『朝6時になりました! 夜時間に閉まっていた施設が開く時刻です! それではみなさん、本日も張り切っていきましょう!』
監禁生活8日目。『宿題』として考えなければならないこと、それに先日見せられた映像からカムクライズルプロジェクトという新しい単語が加わったこと、さまざまな壁は存在するが……とりあえず食堂に向かおう。カムクライズルプロジェクトに関しては、向こうが出した情報だから、大っぴらに話すことも問題はないはずだ。
「おはようございます。先輩方」
食堂にはすでに全員揃っていて、顔を突き合わせてなにかを話し合っているようだった。おおかた、先日の映像に関してだろう。……ボクも加わる前に自分の分の朝食を用意してからだな、と厨房から適当に見繕って、席に着くと堀津先輩が話しかけてくる。
「おはよう琴間。さっそくだが、お前も昨晩の映像は見たか?」
「はい。……希望ヶ峰学園があのような非人道的実験に手を染めていたことはショックです。その上瑞倉先輩が関わっていた、いや関わらされていたなんて」
「ああ。確かに衝撃的なことだ、だが……」
「おっと、みんな集まったみたいだね! 全員早起きで感心なことだなあ!」
あいかわらず、話を深める前にモノクマの登場である。
「では、また後で話そう」
「あーあ。堀津クンはドライになっちゃったなあ。キミの怒った顔も好きだから見せてほしいんだけどなあ」
「……」
おちょくるようなモノクマに、堀津先輩は無視を決め込むようにしたようだ。
「それでモノクマちゃんはなにしにきたの?」
「うんうん。それに比べて羽月サンはちゃんと尋ねてくれて優しいなあ。僕をちゃん付けで呼んでくれるしなあ。ここに来る前からファンだって言ってくれてたからなあ」
「……実は嫌いになりつつあるけど」
「それはショッキング! まあそれはそれ、これはこれ。今日はね、第三章の動機の二つ目を持ってきたんだよ!」
「第三章?」
「二回目の学級裁判が終わった後だからね。こうやって章立てしていくとわかりやすくなるの。それで、今朝はオマエラの秘密を用意したんだよ! 昨日の映像も一応動機の一つとして提供したけど、もう死んじゃってる瑞倉クンの秘密を見たところであまりコロシアイに結びつかなそうだったからね!」
そういって、モノクマはしゅばばばば、っと俊敏に動き、僕らの前に一枚の封筒を置いていった。
「その中にはオマエラの隠したいだろう秘密が書かれたメモが入っています! うーん、ワックワクのドッキドキだね!」
秘密が書かれたメモ、だって? いや、どんな秘密があろうと、それで殺人に至るまでにはならないとは思うが……
「堀津圭司は加害者を追い詰めることのみを優先し、被害者の不利益になる手段もいとわない……だと?」
さっそく封筒を開けた堀津先輩がそう読み上げる。
「一目蔵人は、トレーダーを始めるための元手となるお金を売春で稼いだ、か。事実だね」
続けてそう淡々と読み上げる声が聞こえてきた。……これも一目先輩、本人だ。いやバイシュン、って稼いだってことは売るほうだよな……だとしても男で……いや一目先輩のような美少年だと売れてしまうのか? 昨日の朝浴場で言っていた含むような話はそういうことだったのか? いや、それよりこの封筒の中の紙には自分の秘密が書かれているのか、と思い僕も中を確認すると……
『黒須鈴は小さいころから長女として下の子の面倒を見る、小さなママ、としての役割を求められてきたが、本当はもっと甘えたかった』
と、自分のではなく黒須先輩のことが書かれていた。……もしかして、自分の秘密ではなく自分を含んだこの中の誰かの秘密がランダムで書かれている、ということだったのか?
「おお、堀津クン一目クンには偶然自分の秘密が行ったんだね! それにしてもいきなり読み上げるなんて、もしかしてむしろ知ってほしかったのかなあ? 見せびらかしたほうが興奮するタイプなのかな?」
「うん。この程度のことなんてバレたところでどうだっていい、っていうことはみんなを知ってほしかった」
モノクマの軽口にも意趣返しのように答えた一目先輩は、乱暴に食卓の上に紙を投げ捨てた……それには声に出した内容がそのまま書かれていた。
「まあ、いいや。それで知った秘密をどう使うもオマエラの勝手だよ! じゃあねー!」
とだけ言い残し、モノクマは去っていってしまった。……他の先輩方も自分の秘密が書かれているものだと思い封筒を開けて読んでしまったようで、その中身を見てどうしたものかと思案顔になっている。
「……なあ、提案があるんだが、今見た秘密を、今この場で言い合わないか? もちろん、他人の秘密が渡ったものは本人に許可をとってからで構わない」
堀津先輩の提案に、しばらくどよめきが走ったが、その後誰からともなく、秘密を知ってしまった人のもとへ許可を取りに行こうと席を立つ動きが起こった。
「……琴間クン、これは」
と、僕のもとに話しかけてきたのは勝先輩だった。
『琴間恵那樹は、授業態度の良さで美術3をもらっているが、実は絵が下手』
……こんなことか? 一目先輩の秘密がかなり深刻なものだったので身構えていたが拍子抜けだ。もちろん、見せても良いと肯定する。そうだ。僕も黒須先輩に確認をとらないと、と思い席を立つ。
「黒須先輩……あの」
といっておずおずと秘密メモを見せる。
「……なんだ、そんなことなら大丈夫」
黒須先輩の方もやや安心したような顔をしてそう返してくれたので、席に戻る。
「……大丈夫か。それでは」
「じゃあ私からでいいかな」
と堀津先輩が音頭を取り、それに羽月先輩が応じる。こういう状況の時、口火を切ってくれるのは大体羽月先輩だなあ。
「竹枡紅は、瀬戸政直に惚れている」
……これはもはや公然となっている事実だ。明かされた竹枡先輩の方も、事前に許可をとってあることなので赤面せずに平然としている。
「芳賀愛の上げている動画は、著作権的にグレーなものも多い」
と今度は瀬戸先輩。まあこれは公開されている動画をそのような視点で見れば誰でも気づけることだ。そういえば、昨日読んでいた『蜘蛛の糸』の朗読だって、原作自体は著作権が切れているはずだが、もし挿絵を逐一見せていくような形の動画だったら羽月先輩の著作権を侵害していると言えなくもないだろう。
「福添志穂はまだ家族と一緒にお風呂に入ることがある」
と岸和田先輩。……亡くなった方の秘密も混ざっているのか。
「瀬戸政直に好意を寄せる女子は多くいたが、それをやんわりと断ってきており、恋人いない歴イコール年齢である」
と芳賀先輩。まあこのくらいの年齢なら全然恥じることもない、っていうか普通なんじゃないかな。……あ、竹枡先輩が小さくガッツポーズしてる。
「琴間恵那樹は、 授業態度の良さで美術3をもらっているが、実は絵が下手」
と勝先輩。僕のことだがこれは大したことじゃない。
「岸和田安美は追っている事件がある」
と黒須先輩。……まあ岸和田先輩は記者なんだから当然だろう。
「羽月聖来の自宅の部屋はモノクマグッズで埋め尽くされている」
と手岡先輩。今はコロシアイ生活のせいでモノクマに対する憎悪は高まっているが、元々市販されているグッズを買い集めていたところで大した問題にならないだろう。……一目先輩の見立てだとそのプロデューサーの江ノ島盾子はこの事件の首謀者らしいが、いくら超高校級とはいえそのようなことが一介のギャルにできるのだろうか?
「勝富士山は大食いや激辛チャレンジ番組といったものが嫌いであり、テレビで見たらチャンネルを変える」
と竹枡先輩。まあ料理人の勝先輩には思うところがあるのだろう。
「黒須鈴は小さいころから長女として下の子の面倒を見る、小さなママ、としての役割を求められてきたが、本当はもっと甘えたかった」
と僕が発表してこれで全員か。なんか大した秘密じゃなかったな。一番衝撃的だったのは、本人から言い出した一目先輩の売春だろう。
「……これで全員か。なにか拍子抜けだな」
と堀津先輩が絞める。確かに、コロシアイにつながる様な秘密だとは思えない。
「う、うん、良かったよね!」
と岸和田先輩が声を上げ、途中になっていた朝食を口に運び始める。
「……個人的には昨晩見せられた映像、カムクライズルプロジェクトや瑞倉の秘密も気になるが、それを論じて希望ヶ峰学園に対する不信を高めるのは悪手だな。これは放置でいいだろう。無事に脱出できた後に追いたいものは追えばいい」
堀津先輩もそれに続く。反対の声はないようだ。その後、朝食が続けられることになったのだが……
「瀬戸くんってまだお付き合いしたことなかったんだねー」
「やっぱ好きじゃないのに付き合うのもなんか失礼っすからねー」
「実はあたしも大食いとかあまり好きじゃないんだー」
「食べ物で遊ぶな、粗末にするなって言うのは子供の頃から言われてたからね」
「一番上の子はやっぱり心の奥では甘えさせてくれる人を求めてるよね」
「あれ岸和田さんも一番上?」
……なんだか、秘密が明かされたことで、かえって会話が弾んでいるようだ。昨日は全員口数が少なかっただけにどこか気が楽になった気分だぞ。
朝食を片付けて食器を棚に戻していると、なにやらキラキラ光るものが目に留まったのでそれを手に取ってみる。
「……メダル? コイン?」
それは日本円の硬貨よりやや大きな、モノクマが鋳印されたメダルだった。
「おや、モノクマメダルを見つけたようだね……ってか三章で初めて見つけるなんて遅すぎやしない? 瑞倉クンなんか初日っからたくさん集めてたよ? もっとちゃんと一見なにもなさそうなところでも調べてみてよ?」
なんだこのガラクタはと思いながら眺めていたら、急にモノクマが現れて話しかけてくる。
「それはね、この学園内だけで使えるすてきなすてきなメダルなんだ」
「……で、具体的にはどう使えるの?」
「なんとなんと、……ヒ・ミ・ツ! 使い道を見つけるのもお楽しみ要素だからね! ネタバレしちゃったらつまらないでしょ?」
それだけ告げるとモノクマはいつの間にか姿を消していた。うーむ相変わらず神出鬼没である。
モノクマメダルの使い道を求めて寮内をうろついていると、娯楽室でパチスロを打っている岸和田先輩の後ろ姿を見つけた。
「琴間くん! いいところに見つけた! モノクマメダル持ってない?」
僕の姿を認めるといきなりそう尋ねてくる岸和田先輩。どうせ使い道もわからないし、欲しがってるならあげてしまおうとそれを手渡すと、彼女の方はすれ違いにスマホ画面を掲げてきた。
『一目くんに対する疑惑は少し薄れたけど、まだ浴場に監視カメラがあるかないか、っていうのはわからない。私の方でも監視カメラを気にせず重要なことを話せる場所を探してみてるけど、そっちでも気にかけておいて』
画面にはそう書かれている。岸和田先輩もこの状況を打破するために出来ることを進めているようだ。パチスロを打っているのもその一環だろう。……あれ、モノクマメダルってパチスロに使うものなのか?
しかし、スロットマシンか……どうしてもクロ決定の時に見せられるあの演出を思い出してしまうな。元々音も光も強くてあまり好きじゃなかったけど、さらに敬遠する理由ができてしまったな。しかもこの台にはやたら液晶の中にモノクマがやたらうろちょろしてるし。
それにあまり長居して岸和田先輩の調査の邪魔をしちゃいけないな、と思い、娯楽室を辞す。……去り際、ぷちゅん、と電源が落ちるような音が響き、
『おめでとう! ロングフリーズだよ!』
というモノクマの声が耳に届いた。
昼食をとってから再び寮内をうろつき、ちょっと身体を動かそうかなと、地下一階のトレーニングルームへたどり着く。そこには、体操服姿の黒須先輩と竹枡先輩がいた。
「え、もうへばっちゃったの?」
「……運動したいって言ったのは私だけど、さすがにいきなりこれはきつすぎるってー……」
漕がないままエアロバイクに寄りかかる竹枡先輩に、黒須先輩は立ち漕ぎしたまま声をかけている。……確かに軽くと言って数十キロはいく黒須先輩についていくのはきついだろう。
「あれ、琴間くんも来てたんだー」
「はい。少し運動しようかなと思いまして。竹枡先輩も良く来られるんですか?」
「いや、あまり自転車とかは乗らないんだけど、ここに来てから積極的に身体を動かす機会もなかったからダイエットにねー」
……混浴の時、竹枡先輩はほとんど瀬戸先輩とつきっきりで話してたからちらっとしか水着姿を見てないけど、どっちかというと瘦せ型寄りの身体をしてたと思う。それなのに、ダイエットか。やはりビューティーアドバイザーとして、世の女性の多くがそうであるように、竹枡先輩もまた細身志向なのだろうか。
「……それに瀬戸くん、ちょっと筋肉がついてたほうが好みだって言うから、少し鍛えたいな、って思って」
すでに公然の秘密となっていたきらいはあるが、全員の前で『惚れている』なんて秘密を暴露されて、もはや開き直って彼への好意を隠そうとする様子もなくなっている。
「それにしても黒須さん、スタイルいいよねー。特にヒップラインすごいきれい。やっぱりアスリートは違うなー」
竹枡先輩が黒須先輩に目線を向けて、僕もそれにならう。うーん、大腿ががっしりしててスパッツ越しに見えるヒップも……
「あんまりじろじろ見ないでよ」
と漕いだままの黒須先輩に注意されたので目線をそらすと、竹枡先輩が寄りかかっているエアロバイクに、受け皿のようなものがあり、それの上にモノクマメダルがのっていることに気付いた。
「あれ、そのメダル……」
「これ? なんかモノクマが『学生の健康維持推進のために一定の運動に応じてモノクマメダルが出るようになってる』とかって言ってたよー。……コロシアイなんてさせてるのに健康維持推進、だってさー」
呆れたように言う竹枡先輩。……そうだ、モノクマメダルを持っていれば、それを誰かに受け渡すという名目で、一緒にメモかなにかを渡すことも自然になるかもしれない。自分もある程度持っていたほうが良いだろう。と思い立ち、運動ついでに近くにあったルームランナーでも試してみることにした。
が……なかなか出てこない。学校の持久走でもせいぜい1.5㎞だしな……と思いながらも一度決めたことだし、今まで走ってきた分が無駄になるのはもったいない、と思って途中で辞めることもできない。……そして、ぜえぜえ言いながらもなんとか5㎞分程走ってようやく1枚出てきたところでへばって辞めてしまうのだった。……運動部なら大した距離じゃないだろうけど部活もしてない僕じゃあなかなか厳しい距離だったなあ。
ルームランナーで走った後は自室で昼寝していたらかなり寝過ごしてしまったようで、気づいたら夜の八時を回っている。
夕食をとりに食堂に向かうと、遅い時間だからなのか誰もいなかったが、厨房の方に人の気配がある。近づいてみると……勝先輩だった。鍋に油を引いてなにかを揚げている様子だ。誰もいないのになんでこんな時間から?
……そうか、第二の事件が起こってから、食事はみんな出来合いのものをそれぞれでとるようになって、勝先輩が料理人としての腕を振るう機会がなくなってしまったから一人で料理しているのか。それにしても、かなり哀愁が漂っている。
「……おや、琴間クン」
「こんばんは勝先輩」
揚げたものを皿に移しながら、声をかけてくる勝先輩。……野菜とかキノコとか肉とか、相変わらずめちゃくちゃおいしそうだな。
「……あの、少しいただいていいですか?」
そう尋ねると、勝先輩は微笑みを浮かべて
「もちろん! じゃあもっと作らなきゃね」
と返してくれた。
「ごめんね。ご飯は炊いてないからインスタントの奴になっちゃうけど」
「いえ、こちらがくださいといった立場なんで不満なんか言いませんよ」
と話を続ける勝先輩。どうやら、もう既に自分は夕飯を終えていたのだが、料理をしていないと落ち着かないので、夜食にしても食べきれる程度の量の食材を揚げていただけらしい。なので、無理して食べるよりまだ夕飯を食べてない僕に全部くれる、とのことだ。ちょっと悪いかな、とも思ったが、ここは甘えることが励ますことだろう、とその申し出を承諾する。
即席ご飯をレンジで温め、その揚げ物をおかずにいただく。……うーむ、やはり揚げたてはおいしい。と、舌鼓をうちながら、夕食を終えたのだった。
『午後10時になりました! これから夜時間となります! 一部の施設は閉鎖されますのでご注意ください! それではおやすみなさい!』
食後身支度を済ませて寝転んでいたら、夜のアナウンスが耳に届く。今日はこれといった進展もなかったが、モノクマの出してきた動機も大した問題にならなかったようで安心した。モノクマの機能を止めることも考えていかなくてはならないが、パニックに陥らないことが一番重要だ。そのためにも、睡眠は重要だろうな……と思いながら眠りに落ちていく。
『朝6時になりました! 夜時間に閉まっていた施設が開く時刻です! それではみなさん、本日も張り切っていきましょう!』
もう朝か。……監禁生活9日目かあ。十神先輩と話したときは外の世界の状況は聞かなかったけど、そろそろ新学期も始まるころだなあ。……学校のみんなはどうしてるだろうか。僕のことを心配してるだろうか。……それとも、外も同じくテロが起こっていて、人のことを心配するような余裕なんてない状況だろうか。
などと布団をかぶりながら考えていたらけっこう長い時間たっていたような感覚がある。スマホか電子生徒手帳で時間を確認しなきゃ。……枕元に置いた衣類のポケットの中に入れておいたな、と布団から出ないまま手探りで探し出し、電源を入れると……
『……どうした? なにか進展があったのか?』
と声が聞こえてきた。画面にはピンク髪で吊り目の男性が浮かんでいる。そして気づく。今掴んだのは自分のスマホじゃなくて十神先輩らの外部と連絡が付くスマホであったことを。重要なときにだけ連絡してくれ、と言われてしまった手前、すみません間違い電話です、なんて言い出すのはきまりが悪い。
とりあえず音が漏れないような声量に抑えつつ、電話先の相手に『外部から接触があった。もう少しの辛抱だ』と全員にメモを回したこと、一部の人間でモノクマをどうにかする方法を考えているところだということを伝えておく。話しながら気が付いたが、浴場に監視カメラがある可能性が捨てきれないというのなら、布団の中というのはベストな場所だったかもしれない。
『ああ、24時間体制で待機しているからとにかくモノクマの機能を停止出来たらすぐに連絡くれ。……こちらでも武力を集めるのと並行して、外部からも何とか奴をハッキングできないかと得意な者があたってるが……そう簡単にはいかない。……では、また』
とだけ返ってきて、終話ボタンを押そうとした直前、
『おはようございます、左右田さん、夜勤お疲れ様です。電話番、交代の時間ですよ』
『はい! ソニアさん、よろしくお願いしますね!』
と聞こえてきたのだった。
77期生の先輩に連絡をしていたため食堂につくのが遅くなってしまった。……ぱっと見、既に軒並み揃っているように見えたが、二人ほど足りない。
「おはようございます先輩方」
と朝のあいさつをかけると、みんなやや安堵したような表情を浮かべている。……モノクマに配られた秘密は大したことじゃないように思えたが、第一の事件が動機を見せられた翌朝に発覚しただけに、『もしかしたら』という思いが抜けなかったんだろう。
しかし……その安堵が浮かんだのも束の間、また不安げな雰囲気が漂い始める。それもそうか。僕が現れたとはいえ、まだ二人姿を見せていないのだから。
……どうしようか、探しに行こうか、という声が誰からともなく上がり、何人かの班に分かれてそれぞれの階を探しに行くことになった。
……僕は第二の事件後に行けるようになった地下二階を探しに行く班だ。そこでさらに、一人一部屋見に行くことになったのだが……僕が向かった『おはなしのへや』には隠れるようなところがせいぜい本棚か教壇の裏ぐらいしかないのですぐに探し終わってしまった。……他の部屋に向かった先輩方と合流するために、『おはなしのへや』から出て、次のメイクルームに向かう。
「あれ、そっちには何もなかったの?」
「ええ。……特にこれといって」
途中、目的のメイクルームの捜査に当たっていたはずの竹枡先輩と鉢合わせした。なので、連れ立って残りのラブアパートに向かうと……その赤い扉の前で、佇んでる芳賀先輩を発見した。
「……先輩、どうしたんですか?」
「カギがかかっとるからどうしたもんかとまよっとったんやけど……」
「おやおやあ、そこの扉を開けてほしいの?」
と逡巡している僕らのもとへ、モノクマが現れた。
「せっかく二人きりの逢瀬なのに開けてほしいだなんてのぞきの趣味でもあるのかなー? 先生として止めたいけど、このままじゃ話が進まないからなー。よし特別に開けてあげよう! ちちんぷいぷーい!」
そうおまじないのように唱え、モノクマはへんてこなダンスを踊りだす。
「こ、これで開いたんやな!」
「いや踊り切るまでもう数分待ってて」
「なんやねん! 開けられるんならカギぐらいかちゃっとすぐに開けられるやろ!」
「もう! これはオマエラの安全のためにやってあげてるのにさ!」
芳賀先輩のツッコミに対し、不満をたれながら踊り続けるモノクマ。……その踊りも見るに堪えないものだが、それ以上に奴の言が気にかかる。このままじゃ話が進まない。ということは、この扉を開けてしまったら、話が進んでしまうのか? それはつまり……
「開いたよ! それじゃあね!」
とだけ言い残して、奴は去ってしまった。
「……急かしたのはウチやけど、いざ開けられるとなったら急にこわなってきたわ」
不気味な気配は芳賀先輩も感じているようで、ドアに触れながらそう漏らしたが、意を決したように一呼吸、一気呵成に扉を開いた。
そして、……開けてすぐの床に、仰向けになり、制服の胸部を赤く染めた、岸和田安美先輩の姿があった。
『ピンポンパンポーン! 死体が発見されました!」
「ヤスミン……?」
「きゃあああああ! 岸和田さん!」
その姿を二人とも認めてしまったようだ。……そんな僕らを意に介さず、部屋の中央に置かれた二台の回転木馬はのんきにくるくると回り続ける。
それに八つ当たりするように感情を込めた目線を向けると……気づいてしまった。
回転木馬の内側に置かれてるベッドって、あんなに赤かったっけ?
いや。そんなことはなかった。一度あそこで横になったから、よく知っている。
回転木馬を避けつつゆっくりと近づき、恐る恐るシーツをめくると……そこには
衣類を身にまとわない下着姿で、両手首に手錠がはめられ、眉間に1センチメートルほどの小さな穴をあけられ、そこから血液が垂れ流された跡のある、手岡漁子先輩が横たえられていた。
「えなきん……そこになんかあるん?」
と近づいてくる芳賀先輩と竹枡先輩。僕は彼女たちを制止することもできず……
「……まさか、リョーコも?」
「もう……なんなの……手岡さんまで……?」
と絶望したような声が漏れる。
そして……
『ピンポンパンポーン! 死体が発見されました!』
と、再び死体発見アナウンスが寮内に鳴り響いたのだった。