ダンガンロンパ・コンパチブル   作:こんぱち

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第二章 (非)日常編4

 結局、カディナ先輩は夕食の時分にも姿を見せなかった。……お見舞いに行ったほうが良いか、下手に押し掛けないほうが良いか、と食事中も悶々と考えてしまう。

 夕食を終えて食器を片付け、さて、これからどうしようか、と思案する。……図書室で本でも借りて読めば、夜も気が紛れるかもしれないと思い立ち、さっそく足を運ぶことにした。

「これはどうかな?」

「すごーい、良く描けてる! ほんとそっくりやん!」

 と会話する声が聞こえたので近寄ってみると、羽月先輩と芳賀先輩が、スマホを見ながらスケッチブックに絵を描きこんでいた。覗き込むと……

「福添先輩の似顔絵……?」

 そう。それも一枚ではない。車椅子を押して介助する福添先輩、両手に犬と猫を一匹ずつ抱えてうれしそうにする福添先輩、友人と談笑する福添先輩……僕の知らない、いろいろな表情をした福添先輩がいた。

 それと、その中に一枚だけ、別の人の似顔絵が混ざっていた。……瑞倉先輩のだ。希望ヶ峰学園の制服を着た、見慣れた感じの瑞倉先輩だ。

「あ、こんばんは。琴間君」

「こんば。えなきん、これ凄い良く描けてるっしょ? ヤスミンからシホリンのスマホ借りて、その中に入ってたシホリンの写真で似顔絵描いてたんや。デカからカムルンのスマホも借りたんやけど、カムルンはあまり自分の写真残さない人やったみたいで、まだあまり描けてへんけどな」

 そう言って、福添先輩のスマホの画像欄をかざしてスワイプしていく芳賀先輩。……亡くなった方の個人情報をあさるようなことは賛否あるかもしれないが、これが彼女たちなりの追悼の気持ちの表れなのだろう。と指摘することは避けておく。

「本当に良く描けてますね」

「……ウチら、考えたんやけどな、シホリンも本当はあんなことしとうなかったはずや。やけど、こんな状況になって……ただ怖くなって魔が差すようにしてしまっただけ、なんや。……そしてそれを咎めたのはウチらなんや。やから、ウチらの大切なクラスメートのシホリンのことも、カムルンのことも、絶対に忘れへん! 抱えて生きていくって決めたんや。ここから絶対に無事に出ていって、抱えて生きていくんや!」

 そういう芳賀先輩の表情は……憂いと共にどこか決意を含んだものだった。僕も福添先輩には複雑な思いを抱えていたが、芳賀先輩のその宣言を聞いて、少しだけでも、それがほぐれていくように感じた。

 ……被害者である瑞倉先輩を、加害者である福添先輩と同じように偲ぶことも、彼なら、生前口癖のように言っていた前向きな言葉をもって、許してくれるだろう。故人の意思を代弁するのもおこがましいかもしれないが、そう信じたかった。

 さて、あまり長居して追悼の邪魔をするのも悪いと、図書室にある本を適当に数冊見繕って、部屋に戻ることにした。

 

『ピンポンパンポーン!』

 自室で読書していた自分の耳に、モノクマが口で言うチャイム音が届き、一瞬身構えてしまう。

『午後10時になりました! これから夜時間となります! 一部の施設は閉鎖されますのでご注意ください! それではおやすみなさい!』

 しかし、単なる時報……そういえば夜の時報は初めて聞くが……だったようで、安心して読書を続ける。そのうちに眠気もやってきて、眠りに落ちてゆくのだった。

 

『朝6時になりました! 夜時間に閉まっていた施設が開く時刻です! それではみなさん、本日も張り切っていきましょう!』

 今日も今日とてモノクマのモーニングコール。もう監禁されて六日目か。……外の世界はどうなってるんだろう。助けは一向に来る様子もないし、僕の家も荒らされていた映像も流れたし、まさか国家権力すら及ばないような状況に陥っていたりして……と嫌な想像が浮かんでしまったので、頭をぶんぶんと振ってそれをかき消す。とにかく朝食でも食べて英気を養おう、身支度を整えてと食堂へと向かう。

 

「おはようございます! エナキさん!」

 そこには、カディナ先輩が食席に腰かけていた。その顔はやや、やつれて見える。もしかしたら、瑞倉先輩の遺体を発見し、そのまま捜査から学級裁判となった一昨日、それに堪えて朝に水を飲んだきり顔を見せなかった昨日と、まともに食事をとっていないのかもしれない。だが、その声は元気そうだ。

「おはようございます。カディナ先輩。お顔を見れてうれしいです」

「ええ。ご心配かけましたが、もう大丈夫です!」

 そう言って笑顔を見せてくれるカディナ先輩。

「おはよう琴間くん、カディナサンもお待たせ!」

 そんな彼女に、厨房から出てきた黒須先輩が、ティーポットとカップと切り分けた羊羹を持ってくる。

「ありがとうございますリンさん! ところで、ずっと気になってたことがあるんですけど、ヨーカンってなんでヒツジのアツモノって書くんです? 羊肉なんて使ってませんよね?」

「え、そう言われればなんでだろう? 琴間くん知ってる?」

「いや、僕、羊羹の羹の字をアツモノって読むのすら今知りました」

「……それはだな。もともと羊のスープだったものを、肉食が禁じられている禅僧が羊肉の代わりに小豆を使って代用にしたものが元だから、らしいぞ」

 その疑問に答えたのは、ちょうどいま入ってきた霧生先輩だった。漢字の掛け言葉が得意な霧生先輩だけに、こういった成り立ちの雑学にも強いのだろうか。

「おはようございますユーダイさん! ユーダイさんは物知りなんですね!」

「あ、ああ。まあな」

 そう答える霧生先輩はどこか気まずそうだ……学級裁判で疑いをかけてしまったこと、まだ気にしているのだろうか。

「ユーダイさんも一緒に朝ごはんにしませんか? 私、色々聞きたいことあります!」

「あ、ああ。俺の分のコップ持ってきてからな」

 誘いを受け、一旦厨房に向かって食器を持ってきた後、僕の隣、カディナ先輩とははす向かいになる形で席に着いた。

「アメリカは米、フランスは仏、ポルトガルは葡萄牙って漢字で書きますよね? 私の国、ノヴォセリックはどう書くんですか?」

「昇瀬陸だな。音をそのまま漢字に当てたタイプだから比較的覚えやすいな」

「昇るに瀬に陸、ですか。なんか縁起がいいですね。新天地発見、って感じで」

 このような具合に、漢字について質問をぶつけるカディナ先輩に、淡々と答えていく霧生先輩。隣で聞いてて『へぇー』とうなづくことばかりだ。しかし、会話は弾んでいたが、霧生先輩は言いたいことを言い出せない、どこか上の空と言った感じだった。そのうちに他の先輩方も集まってきて、丸一日ぶりに全員集合、といった形になった。

 そこで昨日情報共有できていないカディナ先輩のためにミーティングを行う。見つけた施設のこと、こんな状況だからこそ、これからよろしくお願いしますの意味を込めたパーティーを開きたいということ……そして大きな浴場があるが、浴室と脱衣所が一つしかないということ。

それを聞いたカディナ先輩は……

「オオ! ジャパニーズ混浴ですね! 日本に来たら入ってみたいって、ずっと思ってました!」

 と目を輝かせてしまった。

「あの……カディナ先輩、日本でも混浴って極一部で、基本男女で別れて入浴するんですが……」

「え……そうなんですか? すごい広いお風呂で、男性も女性も水着を着て一緒のお風呂に入る日本のスタイル……すごく憧れてたのですが……」

 僕が指摘すると、明らかにしょぼーんとした様子になってしまった。せっかく元気になってくれてたのに、これは良くない。

「まあ、そういうスタイルのスパリゾート的なのはけっこうあるよねー。今日本の観光資源として、そういった施設を前面にアピールしていこう、っていう動きもあるみたいだからさー、カディナさんが憧れてるのも無理はないんじゃない?」

 と竹枡先輩からの補足。

「それに関して、ちょっと提案があるんだけどさー……今日は混浴にしない?」

 その言葉に仰天するように、一斉に竹枡先輩に視線を向ける僕ら。それにいつものように赤面する……かと思いきや、その眼光は鋭く、どこか覚悟を決めた人間の顔をしていた。意中の人の個室に押し掛け洗髪しにいったり、妙な行動力と決心のある人だなあ。まあ、学級裁判において結果的にこの竹枡先輩の性格と行動のお陰で瀬戸先輩の濡れ衣がはれた上に真犯人を見つける手がかりをつかむことになったから……と、いけないいけない。せっかく楽しい方向に流れが行きそうなんだから、あのおぞましい学級裁判のことなんか思い出さない様にしよう。

「もちろん、何も着ないで、ってわけじゃないよー。今言ったスパリゾートみたいに水着着用で」

「いや水着なんてどこにもないでしょ……」

「それは違うよー!」

 どこからともなく上がった疑問に、まるで弾丸を打ち込むかのように力強く論破を返す竹枡先輩。

「二日目からあたしたちが捜索してた倉庫の中に、ちゃんと人数分の水着があったんだ。スクール水着だけどね。だよね。芳賀さん。霧生君。福添さ……。いや、とにかくあったんだよ」

 この場に既にいない福添先輩の名前を出しかけて、ごまかすように言い直した竹枡先輩。名指しされた芳賀先輩と霧生先輩も『確かにあった』と賛同する。

「だから、今日だけ、いや会議で過半数の賛同を得た日は、水着着用での混浴、ってことにしない?」

「いや問題あるわ! 湯船の方はそれでええかもしれへんけど、脱衣所も一個しかあらへんねんで!」

「え、それはあらかじめ個室から下に水着を着こんでいけばよくないー?」

「行きはええかもしれへんけど、帰りはどうすんねんな……」

「これで証明できる! プールの授業の時に使うような、体に巻くラップタオル! これも倉庫にあった! これで隠しながら着替えれば大丈夫! あとは男女で着替えたり衣類を置く棚を違う列にする、っていうのを守るようにすれば! あの部屋は更衣室はちょうど真ん中に天井につきそうなぐらいの高い棚が置かれてる作りになってるからそれが仕切り代わりになる!」

 もうすでに大人びた体つきになっている竹枡先輩ほか先輩方がラップタオルでもぞもぞ着替えるのか……これはなんというか。

「うんうん、さすが竹枡チャンっすねー完璧な作戦っすねー」

 竹枡先輩の熱弁を後押しする瀬戸先輩。……ここで竹枡先輩の意見が却下されようものなら『仕方ないっすねー、小さいっすけど僕らだけで個室のお風呂ででも混浴するっすかー』『どうせ二人なら水着もなしでいいかなー?』みたいなことにもなりかねなさそうだ。

「まあたまにならそんな日があってもいいんじゃない? 個室にも湯舟はあるんだし嫌な人はその日は避ければいいだけなんだしさ」

 と、浴場を探索していた時には『ビューティーアドバイザーさんの期待に沿えない』みたいなことを言っていた一目先輩も、賛成する。

 これは意外だった、と目線を向けると、向こうもいつぞやと同じように、人差し指を監視カメラの方に向けながらこちらを見つめ返すように(長い前髪で目はよく見えないが)顔を向けていた。……何か伝えたげだ。そういえば浴場には監視カメラがないとスマホに文字にうって見せて来たな。

 ……もしかして、『監視カメラのない場所で全員に話したいことができるかもしれないから、不自然じゃなく男女両方が浴場に入れる状況は作っておきたいから予備学科志望君も賛成に回ってよ』ってことなのか?

 ……そういうことなら。

「そうですね! 女子のみなさんとも一緒にお風呂だなんて、オモシロそうですね!」

 って、うわー……しまった。『浴場に監視カメラがないことに気付いている』っていうのを表に出さないような発言を心掛け過ぎたせいで、なんだかスケベな感じになってしまった。しかしこれで賛成5票。

「そうだねーみんなで水着きて大きなお風呂で泳ぐのも楽しそうだよねー」

 と手岡先輩。大きなお風呂だろうと泳ぐのはあまり行儀のよいことではないが、まあそこはこの際どうだっていい。

「……あたしは。うん。カディナさんがそれがいいっていうなら、賛成」

 黒須先輩もそう表明し、これでこの場にいる人間の過半数が賛同し、今日は水着着用男女混浴という運びになった。

「私は……ごめん、ちょっと抵抗があるからパスで。そうだ。ちょっと急だけどパーティーは今日のお昼にしない? 夕食がパーティーだと、夜時間で食堂が閉まるのを気にしなきゃならないからお昼のほうが良いよね? それの準備しておくよ」

 今日は混浴になること自体には反対しなかったが、入ることを拒否した羽月先輩が、そう申し出た。

「え、そんなのも悪いですよ」

「いいのいいの。誘いを断ったのはこっちなんだから。何か食べたいものある?」

「それでしたら、ずっと気になってたものがあるんです! ジャパニーズ風呂上り、と言えばこれ、っていうものが!」

 こうして、午前中は混浴組とパーティー準備組で分かれることになった。一部の先輩にだけ働かせるのも悪いかとも思ったけど、そう長風呂するつもりもないし、済み次第合流するという運びとなった。

「あまりはしゃいでのぼせないでね。特にカディナさんは昨日ほとんど食べてないでしょ? そうだ、果物搾っておいたのあるから、クーラーボックスにでも入れて持っていってよ」

 と、細かいところまで気の回る羽月先輩だった。

 

 ……うかつだった。

「ボク、太ってるから、人と一緒にお風呂入るのって苦手なんだよね。ごめんね。昼食でも作っておくよ」

 と勝先輩。

「……カディナには疑いを向けたこと、何とか謝りたいけど、いきなり混浴、なんて一気に距離を詰めるような真似をしたら逆効果だろうし遠慮しておく。俺もパーティー準備で」

 と霧生先輩。

「女性の体型のこととかでも、気になったことはつい追及して空気を悪くしてしまうこともあるから見送らせてもらう」

 と堀津先輩。

『僕は監視カメラのない浴場に男女が集まっても自然な口実が欲しかっただけだよ。まあ楽しんできてね。予備学科志望君』

 とスマホで筆談の一目先輩。

 そして……

「ここはどうー? 瀬戸君?」

「もうちょっと親指に力入れてもらっていいっすか?」

 スクール水着で二人で頭を洗いあっている瀬戸先輩と竹枡先輩。……『スパリゾートみたいに』って言ってたのに、大抵のスパリゾートの水着で入る混浴エリアにはないであろう洗い場を駆使していちゃついている。

 つまり、必然的に、僕は一人で、残りの女子と付き合うことになる。羽月先輩のほかに、芳賀先輩もパーティー準備に回ったから、カディナ先輩、黒須先輩、手岡先輩、岸和田先輩の四人だが。……それにしてもみんないい身体してるなあ。テニスプレーヤーのカディナ先輩の背筋がすらっとしながらもたくましいし、ロードレーサーの黒須先輩は下腿、大腿、臀筋のラインがきれいだし、釣り師の手岡先輩はバランスが良くて、普段露出するようなところは日に焼けてるけど肩とか太ももとか普段隠れてる部位は美白で、岸和田先輩はさすがにアスリート系の才能もちと比べちゃうとちょっと身長が低めだけど肉付きがいい感じで……

「うわっ!」

 などと考えていた僕の顔に、お湯が浴びせられる。見ると、岸和田先輩が僕に水鉄砲を向けていた。これも倉庫にあったものなのだろうか。

「今失礼なこと考えてなかった?」

「いえ、滅相もないです!」

 と弁明する僕に、岸和田先輩は水鉄砲を投げ渡してきた。

「まあいいや。こっちが一方的に撃つのも悪いし、それで反撃してきていいよ」

 それを受け取り、お湯を補充して岸和田先輩を狙う……

「うわっ」

「わーい命中!」

 そしたら、今度は背後から首筋に一撃。振り向くと、手岡先輩が同じように水鉄砲を構えていた。……もうこうなったら徹底的にはしゃいでやる、と僕は回転しながらお湯を射出する。

「ひゃあっ!」

 すると、くつろいでいた黒須先輩とカディナ先輩にもかかってしまった。狙っていた岸和田先輩と手岡先輩は潜水してノーダメージ。

「すす、すみません!」

「いえ! これがジャパニーズ混浴スタイルなんですね! すごく楽しいです!」

「これはマナーがすごく悪いから、貸切とかじゃないとできないやつだけどね」

 日本文化への誤解を深めつつあるカディナ先輩を、黒須先輩がたしなめる。そんなこんなで僕たちは混浴を楽しんだのだった。

 

「さて、そろそろ上がるから、着替えてる間はちょっと待っててね」

 と女子四人が上がり、脱衣所のほうに向かっていった。

「琴間チャンは人気者っすねー」

 と冷やかすように瀬戸先輩が近づいてくる。

「ぶっちゃけ、気になる女子とかいるんすか?」

 と、修学旅行の夜みたいな質問をぶつけられて、僕は狼狽してしまう。

「いや黒須先輩も面倒見がいいですし、カディナ先輩も凄い美人ですし、手岡先輩も子供っぽいけどおでんとか料理作ってくれたり気の回るところもありますし、岸和田先輩もこんな状況なのにしっかりしてますし、みなさんすてきな先輩だとは思いますけど、気になるとかは……」

「こういうのって、最初に名前を出した人が一番気になってるらしいっすよ。あと、今名前を出さなかった竹枡チャンは範囲外ってことっすね」

 ……カマをかけるような質問だったのか。つくづくこの人は侮れない。これ以上情報を抜かれないように黙っていようか。

「うわ体重がすごく落ちちゃってます!」

「あれそれって、ここに来るときに履いてきたパンツ?」

「で、瀬戸君とはどこまで進んだの?」

「いや、まだ洗髪まで……」

「……洗髪までってなかなか微妙なところだね。身体の方は」

「え、身体の方って……うひゃぁー!」

「カディナいい飲みっぷりだねー」

「ええ、減った分の体重を取り戻さなきゃですからね」

 ……脱衣所の方からそんな会話が聞こえてきてしまい、なんか急にのぼせたような感覚に陥ってしまうのだった。

 

 ……結局みんなで長風呂してしまい、ほとんどパーティー準備のほうに取り掛かれなかったが、食堂に訪れると、もうほとんど簡素ながらも飾り付けが完成していた。テーブルにもすでに飲み物やピッチャーも置かれ、菓子盆も4人に1つごとに用意されている。大振りのエビが乗ったサラダも取り分けやすい位置に鎮座していて、あとはメインディッシュだけ、と言ったところだ。自分たちは遊んでいるだけだったので、この埋め合わせは何かしらの形でしなくちゃな。

「さーて、これがボクの渾身のシュラスコだよー」

 と勝先輩が、大皿に乗った骨付き肉を運んできた。……こんなでかい肉、漫画ぐらいでしか見たことがない。それを置くと、長い包丁で一枚一枚、スライスするように切り分けていく。

「すみません。勝先輩にばかり任せちゃって」

「いいのいいの。好きでやってることだから」

 ニコニコと答える勝先輩。本当に料理が好きなのだろう。

「あとこっちが主食ね」

 と、今度は羽月先輩が大盆にのせたどんぶりを一人一人の席に置いていく。これは、そば? いつもの羽月先輩お得意の巾着も添えている。

「ありがとうございます。セイラさん! すごくうれしいです!」

 と礼を述べるカディナ先輩。なるほど、ジャパニーズ風呂上りということでのリクエストだったのか。

「さて、みんな揃ったかな? じゃあ、えーと、希望ヶ峰特待活動生3期、準・超高校級の才能のみんなに、ってことで、乾杯!」

 そう音頭をとる勝先輩。僕は特待活動生3期ではないのだが、まあこうなったのも何かの縁だ。ご相伴に預かろう。と、両隣の霧生先輩と羽月先輩、正面の岸和田先輩、カディナ先輩、芳賀先輩とそれぞれ杯を合わせていき、中身を飲み干す。柑橘系のジュースのようだが、果物から直接搾っているのか濃厚な味わいだ。空になったグラスに、左隣の霧生先輩が足していってくれる。気を利かせてくれたのか、なみなみと。近くにいた僕らは彼にお礼を告げていく。

 肉も脂のうまみが芳醇なのに、そばのつゆにつけるとあっさりして同じ肉のはずなのに二通りの楽しみ方ができる、これが『準・超高校級の料理人』勝富士山の実力か。……真正面のカディナ先輩はすでに主食を食べつくし、菓子盆にも手を付けている。よほどお腹がすいていたんだろうな。僕も風呂上りで水分を多く求めているのか、ピッチャーからジュースをついでいると……

「すみません、エナキさん。私にもお願いできますか?」

 とちょうどいま空になったグラスを差し出してくるカディナ先輩。それに注いでいく。

「ありがとうございますエナキさん」

 そう礼を言って、カディナ先輩はそれを半分ほど一気に飲み干した。

「ああ……エビ美味しい……海産物の調理には慣れてるつもりだったけど富士山はやっぱ違うわ……」

「一目クンが殻を向くの手伝ってくれたからね」

「……こういう細かい作業も嫌いじゃないからね」

「ジュースは堀津クンが絞ってくれた」

「まあハンドジューサーがあったから楽勝だったな」

「菓子盆はウチが盛ったんやで。センスあるやろ?」

「私は飾り付けがメインで、作ったのはいつもの巾着だけだけど、どう?」

「相変わらずおいしい! なんかほっとする味!」

「なんかあたしあまり働いてないから、食後のコーヒーは淹れるよー」

「待ってました! 竹枡チャンのお手製コーヒー!」

「そ、そう? えへへ……」

 あちらこちらから楽し気な会話が聞こえてくる。……こんな状況に陥ったけど、つくづく、この人たちと知り合えてよかった、とは思う。

「……なあ、カディナ。……謝らせてくれ」

 そんな中、左隣の霧生先輩が、カディナ先輩にそう切り出した。

「え? 何をですか?」

「……学級裁判の時、お前を疑ってしまって、悪かった」

「……いえ、気にしてませんよ」

「でも昨日、一日中ふさぎ込んでたんだろう? ……俺があの時でしゃばらなかったら、もうちょっとマイルドに誰かが指摘できた、いやすぐに看破してお前に濡れ衣を着せるようなことはなかったかもしれないのに……」

 といって、霧生先輩は頭を深々と下げる。

「……いや、あれは仕方のないことでし……た……」

 答えるカディナ先輩の歯切れが、なぜか急に悪くなったかと思うと……

「があっ……ぐ……」

 急に苦しそうに胸を押さえ出し、

 ガシャーン! 

 と大きな音を立てながら、食器を巻き込んでテーブルに突っ伏した。

「え……カディナ先輩……」

「どうしたんだよ……カディナ……」

「う……ぐあ……」

 僕たちがそううろたえている間にも、カディナ先輩のうめき声は止まらない。身体も……びくびくとけいれんを打っている。

「カディナを仰向けに寝かせろ!」

 そう指示を出したのは堀津先輩だった。ちょうど両隣にいた岸和田先輩と芳賀先輩がそうすると、堀津先輩は乱暴に、口の中に指をねじ込んだ。……これは毒物を嘔吐させるときの緊急処置か!?

 ただそれを眺めることしかできない僕たち。

 どうか無事であってくれ、と、願う。

 だが……

 

『ピンポンパンポーン! 死体が発見されました!』

 

 そう無情に、アナウンスが鳴り響いた……

 ということは……まさか。

『準・超高校級のテニスプレーヤー』カディナ・レオンハート先輩は……僕たちの目の前で、息絶えた……というのか?

 

 

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