今回も、モノクマの背後にある巨大なモニターに巨大な、スロットマシンが映し出された。……今回は、すでに僕たちの似顔絵の絵柄を、同じ三つにそろえた状態のまま、同時にゆっくり回っていっている。そして液晶にハリセンを持った小さなモノクマの群れが現れ、回胴の部分をポコポコポコポコ、と叩いていくと、全ての絵柄が霧生先輩の似顔絵に代わる。……そしてそのまま、リールが止まり、祝福するようにクラッカーが鳴ったのだった。
「なーんと今回も! だーいせーいかーい! 『準・超高校級のテニスプレーヤー』カディナ・レオンハートサンを殺したクロは、『準・超高校級の芸人』霧生雄大クンだったのでしたー! いやー今回もなかなかお互いに罪を擦り付けあう感じになって楽しかったね! ほんっとエクストリームだよ!」
「ウソ、だろ……まさか俺が、本当にカディナを殺したっていうのかよ……」
クロに決定した霧生先輩は、足の力を失ったかのように、ガクン、と膝からくずおれた。
「いやー今回クロ自身にも殺した自覚がなくて、毒となったものにも二種類あって、中々難しい事件かな、って思ったけどよく真実にたどり着いたよね! ジャバウォックオレンジの記述に気付いた羽月サンの超ファインプレーだね!」
そうモノクマからお褒めの言葉を受け取った羽月先輩も、裁判中の態度からは一転、沈痛な表情を浮かべている。……きっと、霧生先輩を追い詰めてしまった僕も、同じような顔をしているのだろう。結果として霧生先輩を犠牲にするようなことをしてしまった自責の念と、真実にたどり着くためには仕方なかった、クロ以外のみんなが生き残るためには仕方なかった、という自己弁護の念が、ぐっちゃぐっちゃに混ざり合ってるのに、それでもなんとか平静を保とうとするような顔を。
「な、なんでなんだよ……俺は殺した自覚も、殺そうとしたつもりもないんだよ……だから俺は、無実だよ、無実なんだよ……俺はクロじゃない。クロじゃないんだよ……」
「あれれ? 無実だ、クロじゃない、なーんて何を言っているのかな? 殺すつもりはなかったのに自動車を運転してて人を跳ねて殺してしまった、なんて事故は毎日5件以上は起きてるんだよ? そういう人たちだってきちんと罰を受けてるでしょう? 霧生クンはまだ高校生だから知らないと思うけど免許取るときはそういう映像は必ず見せられるんだよ? だから霧生クン、君がこれからオシオキを受けることも同じことなんだよ?」
「オ……オシオキって……あの、福添がされたみたいに……?」
「そう、両腕をゆっくりゆっくり、じっくりじっくりと時間をかけて引きちぎられて血がドバドバ出ていって亡くなった、あのかわいそうな福添サンみたいに、ね。だけど一人一人特別に用意してるから、霧生クンがどういう目に遭うかは、これからのお楽しみだけどね!」
そう宣告された霧生先輩は、膝立ちからさらに上体も倒して突っ伏し、咆哮をあげるように嗚咽を出し始め、他人を非難し始めた。
「羽月いいぃぃぃぃぃぃ!! そんな毒になるようなものを勧めるんじゃねええええええええええ!! 裁判中に気付くんだったらもっと早く出す前に気付きやがれぇぇぇ!!」
「霧生君……私だって、そうしたかったよ……」
「勝ぅぅぅぅぅぅぅぅ! お前がもっとしっかり念入りにアレルギーとか食べられないものとかについて確認しておけばこうはならなかったんじゃねぇのかよおおおおおおおおお!!」
「……そうだよね」
「カディナぁぁぁぁぁ! アレルギーのあるようなものを注文するんじゃねえええええ!! 自分自身の身体のことなんだからそのくらいきちんと把握しておけよおお!! なに勝手にくたばってるんだよぉぉぉぉぉ!」
亡くなったカディナ先輩にまで非難を飛ばす霧生先輩だが、もちろん、遺影からは返事はない。
「福添えええええええ!! お前がカディナに罪を着せるような偽装工作をしてなかったら俺がカディナを疑うこともなくて、カディナもああまで落ち込まなくてこうはならなかったかもしれねえじゃねえかああああ!!」
福添先輩の遺影にも向かってそう叫んだと思ったら、ひざまずくような姿勢だった霧生先輩が急に立ち上がると、証言台を飛び越え、隣の席に飾ってある福添先輩の遺影の額を強引に取り外し、大上段に構えるように両手で掲げたと思ったら……
バキン!
と勢いよく膝に振り下ろし、それを叩き割ったのだった。
「あー! こらー! なにをしてるのさ! せっかくきれいにあつらえた遺影なのにさ! 君には亡くなった福添さんを悼むような気持はないの!?」
「は、ははは……こんな奴、悼む必要なんて、ないだろ……俺と違って殺意を持って人を殺した上に、人に濡れぎぬを着せるための偽装工作までするような奴なんだぞ……むしろ良くやったよ俺、ざまあみろ……」
その行動を開き直り、乾いた笑いを浮かべる霧生先輩。
これがあの、霧生先輩だというのか。
――よし……じゃあ俺のとっておきを聞かせてやる。『突然来てすみません! ホタテとタコで炊き込みご飯を作るんで、炊飯器貸してください!』
――推参して水産物で炊爨ですね! 私も炊き込みご飯大好きです!
――正解! じゃあ次『吊るし切りって難しいですよね。でもそんなときは、ほらこのヨクキレール包丁! うわー、むずかしい骨のないアンコウだってザックザク! あん肝だってほらこの通り!
――簡単に肝胆が取れて感嘆してるんですね!
監禁されたばかりで全員動揺しているときに、カディナ先輩にせがまれてギャグを飛ばす霧生先輩。これのお陰でみんな少しは救われたはずなんだ。
――いくぞーゆーだーい! 千本ノックやー!!
――うおおおお、僕は絶対にくじけない! 心を燃やせ! ガッツだー! 君と僕との正義のファイトー!
調査そっちのけで、芳賀先輩と倉庫で遊んでいる霧生先輩。
――まあ早朝現場入り、ってこと多いから起きてすぐ動けるようにしてる。
生活習慣から、『準・超高校級の芸人』として意識するよう努めていた霧生先輩。
――どうすればカディナを励ませるか考えたらな。芸人である俺にはこれしかない、って思ったんだよ。
カディナ先輩を励ますために、勝先輩と漫才の練習をする霧生先輩。
――それはだな。もともと羊のスープだったものを、肉食が禁じられている禅僧が羊肉の代わりに小豆を使って代用にしたものが元だから、らしいぞ。
――私の国、ノヴォセリックはどう書くんですか?
――『昇瀬陸』、だな。音をそのまま漢字に当てたタイプだから比較的覚えやすいな。
かなりの博識で日常で生じた疑問にもすらすらと答えてくれた霧生先輩。
……そんな霧生先輩が、このように錯乱して、なりふり構わず当たり散らしている、なんて。死への恐怖はこうまでもすさまじいものなのか。
「もう! あんまりひどいと設備の破壊とみなして校則違反として罰を与えちゃうよ……ってもうクロが決まってるからこういっても仕方ないことだね! じゃあそろそろ始めちゃおうか! ワックワク、ドッキドキのオシオキターイム!」
モノクマがそう叫ぶと、霧生先輩の元にワイヤーアームが向かっていき、首をがっちりと掴んで持ち上げた。
「琴間! 今回の事件、お前がクロであってもおかしくなかったんだからな!! それを、それを忘れるなよぉおおおおおおおお!! いやお前ら全員! 俺を見殺しにしたんだからなあああ!! それを一生、引きずって生きていけよぉぉぉぉぉ!!」
引きずられながら、自分のことを引きずって生きていけよ、というような言葉を遺したが……ああ、これはさすがに、ダジャレや掛け言葉といったようなギャグのつもりで言ったのではないんだろうな。
巨大なマイクスタンドの上に立たされている霧生先輩。スキンヘッドなのも相まって、なんだか漫才のセンターマイクみたいだな、なんて思ってしまう。
そこに、にぎやかな出囃子のような音楽が鳴らされて、マイクスタンドに匹敵するサイズの二体のモノクマが登場する。
そして、そのうちの一体が、マイクスタンドをつかみ、ぶんぶんと乱暴に振り回し始めた。……当然その上に立たされた霧生先輩も一緒に振り回され、三半規管を狂わされたかのようで口から唾液や胃液を垂れ流している。
そして今度は、床に叩きつけられる。何度も、何度も、執拗に。身体のあちらこちらに内出血を作っている霧生先輩だが、まだ息はあるようだった。
そして、マイクスタンドを独占していたモノクマが、元あった場所にそれを立て直すと、もう一方のモノクマが巨大な扇のようなものを取り出した。
それは形こそ漫才のツッコミに使われるようなハリセンに似ていたが、色も、素材も異なっていた。これは、金属で作られた、鉄扇、というものだった。それがスポットライトを浴びて、黒光りしている。
それを、まるで野球のバットやゴルフクラブをふるかのように、大きく溜めを作ってから、霧生先輩に向けて、フルスイングするモノクマ。
そして、マイクスタンドから弾かれボールのように勢いよく飛んでいく霧生先輩だったが……壁にぶつかり、まるでギャグマンガの表現のように人型の跡を残してから、ぼとり、と床に落ちていった。
残ったモノクマ二人は、一舞台を終えたように漫才師のように、こちらに愛想を振りまきながらお辞儀をして、舞台袖へはけていった。
観客席にいるモノクマたちは拍手でそれを見送るのであった。
「ひゃっほーう! いやー面白かった! 誰も人を傷つけない優しい笑い、っていうのが最近のはやりみたいだけど、こういう身体を張った痛みを伴う芸もまた見直されるべきだよね! やっぱりボクはそういうののほうが好きだよ!」
こんな凄惨なオシオキに、まるでバラエティ番組かなにかを見ながら談笑しているかのような感想をこぼすモノクマ。
「kill you You dieってなんなんやこのタイトル……ダジャレが好きやったゆーだいに対する……あてつけのつもりかいな……」
「霧生君……ごめんね……」
「くそ……モノクマを操ってる奴ら……こんなことまでして一体何が目的なんだ……」
「あっれー? みなさんこういうお笑いは嫌いなのかな? 最近の若い子はそうなのかもしれないね? でもさでもさ、せっかく霧生クンが命がけでしてくれたんだから、シラけたムードじゃかわいそうだよ! みんなで笑って天国へ送り出してあげようよ! いや、霧生クンが行くのは地獄のほうかな? だってカディナサンを殺したのは彼なんだからね! ぶひゃひゃひゃひゃ!」
どこまでも、どこまでも不遜な態度のモノクマ。
「……いや、地獄に行くのはお前らだ」
そんなモノクマに、啖呵を切ったのは……堀津先輩だった。
「わあ、おっかないことを言うもんだなあ」
「お前らは……必ず、地獄に送ってやる。『準・超高校級の追跡者』堀津圭司の名に懸けてな」
「はっ、でかいこと言ってくれるよ。でもどうやってするの? だいたい、監禁されているキミがどうやってボクを操ってる黒幕のもとへどうやってたどり着くっていうの? ま、それをここで聞いちゃうのも無粋だし、せいぜい楽しみに待ってるからね。それじゃあエレベーターに乗って帰ってね!」
それだけ言うと、モノクマはいつもの神出鬼没、たちまち姿を消してしまった。
「モノクマを地獄に送るとか……どうだっていいよ、とにかく早くここから出たいよ」
「……そうっすね、このままじゃどうにかなっちゃいそうっす」
「外に……外に出たい……陽の光を浴びたい……」
しかし、堀津先輩の言葉でも皆一様に気落ちしたまま立ち直れていない様子でそんな言葉がちらほらと聞こえてくる。
……かくいう僕も、霧生先輩の最後の言葉が頭の中で繰り返し再生されてしまう。
『この事件、お前がクロであってもおかしくなかった』
……その言葉に、オシオキを受けている自分の姿を幻視してしまう。もし僕がクロであったのならどんな目に遭っていたというのか。
福添先輩のようにじっくりじわじわと時間をかけて腕を引きちぎられるのだろうか。
それとも、霧生先輩のように何度も何度も床や壁に叩きつけられるというのか。
いやそれとも……
とうずくまったままそのような想像が広がっていく。次の瞬間にも、自分の首に処刑場に送るためのワイヤーアームが巻き付いているかもしれない、という妄想が、何度頭を振っても、体中を爪で強く掻きむしっても、自分の中から出ていかない。出ていってくれない。
「エナちゃんは、悪くないんだよ」
その言葉に、僕は顔をあげる。僕のことをエナちゃんなんて呼ぶ人がいただろうか……と見ると、うずくまった僕に視線を合わせるように腰を下ろした黒須先輩だった。
「怖かったよね、もう大丈夫だよ」
とぎゅっと抱きしめてくる彼女……その行動にドキッとしてしまうが、いや、黒須先輩の面倒見の良さを考慮してもさすがにこれは不自然だ。思春期の女子が、年下とはいえ一歳か二歳しか変わらない年頃の男子に、するような態度ではない。まるで、人を子供のように扱って慰めることによって、かえって自分の心を保っているような、そんな印象だ。加えて他にも堪えている人はいるのに、僕にだけそのようにふるまうことも含めて。
「一緒に帰ろうね。怖かったら一緒に寝てあげるからね」
しかし、それを拒絶するすべも、気力も、理由もない僕は、そのまま黒須先輩に伴われて、エレベーターに乗り込むのだった。
――――
『モノクマ劇場』
さーてさーて、今回もやっちゃうよ。本編ではお見せできなかったカディナサンに予定していた、みんな大好きなオシオキを!
カディナが仰向けに寝かせられている。その頭にはなぜかモコモコとした羊の耳を模したようなヘアバンドがのせられており、もし普段の彼女が今の状態の自分の姿を鏡で見たとしたら『おお! これが動物耳萌えってやつですね!』などと言い出しそうだ。
彼女の眼前に、手にメスを持った巨大なモノクマが現れ、彼女の服をめくって素肌を露わにさせる。アスリートらしい、腹筋の浮き出た腹部だ。へそには太陽を模したようなタトゥーが入れられている。
そんな彼女のみぞおちの部分に、メスを刺し入れるモノクマ。カディナは激痛に顔をしかめるが、そんなことはお構いなし、とするするとさらに下腹部まで切れ込みを入れていく。
そうして開けられた裂け目を、モノクマはガバぁっ、と無理やりにこじ開ける。筋肉の繊維がぶちぶちぶちぶちっっ! と寸断されるような音が響き、内臓があらわになった。
そうして腹部の面積を占める、入り組んだ大腸の始点と終点にㇲッ、ㇲッ、とメスを通し、慎重に取り出す。そしてガットの張られていないラケットの傍らに置いて、カディナの大腸を通そうとするが、どうにもサイズが合わずうまくいかない。
そのことに業を煮やしたモノクマは、八つ当たりするかのようにそのラケットを床に叩きつけて真っ二つにしたかと思うと、今度は腹の大部分が空洞となったカディナの両足をつかんで、二、三回ほど素振りをし、得心したかのように満足そうな顔を浮かべる。
そのまま場面はテニスコートへと移り変わって、空っぽになったカディナをラケットがわりにして飛んでくるボールを打ち返して、テニスに興じるモノクマであった。