織斑一夏の兄が行く   作:ふくろう639

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何とか3月中に投稿できました。
いやぁ、あれもこれもと足した結果、文字数過去最大かもしれない………


第15話 対立

 俺とて人に知られたくない隠し事、なんて物はある。知られてもまぁいいか、くらいの物から絶対に知られたくない、くらいの物までピンキリだ。

 

 もちろん、物だけじゃなく者もある。これだけは誰それに知られたくない、ってやつだな。例えば束さん関係の内容は総じて他人に知られたくないが、ごく一部の内容以外は姉貴になら知られてもいい感じだ。

 

 だから、絶対に知られたくない物と者がある隠し事は漏れないようにしてきた筈なんだ。

 

「ねぇ、もも兄。もも兄のトラウマって………なに?」

 

 その絶対に知られたくない筆頭の物について、それを絶対に知られたくない者が立ち会っている状態で、確信持って正面から聞かれるとは思ってもみなかった。

 

 

────────────────────

 

 

「………ねぇ、はるはる。最近おりむーと何かあった?」

 

 一夏とシャルロットに関してのいざこざがあった夜から数日後。生徒会室でいつものように作業していると、チョコのかかった棒のプレッツェルを食べている本音からそんなことを聞かれた。

 

「あ、私もそれ気になってた。朝食堂で会ってもなんかぎこちないし、会話も必要最低限って感じでほとんどしなかったわよね」

 

「お嬢様。口を動かしてもいいですが、手も動かしていただかないと書類の山は減りませんよ?」

 

「さっきからずっとやってたんだからいいじゃない。休憩よ休憩」

 

「はぁ〜………紅茶を入れてきます」

 

 と虚さんが紅茶の準備をし始めた。それに合わせて俺は棚から適当な茶菓子を取り出してそれぞれに配っていく。休憩と言い始めた本人は机の上に身を投げ出してぐで〜、っとしたままだ。少しは手伝え。本音? あれはマスコットみたいなもんだから。

 

 まぁ、楯無がぐでっとしてるのは分からんでもない。この所家業が忙しいのか楯無と虚さんが生徒会室に来るのは数日おきになっている。俺だけで処理できるのは処理して確認だけにしているが、会長の案件になると手付かずのまま積み上がるだけだからな。しかも、前に来た時に終わらなかったものはそのまま残っている。

 

 つまり、楯無が生徒会室に来るたびに積み上がった書類の山がお出迎えする訳だ。それを処理し続けるのは流石に俺でも疲れる。タツみたく会長代行申請をしようとした楯無を虚さんが黙らせてくれてよかった。されてたら高校の二の舞いになってたわ。

 

 虚さんが用意した紅茶を、それぞれが好みで砂糖やミルクを入れて一息ついた後、

 

「それでそれで? 何かあったの? ちょっとお姉さんに話してみなさい?」

 

「おう、お前年下だろうが………………まぁ、ちょっとした意見の食い違いだよ」

 

「意見の食い違いねぇ………それでそこまで拗れる?」

 

「ただし他人の人生がかかってる」

 

「それ兄弟だけで話してていい事? 織斑先生は?」

 

「まさしくそこで意見がな………」

 

「………なるほど。織斑先生を巻き込むか巻き込まないか、といったところですか」

 

「虚さんご明察」

 

「はるはる〜。もしかしてこの前棚のファイルを漁ってたのと関係ある〜?」

 

「本音、漁ってたとは?」

 

「お姉ちゃんとお嬢様がいない時にはるはるが色んなファイルを見てたんだよね〜。いくつかコピーしてたみたいだけど」

 

「コピーっていうと、この前寮に帰った時に机に広がってた紙束かしら? ちょっとした調べ物、って百春くん言ってたわよね?」

 

「ここに置いてある資料で他人の人生が関わっているとすると………百春さんの話は学園の生徒について、でしょうか? 部費や備品に人生がかかってるとは思えませんし」

 

「取引先とかあるかもしれないけど、龍宮のたっちゃんならまだしも他の会社にそこまで百春くんが入れ込むとは思えないし、その可能性が高そうね。しかも織斑先生を巻き込むかどうか、ってことは生徒の内々で済ませられないかなり大きな話。しかもGW明けじゃなくて少し経ってからの今になっての話ってことは………………もしかして、デュノアくんかラウラちゃんのどっちかかしら?」

 

「………………よく分かるな」

 

「ふふ、更識家を舐めないでちょうだい」

 

「探偵業でもやってんのかお前の実家は」

 

 ふと口に出た言葉だが、案外近いかもしれないな。家業でやってて忙しいから娘の手も借りたいとかありそうだ。けど前に上流階級みたいな事を言ってたような………今はいいか。しかし、これもう話した方が楽そうだな。

 

 というわけで。かくかくしかじか、まるまるうまうま。

 

「────ということでな?」

 

「「………………………はぁ〜〜〜………………」」

 

 シャルロットに関しての話を説明すると、楯無と虚さんまで頭を抱えて深いため息を吐いた。本音は変わらずお菓子をポリポリ食べているが。

 

「どうした2人とも。頭痛が痛いみたいな表情して」

 

「………どうしたもなにも、納得がいっただけよ。はぁ、これが原因だったのね………」

 

「納得? 原因?」

 

「えぇ。最近お嬢様が家業で忙しい事はご存知かと思いますが、家業の傍らで忙しい原因を探ってみてもめぼしい情報は無かったのです」

 

「無いのにも関わらず各国から日本とか学園に探りが入ってて、それの対応で忙しかったのよ。その原因がデュノアくん………じゃなくてデュノアちゃんか。その子にあったなんて。そりゃ情報無いわよ。フランスの、しかもデュノア社のお家騒動なんて調べようとしないと出てこないわ………」

 

「情報戦繰り広げてるなら、3人目の男性操縦者の情報が世間に流れてない事に気付きそうなもんだが………?」

 

「「うっ」」

 

「あ〜、はるはる〜? お嬢様たちは要するに、お菓子そのものを成分分析しようとしてたけど外装に成分表示が書かれてることに気づかなかった感じで〜」

 

「あ〜………その、なんだ。お疲れ様?」

 

「そう思うならもっと労ってちょうだいよぉ………」

 

「ならまたマッサージでもしてやろうか? 声は抑えて欲しいもんだが」

 

 以前、動き過ぎて疲れたとベッドに倒れていた楯無にマッサージをした事がある。その時の声がちょっとアレだったから、次にやる時は是非とも抑えて欲しい。仮に第三者が聞いたらマッサージ(意味深)をしてると思われかねない。

 

「………もう一声………」

 

「ん〜………なら、更に甘い物でも奢ろうか?」

 

「「「デラックスパフェで」」」

 

 ここぞとばかりに食堂のスイーツで一番高い物を選びやがって………しかも本音まで混ざってやがる。まぁ、いいけど。3人とも持ち直したのか、さっきまでのたれパンダ状態から背筋をしっかり伸ばして椅子に座っている。

 

「それで、百春くんの話の続きだけど、百春くんの考えは間違ってないと思うわ。確かにお家騒動については学園側じゃ何も出来ないけど、学園内だけならどうにか出来る。百春くんの考えが一番現実的で即効性もあるし」

 

「そうですね。それに織斑先生を巻き込むかどうかについても、下手に動いて事後報告されるよりかは最初から巻き込まれていた方が上としてはありがたいです」

 

「だけど、おりむーの考えも分かる気がするなぁ〜………わたしもお姉ちゃんに迷惑かけたくないからって黙ってやったこともあったし」

 

「それは俺も分かってんだよ。俺は兄でもあるし弟でもあるんだからそれぞれの気持ちは分かる。今回の内容が他愛のない話………例えば親子喧嘩の仲裁とかだったら俺だって姉貴に黙って進めてたさ。だが、今回のような話なら別だ。既に方々を巻き込み過ぎてる」

 

「それに他人の、今回はデュノアちゃんの人生がかかってるものね」

 

「あぁ。誰かを助けるのに手段を選り好みなんてしてられるか。………………何も出来なくて誰かを助けられないなんて俺は二度とゴメンだからな

 

「? 二度と、ってそれはどういう」

 

「────緊急につき失礼する! 百春いるか!?」

 

 スパァンどころかズガンという音を立てながら生徒会室の扉が開け放たれた。誰かは知らんが壊す気か? と思いながら見ると、

 

「どうした姉貴。そんな急いで」

 

 姉貴がいた。スーツが若干よれているあたり、本当に急いでここに来たらしいな。

 

「いたか百春! 更識、百春を借りるぞ。百春は着いてこい。敷地内でのIS使用許可を出すから一緒にアリーナまで行くぞ」

 

「織斑先生、一体何が?」

 

「説明は後だ。更識達は他の教師と連携して学園内の警戒にあたれ。行くぞ百春!」

 

 

────────────────────

 

 

「それで、何があったんだ姉貴」

 

 生徒会室から出た直後、昇降口まで行く時間も惜しい、と姉貴に襟首掴まれて2人仲良く廊下の窓から飛び降りた。いつぞやみたく街灯も何もないからディアブロを展開して空を飛ぶと、そのままアリーナに向かっている。

 

 流石にスラスターのある背中で姉貴を背負う訳にもいかず、俺が姫抱きしているが、

 

『フッ、まさか初めて私を姫抱きする男が百春とはな………』

 

 とか言っていた。余裕か? 本当にアリーナに急いでんのか? まぁ、結婚は急いでいるかもしれないが、とか思った瞬間に拳が飛んできた。だからなんで思った事が分かるんだよ。

 

「今日生徒に開放しているアリーナの、観客席のシールドの一部が破壊された。この前の無人機のような何かが現れた可能性がある」

 

『でも織斑先生、今のところ学園内に侵入者の報告なんて来てないですよ?』

 

 尚、楯無もこの話を聞いている。楯無の専用機と秘匿回線で繋いで、近未来型のテレビ通話が如く楯無の顔が映ったホログラム画面が宙に浮いていた。これらはアリスによるものだが姉貴にはアリスの存在は隠しているので、束さんに気付いたら仕込まれていた事にした。あながち間違ってないしな。

 

「………いや、侵入者じゃなくても壊せる奴がいるだろ?」

 

「………………あぁ、そうか一夏か。だが、あいつも馬鹿ではない。なんの理由もなく破壊はしないはずだ。仮に一夏なら、あの一夏がシールドを破壊する何かが起きている可能性も出てくるな」

 

「楯無、そろそろアリーナに着く。何かあったら連絡するから一旦切るぞ」

 

『分かったわ。気を付けてね』

 

 プツン、とホログラムが虚空に引っ込むように消え去る。さて、この後について考えなければ。

 

「姉貴、どうする? 一旦上空に回って中の様子を確認するか?」

 

「いや、突入する。何かが起きている場合、素早い対処が必要になるからな。普通にアリーナの出入口から入ってフィールドに入るのが一番早いはずだ」

 

「了解」

 

 アリーナ内の通路はISが飛べるほど広くはないので出入口近くに着地しながらディアブロを解除し、姉貴と揃って走り始める。流石に道順までは覚えてないから姉貴の後ろを走っていく形だ。

 

〈まずいよももくん。いっくんとドイツ娘が他の生徒もいる中でガチで戦ってる。フランス娘が誘導にあたってるけど、英国娘と中国娘は負傷中で動けないしかなりヤバいかも〉

 

「はぁ!? 何やってんだあの馬鹿共!?」

 

 アリスからの報告に思わず声に出してしまった。いやホントに何やってんだ!?

 

「どうした百春? まさか、馬場達が何かしてるのか?」

 

(姉貴にも馬鹿共(馬鹿堂モ)が浸透してる、だと………?)

「そっちじゃない! 一夏とラウラが他の生徒がいる中でやり合ってるらしい! シャルルは避難誘導中でセシリアと鈴は負傷で動けないっぽい!」

 

「何をしているんだあの馬鹿共は!?」

 

 いや本当に何してんだ。一夏お前他の生徒がいるから戦わないって言ってたんじゃないのか。セシリアと鈴も怪我してるみたいだし………ん? いや待てよ?

 

 最近まともに話してないから予定は把握してないが、仮に今日一夏達が訓練する予定だったとして、ラウラが勝負を仕掛けてきても今までの焼き直しで戦う事はない。ラウラがいきなり攻撃をして来ても、一夏だけじゃなく専用機持ちの3人も対応するはずだからと多勢に無勢だ。

 

 負傷しているのがセシリアと鈴だけ。逆に言えば他の3人ないし2人いるのにも関わらず守れなかった事になる。シャルルは分からんが、あの一夏が負傷するまで2人を見逃してたというのも考えづらい。負傷するまで気付かなかった、とかの方がまだ分かる。その場にいなかったとかな。となると………

 

(………! そういうことか………)

 

 あの馬鹿(ラウラ)。一夏と戦うためにセシリアと鈴を叩きのめしたのか? そんでアリーナのシールドが破壊されたってのは駆けつけるために一夏が斬り裂いたか?

 

『アリス。現状と俺の考察、それと怪我人の搬送と受け入れ準備の要請を楯無に』

 

〈らじゃ〉

 

「百春。そろそろフィールドに出る。弾鋼を貸せ」

 

「別にいいが持てるのか?」

 

「誰に向かって言っている? お前の姉だぞ? お前に出来て私に出来ないことはない」

 

「家事は?」

 

「………………私に出来ないことはあんまりない」

 

〈緊張感ないねこの2人〉

 

 いや、緊張感はほぐした方がいいだろ。これから突入するのは侵入者じゃなくて周囲に被害を出してる傍迷惑な喧嘩だぞ? 緊張感はそこまでいらないだろ。

 

 ようやくアリーナのフィールドに到達すると、アリスの情報通りに一夏とラウラが戦っていた。ありゃ声をかけても簡単には止まらないな。

 

 どう止めるべきかと悩み始めた次の瞬間、地上で2人がそれぞれブレードを構え始めた。ここしかない!

 

「俺がラウラ! 姉貴が一夏!」

 

「了解だ!」

 

 曲がり角もあったアリーナの通路では抑えていた走る速度も、フィールドに出た瞬間に全開にする。そして2人の間へと走り────

 

「────そこまでだ」

 

「まったく傍迷惑な事しやがって」

 

「千冬姉!?」「ハル!?」

 

 俺と姉貴が背中合わせになるように俺は爪鉄を、姉貴は弾鋼を構えて2人の武器を受け止めた。………受け止めてから気付いたが、IS展開するの忘れてたな。通りで重いと思った。

 

〈いや、普通は生身で攻撃を止められるのがおかしいんだけど〉

 

(姉貴も後ろにいたからな。まぁ、織斑姉兄を舐めるな、ってとこだ)

 

〈おっかしいな。いっくんがおかしく思えるぞ? いっくんは普通なだけなのに〉

 

(おう、俺達のどこがおかしいのか後で詳しく聞こうじゃないか)

 

 今このまま聞きたい所だが、生憎と取り込み中だからな。後回しだ。命拾いしたなアリス。場合によってはおしおきプログラムの使用も辞さなかったからな。

 

「そこをどいてくれ千冬姉! そいつはセシリアと鈴を!」

 

「そこをどけハル! 織斑一夏を倒すまたとないチャンスなのだ!」

 

「「────黙れ」」

 

「「ッ」」

 

 思わず発した言葉が姉貴と重なる。何考えてんだこいつら、周囲の影響とか何も頭に入ってないな? と思わず込み上げた怒りも言葉に混ざってたようで、ビビったのか受け止めている腕への負担が減っている。

 

「状況を考えろこの馬鹿共。周囲の状況を把握出来ない専用機持ちとは笑わせてくれる。まぁ、まったく笑えんが」

 

「もしこれ以上やるってんなら俺達が相手をするが?」

 

〈いや、ちーちゃん巻き込まないであげて? 生身だよ? ももくんみたいにISないんだけど?〉

 

「ISを持ってないからと私を甘く見ないことをお勧めしよう。ISが無くとも貴様らのようなひよっこ相手など容易いものだからな」

 

〈あ、ちーちゃんもやる気満々だこれ〉

 

 ISを持っている俺と、ISを持っていないとはいえ生身でISを相手にしたことがある俺とほぼ同じ身体能力を持つブリュンヒルデこと姉貴。少し戦って疲弊した状態で相手をするには、2人にとっては分が悪いだろう。主に姉貴に対して。

 

 いやまぁぶっちゃけ、一夏とラウラに姉貴に喧嘩を売る度胸があるとは思えない。俺じゃあるまいし。

 

「………千冬姉がそう言うなら」

 

「………教官に言われたなら矛を収めるしかあるまい」

 

「言われずとも止めんか馬鹿共。さて、ひとまずは怪我人の搬送と当事者への事情聴取だな。おい」

 

「楯無から医務室の受け入れ体制は整ってる、って連絡は既に来てるし救急隊もそろそろ現着する予定らしい。後はセシリアと鈴を運ぶだけだ」

 

 ISを解除した2人に合わせて、俺も武装を解除する。俺も姉貴と事情を聞きたい所だが、それよりもまず怪我をした2人だ。

 

 セシリアと鈴は気を失っているのか、倒れたまま身動ぎ1つしない。ISは展開されたままだから、パイロットの保護機能が働いたか。………逆に言えば、保護機能が働くほどに痛めつけられた、ということでもある。ISのシールドを抜いてパイロットが怪我をするほどに。

 

(アリス、2人の容態は?)

 

〈パイロット保護機能が何度も働いてる。エネルギー残量が少ない状態で発動もしたから、パイロットが怪我をするほどに攻撃が届いたみたいだね。怪我の具合としては────〉

 

「………………ラウラ。セシリアと鈴はお前がやったのか?」

 

 アリスの報告を聞きながら、ラウラにそんな分かりきっている事を聞いてしまう。

 

 ………否定が欲しかった。何か事故があって2人が怪我をしたと、自分の意思で負傷させた訳では無いと。昔からラウラを知っている身としては、ここまでする奴とは思えないから。

 

 

「あぁ、そうだとも! どうだハル! 私はあの時と比べて強くなったぞ?」

 

 

 だが、返ってきたのは満面の笑みを浮かべて同意をする言葉だった。

 

「………………お前が欲しかった強さは本当にそれだったのか? ラウラ」

 

 そんな事を呟いて、思わず歯を噛み締める。お前があの時言っていた欲しかった強さはこんな強さだったのか?

 

 

────────────────────

 

 

「────オルコットさんと凰さんですが、しばらく安静ですね」

 

 山田先生がベッドにいるセシリアと鈴にそう告げた。2人はあちこちに包帯を巻いたりガーゼを付けたりとした状態で大人しく聞いていた。

 

 ………なに? 頭のたんこぶ? 大人しくしないからどっかの誰かが拳骨落としただけだ、気にするなアリス。それに心配するな。これでも力加減は上手いんだ。

 

 そんなことはさておいて、俺、一夏、シャルル、騒ぎを聞いて部活から駆けつけた箒の4人は、怪我をした2人の診察結果を山田先生から聞いていた。まぁ、内容はほとんど聞き流していたアリスの報告と同じだった。

 

「お2人のISの損傷具合はB。自動修復で直すのは危険なので、ちゃんとした修理が必要ですね」

 

「………ん? なんで自動修復が駄目なんだ?」

 

「軽い損傷なら自動修復でどうにかなるけど、損傷しすぎると変に直っちゃうんだよ一夏。だから、ちゃんとした整備が必要なんだ」

 

「その通りです。さすがですねデュノアくん。学園の機体………例えば百春くんのディアブロ・リヴァイブなら学園で対応できますが、代表候補生の2人の機体はそれぞれの国の機密の塊のようなもの。本国に送っての修理が必要になります」

 

「言われてみれば、確かにそうか」

 

「というか、お兄さんのISは学園の機体なんだね。カラーリングで印象が随分と違うからてっきり僕みたいな感じかと思ってたよ」

 

「俺にもちゃんと渡したいんだろうが、そうポンポンと渡せるもんじゃないからな。ISコアがどっかから降って湧かない限りは無理だろ」

 

(百春さんが欲しいと言えば姉さんは喜んで用意しそうな気がするのは気のせいだろうか………?)

 

「だが、いつまでも俺に学園の機体を使わせておくにも行かないだろうから、案外国内の割り振りを頑張って見直してる所かも────何だ?」

 

 医務室の外から地響きというか、膨大な足音というか、何やら凄い音が聞こえてきた。廊下でヌーの群れでも走ってんのか? しかもその音が段々と大きくなってきている。嫌な予感しかしない。よっ、と。

 

ピシャンッ!

 

『織斑くん私と組んで!』

 

『お兄さん私に組み技かけて!』

 

『あたしと組もうデュノアくん!』

 

「いやなんか1人違う人がいるんだけど!?」

 

 思わず鈴がツッコミを入れているが、医務室の扉を勢いよく開けてなだれ込んできたのは1年の女子達だった。他の生徒も何か言っているが、異口同音で話しているのは『私と組んで』。なんか紙を握ってるがそれ関係か?

 

『おっと思わず欲望が溢れちゃった。うっかりうっかり。じゃあ改めて………お兄さん寝技かけて!』

 

「言い直したらむしろ悪化していますが!?」

 

「というかみんな紙なんか持っていきなりどうしたんだよ? 『組む』って次の授業か何かか?」

 

 皆さんここは医務室ですから静かにしてください! ひとまず廊下へ! と山田先生が珍しく先生らしい事をして部屋の人数が徐々に減っていくが、一夏達の一番近くに残っているのは見覚えのある馬鹿共。そして、一夏の疑問に対して口を開いたのは馬場だった。

 

『説明してしんぜよう織斑くん。これはついさっき一斉連絡のメールで知らされた、タッグマッチトーナメントの参加申込書である!』

 

「誰目線の言葉だ」

 

「まぁまぁ箒。説明してくれてるんだから」

 

 アリスに俺の携帯をハックさせてIS越しに携帯のメールを確認すると確かに届いていた。時間的には姉貴を抱えていた時か?

 

 内容としては、例年行われていたシングルマッチトーナメントを今年はタッグマッチで行うという内容で、開催は来月上旬のペアは申込制。申し込まなかった場合はランダムでペアを作るとのこと。参加は余程じゃない限り必須か。

 

『このメールを見た誰もが思った! 「あれ? これ織斑くん達と組めるんじゃね?」と。「男性陣と親しくなるチャンスじゃね?」と!』

 

『我先にと織斑くん達の元へ走る生徒達! 所在を知らない者は学園内を隅々まで! 知る者は医務室へ!』

 

『そこからは醜いものだったよ………嘘の情報が飛び交い、小学生のようにスカートをずり下ろしにかかる人が出たり、しまいには乱闘を始める人も出る始末。まぁ、通りがかった先生達に鎮圧されてたけど』

 

『で、生き残った私達がここに来たってわけ』

 

「あんた達の語り口調はなんなのよ」

 

『さぁ、織斑兄弟にデュノアくん! 話に納得してくれたならここにサインを!』

 

 さぁさぁさぁ! と一夏とシャルルに対して無数に突き出される申込用紙。一夏とシャルルからだと、さながら壁のように見えてくるそれを見て一気にあたふたとし始める。おう、俺に顔を向けても何もしないぞ? 根に持つようだが、俺の助けは要らないんだろう?

 

「え、えぇっと………………お、俺はシャルと組むことにしてるから! 他を当たってくれ!」

 

 と一夏はシャルルを庇うように立って答えた。まぁ、そうなるよな。

 

『くっ、やっぱ予想通り男の子同士で組んだか………』

 

『けどまだお兄さんがいる!』

 

『というわけで私と組んでお兄さんがいない?』

 

「あ〜………もも兄ならみんなが来る前に出ていったわよ?」

 

『ちっ、入れ違いになったか………』

 

『早く探さないと! 者共続け〜!』

 

「いや、そこは出し抜くところじゃないの?」

 

「あぁ!? 皆さん廊下は走らないでください〜!」

 

 鈴の言葉に疑いもせず全員仲良く廊下に飛び出して、シャルルのツッコミも気にせず去っていった。山田先生も追って行ったから、医務室内に残ったのはいつものメンバーだ。

 

「………………あ〜、その。百春さんはいつまでそこに?」

 

「もう降りる。案外バレないもんだなここ」

 

 よっ、と上から飛び降りて床に着地する。ぶっちゃけ、医務室の人口密度が上がる前に中にいた奴らは俺がどこにいるか気付いていた。焦った一夏に見られた時はひやっとしたが。

 

 そう、俺は医務室入口の上にあたる壁と天井に張り付いていた。扉の枠にある僅かな厚みに足を乗せて、天井に腕を伸ばして。

 

「兄貴、隠れてないで一緒にいてくれよ。そうしたらシャルも庇いやすかったのに」

 

「ん? 俺なんかの助けは要らないと言ったのはどこの誰だったかな?」

 

「ぐっ………」

 

「………ずっと気になっていましたが、お2人は喧嘩されているんですか? 目に見えて会話も減っていますし」

 

「おう、ちょっとした意地の張り合いだな。まぁ、その意地がどこまで張れるか見物だが」

 

「言わせておけば………!」

 

「って、こんな場所で一夏と言い争いに来た訳じゃねぇんだ。怪我した2人に簡単な事情聴取をしたい」

 

 そんな事を言いながら、鈴のベッドの脇にある椅子に腰掛けた。

 

 一夏を抑えるのは箒に任せておいて、俺がここまで来た目的を果たさないといけない。本当ならアリーナの後片付けや巻き込まれた生徒の様子を見たかった所だが、そっちは職員室にいた教師達を向かわせたと虚さんから連絡があったからこっちに来た訳だ。

 

「………………………」

 

「事情聴取、ですか? こう言うのもなんですが、まずはボーデヴィッヒさんからの方がよろしいのでは? それと一夏さんは?」

 

「そっちは姉貴がやってる。一夏はラウラの後に呼び出される予定だったかな。こういう時は加害者と被害者の両方から事情を聞くのが常だ。辛いとは思うが、話してくれるか?」

 

「そう、ですわね。なら、私と鈴さんがアリーナに来た所から────」

 

「────その前に、もも兄に聞きたいことがあるの」

 

 鈴がそんな事を呟くように俺に言った。馬鹿共が出て行った後………というよりかは俺が事情聴取と口にしてからか? まぁそれ辺りからボーッとするような、しんみりするような雰囲気を出していたから、てっきり怪我やなんかの実感が湧いてきたから黙っていたのかと思っていたんだが………

 

「俺に? このタイミングでか?」

 

「鈴さん、それはもしかして………」

 

「ねぇ、もも兄。もも兄のトラウマって………なに?」

 

 そして、冒頭に戻る。

 

 

 

「………………何のことだ?」

 

 突然過ぎて自分の表情が分からない。図星の表情をとってないか、引き攣ってないか、平静を装えているか………………咄嗟に出た言葉は嘘ではないから大丈夫な筈だ。

 

「あいつが………ボーデヴィッヒが言ってたのよ。『貴様はハルに信頼されていない』って。『そうでなければハルのトラウマを刺激するような行動を取るはずがない』って………」

 

「それは………………」

 

「そんなわけない、って言いたかった。………けど言えなかった! だって、あいつが来てから今日までの間にあいつは見たんでしょ!? あたしがもも兄のトラウマを刺激するような事を! それなのに、まったく心当たりが無いのよ………だから、教えてよもも兄………」

 

 今にも泣き出しそうな鈴を思わず胸元に抱き寄せる。全員が目を丸くして見ているが、気にしないで欲しい。昔からの癖なんだよ。一夏も同じ反応してるのはたぶん、『鈴を慰めてた』とかの言葉を昔から聞いていただけで見た事が無かったからだろう。

 

「………………セシリア。こんな状況ですまんが、何があったか教えてくれ」

 

「………え? え、えぇ、分かりましたわ」

 

 鈴さんはいいんですの? と言いたげにセシリアは見つめてくるが、鈴が落ち着いてくれないと何を言っても無駄だからな。落ち着くまでに聞かせてくれ、と目で訴えた。

 

 

 ────それでは、私達がアリーナに着いてから話させていただきますわ。

 

 いつものように集まって訓練しようとしていて、先に私と鈴さんがアリーナに来ておりました。箒さんは剣道部の方に行かれて、一夏さんとシャルルさんはちょっとした用事があるとのことで後ほど合流する予定でした。

 

 それで、お2人がアリーナに来るまでに、今日はどちらが一夏さんに教えるかと話していましたわ。え? えぇ、まぁ、そうですわね。いつもの言い争いをしていましたわ………その、どうしても負けられませんでしたので。

 

 そうしてヒートアップしていた所に、ボーデヴィッヒさんが現れたのです。

 

 今度は私と鈴さんを標的にしたみたいでして、かなりこちらを煽ってきました。今にして思えば、一夏さんと戦うために私達を痛めつけようと接触してきたのでしょう。

 

『おい貴様ら。私と戦え』

 

『何よいきなり。一夏が戦ってくれないからってあたし達?』

 

『なに、いくら織斑一夏と同程度の強さしかないと言えど、一応他国の代表候補生の実力というものを確認しておこうと思ってな』

 

『一夏と同程度って失礼ね! そりゃセシリアはISに乗ったばっかの一夏に負けてるけど、あたしはまだ負けてないのよ! 一緒にしないでもらえる?』

 

『鈴さん? 私との戦いをご希望ですか?』

 

『ふん。バトルロワイヤル形式も結構だが、まとめてかかってくるがいい。どうせ貴様らが束になったところで大した脅威でもないからな』

 

『………言っておきますが、いくら煽られても私達も一夏さんと同様にこんなところで戦うつもりはありませんわよ?』

 

『そうか。なら本国には「イギリスと中国の代表候補生は腰抜けでした」と報告することにしよう。まぁ、あんな種馬風情にうつつを抜かして取り合うような奴らだ。程度が知れるというものか』

 

『………………ふ、ふふ、ふふふふ。負け犬になりに来たならそうと早く言えばよろしかったのに。喜んで蜂の巣にしてさしあげますわ』

 

『あんたは分かりやすく挑発に乗ってるんじゃないの!』

 

『おや、貴様も挑発に乗るかと思ってたんだが………そうか。もしやハルの方か?』

 

『な、何の話よ!』

 

『隠さずともいい。その気持ちは分かる。ハルは実に頼もしいからな』

 

『………そうなのよ。悩み事にも乗ってくれるし、親身に接してくれるし、ちょっとした事でも覚えていてくれるし』

 

『うむ、私にも覚えがある。他人事とぞんざいな扱いをせずしっかりと話を聞いてくれたり、アドバイスもちゃんとしてくれるな』

 

『そう! そうなのよ! だから迷惑かもと思っちゃってもつい頼っちゃうのよねぇ………』

 

『………貴様、なかなかイケる口だな?』

 

『そっちこそね』

 

『こんな状況でお兄さん談議始めないでくださいます!?』

 

『だがまぁ、いくら貴様が思おうとハルに信頼されていない時点でダメだろうがな』

 

『………………………え?』

 

『む? なんだ、気付いていなかったのか? 貴様はハルに信頼されていない。そうでなければハルのトラウマを刺激するような事をするはずがないからな』

 

『し、信頼されてないってそんなことあるわけないでしょ!? 昔から、それに学園で再開した時もそう! あたしへの対応は変わってない! それにもも兄にトラウマなんてあるわけ────』

 

『────あるんだよ。貴様が知らないだけでな』

 

『………………………うそ』

 

『嘘ではない。まぁ、存在を知っているのはごく僅かだが、ハルからトラウマの存在を打ち明けられていないなどまったく信頼されていない証拠だろう。現に私はハルから打ち明けられて知っているぞ?』

 

『………………そ、そんなこと』

 

『ん?』

 

『そんなことあるわけないでしょ!? デタラメばっか言うんじゃないわよ!』

 

 と、いつの間にか鈴さんの方が挑発に乗ってしまいまして、戦いが始まってしまいました。まぁ、その後私も煽られた内容を思い出して戦い始めてしまったのですが────

 

 

「………なるほど。そういう経緯だったのか」

 

 どうしてああなったのかが分かったのはいいが、俺としては途中で頭が痛くなってきていた。2人とも煽り耐性無さ過ぎないか、とか、鈴が好きなのは俺じゃなくて一夏だ、とか思ったがそんな事よりもラウラだ。

 

 実に面倒な事をしてくれた。何で俺が情報を伏せてたと思ってんだ。あいつはどうしてくれようか。

 

「えぇ。………その後はご存知の通り、ボコボコにされた所に現れた一夏さんがアリーナのシールドを斬り裂いて乱入。一夏さんとボーデヴィッヒさんが戦ってる最中にお兄さんと織斑先生が現れた、ということです」

 

「そう、そこが気になってたんだ。セシリアも鈴も代表候補生としての実力があるのは試合でも、授業を通してでも分かってる。頭に血が上ってたとはいえ、2人がいて何で負けたんだ? ラウラは山田先生並みの実力者だったのか?」

 

 2人が揃って負けたと聞いて思い浮かんだのはこの前の授業でのデモンストレーションだ。もしラウラがあの時の山田先生並みに実力があったなら負けるのも無理はないと思ったが、セシリアは首を横に振った。

 

「………………いいえ。百歩譲って実力が私達より上だとしても、山田先生ほどではありませんでした。言い訳に聞こえるかもしれませんが、私達が負けたのはボーデヴィッヒさんの装備のせいです」

 

「装備?」

 

「はい。ボーデヴィッヒさん曰く『停止結界』です。突撃した鈴さんの動きが結界によって止まった所を肩のレールガンで狙い撃たれ、それに動揺した私もなし崩し的にやられてしまいました」

 

 停止結界………察するにドイツの第三世代装備か。ISの動きを止めた、ってことはネーミングからして空間に何らかの干渉をする装備なのか? ブルーティアーズや甲龍の龍砲とはまた違った装備だな。相手の動きを止めるとか初見殺しにも程がある。

 

「なるほど、な。大分状況が掴めた。怪我してる所に悪かったな」

 

「いえ、お気になさらず」

 

「………………さて、そろそろ落ち着いたか、鈴?」

 

 ずーっと俺の胸元に顔を押し付けていた鈴を引き剥がして、その前までと同じ体勢にさせる。案の定、目元が赤かったりしたか、触れないでおくのが良い対応だ。

 

「鈴、目が赤いけど泣いてたのか?」

 

「泣いてないわよ!」

 

「いってぇっ!?」

 

 ………間違っても一夏みたいに指摘してはいけない。今みたいに何か物が飛んでくるからな。今回はプラスチック製のコップが宙を飛んでいた。「負けて怪我した割には元気そうでなによりだ」。2人が負けてウジウジしてるのは似合わないからな。

 

「「うっ………………」」

 

「意外とお兄さん辛辣………」

「百春さんは案外ストレートに物を言うぞシャルル」

 

 怪我した2人がいきなり胸元を押さえているが、後遺症かなにかか? あまり容体に響かなければいいんだが。

 

「………………それで、もも兄。トラウマがあるっていうのは、本当なの?」

 

「………俺が教えると思うのか?」

 

「思う、けど………………教えて、くれないの?」

 

「あぁ。今のお前に何も言う事はない」

 

「──────ッ」

 

「そんな言い方することはないだろ兄貴!」

 

 俺が突き放すように言った言葉にショックを受けたのか、信じられないような、絶望するような顔を鈴は見せた。その鈴の表情を見た一夏が昨日の夜と同じように俺に食ってかかる。

 

「俺は何も間違った事は言ってないが?」

 

「今の鈴への言葉も、この前のシャルルへの言葉もそうだ! 本人の気持ちは無視するのかよ!?」

 

「本人の気持ち、ねぇ」

 

「俺も鈴の言葉を聞いて『兄貴にトラウマなんてあるのか?』とか思った。前に千冬姉とボーデヴィッヒが話しているのを聞いてたけど、今にして思えばあれはある前提の会話だった! 本当はあるんだろ? なら鈴に教えたって────」

 

「────じゃあ、一夏。さっきの言葉をそのままそっくり返すわ。本人の気持ちは無視するのか? 俺にトラウマがあったとして、それを当人に思い出させながら話せと? 未だ引きずるそれを?」

 

「そ、れは………………けど、今なら俺だって、箒達だっている。みんなで協力すればトラウマだって」

 

「綺麗事を抜かすな一夏ァ!」

 

 立ち上がった勢いで椅子が勢い良く転がり、壁に大きな音を立ててぶつかった。その音のせいか、俺が怒声を上げたせいか、医務室が静まり返った。

 

「俺がいるから? みんながいるから乗り越えられる? 何甘い事を言ってんだ! その程度で乗り越えられるならとっくに乗り越えてんだよ!」

 

「お、お兄さん………?」

 

「あの時は姉貴もラウラもあの人もいた。だがそれでも駄目だった! お前が言うような事で乗り越えられてるなら俺は夢を、柔道を辞めてなかったんだよ!」

 

「!?」

 

「えっ………………じゃあ、もも兄が急に柔道を辞めたのってトラウマのせいだったの………?」

 

(ちっ! 口を滑らせたか!)

 

 怒りのあまり我を忘れたか。本当に俺まで隠してた事をバラす羽目になった。これじゃあラウラの事をとやかく言えねぇな。

 

 俺には確かにトラウマがある。ある一件以来、俺は首回りに何かが触れているとトラウマを思い出すようになっている。だから制服のネクタイは緩めたままないしは外したままでもいいようにと学校側に許可を取るほどだ。軽く触れる程度なら問題なかったんだが………具体的な話はまたいずれな。

 

 このままじゃ更に余計な事が口から溢れかねないと、無言のまま医務室から出ようとするが一夏が呼び止めてきた。

 

「どこに行くんだよ兄貴! 話はまだ」

 

「俺の目的は終わってる。ここは医務室だ。怪我人に負担をかけるわけにはいかないからな。用が済んだならさっさと出て行くだけだ。文句があるなら頷かせてみせろ」

 

「何を………!」

 

「タッグマッチトーナメント」

 

「!」

 

「そこでお前と戦って負けたなら、いいだろう。鈴の事もシャルルの事も、お前の言う通りにするとしよう」

 

「………俺が負けたならその逆ってことか。いいぜ。勝負だ兄貴!」

 

「お、おい一夏。相手はあの百春さんだぞそんな安々と────」

 

 そんな会話を後に俺は医務室を出て行く。思うがままに、兄弟喧嘩をしようか一夏。

 

 さて、タッグマッチトーナメントで勝つためにパートナーを選ばないといけないな。誰に声をかけようか………

 

 

────────────────────

 

 

〜箒視点〜

 

 百春さんが出て行った後、一夏もすぐに医務室を出て行った。千冬さん………もとい織斑先生のボーデヴィッヒへの事情聴取が終わったのか、呼び出されたようだ。今は女性陣+シャルルしか残ってない。

 

「………………そ、そういえば! タッグマッチの話が出た時にみんな、一夏は私と組むのよ! みたいなこと言わなかったね?」

 

 暗い雰囲気をどうにかしようとしたのか、シャルルが大きな声を出してそんなことを聞いてきた。

 

「いやまぁ私は言うつもりではあったんだが、タッグマッチのメールを確認してる間に一夏がシャルルと組むと言ってしまったからな………」

 

「私としては、ティアーズの修理が間に合うかどうか、といった所ですから………鈴さんも同じでしょう」

 

「………………それに、もも兄に『怪我人が騒ぐな』って拳骨もらったばかりだったから………」

 

「そ、そういえばもらってたね2人とも………」

 

 私が医務室に着いた時には、2人とも目を覚ましていたようで、やれボーデヴィッヒにリベンジさせろ、やれ次会った時はただじゃおかない、など言っていたのだが、

 

ゴゴンッ!

 

『怪我人は大人しくしてろ。さもないと拳骨落とすぞ』

 

『いや既に落としてる(ます)!』

 

ゴゴンッ!

 

 と拳骨を2発ずつ落とされていた。

 

「………まぁ、騒いでいたのは確かですし、怪我人が大人しくしていないなら大人しくさせるものですから」

 

「あはは………けど、拳骨落としてまですることもなかったような気もするけどね。2人のためかもしれないけど、あんなんじゃ2人に恨まれかねないし」

 

「! もしや………………いや待てそうすると………………あぁ、なるほど。百春さんらしい」

 

「どうかされましたか箒さん?」

 

「百春さんが鈴に何も教えなかった事について、思い当たる事があってな」

 

「! それ何よ箒!」

 

 落ち込み気味だった鈴から普段のような声量の声が出てきた。

 

「鈴は当然知っているだろうが、まず前提条件として、百春さんは優しい」

 

「そりゃそうよ。もも兄だもん」

 

「えっと、それが前提なの………?」

 

「あぁ。私は幼い頃………小1の頃か? うちに来ているのにも関わらず剣術を習いに来ない百春さんに対してしびれを切らして、道場を抜け出して竹刀両手に追いかけ回したことがあるんだが」

 

「あんた何してんの………」

 

「その途中、うっかり木の根に足をひっかけて転んでしまってな。見事に膝を擦りむいて泣いていたんだが、百春さんが手当をして道場まで運んでくれたんだ」

 

 やけに百春さんが速くて追いつこうと無理にショートカットをしようとしたんだったか。バランスを崩しかけたところで足をひっかけて転んでしまったんだよな。

 

「当然、道場に戻ったら抜け出したことと怪我をしたことで怒られる所だったんだが、百春さんが『自分の様子を見に来たせいだ』と言ってくれてな。行くんだったら一声かけろ、と父親に言われたくらいであまり怒られることは無かった。当時の印象からは予想外もいいところだったが」

 

「なるほど。箒さんをかばってくれたと」

 

「それで、結局何が言いたいのよ箒は」

 

「要するに、百春さんは自分が泥を被っても誰かを助けることがある。ということだ。さっきの状況に当てはまらないか?」

 

「さっきの状況に当てはめると………私達のために恨まれてでも大人しくさせた、というのは分かりますが………一夏さんに怒られるのを承知で鈴さんに教えなかった、というのは………? 教えなかった事が鈴さんを助けることになっていた………?」

 

「………そうか。僕にも分かった」

 

 顎に手を当てて考え込んでいたシャルルがそんなことを口にした。

 

「どういうことよシャルル」

 

「世間一般的に、トラウマが生まれるのって何かすごくつらいことがあった時なんだよ。それを思い出したくないのに、何かから連想してしまって思い出してしまう。それがトラウマ」

 

「それで?」

 

「もしそれを今の鈴に伝えたらどうなると思う? 『そんなことがあったのに、それを思い出させるようなことをしてたなんて』って自分を責めない? 怪我をして今動けないんだから、余計に考え込むんじゃない?」

 

「それは………………」

 

「私もそう思った。トラウマについて話して、怪我をして弱っている鈴にさらに追い打ちをかけるようなマネを百春さんがするとは思えない。つまり………」

 

「………もも兄があたしに話さなかったのは、あたしのためだった?」

 

「よかったですわね、鈴さん」

 

 おそらくそういうことになるだろう。私も気付くのにきっかけと時間が少し必要だったんだ。一夏が気付かなかったのも無理はないかもしれない。まぁ、本当に話したくないから教えなかった可能性もあるが、ここではこれでいいのだろう。

 

 だが、それにすぐ気付いていれば一夏と百春さんが対立するようなことは無かったのかもしれないな………

 

 

〜おまけ〜

 

 一方、その頃の生徒会室。

 

「………………そういえばお嬢様。いつになったら百春さんに更識家についてお伝えするんですか? GW中に話し合いをして許可は降りてますよね?」

 

「そうなんだけど………」

 

「まさか、今更言いづらい、なんて事はないですよね? 『私の事でたくさん迷惑かけてるんだから、私が何をしてるのかちゃんと知っておいて欲しい』とかなんとか言ってましたよね? 事実、入学してからの僅かな期間で迷惑を山程かけてますし」

 

「それは、その〜………」

 

「お姉ちゃんそれは野暮ってものだよ〜。お嬢様としては気になる異性にそんなこと伝えて対応変えられたらどうしよう、っていう乙女チックな悩みなんだから」

 

「ひぇ!? ほほほ本音ちゃん!? 何がどうして百春くんが好きっていう証拠よ!?」

 

「え〜? 『こんなことまでしといて好きじゃないとか私でもありえないと思う』ってかんちゃんも言うくらいの行動をしといて〜?」

 

「嘘でしょ!? なんで簪ちゃんが知ってるの!? まさか百春くんと面識あるの!?」

 

「………そうですか、お嬢様にもとうとう春が………! これは旦那様達にお伝えしなければなりませんね。お嬢様、詳しく聞かせていただいていいですか?」

 

「虚ちゃんまで!? ………あぁ! そんなことよりもほらこの書類の山を片付けなきゃいけないわ! さ〜てやるわよ〜!」

 

「ちっ、逃げられましたか………まぁ、進んで書類を片付けてくれるなら良しとしましょう」

 

(私、今自分の従者に舌打ちされた?)

 




というわけで第14話でした。

どこかで書くと思いますが、ここでもちょろっと書いておきます。
百春は柔道が楽しい、とどこかで書きましたが、それが高じていつか柔道で世界大会に行きたいと思っていました。それが百春の言う夢ですね。
柔道を辞めるような事になっていなければ、百春は龍久と同じ高校に行かず、柔道の強豪校に行っていたでしょう。
まぁ、トラウマのせいで無くなったのですが。

本編の方ですが、とりあえず一夏には百春を怒らせる感じにしてます。
………うまく仲直りできるかなこれ?
まぁ、百春が抱えているものを知れば仲直りできるはずですきっと。


ではでは次回も気長にお待ちください。

※追記
誤字報告してくださった方、ありがとうございます。
ですが、千冬が馬場達と言っているシーンは千冬の中で『馬鹿共=馬場、鹿目、堂鳩、モール』の4人と判断しているシーンなので、馬場達というのは誤字ではありません。
分かりにくくて申し訳ありませんでした。
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