組み込みたい設定が中々上手く入れられなかったり、前書きや後書きの内容に悩んだり、サブタイが思いつかなかったりと更新が遅れました。今章のサブタイは「金と銀の〇〇」で統一しようかと思ってたけど無理だったよパトラッシュ………
まぁ、すべての原因は、
「UAが30000超えた? ………なら、このすば編書くしかねぇよなぁ!」
と本編ほっぽり出してこのすば編を書いてたのが悪いんですけどね!
結局このすば編は書きあがってないですし。
それはそれとしてこんな小説を読んでいただいてありがとうございます!
おかげさまでUA30000突破しました!
それでは本編をどうぞ。
「よ〜し、そこに並べ馬鹿共」
「ちょ、ちょっと待ってくれ百春さん!」
「そ、そうです! 今度はお2人ではなく私が上手く教えますから!」
「セシリアあんたどさくさに紛れて何言ってんの!? 一夏にはあたしが教えるのよ!」
「並べ」
「「「あっはい」」」
放課後のアリーナ。クラス対抗戦も終わったからと、一夏の訓練を担当させて欲しいと3人娘に言われたから任せてみたが、酷い内容だった。
数日前の山田先生対セシリア・鈴ペアの戦いを見た一夏から、銃に対するちゃんとした立ち回りというか避け方を覚えたいと提案があった。なので、俺が生徒会でいなかった間に3人娘にやらせてみた訳なんだが………
「………今日顔を出してみれば、箒は擬音で指示を出す、セシリアは細か過ぎる角度で指示を出す、鈴は感覚でとか意味不明な指示を出す………お前ら教える気あるのか?」
「だが、実際にビュンッ! としてグイッ、と避けるだろう?」
「体の中心から左右半分に分け、どちらかの方にひとまず30度ほど傾ければ避けられるでしょう?」
「あんなの感覚で避けられるでしょ?」
「………で、それを聞いた一夏の感想は?」
『まっっっっったく、分からん!』
「それが普通だ」
『あ、あはは………………』
訓練してる途中なので、広域回線で一夏の返答がくる。この会話を聞いていた射撃役のシャルルも呆れていた。
「という事で、今日は俺が担当する訳だが、あながち
「今さらっとあの4人と同じ扱いしませんでしたか?」
『そうなのか?』
「おう。2人とも準備してくれ。一夏、正面からの正確な射撃を避ける場合は大きく避けるんじゃなく、体を傾けて避けることでその後の反撃もしやすい。シャルル、右左と交互に頼む。一夏は片足を軸にグイッ、と避ける感じで」
『グイッ、と………』
『一夏行くよ〜』
ターンッ………ターンッ………ターンッ………
「一夏、傾け過ぎだ。もうちょい角度削れる。そうだな、体感10度くらい………そうそう。そんなもんだ。後はその避ける感覚を元に自分のやりやすさを探してみろ」
「「「私(あたし)最初からそう言ってただろう(でしょ(う))」」」
「おう、翻訳通さないと分からない時点でアウトなんだよ反省しろ」
「「「はい………」」」
ちょっとした説教をしてる裏(というか上)で、一夏とシャルルの2人は訓練を続行していたが、ある程度繰り返した所で揃って降りてきた。
「シャルル、どうだった?」
「うん、この前の焼き直しになるかと思ったけど、良くなったよ」
「………その時は何があったんだ?」
「避ける訓練にならなかったから、一夏に銃を撃たせてみたんだよ、僕の装備を
「あぁ、確かにな。俺も知ってたからISに乗ってからの立ち回りは初心者にしてはマシな方だし」
「え、銃なんて撃ったことあったのか?」
「おう。タツに付いてアメリカ行ったときにジェシカの親戚に指導してもらった」
座右の銘が『カバー命』の軍人だったな。実際の戦場だと細々した規則なんかよりそれが大事だそうだ。………それはそれとして『初心者………?』って首を傾げてる3人は後で話そうな?
「そういえばシャルル。ラファールには使用許諾機能が付いてたが、ISにはそういう機能が付いてるもんなのか?」
「どっちかって言うと、第二世代機の機能ってところかな。シンプルだった第一世代機から多様化した第二世代機だからね。第三世代機になるとイメージ・インターフェイスでの操作になる装備だから使用許諾しても使えない、って感じかも。あれはちょっと特殊だから」
「なるほどなぁ………………ん? シャルルのが使えたってことは兄貴のも使えるのか?」
「使えるぞ? 試してみるか?」
弾鋼を左手に展開して使用許諾する。一夏にそれを渡したが案の定、
「おもっ!?」
ズゴンッ!
持ちきれずに落とした。さっきのシャルルのライフルのような重さと思って持ったら明らかに重いからな。この分だと一夏なら、両手でギリギリ持てる、といったところかな?
「おいおい、落っことすなよ一夏。万が一暴発したらどうすんだ」
「あっ、ご、ごめん………じゃなくて! え、なにこれ? ISのパワーアシストあんのに思わず落っことしたんだけど?」
「お前もご存知、龍宮グループ謹製の弾鋼だが?」
「いや、それは知ってるんだけどそうじゃな「織斑一夏ァッ!」この声はまさか」
「貴様、ハルの武器を受け取らずに落とすなど何を考えている!」
「ボーデヴィッヒ………!」
黒いISを展開しながらこっちにラウラが歩いてきた。それを見た一夏は苦虫を噛み潰したような顔をしてるし、他の面々も穏やかじゃない顔をしている。お前ら、そんなに仲悪いのか?
「………俺だって落としたくて落とした訳じゃねぇよ。思った以上に重かったから落としちまっただけだ」
「どうだかな? 貴様が持てんような物をハルが持たせようとするとは思えん。何を考えている?」
「だから一夏が言った通りだよ。なに? この前みたく喧嘩売りに来たの? 何度も言うけど一夏は買う気ないよ? 僕でよかったら買ってあげようか?」
「黙っていろ。今更フランスの第二世代機風情に興味などない」
やけに物騒な会話をしてる中で、俺は『この前』という言葉が引っかかって首を傾げていると、鈴から秘匿回線でリークがあった。
『もも兄がいなかった、さっき話にも出てた訓練の時ね。その時も今みたいにボーデヴィッヒが話しかけてきて「私と戦え織斑一夏!」ってね。シャルルとも一触即発になりそうだったし「何を考えている」はこっちのセリフよまったく』
『その時は結局どうなったんだ?』
『一夏が、周囲にISが無い人もいるからやらない、って断固として拒否してその場はなんとか収まったわよ』
どうにもラウラは一夏が気に食わないらしいな。学園に来て早々に頬を殴り飛ばしてたみたいだし、俺がいなかった時に喧嘩も売ってたみたいだし、今みたいに些細な事で噛み付いてる。
どうしてそこまで一夏を嫌うのか。それが分からないな。あの時の事は、一夏は関係ないというのに。
「ふん。今日は貴様に用はない。ハルに用があったのだ」
「………俺か?」
ちょっと間抜けな声が出た。鈴から聞いた話だと、てっきり一夏かシャルルに用があったのかと思ってたからな。
「そうだ。こんな奴らと訓練をするなど、何もハルのタメになどなりはしない。だから私と来いハル。教官からも叩き込まれたドイツ軍式の訓練をするぞ」
「ずいぶんな言い方ね。あたし達だってもも兄の為になるようなことぐらいできるわよ」
「『できる』ではない『してない』のが問題なのだ。ひとつ聞かせてもらうが、今日この時までアリーナを使用している間にハルが研鑽している光景を見たことはあるか?」
「あたしは今日初めてもも兄と一緒になったから………2人は確か早くから一緒だったのよね?」
「………えぇ。ですが、言われてみれば………………ありませんわね? 箒さんは?」
「………………いや、無いな」
ラウラの言う通り、俺が放課後のアリーナでISに乗って自身の腕を磨いていた事はない。入学〜セシリア戦まではISへの理解を深めるのに勤しんで、それ以降は対鈴戦に向けて一夏を見てたからな。それが終わってからは怪我のせいでISには乗ってなかったし。
なお、アリーナの利用申請が通らなかった日は生徒会業務をこなしているか、整備棟で簪の専用機開発の手伝いをしてるかだ。おかげでISの整備方面にはそこそこ詳しくなった。
「え? ちょっと待ってよ。お兄さんって一夏の訓練内容決めてたんだよね? ならなんでISにほとんど乗ってないのに決められるの?」
「「「「言われてみれば確かに」」」」
「誰も疑問に思わなかったの!?」
「いや、兄貴なら何でも知ってるから………」
「何でもは知らんぞ知ってる事だけだ。モンドグロッソの試合を何度も見た知識と経験から来るアドバイスだよ」
「モンドグロッソは分かるとして、経験とは?」
「喧嘩」
「「「?」」」
「「あぁ………」」
俺が喧嘩しまくってた事を知ってる一夏と鈴が若干引きながら頷いていた。主に高一の時に
「………で、話は終わったか?」
腕組みをして人差し指でトントンと音を立てていたラウラは若干苛立ち気味に俺達を睨んできた。俺達と言っても顔は一夏に向いていたが。
「おう、すまんなラウラ。それで、早い話が俺と一緒にやりたいってことだな?」
「そうだ。だから行くぞハル。お前に教えておきたい事は山程あるから時間がおしい」
「ちょっと待てよ! 兄貴は俺達といつも一緒に」
「待つのはお前だ一夏。………百春さんに対してのボーデヴィッヒの言い分は正しい。残念ながらな」
「箒………」
「いつも私達の面倒を見ていては百春さんの負担にもなる。百春さん自身にも訓練できるように私達が配慮すべきだったんだ。………クラス対抗戦の時のような事が二度と起こらない、とは限らないしな」
「物分かりが良い奴がいて結構だ。行くぞハル」
「あ〜、んじゃ、後よろしくなシャルル」
「あ、うん。………………って僕なの!?」
だってお前が一番まともだし。
なんて言葉もかけられず、俺はラウラに引っ張られるままにその場を後にした。
一夏達の近くにいたくないのか、ほぼ反対側のスペース目掛けてラウラは歩いているようだ。まぁ、自分達も男性操縦者に代表候補生が固まって訓練してる近くでやりたい、みたいな奴らが寄ってるからその反対側は比較的空いている。
「こうして見ると、分かりやすく固まっているな。そんなに男性操縦者の近くでやりたいものか? 訓練にはそのような事など不要だろう」
「話題の人物が近くにいたら近寄りたくなるもんなんだよ。見た目だって悪い訳じゃないからな、一夏は。お前だって、例えば姉貴が食堂で飯を食べていたらなるべく近くに座るだろ? それと同じだ」
「それならば理解できるが………案外、ハル目当てだったのかもしれんぞ?」
「そうだったら今も俺達の回りに固まってるだろ。いない、って事はそういうことだ。」
尚、ももくんの周囲に固まっていないのは、ドイツ娘が原因だったりする。他の生徒が近づく素振りを見せただけでガンを飛ばすという、不良も真っ青な行動のせいだね! byアリス
「しかし、ハルもハルだ。面倒見が良いのは美点だが、ISをファッションアイテムか何かと勘違いしているような奴らの面倒まで見る必要はない!」
ラウラが言わんとしている事はなんとなく分かる気がする。本来は宇宙服の代わりで開発されたが、今現在では兵器としての認識が強い。IS操縦者の軍人としては、兵器について学ぶ態度じゃない、と言いたいんだろうが………
「ラウラ、その判断は早過ぎる。今まで机上で学んだりするだけだった憧れの代物に実際に乗れるんだ。浮かれもするだろ」
「『憧れは理解から最も遠い感情だ』とマンガで読んだぞ? 実機に触れて理解することを怠っているような奴らを切り捨てるには早いと?」
「ああ、早いな。それに、ああいう奴らは案外化けるもんだ。一夏含めて、な」
中学・高校での面倒を見ていた後輩もそうだった。勉強なり部活なりなんなりで思うように結果を出せなかった奴らだったが、ある時を境に今までが嘘のように結果を出したからな。
だから、あそこにいる奴らも後々急成長したら、っていうのを想像するのは実に楽しい。気付けば口角が上がってるぐらいに。
「何故そのような表情をする………」
「………おっと、せっかくの機会なんだから、俺達もいい加減始めようか。よろしく頼むぜボーデヴィッヒ教官?」
「………………いいだろう! しっかり叩き込んでやるから覚悟しろ織斑訓練生!」
「ハッ!」
そんな感じでドイツ軍式の敬礼をした後、ラウラから何故かスパルタ気味だったが基礎トレと、あと瞬時加速を徹底的に叩き込んでもらった。おかげでアリスに頼らずともしっかりと扱えるようにはなったが、しばらくアリスが拗ねて普段の生活に微妙に影響が出ることとなったが、まぁ、必要経費だな。
〜一夏視点〜
「────言いたいことはそれだけか?」
とある日の昼休みのことだった。
アリーナの更衣室に忘れ物をしたから昼飯をちゃちゃっと済ませて、午後の授業に間に合うように小走りで向かっていた時に、廊下の先から千冬姉とボーデヴィッヒが何やら話している場面に出くわした。
通ろうにもど真ん中で話してるし、ボーデヴィッヒは何かと俺に噛み付いてくるからちょっとだけ通らせてもらおうにも面倒なことになりそうだな………
時間には余裕があるし、ひとまず向こうにバレないように柱の陰に隠れて様子を窺うことにしたんだけど、どうもボーデヴィッヒは千冬姉が学園にいることが気に食わないらしい。
曰く、学園にいる奴らはISをアクセサリーか何かと思っていて真面目さが感じられない、あんな奴らに教官が教えているのは無駄だ、ドイツ軍で以前のように教えているべきだ、と。
それに対して千冬姉はそれだからこそ教えがいがある、なんて答えていた。あとは弟とはいえ俺と兄貴の保護者だから以前のように長く離れている訳にはいかない、とも。
その言葉に対してボーデヴィッヒは食い下がったけど、千冬姉には暖簾に腕押しみたいで今ズバッと切り捨てた所だな。
「それだけではありません! 何故ハルをISに関わらせているのです!? 3年前のあの日、何があったか覚えておられるでしょう!?」
(3年前………?)
3年前っていうと、第2回のモンドグロッソがあった年か。開催国は確かドイツだったから、ボーデヴィッヒが知ってるとしたらその時くらいだけど、何かあったか? 2人で変な奴らに追いかけられて兄貴が足止めに残ったのは覚えてるけど………後はさっきも話に出てた千冬姉がドイツ軍で教えていたくらいか?
「………勿論覚えている。忘れられるはずが無いだろう」
「ならば何故!」
「落ち着けボーデヴィッヒ。ヒートアップし過ぎだ」
「………失礼しました。ですが、何故ハルのトラウマを刺激し続けるようなマネを? 教官ならば関わらなくても良いように取り計らう事も可能だったでしょう」
(トラウマ? 兄貴に?)
そんな話は聞いたことないし見たこともない。ボーデヴィッヒの言い方だと、IS関係にトラウマがあるみたいだけど、そもそも今までISに関わらないで普通に暮らしてたし学園でもおかしな事もなかった。………けど、千冬姉も否定してないし、本当にあるのか?
「………確かに、私ならば不可能ではなかっただろう。だがそれは百春でなかったらの話だ」
「どういうことです?」
「百春も、そして一夏も。2人が男ではなく女であったなら、私の血縁だからという理由に対して有無を言わさず、とはいかなくとも学園に入学させずに今まで通りのISに関わらない暮らしが出来ていただろう。だが2人は」
「男性操縦者だった、ということですか」
「そうだ。前代未聞の男性操縦者、それが2人も現れた。私が信頼できるごく一部の者のみがいた場所で動かしたなら公にせずもみ消すことも可能だっただろうが、百春が動かしたのは国の上層部の前。一夏にいたっては気付いたときにはニュースで全国区だった。私の伝手を頼っても無理だと確信したよ。記録は消しても記憶は残るからな」
たぶん伝手は束さんなんだろうなぁ。兄貴が連絡取ってるなら千冬姉も取ってておかしくない。
「………そう、だったのですか。ですが関わらせない事は出来なくとも乗ることのないような配慮ぐらいは」
「ボーデヴィッヒ。ISに乗るのは百春の希望でもあるんだよ」
「ハルが、乗ることを望んだと?」
「その通りだ。私も一応止めてはみたんだが──」
『弟の一夏が乗るのに兄の俺が乗らないのは通らないだろ。それに、一夏が悩んだり辛かったり苦しい時にその気持ちを分かってやれるのも俺しかいないだろうしな』
「──とな。フッ、結局の所、弟が心配なんだよあいつは。自分の事なんて二の次、三の次くらいにするにはな」
(兄貴………!)
目頭が少し熱くなる。実際、兄貴が一緒に学園にいてくれてすごい助かってる。授業でもISでも分からない事は気軽に聞けるし、そもそも女子校に男は俺だけなんてことになってないだけでもすごい助かってるんだよ。男ならではの悩みとかも話せるしさ。最近はシャルルも来てくれたし、同性がいるって素晴らしいよほんと。
兄貴がいてくれて良かった事が頭の中を流れて、そうそうそうなんだよと改めて兄貴がいてくれるありがたさを俺は噛み締めていた。
(またお前か織斑一夏………! 教官もハルも何故あのような顔をあいつに向け続けるんだ!? あいつのせいで何があったのか覚えてるだろう!?)
なんてボーデヴィッヒが考えてる事も知らず。
「だからな、ボーデヴィッヒ。IS操縦者の先達としてあの2人に──」
「お断りします! 私はあのような奴が教官の弟などと絶対に認めません! そして教官もハルも、ここにいるべきではないのです! 失礼しますッ!」
「待てボーデヴィッヒ!」
気付けば、駆けていく足音がどんどん遠ざかっていく。どうやらボーデヴィッヒは俺が隠れている方とは逆の方に走っていったようだ。
「あの分からず屋はどうしたものか………………さて。盗み聞きとは私の弟ながら趣味が悪いな」
(バレてる………)
いつから気付かれてたのかは分からないけど、気付かれてる以上出ていかなきゃ後で酷いことになる。例えば二者面談とか、晩酌に付き合うとか、マッサージをさせられるとかエトセトラエトセトラ。
行きたくないけど行くしかないか、とそう思った俺は渋々と隠れていた場所から千冬姉の所まで向かうのだった。
ある日の夕食を終えた後。
楯無が留守の部屋で、俺は集めた資料を広げていた。広げている資料に記載されているのは、シャルル・デュノアについて。またはデュノア社について。あとはその他細々した情報だ。
学園で俺が集めた資料では特におかしな部分はない。シャルル・デュノア。性別男。第二世代機ラファール・リヴァイブをリリースしたデュノア社の社長令息で専用機としてラファール・リヴァイブ・カスタムを所持している………いたって普通の中身だ。なんなら俺や一夏も似たような書き方だった。
問題は、アリスに集めさせた情報だ。………別の意味の問題もあるが。誰が社長夫妻の通販の履歴も調べろと言った。普通の買い物の中に紛れてる栄養ドリンクとかおもちゃとかゴム風船の項目になんてリアクションすればいいんだよ。
………ゴホン。気を取り直して。
まず、シャルル・デュノアという男はフランスに存在しない。デュノア社の社長には妻がいるが、息子はいない。子供すらいない。が、既に亡くなった愛人との間に子供がいたらしい。彼女の死後に社長に引き取られたようだ。
その引き取られた子供は、シャルロット・デュノア。性別は女だ。アリスがどこからか入手してきた数年前の写真を確認すると、そこに写っていたのは順当に成長すればああなるだろうなと分かる女の子。つまりはフランスでは何と言うか分からないが、要するに中学時代のシャルルの写真だ。女子生徒の制服を着ている、な。
双子や姉妹がいる、なんて話が無ければシャルルとシャルロットは同一人物。つまり、
「シャルルことシャルロットは女だった、か。一夏の奴『男同士だから気が楽だ〜』とか言ってたが、結局女子と同室じゃねぇか」
別にそこは問題じゃない。一夏は箒と同室で過ごしてたから、それが別の女子に変わっただけだ。
そして、何故シャルロットがシャルルとして学園に来る事になったのか。原因はデュノア社にあった。かなり簡単に言えばお家騒動。
「これは、なんともまぁ………」
親の心子知らずとか子の心親知らずとかあるが、まさしくこの事か。このスケジュールからすると、シャルル本人は知らなかっただろうな。かなりギリギリだ。とすると………学園も政府も承知の上か。通りで世間に3人目の情報が流れていない訳だ。色々と納得がいった。
「さて、どうするべきか………」
この分だと、シャルルは一夏か俺のISのデータを狙って動いてるだろう。だが、狙いやすさからして同室の一夏の方をターゲットにしてるはず。シャルルが学園に来てそこそこ経ってる以上、そろそろ実行に移しててもおかしくはない。
シャルルの扱いをどうするか。その答えは既に出てるが政府がひた隠しにしている以上、あまり大掛かりに行動すると
ポコンッ
〈ももくんメールだよ。いっくんから『時間があったら俺の部屋に来てほしい。相談があるんだ』だって〉
お、良いタイミングだな。
〜一夏視点〜
「………………なるほどな」
部屋に来てもらった兄貴に一通りの話をすると、腕を組んで何かを考えるように目を瞑った。
こんな時間に部屋まで兄貴にわざわざ来てもらったのは他でもない。シャルルのことだ。
シャルルは男じゃなくて女だったんだ。
それに気付いたのはほんの数時間前のこと。シャルルがシャワールームに入った後に、シャンプーが切れかかってた事を思い出した俺は詰替え用を渡そうとシャワールームの扉を開けた。そこにいたのはシャルルだったけど、男じゃなかったんだ。む、胸もその、あったし。
とりあえずシャワーを浴び終わって着替えたシャルルに話を聞いた。なんで男として学園に来たのか。
ポツポツと話始めた内容は酷いものだった。男として来る事になったのはデュノア社社長である父親の指示らしい。なんでもデュノア社は第二世代機の開発は大成功しているものの、第三世代機の開発が遅れていて欧州のプロジェクトに参加できず、経営が危ないそうだ。それで男として学園に行って俺の白式か兄貴のディアブロ・リヴァイブのデータを盗んでこい、って言われたらしい。
その話を聞いた俺は当然激怒した。うちには親はいないけど、箒や鈴を始めとした友人達の親と話す機会は結構あった。その誰もが自分の子供の事を考えていた。自分の娘をなんだと思ってるんだデュノア社の社長は!
その怒りのまま俺はシャルルに『俺がどうにかしてやる!』と言い切った。このままじゃシャルルが可哀想だ。こんなの間違ってる。
シャルルも最初は渋ってたけど、本心はどうなんだと迫ったら徐々に、泥棒の真似事みたいな事はしたくない。普通に女の子として、シャルロットとして学園に通いたい、って。あ、シャルロットっていうのはシャルルの本名らしい。名前も似てるし、これからはシャルと呼ぶ事を伝えたら少し嬉しそうだった。
そこで兄貴を呼ぶ事にした。一時期人助けをよくしてた事もあって、こういう時の兄貴は頼りになる。
それで兄貴を呼んで、さっきまでの事を話したんだけど………
「………兄貴、意外と驚いてないよな」
「ん? そりゃ、初めて会った時から疑ってたからな」
「あ、やっぱり? 教室で挨拶してから、そんな風に見られてるような気がしたんだよね」
「え、嘘だろ!? どっから見ても男だっただろ!?」
「あ〜………そうか、お前はそっちに働いたのか。そりゃ気づかないか」
「? どういうこと?」
「俺と一夏………というよりかは俺の方だが、友人に自他共に認める女装男子がいるんだよ」
「女装男子」
「そう、女装男子。男の娘ともいう。そいつが普段から女装してたからトラブルが色々あったりしたもんだよ。な、一夏?」
「お、おお俺に振らないでくれ!」
あれは俺の黒歴史といっても過言じゃないんだよ! 墓まで持ってくつもりなんだから話題に出さないでくれいやホントに!
「それで、その人がどうしたの?」
「ああ、俺達の頭の中にある『女子みたいな男子』の基準がそいつだからな。シャルを見た時に、俺は『あいつと比べると本当に男か?』ってなって、一夏は『あんな人がいるんだから男だな!』ってなったんだろ」
「さすが兄貴」
「お前が分かりやす過ぎんだよ」
よく顔に出るしな、と言われたから思わず頬を揉みほぐす。そんなに出るのか? と思ったけど、昔から変な事を考えたら箒とか鈴に突っ込まれてたし、そうなのか。
「さて、シャルル………いや、この場ではシャルロットの方がいいか。シャルロット、お前は普通に男ではなく女として学園に通いたい、俺にも助けて欲しい、という事で合ってるな?」
「う、うん。でも、どうにかできるの………?」
「どうにかするんだよ。俺は生徒会副会長。困ってる生徒を助けるのも生徒会の役目だ。ひとまずの案も浮かんだしな。応急処置程度だが」
「おお〜。で、どんな内容なんだ?」
「とりあえず、シャルルには学園を去ってもらう」
………………シャルニ学園ヲ去ッテモラウ?
「ふ、ふっざけんな兄貴! それのどこが応急処置なんだ! シャルをこんな風に扱う家族の元に返すっていうのか!? 認められるか!」
「いや、そうじゃないしちゃんとその後学園にだな」
「却下に決まってんだろ! この学園からいなくならずに済む方法を考えてくれ!」
「………じゃあ姉貴にも相談して──」
「それも駄目だ」
「………………はぁ? おい、おいおい一夏。なんで姉貴を巻き込むのは駄目なんだ? まさかとは思うが『姉貴は忙しいから〜』なんてふざけた理由じゃねぇよな?」
「………………悪いかよ」
千冬姉は俺達を養うために毎日すごい頑張ってる。今では男性操縦者だとかテストパイロットとかでお金が貰えているから余裕はあるけど、それでも千冬姉に負担をかけるような事はしたくなかった。
「はぁ〜………………………ふざけてんのはどっちだ一夏ァッ!!」
「ぐっ!?」
兄貴が座ったままテーブルを横に蹴り飛ばしたかと思った次の瞬間には、俺は胸倉を掴み上げられて宙に浮いていた。
「いいかよく聞け? 男として入学しているシャルをどうにかしようとするなら、どう足掻こうが姉貴の耳には入るし手を借りる事になる。ましてや姉貴は俺達の担任だ。何をどうしようにも負担をかける事になんだよ」
「だからそれでも千冬姉に迷惑をかけないように方法を」
「考えろってか? それがふざけてるってんだよ! あれも駄目、これも駄目、その上姉貴に迷惑をかけないようにだぁ? 人に頼っておいて随分と贅沢な注文するなぁおい。否定すんなら代案のひとつやふたつ出してからにしやがれ!」
「それが出来ないから兄貴を頼ってんだろ!」
「頼ってんなら贅沢言うんじゃねぇよ! お前はシャルロットを助けたいのか姉貴に負担をかけたくないのかどっちだ! あぁ!?」
「2人とももうやめてよ!」
泣き出しそうなシャルの声が部屋に響いて、2人して動きを止める。兄貴は俺を掴み上げていた手を離して、調子を確かめるように手首を回していた。
「で、どうすんだ一夏? 俺の力はいるのか? いらないのか?」
「………もういい。兄貴には頼らない。シャルは俺が、俺だけで助ける」
「あぁそうかよ勝手にしろ。お前だけで何が出来るのか、その意地だけで何を助けられるのか、見物させてもらうとするよ」
部屋の外に向かった兄貴は部屋を出る直前でこっちを────シャルの方を向いて、
「シャルロット。言っておくが、誰を頼るのかはお前の好きにしたらいい。話だけでも聞きたくなったら訪ねてこい」
そう言って兄貴は部屋を出て行った。
………こうして、俺と兄貴は初めての兄弟喧嘩をすることになったんだ。
〜シャル視点〜
最近、ベッドの中で考え事するのが増えたなぁ。
今考えてるのはもちろんさっきの事。まさか、僕を助けようとして2人が喧嘩するとは思わなかった。
『シャル、あんな事を言う兄貴には頼らなくていい。まだ、案は浮かんでないけど俺が助けるから』
あの後、一夏はそう言ってたけど、お兄さんの言っていた事が僕にはちょっと引っかかっている。どこが引っかかっているのかはまだ分からないけど、お兄さんの案を聞いてみるべきだと僕は思う。
お兄さんは優しい人だ。気付けば学園に来てから一週間以上も経っていたけど、そこそこお世話になっている。僕は男じゃないからそういう話題とかノリとかについて行けないことが多かったけど、そういう男だ、と色々気遣ってくれていた。
だからこそ、さっきの案が引っかかる。そういう気遣いができる人が、僕の状況を察せずにあんな事を言うとは思えない。とすると、さっきの内容は………
目を瞑りながら考えていたけど、気付けば寝ていて目覚まし時計の音で起きたのだった。
〜おまけ〜
百春が一夏の部屋を出た後のこと。
「………………ただいま。あぁ、そういや資料片付けてなかったか。邪魔にならないように片付けないとな。やっぱり閲覧履歴は使わなかったわ」
ガサガサ、トントントン
「ただいま〜」
「………おう、おかえり楯無。何か飲むか?」
「じゃあ、紅茶で」
「あいよ。ちょっと散らかしたままだが、座って待っててくれ」
「ありがとね。………? あの、百春くん、これは………?」
「ん? ああ、俺の調べ物。邪魔なら適当に放り投げ────」
「────こ、こここ、ここにある商品てもう注文済っていうか納品済!? もも、もしかしてこの前のあれを間に受けて!?」
「はぁ? お前何を言って………………あ」
「その気持ちはもちろん嬉しいんだけど私達まだ結婚というか婚約というかそもそも付き合ってすらいないじゃない!? ま、まぁ私としてはその婚前交渉とかできちゃった婚とかに興味がない訳でもないけどそれでも順序はちゃんと守らないといけないし」
「ちっげぇよ! そもそも何でお前が相手になってんだ!」
「え、じゃ、じゃあもしかして弟くんと………? あの一部で流れてる噂は本当だったの………!?」
「んな訳あるか! そこに直れド阿呆!」
あと、その一部の噂について詳しく聞かせてくれるか? と問い詰めるのだった。
というわけで第14話でした。
今回の話についてですが、当初から今章で百春と一夏を喧嘩させることは考えてました。兄弟喧嘩はさせた方が話も考えやすかったからね。まぁ、後付けで百春のシャルルート解放に必要なイベントになりましたが。
今章は、一応百春の過去を軸に考えています。本文でもちょくちょく登場している百春のトラウマ、それについてですね。実は2つあるんですが、これを一夏が把握していないために起きているのが兄弟喧嘩になります。なっているはずです。なってたらいいなぁ。あ、片方はちょろっと閑話の観察日記に登場しています。
あと、社長夫妻の通販履歴はほとんどおまけ用に存在しています。90%くらい。あとは使うかも分からない伏線です。
それと、かなりどうでもいい話ですが、今回のサブタイ「軋轢」を「あつれき」じゃなくて「あきれつ」と思って漢字変換しようとしていた人がいるらしいっすよ。誰やろなぁ。
ではでは、次の更新はもしかしたらこのすば編になるかもしれませんが、次回も気長にお待ちください。