織斑一夏の兄が行く   作:ふくろう639

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お気に入り登録ありがとうございます。

年が変わる前になんとか書けました。
お待たせしました後編です。


第17話 タッグマッチトーナメント 後編

 時間は少し戻り、2人が別れシャルルが違和感に気付いた頃。

 

(………兄貴の機体ってあんな真っ黒だったか?)

 

 シャルルより少し遅いタイミングで、一夏も違和感に気付いていた。盾で全体が分かりにくいがやけに黒く、手足も何か違うように思える。

 

(確かに2人の機体は両方黒だけど色合いが違ったような気がするし………………そういえば目の前のやつ、赤紫の模様が無い?)

 

 百春の機体は赤紫色で傷跡のような模様がついている。元々、百春が学園から受け取った機体は修理を重ねていたものの細かな傷が残っていた。塗装する前にそれに気付いた百春がボソッと呟いた。

 

『薄っすら見える傷跡は塗ったら消えるか………?』

 

『え? この傷跡活かして塗装したらかっこよくない?』

 

『あり寄りのあり』

 

 と塗装を手伝ってもらっていた簪とやり取りがあり、赤紫色を傷跡に沿って塗った結果生まれた模様だ。そのせいでやたらと歴戦感が生まれているが、寧ろ百春に合っているとの千冬談。

 

 一夏が目の前のISを追いかけていると、アリーナにシールドを張っている都合上存在している上限近くで相手は振り向いた。

 

「ここまでハルの作戦通りとは………ハルが凄いのか、貴様達がダメなのか。どちらだと思う、織斑一夏?」

 

「! ボーデヴィッヒッ!?」

 

 百春の装備であるはずの盾を両手で持ちながら一夏に話しかけてきたのはラウラだった。

 

「なんで、お前はシャルが追いかけてるはずだろ!?」

 

「鈍い奴だな。ハルを追っていたはずの貴様が私と相対している時点で答えは出ているだろう。貴様達が追いかけていたのは逆の相手だった、と」

 

「だとしても何でお前が兄貴の盾を! 他のISの装備は使えないはずじゃ」

 

「少し考えれば分かるだろうに、答えを聞かねば気がすまんか? 使用許諾(アンロック)、と言えばさすがに分かるな?」

 

「………!」

 

 使用許諾。一時的に他のISに自身の装備の使用を許可する機能。一夏も使用許諾されたシャルルの装備を何度も訓練で使用していたからその意味が分かった。

 

 もし訓練で使用していなかったら? 一夜漬けレベルで頭に叩き込んだ分厚い参考書知識と同様に埋もれていたに違いない。

 

「そうか、兄貴のISは名前が変わってるけどラファール・リヴァイブ(第二世代機)だからその選択肢が………けど、いつの間に使用許諾を………」

 

「はぁ………………ちまちまと聞いてきて面倒な奴だ。仕方ないからざっくり説明してやる。途中で口を挟んだ瞬間止めるから挟むなよ」

 

 とラウラは面倒くさそうに答えた。ラウラとしては『これが答えだ!』と攻撃をしかけても良かったのだが、百春からの指示もあったので仕方なさげに説明を始めた。

 

「ハルが使用許諾をしたのは試合開始前、つまりはピットにいる時だな。おっと、これはISの調整に含まれるからズルではないぞ。そうして試合が始まりお前達が突撃してきた所で、盾で前が見えていないハルに代わって私が合図を出し上下に別れた。この時に私はレールガンを解除しハルの盾を持ち、ハルは私がレールカノンを展開していた左肩に弾鋼を展開し直した訳だ。それを貴様達が見事判断を間違えてこのような状態になった」

 

 ある程度の部分は省き、明かしてない部分も多々あるがラウラは一夏に対して比較的分かりやすく説明した。ただまぁ、渋々感が強いのでほぼマシンガントークばりに早口だったが。

 

「さて、説明は以上だ。感想があるなら20字以内で言ってみろ」

 

「くそっ! どこまでも兄貴の作戦通りかよ!」

 

「ふむ、20字以内だな。だからと言って褒賞は何もないが………むぅ………そうだな、弾丸ならあるぞ? 本来なら一発の所をこの場で即答すればなんとマガジン1つ分プレゼントだ」

 

「お、それはお買い得──ってなるか! いるかそんなもん!」

 

「なに、そう遠慮するな織斑一夏。それにハルの作戦は実はここまででな────」

 

 ラウラは持っていた百春の盾を勢いよく投げ捨て、レールガンとライフルを展開して構えた。

 

「────ここからは私の作戦だ。あえてハル風に言おうか。たらふく鉛玉を食わせてやるから、ハルと戦いたいのならかかってくるがいい!」

 

「上等だぜボーデヴィッヒッ!」

 

 と、百春とシャルルの上空でこのような事が起こっていた訳だが、ラウラが言っていた百春の作戦はまだほんのちょっと続いている。

 

 ブリーフィング時に百春は作戦を切り替えられるようにいくつか立てていた。だがその中で、今回のように百春の装備をラウラが持ったまま2人が離れている場合もまたいくつかあった。

 

 だが、百春の装備は通常の装備よりも重い。そのためラウラが持てば他の物が持てず、移動の際にも負担がかかり普段のような操縦が出来なくなる。それを解決する作戦が必要だった。

 

 一緒にいた2人が分かれる場合、ラウラが上に、百春が下に分かれること。そして、百春の装備は百春に返すこと。

 

 この2つはいくつかある作戦の中で決まっていた事で、更には百春に装備を返す作戦だけは1つしかなかった。

 

 話は戻るが、百春の作戦はラウラが『ここまで』と言うまでまさに続いていた。最後に盾を投げ捨てるまで。

 

 ラウラは何も明後日の方向に盾を投げ捨てた訳ではない。とある位置に向かって投げていた。一夏から見れば、いや観客のほとんども『邪魔になったから捨てた』と思えるような動作だが、一部は気付いた。捨てた方向に、捨てた位置に何かがいることを。

 

 そう、シャルルの頭上に降ってきたものは、ボーデヴィッヒが投げ捨てた百春の盾だ。ただし、重さと高所からの落下、更に斧の刃に当たる盾の縁ふち部分が重めに出来ているのでさながらギロチンの刃のように真っ直ぐ落ちてくる。

 

「ッ!? 危ないけどこんなのに当たるわけないでしょ!」

 

 銃弾のような速度を持っている訳でもなく、先程の百春の動きを警戒して周囲の状況把握に力を入れていたシャルルは、後方に下がってあっさり回避した。

 

 前に避ければせっかく取った距離が縮まってしまう。左右に避けるのは万が一盾が掠った場合のダメージと隙が命取りになりかねない。そう思ったシャルルは後方に下がった訳だが────

 

「甘いッ!」

 

 ────それを大人しく見ている百春ではない。

 

 シャルルが下がったため、2人の間には当然盾が落ちてくる訳だが、そんなことは関係なく百春は突撃する。

 

 盾で射線が遮られるまで牽制射撃をしていたシャルルだが、落ちてきた盾で百春の姿が見えなくなると射撃を止めて警戒した。さっきまでの百春の動きを見た感じだと、盾で隠された一瞬で急制動をかけて方向を変えた上で突っ込んでくると考えたからだ。

 

 単純に盾の左右からか、ちょっと奇をてらって斜め四方向のいずれかか。もしかしたら盾が通過した後に突撃してくるかもしれないし、逆に急加速して地面ギリギリの下から来るかもしれない。

 

 だが、シャルルは百春の動きだけでなく考え方も考慮すべきだった。

 

 そうすれば落ちてきた盾が向きを変えて自分に突っ込んでくる事を予想出来たかもしれない。

 

「うそっ!?」

 

 まるで落下速度のベクトルを無理矢理自分の方に向けたような挙動を見せた盾に本日何度目か忘れた驚きの声を上げた。が、そこはシャルル、似たような動き予想外の挙動をこの試合だけで何度か見たからか対応が早かった。

 

 後方に下がる勢いはそのままに、広いスペースを確保しようと後方のやや上方向へと進路を変える。下方向は地面が近くなってしまうためあまりスペースを確保できない。左右も悪くないけどなんか普通に対応してくる気がする、とシャルルは思った。………これだけ予想外な事をやられると普通の事が逆に予想外になりそう、とも思ってしまったシャルルだった。

 

 突撃してくる百春がシャルルの真下に届きそうとなるタイミングでシャルルは両手の銃を向けた。が、百春を見てまた動きを止めてしまった。

 

 普通、というかIS戦では銃を向けられたら防ぐか避けるか………要するに対処しようとする。誰だってそうする。一夏だってそうする。

 

 だが、百春は自分の方に盾を向けず、百春から見て右側に何故か構えていた。シャルルから見れば、どうぞ好きに撃ち込んでください、と言わんばかりの無防備具合。

 

 普段のシャルルならば即座に両手の銃でこれでもかと撃ち込んでいただろうが、これまでの百春の行動に引っ張られて警戒して銃を向けるだけに留まってしまった。

 

 今回ばかりは、百春の隙だったというのに。

 

 ガシャン、という音でシャルルは我に返ったが、もう遅かった。

 

 百春が行動を起こすよりも先に銃弾を叩き込もうとしたが、逆袈裟に何かが振るわれ、その軌道上にあった武器ごとシャルルは吹き飛ばされた。

 

「やっとまともに入ったか? こりゃシャルルとは相性が悪そうだな」

 

 シャルルを吹き飛ばした『何か』………百春の左手に握られている、盾と剣を合体させて巨大な両手斧となった盾鉄を肩に担ぎながら、百春はそんな事を呟いた。

 

「………相性が悪いって今まで散々こっちを振り回してたのに?」

 

 吹き飛ばされた武器は捨て、新たに別の銃器を展開したシャルル。受けたダメージを確認すると、持っていた銃がクッションになったのかそこまで大きなダメージではなかった。百春のエネルギー残量と良い勝負になっている。

 

「振り回される、で済んでる所で既に相性が悪いんだよ。蹴りの時も今のもそう。クリーンヒットを避けられ続けてるのは、まだ見極められてないお前の戦闘スタイルのせいだろう。じゃなきゃとっくにお前は死に体になってただろうよ」

 

「買いかぶり過ぎじゃない? 運が良かっただけかもしれないよ?」

 

「あのな、こと戦いにおいては『運が良い』なんてのはくじ引きの当たりなんかとは違う。それまでに積み重ねてきたあらゆる経験値の賜物なんだよ。俺はそう思ってる。だからこそ、俺は『運が良い』で片付けない。お前が積み重ねてきたモノを最大限警戒する」

 

「それは………ありがと」

 

 百春の言葉に、シャルルは試合中で敵意を向けられていながらも嬉しく思った。認められていない自分の存在を、その努力だけだとしても彼は真っ直ぐ肯定してくれたからだ。

 

 だが、今は試合中。すぐにシャルルは気持ちを切り替える。

 

「おしゃべりついでに教えてくれない? その斧、でいいのかな。なんなのそれ?」

 

「盾鉄のことか?」

 

「タガネ………それが名前なの? ほんと、なんなのさそれ。盾が斧に変形するとかどんな発想してんの? しかも隙だらけで変形させるしさぁ………」

 

「多少の被弾は覚悟してたからな。むしろ隙だらけなのに撃ってこなかったことにこっちもフリーズする所だったわ」

 

「そっちが試合中にやってきたことを考えなよ。何か仕掛けててもおかしくないじゃん」

 

「それは確かに」

 

 うんうん、と頷く百春は、仮にシャルルが攻撃を仕掛けてきた場合は弾鋼を肩に展開して対応するつもりだった。手が(物理的に)増えたのは意外と使い勝手が良くていいな、と思う百春である。

 

「さて、頭も冷えて落ち着いたみたいだし、時間稼ぎに付き合うのはこれくらいでいいだろ?」

 

「さすがにバレるか………」

 

「だから俺もそろそろ気合入れ直そうかと思ってな」

 

 百春は盾鉄を空中に投げると右手に弾鋼を展開した。そして弾倉部分を左手で引き出すと空いた空間に弧を描いている直方体を差し込む。クルクルと回転しながら落ちてくる盾鉄は左肩に副腕として展開した爪鉄で掴んだ。

 

 更に右肩に左肩と同じように爪鉄が展開されるが、左肩とは手の部分が異なっていた。右肩の爪鉄の手の部分は、百春が右手に持っている弾鋼が腕先に生えるように展開されていた。

 

 空いている左腕と両足に爪鉄を本来の形で展開すれば、百春の準備は完了した。

 

「! 盾に隠れて撃ってた時の腕はそれか!」

 

「おう。この前パーツを追加してくれたからな。両手足分しかなかった爪鉄をこんな風に使えるんだよ」

 

(手が純粋に増えて文字通り手数が増してる………! 本来ならちゃんと手で持たなきゃいけない装備がこうされると………?)

「………ちょっと待って。その肩の腕どうやって動かすの? もしかして第三世代装備じゃないよね!?」

 

「いや? なんかやけに食いついてるが違うぞ。操作は似てるがちょっとした抜け道でな。まぁ、俺の意を汲んで動くのは変わりない。こんな風に」

 

ドォンッ!

 

『あぶねっ!?』

 

 肩部の弾鋼がいきなり明後日の上方向に銃撃すると、シャルルの耳に焦った一夏の声が広域回線越しに聞こえた。

 

『おいハル! 織斑一夏は私が相手してる所だぞ!』

 

「タッグマッチなんだからこれくらいしてもいいだろ………とまあこんな訳だシャルル」

 

(位置把握はハイパーセンサーを使ってるとしてもどうやって操作してるんだ!? いや、お兄さんなら抜け道の操作方法がブラフって線も捨てきれないけどその場合の操作方法は? 腕の電気信号をIS側で腕を切り替えてるのか? それとも)

 

「おう、俺に生半可な時間を持たせると一夏がどうなるか分からんぞ? ほらほら」

 

 百春自体は微動だにしないのに、弾鋼がある副腕は上空に向かって銃撃をしている。動きを最小限に抑えて銃撃したかと思えば、可動域を示すように無駄に関節を動かした後に銃撃したりとどこかコミカルな動きをしていた。

 

 まぁ、その動きの傍らで『ちょっ』『待っ』『今ヒュンってした!』などという効果音が上空から聞こえてくるが、シャルルには焦りしかもたらさなかった。

 

「くっそ、考える時間もくれないのかよ!」

 

「獲物を前に舌舐めずりは3流のすることだからな! そら行くぞ!」

 

 

 

「うっわ………」

 

「鈴さんどうかしましたか?」

 

 観客席に座って試合を見ていた鈴とセシリア。片や百春の戦闘、片や一夏の戦闘を見ていた2人だが百春の動きに鈴が思わず言葉を溢した。

 

「え? いやね、あのもも兄の動きは相手にしたくないな、って」

 

「お兄さんの動き、ですか?」

 

 鈴にそう言われたセシリアが上に向けていた顔を下に向け、百春とシャルルの戦いに視点を移した。

 

『そらそらどうしたァ! こんなもんかシャルル・デュノアァッ!』

 

『あぁもうキッツイなぁ! ホントにIS初心者なのお兄さん!?』

 

『お前の戦いは付かず離れずを守って戦う、言わば柔の戦いなんだろ!? それなら柔よく剛を制してみせろ!』

 

『話聞けよ! そして無茶言わないでよ!? お兄さんみたいな戦い方は初めて戦うんだよ!』

 

 シャルルにそう言われる百春の今の戦い方は、暴風雨とでも形容すべきものだった。

 

 盾鉄を左腕に持ち替えて振るい、シャルルがそれをシールドで受け止めたならば副腕に持ち替えて左腕の爪鉄で殴りに行く。

 

 シャルルが距離を取ろうものなら右腕の弾鋼を突き出しながら接近して距離を詰め、副腕の弾鋼で追撃を加える。

 

 また、時折脚部の爪鉄による攻撃を挟む事によって上半身の武器のみの攻撃にシャルルを慣れさせず、思考を休ませる隙を与えない。体勢も地面の方向などお構いなしに変えて仕掛けているのも一因だろう。

 

 場合によっては武器を解除してから再度展開して異なる方向から攻撃を加えていくその戦い方は、腕が複数あり攻撃手段も複数あるからこその戦いであり、攻撃を受けているシャルルとしてはまさしく暴風雨の中にいるように思えていた。

 

「確かにあの動きは相手にしたくありませんわね………」

 

「あれ多分シャルルだからこそ戦えてるんだと思うわよ。距離感を掴むのが上手いんだと思う。あとなんか装備の展開速度も速い気がするのよね………」

 

 そう、暴風雨とも思える百春の攻撃をシャルルは捌き続けている。ブレードやシールドで受け流し、多種多様な武器を向けて牽制し、僅かな隙を作って一息つく時間を捻出する。

 

 同じ武器をずっと使っていれば百春に対応されてしまうが、自身のISに搭載している装備のほとんどを駆使して自身の動きに慣れさせない、というどこか百春に似た動きで対処し続けている。

 

 高速切替(ラピッドスイッチ)。通常よりも短時間で装備の展開・解除を行う技術をシャルルは習得している。相手よりも速く装備を準備する技術は、相手に対応させる時間を与えなかったり後出しジャンケンのように相手の装備に対応し続けるのが売りだが、本来ならばアドバンテージになる技術を持ってしてもシャルルは百春の攻撃を捌くので精一杯だ。

 

「………………勝ち筋ありますかあれ?」

 

「一応思いつくけど………正面から戦うならもも兄以上の技術で攻撃を捌きながら攻めるか、速さで上回って翻弄するか、終始遠距離攻撃で削り切るか。あとボーデヴィッヒみたいな特殊な装備がある人も行けるかも?」

 

「勝てる方が織斑先生しか思いつかないんですが?」

 

「いや、作戦の立て方次第でしょ。あんたも代表候補生なんだから考えなさいよ」

 

「………その、入学早々にした試合のインパクトが強すぎてどうも………」

 

「そういえば試合開始直後に撃墜寸前まで行ったんだっけ? ドンマイ」

 

「軽すぎません!?」

 

 と2人が軽口を叩いている間も試合は進んでいる。が、内容はあまり変わっていない。変わっているとすれば、ラウラと一夏が戦っている高度くらいである。アリーナの上空で戦っていた2人が試合開始時の高度まで降りてきているくらいで、それぞれの戦闘内容に変わりはない。

 

「しっかし、もも兄はどうやってあの腕動かしてんだか。一応第三世代装備じゃないんでしょあれ?」

 

「ええ。私が知っている操作方法ならば第三世代装備ではありません。ですけど、その操作方法であの動きをされているのだとすると近いうちにお兄さんが音を上げますわ」

 

「もも兄の言う『抜け道』の操作方法が本当にあるのかどうか………………いや、あるか。もも兄の代わりに動かしそうなのがいたわね」

 

「言われてみれば確かに」

 

 いぇ~い、ピスピース! と両手でピースサインをするどこかの博士を模したアバター(アリス)の姿が2人の脳裏に浮かんだ。百春から話を聞いている2人としては、サポートAIなのに機体の操縦権を持っているアレが関わってるんだろうな、という断定に近い考えに至った。

 

 百春の持つ爪鉄の副腕モードの操作方法は2種類。1つは百春の腕と連動するマニュアル操作。セシリアの言う操作がこれで、副腕展開時の向きに左右されるのでかなり扱いづらい。

 

 そしてもう1つが今百春の使用しているオート操作。百春の思考を読み取ってサポートAIアリスが勝手に操作するものだ。本来の第三世代装備が操縦者の思考をIS側が読み取るものだとすると、百春の場合はISとの間にアリスが入り勝手に思考を読み取って勝手にISを動かしている。

 

 アリスの匙加減で百春の思考を逆らって動かない場合もあるが、そこはサポートAIの本領発揮と言えるだろう。

 

「あの腕、アレ(アリス)を知ってるあたし達ならこうやって考えつくけど、戦ってるシャルルとか他の観客からしたら『まさか第三世代装備だと!?』ってなるわよね」

 

「まぁ、本当に第三世代装備を開発した可能性もありますが………」

 

「無い無い。もも兄の追加装備が来たのはついこの間だし、仮に第三世代だったとしてもあんな複雑な動きができるわけないでしょ。セシリアも第三世代装備の操作は苦労したはずよ」

 

「それはそうですが………それよりも鈴さん。よくそこまでご存知ですわね? 私達も医務室での療養期間が長かったですのに」

 

「え? そりゃ、療養が終わった後一番にもも兄に会いに行ったからよ。一夏の白式はブレード一本だけど第三世代機だし、もも兄の第二世代機で相手するのは厳しいだろうから何か手伝えることあるかな〜、って」

 

 何か変なこと言ってる? と首を傾げる鈴にセシリアは内心ため息をつく。もしや彼女、気付いていないのか?

 

 同じく療養が終わった自分もとある人に会いに行っている。だがそれは、自らが想いを寄せる一夏だ。その際に鈴と同じように一夏の力になれないかと思っての行動である。

 

 鈴はセシリアと出会った時から一夏の幼馴染を名乗り、同じく幼馴染の箒と火花を散らし、食事をする際は箒と自分とで一夏の隣の席取りをする間柄である。

 

 箒は言わずもがな。彼女鈴も自分と同じく一夏に想いを寄せていた筈だが、ここに来てライバルが1人減りそうな様相を見せている。

 

 内心ライバルが減る事に喜ぶ反面、ある意味で恋する乙女仲間の彼女が自身の気持ちに気づいていない事に、改めて今度はため息を本当についてしまった。

 

「何よセシリア、そのため息は」

 

「………いえ、お気になさらず」

 

「気になるから聞いてるんでしょうが………っと、あ」

 

「試合が動きましたわね」

 

 

 

 試合が動いたきっかけは、一夏だった。

 

「防戦一方では勝てるものなどないぞ織斑一夏!」

 

「言ってろ!」

 

 だけどラウラの言ってる事は事実なんだよな、と思いつつも、自分が考えている作戦を読まれていない事に一夏は安堵する。

 

 そもそも一夏にとって、ラウラとは相性が悪く感じていた。こっちの装備はブレードのみに対して、向こうは高火力のレールガンを始めとした飛び道具にAICという第三世代装備の停止結界まである。手も足も出そうと思えば出せるが届かなくては意味が無い。

 

 どうしたものかと思ったが、アリーナの上空でラウラとやり合い始めた際、一夏の脳裏に昔ふと聞いてみた時の百春の言葉が過った。

 

『どうやったら喧嘩に勝てるのか? そりゃ相手が立ち上がれなくなるまで叩きのめすのが手っ取り早いが………あ? 俺にも出来る事で? お前にもとなると………そうだな。なら負けなきゃいい。逃げようが罠に嵌めようが何しようが、お前が負けなきゃ相手が勝てないんだからな』

 

(そうだ。俺がボーデヴィッヒに勝つ必要はない。逃げて、罠に嵌めて、俺が負けなければいいんだ。なら………)

 

 そう思った一夏は作戦(と呼べるか怪しいが)を開始した。最初から散々向こうの作戦に飲まれていたのだ。こちらの作戦にも乗ってくれてもいいだろう。

 

 ラウラは自分を倒そうと躍起になっているのか、高度が下がってきている事に気づいていない。いやもしかしたら気付いた上で関係ないと無視している可能性もあるが、現に上空から中程まで高度を下げられている。途中、下にいる百春からのちょっかい銃弾が飛んできてヒヤリとしたが、掠るくらいで大きなダメージになっていないので無問題。

 

 そして、一夏の努力が実った。

 

「────ここだ!」

 

「!? とうとう怖気づい………いや違う! 貴様ァ!」

 

 突如、逃げるように背を向けて瞬時加速を使ってまでもラウラから一夏は離れた。方向は下方向の地上に向かって。ラウラは一瞬自分に敵わないから逃げたのかと思ったが、その方向を見て判断を撤回した。

 

 アリーナの上空と地上とで離れていた筈の百春とシャルルが目と鼻の先にまで近付いていたからである。百春は少し前からシャルルへ怒涛の攻撃を仕掛けているから、一夏に気付いていない可能性が高い。

 

 今にして思えば一夏が逃げながら誘導していたのだと思うが、それよりも先に相棒への注意喚起をしなくてはならない。

 

「ハルゥッ!」

 

「! チィッ!」

 

 ラウラの普段と声色が違う掛け声で自分の危機を察したのか、ハイパーセンサーでラウラと一夏の位置を確認し、上から迫ってくる一夏のブレードを副腕の弾鋼(アリスの操作)で受け止める。

 

「これも防がれるのか………!」

 

「一夏に注意を向けてていいのかなお兄さん!」

 

 一夏に対応した事によってシャルルへの攻撃が中断してしまい、今までのものに比べれば有り余る程の隙を得たシャルルに百春は銃口を向けられた。

 

 方向が違う2人に対応するのは、百春でもさすがに骨が折れる。なので、

 

「ラウラァッ!」

 

「! チッ、仕方あるまい!」

 

 そう叫んだ百春はラウラに『シャルルを任せる』と目配せした後、空いていた左手で一夏を掴み、ISを浮遊させているPICを解除した。シャルルの相手をしていたため百春は副腕含めて全ての武器を装備しており、百春の武装は全て通常のものと比べると遥かに重い。

 

 そんな重量がいきなり一夏に襲い掛かれば、当然、

 

「おっも! 落ちる!?」

 

 地面に吸い込まれるように落ちていく。

 

 元々百春とシャルルが地面近くで戦っていた事もあり、地面に墜落するのは時間の問題。一夏に迷っている暇など無かった。

 

 零落白夜を発動させた雪片弐型を自身を掴んでいる百春の腕を目掛けて振るう。当然、絶対防御を発動させる一撃を食らう訳には行かないので百春は手を離さざるを得ない。

 

 間一髪、百春から解放された一夏は姿勢を直し、両足で減速しながら着地する。零落白夜と着地で半分を切っているエネルギーが更に削れてしまったが、そんな事を考えている場合ではない。

 

 一夏の正面から堂々と、ゆっくり歩いてくる人影があるからだ。

 

「………確かに試合で決めようか、とは話してたが俺とお前が直接戦わずに試合を終えるのもどうかと思うだろ? だから────」

 

 ほとんどの武器を収納し、展開しているのは両腕両足の爪鉄のみ。銃などの威圧感を与える武器でないのに一夏が威圧感を感じているのは、間違いなく百春本人が与える威圧感である。

 

 百春が今まで喧嘩相手にしか向けていなかった威圧感。百春の喧嘩を何度か見たことのある一夏だが、自身に向けられるのは初めてだった。

 

「このタイミングでか………!」

 

「────やろうか、兄弟喧嘩」

 




というわけで17話でした。


前編に装備のおさらいも兼ねて作戦会議パートを入れてみましたが、思った以上に量を取られていました。ここがそもそもの文章量が多くなった原因かもしれない。

そして試合内容はというと、終始百春チームの優勢。そもそも対戦相手に対する情報量が違った・・・戦闘経験・武術経験有りの奴と軍人が組んだら作戦の一つや二つは立てますよきっと。百春は割とガチで勝ちに行ってますから容赦はしません。

百春チーム優勢過ぎん? とか思うかもしれませんが、主人公は百春ですからね。主人公側チーム、というよりかは百春の見せ場は増えます。
途中のラウラVS一夏の描写が無いのもそうです。決してそこまで書いていたら投稿が更に遅くなるとか書くのが面倒だからとか思っていません。ホントダヨー。

ちなみにですが、17話終了時点でのエネルギー残量比較はこんな感じ。

ラウラ>>シャル≧百春>>一夏


一夏はラウラに押されまくってたのでかなり削れています。
百春はというと、多少の被弾は覚悟の上でシャルに攻撃を仕掛けまくってますので手数で削られながらも一撃の重さでほぼイーブンに持ち込んでいます。


やっぱり三人称視点は難しかった・・・
次回からは百春視点に戻します。
そうしないと話がまったく進まないので・・・
あ、17話は次話投稿時に合体させようと思います。

ではでは、次回も気長にお待ちください。
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