織斑一夏の兄が行く   作:ふくろう639

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大ッ変、お待たせしました。
第三者視点で書くので時間がかかるとお伝えしていましたが、それに加えて再び引っ越しをすることになった上に別件でメンタルがクリニックに行くほどやられていまして、中々進みませんでした。

今回はもっと書いてから投稿する予定でしたが、生存報告も兼ねて前後編として投稿することにしました。

さて内容の方ですが、百春がまともに戦ったのはかなり前なので説明が多めに戦闘が少しといった内容になっています。次話以降戦闘描写が増えると思いますので、お待ちください。


第17話 タッグマッチトーナメント 前編

 ────タッグマッチトーナメント当日。

 

 試合をする生徒達の集中力等を考慮し、数日かけて行われるトーナメント。その初日であるにも関わらず各国のIS関係者や政府高官等、様々な役職の者がアリーナ観客席に座り、今か今かと試合開始を待っていた。

 

 今年度はタッグマッチだが、この試合内容は様々な場所へのスカウトの参考にもなる。現にこのトーナメントで好成績を残した生徒は卒業後、大企業にスカウトされて就職していたりする。

 

 かといって好成績を残さないとスカウトされない、というわけでもなく、試合内容で光る物を感じたり、自分用に調整されたISの動きを見てその技術力を見て目をつけられたりした生徒もまた、スカウト候補に上がる。

 

 アリーナ観客席で待っているのは彼らだけではなく、学園の上級生や教師陣もまた、試合開始を待っていた。

 

 学園で保有しているISのほとんどをトーナメントに駆り出すこともあって、実機での授業が多くなる上級生の授業が進まないためだ。試合観戦を強制されているわけではないが、余程の理由がない限りは毎年上級生は試合観戦をしている。

 

 と言ってもそれは操縦科の生徒であって、整備科の生徒は試合終了後が本番。他の試合に間に合うように点検修理設定の初期化等を大急ぎで行うため、成績を付けるための1つの目安になっている。だが、担当する時間も決まっており、担当時間ではない生徒はやはり試合観戦をしている。

 

 そんな中、百春はというとパートナーのラウラと一緒に割り当てられた選手控室にいた。アリーナには打ち合わせや反省会などが行えるように小会議室が多く作られており、今回のトーナメントなどのイベントでは控室として使用されているためだ。

 

「………こういう所が完全ランダムの弊害だよなぁ」

 

 机に上半身を投げ出しながら、壁に貼られているとある紙を見ていた百春はそんな事を呟いた。

 

「? ハル、『こういう所』とは?」

 

「ん? あれだよあれ、トーナメントの組み合わせ。試合の順番はいくらか操作出来るとしても、対戦相手は完全にランダムにしてるからあんな事が起こり得たんだよなぁ、と」

 

「む? ………あぁ、あれか。確かに発表された時は出来過ぎているとは思ったが、下手に手の内を晒すこともなくなったのだ。良いではないか」

 

「まぁ確かにそれは良い事なんだけどな。運営側を知ってる身としては決勝戦に持ってこれるよう調整したかった、なんて思いもあるわけだ」

 

「その気持ちも分からんでもない。今回のはあれだ、いわゆる『最初からクライマックス』というやつだろう」

 

「一回戦の第一試合じゃなくて最終試合だがな」

 

 百春とラウラの目線の先には壁に貼られている紙、トーナメント表の一回戦最終試合の組み合わせがあった。そこにはこう書かれている。

 

織斑百春 ラウラ・ボーデヴィッヒ

VS

織斑一夏 シャルル・デュノア

 

 関係者間では必ずと言ってもいいほど話題に挙がる2人の男性操縦者。それが一回戦でいきなりぶつかるという組み合わせだ。本来ならば女性しか操縦出来ないISを操縦出来る男性、それが1人だけでも注目の的となるのにそれが2人で兄弟で試合で戦う。この試合だけでも今までにないほどの集客を見込めるだろう。

 

 だが、それだけではない。それぞれが組んでいるのは一般生徒ではなくフランス・ドイツ両国の代表候補生だ。代表候補生という事は一定以上の実力も持っている証明でもあり、他国からすればその国の将来の実力が分かるため否が応でも注目せざるをえない。

 

 これらのせいで、ただでさえ高い注目度が上限にでも当たってるんじゃないかと言わんばかりに高まっている。当人達は知らないが、通年であれば各国関係者は決勝戦が行われる日だけは観戦できるよう日程を調整する。だが、この対戦カードのせいでトーナメント初日であるにも関わらず決勝戦以上の観客が集まっている。まさに『最初からクライマックス』である。

 

 尚、ラウラ・シャルルと同じ代表候補生である鈴とセシリアはラウラによって破壊されたISの修理が間に合わず、大人しく観客席に座っている。それぞれの母国の担当官から小言やお叱りを受けたから大人しく座っているのか、未だに怪我を引きずっているから大人しく座っているのかは当人達のみぞ知る。ただし、既に医務室のベット生活から解放されているものとする。

 

「さて、試合までまだまだ時間があるし、ブリーフィングでもするか」

 

「………そうだな。織斑一夏と第二世代機風情に負けるとは到底思えんが、このまま雑談をしているよりかは有意義だ」

 

 ………タッグの話を持ちかけたあの日にラウラのガス抜きをしていなければ、相手を侮ってブリーフィングもできなかったんじゃなかろうか。

 

 不意に百春はそんな事を思ったが気にしない事にした。結果オーライ結果オーライ。

 

 身体を起こして飲みかけだった缶コーヒーを一気飲みした百春は、携帯に保存していた写真データをアリス経由(ハッキング)でプロジェクターから出力しスクリーンに映し出した。出力された写真は数秒ごとに次のものへとスライドし、様々なアングルでの白式の確認ができた。

 

「なら2人の装備からざっと確認するか。まず一夏。使用ISは専用機の白式。装備は近接ブレードの雪片弐型のみ」

 

「ブレードのみだと? 過去の試合映像やこの前の戦闘で使用していなかったから何のつもりかと思っていたが何を考えてる? 最低でも銃の1つや2つ入れておくべきだろう」

 

「ちゃんと理由はある。白式は何故か最初から単一能力(ワンオフアビリティ)が使えるようになってるんだが、どうもそれに容量をほとんど喰われてるみたいだ。銃で使用するはずの照準補正用プログラムすら入ってなかったらしい」

 

「単一能力はおいそれと使える代物ではないぞ? 発現できる操縦者も稀で、発現したならばそれだけでもビッグニュースだ。なぜ使えるようになっている?」

 

「………その疑問は置いておけ。今は対策を考えるのが先だ」

(流石に束さんが一枚どころかがっつり噛んでるのは言えねぇしな………仮に教えるとしても、こんな誰が聞き耳立ててるかも分からない場所で教えられん)

 

 うっかり口に出して今も繋がりがバレてしまえばそれだけで面倒な事になるのは百春としては避けたい所だった。強硬手段に踏み切る輩がいる可能性も否定出来ない現状では、さすがの一夏でも口にしないだろう。

 

 まぁ、強行手段に出ようものなら何処からともなく現れたウサギの形をした天災が襲いかかってくるだろうが、それを知っているのはごく僅かしかいない。

 

「話を戻すぞ。白式が使える単一能力は零落白夜。お前もこの前見たかもしれないな。エネルギーを斬り裂き、相手の絶対防御を発動させてエネルギーを一気に削り取る。つまりは」

 

「教官と同じ能力か! つくづく癇に障る………!」

 

「落ち着け。同じなのは能力だけで、操縦技術なんかは姉貴に及ばない。なんなら俺といい勝負だ」

 

「………………ふぅ、ならば近づかずに遠距離で倒すのがベストか。瞬時加速を使われたら近距離戦に持ち込まれる可能性もあるがそこはどうだ?」

 

「ん〜、使ってる所は見たことないが、最後に訓練を一緒にした時からそこそこ経ってるからな。奥の手として持っててもおかしくはない。最初から使えると考えておくのが無難だろう」

 

「なるほど、一理ある。織斑一夏についてはひとまずこんなところか? シャルル・デュノアの方はどうだ?」

 

「シャルルなぁ………こいつが一番厄介なんだよなぁ………」

 

 出力していた写真を一夏からシャルルに切り替わる。一夏と比べて写真が無いのか、数枚の写真だけで、ループしているのが分かる。

 

「シャルルの使用ISは自社製品をカスタムしたラファール・リヴァイブ・カスタム。装備はアサルトライフルやシールドなんかは確認したが、それ以外は不明だ。ぶっちゃけ第二世代機は操縦者による自由度が高いから装備の全特定は無理だな」

 

「そう言われると確かに厄介だな………本人の傾向からは分からないか?」

 

「性格から想像しようにも、戦闘時に性格がガラッと変わるなんてよくある事だからな。そっちからの判断は出来ないが、別口からなら判断を下せる。シャルルはおそらく射撃型、中・遠距離タイプだ」

 

 装備の特定は不可、性格からも判断できないと自身で言ったにも関わらず中・遠距離タイプだと断定に近い言い方で百春は言い放った。

 

「ほう? その根拠は?」

 

 それを聞いたラウラは、何かを期待しているような目で百春を見上げた。それに対して百春は後頭部の髪を掻きながら、

 

「俺自身の感覚によるところが大きいんだが、ISで近距離戦を好む奴は身体の動かし方に武術や格闘技なんかの特徴が濃いんだよ。過去のモンドグロッソに参加していた近距離戦が好きな選手もそうだった」

 

「ということは、教官も?」

 

「姉貴クラスになると特徴が自然になり過ぎて逆に分からない。これも過去のモンドグロッソでも何人かいたが、逆に言えばそのクラスじゃなければ大体見れば分かる」

 

 これは百春の経験故の判断と言える。束から様々な格闘技を教わって鍛えられていた百春の目は、武術や格闘技の癖についてある程度見切れるようになっていた。束との組手の際、使ってくる技を見切ろうとして動きを観察していたのが発端だったりする。

 

 まぁ他にも見切れるようになった要因として、全身の筋肉を所謂ピンク筋にする論文について詳しく聞こうと発表者を訪ねたらそこは武術を極めて暇を持て余している豪傑達の住む場所でそこの弟子一号と一緒に何故か鍛えられた事が挙げられるが、これは余談である。

 

 ただ、百春は伝えてないがこれはISに乗っていない生身での身体の動きを見なければ分からないし、生身での戦闘ならともかくISにおいてはほとんど役に立たない。役に立つとすれば地に足をつけた近接格闘戦のみである。ISでそんなことをするのは皆無に等しい。

 

 ………この前百春はやっていた? ISを展開せずに装備だけ使用していたのでノーカウントだ。いいね?

 

「身近で言えば一夏と箒は歩き方に剣術の歩法が出てるし、鈴も中国拳法の体重移動みたいな癖が薄っすら見えた。逆にセシリアにはそういったのは見られなかったから本人に確認したら、護身術程度にしか触れてなかったらしい」

 

「ちなみに私はどうなんだ?」

 

「お前は軍人としての特徴が強いから、軍人なら全距離行けると見てるよ」

 

「まぁ、正しいな。私個人としては遠距離から攻めるタイプだが、全距離戦えるよう教官に叩き込まれている」

 

「お、合ってたか。それでまぁ、さっきのを踏まえるとシャルルはセシリアと同じく特徴が見られなかったからおそらく中・遠距離タイプ、ってことなんだがどうだ?」

 

「どうだも何も、ハルがほとんど確信を持った判断なのだ。否定などするはずもない」

 

「………そうか。ありがとよ」

 

 全幅の信頼を寄せていると分かるラウラの返答に百春は少し気恥ずかしくなったのか、そっぽを向きながらラウラの頭をワシャワシャと少しの間撫でた。ラウラは最初は驚いたものの、撫でられている間は気持ち良さそうにしていた。

 

「じゃあシャルルが中・遠距離タイプとして予想できる装備だが、とりあえず銃は全種積んでると見てもいいだろうな」

 

「アサルトライフルは当然として、ショットガン、グレネードランチャー、ガトリングガン………ハンドガンの類は無いかもしれないがスナイパーライフルもか?」

 

「あぁ。弾幕を張ってくるタイプなのか、場を掻き乱してからの狙撃をしてくるタイプなのかも分からないからな。警戒に越したことはない」

 

「なるほど確かに。しかも今回はタッグマッチ。織斑一夏に前衛を任せて狙撃してくる可能性も十分にあるか」

 

「更にシールドと近接ブレードと………………近距離用に何かを積んでてもおかしくないんだよなぁ」

 

「ハル、『何か』とは?」

 

「この前、ラウラが鈴の接近に対して停止結界とかいう装備で対処したんだろ? それと同じように懐まで接近された時用の装備をシャルルが積んでてもおかしくなさそうだなぁ、と。俺だったら何かしら積んでおくからな」

 

「考え過ぎではないか? 『考えなしは良くないが考え過ぎも良くない』らしいぞ?」

 

「それはそうなんだが………………まぁ、頭の片隅にでも置いておくか。んじゃ、この2人に対してこっちの立ち回りを確認していくぞ。まずは装備から」

 

「では私のレーゲンから行こう。私の専用機、シュヴァルツェア・レーゲンの装備には基本装備の他にレールガンと停止結界と呼んでいる────」

 

 

 

 

 一方その頃。別の控室で待機していた一夏も、シャルルの主導でブリーフィングとして百春とラウラのISについて確認しようとしていた。

 

「じゃあやろうか一夏」

 

「分かった。まずは兄貴からか?」

 

「そうだね。あの2人だったらお兄さんの方が詳しいでしょ」

 

「それもそうだな」

 

 やろうとしている内容は百春達と同じだが、こちらは写真もなくただ口頭で話し合うだけとなっていた。まぁ、このようなタイミングで使える写真を持っているのは百春ぐらいのものだろう。

 

「ん〜と、兄貴のISは学園に置いてあったラファール・リヴァイブを専用機として使ってて、名前は確かディアブロ・リヴァイブだったかな」

 

「直訳して『悪魔の再誕』ねぇ………初めて聞いた時も思ったけど、なんていうか、ちょっと、ネーミングセンスが………」

 

「いや、これは勝手に付けられたらしいぞ? 『変更もできないようにロックかけられたんだよチクショウメ』ってよくボヤいてた」

 

「………ラファールにそんな機能あったかな?」

 

 首を傾げているシャルルは当然知らないが、どこぞのウサギお姉さん謹製のサポートAIアリスにかかれば無い機能を作る程度お茶の子さいさいである。ただし、百春の意見を聞かない所がたまに傷。

 

「んで、兄貴の装備は2つ。まず弾鋼っていうデカい銃なんだけど、これはシャルも見たよな」

 

「うん。一夏が重くて持てずに落としたあの銃だよね」

 

「そう、それ。弾数は6発で、全力で斬りかかっても雪片が食い込まないくらい硬い。あと、兄貴が受け取った時に『撃ってよし殴ってよし守ってよしの三拍子揃った銃』が売り文句だって言われたらしい」

 

「ある意味万能な装備か………厄介そうだね。銃口が2つある理由は知ってる?」

 

「確か実弾を撃つ銃口と撃ったら爆発する銃口に分かれてたはずだ。どっちがどっちだったかまでは覚えてないけど………」

 

「撃ったら爆発ってことはグレネードランチャー?」

 

「いや、それとは違う。詳しい原理は聞いてないけど『至近距離でしか使えない』って言ってた。しかもかなり威力があるんだ。セシリアに直撃した時はエネルギーがほとんど無くなってた」

 

「至近距離………」

 

 至近距離でしか使えない爆発する高威力のもの、そう考えてシャルルがまず思い浮かべたのは爆薬だった。それならば方向を調整する事で威力を上げる事も容易い。

 

 だが、それだけでエネルギーをほとんど持っていくのはかなり難しい。確かに威力はあるが、対象は壁や鍵のかけられた扉ではなくISだ。エネルギーを一度に大きく削るにはシールドを貫き絶対防御を発動させる必要がある。グレネードランチャーを使っているシャルルとしては、仮に絶対防御に届いたとしてもそこまで削れるかは微妙なラインだと思った。

 

 そうして次に思い浮かべたのはクレイモアなどの爆発と同時に破片等をまき散らすものだった。これならば至近距離・爆発・高威力の条件を満たす事ができる。ただショットガンと似たようなものだし、それに何故銃口から放つ必要があるのか、という疑問は残るがおそらくこれだろうとシャルルは結論づけた。

 

「うん、弾鋼についてはこれくらいかな。もうひとつの装備については?」

 

「名前は後から知ったけど、爪鉄(くろがね)っていう装備だな。両腕両足に装備する、爪がある鎧みたいなものだった」

 

「鎧………? ISにシールドあるのに? その情報怪しいけどホント?」

 

「シャルは見てなかったかもしれないけど、この前のアリーナでの一件の時に使ってたんだよ。それにセシリアも前に使ってたのを見たって言ってたから本当だよ」

 

「けど鎧って言ったって重りにしかならないんじゃないの? 攻撃を防ぐなら盾を使えばいいし、いくら爪があるとはいえISで格闘戦するわけじゃないんだから」

 

「いやぁ………兄貴だからなぁ………装備が無くても試合でセシリアを殴り飛ばしてたくらいだし、普通に格闘戦を仕掛けてきそう」

 

「殴ってたの!? ISで徒手格闘戦なんて誰もやったことないんだよ!?」

 

「だとしても兄貴はやると思う。兄貴は素手の方が得意だから」

 

「そんな無茶苦茶な………」

 

 シャルルはあまりの前代未聞な内容に信じ切れていないが、一夏は確信に近いものを抱えていた。その理由はただ1つ。だって兄貴だから。

 

 実は何度か、一夏は百春が喧嘩している場面を見た事がある。場所や時間は異なるが、全て兄に対して相手が武器を持ち出して襲いかかっていた場面だ。その中で百春はたまに鉄パイプなどで相手の武器をいなしている場面もあったが、最終的にはそれを捨てて素手で果敢に相手を倒していた。

 

 自身より人数が多い、武器を持った相手すら素手で倒すのだ。それがISに変わった所で素手で倒しに行く部分は変わらない。選択肢に素手があれば使う。それが兄貴だと一夏は思っていた。

 

「え、え〜と、お兄さんの装備はこんなところかな?」

 

「あ、そうだ。あと定期的に装備のメンテナンスに装備の企業の人が来てるみたいだから、もしかしたら新装備を持ってるかも」

 

「じゃあそれと弾鋼、爪鉄を合わせてお兄さんの装備は3つか………………」

 

 遠近両用の弾鋼、近距離用の爪鉄、あと詳細不明な新装備の計3つ。シャルルはバランスを考えて百春の新装備を遠距離用と予想しているが、実際は盾鉄というこれまた近距離用の装備だ。それを試合中に知ったシャルルがトーナメント後に、

 

『近距離武器ばっかりって、お兄さんて意外と脳筋?』

 

 なんてうっかり本人に言った結果、こめかみをグリグリされる未来が待ち受けているのを本人は知らない。

 

 そして、一夏が口に出していない百春のもう1つの装備とも言えるものがある。明確には装備ではないし、百春から『教える時は俺から教えるから誰にも教えるな』と釘を刺されているためだ。それに納得している部分もある。

 

 サポートAIアリス。表向きは百春のIS操縦におけるサポートを行うAIだが、本当は百春の生活全般サポートならびに周囲の警戒を行うAIである。

 

 AIの見た目(アバター)が製作者そっくりの上、性能も従来のものより遥かに高性能なアリスの事が漏れた先で勘づく人が現れれば、百春曰く『とても面倒な事』になる。

 

 それ故、アリスについて『とても面倒な事』を含めて明かされた面々は、例え国から突かれようとも口を噤む覚悟を決めていたりする。万が一漏らした場合にはそれに百春が巻き込まれるのはほぼ確定しており、巻き込まれた百春の為にどこからともなく天災が現れる事を察しているためである。

 

「次はボーデヴィッヒだね」

 

「ボーデヴィッヒの装備っていうとこの前使ってきたのがあるけど………」

 

「うん、あの停止結界をどうするか、だね」

 

「AIC、アクティブイナーシャルキャンセラーってあいつは言ってたけど………」

 

 この後、一夏とシャルルは時折立ち回りの事を話しながらも、控室にいる間はラウラの停止結界ことAICの攻略について意見を出し合うのだった。

 

 

 

「………ん? ラウラ、それなんだ?」

 

 最終試合の試合開始が間近に迫り、ピット内でISを展開して発進合図を待っている時の事。百春がふと向けた視線の先で目に入ったISを展開しているラウラの背に、スラスターを避けるようにして何かが付いていた。

 

 それは六角形のタイルのようなもので、蜘蛛の脚のようなものが6本、固定用なのか六角形の各頂点から伸ばされ背中に貼り付いていた。更に水色で模様が入っているからかどこか雪の結晶のようなイメージを感じさせる。

 

「それ?」

 

「その背中に付いてる水色のやつだ。今まで付いてなかっただろ」

 

「あぁ、これか。どこの部署かは伏せられていたが、なんでもISの性能を向上させる追加パッチとして研究結果が報告されたらしい。それでこのトーナメントで使用するようにと言われていたのでな、今までは展開していなかったのだ」

 

「性能を向上させる追加パッチ………?」

 

『────試作品のなけなしの1枚をあれに貼ったかいがあったってもんだ!』

 

『────あれはな、貼り付けられたものを最大稼働させるもんだ────効果が出たら壊されるまで止まらねぇ!』

 

 その時、百春の脳裏を過ぎったのは、何らかの方法でISに乗らずISを操縦して襲撃してきたかつての部活仲間である毒島の言葉だった。

 

(………何でここで思い出した。これじゃあまるでドイツ軍があの襲撃を起こしたって言ってるようなもんじゃねぇか。そんな訳ないだろ)

 

 例えドイツ軍でも、そんな事はしないだろう、と百春は思う。いくらドイツ軍に非人道的な所業の前例があるとはいえ、天災の怒りに触れているのだから二度やるとは思えない。加えて女性の達磨をISに入れて運用などしないはずだ。それに、もし男性をISに乗せずに操縦できる技術がある程度形になっていたのなら、世間はもっと騒いでいるはずだろう。

 

 だが、どこか辻褄が合ってしまうのも事実だった。毒島の操縦していたISに使用されていたコアは欧州で盗難に遭ったもの。どこの国までかは聞かされていないが、同じ欧州のドイツならば盗みに向かうのも他国と比べ容易い。更に軍であれば処分対象の女性を減刑として交渉してISに使うのも難しくはない。まぁ、ほとんどこじ付けに近いものではあるが。

 

(あとは毒島との接触についてだが………どうとでもなるな。仮に入出国記録を束さんに漁ってもらったとしても、まともに入出国してたかどうかすら怪しい)

 

「どうしたハル? 悩み込んでもこのパッチは貸せないぞ?」

 

「そんな機密の塊いらないっての。ちょっとした考え事だ、気にするな」

(ただ単に開発しただけの可能性の方が高いが………ラウラの立ち回りについては気を付けておくか)

 

「そうか? まぁ、何を考えていたかは知らないが、試合中に考えるなよ? それで足を引っ張られてはかなわん」

 

「誰に物言ってんだ。そういうお前こそ一夏に気を取られ過ぎてシャルルに足元掬われるんじゃねぇぞ」

 

「フッ、貴様も誰に物を言っている。なら、お互いせいぜい頑張るとしようか」

 

「ああ」

 

 百春の右拳とラウラの左拳がガチャリと音を立てながら軽くぶつかり合う。試合直前であるにも関わらず2人に緊張の色が見えないのは今のやり取りのお陰か、互いの存在からか。それとも………………戦い慣れているからか。

 

『百春くん、ボーデヴィッヒさん。時間になりましたので発進をお願いします』

 

 もしやアナウンス担当になっているんじゃないだろうか、と百春が思うくらいに聞き慣れている山田先生のアナウンスを受けて、2人はアリーナへと飛び出した。

 

 いつぞやとは違い真っ直ぐ試合開始場所であるアリーナの中央まで来ると、同じタイミングで別の場所から発進した一夏・シャルルペアも中央へと到着した。

 

「おう、一夏。俺達を倒す算段はつけられたか?」

 

「もちろんだ。シャルのためにも兄貴を倒す!」

 

「ならやってみろ。お前みたいな人の考えも分からん奴は文字通り叩きのめしてくれる………!」

 

「ふっ、こうなったハルは手強いぞ。せいぜい私達を甘く見ないことだ」

 

「そっちこそ。今まで散々アンティークだなんだってバカにしてきたけど、足元すくわれないようにね?」

 

 交わす言葉は少ない。だが、それ以上に全員の目が語っている。

 

 勝つのは自分達だ、と。

 

 ────試合開始のブザーが鳴る。

 

 先に動き出したのは一夏・シャルルペアだった。

 

「おおおぉぉぉぉぉッ!」

 

 シャルルがアサルトライフルをラウラに向かって構え牽制すると同時に、一夏が瞬時加速を使用して正面の百春との距離を詰めた。

 

 2人の作戦は、シャルルが片方をアサルトライフルで牽制すると同時に一夏が雪片弐型を構え瞬時加速を使用して一気にもう片方に迫り零落白夜で1人を落とすという超速攻をしかける、というものだった。

 

 零落白夜で1人を落とせればいいし、仮に反応されても完全に避け切る事は難しい。仮に防ぐとしても半端な装備ではそのまま斬り落とせるし、かすりでもすればエネルギーを試合開始直後にかなり削れるというかなり2人にとってメリットがある作戦だった。デメリットはほぼ無く、強いて言うなら狙う相手は決められない、という所が問題として挙げられる。

 

 互いのペアが向かい合って試合開始時に立つ以上、その立ち位置によってはほんの僅かに距離が変わって隙になりかねない、というシャルルの意見で一夏は真正面に立っていた百春目掛けて飛び掛かっていた。

 

 ………実際の所、一夏・シャルルペア、中でも一夏は作戦の立てようがなかった。武器が豊富なシャルルと違い、一夏の武器は雪片弐型のみの一撃必殺型。最も相手に抵抗されず近付けている試合開始後に距離を取ろうものなら、次はいつ雪片を当てられる距離に迫れるか分からなかった。

 

 この作戦ならば予想していなければ回避は困難。予想していたとしても一夏がこの短期間で瞬時加速をマスターしていることも想定していなければならない。百春もラウラもそれぞれ防ぐ術はあるだろうが、どっちみち攻撃は入るだろう。2人はそう思った。

 

 故に、一夏が試合開始直後に超速攻をしかけることを軸にして2人は作戦を立てた訳だが………………………一夏の兄たる百春が想定していない訳がなかったのだ。

 

「甘い」

 

 短く言葉を発した百春は新装備の盾鉄の盾を展開した。一夏とシャルルが初めて目にしたその盾は百春の身体のほとんどを覆い隠し、盾が覆い切れていない部分は足先のほんの僅かな部分かウィングスラスターの羽の先くらいしかなかった。

 

「なっ、盾!?」

 

 百春が新装備を使用してくる可能性は考えていたものの、防御にしか使えない盾を使ってくる事は一夏にとって完全に想定外だった。カウンターを狙う訳でもなく、ただ身を守る行動なんていうのは今まで見た事が無かったからだ。

 

 一瞬驚いた影響で零落白夜の発動タイミングを外してしまい、瞬時加速の勢いを殺しきれない一夏はそのまま盾に雪片を振り下ろす。百春の横を無理矢理抜けていく事も一瞬考えたが、百春が相手ならばそのまま盾で妨害されてぶつかりこちらのエネルギーが減るだけだと判断した。

 

 ガキンッ、と大きな音を立て雪片と盾がぶつかる。瞬時加速の勢いがあったにも関わらず盾の位置が少し下がっただけで、百春は身動き1つしなかった。百春の相変わらずおかしな膂力の高さが伺える。

 

「っ、避けて一夏!」

 

「──うおっ!?」

 

 シャルルからの言葉に反応して急いで一夏が後退すると、自身がいた場所のギリギリを通って銃弾が盾に何発も命中して弾かれていた。

 

「ごめん一夏! ボーデヴィッヒがお兄さんの方に逃げちゃって!」

 

「当たんなかったから気にすんなシャル!」

 

 シャルルの言葉の通り、ラウラは今百春の真後ろに飛んでいた。百春と軸を合わせて、展開されている盾で正面からの銃弾は防げるような位置だ。

 

「こうも対応されるって事は読まれてたって事だよな………」

 

「しかも一夏が瞬時加速を使えるって所までね。織斑先生に教わってたのは一夏に聞くまで僕も知らなかったのに………」

 

 百春・ラウラペアの作戦はこうだった。

 

 まず自分達の立ち回りを考えるに当たって相手の立ち回りを予想した結果、一夏が瞬時加速を使えるようになっていた場合は零落白夜による超速攻を仕掛けてくると意見が一致した。まぁ、百春の断言に近い意見にラウラが頷いただけだが。

 

 すると、シャルルの方の動きも予想がつく。一夏と同じように接近戦に移るか、一夏の援護をするかのどちらかだ。更にそこから一夏から流れているであろう情報を考えると、遠距離攻撃飛び道具での牽制の確率が高い。相手が停止結界ラウラに近接特化百春ともなれば、安易に近付くのはアウトと考えるだろう、と。

 

 そこまで予想できれば自分達の作戦を立てる事は容易い。相手の攻撃を防ぎながら相手の虚を突いて動きを鈍らせた後に自分達の流れに持っていく方法を考えるだけだからだ。

 

 よって2人は試合開始と同時にそれぞれ、百春は本来ならばしない防御策盾を展開することで相手の攻撃を防ぎ、ラウラは盾を展開している百春の背後に回る作戦を取った。

 

 そして2人の狙い通り相手は動きを鈍らせた。ならば後は攻めるのみである。

 

「俺が何年一夏の兄をやってると思ってんだ? そのくらいは────」

 

 スッ、と百春がさりげなく少しだけ下げた盾の陰から、隠されていた2つの銃口が火を吹いた。百春の右肩にある弾鋼とラウラの左肩にあるレールガンだ。

 

「────読めるぞ、っと」

 

「! まずッ、シャルあぶねぇ!」

 

 盾の陰に銃らしきものが見え始めた瞬間から一夏は動き出し、狙われたシャルルへの銃弾が掠りながらもシャルルを抱えるようにして回避した。………………この光景を見た一部生徒が鼻から情熱を垂れ流しながらペンを動かしていたりするが、まったく関係ない話である。

 

 そのまま続けて弾丸が一夏達目掛けて飛んでいく。百春達の攻撃は両方とも単発のため回避は難しくないが、偏差撃ちや回避先を潰すように撃ってくるため易しくもない。

 

「くっそ! ちょっとした隙も与えてくれねぇ!」

 

 更には一夏達が別れる隙も与えないように百春達が撃ってくるので、2人はくっついたまま回避することを強いられていた。距離を取ろうにも離れた分だけ百春達はそのポジションのまま近付いて来るので、位置だけで見ればタッグマッチなのにも関わらずシングルマッチのような動きをお互いしている。

 

 このままではジリ貧だ、と一夏に抱えられて多少余裕のあるシャルルがどうにか隙がないものかと百春達を観察して………観察し………か、観察………

 

「────いや、片方はボーデヴィッヒのレールガンだから分かるけど、もう片方どうなってんの!? 人の腕のしていい可動域じゃないよ!?」

 

 シャルルが思わず叫んだ通りもう片方、弾鋼を撃っている右腕は人の可動域をしていない。一夏達に照準を合わせるための動きが明らかに人の腕がしていい動きではないのだ。具体的には肘関節が。

 

「ある程度の動きならまぁ分かるよ? でも何で肘関節がウネウネするんだよおかしいでしょ!」

 

「兄貴だからあんな動きをしかねないというかなんというか………あぶねっ!」

 

 まぁ実際撃っているのは副腕の爪鉄なので人の腕ではないのだが、百春の肩部分が盾に隠されて見えず爪鉄について知らない一夏達は百春の腕の人外さに若干引いている。

 

 チュインッ、と一夏達に弾丸が掠り、クリーンヒットするのも時間の問題かと観客に思われ始めたその時、一夏は決断した。

 

「………………くっ、このままじゃ埒が明かない! シャル、シールドを展開してくれ! 突っ込むぞ!」

 

「! 分かった!」

 

 離れてもダメ、回避し続けるのもほぼ無理となった今、残された道は突撃する事しかなかった。

 

 シャルルがシールドを展開して先に突撃し、その後ろをついて行くようにして一夏も突撃する。シャルルのシールドは百春の盾と比べ、守れる範囲が狭い通常のシールド。火力重視と言っていい百春達の銃撃に、シールドに覆われていない所を狙われればひとたまりもない。

 

 だがそこはシャルルの腕の見せ所だった。攻撃を受け止めるようにシールドを構えるのではなく受け流すようにシールドを構え、飛んでくる銃弾を明後日の方向へと反らしていく。

 

 当然、同じ場所に銃弾は飛んでこないが、それでもシャルルは反らし続けた。伊達にフランスの代表候補生に選ばれてはいない。

 

 そして百春達に到達し、すれ違うようにして一夏が零落白夜で一閃────

 

「ハル!」

 

 しようとした所で、ラウラの合図により一夏の一閃を上下に分かれるようにして百春達は躱した。攻撃を躱された一夏が2人を確認すると盾を持った方が上に、左肩に銃を展開している方が下へと別れていた。

 

「俺が兄貴を追う! シャルはボーデヴィッヒを!」

 

「分かった!」

 

 と一夏が上に、シャルルが下に向かって別れて飛んでいった。一夏はアリーナのほぼ天辺まで、シャルルは地上まで相手を追いかけた。

 

 しかし、それぞれ追っていた相手に近付くにつれ違和感を抱く。先に気付いたのはシャルルだった。

 

(? ………ボーデヴィッヒのレールガンってシルバー………じゃない! 嵌められた!)

 

 シャルルは直前で気付く事が出来たが、その違和感に2人が気付いた時にはもうお互いは離れ過ぎていた。

 

 嵌められたと気付いたシャルルは、展開していたシールドはそのままにもう片方の手にアサルトライフルを展開し狙い撃とうとするが、ワンテンポ遅かった。

 

「おう、ボサッとすんなよ」

 

「っ、嘘でしょ!?」

 

 目の前を飛んでこちらに背を向けていた百春が、気付けば上下逆の状態で目の前にいた。いや、気付けば、ではない。しっかりとその状態になるまでを見ていた。

 

 だが、速度そのままに上方向に最小限のUターンをして自分を蹴り抜こうとしている事がシャルルの常識外れ過ぎて正しく認識できていなかったのだ。

 

 パイロット保護機構があるとはいえ、あんな動きをすれば当然身体に負担がかかる。目の前の百春の表情からはそんな負担があるなど一切感じなかった事も認識出来なかった要因の1つだろう。

 

『──兄貴はやると思う。兄貴は素手の方が得意だから』

 

(一夏の言ってたことはこういうことか………!)

 

 身を持って一夏の言っていた事を思い知ったが、思考を止めたままでは待つのは敗北のみだ。シャルルは急いで対処に移った。

 

 百春の蹴り、サッカーで言う所のオーバーヘッドキックに対してギリギリシールドを差し込む事に成功したが、百春達の銃撃を受け続けていたシールドは耐え切れず、落とした陶器のように砕け散る。

 

 だが、役目を多少果たせたようで、シールドはシャルルにほんの少しだけ移動する時間を与えてくれた。百春から少し遠ざかる事ができ、蹴りの打点をずらして受ける事ができた。百春の脚に展開されている爪鉄の爪先で引っ掻かれるようにエネルギーを削られてしまったが、蹴りがクリーンヒットするよりかはマシだ。

 

「もう一丁!」

 

「あっぶない、なぁ!」

 

 先に放った蹴りの勢いを減らさずに百春がもう片方の脚で後ろ回し蹴りを放つが、これは百春の上を取るようにしてシャルルに回避された。

 

 そして百春の上を取ったシャルルが展開していたアサルトライフルを解除し、百春が知っている以上の速度でショットガンを展開し直した。

 

 そのままシャルルはショットガンを連射。初弾から数弾はまともにヒットし大きくエネルギーを削ったものの、それ以降は肩から生えていた2本の腕にそれぞれ持たれている弾鋼が盾のように構えられ、そのほとんどが弾かれて大きなダメージにならなかった。

 

 撃たれていた百春が距離を取ろうとしたのに合わせ、自身のペースを取り戻すために一旦シャルルも距離を取った。

 

「うーん、惜しかったな。あれだけダメージが溜まってるシールドを挟まれても問題ないと思ってたんだが」

 

「ISで蹴りとかどういう頭してんのお兄さん………?」

 

「どういうも何も、使えるものを使ってるだけだ。俺は、主にISの接近戦で使われるブレードは使えない。射撃もセシリア並みに上手い訳じゃない」

 

 百春はブレードを使えない。刀剣類を振るう際の力加減というか、繊細な振るい方が絶望的に下手だ。仮に振るったとしても両手斧やハンマーを振るうのとさして変わらないため、『それならそっちでいいじゃん』となるのが百春だ。

 

 百春は射撃が上手い訳ではない。相手の動きを読む事は武術を嗜んでいるため可能だが、近接格闘戦に特化している。愛用している弾鋼は遠距離まで狙える銃だが、遠くの相手の動きを読む事は百春に取っては難易度が高く、ましてや風などの外部状況まで読む必要があるとなると命中率は一気に下がる。単なる命中率なら代表候補生でないクラスメートといい勝負だ。

 

 一夏の剣の腕のように、百春がISに活かせるものは近接格闘術と今までの戦闘経験のみ。これらだけは胸を張って、例え代表候補生に対しても自信を持って上だと言える。

 

「──なら、唯一の強み(近接格闘)を活かせるよう立ち回るのは当たり前だろ?」

 

「だからってそこで近接格闘戦をしよう、って決断できるのがお兄さんの凄いところだよ。普通なら今からでも他の何かに手を伸ばすのに」

 

 でも、とシャルルは銃のグリップを改めて握りなおす。

 

「こうして距離を取っているんだから、お兄さんの強みを活かすには僕の懐に踏み込まないといけない。ここまで良いようにやられてたけど、これでも代表候補生だよ。ここからは僕の番だ。容易く殴れると思わないでよね」

 

「だろうな。このまま終わるなら代表候補生の高が知れる。だが、1つだけ言わせてもらおう」

 

「何?」

 

「ラウラ風に言おうか。一体いつから、次はお前の番だと錯覚していた?」

 

 突如、シャルルの頭上から何かが凄い勢いで降ってきた。

 




というわけで前編でした。

作者からの内容についてのコメントは、後編投稿後に前後編を合体させようと思っているのでその際にしようかと思います。

ではでは、次回も気長にお待ちください。
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