織斑一夏の兄が行く   作:ふくろう639

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今回は難産だったうえに前回セシリア戦に入れるはずと言ったのに
入れませんでした………許してヒヤシンス。

それもこれも百春の専用装備を用意してしまったのが悪いんです………
だってほぼそれで文字数持ってかれてるし………
もう少し短めで投稿したいのになぁ。



第4話 専用機

 学園生活2日目の放課後。

 

「百春さん。少しいいか?」

 

 帰りのHRが終わってすぐに箒に話しかけられた。

 

「おう。どうした箒。授業で分からない所でもあったか?」

 

「それはまだ最初の方だから大丈夫だ。それで、これから時間はあるだろうか?」

 

「これから?」

 

「あぁ。この後、一夏の剣の腕を確認しようと道場に行くんだが、一緒にどうかと思ってな」

 

「最近身体動かしてないだろ? 俺も最近満足に振れてないから一緒に行こうぜ」

 

 帰りの支度を済ませたのか、一夏も会話に参加してきた。普段なら二つ返事で一緒に行くんだが………

 

「すまん、二人とも。この後姉貴の所に行かなきゃいけないんだ」

 

「あぁ、そういえば昼休みに千冬姉と何か話してたな」

 

「なら、千冬さんから呼び出された、ということか。それならば仕方がないな」

 

 今日の昼休み、姉貴に放課後に生徒指導室まで来るように言われていた。姉貴のことだから他に聞かれてもいい話なら教室内で普通に話していたはず。つまり、他の生徒に伝わったらまずい話か………? 恐らく、直前に俺と一夏に対して伝えられた事についての話だろう。昨日の楯無との一件がバレた訳ではない、はず………

 

「そもそも、二人は剣の練習するにしても、俺が剣苦手なのは知ってるだろ? トレーニングするにしても、やるとしたら素手だから試合に役立ちそうにもないしな。試合で剣振るくらいなら銃使うから入試の時にも銃だけ使ったし、今から剣振るよりかは銃とかISについて知識を深める方がいいだろ?」

 

「確かに兄貴は箒ん家の道場に通っても竹刀振らないでひたすらトレーニングしてたもんなぁ。箒も『なんで剣を振らないんだ!』ってよく叫んでたっけ」

 

「そ、そんなことは知らん! 大方、姉さんが聞いているのを覚え間違えただけだろう!」

 

「そうだったっけ?」

 

 束さんに筋トレしてる時とかに話しかけられて色々聞かれたのは覚えてるが、お前も聞いてきてるぞ箒。道場にいるなら剣を振れ、とか言って竹刀片手に追いかけてきたのは覚えてるからな? 箒のスタミナ切れで俺が逃げ切ったけど。

 

「しかし、千冬さんといい、一夏といい、姉と弟は剣の才があるのに、百春さんは無いというのも不思議な話だな」

 

「………ほっとけ。ほら、さっさと行かないと時間が無くなるぞ」

 

「む、確かにな。ならば行くぞ一夏」

 

「おう。じゃあな兄貴」

 

 と一夏と箒は教室を出ていった。こっちの会話を聞いていたらしき見覚えのある金髪を含めた他の生徒もぞろぞろと教室を出ていく。

 

(………俺に二人のような剣の才が無いのは分かってる。そもそも──)

 

 って、考えてる場合じゃないな。こっちも生徒指導室に向かわねぇと。

 

 

 

 

コココンッ

 

「1年1組織斑百春です」

 

「入れ」

 

 引き戸を開けると、姉貴が脚を組んで椅子に座ったままこちらを見ていた。中に入って戸を閉めた後、机を挟んで姉貴の反対側の椅子に座る。

 

「さて、何についての話かは分かっているか?」

 

「専用機、についての話だろ? あまり公にできない話でもあんのか?」

 

「察しが良くて助かる。一夏だと、こうは行かん」

 

 専用機。束さんが失踪する前に作り上げた467個のISの心臓部であるISコア、各国に分けてただでさえ少ないISを個人専用にする。それがどれだけの待遇か分からない俺じゃない。

 

「昼休みの話だと、一夏には政府から支給されて、俺は学園で所有してるISを専用機にする、って話だったよな」

 

「そうだ。一夏はISを提供する倉持技研のテストパイロット、お前はひとまず学園所属のテストパイロット、ということになる。昼休みに聞いた通り、お前の専用機にはラファール・リヴァイブを用意した。多様な戦い方ができる機体だが、お前なら使いこなせるだろう。帰りに整備棟に寄って受け取るように」

 

「りょーかい。で、本題は?」

 

「その装備についての話だ」

 

「装備?」

 

「ラファールには初期装備として、近接ブレード・アサルトライフル・シールドを搭載しているが、逆に言ってしまえばそれしかない。他の装備も学園には置いてあるがお前の専用装備にしてしまうと、授業や生徒の自主練で充分に使用出来なくなってしまう」

 

「それは確かにそうだな」

 

 学園の機体を専用機として生徒に使わせるのが異例なんだ。それに合わせて授業でも使う装備を渡すと、予定している授業が行えなくなるのは学園としてもまずいだろう。

 

「故に、今回だけ外部に発注する事にした」

 

「………あぁ、なるほど。特定の生徒、それも自身の家族に贔屓してると思われる可能性があるから、ここで話している訳か」

 

「そういうことだ。表向きには今回発注する装備は、元々学園にあった装備を渡した、ということになる。ここに学園と取引がある企業のリストを用意したから、今日中に装備を決めてくれ。ただし、企業によっては望む装備が来週までに用意できない場合もあるからな」

 

 と姉貴に渡された書類に目を通す。企業毎に用意できるであろう装備の名前が並んでいて後半のページに詳細なデータが記載されているが………あまり、ピンと来る装備が無いな。

 

「別にここで決めろと言っている訳ではない。部屋に戻って考えてくれていい。私や山田先生、なんならお前のルームメートの更識に相談するのも手だ。ISにおいては先輩だからな」

 

 楯無か………と思い脳裏によぎるのは裸エプロンもどきの姿の楯無。初対面の俺に新婚三択をかまし、カウンターパンチによって脳内ピンク色に染まった行動並びに言動を見せたルームメート。………相談するのはやめておくか。まともに考えてくれるとは思うが、信用できる根拠がどこにもない。

 

 そもそもの装備の選択肢にこれといったものがない以上、姉貴や山田先生に相談するのも微妙だ。1つでも何かあればそれを中心に他の装備を相談して選べるが………どうしたものか。

 

(俺はこういうデータを見て判断するのは苦手なんだよな………ん? そういえば………)

 

 ペラペラと紙をめくり、改めてざっくりと目を通す。………載ってないな。せっかく姉貴が発注してくれる、って言ってるんだ。多少の要望は有りだよな?

 

「姉貴。このリストに載ってない企業でも発注できるか?」

 

「織斑先生だ。まぁ、出来んこともないが………そもそも、そんな企業に心当たりでもあるのか? それに取引がない企業だと、手続きに時間がかかって間に合わない可能性が高いぞ? 他にも色々あるが………大丈夫なのか?」

 

「たぶん大丈夫だ。この話に乗ってくるなら、手続きならあいつが最速で処理してくれる」

 

 俺は携帯を取り出して、電話帳に登録してある番号に電話をかける。この時間ならすぐに出れるはずだ。

 

『もしもし』

 

「おう。ちょっと良い仕事の話があるんだが乗らないか?」

 

「まるで犯罪の片棒を担がせるかのような言い方だな」

 

 姉貴はちょっと黙ってて。

 

 

────────────────────

 

 

 あっという間に時間は流れて、月曜の放課後。つまりはクラス代表決定戦を行う日だ。

 

 今日の試合は3人での総当たり戦だ。一夏対セシリア、一夏対俺、そして俺対セシリアの順で行うらしい。セシリアが一夏戦を最初にやりたいとの事で、それを元に順番が決まったそうだ。

 

 既にアリーナには試合を見ようと生徒が集まっているのは控室のモニターで確認した。男性操縦者が戦う、ということもあってか、予想してたより人が集まってたな。一部の教師も見に来てるみたいだ。

 

 そんな人達が今か今かと試合開始を待っている訳だが、ちょっとしたトラブルが起きた。第一試合に出る一夏のISが未だに届かない。担当している企業からの連絡もないらしい。山田先生が入口まで見に行ったまま戻って来ないということは、まだ来てないんだろう。

 

 俺はというと、一夏とは別の場所で装備を受け取っていた。一夏とも戦うので、情報を伏せておいた方が良いだろうという姉貴の考えだ。

 

「しかし、よく一週間でやってくれたな、タツ。助かった」

 

「礼を言いたいのはこっちだよモモ。よくこの仕事を振ってくれた」

 

 と握手を交わす相手は友人のタツ。一週間という短納期のせいか寝不足が見て取れるが、本人はいたって普通にしている。

 

 今回、俺の装備は龍宮グループに発注した。確か前にISの装備開発にも手を出し始めたとか言ってたよな、と電話で今回の件について伝えたところ、

 

『今日中には案件を通す! 待っててくれ!』

 

 と滅多に出さないやる気を見せたタツは、その日の21時には必要な書類を用意したと連絡が来た。普段の生徒会業務もこれくらいやる気出してくれたら楽だったんだがな………

 

「礼って言ったって『こんな仕事あるけどどうだ?』って聞いただけだろ? そりゃ売り上げ的には良い話だっただろうけど、そんなにか?」

 

「そんなにだよ。短納期で若干オーダーメイドも含んでいるから売り上げも良いけど、僕が言ってるのはそこじゃない」

 

 と、タツは指を1本立ててこちらに見せる。

 

「あのIS学園と取引が出来た。これがまず1つ。うちはISの業界で言えばまだまだ新参寄りだ。そんな企業がIS学園と取引した、という事実はかなり大きい。色々な方面で有利な情報になる」

 

 続いて指をもう1本立てる。

 

「そして2つ目。モモが使用することによる宣伝効果だ。噂の男性操縦者が使用する装備ということで、否が応にも注目される。学園内の生徒や行事なんかで訪れた海外の人の目にも触れるだろう」

 

「つまり、俺が広告塔として有能ってことか」

 

「そういうこと。まぁ、キミの成績次第ではあるけどね」

 

 これを前情報無しの電話で聞いた瞬間に判断した辺り、こいつの仕事に関する能力が伺える。これが大企業の御曹司の実力か………というか今更だが学生なのに裁量が大きくないか? 

 

「………これで、よし、と。後は量子変換(インストール)が終わるのを待つだけよ」

 

 と先程から作業をしていた女性がこちらに声をかける。俺とタツもよく知った人物だ。

 

「おう。サンキュー、ヒメ。しかし、機械に強いとは知っていたが、ISもカバーしてたとはな」

 

 黒く長い髪をなびかせたヒメこと玄武姫子が、タブレットの電源を落としながらその鋭い目付きをこちらにむける。

 

「逆よ、モモ。ISが主で、その他がおまけ。そもそも、龍宮グループのIS部門はうちの玄武工業の管轄よ。龍宮グループの100%出資によって完全子会社になった玄武工業、その売りは圧倒的な硬さよ。ま、他の性能が重視されちゃったせいで採用率はかなり低いけどね」

 

 お前の胸みたいにか、という言葉は飲み込む。高校では男子生徒からクールビューティと言われていたヒメではあるが、同じくらい壁と言われていた。同じ生徒会メンバーのジェシカと比べられてるのもあるが、その主な原因は俺だ。

 

「………ねぇ、モモ? 今変なこと考えたわね?」

 

「よく分かったな」

 

「あんたも知ってる通り、こっちは今までさんざん人の顔色伺って生きてきたの。それくらい読めるわ。あと1つ言わせてもらうけどね」

 

「なんだ?」

 

「私のバストはBカップになったのよ! 断じて壁じゃないわ!」

 

「大声で何叫んでんだこの馬鹿」

 

 いくら(ほぼ)女子校でも、叫んでいい内容じゃないだろ。見た目は変わったように見えないんだが? というかまだ根に持ってんのか。

 

「私は着痩せするタイプなのよ! 何ならこの場で脱ぎましょうか!?」

 

「だから大声で何叫んでんだこの馬鹿!」

 

「あんたが信じようとしないからでしょうが!」

 

 ヒメとのやり取りも懐かしいな。大体喧嘩腰で言い合って、ヒメはヒートアップしたら自分が何言ってるのか後で気付くから失言が多い。言い合った後に生徒会室の隅で頭に茸生やしているのはもはやお約束となっている。

 

「恥じらいを持てって言ってんだ! はぁ………お前も言ってやれタツ」

 

「ふむ………」

 

 とタツに振ると、ヒメに近づいて……おぉ。今回は顎クイか。携帯のカメラを構えて………今回は写真にしておこう。ジェシカにも送っておかねば。

 

「あまり他の男に肌を見せるのは感心しないな。キミは僕にだけ全てを見せればいいんだ」

 

「ひゃい………………」

 

 甘い声でささやくようにタツが話すと、ヒメは顔を真っ赤にして答えた。さすがタツ。このご時世の一般男性ができない事を平然とやってのける。そこに痺れも憧れもしないけど。

 

 今のうちにデータを確認して、と。しっかり撮れてるな。ジェシカに送っとくか。上手く使ってからかってくれるだろう。

 

「さてモモ。何故か姫子がフリーズしちゃったから、回復するまでの間に今日持ってきた装備の説明をしておこう」

 

「お前がフリーズさせたんだろが。まぁいいけどよ」

 

「と言っても持って来たのは1つだけなんだけどね」

 

「………は?」

 

 思わず口からこぼれる。武器とかには詳しくないからお前なら俺に合いそうな装備が分かるだろ、とタツに装備のチョイスを丸投げしたが、それは無いだろ。

 

「あぁ、勘違いしないでね。間に合ったのが1つだけなんだ。玄武の売りの硬さを出すにはちょっと時間がかかるんだよ。キミのお姉さんには説明して納得してもらってるし、今回1つしか持ってこれないかもと伝えてあるんだけど………」

 

「あんの姉貴ィ………!」

 

 多分、装備が1つだろうとやるしか無いのだから別に伝えなくてもよいだろう、とか考えたなあの姉貴。心構えとかがあるだろうが。そんな気配りが出来ないから、学生時代には男らしいと同性からの手紙の方が多くて、いつまで経っても彼氏が出来──

 

「!?」

 

「ん? どうしたんだいモモ」

 

「い、いや何でもない。説明を始めてくれ」

 

 どこからか殺気が飛んできて思わず周囲を見回す。と言ってもこんなタイミングで飛ばすのは姉貴しかいない。地獄耳にもほどがある。

 

「じゃあ、始めるとしよう。今回持って来たのはうちの最初の開発品を改造したもの。これだ」

 

 と、渡された資料にはメタルグレーの大型の銃が載っていた。オートマチックの拳銃の上半分を大きくして、グリップを埋め込んだような大型の銃。銃口は2つ縦に並んでいて、両方に対応するかのように大きなシリンダーがついている。リボルバーに銃口を増やしてゴツくした、という方が近いかもしれない。

 

「玄武の硬さによって、撃ってよし殴ってよし守ってよしの三拍子揃ったものだ。名前は龍宮グループが金属を扱ってる所から弾鋼と命名した」

 

「おう、駄洒落か?」

 

「いや、割と本気だったんだけど………」

 

 確かに金属に玉鋼ってあるが………ネーミングセンスは微妙だったのかこいつ………

 

「………さて、気を取り直して機能の説明をしよう。弾鋼はアサルトライフルみたいに連射は出来ないけど、一発一発の威力が高い。扱い方はスナイパーライフルに近いかな? それ以上の威力だけれど」

 

「狙い撃ちとか俺は向いてないぞ? そもそも銃にはまだ慣れてないし、狙えたとしても中距離くらいだが、それでも命中率は高くない。至近距離なら意地でも当てるがよ」

 

 入試の時の実技だと、近距離寄りの中距離でどうにか銃撃戦が成り立つくらいの命中率だった。だからその時は相手に近寄って撃つ、という銃の戦い方にあるまじき戦い方と姉貴に言われた。零距離でライフル連射するのは気持ち良かったけどな。

 

「そんなことだろうと思って、モモ向きの機能がある。2つある銃口の下側で至近距離用の砲撃ができる。弾薬じゃなくてエネルギーを使うから銃撃との切り替えも容易だ」

 

 これ性能テスト時の映像ね、と見せられた動画では引き金を引くたび、下の銃口の先が爆発していた。上と下の銃口で交互に撃てている事からも切り替えに問題ないのが分かるが………

 

「これ、ガンランスだったか?」

 

 どう見ても至近距離用の砲撃が某狩りゲーのガンランスのそれだ。

 

「ガンランスじゃないよ。弾鋼は普通の銃として撃てるし杭は撃てないし盾もない」

 

「まぁ、そうだよな。銃に砲撃できる機能が付いただけだよな」

 

「ただまぁ、近接武器として振るえるし中折れ式リロードできるし竜擊砲も撃てるけど」

 

「ガンランスじゃねぇか」

 

「ガンランスじゃないよ。そもそも砲撃は当初の予定していた機能の未完成品なんだ」

 

「未完成?」

 

「本来ならエネルギーを収束させてレーザー砲を撃つ機能なんだけど、肝心のエネルギーの収束が上手く行かなくてね。そういうノウハウが無いから当然と言えば当然なんだけど、その結果、銃口を出た瞬間に爆発するという砲撃になったわけだ。その収束時間を長くすれば竜擊砲さながらの破壊力になるし、モモが使う事を考えたらこれはこれで有りだということでそのまま採用したよ。ちなみに竜擊砲を撃ったら銃口が冷えるまで砲撃は使えないから注意してね」

 

「やっぱりガンランスじゃねぇか」

 

 改めて資料に目を通すが、あと一歩間違ったらガンランスだぞこれ。まぁ、そこは置いといて、武器としては悪くないと思う。これ1つで基本的にはどの距離でも対応できる。近接武器で来られても硬さに自信があるってことなら受け止めて殴り合いも可能。装備を替える手間が無いのはISにまだまだ慣れてない俺にはありがたい。

 

「とりあえず装備の説明はこんな所かな」

 

「おう、釈然としないがまぁ大丈夫だ」

 

『まもなく第一試合が始まるので、オルコットさんは準備をお願いします』

 

 スピーカーから山田先生の案内が流れた。そろそろ試合が始まるらしい。

 

「始まるみたいだな」

 

「そうだね。一夏くんのお手並み拝見といこうか」

 

「あぁ。だが、その前にそこのフリーズしてる奴をどうにかしねぇと」

 

「僕が起こすよ。眠り姫を起こすのは王子の役目だ」

 

「寝てねぇし王子でもねぇし普通に起こせ」

 

「さすがモモ。僕がナニをしようとしたかお見通しか」

 

 目覚めのキスならぬ目覚めのディープキスなんてやってみろ。ヒメが目覚めるどころか眠りにつくだろ。

 

 

────────────────────

 

 

「………何とも締まらない終わり方だなぁ」

 

「まぁ、初めての戦闘だろうから、エネルギー管理が疎かになったのも仕方ないんじゃないのかい?」

 

「それだとしてもダメでしょ。一次移行したばかりなんだから機体情報くらい見なさいよ」

 

 タツにヒメを普通に起こさせたところで一夏の試合が始まったので揃って観戦していた。試合は一夏の負けで終わったが、その最後は何とも締まらないものだった。

 

 試合開始後、一夏は距離を詰めようとするがオルコットのレーザーライフルによる射撃で中々近付けず、オルコットから距離を取って逃げるしかなかったみたいだ。装備もブレードしか出さなかった辺り、他の装備は積んで無いのかもしれない。他のも積んでやれよ。

 

 逃げ回る一夏に痺れを切らしたのか、オルコットが特殊な装備………レーザーを放つ小型のビットを使い始めた。オルコットのISと同じ名前であるブルーティアーズ。ヒメによるとイギリスで開発しているBT兵器と呼ばれるもので、第三世代の装備らしい。早い話が操縦者の意識で操る装備らしく、集中力が必要になるとか。

 

 小型のビット4機とオルコットから放たれるレーザーから一夏は逃げるが何度か被弾する。が、逃げ回りながらオルコットの観察をしていたようで、ビットを斬り落とし始めた。オルコットはそれに動揺したのかビットの動きが鈍り、更に一夏に落とされる。集中力が必要、ってこういうことか。

 

 ビットを全て落とした一夏が距離を詰めてオルコットに斬りかかるが、ブルーティアーズはまだあったらしく、一夏にミサイル型のビット2機が直撃し爆煙に包まれた。

 

 爆煙が晴れると一夏のISが変わっていて、真っ白な機体になっていた。ヒメに聞くと、おそらく試合開始から今まで初期化・最適化を行いながら戦っていたのでは、ということらしい。普通は終わらせてからやるんだけどね、とヒメが呟いていたが姉貴のことだ。戦いながら終わらせろ、とか言っていたに違いない。

 

 白式の名前に恥じない白い機体に変わった後、一夏が持っていたブレードが変形してレーザーブレードになった。あれは俺でも分かった。姉貴の零落白夜だ。単一能力は同じものは無く発現するのは二次移行から、と教科書で読んだが………束さんが何かしたな? 

 

 一夏がその状態で突撃し、オルコットを斬る直前に試合終了の合図が鳴った。そしてさっきの会話に繋がる訳だ。

 

「モモの弟の敗因は単一能力の使い過ぎ、ってとこね」

 

「姉貴と同じものが使えて嬉しかったんだろうな、ありゃ。分かりやすく調子に乗ってたしな」

 

 どうも一夏は調子に乗ると左手を握って開いてを繰り返す癖がある。中学時代の剣道の試合でもそれをやって追い詰められてた事があった。

 

「で、次はモモがあれを相手にするけど、勝てるかい?」

 

「如何に銃撃を当てるかだな。オルコット戦の布石も打っときたいしよ」

 

「ふーん? なら楽しみにしておくよ、モモ」

 

「おう。………しかし、最適化って時間かかるな」

 

 一夏が一次移行終えた辺りから、俺のISの初期化・最適化をやっていたが、まだ終わりそうにない。先週にISを受け取った時にやっておけば良かったが、忘れてたんだからしょうがない。

 

「たぶん弾鋼のデータを含めて処理してる、っていうのとサポートAIのインストールもしてるから時間がかかってるんでしょうね」

 

「サポートAI?」

 

「主に射撃を補佐するAIみたいね。学習型みたいだから、モモの撃ち方のクセを学んでそれに合わせて照準とかの処理をしてくれるみたい」

 

「? 『みたい』って、ヒメが作ったわけじゃないのか?」

 

「そこまで手が回るわけないじゃない。龍久が用意してくれたんでしょ? 弾鋼のコンテナに入ってたし」

 

「え? 僕はてっきり姫子が用意したものかと」

 

「え?」

 

「え?」

 

 思わず3人で顔を見合わせる。

 

 つまり、どういうことだ。弾鋼のコンテナを誰かが勝手に開けて、IS用のプログラムを置いていったってことか? 龍宮の技術者の誰かならタツかヒメに報告するだろうし、第三者による行動………怪しさしかねぇな。

 

「「ま、いいか」」

 

「おう、いいわけねぇだろ馬鹿共」

 

 怪しさ満点の代物を人に使わせるんじゃねぇよ。

 

「でも、タツ。姫子が判断して入れたんだ。問題があると思うかい?」

 

「問題しかないと思うんだが………ヒメ、中身は問題なかったのか?」

 

「中身は問題は無いんだけど、強いて言えばケースのロゴが気になるくらいかしら。ウサミミカチューシャと人参がロゴのIS関係企業なんて聞いたことないんだけど」

 

「………あー、うん。中身が問題ないならいいか」

 

「若干諦めてないかい?」

 

 どうやってコンテナに入れたか知らないが、束さんの仕業だな。だとすると違う意味で中身が問題ありそうだ。表示されてるインストール時間からしてオルコット戦には間に合いそうだが、どれだけ容量あるんだこれ。

 

『百春くん。そろそろ発進してください』

 

 山田先生の声が放送で流れた。もうそんな時間か。

 

「だってさモモ。気張っていきなよ」

 

「無様な姿は晒さないでよね。うちの品物の評価が下がっちゃうし」

 

「おう。任せておけ」

 

 ノッシノッシと歩いてカタパルトに向かう。意外と歩きにくいな。IS纏ってる分足が長くなってるから当然と言えば当然なんだが、これも慣れた方がいいんだろうな。

 

「じゃあ、行くとするか」

 

 入試の実技以来の空へ、俺は飛び出した。

 

 

~おまけ~

 

 

「そういえば姫子。よくこんな追加機能を設計したね? エネルギー機構なんて龍宮の範囲外だと思うんだけど」

 

「そうなんだけど、アイデアを聞いた技術者が揃って『面白い!』って乗り気になっちゃってね。むしろ私が説得されたわよ。エネルギー回りなんて多少かじってる程度なのに」

 

「ちなみにそれを話した人って?」

 

「ジェシカよ。砲撃しか出来なくなっても『狩りゲーみたいでgood!』って言ってたわ」

 

「そういえばオタクだったね彼女………あれ? 今回着いてきてないね。生徒会メンバーでいつも行動してるんだから理由付けて着いてきそうなものだけれど」

 

「最近ハマったアニメを見たいんだって。たぶん生徒会室で見てるんじゃない? 魔法少女なのに少年漫画みたいで面白い、って言ってたわよ」

 

「もしかしなくてもそこからアイデア持ってきたのか………あと家で見ようよ」

 




TOPICS:玄武姫子
百春からの呼び方はヒメ。高校生ながら玄武工業の主任技術者を務めている。叔父に虐待されていたせいで、読心術を身に着ける。龍久に色々助けてもらった恩が恋愛感情へと変わり交際するようになった。一度百春が転んで姫子を下敷きにしてしまった際、「なんで倒れたのに壁があるんだ………?」と混乱した所を姫子にアッパーカットで起こされる、といった出来事以降、壁と揶揄されるようになってしまった。それからことあるごとに百春と口論をするようになる。両人曰く、トムジェリの仲。

TOPICS:玄武工業
姫子が主任技術者を務めている企業。数年前に玄武工業の社長を務めていた姫子の両親が事故で亡くなり、叔父が姫子を引き取る。ショックで姫子が引きこもっている間に叔父が社長代行に就き、会社を私物化していた。また、技術者としての片鱗を見せていた姫子を疎ましく思い虐待する。龍宮グループとの取引は元々あり、叔父に変わってから経営を怪しんだ龍久がアルバイトという名目で百春を送り込む。私物化されていることを確認した龍久が株を買い占め筆頭株主となり、代行を信頼できる人物に任命する。その後しばらくして、龍宮グループの完全子会社となった。叔父のその後の行方は知れない。

TOPICS:弾鋼
龍宮グループ配下の玄武工業が製作したIS装備。装弾数6発の大型銃で、玄武の技術によりとてつもなく頑丈になっている反面、通常の銃より重い。百春の装備にするにあたって「白い魔王のような砲撃できたら面白そう」「何それ詳しく」といったことがジェシカとオタク仲間の技術者の間であり、それの未完成品である至近距離用砲撃機能が搭載された。エネルギーを限界まで収束して放つ至近距離砲撃は竜撃砲ではなく龍撃砲を正式名称としている(龍宮グループのため)。
※見た目はデルフ・ダオラに銃口を増設したイメージ。


百春の装備はこんな感じで色々混ぜたものを使わせます。
ロマン砲を搭載したかったんです………許してクレメンス。
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