しばらく自室で休んでいたら、すでに時刻は13時を回っていた。あまり食欲はわかないが、きちんと栄養を取らなければいつかはボロが出てきてしまうだろう、と食堂へと足を運ぶ。昼食の時分は過ぎているが、そこには岸和田先輩がいた。
「琴間くん! いいところに来た! 今スマホ持ってる?」
僕の姿を見るや否や、そう尋ねてくる。
「はい、持ってます」
「ちょうどよかった! 今アプリで遊んでたんだけど、圏外でも近くの人となら二人対戦できるやつだから相手してくれない?」
と誘いをかけて来た。
「お昼ご飯、食べてからでもいいですか?」
「うん。そうだ、ご飯食べ終わったらすぐに始められるようにしたいから、準備しとくから先にスマホだけ貸してくれない?」
なんかいつも以上にぐいぐい来るなあ。と不自然に思ったところで勘付く、いや、これは『スマホを使った密談をしたい』ということなのだろう、と。このような手段もあったのか。岸和田先輩の意を解した僕はスマホを手渡し、待たせちゃ悪いと厨房に向かう。さっと短い時間にとれそうなもの……ゼリー状の栄養飲料みたいなやつでいいか。それをキャッチコピーにあるように10秒そこらでチャージして片付け、岸和田先輩がいる席に向かう。
「あれ? ご飯は持ってきてないの?」
「ええ。もう食べましたんで」
「早っ! まあすぐに相手してくれるのはありがたいけどね。えーと、正面より隣に座ってくれたほうがやりやすいかな?」
そう言って、傍にあった椅子を引き寄せて僕を招く。それに従い、岸和田先輩の隣にかけ、渡していた僕のスマホを受け取った。
『手紙回ってきたよ』
ショートメッセージのような画面に、そのような文章がのせられていた。やはり密談が目的だったか。
『でもなんで浴場?』
『浴場には監視カメラがないんです』
『そういえば一目くんがそんなことを書いた画面見せてきたような。でもそれ本当なのかな』
そう指摘されて、もしかしたら自分はとんでもない失態を犯してしまったんじゃないか、という可能性を思い立つ。浴場に監視カメラがない、というのはあくまで一目先輩から聞いただけじゃないか。
……いやいや、探索の時や混浴の時もそのようなものは見当たらなかったぞ。いやしかし、カメラはごく小さなものだって存在する。それこそ、今手に持ってるスマホの中のレンズ部分だけぐらいの小さなものが。
コロシアイを強いているテロリストだって、『無防備な状態になる浴場で殺人が起きる』ことを想定しているはずだ。それに、僕らはみんな人を殺したことのない殺人のド素人だ。それでもなお殺人に挑もうとするなら、まず反撃を受ける危険の少ないような状況を選ぶだろう。まず思いつくのは寝込み、その次に丸裸になる浴場……僕でも二番目に思いつくぐらい上位の候補に入る。
……そうだ、このケースでは殺意がなかったとはいえ、実際、昨日の事件が『午前は全員で準備に当たり、昼にパーティーを行い、ソバとジャバウォックオレンジジュースを飲んでから、食後に浴場で混浴をし、風呂上りにさらにジャバウォックオレンジジュースを飲んだ』という順番で行われていたなら、カディナ先輩が亡くなるのは更衣室になっていたはずだ。その時に誰がクロかの判定を出せなくなるなんて事態、現実に希望ヶ峰学園を乗っ取っているほどの用意周到なテロリストたちが起こすだろうか。
……浴場はさすがにプライバシーに配慮してくれてるのかな、なんて思ったのは甘かったか。そもそも個室にも監視カメラがある時点でプライバシーも何もないじゃないか。
「琴間くん?」
なかなか返信を寄こさない僕をいぶかしんだのか、直接肩を叩いて声をかけてくる岸和田先輩。その顔は心配そうに僕を慮るようなものだった。『それ本当なのかな』という文字を見て批難されてるかもしれない、と思ってしまっただけに安心した。
『責めてるわけじゃないよ。実際、あの部屋だけ目に付く場所に監視カメラはなかったよね』
『……でも、外部と連絡するとき、あの部屋には完全にないものだと思い込んでべらべら機密情報を喋りこんじゃいました』
『監視カメラがない可能性が一番高い場所が浴場であることは変わりないし、そこで連絡したことは間違いじゃないよ。それに何もない状況から、外部が動いてくれていると分かっただけでも状況が好転した! で、どういう組織が接触してきて、どういった話をしたの?』
準・超高校級の記者であり情報通の岸和田先輩も、『モノクマをどうにかする方法』を考えるフェイズに移ってくれたら、なにか良い案を思い付いてくれるかもしれない、と考え、十神先輩ら77期生との接触で話したこと(まあほとんど話したのは一目先輩だが)伝えることにした。
武力を集めていてくれていること、モノクマのこと、内通者がいる可能性のこと……岸和田先輩が内通者の可能性がないわけではないが、それにばかり拘泥してモノクマへの対策が浮かばずただただ時間ばかりが過ぎていく、なんていうのは避けたい。
『……実はさ、もし内通者がいるんだとしたら、一目くんだと思ってた』
『えっ、一目先輩が内通者、ですか?』
『初日に監視カメラのことを伝えてあまり核心に迫ると危険、みたいな警告をしたことも、学級裁判中に議論を真っ二つにするようなことを言い出すのも、浴場に監視カメラがないと断言して誘導してるのも一目くんだったからね。……これはあくまで個人的見解だから鵜呑みにはしないでほしいんだけど』
そう付け加えてくるが、もし本当にそうで、さらに浴場に実際は監視カメラがあるとしたら、僕は外部との接触を監視カメラの前で行っただけではなく、内通者を立ち会わせてしまったことになるのか。……そういえば、十神先輩が僕と一目先輩が内通者でない、と判断したのは、77期生の狛枝って人の幸運という理由だけじゃないか。その狛枝って人のことは良く知らないが、それはそこまで信じられるものなのだろうか。……『準・超高校級の幸運』である瑞倉先輩は、不幸にも一番最初に殺されてしまったのだから。
『ごめん、仮説で混乱させちゃったね。とにかく一目くんとも話してみるね。……ちょっとカマをかけてみることもあるかもしれないから、その時は話を合わせてね。一目くんのことを疑うことになっちゃうけど、信じたいから疑うんだからね』
『そうですね。疑った結果、一目先輩への内通者の容疑が晴れればそれに越したことはないですからね』
『それと……警戒しなきゃいけないのはモノクマや内通者だけじゃないかもしれない』
『えっ、それはどういう……』
「あっ、スマホでゲームしてるー! いいないいなー、ボクも混ぜてよー!」
熱心にメッセージを送りあっていた僕らに、急にモノクマが割り込んでくる。
「よっぽど面白いゲームなんだろうねー。二人とも前かがみで画面に覆いかぶさるようにして夢中になっちゃってさ。それはコロシアイより楽しいのかなぁ?」
ずけずけと画面をのぞき込もうとするように近寄ってくるモノクマ。これは密談していることがバレたか? いや、密談自体がバレたとしても、モノクマを寄こして画面を確認させよう、ってことは監視している誰かからも文章は読めてないってことだ。もし読めてるんだったら下手に介入させないでそのまま読み続けたほうが情報を抜き取れて、有利なことのはずだから。
「あーあ、モノクマが急に話しかけるからゲームオーバーになっちゃったじゃん! もう飽きた! じゃあね琴間くん!」
そう言って席を立ち、食堂から出ていく岸和田先輩。僕もうまくごまかしてモノクマを撒かなければ。
「うーん、やっぱりゼリーだけじゃ足りないし、ちゃんとしたお昼ご飯もとらなきゃなあ」
と言って席を立ち、僕は厨房に向かう。
「なにさなにさ! ボクばかり邪険に扱って! ふーんだ! そっちがそういう態度を取るならこっちだって考えがあるんだからね! 後悔しても遅いんだからね!」
背中に、そんなモノクマの罵声がぶつけられるが、無視して追加の昼食を決め込むのだった。
そうだ、ランドリーに出した制服を取りに行かなきゃ、と足を運ぶと、瀬戸先輩と勝先輩が腰かけて何かを話していた。
「これはどうっすかね?」
「うーん、スーッとするのは良いけど匂いがあるなあ」
何やら、手に何かを塗っているようだ。
「じゃあこっちはいかがっすか?」
「ちょっとぺとぺとするなあ」
「うーん、なかなか難しい問題っすね」
けっこう悩ましそうな口調だ。ちょっと混ざってみるか。
「瀬戸先輩、勝先輩、どうしたんですか」
「ああ琴間チャン。僕らってどっちも清潔感、衛生感が大事なのに手を酷使する客商売じゃないっすか? だからいいハンドケアがないかな、って思ってたところ、メイクルームを見つけた竹枡チャンが色々見繕ってくれたんっすよ」
「そうそう、ひび割れやあかぎれなんて作っちゃったら一大事だからね」
確かに、行った店の美容師や料理人の手が汚かったら不安になる。そういうところまで気を回す姿勢もまた、才能に必要な要素なのだろう。
「まあ僕みたいな美容師の場合は香りがあるやつを使ってお客さんに気付かれたとしても『ハンドケアとかされてるんですか?』って聞いてもらってそこから話がつながることもあるんすけど、勝チャンの場合はちょっとの匂いでも料理に移っちゃうといけないから無香料にこだわらなきゃいけないんすよね」
「それに加えて何度も手洗いしても効果が持続するやつがベストだね」
「僕じゃちょっと詳しいことまではわからないから一緒に竹枡チャンのところに聞きに行ってみるっすか?」
「……いや、それは遠慮しておくよ。この中にあるのにも自分にあったやつがないか、まず試してみるね、ありがとう」
断りつつも礼を言う勝先輩。確かに、ほぼ全員公認のカップルである瀬戸先輩と竹枡先輩、それと自分の三人、っていう状況は避けたいよなあ。
「そうっすか? ところで琴間チャンはなんか手の手入れとかはしてるっすか?」
手の手入れ、ってなんだか頭が頭痛、みたいな二重表現っぽく聞こえるけどそうじゃないんだよなあ。
「いえ、特にこれといってしてないですね」
「ダメっすよそりゃ。結構手って見られてんすからね」
とダメだしを受ける。まあ瀬戸先輩や勝先輩のような手が命の商売じゃなくても、手はきれいに越したことはない。
お、僕の手の話題になった……ってことはメモを見せるチャンスか、と思い、ポケットからそれを取り出す。
「そうですね。ちょっと見てもらえますか?」
と手のひらの上にのせて見せる。それを認めた瀬戸先輩は、
「そういえば、手岡チャンと黒須チャンのてのひらにはタコがあるって竹枡チャンが言ってたっすね。やっぱり釣り竿で魚と思いっきり引っ張り合ったり、自転車のハンドルを強く握ったりするからっすかね。竹枡チャンも『もう! 女の子なんだからハンドケアしなきゃー』って伝えて、その二人にもハンドクリームとかを手渡してあるみたいっすね」
と返してくれた。このタイミングで『伝える』『手渡す』といった単語を含んで話題に出すってことは『僕らはもう竹枡チャンからメモを受け取っていて、黒須チャンにも竹枡チャンから渡してるっすよ』という合図なのだろう。二度手間になってしまったようだが、これで全員に行き渡ったことを知れた。
「じゃあ、はいこれ、足りなくなったらメイクルームにいっぱいあるんでもらっていっていいみたいっすよ」
その手の上に、乳液のような小さなチューブを乗せてくれた瀬戸先輩にお礼を言い、それをメモと一緒にしまって、洗濯に出していた制服を回収してランドリーから部屋へと戻るのだった。
夕食をとった後に部屋でぼんやりする。まだまだ『モノクマの機能を止める』という大きな宿題は残っていて、『本当は浴場にも小型の監視カメラがあるのかもしれない』『一目先輩が内通者かもしれない』という新たな問題が立ち上がりはしたが、今日中に全員にメモが行き渡ったことは順調だろう。と、状況は好転したと思い今までよりかはやや楽観的な気分でいると。
『ピンポンパンポーン! 九時になりました!』
とモノクマのアナウンスが鳴り響く。……え、九時に? これは今までにないパターンか、いや、最初の動機提供の時にも似たようなことがあった。まさか……それか? 昨日学級裁判があったばかりなのにもう?
『うーん、ちょっと早いとは思うんだけど色々前倒ししたいからもう動機いっちゃうよ! みんなの部屋のテレビを借りるね!』
と続けて、急にテレビが付いて映像が流れ始めた。
「……君、家計状況急変による奨学金申請は却下された」
そうテレビに映し出されたのは希望ヶ峰学園の教師と、一人の生徒。……これは、瑞倉先輩? 髪も黒々としていて、ちょっと太っているが……いや、僕らが知っている瑞倉先輩がかなりの痩せ型だったから、これは標準的な体型か。
「……そうですか。やっぱり僕みたいな何の才能もない、ツマラナイ人間に奨学金なんか出せませんよね。やはり退学して中卒としてでも働くしかないですかね。学費の高い予備学科に通い続けるお金なんて出せませんからね。……先生、今までお世話になりました」
そういう瑞倉先輩は、どこか悲観的で、コロシアイに巻き込まれても前向きな言葉を発し続けていた彼の面影はそこにはなかった。
「いや、そんな簡単にあきらめてはいけない。まだ手段はある。カムクライズルプロジェクト、というのは知っているかな?」
「カムクライズルプロジェクト、ですか? たしか希望ヶ峰学園創設者の名前も神座出流、でしたよね? それとなにか関係があるんですか?」
「おお、よく知っているね。そんな知識がすっと出てくるなんて君はツマラナイ人間なんかじゃないよ。もっと自信を持っていい」
「……すみません。両親が亡くなったばかりで、ちょっと悲観的になっているみたいです」
「このカムクライズルプロジェクトというのは、若者の才能を開花させることこそがおのれの使命と考え、教育機関の設立に粉骨砕身、奔走された神座出流翁の遺志を汲み、人工的に才能を開花させる目的をもって始められたもので、有志の学生の協力を通じてさらに広く才能が持つ可能性を探求するものなんだ」
そう説明する教師。説明されたその理念は魅力的ではあるが、どこかあいまいな物言いで、重大な情報をあえて隠してけむに巻こうとしているような印象を受ける。
「このプロジェクトに協力してもらえれば、もちろん学費は免除。生活にかかる費用も学園で便宜を図ることになっている。加えて、君にも新たな才能が芽生えるかもしれない。当然ながら、それ相応のリスクはあるのだが……希望者も多くてね。予備学科にも志を持つ学生が多いんだよ。このこと自体は歓迎するべきことなんだが、君にとっては都合の悪いことに早く決めないと定員になってしまうかもしれないんだ。さて、どうする? 両親が亡くなられてばかりで大変な状況に置かれている君に、さらに急な申し出ですまないとは思うが、出来る限り早めに答えが欲しいんだが……」
あいかわらず重大なことを言わないのに、急かすように決断を迫る教師。大抵、このような話し方をする人間は相手を騙そうとしているのが相場だ。
「やります! 僕にはもう家族も支援してくれる親族もいないんです! 希望ヶ峰学園に在籍し続けることができる上に才能を得られるというならリスクは厭いません! もしなにかあったとしてもかまわない! あったところで悲しむ人もいないんです!」
……なのに、それに食いつくように立候補してしまう瑞倉先輩。両親が亡くなったばかり、と言っていたな。まさか、判断力が落ちている時を狙ってこの話を持ち出したのか?
「ありがとう。先生、そんな風に言ってくれる君を本当に、心の底から誇りに思うよ。だいじょうぶ。君みたいな志の篤い、立派な学生なら、きっとうまくいくよ」
教師の顔は、どこか獲物を目の前にした捕食者を思わせるものだった。
場面は変わって、壁も天井も真っ白い、病室のような部屋に移り変わる。ベッドで横になっている男子は、額に包帯を巻き、白髪交じりで、やせこけた顔をしていた。……僕の知っている瑞倉先輩に近くなった。
「気分はどうかな?」
ベッドの傍らにかける、ゴーグルにマスクに手術帽に白衣を身にまとった人物たちの中の一人が瑞倉先輩に声をかけた。
「サイッコーの気分です! だって! 生存可能性が極めて低いといわれるカムクライズルプロジェクトに参加したのにも関わらず、僕はいま、こうして生きているんですから! ああ! オモシロい! オモシロい! オモシロい!」
病棟にもかかわらず大きな声で返事をする瑞倉先輩。オモシロい、と連呼することはあったが、ここまで強く言うことはなかった。……それにしても、生存可能性が極めて低い、だって? あの教師は知っててそんな危険な実験を勧めたというのか?
「……なあ、これ、どうしたものだろうな」
白衣の人物が判断に困ったかのように他の白衣たちに尋ねる。
「一応、生き残りはしたし、質問にも曲がりなりにも答えを返してるからコミュニケーションは可能で部分的には成功してるんだろうが……まあ後でテストをしてみるか」
「ところで、僕は何て名前でしたっけ? 忘れてしまいました」
「……それさえも忘れているのか。まあ生き残ったんだから前例にならって名前を付けなくてはならないな。ズイクラカムル、とかでいいか」
「わあ、それはカムクライズル、という文字を並べ替えたものですね! そんな立派な名前を付けてくれるなんて、ありがとうございます! オモシロい!」
新たな名前を付けられ、歓喜の声を上げる瑞倉先輩。
「それにしてもオモシロい、か……前の部分成功例とはまさに真逆、正反対だな。こいつじゃないが、オモシロいことになるかもしれないな」
「わあ、僕の前にも成功例がいるんですね! お兄さんかな? お姉さんかな? それは、オモシロい! オモシロい! ぜひぜひ、お会いしてみたいものですね!」
オモシロい、オモシロい、オモシロい、と、真っ白な部屋に瑞倉先輩の声がまるでこだまのように響き渡るのだった。
その後、色々なものに挑戦する瑞倉先輩だったが、スポーツはてんでだめ、料理も全くできず、職業訓練的なものも全く体得していかない様子がダイジェストのように映し出されていった。
「……ズイクラカムル、これさあ、生き残りはしたがほぼ失敗なんじゃないか?」
と会議室で頭を抱える研究者たち。だが……
「おい、まだ予備学科に学籍があるそいつの元になった奴が、『準・超高校級の幸運』に選ばれていたようだぞ!」
と一報が入った。
「……本科生の超高校級じゃなく特待活動生の準・超高校級とはいえ、もしかしたら、幸運の才能はあったのかもしれないな。物は試し、編入させてみるか。ちょっと会話の癖を矯正させれば何とか学校生活ぐらいは送れるだろう」
そこで、映像は切れた。モニターにはただ漆黒が映し出されるのだった。
……なんだ、なんなんだ、これは。
希望ヶ峰学園が、このような非道な人体実験を行っていて、さらにそれを最終的には自ら志願したとはいえ、ほぼ騙すようにして瑞倉先輩に施していた、だって? 元の名前は忘れ去られて、それを覚えているような人もおらず、瑞倉冠、ズイクラカムル、という名前すらそこで付けられたもの、だって?
ああ、憧れを抱いていた希望ヶ峰学園が、そのような非人道的なことに手を染めていたなんて、ショックは大きい。
だが、だからといってこれを見て、誰かを殺さなきゃ、とまではならない。それも、仲の良い誰かを。そして映像も消えてくれた。誰かを殺すまで消えなかった一回目の動機とはそこも異なる。
この情報を得させたうえで……奴らは何をしたいんだ? 理解できない。理解が及ばない。
そんな意図のつかめない薄気味悪い思いを抱えたまま、横たわっていると……幸いなことに、眠気が訪れてくれたのだった。