に好意を向けてるんだろうな、くらいは分かるのに。

 

「俺だってそのおかず摘みたいんだからさっさと決めろ。ほら最初はグー」

 

「「「えっ、ちょっ」」」

 

「ジャーンケーンポン!」

 

 と強制的にジャンケンさせた結果。

 

「よし、私からだな!」

 

「くっ、2番か………」

 

「私が最後………」

 

 1番、箒。2番、鈴。3番、セシリアとなった。

 

「なら私はこれだ!」

 

 一夏の取皿に箒が置いたのは唐揚げ。弁当のおかずの定番だが、それ故にジャッジが厳しくなるかもだが、果たして一夏の感想は?

 

「………お、うまいな! さっぱりしてる!」

 

「そ、そうか! 隠し味にわさびを入れていてな! それでさっぱりと仕上がるんだ!」

 

「じゃあ次はあたしね! あたしはこれ!」

 

 作ったものを褒められた箒が顔を赤らめてる横で、鈴が自分のおかず………酢豚を置いた。いつぞやのトラブルの原因になってたが、作れるようになったのか。リベンジ、という訳でもないだろうが、どうなるか。

 

「酢豚作れるようになったんだな、鈴!」

 

「当然よ! ほら、早く食べてみて」

 

「じゃあ………ん、酢豚っていえば酸味だよなぁ、うめぇ………………なんか兄貴が好きそうな味だな、これ」

 

「俺? ………あぁ、確かにこの濃い味は俺好みだな」

 

「! そ、そう………」

 

 一夏にうまいと言わせたが、鈴は浮かない顔をしている。一夏に俺好みじゃなくて兄貴が好きそうとか言われたのが原因か?

 

「では、真打ち登場ですわね! 私のサンドイッチをどうぞ! 一撃で仕留めて差し上げますわ!」

 

「おう、料理でどうやって仕留める気だ」

 

「これたまごか? 随分綺麗な色だなー。じゃあさっそく、いただ──」

 

「──待て一夏」

 

「? なんだよ兄貴」

 

 サンドイッチにかぶりつこうとしていた一夏を止めた。何で止めたんだ? と言わんばかりに首を傾げているが、俺としては自分によく止めたと言いたい。

 

 何で目の前のサンドイッチから、昔喧嘩してた時によく感じていた避けなきゃヤバい攻撃の感覚がするんだ………?

 

「………………セシリア。お前何か見ながら作ったか?」

 

「もちろんです。ちゃんと料理本を見ながら作りましたわ。写真と同じに中々ならなかったので、少々手を加えましたが」

 

「写真と同じ………? ちなみに味見はしたか?」

 

「してませんわ」

 

「しろ。今すぐ」

 

「え、えぇ………………あむ」

 

 困惑しながらも一夏に渡したのと同じたまごサンドをセシリアは頬張る。モグ、モグ、と何度か咀嚼した後、

 

「………………! !? !?!?」

 

 ゲーミングPC程ではないが、セシリアの顔色が見るからに様々な色に移り変わる。意地かプライドか責任感か、頬張った分を何とかセシリアは飲み込んだ。

 

「セ、セシリア大丈夫か………? これ飲むか?」

 

「口直しにこれも食べときなさい。味が濃いから多少は薄れるでしょ」

 

「………………ふぅ、お2人共ありがとうございます。し、しかしどうして………? 写真と同じ色になるように色々足したのに………?」

 

「こんのど阿呆! 料理の写真は見た目を良くするために光を上手い具合に当ててんだよ。色が同じになることはそう無い。お前、料理の経験は?」

 

「あ、ありません………」

 

「はぁ………お前、今度作る時は俺でもいいから声かけろ。初心者が下手なことやって怪我人が増えても困る」

 

「わかりました………」

 

 がっくし、とセシリアは肩を落とした。ちなみに俺が言った怪我人は当人とその料理を食べる羽目になるだろう一夏のことである。好意を寄せる女子の手料理食べて一夏が病院送りとか反応に困るからな。当人も想い人を手料理でノックアウトしたくはないだろう。

 

「こういう所が百春さんがお世話タイプと言われる所以だな」

「あたしもこっちにいた頃お世話になったわ。勉強とか」

「………サンドイッチ食わなくて良かった」

「一夏、そういうのは思っても言っちゃダメだよ。セシリアが聞いたら泣いちゃうよ」

 

「聞こえてんぞお前ら。午後の授業近づいてるからさっさと食べるぞ」

 

 は〜い、と返事が来て、昼飯を再開する。セシリアの頬を何かが伝っているが気のせいだろう。ヤケ食いですわ! と言わんばかりにおにぎりをパクパクしてるのも腹が減ってるからだろう、うん。太り過ぎには注意だぞ。

 

 と、皆が楽しそうに食べる光景を見ながら、朝からずっと頭の片隅に浮かんでいた問題に意識を向ける。

 

(………手を握った感触、担いだ時の感覚、叫んだ時の声の高さ、更衣室でのあの反応に飯の食べ方。どうにもきな臭いな。シャルルは本当に男か?)

 

 自他共に認める女装男子のツルを知る俺としては、シャルルはあまりにも女らし過ぎる。鍛えてないツルと比べても体は柔らかいし、何より所作もツルより男らしくない。

 

〈調べとく?〉

 

(がっつり調べなくていい。デュノア社についてザッと調べてくれ。学園の資料は生徒会権限で見れるだろうから俺が確認する)

 

〈かしこまり!〉

 

 この予感も正直言って杞憂であって欲しいが、どうなんだろうな。余計なトラブルに巻き込まれなきゃいいんだが………

 

 

────────────────────

 

 

〜おまけ 購買での一幕〜

 

「ここが購買だな。待ってるから買ってくるといい。おかずとか持ち寄るから少なめにしとけ」

 

「うん、分かった。行ってくるね」

 

「おう。………ラウラ、お前は行かないのか? シャルルはもう行ったぞ」

 

「心配するなハル。こういう時の作法は知っている」

 

「作法? っておいそれは」

 

パァンッ

 

「コッペパンを要求する!」

 

「何してんだラウラァ! 学園内で銃を抜く奴があるか!」

 

「安心しろ。一応上に向けたが、これは空砲だ」

 

「なんだそれなら………ってなるか! そもそも何で銃を鳴らした!?」

 

「? クラリッサに日本の学食でパンを買う時はこうすると教わったぞ? だから空砲を撃てる銃を用意した」

 

「おのれクラリッサ………! またしても………!」

 

「悪役の捨てゼリフみたいだぞ、ハル」

 

 俺は近いうちにドイツまで拳骨を落としに行かねばならないと決意した。

 

 そして、戻ってきたシャルルと入れ替わりになるように、俺に小言を落としていた姉貴がラウラを生徒指導室へ連れて行った。

 




TOPICS:馬鹿共
 百春のクラスのガヤ担当のような4人組。馬鹿共じゃないと本人達が言っても結局4人合わせれば馬鹿共なので説得力皆無。誰がどれ、とは作者は考えてないが、年の差好き、青春好き、腐女子、オールジャンルオッケーで構成されている。たぶん。


というわけで第12話でした。

そして金銀コンビが登場したということで・・・皆さんお待ちかねヒロイン発表です。
ヒロインは彼女らです。

 束 楯無 ラウラ 鈴

他にもいるやん! なんでや! と思われた方向けの説明(という名の作者の脳内整理)をしますと、

 簪・本音・エム:言ってしまえばヒロインにならない女友達ポジ。なるとしたら通常版じゃなくてEcstacy版で追加されるヒロインのような立ち位置。

 シャル:最後までどころか今も尚ヒロイン加入を悩み中。今回を書いてもしかしたらいけるか? と思うけど、百春との絡みがあまり想像できないんです。あと一夏のヒロインもあまり減らしたくないんだよなぁ………どうすっべ。

といった感じです。

あと、この話はハーレムで進めていきます。
作者の考えているストーリーがあるからと、わちゃわちゃしてるのが書いてて楽しいからですね!

あ、それとなんですが、ヒロインではないキャラとのエンドもif版で書きたいなぁとは思ってます。途中すっ飛ばして卒業後の2人、みたいな感じで。なんならヒロインでもハーレムではない個別エンドも書きたい。作者得なマルチエンディング。


ではでは次回も気長にお待ちください。
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