織斑一夏の兄が行く   作:ふくろう639

21 / 26
お気に入り登録ありがとうございます。

前回のアンケートもありがとうございました。
アンケートの結果、百春のヒロインにシャルが参戦となります。
本格参戦するのはいつになるか分かりませんが、気長にお待ちください。


今回はたぶん日常回です。


第13話 金と銀がいる日常

 翌朝6時30分。天候は晴れ。

 

 いつもなら外でトレーニングの真っ最中だが、今日はまだ部屋にいた。その原因は目の前にある。

 

「だ〜か〜ら〜! いくら仲が良くてもやっていいことと悪いことがあるでしょ!」

 

「ふん。何度も言っているが、貴様には関係ないだろう」

 

「私、彼のルームメイトなんだけど!? 部屋の中に知らぬ間に誰かいた時の気分くらい分かるでしょ!?」

 

「知らんな」

 

 かれこれもう30分。楯無とラウラは似たような会話をずっと繰り返している。楯無は如何に駄目な事かを分からせようと。ラウラは、俺との仲に関係ないだろお前、みたいな態度をずっと通している。いつまで経っても終わる気がしない。

 

 何故こんな事になっているかというと、それは30分程前の俺の起床時に遡る。

 

『………………ふわぁ………朝か』

 

『………む、もう起きるのか。早いなハル』

 

『おう、ラウラ。まだ寝てていいぞ。俺はトレーニングに行ってくるから』

 

『いや、私も参加する。だが着替えてくるから先に行っててくれ』

 

『そうか。じゃあ先に行って………………ちょっと待て!?』

 

『………うるさいわねぇ。朝なんだから、もっと静かに────えっ?』

 

『? 何かおかしな事でもあったか?』

 

『『そんなことより服を着ろ(着なさい)!』』

 

 簡単に言えば、起きたらラウラが俺のベッドにいた。全裸で。

 

 ………これは断言させてもらうが、決して手は出してない。楯無が寝てる横でラウラとプロレスはしてないしマララギダインも放ってない。

 ラウラは寝る時、基本全裸だ。何でそんな事を知ってるのかというと、俺がドイツに滞在していた時はたまに一緒に寝ていたからであって、一緒に寝たかったらパジャマを着てこいと言ってから俺と寝る時くらいは全裸じゃなくなるんだよ。何で今回は全裸なのかは分からん。

 

 というような事を楯無に言ったが、

 

『ふぅ〜ん、そ〜なの〜』

 

『その「そう言うけど所詮男だしねぇ? ホントかしら?」っていう目をやめろ。お前の副会長を信じろ』

 

『その「弟くんと違ってそういったことは起こさないだろうな」って信じてたはずの副会長が朝起きたら裸の女の子と寝てたのだけれど?』

 

『ぐぅの音も出ない。そして一夏の評価よ』

 

『気にするなハル。この女はどうせ私がお前と寝ていたのが羨ましいだけだ。真に仲の良い男女は裸で一緒に寝ると聞いたぞ?』

 

『ブッ! そそそそんなわけないわよ!? 私はただ羨まゴホンッ、けしからんって思っただけよ!?』

 

『誰だそんな知識吹き込んだ馬鹿は!?』

 

 という会話があって、楯無と2人で『それは夫婦の事であって友人同士での事ではない』とラウラに言い聞かせていたら、いつの間にか楯無とラウラの口論に発展していた。

 

 尚、そんな知識を吹き込んだのは今回はクラリッサではない。クラリッサならば間違っても友人同士でやる内容ではないと伝えるはずだ。つまりドイツ軍の誰かだろう。………範囲広いな。

 

 そんな関係ないけど無関係とは言えない口論が30分も続けば俺も流石に暇になる。ちょっと騒がしいBGMを聞きながら、俺はミルクと砂糖を多めに入れたコーヒーを啜っていた。

 

「それに貴女ね、ドアに鍵がかかってたのにどうやって入ってきたのよ」

 

「それはもちろん鍵開けしたからだ。フッ、シリンダー錠など容易いものだ」

 

「普通鍵がかかってたら入ってこないのよ! はぁ、もぅ………」

 

(………通販で後付可能なドアチェーンでも買うか。アリス、適当に見繕ってくれ)

 

〈らじゃ〉

 

「もう素直に認めたらどうだ? 一緒に寝ていたのが羨ましかった、と。日本の女は奥ゆかしいのが多いらしいからな。どうせ、恥ずかしかったから出来なかった、とかいうだけだろう」

 

「カーチーンッ」

 

「自分で言うのか楯無」

 

「恥ずかしかったから? 一緒に寝た事あるかどうかだけで随分な物言いねぇ? 私は百春くんとは色々な事をした仲よ」

 

「負け惜しみを………」

 

「あら、負け惜しみなんかじゃないわよ? 現に百春くんから抱き締めて貰ったこともあるし」

 

(………確かにあれは抱き締めたと言えるなぁ)※第3話

 

「なん、だと………私ですらしてもらったことないのに………!」

 

「『ハニー』『ダーリン』って呼び合う仲でもあるし?」

 

(………確かに呼び合ったが1回だけだな? 後はお前からの一方的なダーリン呼びだな?)

 

「────ッ!」

 

「それにちょっとハードなプレイもしてるもの。貴女なんかより、ずっと親しい仲よ?」

 

(………そりゃお前が折檻食らうようなことするから石畳の拷問もどきする羽目になるんだろ)

 

「バ、バカな………」

 

 ふふん、と勝ち誇っている楯無と床に手を付いて項垂れているラウラ。聞いてる俺からしたら楯無のセリフにはツッコミどころしかないんだが、訂正するのと面倒くさい。

 

「確かに百春くんと一緒に寝たことはないけど、貴女と私、どちらが仲良しかは明白よねぇ?」

 

「ぐぬぬ………ならば勝負だ! どちらがハルの事をよく理解しているか! 勝った者が今晩ハルと一緒に寝る!」

 

「いいわよ乗ってあげようじゃない! 勝負よ!」

 

 火花を散らす2人を見ながら、 絶句した。

 

「………………………マジ?」

 

 何故か本人の与り知らぬ所で、今晩どちらかと同衾する事が確定した。今から頭が痛い。

 

 

 

 

〈ROUND1 FIGHT!〉

 

(おう、ノリノリかよアリス)

 

 ISのウィンドウに現れたアリスの服装が普段のフリフリした服から、何故かラウンドガールの服装に変わっていて、ラウンド数が書かれたボードを掲げている。楽しんでるなこいつ? そして何ラウンドやらせる気だ? 俺は付き合わんぞ。

 

 とりあえず朝食を取りに食堂へ来たが、問題をさっさと出せと言わんばかりに2人が速攻で朝食を済ませて机越しに俺を睨んでいる。何故か2人して最初の問題は本人に出して欲しいらしい。このまま出さなきゃ穏便に終わるんじゃないかとも思ったが、俺のコーヒー豆が人質ならぬ豆質になっている以上、出さなければならない。

 

 さて、どうするか。俺の朝飯を食べる時間も含めて。

 

「お。おはよう兄貴」

 

「おはようお兄さん」

 

「おう、一夏とシャルルか。おはよう。箒がいないが、シャルルの朝の案内中か?」

 

「それもあるけど、俺のルームメイトが箒からシャルルに変わったんだよ。外国から来て心細いかもしれないから男性操縦者同士がいいだろう、って。兄貴達は何してるんだ?」

 

「それがカクカクシカジカ」

 

「なるほど、マルマルウマウマってわけか。兄貴も大変だな」

 

「え、なんでそれで2人とも通じるの? っていうかお兄さんは何て言ったの?」

 

「ん? ああ、兄貴は『なんかどっちが俺と仲がいいか喧嘩し始めて、自分に関する問題を出す羽目になった』って言ってたな」

 

「明らかに文字数合ってないよ!?」

 

「実は秘匿回線で伝えてた」

 

「なぁーんだ、そういうことか………って言葉を交わした意味は!?」

 

「ただの気分」

 

 さすがに、どっちが俺と今晩寝るか、などは言えないからそれっぽい事を伝えて誤魔化した。真実は当事者が知っていればいい。

 

「お、そうだ。一夏、せっかくだしなんか俺に関する問題出してくれ。自分で自分の問題とか出したくねぇ」

 

「兄貴に関する問題? じゃあ………………好きな飲み物は」

 

「「コーヒー!」」

 

「それは簡単過ぎるだろ」

 

「じゃあ嫌いな食べ物はどう? お兄さんって好き嫌いなさそうだけど、いくつかあるんじゃない?」

 

「確かに言われてみれば、兄貴には嫌いな食べ物あるな」

 

「お、じゃあそれで行くか。俺の嫌いな食べ物は何か、回答権は順番に──」

 

「──え? もも兄の嫌いな食べ物って果物でしょ? 酢豚のパインとかマカロニサラダのリンゴは絶対許さん、とかよく言ってたじゃない」

 

 声がした方を見ると、朝食を食べに来たらしき鈴がいた。恐らく、先に来ていた俺達に挨拶してから注文をしに行くつもりだったか? それで、俺の嫌いな食べ物について聞こえたから答えたと。ふむ、つまりは、

 

「正解した鈴に1ポイント」

 

「「なぜ!?」」

 

「え? え? ポイントって何?」

 

 楯無・ラウラの両名は机に両拳を落とし項垂れている一方で困惑している鈴。朝から巻き込んですまないが、朝飯ぐらいはゆっくり食べたかったんだ。出汁巻き玉子分けてやるから許してくれ。

 

 

────────────────────

 

 

「………っていう事があって朝は賑やかだったんだよ」

 

「もも兄も大変ねぇ………」

 

 あっという間に時間は過ぎて昼休み。時間がちょっと危なかったから朝のうちに説明は避けて、今昼食を食べながら鈴と朝に食堂で合わなかった箒にセシリアにも説明していた。

 

「それで、そのお2人はどちらに? まだ決着はついてないのでしょう?」

 

「あそこ」

 

 と食堂の隅の方向を指す。遠目と人混みで分かりづらいが、銀色の頭と水色の頭が見える。時折頭が動いたり手が見えたりするのは、頭を抱えてたりコロンビアでもしてるんだろう。

 

「本人を巻き込まないで2人で勝手にやってろ、ってガンを飛ばしたらこの机から一番遠いあそこまで移動した。そこまで離れろと言ったつもりは無かったんだが………」

 

「いやそれ完全に百春さんが脅してるのでは………?」

 

「朝のトレーニングが出来ないわ朝飯もゆっくり食えねぇわ昼休みにも巻き込むわ………いい加減キレてもいいと思ってな?」

 

 仏の顔も3度までとか言うしな? と笑みを浮かべると皆の顔から血の気が引いていた。何故だ。通りがかった知らない生徒が俺を見て顔を赤らめていたのも何故だ。

 

〈目が笑ってないんだよ。ももくんが異名で呼ばれ始めた原因思い出してよ〉

 

(あぁ………ジェシカ曰く『暗黒微笑』か)

 

〈そのあと高笑いもしてたけどね〉

 

 赤鬼だ悪魔だと呼ばれていたが、赤鬼は中3時だからこれは悪魔の方。つまりは高校時代だな。俺対策でジェシカを人質に取られて袋叩きにあったときに頭に角材落とされてからその笑みを浮かべたとか。直後高笑いしながら暴れてたからそっちの印象が強いらしいが、誰から見た印象なんだそれ。

 

「と、ところで! お兄さんはボーデヴィッヒさんと仲が良いの!?」

 

 この空気をどうにかしようとしたのかシャルルがそんな事を聞いてきた。

 

「ん? 昨日答えなかったか………って、あぁ、そっか。お前ら遅れて来たから聞いてなかったのか」

 

「え? 答えてたの?」

 

「なんでも、百春さんとボーデヴィッヒは数年来の友人だそうだ」

 

「えぇ………? あいつと………?」

 

「随分と嫌な顔をするな一夏。ラウラと何かあったか?」

 

「何かも何も、あいつ昨日の朝のホームルームで簡単に自己紹介した後に『お前が織斑一夏か』って聞いてきたから頷いたらいきなり殴って来たんだよ! パーじゃなくてグーで!」

 

 そういえば廊下を歩いてる時に一夏の叫びが聞こえたな。しかし、あいつが何の理由も無しに殴るとは思えないが………

 

「そういえば、その時に変な事を言ってましたわね………『貴様が教官とハルの弟など断じて認めない!』とかなんとか」

 

「いや、変な事はその後だろう。確か『そして許しもしない! ハルの夢を奪った貴様など!』と言っていたな」

 

「!」

 

 ………………そうか、それが殴った理由か。確かにラウラからしたら一夏は俺の夢を奪った原因なのかもしれないが、俺はもう後悔してないし吹っ切れてる。だが、それはもう既にラウラに伝えているはずだが………?

 

「あの時怒りでよく聞いてなかったけど、そう言われてみればそんな事を言ってたような………でも、兄貴の夢なんて奪った覚えないぞ?」

 

「分からないよ? どんな夢か分からないけど、叶えるために入念な準備をしてたのを台無しにされた、とかあるかもしれない」

 

「入念な準備………………あっ」

 

「心当たりがあるんですか?」

 

「いや、その………料理漫画にあったマンガ肉の巨大版を作ろうとして集めてた材料を夕飯に使っちゃったとか、消費期限が翌日の卵が大量にあったからとりあえずゆで卵にしといたら実はバケツプリンを作ろうとしてたとか、そんな事が、その、ありまして………」

 

「「「一夏(さん)………」」」

 

「そんな目で見ないで! 俺が悪いのは分かってるから! 兄貴もごめん!」

 

「俺はもう気にしてないぞ一夏」

 

 あぁ、気にしてないとも。わざわざタツに手配してもらった食材が夕飯とかに化けてたなんて今はもう気にしてない。今は、な。

 

「マンガ肉もバケツプリンも確かに夢だな。もし1人で食べようとするなら尚更な。カロリーは気になるが」

 

「そんなの気にしてたら美味い物は気軽に食べられないぞ箒」

 

「というかお兄さん意外と料理するんだね。昨日のおにぎりもそうだし」

 

「俺と交代で夕飯とか作ってたからな〜。兄貴がいつもガッツリした料理作るから、俺が野菜で兄貴が肉担当みたいになってさ」

 

「美味いだろうがガッツリした飯は」

 

「そうだけどさ………」

 

 と朝と比べて穏やかな昼休みを過ごした。

 

(………もも兄の様子が変わったのが千冬さんの応援でドイツに行って帰ってきた時………確かモンドグロッソが終わってから3ヶ月経った夏休み中。もも兄が中学の柔道部を辞めたのがその直後。………ドイツで何かあった、っていうのはあたしの考え過ぎ………?)

 

 さっきから黙っている鈴がそんなことを考えていることも知らず。

 

 

────────────────────

 

 

「………………………」

 

「………………………」

 

「「………………………」」

 

 消灯時間だしそろそろ寝るか、と考えてからかれこれもう10分。胡座をかいた俺と正座して縮こまっている楯無は、お互いのちょうど中間地点を見つめていた。俺のベッドの上で。

 

 楯無とラウラの勝負………勝負? は楯無の勝ちで終わったのは知ってる。それで勝った方が今晩俺と一緒に寝れる権利とかいうよく分からん賞品を楯無がゲットすることになったのも知ってる。

 

 てっきり、楯無はラウラを部屋に入れさせないために競ってたと思ってた。まぁ、煽られたのにカチンと来てたのもあるだろうけどよ。だから、まぁ、権利は使わないもんだと思ってた。

 

『………一緒に、寝てもいいんでしょ………?』

 

 なんて、寝る直前に俺のジャージの裾を摘みながら言われるまでは。

 

 またいつもみたくポンコツになっているだけかもしれないと思い、とりあえずベッド脇のランプを点けて部屋の明かりを消してベッドに座ったわけだが………

 

「………………なぁ、楯「も、百春くん!」なんだ?」

 

「………不束者ですが、よろしくお願いいたします」

 

「おう、嫁入りする気か?」

 

 三つ指ついて丁寧に頭を下げてきた楯無に思わずいつも通りにツッコむ。今までにないポンコツ具合だな。

 

「ご、ごめんなさい。間違えたわ」

 

「だよな」

 

「私が嫁入りするんじゃなくて百春くんに婿入りしてもらわないと」

 

「そこじゃねぇだろ」

 

「じゃあ改めて………その、初めてだから、優しくしてください」

 

「そこでもねぇよ!」

 

 姉貴直伝(されてない)拳骨を楯無の頭に落とした。楯無はその勢いのまま布団に顔を沈める。………なんか深呼吸してるのは気のせいか?

 

「はぁ………………そもそも、なんで俺が手を出す前提なんだ」

 

「え? だって、ラウラちゃんとよく寝てたのなら、そういうことの1つや2つやあるでしょ?」

 

「ねぇよ! そういう関係ですらないわ!」

 

 俺の後ろに置いていた枕を、布団に突っ伏した状態から顔だけこちらに向けていた楯無にぶつける。そもそもラウラは友人だっての。向こうもそう思ってる。

 

「で、マジで俺と寝るのか?」

 

「そ、そうよ? 百春くんと一緒に寝ておかないと明日あの子に突っかかられたら面倒だし………」

 

「それは否定できないな」

 

「それに、その、今まで生徒会業務で迷惑かけてたし、お詫びできたらなぁ、って思ってたし………寝ぼけたとか、寝相が悪かったって理由で身体を(まさぐ)るくらいならいいわよ………?」

 

「あのなぁ………」

 

 さっき拳骨を落とした辺りを乱暴に撫で回す。

 

「別に迷惑だなんて思ってねぇよ。生徒会業務で迷惑かけてるって自覚あるならちょっとずつでも改善していけばいいし、家業の手伝いもあるんだからその分俺に振ってくれて構わない。ま、溜め込むのはやめて欲しいがな」

 

「百春くん………」

 

「お前、何を焦ってる?」

 

「────ッ」

 

 いや、違うな。焦ってるというよりは………急いでいる? 同じに思える2つだが、ちょっと違う。ざっくり言えば、義務感かそうでないか。例えるなら、あの信号を渡らなきゃいけないと走るか、渡りたいと走るかみたいなもんだな。

 

 今の楯無は後者の方だ。俺と何か早くしたいという感じか? とすると原因として考えられそうなのは………

 

「………この前のGW、何かあったか? 確か最終日に帰ってくるはずが、翌日に帰ってきたよな?」

 

「………………そこまで分かるのね」

 

「当たり前だ。同じ部屋になって1ヶ月。授業中以外はほぼ顔を合わせてるんだ。喜怒哀楽の嘘かホントかを見分けられるくらいにお前に付き合って来たと自負してる」

 

「1ヶ月程度で見分けられると私の立つ瀬がないんだけど………そう言ってもらえるなら百春くんとあそ………百春くんで遊んでたかいがあるわね」

 

「言い直した意味ねぇだろそれ。というか、俺『で』遊んでたのかよ」

 

 まぁ、薄々は気付いていたが。初日からやっていた部屋に戻った時のやり取りが最近は即興劇じみて来たもんだから、それを簪によく愚痴っていた。一緒に聞いているらしい本音曰く『かんちゃんの中のお嬢様像が崩れ始めてる』らしい。そのまま崩壊したら姉妹仲も良くなるだろたぶん。

 

「それで、何があったんだ? 別に言いたくないなら言わなくてもいいが」

 

「………GWの最終日の夜はね、立食パーティーに参加してたの。国のお偉いさん主催のね」

 

「ん? お偉いさんのパーティーに呼ばれるってことは更識家ってかなり地位が高いのか?」

 

(そういえば百春くんに更識家のこと言ったこと無かったわね………)

「龍宮のたっちゃんほどじゃないけど、まぁ、そこそこね? ところで百春くんって、少女漫画は分かる?」

 

「そりゃまぁ分かるが」

 

「そういうのに俺様キャラっているじゃない?」

 

「俺様キャラ………っていうと『俺の物になれよ』みたいな事を壁ドンからの顎クイしながら言うようなキャラか?」

 

「まさしくそれ! 壁際で休んでる時に向こうから来てもう最悪だったのよ!」

 

「それほどか? お前なら上手く捌けそうだがなぁ………」

 

「ちなみに、俺様キャラにセクハラ親父が混ざっているわ」

 

「最悪じゃねぇか」

 

「『女しかいない学園で持て余してるだろう? どうだ今夜? 悪いようにはしないぜ?』なんていいながらボディラインを指先でなぞってきてあああああもう鳥肌が立ってくる! 私と同じくパーティーに招かれた身なんだから大人しくしてなさいよホント!」

 

 一気に両腕に現れた鳥肌を楯無は全力で擦っている。マジで嫌だったんだろうなぁ………先月買い出しに行った時以上の反応してる。

 

「『今回は諦める』? 『お前は俺の物にする』? 『拒否権は無い』? ふざけないで! 私にだって相手を選ぶ権利くらいあるわよ!」

 

「おいそれ俺の枕」

 

 ボスボスボスボスと今度は俺の枕に高速で拳を叩き込み始めた。低反発とかじゃないが、大きく硬めな枕だからか殴り甲斐があると言わんばかりにストレス発散に使われている。

 

「お金があるからってこんなご時世なのに貴方に擦り寄ってくる女の子達と一緒にしないで! 貴方なんか絶対にずぇったいにお断り、よ!!」

 

「俺の枕ー!」

 

 怒りゲージがMAXになったのか、楯無は換気用に開けていた窓目掛けて俺の枕をぶん投げた。網戸に当たって室内に跳ね返るかと思いきやそのまま網戸を貫いて外に落ちていった。どうすんだ今晩。

 

「────いや、ちょっと待て。なんでたかが枕が網戸を貫くんだ?」

 

「………………あっ、虚ちゃんからいざという時に逃げられるよう網戸に切り込み入れておいたから………」

 

「ほう。生徒会長ともあろう者が、自分のサボりのために学園の備品に傷をつけていたと?」

 

「も、百春くんなんか織斑先生みたいなんだけど?」

 

「そういうつもりはないが………まぁいい。否定はしないんだな? じゃあ楯無、罰として今晩お前の枕使うからな」

 

「え、嫌よ!? どうせ顔を埋めて匂いを堪能する気でしょう! 変態みたいに! 変態みたいに!!」

 

「おう、さっき俺の布団に顔を埋めて深呼吸してたのはどこのどいつだ」

 

「匂いを嗅ぐだけなら変態じゃないわね、ええ。自然なことよね」

 

「こんの手の平ドリルが」

 

「というか、百春くんが私の枕使っちゃったら、私は何を枕にすればいいのよ!」

 

「あるだろここに」

 

 と二の腕を叩く。

 

「え、それってもしかして………」

 

 

 

「俺の枕ー!」

 

ドンッ

 

「………………? 一夏、外に何か落ちてきたみたいだよ?」

 

「ん〜………? 兄貴の声だった気がするし、たぶん兄貴が何かしたんだろ。真上の部屋だし………」

 

「そっか………ごめんね起こしちゃって」

 

「いいよいいよ。それじゃお休み、シャルル」

 

「うん、お休み」

(………今日は一夏の専用機のデータを盗めなかった。お兄さんの専用機のデータも狙えとは言われたけど、昨日会っただけでかなり怪しまれてる。上手く立ち回らないと………………僕、どうしてこんなことしてるんだろ………?)

 

 

 

「それじゃ、その、失礼しまーす………」

 

 ベッドに横たわった俺の隣にそーっと楯無が寝転がる。が、その位置はかなり端っこだ。今は横の俺を向くように寝ているが仰向けになるだけでも落ちかねない位置だ。

 

「おい、もうちょっと寄らないと寝返り打ったら落ちるぞ」

 

「そ、そんなこと言ってもね? さすがにこれ以上はちょっと………」

 

「お前が落ちた拍子に夜中に目が覚めるのも嫌なんだ、よっ、と」

 

 腕枕用に伸ばしていた腕で楯無を抱き寄せる。腕枕というか肩枕になってるが気にしない気にしない。

 

(あっ、わわっ、うわわわ………な、なんとか平静を………!)

「んもう、強引ね………! ラ、ラウラちゃんにもこんなことしてるの? 私と密着してるのに随分と落ち着いているけれど」

 

「あいつは腕じゃなくて胸元を枕にしてるから抱き寄せるなんてことはした事ねぇよ。俺の心臓が動いていると安心するらしい。狼狽えてないのは、まぁ、慣れだな」

 

 小学生時代からの束さんのスキンシップのせいでこういうので動じることはあまりない。何度風呂場に引きずり込まれ、何度抱き枕の代わりとなったことか………………

 

「ふーん、ラウラちゃん変わってるわね。まるで百春くんの心臓が止まったことあるみたいな言い方だけど………」

 

「………………………ん、すまん。うとうとしてた」

 

「今日は朝から騒がしかったものね。疲れていても無理もないわ」

 

「じゃあ、おやすみ」

 

「お、おやすみなさい………」

(ね、寝れるかしらこの状態で………)

 

 普段は感じない熱と感触を感じながら、目を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「………………襲わないでね?」

 

「襲わねぇよ!」

 

 

 

〜おまけ〜

 

 翌朝。

 

「兄貴、おは………ってどうしたんだそのほっぺの湿布?」

 

「一夏、おはよう。なに、今日は珍しい目覚ましに起こされてな」

 

「珍しい目覚まし?」

 

「おう。寝起きに楯無のそれはそれは見事なエルボーを食らってな?」

 

「ごめんなさいごめんなさい本っ当にごめんなさい」

 

「会長もそんなことするんだな………ん? パンチとかじゃなくてエルボー? なんで?」

 

「それはまずモゴモゴモゴモゴモモゴモゴモゴゴモゴ………(目を覚ましたらしっかり俺に抱き着いてすやすや気持ち良さそうに寝てる楯無がいてだな………)」

 

「シー! 百春くんシィーッ!」

 

「?」




というわけで第13話でした。


ラウラが初っ端から布団に入り込んでいるのは、ずっと前から百春と接しているため好感度が既に高いからですね。ですが、まだラウラは百春を友人としか見ていません。今まで友人と思ってたのにある時から異性として意識する、っていいよね。上手く書けるといいけど。

そして前回の百春がいなかったホームルームであった一夏とラウラのやり取り。ラウラが一夏を殴るほどとはいったい何があったのか………その話を聞いた鈴が事実に迫りつつあります。どうなることやら。

最後に楯無との絡み。ヒロイン発表したしちゃんとヒロインごとのエピソードを書いていかないといけないからね。束は閑話で済んでるから他のヒロインズの分を考えたりしなければ………!


ではでは次回も気長にお待ちください。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。