ダンガンロンパ・コンパチブル   作:こんぱち

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第一章  カエガキク
第一章 (非)日常編1


 モノクマにホールから追い出された僕たちは、藁にも縋る思いで玄関に来たのだが……案の定、分厚いシャッターに阻まれて出入りできなかった。それどころか、あらゆる窓という窓がふさがれており、外からの光が入ってこないようになっていた。これでは時間がたったら昼なのか夜なのか、地上なのか地下なのかすらわからなくなるだろう。

 その後、モノクマに言われた通り置いておいた手荷物だけを回収し、スマホを確認した。先ほど一目先輩の言っていた通り圏外になっており通信はできない状態になっていたのだが、カメラや録音のほか、通信を必要としない機能やアプリは使えるようだった。

 そしておのおの、荷物を持ったままミーティングルームに集合した。現状認識のすり合わせと今後の方針を固めるためだ。

 

「僕の名前は琴間 恵那樹です。今中学2年生で、今日の学校見学会に参加する……予定だったんです。それがこんな大変なことに巻き込まれてしまって……」

 僕はまず、全員の前で、混乱に紛れて結局できていなかった自己紹介をした。それだけ告げると……

「それは大変なことだね。心細いだろうに、ちゃんと言ってくれて君は勇気があるんだね」

 と瑞倉先輩が拍手で答えてくれた。つられて他の先輩方もそれにならう。監禁されてコロシアイしろだの言われたり、爆発に巻き込まれたりと物騒な目に遭い心細いのは先輩方も同じなのに、年下を気遣う人の好さを感じる。

「それでは改めてこちらも……『希望ヶ峰学園 特待活動生3期生』、いわゆる『準・超高校級の才能』に選ばれた生徒です。入学前顔合わせ会、との名目で召集を受けました」

 と、自己紹介に引き続き羽月先輩が先陣を切って説明をする。

 

 本科生80期の『超高校級の才能』ではなく『準・超高校級の才能』の生徒であるという点をのぞき、見立てとだいたい同じ状況だったようだ。霧生先輩が自己紹介のときに『順調に認められて、超のつく高校級に』といういささか迂遠な言い回しをしたのは、『順調』と『準・超』という掛け言葉と、『超のつく、だけどその前に準がつく』という自虐を込めたものだったのか。

 特待活動生とは、一般入試で受け入れている予備学科の生徒の中から目覚ましい功績を残した生徒に本科生に匹敵する待遇でバックアップするための制度だ。77期生と同時に入学した当時予備学科の日向創先輩が、学費や制度等で不満を抱いた予備学科生の声を吸い上げ、学校側に直談判して認めさせたものだ。この交渉によって、秘めた才能を評価された日向先輩は78期に『超高校級の相談窓口』として本科に再入学している。

 

 先輩方は、中学から予備学科に受験して合格し即特待活動生に選ばれた人と、予備学科から再入学した人に分かれるが、予備学科からの入学の人同士でもあまり面識がないようだ。取材の名目で岸和田先輩が何度か話したことがある程度だった。

「さて、自己紹介と希望ヶ峰学園の歴史のおさらいが終わったところで……」

 と岸和田先輩が咳払いをして立ち上がる。

「この状況……といっても部分的にだけど、思い当たることがあるの」

 そう言ってポケットから手帳を取り出し、部屋の傍らにあったホワイトボードを引っ張り出してくる。まるで授業が始まるようだ。

「ここ、希望ヶ峰学園は才能を持った学生が多く集まる国の礎。だけでなく、研究成果や施設を多く備えている。必然的に、攻撃の目標になりやすい。遠距離攻撃からの避難にしろ、暴徒から籠城するにしろ、シェルターが必要となる。その機能を備えたのがここ、……だと取材で聞いたんだ。もちろんどこをどうすれば実際にシェルターが稼働する、なんていうのは超極秘情報。つまりこの監禁事件にはその情報を知りうる希望ヶ峰学園の重要人物が関わってる可能性は高いわ」

 ペンできゅっきゅと要点となる単語をホワイトボードに書き込みながら説明する岸和田先輩。

「それと、……これを見てみて」

 そういうと岸和田先輩は鞄から紙を何枚かを広げた。『入学前オリエンテーションのお知らせ』『入学許可証』『受験票』など希望ヶ峰学園から送られてきた重要書類のようだ。記者とはいえ、物持ちがいい。

「今日のオリエンテーションの招待状……今まで届いた書類に押されてた学校印と同じだった。これも希望ヶ峰学園から郵送されてる。これも重要人物が関わってるって推測を裏付けてる」

 自分に送られてきた見学会招待状とも見比べてみると、どれも寸分違わない。まさか希望ヶ峰学園に監禁犯の内通者がいるとは。

「他の可能性としては、『学校印を奪われた』『印影を偽装できる人間がいる』ってのがあるけど、どうであれ……」

 

「ごめん、ずっと気になってたんだけどいいかな?」

 仮説や推理を続ける岸和田先輩に、羽月先輩が口を挟んだ。

「なんで……モノクマちゃんに案内させたんだろ? そしてなんで、私たちはそれに従っちゃったんだろ?」

 そうだ。それは大きな問題だ。なんで不自然には思いつつも、希望ヶ峰学園ならこんなこともあるか、とスルーしてしまったんだ?

「私はもともと、モノクマちゃんが好きでグッズとかもたくさん集めてて、プロデュースした人……79期生の『超高校級のギャル』のエノジュン……江ノ島盾子先輩が希望ヶ峰学園にいるって知ってたから、むしろすごいすごーい、って思っちゃったんだけど、みんなはどう?」

「私は78期生の『超高校級のプログラマー』が作ったAIかな、って思ったんだけど」

「77期生に『超高校級のメカニック』がいたな。俺はその人物の作品かと思ったんだが」

 羽月先輩の質問に、それぞれ思い当たる人物をあげていく岸和田先輩と堀津先輩。

「プログラムと機械的な部分は理論さえ押さえれば真似できる人間はいるとして、ガワとしてモノクマを選んだことは象徴的な意味がありそうだな。とりあえず江ノ島盾子はこの件にかかわりがある念頭に入れておいたほうが良いかもな」

「それに今日の今日までこの事件を起こすことを周囲に気取られなかったその統率力……加えて同じく79期生の……」

 

「……でもそれがわかったからと言って閉じ込められてる現状は改善しないよね。むしろ余計なことに気付いた、って警戒されるだけかもしれないね」

 推理を続ける岸和田先輩と堀津先輩にそう横やりを入れたのは、一目先輩だった。相変わらず、スマホ……いや今回は先ほどモノクマから渡された電子生徒手帳をいじっていた。

「一目! 人が真剣に話してる時に!」

「……」

 一目先輩は何も言わず、胸元に手をくっつけて、人差し指で上を指した。その先に目を送ると、小さな筒状の黒いものが天井に張り付いていた。……あれは監視カメラか。確かにこの事件の犯人に『お前らの正体に気付いているぞ』と言わんばかりの態度で話し合いを続けるのは下手に刺激するだけかもしれない。しかし一目先輩もスマホばかり見てるかと思いきや、案外目ざとく見つけるものだ。

「それより優先して知っておくべきことがある。電子生徒手帳の『校則』という欄を開いてみて」

 促されて、僕は言われた通り電子生徒手帳の校則欄を開く。

 

1 生徒はこの寮内で共同生活を送りましょう。期限はありません。

2 夜10時から朝6時は夜時間とします。食堂などに入れなくなる施設があるので注意しましょう。

3 就寝は個室で。

4 寮内の調査は自由ですが、立ち入り禁止の区域には入らないようにしましょう。

5 モノクマへの暴力、ドアや設備や備品の破壊、消耗品の無駄遣いは禁止します

6 禁止行為が発見した場合、罰を受けることがあります。

7 他の生徒(見学生の琴間恵那樹クンも含みます)を殺害した生徒は卒業となります。

8 しかし、殺害したことを他の生徒にバレてはいけません。

9 校則は追加、修正されることがあります。

 

 などとつらつらと書き連ねてあった。他の生徒(見学生の琴間恵那樹クンも含みます)などと校則に名指しであげられ、どきっとする。予想はしていたが僕も殺人の標的になりうるのか。

「みた? よほど僕たちに殺し合いさせたいみたいだよ」

 その飄々とした口ぶりは、「少なくとも校則を読んだりして従ってるポーズだけでもとったほうがよさそうだよ」と暗に伝えているようだった。

 

「ああ。しかし不可解な点があるな」

 割り込んで述べたのはまたしても堀津先輩だった。

「不可解?」

「人質としての価値が高いのは、俺たちより本科生の『超高校級の才能』の生徒だ。こういうのもなんだが、特待活動生なんかは替えが利く。そんな俺らにシェルターの稼働なんか大それたことをしでかして、その上せっかく監禁した俺たちにわざわざ殺し合いさせるだと? 犯人にとって有効だとは考えにくい。見せしめにまず一人殺して、飲まなければさらに被害者が出るぞと脅したほうが社会に要求するにしても、俺たちを従わせるにしても合理的だ」

 淡々と物騒な意見を出す堀津先輩に場は静まり返る。

 

「どうして……こんなのって、ないよ……」

 監禁されている現況を再確認したのか、竹枡先輩は今にも泣きだしそうだ。

「大丈夫です、大丈夫ですから……」

 隣に座る福添先輩が、まるで自分にも大丈夫だと言い聞かせているかのように竹枡先輩を慰めている。

「そしてその殺す一人に選ばれるとしたら、君だろうな。琴間恵那樹」

「え……僕ですか!?」

 仮定の話とはいえ、殺すなんて言われて、心臓が跳ねるような思いだ。いや、実際に鼓動が早まっている。額から汗も流れているようだ。強い感情はこういった生理現象にも影響を及ぼす……なんて保健体育で習ったけど、このような形で体験したくはなかった。

「そうだな……俺がテロなら琴間を殺して『逆らうとお前らもこうなるぞ』と脅す。その後、思いっきり厚遇しつつ、思想教育を施し、仲間になるよう洗脳する。そうして才能を持つ人材を獲得する……だろうな」

 

「あまり脅かさないでよ! 琴間くん酷い顔してるよ!」

 そう口を挟んだのは黒須先輩だった。黒須先輩の表情はサングラスに隠されているが、彼女も心中穏やかでないのは容易にくみ取れた。

「すまない。警察ともかかわる才能がら、犯罪者視点でも色々と考えてしまうんだ」

 その空気を感じ取った堀津先輩は謝罪をした。もしかしてこの手のテロにまで対応したことがあるのだろうか。もしそうなら、モノクマの急な自爆にあのような的確な指示を出してくれたこともうなずける。自己紹介のときには『逃げたペットから鬼ごっこの鬼まで』なんて言ってたけど、あれは堀津先輩なりのユーモアだったのだろうか?

 

「だが状況は悪いことばかりでもない。俺たちは拘束されているわけでもなく、この中で自由に動けている。それに日本の警察は優秀だ。早晩、救出は来るはずだ。それまでパニックに陥らないことが最重要だな」

「そ、そうだよな。『校則』で殺し合いを迫られてけるど『拘束』されてるわけじゃないもんな。警察官も『休出』して『救出』に当たってくれるよな」

 スキンヘッドに浮かんだ汗をハンカチで拭きながら、霧生先輩はそう、大きく息を吐くように言った。

「コウソクでコウソク、キュウシュツでキュウシュツ! 同音異義語、ってやつですね! ユーダイさん、さすが芸人ですね!」

 霧生の発言を拾ったのはカディナ先輩だった。……あ、いま霧生先輩がいったことダジャレみたいになってたのか。

「あ、いや……そうそう、これは日本の伝統的ジョーク、掛け言葉だ!」

 霧生先輩は意図していったわけじゃない様子だったが、カディナ先輩に好奇の眼差しを向けられてそう答えざるを得ない様子だった。

「もっと聞きたいです! 何かないですか?」

「よし……じゃあ俺のとっておきを聞かせてやる。『突然来てすみません! ホタテとタコで炊き込みご飯を作るんで、炊飯器を貸してください!』」

「推参して水産物で炊爨ですね! 私も炊き込みご飯大好きです!」

「正解! じゃあ次だ! 『吊るし切りって難しいですよね。でもそんなときは、ほらこのヨクキレール包丁を使えば! うわー、むずかしい骨のないアンコウだってザックザク! あん肝だってほらこの通り!』」

「簡単に肝胆が取れて感嘆してるんですね! あん肝はポン酢に限ります!」 

 突然始まったジェスチャー付きダジャレクイズと、難しい漢字にもかかわらずなぜか正解を導き出すカディナ先輩のシュール漫才に、場に流れてた陰惨な雰囲気は薄れ、他の先輩方にも笑顔が広がっていく。

 

「お魚の話したら、お腹すいてきちゃったね。でも食べ物とかあるのかな?」

 そう言い出したのは手岡先輩だった。この一言で、全員完全に緊張の糸が切れたようだ。

「その確認を兼ねて、いったん会議は中断して寮内の探索に当たるとしようか。いきなり根詰めすぎるのも良いとは言えないだろうからな」

「賛成! こんなところに閉じ込めておいて食料もなかったりしたら犯人の奴らぶん殴ってやる」

 景気付けするように手の平に拳を二回ほど叩きつけていい音を鳴らす手岡先輩。もちろん強がりなんだろうが、彼女も元気が出てきたようだ。

「図書室とかもあるかなー外に出れないならせめて本とか読んでれば気はまぎれるからなー」

「なかったら私が描いてあげる」

「やったーせいらちゃん大好きー!」

 芳賀先輩が零したそんなつぶやきに、絵本作家の羽月先輩の申し出からの申し出。

「よく考えたら、美容師のまさなおくんもいるし、料理人のふじさんもいるし、メイクとかもべにちゃんに教えてもらえるし、ここ住むには困らないじゃん! むしろ一緒に住めるなんてサイコーじゃない!」

「ええ、腕を振るっちゃうよ」

 今まで口を出すタイミングのなかった瀬戸先輩は話を振られたのがうれしかったのか、右手をハサミに見立ててちょきちょきと切るように動かした。

「僕は呼び捨てなんすね……」

「だって『ふじさんくん』じゃ変でしょ!」

 

「うんうん、こんなすばらしいみんなと共同生活なんて面白い、面白い、面白いよ! 本当に幸運に選ばれてよかった!」

「そうだね、助けが来るまでの間、みんなで楽しいことして待ってるだけでいいんだよね……」

 みんなを激励するように面白いを連呼する瑞倉先輩に、泣いていた竹枡先輩も涙をぬぐって無理やりな笑顔を作って見せた。

 そんなこんなでわいわいがやがやと解散となった。

 状況を整理することで少しだけ希望が見えてきたようだ。

 

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