ダンガンロンパ・コンパチブル   作:こんぱち

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第二章 キョウドウ
第二章 (非)日常編1&???


「……起きてください。琴間さん」

 僕の身体に触れながらそう言っているのは誰だろう。……朝はしゃっきり目を覚ますので、中学に入ってからは両親にも揺さぶり起こされるようなことはなかったのに。それに僕のことを『琴間さん』なんて呼ぶ人の心当たりは……そうだ。一人だけいる。

 ――いや、もういないんだよねえ

「……おはようございます。福添先輩」

「ええ。おはようございます」

 ――不自然に感じないのかなあ? 彼女がキミの部屋にいることに。

「珍しく、寝坊されていたのですね。昨日何かあったのですか?」

 ――ああ。昨日はまさにエクストリームだったねえ。

「……なんだろう、思い出せないです」

 そう言って起き上がろうとすると、首と腰のところに鈍痛が走り、「いたた」と声をあげてしまう。すると、福添先輩が僕の首と腰に直接触れてきた。

「首と腰周りにこわばりがあるようですね。……なにか長時間うつむいたり腰を曲げたりされていたのですか?」

 ――そうだよ。キミはあの凄惨な処刑を見て、しばらくのあいだ、ひざまずいた姿勢から立てなかったんだ。あのかっこはホントーに傑作だったね!

「指圧すればほぐれるかもしれませんね。私、あん摩マッサージ指圧師の勉強もしているので少しいかがですか?」

「さすが準・超高校級の福祉委員、意識が高いですね」

「ええ。独立開業するにも講師業するにも、必要になってくるものですからね」

 ――そんな未来、もはや断たれたんだけどね。絶望的だね!

「ですが……その……」

「あら、もしかして女子だから遠慮してるんですか?」

 いたずらっぽくはにかむ福添先輩。……こういうところもある人だった。

 ――だった。そう、過去形なんだよなあ。

「まあ、美容師さんみたいなものですよ。美容師さんが男性でも女性でもあまり緊張しないでしょう? さ、うつぶせになってください」

 割と女性だと緊張しちゃうタイプなんだけどな……などと思いながらも、言うとおりにすると、ベッドの傍らに立って、両肩甲骨の内側部分をぐっ、ぐっ、としてくれた。一回ごとに五秒ほど押し込まれる感覚。中々力強い。

 ――枕ごと、牛刀で心臓を一突きにできるほどの力があるからねえ。瑞倉クンを仕留めた一撃は素晴らしかったよ。

「ここは風門といって、こわばりのほかにも自律神経や血行の改善に効くツボで、頭痛や風邪の予防にも効果的なんです。押すだけじゃなくて、さすったり、カイロやお灸で温めるのもいいですね。そこからちょっと上にあるこっちのツボは……」

 長々と講釈をたれられても、なぜか福添先輩なら心地いい。聞いているうちに痛みもすっかり吹き飛んだようで、しゃきっと立ち上がることができた。

「ありがとうございます。福添先輩」

「いえ。どういたしまして。ところで、この後ですがお時間ありますか?」

「はい。ありますが、なにか僕に御用ですか?」

「ええ。瑞倉さんが基本を覚えたので、麻雀の実践をしようと思って」

 ――気を付けてよぉ。そいつは約束にかこつけて刺してくるような女だぞぉ

「はい。ご一緒させてもらいます」

「よかったです。それでは行きましょう。もう瑞倉さんもお部屋の前で待ってますよ」

 と手を引かれて一緒に部屋から出る。部屋の前に待っていた瑞倉先輩は、昨日見たときと雰囲気が変わっていた。……なんだか若々しい。

「あれ、瑞倉先輩。髪染めたんですか?」

「気づいてくれたんだね。うれしいなぁ! 昨日瀬戸くんにしてもらったんだよ!」

 言葉通り心底嬉しそうに答える瑞倉先輩。瀬戸先輩が『染めてビシッとすれば結構輝く』と見立てたとおりだった。

「白髪を丁寧に丁寧に染めてくれて、鏡の中の僕がどんどん若返っていくみたいで、見ていて本当に面白かったよ! まるで魔法みたいだった!」

 ――若返ってすぐ、死んじゃったけどね。とってもかわいそうだね。

「本当に、みんな素晴らしい才能だよね! 福添さんも凄く教えてくれるのが上手で、麻雀もすぐに覚えちゃったよ!」

 ――現実のお前は、その福添さんに殺されたんだよね。

「さて、早速麻雀をしに向かおう! 福添さんに教えてもらったことを早く試してみたくて、待ちきれないよ!」

 ――あーらら、試せないままだったね。

「ってさっきからナレーションしてあげてるんだからボクも混ぜてよ! どうせ三人じゃできないでしょ!」

 と、急にモノクマが割り込んできたと思ったら、いつのまにか僕ら三人とモノクマは雀卓を囲んで座っていた。

「いくよー! っておやぁ? いきなり上がってる! こーゆーのって、天和っていうんだっけ?」

 そう言ってモノクマは手配を倒して宣言した。

「うわぁ、こんなこともあるんだねえ。面白いねえ」

「びっくりしましたね。……でも支払わなくちゃならないですね。血を」

 そう言って、福添先輩が雀卓の上に両腕をのせると……

 ぼとり。

 ぼとり。

 と、両肘から先が……まるで牡丹が崩れるようにあっけなく……落ちていったのだった。……そして、その断面を向けて、

「さてさて、めったにない機会なので、教えてさしあげますね。……肘の断面の各部位を、私の身体を使って。骨も筋肉も神経も、よーく見えるでしょう……」

「うわぁっ!!」

 っと声をあげてしまい顔を背けようとしたが……何かに頭をがっちりと掴まれて動かせない。……その何かを確認するために視線だけ動かしたら……

 切り落とされた福添先輩の肘から先だった。それが宙に浮かんで、その手で僕の顔をつかんでいる。

「目をそらしちゃだめですよ。私がこんな腕になる原因を作ったのは、琴間さん。あなたなのですからね。ほら、ここが上腕骨、それにぴったりくっついてる筋肉が上腕筋、その下にあるのが内側頭、外側にあるのが上腕三頭筋外側頭、こっちが長頭……って今の私じゃ指をさして教えてあげられませんね。だって指は琴間さんをつかむのに使ってしまっていますからね。上側にあるのが上腕二頭筋の長頭と短頭……ほら、よく見てください。女の子が大事なところをさらけ出して教えてあげてるんですから。ほら。ほら。ほら。長頭には腋窩神経、内側頭と外側頭には橈骨神経が走っていて、栄養血管は上腕深動脈です。よく覚えているでしょう。今までにとった介護福祉士や作業療法士のほかにも、さっき言ったあん摩マッサージ師の国家資格も取るために勉強したんですからね。すごくすごく、勉強したんですからね。この歳でここまでの知識を得るのって、本当に大変でした。……ただの中学生のあなたにはわからないでしょうがね。もうこんな腕になっちゃったから、その勉強も無駄になってしまいましたけどね。うふふ、あなたのせいです」

「わあ、やっぱり福添さんの解説は面白いね。うん、おもしろい、オモシロい、オモシロイオモシロイオモシロイ……」

 まるで壊れたスピーカーのように面白いという言葉を繰り返すほうに目を動かすと……そこには、左胸から牛刀を生やした……瑞倉先輩の姿があった。

「福添さんには殺されちゃったけど、そのおかげでこんな面白い講義を聞けるんだったら、得した気分だよ! 本当、僕は幸運だなあ。面白いよ。本当に面白いよ。オモシロイオモシロイオモシロイ……」

「うふふ、そう言っていただけるとこちらも幸いです。身体をはって説明した甲斐があるというものです」

「でも、オモシロくないこともあるなあ。まだ琴間君は支払ってないんだもんなあ。早く支払ってほしいものだなあ」

「そうですね。瑞倉さん。お願いできますか?」

「わぁ、それは、オモシロい役だなあ……」

 頼まれた瑞倉先輩は、自分の胸から牛刀をずるりと抜いて振りかぶり……

 

――――――

 

 もしするとしたら、お母さんと一緒に、どこかの遠い外国で、と思っていた戦場カメラマンデビューがまさか一人で日本、それも卒業を間近に控えた母校で、さらに諜報目的だなんて。

 草むらに身を隠し、頭には暗視ゴーグルをつけ、カメラを構えた人物……小泉真昼は内心そう毒づいた。

 ここまで、すでに目的の大半は済ませた。あとは寮周辺を撮影して帰還するだけ。人員配備状況、シェルターの一部を解除して内部に食料などを供給する人員の顔を撮影することが、彼女の最大の任務だった。

 時刻はすでに0時を過ぎているが、人員が途切れるタイミングがない。24時間体制で警戒に当たっている様子だ。烏合の衆をこのように動員できるノウハウがあるなんて、つくづく『超高校級の才能』の持ち主は恐ろしい。

 だが、自分も同じ『超高校級の写真家』小泉真昼だ。絶対に突破口を見つけ出してやる。カメラを構えたまま、時間だけが過ぎていく。

 長く長くじっと耐えた後、ついに動きがあった。段ボールを抱えた数名が、警備の人員と何かを話し、警備が電話でなにかを連絡すると。シェルターの一部がぱかりと開いた。この時間、この位置に、この背格好をした人員が中に入っていくという情報を持ち帰れば、次の策につながる! 彼女はその瞬間を逃さずズームシャッターを連続で切った。

 そして小泉は踵を返すと、塀に向かって駆け出す。上部には有刺鉄線が張られていたが……なにやら四つの小さな影がちょこちょことうごめき、それを根元から外した。それと同時に、その開いた場所に飛び乗る人物が現れ、縄を降ろす。なんだか天から救いのため垂らされた蜘蛛の糸のようだな……でもあれは結局切れちゃうんだっけ。なんて、内心不吉なことを思ってしまった。

 その縄を両手でがっしりと掴むと心配とは裏腹に、上にいる人物も引っ張ってくれてスムーズに塀の上に飛び乗れた。さすが『超高校級の体操部』終里赤音、高所で身体を動かすのはお手の物なのだろう。

「勝ったか、小泉?」

「ええ。ばっちりね。ありがとう赤音ちゃん」

 なんでも勝ち負けっていう基準で話すのは終里の特徴だが、この作戦の勝ち負けで言うなら圧勝だろう。こちらに全く気付かれないまま、希望ヶ峰学園内部の状況に加え、シェルターの開閉可能部分の位置や警備や食料供給にあたる人員の情報までつかんだのだから。

「ちゅちゅちゅちゅ」

 と泣き声をあげながら、肩の上に先ほど有刺鉄線を外した小さな影の持ち主……四匹のハムスターがよじ登ってきた。

「あなたたちもありがとう。ジャンP、マガG、サンD、チャンP。」

 小泉は一匹一匹に礼を告げて指でなでていく。『超高校級の飼育委員』田中眼蛇夢のペット……いや本人曰く『わが眷属たる破壊神暗黒四天王』は人間並みに作戦を遂行する知性があり、小さな体を生かした人間にはできない働きができる。

 柵から飛び降りると、二頭の馬が待機していた。二頭は小泉と終里の姿を認めると、背をおろし乗るようにうながす。それは指示を出さなくとも、迅速に、かつ乗り手に負担をかけないよう走り出した。この乗り心地の良さも田中の飼育によるものだ。

 小泉は作戦の成功を伝えるため、懐から電話を取り出して仲間の元へかける。向こうも24時間体制で警備に当たっているように、こちらも24時間体制を組んでいるのだ。

「小泉おねぇ! 大丈夫? けがはない?」

 ワンコールで対応した通話相手は、開口一番、そう尋ねてきた。……電話を奪った敵が連絡してきている、というケースも想定せずいきなり『小泉おねぇ』と呼ぶのは良くないとは思ったが、それ以上に西園寺の気持ちがうれしかった。

「大丈夫だよ日寄子ちゃん。心配してくれてありがとう」

「よかった……帰ってきたら一緒に洗いっこしようね!!」

「うん。ずっと潜んでててかなり汚れちゃったから帰ったらすぐしたいな」

「わーいわーい! お湯張って待ってるね! どこからどこまで洗ってほしい?」

「まったく、日寄子ちゃんは変わらないね……身体は大きくなったのに」

「えへへ」

 電話越しでも、向こうの相手……『超高校級の日本舞踊家』西園寺日寄子が舌を出してウインクしている姿が容易に想像できた。

「ところで十神は?」

「豚足ちゃん? 寝てるよ。小泉おねぇが命がけで作戦に当たってるのに……ぶっ叩いてでも起こしてくる?」

「いや。寝かせておいてあげて。とにかく無事に成功した。じゃあね」

 こちらのリーダーとして、監禁された特待活動生、いわゆる『準・超高校級の才能』救出作戦の指揮を振るっている『超高校級の御曹司』十神白夜の心労も尋常なものではないだろう。休めるときに休まないと身体が持たない。

 小泉も十神の指示でこの作戦にあたっているだが、「食料搬入役の顔を撮ってきてほしい。それさえわかれば俺がどうにかする」とのことだった。おそらく、変装の技術がある十神がその食料搬入役になりすまして潜入し、内部とのなんらかの接触手段を残しておく算段なんだろう。

 ……希望ヶ峰学園が『超高校級の絶望』を名乗るテロリストに占領されただけでなく、日本中で暴動が起こっているが、今こそ自分たちのような才能の持ち主ができることを生かし、沈静化に努めなければ。

 ……そのためにはまず、象徴としての希望ヶ峰学園の奪還、と77期生たちは使命感を抱いていた。

 

 

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