ダンガンロンパ・コンパチブル   作:こんぱち

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第二章 (非)日常編2

 ……琴間君に牛刀を刺せるなんて本当にオモシロいよ。

 ……さあ、琴間さん、あなたの番ですよ。

 

「うわぁあああああああああああああああ!!」

 悪夢を見た。

 自分の叫び声で、目を覚ました。

 ……こんなことは初めてだった。

 ……あれほどまでの凄惨な印象を持った、親しい人たちの死は、思っている以上に僕の精神をむしばんでいるようだった。……口も開けたままで眠ってしまったのか、からからに乾いていて、その不快感を和らげるために水を汲んで一気に飲み干す。……一杯では足りずに、二杯、三杯と立て続けに。

「ふぅ……」

 少しは気が落ち着き、息を吐く。……制服のまま倒れるように眠った上に、汗や唾液でかなり湿っていることに気付く。これは洗濯に出さないとだめそうだ。と思い、シャワーだけざっとあびてジャージに着替え、ランドリーに向かう。……時間は朝6時30分、モノクマのモーニングコールも完全に聞き逃すほど深い眠りについていたのか……いや、眠りながらも聞いていたからあのようにモノクマが介入してくる夢を見たのか……どっちでもいいか。とにかく洗いに行かなくては。

 ……思えば、昨日の朝何も食べずに瑞倉先輩の部屋に行って、遺体を発見し……そのまま捜査と学級裁判に入って、それが終わって倒れるように動かずに、今が朝の6時30分だから、つまり丸一日以上何も食べてないはずなのに、朝食より洗濯を優先するほどに食欲はわいてこなかった。

「よいしょ、……っと」

 胃に何もエネルギー源となるものを入れてないからか、やたら重く感じる洗濯物を抱えてランドリーへ向かうと、そこには先客がいた。

「おはよう! 琴間くん!」

 そう、友人と登校中に会ったかのように自然に朝の挨拶をしてきたのは、黒須先輩だ。……あいかわらず片手には羊羹を握っている。飲み物は……パックの豆乳? 小豆と大豆の組み合わせか。

「……さすがにきつそうだけど、よく眠れた? なんか食べれた?」

 まるで体調を崩した子供を心配する親のような口調で、訪ねてくる黒須先輩……そういえば学級裁判の後ショックで立ち上がれなかった僕を支えて歩かせてくれたのも、初日堀津先輩の仮説に動揺していたときに割り込んで止めてくれたのも黒須先輩だ。面倒見のいい人なんだろう。

「……寝覚めは悪かったけど一応眠れました。朝はとりあえず水は飲みました……昨日は丸一日何も採らずに過ぎてしまったみたいですが」

「丸一日!? 体に良くないよ! ……これ、食べかけだけど、食べる?」

 と言って、今までかじっていた羊羹を差し出してくる黒須先輩。……大好きだと言っていた羊羹を途中で人に渡すなんて、黒須先輩なりの優しさなんだろう。……それを無碍にしてはいけない。

「それでは……いただきます」

 受け取って口に運ぶと、ねっとりとした口当たりと、餡の甘さが口に広がる。なんだか糖分やカロリーが体中にしみわたっていくような感覚……というのはさすがに大げさだが、とにかく生き返っていくような心地がした。

「ありがとうございます黒須先輩。美味しかったです」

「いえいえ食べれて良かった。でもそれだけじゃ足りないでしょ? 食堂に食べに行く?」

「そうですね。とりあえず洗濯だけ出したら向かいます」

 と、洗濯機の蓋を開けたら……あれ、もう回ってる? それにこの黒くてメッシュが開いてるのは布は……

「ここここ琴間くん! ちょっと待って! ストップ! ストーップ!」

 と豹変したように慌てた様子の黒須先輩が制止してきた。……がもう遅い。ばっちり見てしまった。

「そっちは今、あたしが洗濯してるほう! もう一つの洗濯機使ってー!」

 ……そうだったー! ランドリーにいるってことは洗濯してる。いつも身につけている衣類の内側につけるような物とかも洗ってるってことじゃないかー!? いつもの自分なら気づいてただろうに、いまはさすがにそこまで気を回す余裕はなかったー! しかしあの黒くてメッシュが開いてるのは……パンツだったのか? そう言えば聞いたことがある。自転車に乗るロードレーサーはレーサーパンツ(ここでいうパンツとは、ボトムアウターのことを指す)の下のパンツ(こちらのパンツは、下着のパンツのことを指す。どちらもパンツと呼ぶのは、とても紛らわしい)に何も着ないか、布面積が極端に少ないか、透けるほどに細かな穴が開いてて通気性が良いものを好むと……

「すすすすす、すみません! もう一つの方ですね! そっち使います!」

「う、うん。いやあたしも言わなかったの悪いし、この洗濯機って静かすぎるよね! 使ってるってわかりにくいよね! うん、しかたない、しかたないよ!」

 とまあ、そんなこんなでどたばたしながらも、黒須先輩に会えたことで多少なりとも精神的に回復した状態で食堂に向かうのだった。

 

 食堂にはすでにほとんどの先輩方が集まっており、連れ立ってやってきた僕と黒須先輩の姿を認めると、一様に安堵の表情を浮かべた。

「おはよ! 琴間君!」

「えなきん、学級裁判終わってからずっと姿見せなくて心配してたで」

「……無事でよかった。琴間」

 先輩方総出で歓迎してくれる。……もしここに瑞倉先輩と福添先輩がいたら、僕にどんな言葉をかけてくれていただろうか。「あんな辛い思いをしたのに昨日の今日で立ち直るなんて君は素晴らしいよ!」とか、だろうか?

「あれ、琴間君なんか顔赤いけど、黒須さんと何かあった?」

「いや何もなかったです!」

「いや何もなかったよ!」

 羽月先輩の妙に目ざとい指摘に同時に同じ答えを返してしまい、ますます怪しく見えてきてしまう僕ら。……まさか僕が黒須先輩の洗濯中のパンツを見てしまった、なんて言えるはずがないだろう。

「なーんか怪しいなあ……もしかして、早くも二組目のカップル成立!? スポーティーなお姉さんとあどけない中学二年生の少年のまさかの組み合わせ!?」

 なんて囃し立てる岸和田先輩。

「あれ、二組目ってことはもう一組カップルできてるんっすか?」

「いや、瀬戸君とあたしはまだそんなんじゃないよー!? ただ夜にちょっと洗いあったりするだけの仲であってー……」

 自覚があるのかないのか、強く反応する瀬戸先輩と竹枡先輩。……それにしても竹枡先輩、それはあいかわらず誤解を招きそうな表現ですね。

「うんうん。仲良きことは麗しきかな、だね! ボクもこのコロシアイを開催した甲斐があるってもんだよ!」

 ようやく立ち直りつつあったところに乱入者。……モノクマだ。

「さてみんな揃ってる……あれれ、勝クンと手岡サンは厨房の方かな? まあいいや、とにかくご報告にきたよー」

「あらら、招かれざる客の乱入だね。モノクマちゃん、なんのごようかな?」

 煽るような態度のモノクマに対して、同じく煽るように返す一目先輩。……仕方のないことだが、明らかに僕らの中にはモノクマに怯えている節があるから、こういうときの一目先輩の歯に衣着せぬ飄々とした話し方はありがたい。

「今日はね、ご褒美をあげに来たんだよ! コロシアイしろって言っておいて、いざコロシアイが起きたところでそういうのがなかったら、モチベーションも湧いてこないでしょ?」

「コロシアイのモチベーションなんて湧かないほうが良いんだけど。で、そのご褒美ってのは料理人君と釣り師さんが喜んでる奴のほかになにかあるの?」

「あらら、もう見つけちゃったの? まったく、二人ともせっかちさんだなあ。……まあ、それもご褒美のうちの一つだね! 保存がききそうな食材ばかりじゃ味気ないから、野菜や果物みたいな青果、産地直送の海鮮食品なんかを食材として搬入することになったよ! 消費期限が短いから、早めに食べてね!」

 確かに、それはありがたい。ありがたいが……そういう心遣いができるならそもそも監禁なんてしないでくれ、と内心毒づく。

「その他にはね、行ける場所を増やしておいたよ! エレベーターの横に下り階段があったでしょ? そこ、通行できるようにしといたからね! みんなが喜びそうな施設もたくさんあるよ! ぜひ見に行ってみてね!」

 モノクマの言は気にはなるが……階段の場所がよりにもよってあの学級裁判に向かうエレベーターの横か。通るたびに、あのおぞましい光景をまた思い出してしまいそうだ。

「最後にね、これ。瑞倉クンと福添サンが遺していったものね!」

 と今度はどこからかバックパックを二つ取り出し、どさっ、どさっ、と床に放り投げた。

「皆で仲良く形見分けでもしてね! あっ、パンツはこっちが用意したものも使ってたみたいだから何枚かあるけど、欲しい人は早い者勝ちだよ! それとも靴下のほうがお好みかしらん? 逝去当日の衣類はさすがに一緒に混ぜると衛生的に問題があるからこっちで保管してるけど、気になる人はこっそりと僕に言ってね! 多種多様な体液がじっとりと染みついてる激レアものだよ! 亡くなった後って、いろいろとたれ流れてきちゃうからね! そうだ、部屋でなくなった瑞倉君の遺体も片付けておいたからね!」

「もういい! 失せろモノクマ!」

 死者を冒涜するような物言いのモノクマに、怒りをあらわにした堀津先輩がそう言い放つ。

「なんだよ、せっかく気を使って言ってやってるのにさ! ふーんだ! 話はそれだけだよ! せっかちさん二人組にも伝えておいてね! それじゃーねー!」

 それだけ告げると、モノクマは急にどろんと消えるかのように立ち去ったのだった。

「……行ったか。忌ま忌ましい」

 モノクマが去り静かになる。そこで、そうだ、勝先輩と手岡先輩にも顔を見せに行かないと、と思い立ち、厨房に向かうことにした。

「おはようございます。勝先輩、手岡先輩」

 僕の方から二人に挨拶すると、

「よかったー! 恵那樹、心配したんだよ!」

 と手岡先輩は僕の手をつかんでぶんぶん振り回してきた。……こんなに心配してもらって、なんだか気負わせてしまって悪かったかな。

「琴間クン、食欲はあるかな? もしないなら果物をミキサーにかけたスムージーみたいなものでも作るかい?」

 と勝先輩。手岡先輩と違って体全体で表現するようなタイプではないが、言葉に込められた心遣いが身に沁みるなあ。

「はい。……丸一日何も食べてなかったようなので、急にがっつり行くのも胃に良くなさそうですし、それでお願いできますか?」

「うん、了解」

 とだけ答えて、調理に取り掛かる勝先輩。うーむ、もはやその背中に粋のようなものまで感じられてきたぞ。

「お昼は私にまかせてね! お魚がたくさんあるから! ノドグロがいい? それともホウボウ? マダイ? キンメ?」

 と今度は手岡先輩。その並べ立てられた魚の名前は、どれも高級魚ばかりだ。確か一尾何千円とかいうような奴ばっかだぞ。金かけてるな……いや、この事件を起こすのにそれこそ中学生の僕が考え及びもしない程の大金がつぎ込まれてるのだろうから、犯人にとってこの程度の高級食材を調達することははした金なんだろう。まあ、手岡先輩がはしゃいでいるのを見ると悪しざまには言えないし、せめてこのぐらいは味あわせてもらおう。

 こちらからは、モノクマからの伝言を伝えたりしているうちに全員分の朝食ができたようで、全員で席に座って、さあ、いただきます、となったとき……

「……うっ、うっ」

 とすすり泣く声が聞こえてきた。……その声の主は

「カディナ先輩……」

「……えぐっ、すみません。みんなで、いざ、いただきます、って、時なのに、カムルさんと、シホさんが、いないことが、急に、ずしんと来ちゃって……」

 全員。そう、僕らはこれで全員なのだ。……もうここには、瑞倉先輩も、福添先輩も、いないのだ。モノクマが形見を置いていったとき、僕もそう再認識したが、カディナ先輩はこのタイミングでその辛さが決壊してしまったか。

「カムルさん、こんな状況なのに、いつもオモシロい、オモシロいって言ってくれて、こっちまでオモシロい気分にさせてくれる素敵な方でした。……シホさんは、丁寧にお話ししてくれて、お掃除もしてくれて、それなのに……それなのにっ、どうして、どうして私に……」

 どうして私に……に続く言葉は、恐らく『罪を擦り付けようとしたのか』ということだろう。一緒に過ごした期間は短いとはいえ、信頼していたクラスメートに殺人の罪濡れ衣を着せられそうになったことの心理的な傷は計り知れない。

「うう……フジサンさん……せっかく作ってくれたのにすみません……お水だけいただきます……」

 下の名前にさん付けで人を呼ぶカディナ先輩。勝先輩に対するフジサンさん、なんて滑稽な響きも、この場に笑いを取り戻すには圧倒的に力不足だ。全員ただただ、水を一気に煽るように飲んだカディナ先輩を見送ることしかできなかった。……急にお通夜みたいな雰囲気だ、というか実際朝だけどお通夜みたいなものなのだろう。

「な、なあ……だれか様子を見に行った方がいいんじゃないか……お、俺が……」

「いや、君だけは絶対に駄目でしょ芸人君。……いの一番に福祉委員さんの用意した罠に引っかかって、テニスプレーヤーさんを『この事件の核心、確信した、お前が犯人だ』って指摘した君だけは」

 後を追おうと立ち上がろうとした霧生先輩を、一目先輩が制止する。……霧生先輩もその自覚があったのか、やや怒気をふくんだ表情になりながらも言い返す言葉がなかったのかばつが悪そうにそのまま腰を下ろし、黙々と朝食を口に運びだす。僕も食事をとり始めたが……せっかくの朝食なのに砂を噛んでいるような気分だ。勝先輩お手製の、フルーツや野菜を絶妙にミックスした健康面にも気を払われてるのであろうスムージーだというのに、甘さもおいしさも感じない。ただ『こういうものが胃の中に入っていってるなあ』という感覚だけだ。

「……ごちそうさまでした」

 それだけ伝えて、容器を片付けてから食堂から出ていく。……モノクマが下に行く階段を開通した、って言っていたな。どうせ向こうが用意したものだし、この状況を打破できそうなものなんてないんだろうが、薬品棚のような毒物があるかもしれないし、確認しないわけにはいかないよな……と、洗濯物だけ先に回収してから、あのエレベーターホールで見た階段の方へと、足を運ぶのだった。

 

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