ダンガンロンパ・コンパチブル   作:こんぱち

17 / 34
第三章 鬼謀は前へと進む
第三章 (非)日常編1


「エナキさん……あの時点ですでに致死量を摂取していたとはいえ、あなたが私にアナフィラキシーショックを引き起こす毒となるジャバウォックオレンジジュースを注いだことには変わりがないんですからね……」

「ああ、そうだ。お前は俺だけでなくカディナのことも引きずって生きていけよ……」

 身体中に発赤を浮かべたカディナ先輩と、身体中を内出血で腫らした霧生先輩が、僕を責めてくる。ああ、瑞倉先輩が殺されて福添先輩がオシオキされた第一の事件の後にも見た悪夢だ。しかし、自分の頭はこれをはっきりと夢だとはっきり気付いていて、やけに落ち着いている。

 なぜなら、自分の身体が、なにか大きくて、温かくて、優しいものに包まれて、守られているという体感があるからだろう。これは、母親の羊水に包まれている胎児の感覚に近いのかもしれない。

(あたしも同罪だから)

 誰かが、そう僕に告げると、温かさはさらに強さを増したように感じる。その温かさは、一日中していたままのマスクのような湿り気と、シートベルトのような圧迫感を伴っていたが、全く不快ではなかった。

(エナちゃんは、あたしが守ってあげる)

 

『朝6時になりました! 夜時間に閉まっていた施設が開く時刻です! それではみなさん、本日も張り切っていきましょう!』

 突如、耳に届いてきたモノクマのアナウンスの声で、ぼんやりと覚醒する。……その僕の目に飛び込んできたのは。

「く……黒須先輩!?」

 そう。黒須先輩だった。顔は涙で泣きはらした後がありありと浮かんでおり、着衣も制服のままだ。恐らく学級裁判の後、そのまま倒れこむように寝てしまったのだろう。……ショックで完全に前後不覚に陥っていた僕を自室に連れ込んで、一緒に。

「エナちゃん? 起きちゃったの?」

 至近距離で発せられた僕の声で半ば目を覚ましたのか、彼女は相変わらず僕のことをエナちゃんと呼びつつそう尋ねてきた。

「……うなされてたみたいだけど、怖い夢でも見たの? ……お姉ちゃんも見たけど、エナちゃんをぎゅってしたら落ち着いた。エナちゃんもお姉ちゃんをいつもしているみたいにぎゅってする?」

 一人称も『お姉ちゃん』になっている。今の黒須先輩はどこか、『弟か妹が生まれたばかりで、姉としてするべき立ち振る舞いを強く意識している幼い子』、と言った風だ。いつもしているみたいに、ってことは実際に弟か妹にこのように接していた時期があったのかもしれない。

 ……これはもしかしたら、精神的ショックによる幼児退行の一種かなにかだろうか。無理もないか。同じアスリート系の才能を持つ女子同士で特に仲の良かったカディナ先輩が亡くなって、それを引き起こした霧生先輩は全く悪意のないどころか気を利かせてジュースを注いだことでクロになってしまう、という救いのない事件で怒りのやり場もなく、さらに彼を死に追いやるための投票をした、という苦痛の連続だったのだから。 

 ……それをふまえて、僕はどうするべきか? 実際にこうなってしまうような人と接するのは初めてだが、ドラマとかマンガとかに出てくる、いわゆる『心が壊れてしまった人』に比べると、今の黒須先輩はまだかなり意思疎通がはかれる方だろう。一言も言葉を発することができなくなってるわけでもなく、別人が乗り移ったようでもないのだから。ここでさらに断ったり突き放したりすると、悪化してしまうかもしれない。

「……お姉ちゃんもエナちゃんにぎゅってしてもらいたいなあ」

 そういう黒須先輩の顔は、幼児のようでも、姉のようでも、妖婦のようでもあった。

 よし決めた。ぎゅってしてあげよう。黒須先輩は、一回目の学級裁判あとにも、二回目の学級の後にも、歩けなくなった僕を介助して歩かせてくれたんだ。だからこちらも、弱って混乱している彼女のお願いは聞くべきじゃないか。

「……じゃあ、しますよ」

 宣言して、もともとかなり至近距離で横になっていた黒須先輩にさらに密着し、両腕を彼女の背中に回してぎゅっとした。

「えへへーエナちゃんって結構力あるんだねー」

 黒須先輩も僕の頭をなでてくる。

「エナちゃんにぎゅってしてもらったら、なんかまた眠くなってきちゃった。もうちょっとだけ寝るね」

 そう告げて、再び瞼を閉じる黒須先輩。……その穏やかな寝顔を見て、改めて今しがた自分がしでかしたことを認識して、顔が熱くなるような思いがした。このまま同じベッドで一緒に横になってるのはいたたまれないのでとりあえず起き上がろうとしたが、立ち眩みのような感覚に陥って、ふらっと倒れこみそうになってしまった。

 ようやく今気づいたが、今の自分はかなりの空腹状態のようだ。……昨日は昼のパーティー中に事件が起き、そこから捜査と学級裁判で、終わったら即寝て、たった今、朝の放送があったわけだから、昨日も夕食をとり損ねていることになるのか。……こんな生活を続けていたら、体重もガクンと落ちて健康を損ねてしまうかもしれないな。

 まあ健康どころかコロシアイで命を奪いあえ、なんて強制してくるモノクマにとってはどうでもいいことなのだろうが。それどころか不健康になることを恐れることによってコロシアイが促進されることもあるだろうから願ったり叶ったり、とまで思っているかもしれない。

 とほくそ笑んでいるモノクマの顔を想像してしまい気分を悪くして、個室から出ていく僕。そして……ああ、やっぱり僕は黒須先輩の部屋に連れ込まれていたんだ、いやそんな人聞きの悪い表現は失礼だな、黒須先輩の部屋で開放してもらっていた、のほうが正確だな、うん。と再確認したのだった。

 

 いつもなら朝の放送の直後でもすでに誰かしらはいる食堂だが、今日はついにまだ誰の姿もなかった。……まあこっちのほうが気が楽だ。あのような……『ジュースをコップに注いだことでクロと判定された』事件が起こってしまっただけに、『あの人に渡されたこの食べ物がもしかしたら……』『あの人に渡したあの食べ物がもしかしたら……』なんて考えて、お互いにギスギスしてしまうような事態が起こるよりかは、勝手に自分で取って自分で食べるほうが気が楽だ。

 さて、結局何を食べよう……そういえば一昨日も昨日も朝は羊羹だった。他のものを考える気持ちの余裕もないし今日もそれでいいかな……と厨房にある食糧棚の甘味系が置いてあるところを開く。と……

(あれ? スマホ?)

 その中に、スマホが置かれていることに気付いた。誰かの忘れ物かな? そういえば捜査の時に厨房で写真を撮っていたから芳賀先輩のかな? などと思いながら立ち上げると、そこの待ち受け画面には、次のような文章が載せられていた。

 

『これを発見した者へ

 私たちは君たちを救出する目的を持つ組織である

 出来る限り迅速に、監視のない場所でこの端末から連絡してほしい』

 

 ……これは、これはついに来てくれた。ついに外部からの助けだ! 監禁されて七日目、ついに接触があった! なんらかの方法で食料搬入の際にこれを紛れ込ませてくれたんだ! もう既に四人も亡くなって絶望しかけてたけど、見捨てられたわけじゃなかった! 僕らのスマホは圏外になっているが、連絡がつかないことは救出しようとしてる人たちも知ってるはず! きっとこれは特別につながる様にされたものなんだ!

 歓喜の声を上げ、今すぐ連絡したくなる自分を抑え、体で隠すようにポケットにそれをしまう。派手に喜んでしまい、僕が外部との連絡手段を手に入れたことをモノクマに知られてしまったら、対策を打たれてそれが水泡に帰す恐れがあるからだ。

 僕はこれから、自然に朝食をとり、自然に監視カメラのない場所、すなわち浴場へ向かわなければならない。だが、どうするのが自然なんだろうか? 意識してしまうと途端にわからなくなる。

 みんなで集まって食堂で食べてるわけじゃないから、切り分けたりしないでこのまま厨房で立ったままかじるのが自然だろうか。飲み物もとらないと不自然だよな。えっと……牛乳でいいか。いやちょっと足りないかな? モノクマに見られてたら『おやおやぁ? せっかく厨房に来たのにそれだけしかとらないなんてなんか焦ってるみたいだなあ、何を隠しているのかなあ?』とか警戒されてしまわないだろうか? ついでにバナナでも食べておくか。よし、そうしよう。皮をむいて……うん、おいしい。けどこれは声に出したら不自然だな。自然に、自然に。

などと一挙手一投足を考えながら朝食をとってると……

「おや、おはよう予備学科志望君」

 と声をかけられ、心臓が跳ねるように驚いたが、努めて冷静に、

「一目先輩、おはようございます」

 と返す。……しまった今振り向く前から一目先輩って言い始めてなかったか? いや、先輩方みんな特徴的でいい声だから顔を見ないうちから誰に声をかけられたかわかっても不自然じゃないはず。それに僕のことを『予備学科志望君』なんて呼ぶのは一目先輩だけだし。

 ……いやそれよりも、一目先輩にも救出組織からの接触があったことを話しておいた方がいいか? この中だと一番飄々と現状を受け入れている彼だが、心労がないはずはない。少しでも希望が見えてきたことを伝えたら、彼も安心できるはずだ。

 それに浴場に監視カメラがないことを教えてくれた一目先輩なら『ひとっ風呂ご一緒しませんか?』とでも誘えば得心してくれるだろう。さらに、つながった先の人に現況を尋ねられたら、自分一人では上手に答えられないかもしれない。モノクマ、コロシアイ、校則、学級裁判……説明するべきことはたくさんある。自分一人で説明して抜けや漏れがあったら、今後に予期せぬアクシデントが起こるかもしれない。それを未然に防ぐためには二人いたほうが良いだろう。特にこの状況を俯瞰的に見ている一目先輩ならうってつけだ。

 ……しかし、もし伝わらなくて『なんでまたいきなり?』と尋ねられたりしたら、監視カメラがある前でボロを出してしまうかもしれない。下手に喋らずにこの場を去り部屋に戻って一人で入浴の支度をしてくるべきだろうか?

 さて、どうする?

 

 

 

一目蔵人を浴場に誘いますか?

 

>はい<

 

 

「一目先輩! 僕は、朝食を食べ終えたので、これから、浴場に行こうと思っているんですが、ご一緒しませんか?」

 しまった、ちょっと説明臭いような誘いになってしまったぞ……まあこの程度なら不自然じゃないか?

「……そうだね。結局昨日は事件と学級裁判があったせいで風呂に入りそびれたし、たまには広い風呂もいいかな。適当になんか食べてから行くから先に行っててよ」

 と、冷蔵庫をあさりながら顔を向けずにそう答えた一目先輩。まあ二人一緒にならんで仲良しこよし、みたいに行くより別々に行ったほうが自然な成り行きになるだろう。

 さて、厨房から出て自室に戻り、着替えやタオルを用意する。水着は……これは今回は男同士だから必要ないな。希望ヶ峰学園の制服を着たまま眠ってしまったので、今日はこれからジャージで過ごして、制服の方は後で洗濯に出そう。

 

 浴場でスマホの操作を確認しながら一目先輩を待つ。どうやらこれは必要最低限の機能、どころかダイヤル機能もなく、トランシーバーに近いもののようだ。まあ常時ネットにつながる様なものではさすがに感知されてしまうか。そのくせカメラはあり、テレビ電話はできるようになっている……これは監禁されている僕らと連絡するために特別にあつらえられたものなのだろうか。

「お待たせ、予備学科志望君」

 などと考えながら件のスマホをいじっていたら、一目先輩は思いのほか早く来てくれた。手には入浴セットを携えている。彼の方も、僕からの申し出に何か期待を抱いていたのかもしれない。

「で、なんのごようかな?」

「これ、食料棚にあったんです。壁紙には『君たちを救出する組織だ。出来る限り迅速に監視のないところで連絡をくれ』と言ったことが書かれていました」

「ほう。それはうれしいね」

「ええ。さっそくかけてみようと思いますが、きっと色々質問されるものと思います。僕だけじゃ抜けや漏れがあるかもしれませんので、もし何か足りないことがあったら補足してもらえますか? 聞こえるようにスピーカーモードにしておきますので」

「ああ。そうしてもらえるかな」

 僕ははやる気持ちを抑えて、登録されていた連絡先につなげる。何度かコール音が鳴った後で、自動でテレビ電話モードになったようで、電話先の相手の姿が画面に映し出された。

『おおっ! つながったっす!』

 画面に映し出された女性は、両耳に複数のピアスを付け、長い黒髪で前髪の一部にピンクのワンポイントをあて、両サイドの髪を角のように立てた、独特な外見をしていた。……彼女には見覚えがある。

「もしかして、澪田唯吹……先輩ですか?」

『おお、唯吹のこと、知っててくれたっすかー! そうっすそうっす、澪田唯吹の澪に、澪田唯吹の田に、澪田唯吹の唯に、澪田唯吹の吹で、澪田唯吹でーす!』

 そんなこれもまた聞き覚えのある自己紹介。卒業を間近に控えた77期生の中でも、『超高校級の軽音部』であり、メジャーデビューも決まっている彼女は特にメディア露出が多くかなりの有名人だ。

「で、さっそく本題に入ってくれるかな? こっちは監禁生活が続いててそっちのゴキゲンなノリに付き合ってる暇はないんだけど?」

 そんな彼女にさっそく苦言を呈する一目先輩。先輩であろうがこの人は離し方を崩さないなあ。

「たっはー! 正論のナイフの先制攻撃だべ! ってやつっすね! さっそく唯吹たちのリーダーに代わるっす!」

 と言って、保留画面が映し出された。

「多分、出てくるのは十神白夜、だろうね。ああ、77期生のほうね。すごく太ってるほう」

「え、なんでわかったんですか?」

「だって、軽音部である彼女だけじゃテロに監禁されてる僕たちを救出する武力なんてないでしょ? それなのに彼女が電話番としてでもいる、ってことはなんらかの武力のありかつ彼女と関係の深く僕らを救出しようとする意思のある集団……まあ77期生で、そのリーダーっていえば十神白夜でしょ」

 少ない情報から一瞬でそれだけ推理を導き出せる一目先輩……真相に使づいたことで逆に警戒されることを注意していたが、監視カメラのないところではこれほど弁が立つのか。

「まあ78期生も合流してるかもしれないけど、そのリーダーの石丸清多夏は清廉潔白すぎてこういう状況での指揮官には向かないだろうね。78期生ならどっちかというと超高校級の相談窓口、日向創のほうが適任なんじゃないかな?」

「……それじゃあ、79期生の先輩方は?」

「いや、79期生はこの事件の首謀者の方だよ」

「え?」

「だってそうでしょ、モノクマをコロシアイのマスコットキャラみたいに使うなんて、間違いなくそのプロデューサーである79期生の『超高校級のギャル』江ノ島盾子が絡んでる。もしかしたら首謀者の方のトップかもね。それに僕らに送られてきた案内状、あれ79期生の『超高校級の印章士』によって偽装されたものだよ」

『……電話、代わった』

 説明する一目先輩に割り込んで、画面に映し出された金髪で眼鏡をかけ、白いスーツに身をまとった恰幅の良い男性が声をかけてくる。この外見はたしかに77期生のほうの十神白夜先輩だ。これも一目先輩の推理通りだ。

「ああ、十神さん。僕は特待活動三期生の、いわゆる『準・超高校級のトレーダー』の一目蔵人で、こっちは予備学科志望で巻き込まれた中学生の琴間恵那樹ね」

「……俺のことを知っていたのか」

「まあね、じゃあまずこちらの現況から伝えるね」

 そういうと、一目先輩は僕らが置かれている状況を説明しだした。僕たちのこと、モノクマのこと、コロシアイ学園生活のこと、校則のこと、起きてしまった事件のこと、学級裁判のこと、……そしてすでに『準・超高校級の幸運』瑞倉冠、『準・超高校級の福祉委員』福添志穂、『準・超高校級のテニスプレーヤー』カディナ・レオンハート、『準・超高校級の芸人』霧生雄大が命を落としたということ。

「ああ、それと、芸人君の名誉のために伝えておくけど、彼は殺そうとして殺したんじゃなくて完全な事故で学級裁判としてクロとみなされてオシオキという名の処刑を受けたからね。福祉委員さんの方は完全に殺意はあったけどね」

 そう付け加えて。

『……なんということだ』

 聞かされた十神先輩は、監禁されている僕らの凄惨な状況に頭を抱えている様子だった。

『出来る限り早く救助に向かってやりたい……そして実際、その用意はある。77期生九頭竜冬彦が若頭を務める九頭竜組をはじめ、78期生とも合流して武門大神家、暴走族の……えーと、なんて読むんだこれ?』

『クレイジーダイアモンド、って読むんすよ白夜ちゃん!』

 言い淀んだ十神先輩を補足するように、澪田先輩が口を挟んだ。

『すまない。とにかく俺たちの人脈で集められる武力を動員する準備を進めている。だが、一番の懸念は……お前たちの安全だ。武力によって希望ヶ峰学園を奪還できたとしても、やぶれかぶれとなったテロの奴らがお前たちを道連れにしないとは限らんからな』

「そうだよね。ルールを設けてコロシアイをさせてるような奇妙なテロだけど、社会のルールを破る奴らがいざというときにそのルールを反故にしないとも限らないよね。漫画みたいなデスゲームじゃなくて現実に起きてるテロだもんね」

『……話を聞く限り、問題となるのはやはりモノクマだろうな。最初に自爆した後、すぐに別のモノクマが現れた、と言っていただろう。やはり監禁されている生徒が全員で蜂起したとしても制圧できるだけの数があると考えたほうが良い。どうにかして機能を止めてもらえれば、外の方は何とかなるんだが……』

「りょーかい、こっちはとにかくモノクマの奴らさえどうにかできればそっちでなんとかしてくれるんだね」

 一目先輩はこともなげにそう返した。

「それとこれ、一番重大なこと。外部から接触があったこと、全員に伝えてもいい? もちろん奴らにはばれない様にした上で、ね」

『……それは、出来る限り慎重に行ってくれ。この手の大規模なテロは、監禁されたり人質になった者の中に内通者を仕込んで、全体を要求に従う方向に誘導する、っていうのは定石と言っても良いからな』

「あー……やっぱそうだよねー」

『お前らがその内通者じゃないことを願っているよ……いや、その心配はないかな? テロの首謀者である79期生にも幸運の才能はいるが、俺たち77期生の狛枝の恐ろしいまでの幸運が劣っているとは思えないからな。……さて、そろそろ切らせてもらう、この通信も探知されないとも限らないからな。そちらからの連絡も、なにか重要な報告のみにしてくれ』

「はいはーい。次は直接外で会えることを願ってるよ」

 そう言って、通話は切れた。……これだけの情報を交換できたのは重畳か。僕一人ではこれだけはなしえなかっただろう。一目先輩を連れてきて正解だった。

「これで希望が見えてきましたね!」

「確かにそうだけど、宿題も多いみたいだね」

 喜びを含んだ語気で言った僕に淡々と返す一目先輩。

「まず、モノクマの機能を止める方法も一筋縄じゃいかなそうだし、内通者のこともあるから誰にこのことを話して、誰にはこのことを話さないかも決めなきゃならない。コロシアイを起こさないようにしながら、ね」

 確かに、それは難しい宿題だ。モノクマも機械だから止める方法はあるのだろうが、今のところ見当もつかない。それに内通者か……もし本当に存在してその人にこのことを伝えてしまったら完全に計画が破綻してしまうかもしれないし、いないにしても『いるかもしれない』と思い込ませるだけでコミュニケーションを阻害させることができる。

「それにもちろんモノクマの方もコロシアイをさせるために何かしらの手を打ってくるでしょ。第一の事件の前日にあったみたいに動機をちらつかせるとかね。今度は『このまま事件が起きなかったらお前らの秘密をばらすぞ』あたりかな?」

 そんなことで、と言いかけるが、監禁されて不安定になっているときに追い打ちとなるような動機が加われば、誰がどうなってしまうかわからない。それこそ、福添先輩のように。

「ま、とりあえずは風呂にでも入って考えるとしようかね。もちろん予備学科志望君も入浴の準備はしてきてあるよね?」

「はい。とにかく浴場に行くのも自然になるように、っていうのは心がけてましたから」

 浴場に行ったのに入浴した様子もなく着替えてもいない、なんてことをしたらモノクマに見咎められるだろう、と警戒していたので、もちろん連絡した後は実際にお風呂に入るつもりでここに来ていた。そのまま脱衣して浴室へ向かう。

 なにか話すべきことを思い付いたときのために近くにいたほうが良いだろう、と洗い場でも隣り合って座ることにしたが……洗髪を終えて濡れた髪を後ろに持ち上げているので、一目先輩のふだん前髪で見えない顔があらわになっている。……瞳もぱっちりしてて、肌もきれいで、中性的な顔のつくりをしている美少年、といった印象だ。身体も華奢で髪も長いので女子にも見える瞬間もあってドキッとする。……まあ前を隠してないので『実は性別を偽ってた女子だった』ってせんはないのだが。

「どうしたの、僕の身体に見ほれちゃった?」

「い、いえ、そんなことは……」

「まあ、親に感謝してることがあるとしたら頭脳や顔も含めたこの身体全体だしね。こんくらい良いと色々便利だったから」

 あるとしたら、とか、便利、という言い回しに何か含むものを感じたが、それ以上深入りしないで自分の身体を洗うことに集中した。

「ところで、宿題のことなんだけど、分担、って形にしない? 僕がモノクマをどうにかする方法を考えるから、予備学科志望君が外部から接触があったことを誰にどの程度話すかどうか決めるの」

「……えっ、僕がそんな重要な決断を?」

「この話をするとしたらまず間違いなくここ、浴場ですることになるからね。女子も含めて、誘うとしたら君の方が適任でしょ」

 ……確かに一目先輩から浴場に誘うよりかは僕の方が自然な形で誘えるだろうが、これは責任重大だ。本当にいるかどうかも含めて、内通者の目途も立っていない。個人的には、できれば全員に話して先輩方みんなに少しでも安心してもらいたいが、十神先輩からの慎重に行ってくれ、という言葉を無視するわけにはいかない。

「どんな決断をしようと、僕は君を責めたりはしないよ。そもそも僕ら全員、テロの目的が僕らを殺すことだったら、最初のモノクマの自爆で死んでてもおかしくなかったんだから。もうこれからどうなろうとどうせ拾った命と諦めるさ。もっとも、こんな思いはずっと前から持ってたんだけどね」

 不安からか、何となく念入りに強くタオルを身体を擦ってしまっている僕に、一目先輩はそう告げるのだった。

 

 

 ――――

 

「……またこの姿で人を欺いてしまったな」

 77期生の十神白夜……いや、名前も戸籍すらもない『超高校級の詐欺師』は通話を終えて、そうつぶやいた。

「えーと、唯吹、よくわかんないっすけど……夏っぽいポップスの時には活動的な露出度の高い衣装で、冬がテーマのしっとりとしたバラードのときにはマフラーとかジャンバーとかで着こんだ感じの衣装で舞台に立つっすよね! 白夜ちゃんが今、白夜ちゃんのカッコしてあの子たちと話したのはそれと同じっす!」

 澪田唯吹が、そんな彼に、そう不器用な励ましを送るのだった。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。