織斑一夏の兄が行く   作:ふくろう639

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お気に入り登録ありがとうございます。

今回は1話、2話より短い制作期間での投稿となりました。………なんで?

短い期間なのに文字数がほぼ1万字ってどういうことなのよ?

書きたいやり取りを書く→その間を埋める様に会話を足す→描写も付け足す
→文字数がおかしな事になっていることに気づく、ていう感じでした。

数日で更新される方とかどうしてるんだろ、とか思う日々です。


第3話 ルームメイト

 初日の授業も終わり、放課後。

 

「あぁ、良かった。二人ともまだ残っててくれましたか」

 

 今日の夕飯どうするか、と一夏と話しながら荷物をまとめていた所に、山田先生が現れた。

 

「どうしたんですか山田先生?」

 

「お二人の寮の部屋が決まったので鍵を渡しに来ました」

 

 と部屋の番号が書かれたタグの着いた鍵と寮生活に当たっての説明・注意事項などがまとめられた紙を渡された。っていうか寮の部屋?

 

「しばらくは家から通う、って話だったよな一夏?」

 

「俺もそう聞いた。どういうことなんですか山田先生?」

 

「え~と、一週間ほど前に政府から、お二人を今日から寮に入れるようにとお達しが来まして………今朝の織斑先生が出てた会議はその最終確認みたいなものなんです。その様子だとお二人とも何も聞いて無さそうですね………」

 

 確か家から通うように言われたのは先月の中頃だったか。部屋の手配に少し時間が欲しい、って話だったと思うんだが………随分急だな。

 

「政府からのお達しの理由って分かりますか? 予定の前倒しをするのは余程の事だと思うんですが」

 

「ただ安全上の理由、としか私は聞かされてないんです。そういうことなので、申し訳ないのですが本日からお二人は寮での生活をお願いしますね」

 

 安全上の理由、ね。男性操縦者に対して何か善からぬ動きでもあったのか………というか一週間前ってこの分だとウサギさんはこの事知ってたな? だから箒の事を教えてきたってのもありそうだ。

 

「そういうことなら仕方ないですね………じゃあ一夏行くか」

 

「そうだな兄貴。………あれ? でも着替えとかどうするんだ?」

 

「姉貴のことだから『最低限の着替えと携帯の充電器くらいは家から用意した。他の物? 休日に自分で取ってくるんだな。最も、勉学に余裕があれば、の話だが』とか言うだろ」

 

「すごい言いそうだ………じゃあ兄貴、同じ部屋だろうし一緒に行こうぜ」

 

「おう」

 

「あっ………いえ、お二人は別の部屋です………」

 

「「えっ」」

 

 俺と一夏の動き出そうとした身体がピタッと止まる。

 

「さ、先程も話した通り一週間ほど前の急なお達しで、無理矢理寮の部屋割りにお二人を組み込んだんです。なのでお二人は別々の部屋に………」

 

「嘘だろ………」

 

「………ちょっと待ってください山田先生。無理矢理部屋割りに組み込んだ、ってことは女子のルームメートがいますよね? その人に話は通ってますか?」

 

「え、えっと、百春くんのルームメートは2年の方なので話は済んでます。一夏くんの方は1年の方なのでまだ話は………」

 

「おう、一夏。部屋行くときは山田先生に着いてってもらえ。余計なトラブルを防げるはずだ」

 

「わ、分かった………って山田先生! その2年と1年の人を同じ部屋にして俺と兄貴を同じ部屋にするのは出来ないんですか!?」

 

 俺と一緒の部屋がいいのは分かるが、教師に詰め寄るんじゃない一夏。………身体が教卓に当たって逃げられない山田先生の顔が赤くなってるのは夕日のせいだろう、きっと………

 

「す、すみません! 急な事だったので調整が間に合わなかったんです!」

 

「そんな………」

 

「一応、お二人が同室あるいは個室も検討はするとは思いますが、1年生は途中で編入して来る生徒もいるので、再度部屋割りをするのはおそらく夏休みが明けてからになるかと………」

 

 ガックリと一夏が肩を落としたのを見て、山田先生が慰めるように優しく声をかける。いやたぶんそこまで落ち込んでるのは授業で分からない所を気軽に聞けない的なそんな感じだぞ。だから、

 

『織斑くんがあそこまでお兄さんとの同室を望むということはもしや?』

 

『その可能性も十分あるね』

 

『一×百か百×一か………それが重要だ』

 

『けど、織斑くんに詰め寄られてた山田先生も満更でもなかった様子………』

 

『生徒と教師の禁断の恋………! おっと涎が』

 

『今年の夏は熱くなりそうね………!』

 

「おう、廊下の馬鹿共は少し黙ろうな? 気付いてないと思ったか?」

 

 ………って他のクラスも大概なのかと思ったら、あれうちのクラスの馬鹿共(いつもの奴ら)じゃねぇか。そして最後の奴「暑い」の漢字絶対違うだろ。

 

「すみません、あと説明事項がひとつありまして………寮には大浴場があるんですが、お二人は使用できません」

 

「………あー、なるほど。分かりました」

 

「え!? 使えないんですか!?」

 

 俺は風呂で長湯しないから部屋にあるシャワーで済むが、湯船に浸かるのが好きな一夏はそうはいかないらしい。ここで湯船に浸かれる場所が使いたいのに使えないのが不服なのは分かるが………

 

「おう、よく考えろ一夏。俺達が入る寮とはいえ本来は女子寮。急遽入る事が決まった俺達の利用時間を用意してる訳がないだろ。それとも一夏は女子の裸に興味があって混浴したいのか?」

 

「!? 無いよ! そんなわけないだろ!?」

 

「え!? 一夏くんは女の子に興味が無いんですか!?」

 

 違う先生、そうじゃない。

 

『本人からの告白入りましたー!』

 

『誰か! 織斑くんの中学時代の交友関係を洗って!』

 

『女性関係も欲しいけど男性関係を重点的にね!』

 

『洗うなら現地に調査しに行った方がいいよね? 誰か着いてきて』

 

『やはり調査か………いつ出発する? 私も同行する』

 

『調査要院』

 

 また騒いでるな馬鹿ど………人数増えてるよな? 見たことない顔もいるし、他のクラスも大概だったか。だが、うちのクラスの馬鹿共は声が大きいからうちか他所か分かりやすいな。分かりたくなかったが。

 

 しっかし、一夏の中学の交友関係か。把握してるとこだと五反田兄妹と数馬と中国に行ったあいつ。後はツルくらい………あっ。

 

「………こいつらにツルの事バレたら不味いんじゃねぇか?」

 

 本当にボソッと。隣で山田先生の誤解を解こうと頑張っている一夏の横で呟いた。一夏の声の大きさもあって廊下にいる奴にはほぼ聞こえていないはずなんだが………

 

『! みんな! 百春さんが何か知ってる!』

 

『『『引っ捕らえろ!』』』

 

「やっば………三十六計逃げるに如かず!」

 

 一夏と山田先生を放置して鞄を引っ掴み、教室から脱出する。

 

 放課後の校舎内で、俺vs馬鹿共+αの鬼ごっこの幕が切って落とされた。

 

 

~その頃の千冬~

 

 

「………まったく、今はまだ仕事中なんだが」

 

『そんなこと言わないでよちーちゃん。せっかく電話したんだからもっとこう──』

 

「で、どうだったんだ?」

 

『ぶーぶー、扱いがぞんざいだぞー。まぁいいや。朝言ったモノレールに爆弾仕掛けた連中だけど、ついさっきしょっぴかれたよ。馬鹿な連中だよねー、男性操縦者を認められない女権団体の過激派って。朝失敗したからってその日の内に再チャレンジする普通?』

 

「私に聞くな。それに、その朝の失敗はお前の仕業だろう?」

 

『モチのロンだよちーちゃん。この私が箒ちゃん・ももくん・いっくんに対して爆破なんてさせるわけないでしょ? 私直々にお仕置きしたかったけど、他にやることあるからさー』

 

「他にやること、というのは数週間前に言っていた事は」

 

『うん、ちょっと物騒な連中が動いてるのは確かだね』

 

「今朝の事といい、お前の言う通り、二人の入寮を前倒しして正解だったか………」

 

『それでその物騒な連中、強奪したISコアをいくつか所持してるみたい。最悪、IS学園に襲撃されることを考えた方がいいかもね』

 

「となると………避難場所・経路の確認に避難訓練の実施、緊急時の連絡………やることが山積み、か。何から手を着けたものか」

 

『そんなちーちゃんの為に、今度そっちにサプライズ仕掛けるからよろしくぅ!』

 

「………何をする気だお前は?」

 

『避難訓練ならぬ戦闘訓練? それとも実地訓練? 要するに実戦に勝る経験は無いんだよ、ちーちゃん』

 

「それは百春の持論だろう………それに生徒に被害が出たらどうする気だ」

 

『大丈夫大丈夫。ウサギさんに任せなさーい!』

 

「ウサギさん?」

 

『あっ………ももくんとの電話で使ってたからつい………あっ』

 

「百春との電話? さっきの百春の持論を知ってることといい、現在失踪中のお前が何で知っているのか、ちょっと詳しく聞かせてもらおうか、束?」

 

『やっば………あー、そ、そろそろサプライズの準備進めなきゃいけないから切るね! ではでは!』

 

「おい束!………ちっ、切られたか。なら──」

 

 『百春さん待って!』

 『織斑くんの中学時代の話を! 主に交友関係を!』

 『夏の新刊向けにネタをくださいお兄さん!』

 「待てと言われて誰が待つか!」

 

「──本人に聞くとしようか」

 

 

────────────────────

 

 

「あー、疲れた………」

 

 何とか寮まで走りきってロビーのソファに沈む。体力的には疲れてないが、精神的に疲れた。

 

 というのも、馬鹿共+αとの鬼ごっこの途中、校舎から出た所で何故か姉貴が参戦して、鬼ごっこは逃走中へと変容した。というかもはや俺対姉貴になった。サングラスはかけてないが、スーツ着て追ってくる姉貴はハンターにしか見えないな。

 

 それで、あと少しで寮にたどり着くという所で部屋の鍵を落とし、それを姉貴に拾われた結果、寮長も兼任していた姉貴の部屋である寮長室での尋問を受けるはめになった。最初に校舎内を走っていたことを注意された後、ウサギさん………もとい束さんの事について詰問された。いつから連絡を取り合っていたのか、何故私に言わず黙ってたのか、危険な事に巻き込まれてないか等々………一時間近くかかった。束さんに対する姉貴の信用は無いらしい。まぁ、普段が普段だから何とも言えない。

 

 そんな事から解放されたのがついさっき。自動販売機で買った缶コーヒーも飲み終えた。そろそろ部屋に行くか。部屋は2025………脱出際に教室でちらっと見た一夏の部屋が確か1025だったからちょうど真上の部屋らしい。

 

 すれ違う他の生徒と一言二言交わしながら部屋に向かう。ルームメートは2年って言ってたな。どんな奴だろうか。接しやすい奴だといいんだが。

 

 部屋の前に着いてノックするも反応無し。鍵を回すと開いた事からまだ部屋に戻ってないらしい。部活中か? なら部屋の中で待たせてもらうか。

 

 そう思ってドアを開け中に入ると、

 

「お帰りなさい。お風呂にする? ご飯にする? それともわ・た・し?」

 

 (おそらく)ルームメートの 痴女が あらわれた ▽

 

 中にいた人物はフリル付きのエプロンを身に付け、おたまを持ってこちらに向けてポーズを取っている。というか制服どころか部屋着も靴下も着てないんだが………裸エプロン? いや、腰の辺りにエプロンに繋がってない紐があるな………水着? 下着? とりあえず裸エプロンじゃないなら問題ないか………大アリだな? エプロンを押し上げている立派なものとか肌が見えている腰回りのラインとかそもそも美人な人だとか………一夏なら駄目だっただろう。前の高校にいた頃にタツで慣れてるから耐えられた。こんなことをあいつに感謝したくないが。

 

 目の前の光景や後ろで閉まるドアの音を無視して、ひとまず情報の整理をする。

 

(一瞬部屋を間違えたかと思ったが、渡された鍵で開いた以上、部屋はここだ。そして、あんな格好(男のロマン)で待ち構えていた以上、この部屋の住人に男がいると知っている。あと、すれ違った他の生徒の反応から見て、俺がどこの部屋なのかは広まっていない。つまりこの部屋に男が来ることを知っているのは教師かルームメートのみ。確定だな)

 

 この痴女がルームメートである、と結果が弾き出された所で、この状況をどうするか。あっちはポーズを取ったまま、俺は部屋を入って動きが止まったまま。数秒しか経ってないが、おそらくあっちは俺のリアクションを待っている。どうしたものか。

 

 ………そういえば、タツの家に遊びに行ったとき、タツの部屋に入ったらヒメがジェシカに唆されてこれをやっていたか。確かあの時のタツは、

 

「『そうだね………少し汗をかいたから先にシャワーを浴びるよ』」

 

 と言いながら鞄を脇に置いて、

 

「『その後に君が用意してくれた手料理をいただこうかな』」

 

 上着を脱いで適当な椅子の背もたれに掛けながらネクタイを緩めて、

 

「『君は食後のデザートにいただくとするよ。好きなものは最後まで取っておくタイプだからね。良いだろう?』」

 

 とヒメの腰に腕を回して抱き寄せて、空いているもう片方の手で頬に手を当ててたっけか。いやー、まだ少し慣れてない頃だったから端から見てても恥ずかしかったな。タツは笑顔で平然としてて、ヒメが顔真っ赤にしてワナワナしてた光景を、俺が写真でジェシカが動画を撮りまくってたのはある意味で良い思い出だ。データは買取(という名の没収)をヒメにされたが。

 

 思い出したけど流石に使えないか、と思った時に違和感に気付いた。

 

(あれ? 何で目の前に痴女がいるんだ?)

 

 さっきまでは俺は入口、あっちは居間らしき開けた場所で距離は数メートルあった。なのに今はほぼゼロ距離。身体は密着して………ん?

 

 俺の服装………上着ではなくYシャツ姿になっている。

 

 俺の左腕………相手の腰に回している。

 

 俺の右手………顔を真っ赤にした相手の頬に添えられている。

 

 ………………………………あっ。やらかした。

 

 タツに指摘されて知ったが、俺はどうもたまに考えている事をそのまま実行している時があるらしい。何度かスルーしていたらしいが、タツの隠し事をポロッとヒメとジェシカの前で言ってしまった事から注意された。その後のタツは二人に引き摺られてどこかに消えていったが今は関係ない事だな。今は、

 

「い、いや、あの、えと、その」

 

 こいつをどうにかしなければ。こんなカウンターパンチが飛んでくるとは思ってなかったのか、相手は真っ赤にした顔のまましどろもどろになっている。このままにしておくと向こうからカウンターパンチ(物理)が飛んできかねない。タツならここで追い討ちをかけて更にワタワタさせるんだが………いつもの感じでいいか。

 

「おう、あたふたするのが見たくてそんなことをしたんだろうが、こういう反撃が飛んでくることを覚えておけ。俺みたいな奴じゃなかったらどうなるか分からないぞ」

 

 ガンを飛ばすように相手の目を睨みながら注意し、その後すぐに離れる。本来なら相手の胸座を掴みあげて睨み付け、受け身が取れないように怯ませてから地面に叩きつけるまでがセットなんだが………そんな事を目の前の奴にはさすがにやらない。こっちにも非があるからお相子というやつだ。決して胸座を掴みあげたら胸を触ってしまうとか断じて考えてない。

 

「………………………」

 

「? おーい」

 

 離れたのにフリーズしたままなので、顔の前で手を振り続けるが反応がない。ただ睨み付けただけだが………?

 

「………………………ハッ。そ、そそそそうよね! お、覚えておくわ!」

 

 少しするとルームメートが再起動した。ソワソワと部屋の中のあちこちに視線を飛ばしたり、エプロンの裾を下に引っ張ったり………今になって恥ずかしくなるならやらなきゃよかったのに。

 

「シャワー浴びたいんだが、使っていいか?」

 

「!? え、ええ! どうぞ!」

 

 何か反応がおかしいルームメートは置いといて、部屋の片隅に置いてある大きめのダンボール箱を開け、着替えを取り出す。ついでに中身も確認したが、本当に最低限の着替えと携帯の充電器しか入ってなかった。コーヒーメーカー一式くらい入れといて欲しかったな。ちなみにルームメートはというと、未だにその場でアタフタしている。部屋着に着替える準備くらいしないのか?

 

「あ、あの、シャワー浴び終わったら………」

 

「ん? そうだな………ちょっと早いが飯だな」

 

「! ち、ちなみにデザートは………?」

 

「? 食べるかな」

 

 と、そんなやり取りをしつつ、着替えを抱えて立ち上がる。着替えは部屋着兼トレーニングウェアことジャージだ。寝て起きてそのまま着替えずトレーニングに行けるのは楽でいい。毎日洗濯する必要はあるが、トレーニングウェアに着替えても毎日洗うことを考えたらこっちの方が洗濯物が少なくて済む。寝間着一着分だけだが。

 

「じゃあ、俺はシャワー浴びるからその間に着替えておけよ?」

 

「し、勝負下着に………?」

 

「部屋着にだよ何言ってるんだこの馬鹿」

 

 

 

 

 

「………ごめんなさい。醜態を晒したわ」

 

「本当にな。俺のやらかしもあるけどよ」

 

 少し長めにシャワーを浴び、脱衣所を出るとルームメートは私服に着替えていた。俺がいない間に頭も冷えたようで、顔はまだ少し赤みが残っているが、とても落ち着いている。

 

「あなたの事は織斑先生から少し聞いてたけど、初対面の女の子にあんな事をするなんてね。織斑先生に報告した方がいいのかしら?」

 

「なら俺も、ルームメートは初対面の男を裸同然の格好で迎える痴女だった、と報告する必要があるな」

 

「やめましょう。お互いに良いことは無いわ」

 

「分かってもらえて何よりだ」

 

 さっきの事を根に持っているのか、暗に脅してきたが、こっちも同じ札を切ってさっきの出来事は無かった事にする。腹の探りあいとか俺には向いてないんだよ。

 

「じゃあ、改めて自己紹介するか。織斑百春だ」

 

「私は2年の更識楯無よ。気軽にたっちゃん、って呼んでね?」

 

 更識が口元に扇子をバッと開くと、『生徒会長』と書かれていた。随分使い所が限定されるデザインの扇子だな。しっかし、生徒会長で『たっちゃん』ねぇ………

 

「すまん。生徒会長のたっちゃん枠は既に埋まってるんだ。なっちゃんなら空いてるんだが」

 

「あら残念。なっちゃん呼びも魅力的だけど、楯無でいいわよ?」

 

「おう。なら俺も百春でいいぞ。弟もいるしな。これから宜しくな、楯無」

 

「えぇ、こちらこそ宜しくね、百春くん。ところで、生徒会長のたっちゃん枠ってどんな人? 同じ役職とニックネームでちょっと興味あるわ」

 

 と言って会話を始める前に用意した紅茶に口をつける楯無。俺にも用意してくれたが、やはりコーヒーが飲みたい。カフェインが足りない。

 

「と言っても、たっちゃんと呼んでたのは出会った頃でな。今はタツと呼んでるんだが、たまーにたっちゃんと呼ぶんだよな。名前は龍宮龍久と言って」

 

ブフッ

 

 タツの名前を言った瞬間に楯無が紅茶を吹いた。残りが少なかったのかこっちには飛沫は飛んでこなかった。

 

「………あの、一応確認するけど、そのたっちゃんの家って会社経営してる?」

 

「おう。龍宮グループだな」

 

 龍宮グループ。基は部品加工の町工場だったらしいが、品質向上を求めて金属の輸入から製鉄にまで着手。今では金属部品の品質に関して他の追随を許さないグループ企業。タツの父親である現総帥・龍宮龍彦は自社独自の部品を用いた家電販売などにも手を伸ばしている。

 

「………あなた、どういう交遊関係してるの? 大企業の御曹司じゃない」

 

「出会った時は知らなかったんだよ。向こうから『たっちゃん、とでも呼んでくれ』って言われたから名前を知ったのは大分後だ」

 

「それで本名を知って、別の呼び名を付けて………とすると付き合いも長そうね」

 

「中1の時に他校だったが町中で出会って、中3の時にタツの進学先に誘われて一緒に進んで今に至るから………そろそろ5年の付き合いになるか。あいつがあんな奴だとは出会った時には思わなかったな」

 

 天井を見上げながら思い出す。見た目は真面目な学生なんだが、中身はアレだからなぁ。

 

「あんな奴って?」

 

「そうだな………さっきの俺の行動がタツのデフォルトで、恋人の仕草を可愛いと思ったら所構わずイチャコラしたり、周囲の目が無かったら平然と恋人の服の下に手を入れてたり………一言で言えば変態だな」

 

「仮にも大企業の御曹司に向かって凄い言い種ね!?」

 

「下手したら教師が近くにいるのに隠れてさっきのをやるんだぞ? 何度バレないようにフォローしたことか。控えろって言ったら『彼女達が可愛いのが悪い』とか言う上に、俺が気付いているのはいいのかと聞いたら『見られているのも興奮する』とか言う始末だ。変態だろ」

 

「それは………そうね」

 

 自分のカップに残っていた紅茶を飲み干して、ティーポットから新たに紅茶を注ぐ。夕飯前だから少なめでいいか。楯無が無言で空のカップをこっちに出してきたので、同じくらいの量を注ぐ。ありがと、と言った後にその紅茶を口に含んだ。俺も飲むとしよう。

 

「そういえば、来週の月曜に1組のクラス代表決定戦をやるって聞いたんだけど、本当?」

 

「もう広まってんのか。確かにやることになったが、それがどうかしたか?」

 

「私が百春くんに教えてあげようかと思って。い・ろ・い・ろ・と、ね?」

 

 蠱惑的に言いながら、楯無が閉じていた扇子を開くと『手取り足取り』と書かれていた。さっきは『生徒会長』だっただろ。どういう仕組みだ。

 

「それはありがたいが、今回はやめておく」

 

「………どうして? 経験者に直接教えてもらうのはかなり良い手段のはずよ? それに会長権限で使うISも練習するアリーナも用意できる。生徒会長として私が用意できる内容の一体何が不満なのかしら?」

 

「まさにそれだ」

 

 姉貴に問い詰められ終わった後に聞いた所、ISは申請を出せば借りられるそうだが今週は全て予約が埋まっているとのこと。それを会長権限で用意できるのも、経験者に教えてもらえるのも確かに魅力的だ。だが、この時期の生徒会長に仕事を増やす訳にはいかない。

 

「どれ? まさか、自分がこんな優遇される訳にはいかないとか考えてる? 私という人脈が出来た以上、勝ちたいのなら使える物は使うべきよ?」

 

「それは同意する。だがな、楯無が生徒会長だから断るんだ」

 

「………どういう意味かしら? 生徒会長だから戦えない、とでも言うなら私に対する侮辱よ」

 

 侮辱されていると思っただろう楯無が威圧してくる。実力を知らないんだから侮辱なんか出来ないだろうに。それにこんな学園の生徒会長をやってるんだから、ただ者ではないことくらい分かる。

 

「違うそうじゃない。生徒会長だから仕事があるだろう、って話だ」

 

「なぁ~んだ、そういうこと。でも大丈夫よ。一週間くらい進めるのが遅くても後でいくらでも──」

 

「──生徒会業務を甘く見るなよ」

 

「え」

 

 楯無と入れ替わるように、今度は俺が威圧する。この時期の生徒会について、生徒会役員なら知っているはずだが………あぁ、もしかして、

 

「2年ってことは4月を迎えるのは始めてだな?」

 

「そ、そうだけど………」

 

「4月はな、やることが多いんだよ。新年度の部活動予算の策定に学年行事に関しての教師陣との打ち合わせ、ここに男子生徒が入って来たことによって増えるであろう学校への意見陳情苦情の対応に加えてその他諸々の雑用! そして何より! 会長の! 判子が無いと! 書類が片付かないんだよ!!」

 

「あ、あのちょっと百春くん?」

 

「………すまん。ちょっと取り乱した」

 

 自分の苦労を思い出して声に出すと、その時々の感情も思い出してしまい、愚痴るように取り乱してしまった。タツがやればすぐ終わるのに家業が忙しいからと、ほぼ俺に回ってくる。あまりにも俺が処理してるから、新人教師が俺を会長だと勘違いした時は流石にタツも凹んでたな。

 

「………もしかして百春くんって」

 

「元生徒会役員だ」

 

「ちなみに役職は?」

 

「副会長。けど庶務がいなかったからそれも兼任してたな」

 

「………………へぇ」

 

(何で悪い顔してるんだこいつ………?)

 

「けど、そういうことなら分かったわ。学校が違うから多少差異はあるだろうけど、経験者が言うんだもの。普段より多いんでしょうね」

 

「分かってもらえて何よりだ」

 

 ふと時計を見ると、18時になろうかという時間だった。そろそろ夕飯だな。食堂で夕食が食べられるらしいので、二人して準備する。

 

 いざ部屋を出ようとした時に、楯無が呼び止めてきた。

 

「あ、百春くんちょっと待って」

 

「どうした楯無?」

 

 ゴホン、と楯無が咳払いし、右手を差し出してきた。

 

「ファーストコンタクトがあんな形だったけど、これからも仲良くしましょ? 改めてよろしくね、百春くん」

 

「おう。よろしくな、楯無」

 

 俺も右手を差し出して握手を交わす。

 

 こうして、騒がしい学園生活初日は終わった。

 

 

~おまけ~

 

 

「そういえば、龍宮くんの彼女『達』ってどういうことなの? 二股?」

 

「いや、恋人は1人だな。ヒメという奴が恋人なんだが、ジェシカという奴がそのヒメを唆して遊んでるんだ」

 

「唆して遊んでる、って例えば?」

 

「基本的にコスプレさせてその格好の対応をさせてるな。メイド服とか裸エプロンとか………ちなみに、さっき俺がやったやつはそれに対してのタツの返しだな。それで、たまにジェシカも参加して一緒にタツに対して仕掛けてるんだよ。それで彼女『達』だな」

 

「へぇー、それはちょっと面白そう」

 

「確かに見てる分には面白いんだがな、それを生徒会室でもやるんだよ………さっきの楯無に動じなくなるくらいには日常茶飯事だった………」

 

「うわぁ………御愁傷様………」

 





TOPICS:龍宮龍久
百春からの呼び方はタツ。生徒会長を務めているが、家業で忙しい日が多いため、百春に作業を投げることが多い。実は百春に書類仕事を慣れさせて卒業後の即戦力とするため、ワザと理由を作って作業を投げていた事を百春は知らない。ヒメとは恋人関係であり、ジェシカによって色々な事をしている(させられている)ヒメを見て、色々な表情が見れて良い、と生徒会メンバーと楽しい日々を過ごしている。百春のフォローありきで普段の行いをやっているため、百春がいない今は真面目に過ごしている。

TOPICS:生徒会業務
百春が4月は仕事が多い、と言っているが、実際は会長+副会長+庶務の仕事がすべて百春に回ってくるから多いのであって、役職毎に見ればちょっと多いかな程度の量である。ちなみに、書記のヒメこと玄武姫子と会計のジェシカことジェシカ・フェニックスは自分の分をきっちり終わらせるので、実質3人で生徒会を回しているといっても過言ではないが、3人とも「生徒会長は龍宮龍久である」という認識がある。
※生徒会の仕事は作者の想像です。そんな設定と思ってください。


おかしい………今回でセシリア戦直前まで行く予定だったのに
ルームメートの話で終わってしまった………
ナンデ………ドウシテ………

次回はセシリア戦に入れるはず………
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